説明

長繊維強化ポリアミド樹脂組成物及びこれを成形してなる導電性軸状成形品

【課題】プリンターやコピー機のローラー等の軸に使用されている金属材料に代替可能な機械的強度及び剛性を有し、且つ軸状成形品の反り変形及び導電性のバラツキが少ない長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ヘキサメチレンアジパミド単位70〜85質量%及びヘキサメチレンイソフタラミド単位15〜30質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである長繊維強化ポリアミド樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物及びこれを成形してなる導電性軸状成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的及び熱的性質並びに耐油性に優れているため、自動車や電気・電子製品などの部品に広く用いられている。また、ポリアミド樹脂にガラス繊維を配合した強化ポリアミド樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性等が大きく向上することにより、従来金属製であった部品を、軽量化及び工程の合理化などの観点から強化ポリアミド樹脂製とすることも可能となり、近年積極的に検討が進められている。
【0003】
プリンターやコピー機に使用される導電性のローラー、例えば転写ローラー、トナー供給ローラーや帯電ローラー等の多くは、紙と接触する。そのため、導電性(通常は金属製)のシャフト(軸)の周囲を導電性のゴムやエラストマー等の弾性材料で被覆した形状となっており、ゴムを被覆した後で加硫工程や刃物で弾性材料を切削する工程など、加熱したり荷重を負荷する工程を伴って製造されることが多い。したがって、この金属製の軸を樹脂材料で形成するには、耐熱性、剛性、機械的強度(引張り強度など)及び導電性に優れた材料を用いると共に、それから得られる軸状成形品は反り変形の少ないことが求められる。
【0004】
ポリアミド樹脂を使用した導電材料として、特許文献1には、ポリアミドMX樹脂、ナイロン66、ガラス繊維、カーボンブラック及び黒鉛を特定量比で配合した組成物が開示されている。特許文献2には、ポリアミド樹脂、ガラス繊維、PAN系炭素繊維及び導電性カーボンからなるポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、反り変形を少なくする技術としては、ガラス繊維などの強化繊維を長くした、長繊維強化熱可塑性樹脂組成物が検討されている。長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、強化繊維を集束した繊維束をその軸方向に引き取りながら、溶融した樹脂をその繊維束に含浸させて樹脂ストランドを得るというプルトルージョン法によって得られる。この方法で得られた長繊維強化樹脂組成物は、短繊維強化樹脂組成物と比較して、機械的強度に有意に優れ、反り変形が有意に少ないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62―227952号公報
【特許文献2】特開2006―206672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1及び2は、軸状成形品としての反り変形に関しては、いずれの樹脂組成物についても触れていない。
【0008】
また、上記の反り変形を少なくする技術については、導電性カーボンを添加した長繊維強化熱可塑性樹脂組成物から軸状成形片を得た場合、当該成形片のゲート付近と樹脂流動末端との間で導電性のばらつきが大きいことが問題となっている。
【0009】
そこで、本発明はプリンターやコピー機のローラー等の軸に使用されている金属材料に代替可能な機械的強度及び剛性を有し、且つ軸状成形品の反り変形及び導電性のバラツキが少ない長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、上記した導電性のバラツキが大きいという問題について、以下の原因を突き止めた。即ち、長繊維強化樹脂組成物は短繊維強化樹脂組成物と比較して流動性に劣る点と、導電性カーボンを添加することにより樹脂の結晶化速度が大きく向上する点とを原因として突き止めた。そして、かような原因に起因して、前記成形片のゲート付近と樹脂流動末端との間で成形片の表面状態が異なり、導電性がばらつくものと考えられる。上記した従来の技術は、上記の点を改良する方法について何ら検討を行っていないが、本発明者らが鋭意検討した結果、特定のポリアミド樹脂と、強化繊維と、導電性カーボンとを特定の割合で含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を用いることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、ヘキサメチレンアジパミド単位70〜85質量%及びヘキサメチレンイソフタラミド単位15〜30質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、ヘキサメチレンアジパミド単位65〜80質量%、ヘキサメチレンイソフタラミド単位10〜25質量%、及びポリカプラミド単位1〜10質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
プリンターやコピー機のローラー等の軸に使用されている金属材料に代替可能な機械的強度及び剛性を有し、且つ軸状成形品の反り変形及び導電性のバラツキが少ない長繊維強化ポリアミド樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】そり変形及び導電性を測定するための、本発明の軸状成形品を表す模式図である(図中、破線の矢印は表面抵抗率の測定箇所を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
第1の本実施の形態に係る長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、ヘキサメチレンアジパミド単位70〜85質量%及びヘキサメチレンイソフタラミド単位15〜30質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである。
【0017】
また、第2の本実施の形態に係る長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、ヘキサメチレンアジパミド単位65〜80質量%、ヘキサメチレンイソフタラミド単位10〜25質量%、及びポリカプラミド単位1〜10質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである。
【0018】
[ポリアミド樹脂(A)]
【0019】
まず、前記ヘキサメチレンアジパミド単位(以下、「PA66」ともいう)は、ヘキサメチレンジアミン及びアジピン酸から得られ、前記ヘキサメチレンイソフタラミド単位(以下、「PA6I」ともいう)は、ヘキサメチレンジアミン及びイソフタル酸から得られる。また、ポリカプラミド単位(以下、「PA6」ともいう)は、カプロラクタムより得られる。なお、上記第1の本実施の形態におけるポリアミド樹脂(A)は「ポリアミド66/6I共重合体」と称することもあり、上記第2の本実施の形態におけるポリアミド樹脂(A)は「ポリアミド66/6I/6共重合体」と称することもある。
【0020】
ポリアミド66/6I共重合体(上記第1の本実施の形態)として、PA66はポリアミド樹脂(A)に対して70〜85質量%であり、好ましくは71〜82質量%、より好ましくは72〜79質量%であり、PA6Iはポリアミド樹脂(A)に対して15〜30質量%であり、好ましくは18〜29質量%、より好ましくは21〜28質量%である。上記した範囲内の場合、軸状成形品としての反り変形を有意に少なくすることができ、且つ導電性のバラツキを有意に少なくすることができる。
【0021】
ポリアミド66/6I/6共重合体(上記第2の本実施の形態)として、PA66はポリアミド樹脂(A)に対して65〜80質量%であり、好ましくは66〜78質量%、より好ましくは67〜76質量%であり、PA6Iはポリアミド樹脂(A)に対して10〜25質量%であり、好ましくは11〜23質量%、より好ましくは12〜21質量%であり、PA6は、ポリアミド樹脂(A)に対して1〜10質量%であり、好ましくは3〜7質量%、より好ましくは4〜6質量%である。上記した範囲内の場合、靭性が有意に優れたものとすることができ、軸状成形品としての反り変形を有意に少なくすることができ、且つ導電性のバラツキを有意に少なくすることができる。
【0022】
上記第1及び第2の本実施の形態におけるポリアミド樹脂(A)は、JIS K 6810の98%硫酸溶液の相対粘度(ηr)として1.5〜3.0であり、好ましくは1.7〜2.7、より好ましくは1.9〜2.4である。上記した範囲内の場合、軸状成形品としての導電性のバラツキを有意に少なくすることができる。なお、本明細書における「相対粘度(ηr)」は、98.0%の硫酸100mLにポリマー1gを溶解し、オストワルト型粘度計を用いて25℃下で測定し、得られる値である。
【0023】
[強化繊維(B)]
【0024】
まず、強化繊維(B)に関する以下の説明は全て、上記した第1及び第2の本実施の形態に共通したものである。
【0025】
強化繊維(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、50〜200質量部であり、好ましくは60〜140質量部、より好ましくは70〜130質量部である。上記した範囲内の場合、機械的強度に有意に優れるだけでなく、軸状成形品としての反り変形も有意に少なくすることができる。
【0026】
強化繊維(B)の材料としては、長繊維強化樹脂組成物を得るという観点から、単繊維を集束したロービングが用いられうる。前記材料としては、一般的にポリアミドに使用される強化繊維であれば特に制限はない。なお、機械的強度及び剛性の向上の観点から、ガラス繊維及び/又は炭素繊維を用いるのが好ましい。前記単繊維の平均繊維径として、以下に制限されないが、例えば、直径5〜25μmのものが一般的に使用される。なお、本明細書における平均繊維径は、使用する強化繊維を光学顕微鏡下で観察し、画像解析装置を用いて、任意に選んだ400本の繊維径を測定したときの平均値である。
【0027】
強化繊維(B)には、強化繊維(B)とポリアミド樹脂(A)との間の接着性を向上させる観点から、カップリング剤などの処理剤で表面処理が施されていることが好ましい。表面処理に用いられる処理剤は特に制限されることはなく、従来より強化繊維の表面処理に用いられているものであってもよい。例示すると、ガラス繊維に対しては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがシラン系カップリング剤として利用できる。
【0028】
強化繊維(B)の重量平均繊維長は、機械的強度、剛性及び成形性の向上の観点から3〜15mm、好ましくは5〜12mmである。なお、本明細書における重量平均繊維長は、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を450℃の電気炉内でポリアミド樹脂のみ燃焼させた後、光学顕微鏡下で観察し、画像解析装置を用いて、任意に選んだガラス繊維400本の長さを測定し求めたときの平均値である。ここで、ガラス繊維一本一本の長さをそれぞれL1、L2、・・・、L400としたとき、一本ごとの重量平均繊維長の算出式は下記式で表される(式中、「i」は、1〜400までの整数をとる)。
(数1)
重量平均繊維長=Σ(Li2)/ΣLi
【0029】
[導電性カーボン(C)]
【0030】
まず、導電性カーボン(C)に関する以下の説明は全て、上記した第1及び第2の本実施の形態に共通したものである。
【0031】
導電性カーボン(C)とは、一般に、天然ガスや液状炭化水素の不完全燃焼により製造される黒色微粉末のカーボンブラックを意味する。導電性カーボン(C)としては、特に制限されることはないが、アセチレンガスを完全燃焼して得られるアセチレンブラックや、原油を原料とするファーネス式不完全燃焼によって得られるケッチェンブラックが好ましい。導電性カーボン(C)は、高い導電性を得るという観点から、ジブチルフタレート(DBP)吸油量として、好ましくは250mL/100g以上、より好ましくは300mL/100g以上、さらに好ましくは350〜600mL/100gである。
【0032】
導電性カーボン(C)は、導電性向上の観点から、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5〜20質量部であり、好ましくは7〜18質量部、より好ましくは8〜15質量部である。
【0033】
[長繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
【0034】
上記第1及び第2の本実施の形態に共通して、目的物である長繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、以下に制限されないが、ポリアミド樹脂(A)と強化繊維(B)と導電性カーボン(C)とを配合してなる長繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレットを製造してもよいし、ポリアミド樹脂(A)及び強化繊維(B)を配合した長繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレットと、ポリアミド樹脂(A)及び導電性カーボン(C)を配合したポリアミド樹脂組成物のペレットとを別々に製造した後、これらをタンブラーやリボンブレンダー等で混合することにより、目的物を製造してもよい。
【0035】
長繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレットの製造方法としては、以下に制限されないが、ポリアミド樹脂(A)を二軸押出機で溶融混練し、溶融したポリアミド樹脂を強化繊維(B)のロービングに含浸させ、樹脂含浸ストランドを得るプルトルージョン法や、特開2008−221574号公報に記載されているような樹脂含浸ストランドを螺旋状に撚る工程を有することにより樹脂を十分に含浸させる方法が挙げられる。
【0036】
上記第1及び第2の本実施の形態に係る長繊維強化ポリアミド樹脂組成物には、本実施の形態の目的を損なわない範囲において、所望により、通常のポリアミド樹脂に添加されうる酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光劣化防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤、核剤、無機フィラーや難燃剤などを添加してもよく、他の熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。
【0037】
[導電性軸状成形品]
【0038】
本実施の形態に係る成形品は、上記した長繊維強化ポリアミド樹脂組成物(のペレット)を、圧縮成形、射出成形や押出成形などによって、任意の形状に成形することにより得られる。
【0039】
前記導電性軸状成形品は、導電性のシャフトやローラー等に好適に用いることができ、その結果、従来の金属製のシャフトやローラー等に比して、駆動系が軽くなるので消費電力を低減することができる。また、上述のように、前記前記導電性軸状成形品は、金属材料に代替可能な機械的強度及び剛性を有し、且つ軸状成形品の反り変形及び導電性のバラツキが少ないという有利な性質を発揮する。
【実施例】
【0040】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。実施例及び比較例に用いた原材料の調製、測定方法及び製造方法を以下に示す。
【0041】
[原材料の調製]
【0042】
1.ポリアミド樹脂(A)
【0043】
(1)ポリアミド66/6I共重合体(以下、「A1」ともいう)
【0044】
アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの等モル塩1.88kgと、イソフタル酸及びヘキサメチレンジアミンの等モル塩0.62kgと、純水2.50kgとを、5リットル容のオートクレーブに仕込み、よく撹拌しながら十分に窒素置換した。
【0045】
撹拌を継続しながら、1時間かけて室温から220℃まで昇温した。その後、オートクレーブの内圧が1.8MPaになるように、水を反応系外に除去しながら2時間かけて260℃まで昇温した。その後加熱をやめ、オートクレーブを密閉し、8時間かけて室温まで冷却し、ポリアミド66/6I共重合体(PA66:75質量%、PA6I:25質量%)2kgを得た。なお、上記した相対粘度(ηr)は1.6、融点は225℃であった。
【0046】
(2)ポリアミド66/6I共重合体(以下、「A2」ともいう)
【0047】
上記(1)の場合と同一の製造方法により、ポリアミド66/6I共重合体(PA66:75質量%、PA6I:25質量%)2kgを得た。得られた共重合体を粉砕し、10リットル容のエバポレーターを用い、窒素気流下、200℃で10時間固相重合させた。固相重合によって、ηrは1.6から2.2に上昇した。なお、融点は225℃であった。
【0048】
(3)ポリアミド66/6I共重合体(以下、「A3」ともいう)
【0049】
上記(1)の場合と同一の製造方法により、ポリアミド66/6I共重合体(PA66:75質量%、PA6I:25質量%)2kgを得た。得られた共重合体を粉砕し、10リットル容のエバポレーターを用い、窒素気流下、200℃で20時間固相重合させた。固相重合によって、ηrは1.6から2.8に上昇した。なお、融点は225℃であった。
【0050】
(4)ポリアミド66/6I/6共重合体(以下、「A4」ともいう)
【0051】
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩1.88kgと、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩0.50kgと、ε−カプロラクタム0.12kgと、純水2.5kgを、5リットルオートクレーブに仕込みよく撹拌しながら、充分に窒素置換した。撹拌を継続しながら温度を室温から220℃まで1時間で昇温した。この後、オートクレーブの内圧を1.8MPaになるように、水を反応系外に除去しながら2時間かけて温度を260℃に昇温した。その後加熱をやめ、オートクレーブを密閉し、8時間かけて室温まで冷却し、ポリアミド66/6I/6共重合体(PA66:75質量%、PA6I:20質量%、PA6:5質量%)を2kg得た。得られた共重合体を粉砕し、10リットル容のエバポレーターを用い、窒素気流下200℃で10時間固相重合して分子量をさらに上げた。固相重合によって、ηrは、1.5から2.1に上昇した。なお、融点は225℃であった。
【0052】
(5)ポリアミド66/6I共重合体(以下、「A5」ともいう)
【0053】
アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの等モル塩2.25kgと、イソフタル酸及びヘキサメチレンジアミンの等モル塩0.25kgと、純水2.5kgとを、5リットル容のオートクレーブに仕込み、よく撹拌しながら、十分に窒素置換した。撹拌を継続しながら1時間かけて室温から220℃まで昇温した。その後、オートクレーブの内圧が1.8MPaになるように、水を反応系外に除去しながら2時間かけて260℃まで昇温した。その後加熱をやめ、オートクレーブを密閉し、8時間かけて室温まで冷却し、ポリアミド66/6I共重合体(PA66:90質量%、PA6I:10質量%)を2kg得た。得られた共重合体を粉砕し、10リットル容のエバポレーターを用い、窒素気流下、200℃で10時間固相重合して分子量をさらに上げた。固相重合によってηrは1.6から2.2に上昇した。なお、融点は250℃であった。
【0054】
(6)ポリアミド66(以下、「A6」ともいう)
【0055】
商品名:「レオナ(登録商標)1300S」(旭化成ケミカルズ(株)製)を用いた。なお、組成はPA66が100質量%であり、ηrは2.6、融点は260℃であった。
【0056】
なお、A1〜A5における各成分の共重合比の測定は、核磁気共鳴装置(NMR)によって行った。
【0057】
2.ガラス繊維(B)
【0058】
(1)ガラス繊維ロービング(以下、「B1」ともいう)
【0059】
商品名:「ER2400T−448N」、平均繊維径17μm、2400TEX(日本電気硝子(株)製)を用いた。なお、「ER2400T−448N」は連続繊維である。
【0060】
(2)ガラス繊維チョップドストランド(以下、「B2」ともいう)
【0061】
商品名:「T−275H」、平均繊維径10.5μm、繊維カット長3mm(日本電気硝子(株)製)を用いた。
【0062】
3.導電性カーボン(C)
【0063】
商品名:「ケッチェンブラックEC600JD」、DBP吸油量495mL/100g(ケッチェンブラックインターナショナル社製)(以下、「C1」ともいう)を用いた。
【0064】
[曲げ弾性率、曲げ強度の測定]
【0065】
射出成形機(FN−3000、スクリュー径40mm、日精樹脂工業(株)製)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、射出圧力65MPa、射出時間5秒、冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpmの成形条件にて、ISO 3167に準じた多目的試験片A形を成形し、曲げ試験用試験片を切削加工した。得られた試験片は、ISO 178に準じて、オートグラフ((株)島津製作所社製:AG−5000D形)で、クロスヘッドスピード5mm/分、スパン64mm、周囲温度23℃の条件下で測定を行った。なお、曲げ弾性率が高い程、剛性に優れ、曲げ強度が高い程、機械的強度に優れるといえる。
【0066】
[導電性の測定]
【0067】
射出成形機(FN−3000、スクリュー径40mm、日精樹脂工業(株)製)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、射出圧力65MPa、射出時間8秒、冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpmの成形条件にて、軸状成形品(直径10mm、長さ200mmの円筒状成形品)を得た。得られた軸状成形品は、高抵抗率計(三菱化学社製:ハイレスタ―UP(型式:MCP―HT―450)、UAプローブ使用(型式:MCP―HTP11))にて、図1中の破線の矢印に示すように、3箇所の表面抵抗率を測定した。なお、図1は、そり変形及び導電性を測定するための、本発明の軸状成形品を表す模式図である(図中、破線の矢印は表面抵抗率の測定箇所を示す)。
【0068】
[反り変形の測定]
【0069】
上述の軸状成形品を用いて、成形品の一端(ゲート側)を固定し、軸中心に回転させた際の他端側のふれ幅を測定した。振れ幅は成形品の断面半径を基準とする差とした。
【0070】
[実施例1]
【0071】
二軸押出機(商品名「ZSK25」、Coperion社製)を用い、バレル温度を290℃、スクリュー回転数300rpmの条件で、押出機の最上流部より、ポリアミド66/6I共重合体であるA1を100質量部、及び導電性カーボンであるC1を10質量部フィードし、溶融混練した。溶融したポリアミド樹脂を長繊維強化樹脂組成物製造装置(商品名「KOSLFP−212」、(株)神戸製鋼所製)の樹脂含浸用ローラーを備えた含浸ダイに供給し充填した。
【0072】
この含浸ダイに2本のB1(ガラス繊維ロービング)を前記含浸ダイに導入し、含浸ダイ内で上記の溶融ポリアミド樹脂を含浸したガラス繊維束をノズル(ノズル径2.9mm)より連続的に引き抜き1本の樹脂ストランド状にし、ペレタイザーでガラス長繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレット(ペレットの長さ10mm、ペレットの直径2.9mm、強化繊維(B)としての重量平均繊維長10.6mm、ガラス繊維濃度50質量%)を得た。
【0073】
また、このストランドを引き取る際、ストランドの引き取り方向を軸にストランドを回転させ撚りを付与した。ストランドの引き取り速度は20m/分、撚りのピッチは29mmであった。
【0074】
結果を表1に示す。得られた長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、比較例と対比すると、機械的強度及び剛性、並びに軸状成形品の導電性のばらつき及び反り変形の少なさをバランス良く備えていることを確認した。
【0075】
[実施例2〜4]
【0076】
用いたポリアミド樹脂(A)をそれぞれA2、A3、A4とした点以外は、実施例1と同様の方法で、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0077】
結果を表1に示す。得られた長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、比較例と対比すると、機械的強度及び剛性、並びに軸状成形品の導電性のばらつき及び反り変形の少なさをバランス良く備えていることを確認した。
【0078】
[比較例1、2]
【0079】
用いたポリアミド樹脂をそれぞれA5、A6とした点以外は、実施例1と同様の方法で、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0080】
得られた長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、少なくとも導電性のばらつきが大きいことを確認した(表1)。
【0081】
[比較例3]
【0082】
ポリアミド樹脂と導電性カーボンの配合比を変更した点以外は、実施例1と同様の方法で、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0083】
得られた長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、少なくとも導電性に劣ることが確認されたため、プリンター等の軸状部品として不適である(表1)。
【0084】
[比較例4]
【0085】
ポリアミド樹脂と導電性カーボンの配合比を変更した点以外は、実施例1と同様の方法で、長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0086】
得られた長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、少なくとも強度及び剛性、並びに軸状成形品の反り変形に劣ることを確認した(表1)。
【0087】
[参考例1]
【0088】
二軸押出機(商品名「ZSK25」、Coperion社製)を用い、バレル温度を290℃、スクリュー回転数300rpmの条件で、押出機の最上流部より、ポリアミド66/6I共重合体であるA2を100質量部、及び導電性カーボンであるC1を10質量部フィードし、さらにサイドフィード口よりガラス繊維B2を110質量部供給し、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイザーでポリアミド樹脂組成物のペレット(ペレットの長さ3.0mm、ペレットの直径2.0mm、強化繊維としての重量平均繊維長0.18mm、ガラス繊維濃度50質量%)を得た。
【0089】
得られた繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、少なくとも強度、及び軸状成形品の反り変形に劣ることを確認した(表1)。
【0090】
[参考例2]
【0091】
用いたポリアミド樹脂をA6とした以外は、参考例1と同様の方法で、繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレット(ペレットの長さ3.0mm、ペレットの直径2.0mm、強化繊維としての重量平均繊維長0.15mm、ガラス繊維濃度50質量%)を得た。
【0092】
得られた繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、少なくとも軸状成形品の反り変形に劣ることを確認した(表1)。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によって得られた長繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、強度・剛性に優れているだけでなく、軸状成形品として反り変形も少なく、かつ導電性のバラツキも少ない。そのため、ローラーのシャフト(軸芯)材料として好適であり、プリンターやコピー機等に使用される導電性ローラー等に使用される金属製シャフトに代替し得る強度と導電性を有し、且つ加工精度の高い、導電性シャフトや導電性ローラーに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサメチレンアジパミド単位70〜85質量%及びヘキサメチレンイソフタラミド単位15〜30質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである長繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ヘキサメチレンアジパミド単位65〜80質量%、ヘキサメチレンイソフタラミド単位10〜25質量%、及びポリカプラミド単位1〜10質量%からなる共重合体構造のポリアミド樹脂(A)と、強化繊維(B)と、導電性カーボン(C)とを含有する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化繊維(B)の含有量が50〜200質量部であり、導電性カーボン(C)の含有量が5〜20質量部であり、強化繊維(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである長繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂(A)は、JIS K 6810の98%硫酸溶液の相対粘度(ηr)として1.5〜3.0である、請求項1又は2に記載の長繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
強化繊維(B)は、ガラス繊維及び/又は炭素繊維である、請求項1〜3のいずれかに1項に記載の長繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
導電性カーボン(C)は、ジブチルフタレート吸油量として250mL/100g以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の長繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の長繊維強化ポリアミド樹脂組成物を成形してなる、導電性軸状成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−265381(P2010−265381A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117761(P2009−117761)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】