説明

閉鎖型溶融塩組電池

【課題】溶融塩電池を稼働させるための電力を節約できる構造を提供する。
【解決手段】溶融塩電池Bの電池容器11を複数個並べて構成された組電池100と、この組電池100を加熱するヒータ14と、断熱性を有する箱体であって、内部に組電池100及びヒータ14を収容して閉鎖された外箱13と、を設けた閉鎖型溶融塩電池である。このように構成された閉鎖型溶融塩組電池では、外箱13による組電池100の保温効果が得られるので、より少ない電力で、溶融塩を融点以上の温度に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を電解質とする電池の構造に関する。なお、溶融塩には、室温で溶融するイオン液体も含むものとする。
【背景技術】
【0002】
エネルギー密度に優れた二次電池として、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池が知られているが、近年、高いエネルギー密度に加えて、不燃性という強力な利点を持つ二次電池として、溶融塩を電解質とする溶融塩電池が開発され、注目されている(特許文献1及び非特許文献1参照。)。また、溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、これは、上記他の電池と比べて温度範囲が広い。そのため、排熱スペースや防火等の装備が不要であり、個々の素電池を高密度に集めて組電池を構成しても全体としては比較的コンパクトである、という利点がある。このような溶融塩組電池は、中規模電力網や家庭等での電力貯蔵用途の他、トラックやバス等の車載用途にも期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−67644号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「SEI WORLD」2011年3月号(VOL.402)、住友電気工業株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶融塩電池を、電解質の融点以上の温度に維持するためには加熱手段が必要であり、そのための電力が必要である。このような電力を節約する具体的な提案は未だ、なされていない。
かかる課題に鑑み、本発明は、溶融塩電池を稼働させるための電力を節約できる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の閉鎖型溶融塩組電池は、電解質として溶融塩を含む溶融塩電池本体を収容する電池容器を、複数個並べて構成された組電池と、前記組電池を加熱する加熱装置と、断熱性を有する箱体であって、内部に前記組電池及び前記加熱装置を収容して閉鎖された外箱とを備えたものである。
このように構成された閉鎖型溶融塩組電池では、外箱による組電池の保温効果が得られるので、より少ない電力で、溶融塩を融点以上の温度に維持することができる。
【0007】
(2)また、上記(1)の閉鎖型溶融塩組電池において、外箱は、その肉厚内に、真空の空間領域を含む構造となっていてもよい。
この場合、優れた保温効果が得られる。
【0008】
(3)また、上記(1)又は(2)の閉鎖型溶融塩組電池において、外箱には内圧を逃がす弁が設けられていてもよい。
この場合、電池容器から放出されたガスによって外箱の内圧が高まった場合には、ガスを弁から外部に放出することで外箱の内圧を下げることができる。
【0009】
(4)また、上記(3)の閉鎖型溶融塩組電池において、弁は、外箱の各面のうち、電池容器の弁に対向する面とは異なる面に設けられていることが好ましい。
この場合、電池容器からガスとともに電解液が吹き出た場合に、外箱の弁が開いていると電解液を外部へ放出する可能性があるが、電池容器の弁に対向する面とは異なる面に外箱の弁が設けられていることによって、二重の漏出を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の閉鎖型溶融塩組電池によれば、外箱によって保温効果が高められるので、溶融塩電池を稼働させるための電力を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。
【図2】溶融塩電池本体(電池としての本体部分)の積層構造を簡略に示す斜視図である。
【図3】図2と同様の構造についての横断面図である。
【図4】電池容器に収められた状態の溶融塩電池の外観の概略を示す斜視図である。
【図5】安全弁の詳細な構造の一例を示す断面図である。
【図6】溶融塩電池を外箱内に複数個並べて組電池を構成した状態の一例を示す斜視図である。
【図7】溶融塩電池を外箱内に複数個並べて組電池を構成した状態の他の例を示す斜視図である。
【図8】溶融塩電池を外箱内に複数個並べて組電池を構成した状態のさらに他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る溶融塩電池について、図面を参照して説明する。
図1は、溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。図において、発電要素は、正極1、負極2及びそれらの間に介在するセパレータ3を備えている。正極1は、正極集電体1aと、正極材1bとによって構成されている。負極2は、負極集電体2aと、負極材2bとによって構成されている。
【0013】
正極集電体1aの素材は、例えば、アルミニウム不織布(線径100μm、気孔率80%)である。正極材1bは、正極活物質としての例えばNaCrOと、アセチレンブラックと、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)と、N−メチル−2−ピロリドンとを、質量比85:10:5:50の割合で混練したものである。そして、このように混練したものを、アルミニウム不織布の正極集電体1aに充填し、乾燥後に、1000kgf/cmにてプレスし、正極1の厚みが約1mmとなるように形成される。
一方、負極2においては、アルミニウム製の負極集電体2a上に、負極活物質としての例えば錫を含むSn−Na合金が、メッキにより形成される。
【0014】
正極1及び負極2の間に介在するセパレータ3は、ガラスの不織布(厚さ200μm)に電解質としての溶融塩を含浸させたものである。この溶融塩は、例えば、NaFSA(ナトリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)0.45mol%と、KFSA(カリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)0.55mol%との混合物であり、融点は57℃である。融点以上の温度では、溶融塩は溶融し、高濃度のイオンが溶解した電解液となって、正極1及び負極2に触れている。また、この溶融塩は不燃性である。
【0015】
なお、上述した各部の材質・成分や数値は好適な一例であるが、これらに限定されるものではない。
例えば、溶融塩としては、上記の他、LiFSA−KFSA−CsFSAの混合物も好適である。また、他の塩を混合する場合もあり(有機カチオン等)、一般には、溶融塩は、(a)NaFSA、又は、LiFSAを含む混合物、(b)NaTFSA、又は、LiTFSAを含む混合物、が適する。これらの場合、各混合物の溶融塩は、比較的低融点となるので、少ない加熱で溶融塩電池を作動させることができる。
【0016】
次に、より具体的な溶融塩電池の発電要素の構成について説明する。図2は、溶融塩電池本体(電池としての本体部分)10の積層構造を簡略に示す斜視図、図3は同様の構造についての横断面図である。
図2及び図3において、複数(図示しているのは6個)の矩形平板状の負極2と、袋状のセパレータ3に各々収容された複数(図示しているのは5個)の矩形平板状の正極1とが、互いに対向して図3における上下方向すなわち積層方向に重ね合わせられ、積層構造を成している。
【0017】
セパレータ3は、隣り合う正極1と負極2との間に介在しており、言い換えれば、セパレータ3を介して、正極1及び負極2が交互に積層されていることになる。実際に積層する数は、例えば、正極1が20個、負極2が21個、セパレータ3は「袋」としては20袋であるが、正極1・負極2間に介在する個数としては40個である。なお、セパレータ3は、袋状に限定されず、分離した40個であってもよい。
【0018】
なお、図3では、セパレータ3と負極2とが互いに離れているように描いているが、溶融塩電池の完成時には互いに密着する。正極1も、当然に、セパレータ3に密着している。また、正極1の縦方向及び横方向それぞれの寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極2の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極1の外縁が、セパレータ3を介して負極2の周縁部に対向するようになっている。
【0019】
上記のように構成された溶融塩電池本体10は、例えばアルミニウム合金製で直方体状の電池容器に収容され、素電池すなわち、電池としての物理的な一個体を成す。
図4は、このような電池容器11に収められた状態の溶融塩電池Bの外観の概略を示す斜視図である。なお、図2,図3における正極1及び負極2のそれぞれからは、端子(正極1の端子1tのみ図示している。)が電池容器11の外部へ引き出される。図4において、電池容器11の上部には、内部の気圧が過度に上昇したときに放圧するための安全弁12が設けられている。なお、電池容器11の内面には絶縁処理が施されている。
【0020】
図5は、安全弁12の詳細な構造の一例を示す断面図である。安全弁12は、袋ナット121、ボルト122、栓部123、ばね124、及び、Oリング125によって構成されている。袋ナット121の内周面に形成された雌ねじ部121aは、ボルト122の外周面に形成された雄ねじ部122aと螺合する。袋ナット121の中央及び、ボルト122の中央には、それぞれ通気孔121b及び122bが形成されている。ボルト122は鍔部122cを抜け止めとして、電池容器11に固定されている。この安全弁12は、図5に示す状態から袋ナット121をさらに締め込んでOリング125を押しつぶした状態で使用される。
【0021】
上記2つの通気孔121b及び122bが互いに連通すれば、電池容器11の内部のガスが外部へ放出され得る状態となるが、通常は、ばね124の付勢を受けた栓部123が通気孔122bの上端に圧接しているので、電池容器11の内部は、外部から見て封止された状態となっている。内部のガス圧が高まって、ガス圧が栓部123を押し上げようとする力が、ばね124の付勢力以上になると、栓部123が押し上げられてボルト122の通気孔122bと袋ナット121の通気孔121bとが互いに連通する。これにより、内部のガスが放出され、放圧される。内部の圧力が下がれば、栓部123は、再び、通気孔122bの上端を塞ぐ。
【0022】
図6は、上記のように構成された素電池としての溶融塩電池Bを、外箱13内に複数個並べて組電池100を構成した状態の一例を示す斜視図(一部断面を含む。)である。但し、溶融塩電池Bの端子等、細部の図示は省略している。なお、この並びの方向と直交する方向(奥行き方向)にも複数列に溶融塩電池を並べて、多数の溶融塩電池によって組電池100を構成することができる。素電池を互いに直列又は並列に接続して成る組電池は、所望の電圧・電流の定格で使用することができる。各電池容器11間には、面状のヒータ14が装着されている。このヒータ14で加熱することにより、溶融塩電池Bは、溶融塩の融点以上になるように加熱される。実際には、安定的な溶融状態とするため、全体が85℃〜95℃になるように加熱される。これにより、溶融塩が融解して、充電及び放電が可能な状態となる。
【0023】
上記外箱13は、全体としては概ね直方体であり、本体部13aと、蓋部13bとによって構成されている。多数の溶融塩電池を並べて構成された組電池100を収容した後、蓋部13bは、例えばボルトにより、本体部13aに固定される。外箱13は、断熱性に優れた材質や構造のものが好ましく、材質としては例えばセラミックが好適である。組電池100は、ヒータ14と共に、外箱13による閉鎖空間に閉じ込められる。なお、組電池100からの出力線や、ヒータ14への給電線は、例えば、外箱13に壁貫通のブッシュ等(図示せず。)を設けて引き通される。
【0024】
このようにして、外箱13で閉鎖された閉鎖型溶融塩組電池を構成することができる。この場合、ヒータ14から発せられる熱が外箱13の外へ逃げにくくなり、外箱13による組電池100の保温効果が得られる。従って、熱効率が改善され、より少ない電力で、溶融塩を融点以上の温度に維持することができる。
【0025】
図7は、溶融塩電池Bを、外箱13内に複数個並べて組電池100を構成した状態の他の例を示す斜視図(一部断面を含む。)である。但し、溶融塩電池Bの端子等、細部の図示は省略している。
図6との違いは、外箱13の本体部13a及び蓋部13bにおけるそれぞれの肉厚中間層に、真空な空間領域Va及びVbが形成されている点である。このような真空領域Va,Vbを設けることによって、断熱性に優れた構造が実現され、断熱効果が高められる。従って、外箱13による組電池100の保温効果が向上し、熱効率が改善される。なお、外箱13の材質はセラミック等の、断熱性に優れた材質を用いることが好ましいが、構造的に断熱性を確保できるので、アルミニウムやステンレス等の金属を用いることも可能である。また真空領域VaやVbの内部に、輻射熱の放散を防ぐために断熱材を設けても良い。断熱材としては、帯状の樹脂フィルムの一面又は両面にアルミニウムを蒸着した帯状材と合成繊維からなるメッシュ構造材とを積層した積層材、代表的にはスーパーインシュレーション(商品名)が挙げられる。
【0026】
図8は、溶融塩電池Bを、外箱13内に複数個並べて組電池100を構成した状態のさらに他の例を示す斜視図(一部断面を含む。)である。但し、溶融塩電池Bの端子等、細部の図示は省略している。
図6との主要な違いは、外箱13の本体部13aにおける側面に、安全弁16を設けた点である。また、それに付随する細部の違いとしては、安全弁16の内面側の直近に電池容器11が来ないように、安全弁16側に波板状のばね15を装着した点である。このばね15は、スペーサであるとともに、複数個並んでいる溶融塩電池Bを、ヒータ14を挟んで相互に圧接させる部材となっている。
【0027】
図8において、個々の溶融塩電池Bの安全弁12は、上部にある。また、外箱13の安全弁16は、溶融塩電池Bの安全弁12と対向する蓋部13bにではなく、蓋部13bとは異なる面(側面)に設けられている。安全弁16の構造は、個々の安全弁12の構造(図5)と同様である。なお、外箱13の安全弁16は、図中のX方向(奥行き方向)における位置に関しても、溶融塩電池Bの安全弁12とは異なる位置(ずれた位置)に設けられることが好ましい。
【0028】
このように外箱13にも安全弁16が設けられることによって、各電池容器11から放出されたガスによって外箱13の内圧が高まった場合に、ガスを安全弁16から逃がすことで外箱13の内圧を下げることができる。
また、もし外箱13の安全弁16が蓋部13bに設けられている場合には、電池容器11からガスとともに電解液が吹き出た場合に、外箱13の安全弁16が開いていると電解液を外部へ放出する可能性がある。しかし、図示の構造では、電池容器11の安全弁12に対向する面(すなわち蓋部13b)とは異なる面に外箱13の安全弁16が設けられていることによって、二重の漏出を確実に防止することができる。
【0029】
なお、仮に、図8とは異なって、各電池容器11の安全弁12から上方ではなく側方にガスを放出する場合には、外箱13の安全弁16は、その放出方向ではない面(例えば上面の蓋部13b)に外箱13の安全弁16を設ければよい。
また、各電池容器11には、安全弁12の他にさらに、安全弁12の故障を想定して破裂弁(破裂して放圧する弁)を設ける場合もある。その場合も、破裂弁からガスが放出される方向にある面とは異なる面に、外箱13の安全弁16を設ければ、電解液の漏出を確実に防止することができる。
【0030】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0031】
10:溶融塩電池本体
11:電池容器
12:安全弁
13:外箱
14:ヒータ(加熱装置)
16:安全弁
100:組電池
B:溶融塩電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質として溶融塩を含む溶融塩電池本体を収容する電池容器を、複数個並べて構成された組電池と、
前記組電池を加熱する加熱装置と、
断熱性を有する箱体であって、内部に前記組電池及び前記加熱装置を収容して閉鎖された外箱と
を備えていることを特徴とする閉鎖型溶融塩組電池。
【請求項2】
前記外箱は、その肉厚内に、真空の空間領域を含む構造となっている請求項1記載の閉鎖型溶融塩組電池。
【請求項3】
前記外箱には内圧を逃がす弁が設けられている請求項1又は2に記載の閉鎖型溶融塩組電池。
【請求項4】
前記弁は、外箱の各面のうち、前記電池容器の弁に対向する面とは異なる面に設けられている請求項3記載の閉鎖型溶融塩組電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221689(P2012−221689A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85519(P2011−85519)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】