説明

開閉体の開閉機構

【課題】フードの開閉操作性の向上と共に任意の開位置にフードを保持することができ、而もエンジンルーム内の作業性を向上させる。
【解決手段】車体側に固定されたヒンジブラケット11と、エンジンルーム21を覆うためのフード3に固定されたヒンジアーム12と、ヒンジアームをヒンジブラケットに装着するためのヒンジピン13とを備え、さらに、ヒンジアームの揺動運動に連動するようにヒンジピンに装着された回転体14と、回転体の周縁に形成されたラチェットギヤ部14aと、ヒンジブラケットに対して回動自在に設置され、一方向に回転するとラチェットギヤ部に係合し、一方向とは逆方向に回転するとラチェットギヤ部から離脱するラチェット爪15と、ラチェット爪に連結され当該ラチェット爪を回動操作する操作レバーとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は開閉体の開閉機構に係り、特に、開閉体を車体の開口部に対して開閉すると共に所定の開位置に保持する開閉体の開閉機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のフロント部に開口したエンジンルームに対して開閉自在にフードを取り付ける開閉体の開閉機構として、図7(A)に示すように、一端部52aがエンジンルーム50内に揺動可能に取り付けられ、他端部52bがフード51に設けられた差し込み穴50aに挿入して引っ掛けることができる形状に形成されたステー52によるステー支持タイプが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このステー支持タイプは、フード51がエンジンルーム50を閉じている場合にはステー52が倒れた状態でエンジンルーム50内に格納され、ステー52の他端部52bがフック(図示せず。)に引っ掛けられている。また、このステー支持タイプでエンジンルーム50内の各部の点検や整備を行う場合には、フード51を既定開度まで一方の手で開いて支持した状態で、ステー52の他端部52bを他方の手でエンジンルーム50内のフックから取り外し持ち上げてフード51の差し込み穴50aに嵌合させることで、フード51をその開位置で保持することができる。
【0004】
また、開閉体の開閉機構として、図7(B)に示すように、一端部53aがエンジンルーム50内に揺動可能に取り付けられ、他端部53bがフード51に揺動可能に取り付けられたダンパーステー53によるダンパーステー支持タイプが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このダンパーステー支持タイプは、フード51がエンジンルーム50を閉じている場合にはダンパーステー53が倒れた状態でエンジンルーム50内に格納され、フード51が既定開度まで開かれている場合にはダンパーステー53の反力により、フード51をその開位置で保持することができる。
【0006】
このようなステー支持タイプやダンパーステー支持タイプの各開閉体の開閉機構は図7(A)、(B)に示す1点鎖線から成る円の部分に、ステー52やダンパーステー53と共に図7(C)に示すようなヒンジ機構54でエンジンルーム50に対して開閉自在にフード51が取り付けられている。ヒンジ機構54は、フード51が固定されるヒンジアーム55と、車体側に固定されたヒンジブラケット56と、ヒンジブラケット56にヒンジアーム55を回動自在に固定するヒンジピン57とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−230329号公報
【特許文献2】特開2005−22502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、背景技術に記載した各開閉体の開閉機構では、ステー52やダンパーステー53と共にヒンジ機構54も設けなければならないので、コストアップや重量増加と共にレイアウトが制約されるという難点があった。また、これら開閉体の開閉機構では、フード51を既定開度まで開いた状態で保持できるような自動車のフロント部の位置にステー52やダンパーステー53を取り付けなければならないので、作業者がエンジンルーム50内の各部の点検や整備を行う際に邪魔になり作業性が悪くなる難点があった。また、これら開閉体の開閉機構では、ステー52やダンパーステー53の長さでフード51の開度が決定されるので、身長の低い作業者がフード51の先端を支えながら当該フード51を開いていくと、既定開度までフード51の先端を支えることができなくなる場合があった。さらに、ステー支持タイプの開閉体の開閉機構では、フード51の開閉作業において、当該フード51を一方の手で持ち上げた状態で、他方の手でステー52をフード51の差し込み穴50a及びエンジンルーム50のフック間で移動させるという不安定な操作を行わなければならないという難点があった。
【0009】
本発明は、このような従来の難点を解消するためになされたもので、フードの開閉操作性の向上と共に任意の開位置にフードを保持することができ、而もエンジンルーム内の作業性を向上させることができる開閉体の開閉機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成する本発明の第1の態様である開閉体の開閉機構は、車体側に固定されたヒンジブラケットと、車体に開口した開口部を覆うための開閉体に固定されたヒンジアームと、ヒンジアームをヒンジブラケットに装着するためのヒンジピンとを備え、ヒンジピンを回動中心にしてヒンジアームの揺動運動によって開閉体を車体の開口部に対して開閉させる開閉体の開閉機構において、ヒンジアームの揺動運動に連動するようにヒンジピンに装着された回転体と、回転体の周縁に形成されたラチェットギヤ部と、ヒンジブラケットに対して回動自在に設置され、一方向に回転するとラチェットギヤ部に係合し、一方向とは逆方向に回転するとラチェットギヤ部から離脱するラチェット爪と、ラチェット爪に連結され当該ラチェット爪を回動操作する操作レバーとを備え、ラチェットギヤ部は開閉体が所定位置まで開かれると、ラチェット爪に係止され当該開閉体がその開位置から閉じる方向に移動しないように回転体の回転を停止させる形状である。なお、本明細書において、「回動」とは、正逆方向に円運動することを意味する。また、本明細書において、「係止」とは、係り合って止めることを意味する。
【0011】
このような第1の態様である開閉体の開閉機構によれば、開閉体が車体の開口部を覆うように閉じている状態から所定位置まで開いていくと、開閉体に固定されたヒンジアームと共に回転体が連動することで当該回転体がヒンジピンを回転軸にして回転することにより、回転体のラチェットギヤ部がラチェット爪に係止されるので、開閉体がその開位置から閉じる方向に移動しないように回転体の回転を停止させることができる。また、開閉体をこの所定位置まで開いた状態から車体の開口部を覆うように閉じる状態に移行させる場合には、開閉体を持ち上げた状態でラチェットギヤ部とラチェット爪との係止状態を解除させ、操作レバーを回転操作するだけでラチェット爪をラチェットギヤ部から離脱させることができるので、回転体を開閉体が車体の開口部を覆うように閉じる方向に回転させることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は第1の態様である開閉体の開閉機構において、ラチェット爪を一方向に向かって弾撥する弾性手段を備えているものである。このような第2の態様である開閉体の開閉機構によれば、操作レバーを回転操作しない場合には、ラチェット爪をラチェットギヤ部に弾性手段の弾撥力により常時係止させることができるので、ラチェット爪が振動等によりラチェットギヤ部から離脱してしまうことを防ぐことができる。
【0013】
本発明の第3の態様は第2の態様である開閉体の開閉機構において、弾性手段は、ヒンジブラケットに突設されラチェット爪の回動中心となる回動軸と、内方端部が回動軸に結合され、外方端部がヒンジブラケットに結合されることで曲げ応力が働くうず巻きばねとを備えているものである。なお、本明細書において、「突設」とは、突き出した状態に設けることを意味する。このような第3の態様である開閉体の開閉機構によれば、狭いスペースに弾撥によるエネルギーを多く蓄えることができる。
【0014】
本発明の第4の態様は第2の態様又は第3の態様である開閉体の開閉機構において、操作レバーは、開閉体の裏面側に移動可能に装着されたケーブルを介してラチェット爪を回動操作可能に開閉体に設けられているものである。このような第4の態様である開閉体の開閉機構によれば、開閉体の開閉操作を行う際、作業者が不安定な操作を行わなくても済むような位置に操作レバーを設けることができる。
【0015】
本発明の第5の態様は第1の態様乃至第4の態様のうち何れか1つの態様である開閉体の開閉機構において、ヒンジブラケットの一方の板面には回転体及びラチェット爪、他方の板面にはヒンジアームがそれぞれ配置されている場合において、回転体のラチェットギヤ部の形成範囲とは異なる周縁に形成され、開閉体が所定位置まで開かれることで、ラチェット爪が回転体のラチェットギヤ部の形成範囲から外れると、当該ラチェット爪を当該ラチェットギヤ部から離脱させるカム部と、ヒンジブラケットに回動自在に回転軸にて装着され、一方の部位が一方の板面から突出し、他方の部位が他方の板面から突出するように形成されたロック部材と、ロック部材の各部位が、常時はヒンジブラケットの各板面から突出するように弾撥する弾性体とを備え、ロック部材は、カム部がラチェット爪をラチェットギヤ部から離脱させると、ラチェット爪がラチェットギヤ部の方向に回転しないように一方の部位が当該ラチェット爪に係合するように揺動し、開閉体を所定位置から閉じていくとヒンジアームに他方の部位が押圧されながら一方の部位を一方の板面から引っ込めるように揺動する構造である。
【0016】
このような第5の態様である開閉体の開閉機構によれば、既定開度まで開いて保持されている開閉体をさらに開くと、開閉体に固定されたヒンジアームと連動する回転体のカム部が、ラチェット爪をラチェットギヤ部の形成範囲から外すと共に回転体の外周から外れるように移動させるので、ロック部材はラチェット爪が回転体の方向に回転しないように一方の部位が当該ラチェット爪に係合するように揺動する。この状態で開閉体を閉じる方向に移動させると、ラチェットギヤ部がラチェット爪に係止されることなく回転体が回転するので、開閉体が閉じる方向にヒンジアームを揺動させることができ、さらに、開閉体が閉じる方向に移動していくと、ヒンジアームにロック部材の他方の部位が押圧されながら一方の部位を一方の板面から引っ込めるように揺動させることができる。
【0017】
本発明の第6の態様は第5の態様である開閉体の開閉機構において、弾性体は、回転軸に巻装され一方の腕部がロック部材の一方の部位に係合され、他方の腕部がヒンジブラケットに係合されているねじりコイルばねである。なお、本明細書において、「巻装」とは、外側を巻いた状態に装うことを意味する。このような第5の態様である開閉体の開閉機構によれば、ロック部材の各部位が、常時はヒンジブラケットの各板面から突出するように弾撥することができる。
【0018】
本発明の第7の態様は第1の態様乃至第6の態様のうち何れか1つの態様である開閉体の開閉機構において、ヒンジアーム及び回転体はそれぞれヒンジピンに固定され、当該ヒンジピンはヒンジブラケットに回動自在に装着されているものである。このような第7の態様である開閉体の開閉機構によれば、ヒンジピンの回動運動によりヒンジアームを揺動させ回転体を回動させることができる。
【0019】
本発明の第8の態様は第1の態様乃至第6の態様のうち何れか1つの態様である開閉体の開閉機構において、ヒンジアーム及び回転体は連動するように連結され、ヒンジブラケットに固定されたヒンジピンに回動自在に装着されているものである。このような第8の態様である開閉体の開閉機構によれば、ヒンジピンを回動中心にしてヒンジアームを揺動させ回転体を回動させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の開閉体の開閉機構によれば、フードの開閉操作性の向上と共に任意の開位置にフードを保持することができ、而もエンジンルーム内の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の開閉体の開閉機構における好ましい実施の形態例を示す図で、(A)自動車のフロント部を示す斜視図、(B)は側面図、(C)は(B)の正面図、(D)は(B)の部分詳細を示す図である。
【図2】本発明の開閉体の開閉機構における好ましい実施の形態例を示す斜視図で、(A)は表側から見た図、(B)は裏側から見た図である。
【図3】本発明の開閉体の開閉機構における操作レバーのフードへの取り付け状態を示す図で、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
【図4】本発明の開閉体の開閉機構の動作状態を示す側面図で、(A)はフードが閉じた状態の説明図、(B)はフードが開いた状態の説明図である。
【図5】本発明の開閉体の開閉機構における回転体のカム部、ラチェット爪及びロック部材との関係を示す側面図で、(A)はフードを開いていく状態の説明図、(B)はフードを閉じていく状態の説明図である。
【図6】本発明の開閉体の開閉機構における回転体のカム部、ラチェット爪及びロック部材との関係を示す正面図で、(A)はフードが開いていく状態の説明図、(B)はフードを閉じていく状態の説明図である。
【図7】従来の開閉体の開閉機構を示す図で、(A)はステー支持タイプを適用した自動車のフロント部の斜視図、(B)はダンパーステー支持タイプを適用した自動車のフロント部の斜視図、(C)は各支持タイプの開閉体の開閉機構に使用されるヒンジ機構の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の開閉体の開閉機構を実施するための形態例について、図面を参照して説明する。
【0023】
本発明の開閉体の開閉機構は図1(A)に示すように、自動車2のフロント部2Aに開口した開口部であるエンジンルーム21に対して開閉自在に開閉体であるフード3を取り付けるもので、フロント部2Aのフード3とフロントガラス4との間に配置されたカウルトップパネル22側の両端部の部位(図中、1点鎖線から成る円の部分)にそれぞれ設置されている。この開閉体の開閉機構1は図1(B)、(C)、図2(A)、(B)に示すように、自動車2のカウルトップパネル22側の各部位に固定されたヒンジブラケット11と、エンジンルーム21を覆うためのフード3に固定されたヒンジアーム12と、ヒンジアーム12をヒンジブラケット11に装着するためのヒンジピン13とを備え、ヒンジピン13を回動中心にしてヒンジアーム12の揺動運動によってフード3をエンジンルーム21に対して開閉させる。なお、図1(B)は便宜上、ヒンジブラケット11が省略されている。
【0024】
また、開閉体の開閉機構1は、ヒンジアーム12の揺動運動に連動するようにヒンジピン13に装着された回転体14と、回転体14の周縁に形成されたラチェットギヤ部14aと、ヒンジブラケット11に対して回動自在に設置され、一方向に回転するとラチェットギヤ部14aに係合し、一方向とは逆方向に回転するとラチェットギヤ部14aから離脱するラチェット爪15と、ラチェット爪15に連結され当該ラチェット爪15を回動操作する操作レバー16とを備えている。
【0025】
なお、図1(C)に示すように、ヒンジブラケット11の一方の板面11aには回転体14及びラチェット爪15が配置され、他方の板面11bにはヒンジアーム12がそれぞれ配置されている。また、ヒンジアーム12及び回転体14はそれぞれヒンジピン13に固定され、当該ヒンジピン13はヒンジブラケット11に回動自在に装着されている。このように回転体14、ラチェット爪15及びヒンジピン13をヒンジブラケット11に装着することで、ヒンジピン13の回動運動によりヒンジアーム12を揺動させ回転体14を回動させることができる。
【0026】
ラチェットギヤ部14aは図1(B)、図2(A)に示すように、例えばフード3の開閉位置を2段階に調整できるように、歯数が2つに設定されている。このラチェットギヤ部14aの各歯は、フード3が所定位置まで開かれると、ラチェット爪15に係止され当該フード3がその開位置から閉じる方向に移動しないように回転体14の回転を停止させる形状である。また、ラチェット爪15をラチェットギヤ部14aに係合させる方向に弾撥する弾性手段10を備えている。このような弾性手段10を備えることで、後述する操作レバー16を回転操作しない場合には、ラチェット爪15をラチェットギヤ部14aに弾性手段10の弾撥力により常時係止させることができるので、ラチェット爪15が振動等によりラチェットギヤ部14aから離脱してしまうことを防ぐことができる。
【0027】
この弾性手段10は、ヒンジブラケット11に突設されラチェット爪15の回動中心となる回動軸11dと、内方端部151aが回動軸11dに結合され、外方端部151bがラチェット爪15に結合されることで曲げ応力が働くうず巻きばね151とを備えているものである。ラチェット爪15には、うず巻きばね151を収納するための円形の溝15aが設けられ、この溝15aの壁部にうず巻きばね151の外方端部151bが結合されている。このように弾性手段10を構成することで、狭いスペースに弾撥によるエネルギーを多く蓄えることができるので、小型なラチェット爪でも強い弾撥力を発生させることが可能になる。
【0028】
操作レバー16は図3(A)に示すように、フード3の裏面側に移動可能に装着されたケーブル31を介してラチェット爪15を回動操作可能にフード3に設けられている。具体的には図1(B)に示すように、ラチェット爪15は支点部15a、力点部15b、作用点部15cで構成され、支点部15aはラチェット爪15の揺動運動の基点となる軸心で、力点部15bはラチェットギヤ部14aに係合する部位で、作用点部15cはケーブル31が連結される部位である。このケーブル31は図3(B)に示すように、フード3の背面において、フード3の外縁部に沿って移動可能に装着されている。したがって、操作レバー16を引く方向に移動させると、ケーブル31がラチェット爪15の力点部15bを引っ張るので、当該ラチェット爪15は支点部15aを回動中心にして作用点部15cを回転体14のラチェットギヤ部14aから離脱させることができる。したがって、フード3の開閉操作を行う際、作業者が不安定な操作を行わなくても済むようなフード3の該当位置に操作ケーブル16を設けることができる。
【0029】
また、本発明の開閉体の開閉機構1は図1(B)、図2(A)に示すように、回転体14のラチェットギヤ部14aの形成範囲とは異なる周縁に形成され、フード3が所定位置まで開かれることで、ラチェット爪15が回転体14のラチェットギヤ部14aの形成範囲から外れると、当該ラチェット爪15を当該ラチェットギヤ部14aから離脱させるカム部14bを有している。
【0030】
さらに、本発明の開閉体の開閉機構1は図1(B)、(C)、(D)、図2(A)、(B)に示すように、ヒンジブラケット11に回動自在に回転軸17にて装着され、一方の部位18aがヒンジブラケット11の一方の板面11aから突出し、他方の部位18bが他方の板面11bから突出するように形成されたロック部材18と、ロック部材18の各部位18a、18bが、常時はヒンジブラケット11の各板面11a、11bから突出するように弾撥する弾性体19とを備えている。
【0031】
ロック部材18はヒンジブラケット11に設けられた開口部11c内に格納することができ、カム部14bがラチェット爪15をラチェットギヤ部14aから離脱させると、ラチェット爪15がラチェットギヤ部14aの方向に回転しないように一方の部位18aが当該ラチェット爪15に係合するように揺動し、フード3を所定位置から閉じていくとヒンジアーム12に他方の部位18bが押圧されながら一方の部位18aをヒンジブラケット11の一方の板面11aから引っ込めるように揺動する構造である。
【0032】
このロック部材18を弾撥する弾性体19は、回転軸17に巻装され一方の腕部19aがロック部材18の一方の部位18aに係合され、他方の腕部19bがヒンジブラケット11に係合されているねじりコイルばねである。このようにロック部材18を弾撥する弾性体19にねじりコイルばねを利用することで、ロック部材18の各部位18a、18bが、常時はヒンジブラケット11の各板面11a、11bから突出するように弾撥することができる。なお、図1(C)、(D)において、ロック部材18の一方の部位18aは回転軸17を中心にして上方の部位で、他方の部位18bは回転軸17を中心にして下方の部位である。
【0033】
このように構成された開閉体の開閉機構1の動作について、以下、図4(A)、(B)、図5(A)、(B)及び図6(A)、(B)と共に図1(A)を参照しながら説明する。
【0034】
フード3がエンジンルーム21を覆うように閉じている状態から所定位置まで開いていくと、フード3に固定されたヒンジアーム12と共に回転体14が連動することで当該回転体14がヒンジピン13を回転軸にして回転することにより、ラチェット爪15が回転体14の第1のラチェットギヤ部14aから離脱して第2のラチェットギヤ部14aに係止されるので、フード3がその開位置から閉じる方向に移動しないように回転体14の回転を停止させることができる。ここにおける所定位置が、エンジンルーム21内の各部の点検や整備を行うためのフード3の既定開度位置となる。
【0035】
また、フード3をこの所定位置まで開いた状態からエンジンルーム21を覆うように閉じる状態に移行させる場合には、操作レバー16(図3(A)、(B)参照。)を使用する方法と、回転体14のカム部14b及びロック部材18を利用する方法がある。
【0036】
操作レバー16を使用する方法は、フード3を持ち上げた状態で第2のラチェットギヤ部14aとラチェット爪15との係止状態を解除させ操作レバー16を操作するだけで、ケーブル31を介してラチェット爪15を第2のラチェットギヤ部14aから離脱させ第1のラチェットギヤ部14aへと移動させることができるので、回転体14をフード3がエンジンルーム21を覆うように閉じる方向に回転させることができる。
【0037】
一方、回転体14のカム部14b及びロック部材18を利用する方法においては、既定開度まで開いて保持されているフード3をさらに開くと図5(A)、(B)及び図6(A)、(B)に示すように、フード3に固定されたヒンジアーム12と連動する回転体14のカム部14bが、ラチェット爪15を2つのラチェットギヤ部14a、14aの形成範囲から外すと共に回転体14の外周から外れるように移動させる。
【0038】
ラチェット爪15が回転体14のカム部14bによって上方に揺動すると、ロック部材18はラチェット爪15が回転体14の方向に回転しないように一方の部位18aが当該ラチェット爪15に係合するように揺動する。この状態でフード3を閉じる方向に移動させると、第2のラチェットギヤ部14aがラチェット爪15に係止されることなく回転体14が回転するので、フード3が閉じる方向にヒンジアーム12を揺動させることができ、さらに、フード3が閉じる方向に移動していくと、ヒンジアーム12にロック部材18の他方の部位18bが押圧されながら一方の部位18aを、ヒンジブラケット11の一方の板面11aから引っ込めるように揺動させることができる。
【0039】
したがって、操作レバー16を操作することなくフード3を所定位置まで開いた状態からエンジンルーム21を覆うように閉じる状態に移行させることができると共に、ラチェット爪15を第1のラチェットギヤ部14aから移動させて第2のラチェットギヤ部14aに係止させることができる状態に移動可能な状態にすることができる。
【0040】
なお、操作レバー16を使用する方法は、フード3をこの所定位置まで開いた状態からエンジンルーム21を覆うように閉じる状態に移行させるだけではなく、回転体14のラチェットギヤ部14aを、フード3を多段階の開位置に停止させるように3つ以上形成させた場合には、各開位置に移動させる際にも利用することができる。この操作レバー16の操作方法は上述した操作レバー16を使用する方法と同様である。
【0041】
このように本発明の開閉体の開閉機構1は、フロント部2Aのフード3とフロントガラス4との間に配置されたカウルトップパネル22側の両端部の部位のみに設けるだけでよいので、コストアップや重量増加を防ぐことができると共に、作業者がエンジンルーム50内の各部の点検や整備を行うにあたり作業性の大幅な自由度を確保することができる。また、本発明の開閉体の開閉機構1によれば、従来のステー支持タイプの開閉体の支持機構のような不安定なフード3の開閉操作を行わなくてもよくなる。さらに、本発明の開閉体の開閉機構1によれば、従来のダンパーステー支持タイプの開閉体の支持機構のようにダンパーステーの性能劣化によるフード3の落下事故などを懸念する必要性がないので、フード3の開閉操作時の安全性を向上できると共にメンテナンスフリーを実現可能になる。
【0042】
なお、上述した実施例においては、ヒンジアーム及び回転体はそれぞれヒンジピンに固定され、当該ヒンジピンはヒンジブラケットに回動自在に装着されていたが、これに限らず、ヒンジアーム及び回転体は連動するように連結され、ヒンジブラケットに固定されたヒンジピンに回動自在に装着されていてもよい。このように構成させることで、ヒンジピンを回動中心にしてヒンジアームを揺動させ回転体を回動させることができる。
【0043】
また、上述した実施例においては、エンジンルーム21を覆うフード3に適用していたが、これに限らず、本発明の開閉体の開閉機構は、車体の開口部に対して回動自在に開閉することができるバックドア、トランクリッド等の開閉体すべてに適用することができる。
【0044】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0045】
1……開閉体の開閉機構
10……弾性手段
11……ヒンジブラケット
11d……回動軸
12……ヒンジアーム
13……ヒンジピン
14……回転体
14a……ラチェットギヤ部
14b……カム部
15……ラチェット爪
15a……円形の溝
16……操作レバー
18……ロック部材
19……ねじりコイルばね(弾性体)
21……エンジンルーム
31……ケーブル
151……うず巻きばね
151a……内方端部
151b……外方端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定されたヒンジブラケットと、
前記車体に開口した開口部を覆うための開閉体に固定されたヒンジアームと、
前記ヒンジアームを前記ヒンジブラケットに装着するためのヒンジピンとを備え、
前記ヒンジピンを回動中心にして前記ヒンジアームの揺動運動によって前記開閉体を前記車体の前記開口部に対して開閉する開閉体の開閉機構において、
前記ヒンジアームの前記揺動運動に連動するように前記ヒンジピンに装着された回転体と、
前記回転体の周縁に形成されたラチェットギヤ部と、
前記ヒンジブラケットに対して回動自在に設置され、一方向に回転すると前記ラチェットギヤ部に係合し、前記一方向とは逆方向に回転すると前記ラチェットギヤ部から離脱するラチェット爪と、
前記ラチェ
ット爪に連結され当該ラチェット爪を回動操作する操作レバーとを備え、
前記ラチェットギヤ部は前記開閉体が所定位置まで開かれると、前記ラチェット爪に係止され当該開閉体がその開位置から閉じる方向に移動しないように前記回転体の回転を停止させる形状であることを特徴とする開閉体の開閉機構。
【請求項2】
前記ラチェット爪を前記一方向に向かって弾撥する弾性手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の開閉体の開閉機構。
【請求項3】
前記弾性手段は、
前記ヒンジブラケットに突設され前記ラチェット爪の回動中心となる回動軸と、
内方端部が前記回動軸に結合され、外方端部が前記ラチェット爪に結合されることで曲げ応力が働くうず巻きばねとを備えていることを特徴とする請求項2記載の開閉体の開閉機構。
【請求項4】
前記操作レバーは、前記開閉体の裏面側に移動可能に装着されたケーブルを介して前記ラチェット爪を回動操作可能に前記開閉体に設けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の開閉体の開閉機構。
【請求項5】
前記ヒンジブラケットの一方の板面には前記回転体及び前記ラチェット爪、他方の板面には前記ヒンジアームがそれぞれ配置されている場合において、
前記回転体の前記ラチェットギヤ部の形成範囲とは異なる周縁に形成され、前記開閉体が所定位置まで開かれることで、前記ラチェット爪が前記回転体の前記ラチェットギヤ部の前記形成範囲から外れると、当該ラチェット爪を当該ラチェットギヤ部から離脱させるカム部と、
前記ヒンジブラケットに回動自在に回転軸にて装着され、一方の部位が前記一方の板面から突出し、他方の部位が前記他方の板面から突出するように形成されたロック部材と、
前記ロック部材の前記各部位が、常時は前記ヒンジブラケットの前記各板面から突出するように弾撥する弾性体とを備え、
前記ロック部材は、前記カム部が前記ラチェット爪を前記ラチェットギヤ部から離脱させると、前記ラチェット爪が前記ラチェットギヤ部の方向に回転しないように前記一方の部位が当該ラチェット爪に係合するように揺動し、前記開閉体を前記所定位置から閉じていくと前記ヒンジアームに前記他方の部位が押圧されながら前記一方の部位を前記一方の板面から引っ込めるように揺動する構造であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の開閉体の開閉機構。
【請求項6】
弾性体は、
前記回転軸に巻装され一方の腕部が前記ロック部材の前記一方の部位に係合され、他方の腕部が前記ヒンジブラケットに係合されているねじりコイルばねであることを特徴とする請求項5記載の開閉体の開閉機構。
【請求項7】
前記ヒンジアーム及び前記回転体はそれぞれ前記ヒンジピンに固定され、当該ヒンジピンは前記ヒンジブラケットに回動自在に装着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうち何れか1項に記載の開閉体の開閉機構。
【請求項8】
前記ヒンジアーム及び前記回転体は連動するように連結され、前記ヒンジブラケットに固定された前記ヒンジピンに回動自在に装着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうち何れか1項に記載の開閉体の開閉機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−241283(P2010−241283A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92736(P2009−92736)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】