説明

防振材料およびこれを用いた防振床構造

【課題】 耐荷重性に優れかつ防振性能にも優れる床支持脚用防振材料を提供する。
【解決手段】 浴室の防振構造は、浴室の床基盤(1) 上に配設された円盤状の防振材料(2) と、防振材料(2) に立設されかつ下端に座金(5) を固定した支持脚(3) と、支持脚(3) に支えられた床下地材(5) とを備えたものである。床下地材(5) 上の浮き床に市販の浴室ユニットが据え付けられる。防振材料(2) は、ポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤50〜200重量部、アスペクト比10以下の充填剤10〜200重量部からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振材料およびこれを用いた防振床構造に関し、具体的には浮き床タイプの浴室の防振床構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集合住宅などにおいて、構造躯体として大型のスラブが用いられることが多い。大型のスラブの使用は、間取り設計の自由度を増し、大空間の設計を可能にするなどの利点がある反面、上階に浴室があり下階に居室がある場合、とりわけこれらが同一スパン内に存在する場合、上階の浴室で発生した床衝撃音が下階の居室に騒音として伝わる恐れがある。さらに水回りの場所などを限定しないような自由間取りの場合には、居室の直上に浴室が存在する場合もあり得る。このような場合、浴室で発生した床衝撃音が騒音として真下の居室に直に伝わる恐れがある。そのため、浴室で発生した床衝撃音を騒音として他の場所へ伝搬するのを効果的に防ぐことができる防振用床支持脚の要望が高まって来ている。
【0003】
従来、防振用床支持脚構造として、図2に示すように、床支持脚(41)の下端の防振ゴム(42)を裁頭逆円錐体状にして、その底面に保形用の穿孔を設けた構造や(特許文献1参照)、図3に示すように、ゴム製の防振基台(51)上に円筒状の支持脚(52)を立設し、その内部に補助脚(53)を保持し、荷重でゴム製の防振基台(51)が圧縮された際には補助脚(53)の下端がスラブ(55)上面に当接する構造が提案されている(特許文献2参照)。しかし、前者の構造では、耐荷重性が十分でなく、浴槽に湯を貯留した際に浴室が沈み込んでしまい、出入口部の目地が破損したり配管が損傷したりする。耐荷重性を向上させるために硬い防振ゴムを用いると、十分な防振効果が得られず、騒音を低減することができない。後者の構造では、形状が複雑で製造コストが高くつき、荷重で補助脚(53)の下端がスラブ(55)上面に当接していると遮音性能が低下するなどの問題がある。なお、図2中、(46)は支持ブロック、(47)は床下地、(48)は床合板、(49)はスラブである。
【特許文献1】特開2002−276144号公報。
【特許文献2】特開2002−227396号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑み、耐荷重性に優れかつ防振性能にも優れる防振床構造を提供し、この防振床構造に用いる防振材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による防振材料は、ポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤50〜200重量部、および数平均アスペクト比(以下、単に「アスペクト」比という)10以下の充填剤10〜200重量部からなるものである。なお、本発明で言うアスペクト比は、光学顕微鏡写真からランダムに100個の充填材を抽出し、その平均値を出したものである。
【0006】
本発明による防振床構造は、上記構成の防振材料が床基盤上に配設され、該防振材料から支持脚が立設され、該支持脚に浮き床が支持されているものである。
【0007】
本発明において使用されるポリ塩化ビニルについて、製法、重合度、粉体性状などは特に限定されないが、可塑剤添加時の長期安定性を考慮すると、JIS K6720−2付属書4.1.3に準拠して測定された重合度(以下、単に「重合度」という)が1000以上であることが好ましい。架橋は行っても行わなくてもよい。
【0008】
本発明において使用される可塑剤は、ポリ塩化ビニルを可塑化することのできる可塑剤であれば特に限定されない。このような可塑剤としては、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソノニルなどのフタル酸エステル類、アジピン酸プロピレングリコールやアジピン酸−1,3−ブチレングリコールなどのポリエステル系可塑剤、エポキシ化大豆油などのエポキシ系可塑剤、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルなどのトリメリット酸系可塑剤、塩素化パラフィン、ステアリン酸系可塑剤などが例示される。ポリ塩化ビニルとの相溶性を考慮すると、フタル酸エステル類、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤を使用するのが好ましい。
【0009】
本発明において使用される可塑剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上の可塑剤を混合して用いてもよい。
【0010】
可塑剤の添加量は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、50〜200重量部、好ましくは100〜150重量部である。その理由は、この添加量が少な過ぎると、防振材料が硬くて十分な防振効果が得られず、多すぎると防振材料の耐荷重性が著しく低下するためである。
【0011】
本発明において使用されるアスペクト比10以下の充填剤としては、フライアッシュ、シリカ、シリカヒューム、酸化チタン、カーボンブラック、高炉スラグ等が例示される。
【0012】
本発明による防振材料は、アスペクト比10以下の充填剤を含むことで、防振性を損なわず、耐荷重性を向上させることができる。
【0013】
充填剤のアスペクト比が10を越えると、荷重変形が抑制され、耐荷重性は向上するものの、防振材料が衝撃荷重を受ける際に防振材料の変形も抑えられるため、防振性が低下する。
【0014】
アスペクト比10以下の充填剤の平均粒径は特に限定されないが、ポリ塩化ビニルに対する分散性を考慮すると、好ましくは0.1〜20μmである。
【0015】
本発明において使用されるアスペクト比10以下の充填剤は、単独で用いられてもよく、2種類以上の充填剤を混合して使用してもよい。
【0016】
アスペクト比10以下の充填剤の添加量は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、10〜200重量部である。その理由は、この添加量が少な過ぎると、防振材料の耐荷重性と防振性能を両立させることが困難となり、多すぎると防振材料の強度が低下し、成形が困難となったり、長期間好適に使用することが困難となるためである。
【0017】
本発明の防振材料は、成形性、安定性、意匠性などを向上させる目的で可塑剤、アスペクト比10以下の充填剤以外の添加剤を含んでいても構わない。このような添加剤としては、錫メルカプト化合物、錫マレイン酸塩、金属石鹸などの熱安定剤、低分子量酸化ポリエチレン、ステアリン酸、ペンタエリスリトールステアリン酸エステルなどの滑剤、ベンゾフェノン系やトリアゾール系などの紫外線吸収剤、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴムなどの強化剤、酸化チタン、マイカなどの無機充填剤、フタロシアニン顔料やアゾ顔料などの着色剤などが例示される。
【0018】
本発明の防振材料を成形する方法は特に限定されず、押出成形法、射出成形法、プレス成形法などであってよい。形状は好ましくはシート状である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐荷重性に優れ、かつ防振性能にも優れる防振床構造を提供することができる。本発明による防振材料は特に、集合住宅などに設けられる浴室の防振床構造に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0021】
<実施例1>
ポリ塩化ビニル(徳山積水社製、商品名「TS1400K」:JIS K6720−2付属書4.1.3に準拠して測定された重合度が1400)100重量部に熱安定剤(三協有機合成社製、商品名「ONZ−72F」)を3重量部添加し、混合機(カワタ社製スーパーミキサー)にて高速撹拌し、70℃まで昇温した。その後、可塑剤(ジェイ・プラス社製、商品名「DINP」)を150重量部添加し、再び混合機にて高速撹拌し、110℃まで昇温した。その後、酸化チタン(テイカ社製、商品名「JR−600A」:平均粒径0.25μm、平均アスペクト比:2、最大アスペクト比:5)30重量部、滑剤(三井化学社製、商品名「Hiwax4202E」)3重量部を添加し、再び混合機にて高速撹拌して、防振材料用樹脂組成物を得た。
【0022】
この樹脂組成物を押出機(積水工機社製、商品名「SLM50」)に投入して、バレル温度150℃の条件において押出成形を行い、防振材料用樹脂組成物のペレットを得た。
【0023】
このペレットを射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS−350FA2」)に投入し、バレル温度190℃、射出圧力5MPaの条件において射出成形し、厚さ10mm、直径30mmの円盤状の防振材料を作製した。
【0024】
<実施例2>
酸化チタンの代わりにシリカヒューム(巴工業社製、商品名「シリカヒュームSF−R」、平均粒径:0.15μm、平均アスペクト比:1、最大アスペクト比:2)30重量部を用いた以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0025】
<実施例3>
酸化チタンの代わりにフライアッシュ(太平洋セメント社製、商品名「スーパーフロー」、平均粒径:10μm、平均アスペクト比:1、最大アスペクト比:2)30重量部
を用いた以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0026】
<実施例4>
酸化チタンの添加量を60重量部とした以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0027】
<実施例5>
酸化チタンの添加量を100重量部とした以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0028】
<比較例1>
酸化チタンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0029】
<比較例2>
酸化チタンの添加量を300重量部とした以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0030】
<比較例3>
酸化チタンの代わりにワラストナイト(巴工業社製、商品名「NYYAD−G」、アスペクト比:15)30重量部を添加した以外は実施例1と同様にして防振材料を作製した。
【0031】
<比較例4>
市販の天然ゴムシート(厚さ10mm、ゴム硬度45)から直径30mmの円盤を切り出して、円盤状の防振材料を作成した。
【0032】
<浴室の防振構造>
浴室の防振構造は、図1に示すように、浴室の床基盤(1) 上に配設された円盤状の防振材料(2) と、防振材料(2) に立設されかつ下端に座金(5) を固定した支持脚(3) と、支持脚(3) に支えられた床下地材(5) とを備えたものである。床下地材(5) 上の浮き床に市販の浴室ユニット(積水化学社製、「FPN−1216」)が据え付けられる。
【0033】
防振材料(2) として、実施例1〜5および比較例1〜4で得られた円盤状防振材料を設置した。
【0034】
比較例5として防振材料を使用せず、座金(5) と床基盤(1) を直接接触させた。
【0035】
性能評価
上記防振構造を、2階建住宅の2階部床面(厚さ150mm、床面積12mのRCスラブ)中央に据え付けた。実際の使用状態を想定して浴室床に500kgの重りを載せ、浴室床の角部4点の変位量をダイヤルゲージを用いて測定し、4点の平均値を求めた。さらに浴室床中央にタッピングマシン(リオン社製、商品名「FI−01」)を設置して床を加振し床衝撃音を発生させ、1階残響室(室容量50m)に設置した騒音計(リオン社製、商品名「NA−27」)にて階下騒音を、時定数FAST、周波数重みづけA特性、測定時間10秒の条件で、測定した。
【0036】
ただし比較例2の防振材料は酸化チタンの添加量が多すぎて、射出成形時に防振材料が破壊してしまい、性能評価を実施することができなかった。
【0037】
評価結果を表1〜2に示す。これら評価結果から明らかなように、実施例1〜5の防振材料は、階下騒音を8dB程度低減する優れた防振性能を示すと同時に、耐荷重性も変位量が1mm前後に収まっており非常に優れている。他方、各比較例の防振材料は、変位量が1mmを大きく越えていたり、階下騒音の低減量が5dB未満であるなど、耐荷重性と防振性能を両立できていない。以上の結果より、本発明による防振材料の優れた性能を確認することができた。
【表1】

【0038】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の防振床構造の一例を示す斜視図である。
【図2】従来の防振用床支持脚構造の一例を示す部分断面図である。
【図3】従来の防振用床支持脚構造の他の例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0040】
(1) :浴室の床基盤
(2) :防振材料
(3) :支持脚
(4) :座金
(5) :床下地材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤50〜200重量部、および数平均アスペクト比10以下の充填剤10〜200重量部からなる防振材料。
【請求項2】
請求項1記載の防振材料が床基盤上に配設され、該防振材料から支持脚が立設され、該支持脚に浮き床が支持されていることを特徴とする防振床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−321964(P2006−321964A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186260(P2005−186260)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】