説明

防振装置の製造方法

【課題】アンダーカット形状を有する防振装置であっても比較的簡単に、かつ精度よく成形する。
【解決手段】本発明の製造方法では、キャビティ空間26を内部に有する成形金型20を用いて、小径部5およびこれよりも内径の大きい大径部6を含む本体部4を成形する。具体的には、上記キャビティ空間26における大径部6の内部に相当する領域に、弾性体からなる第1、第2弾性中子型35,36を重ねて配置する。次に、上記本体部4の材料を射出して、上記第1、第2弾性中子型35,36を取り囲むような形状に上記本体部4を成形するとともに、この本体部4の一端部を支持具(2)に一体に結合させる。その後は、上記支持具(2)と第2弾性中子型36の間にエアを吹き込むことにより、本体部4の小径部5に囲まれた空間を通じて上記第1、第2弾性中子型35,36の両方を本体部4の外部に脱出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振対象物とこれを支持する支持体との間に設けられる中空筒状の弾性体からなる本体部と、本体部の一端部に当該部の開口を覆うような状態で一体に結合されかつ上記防振対象物および支持体の一方に固定される支持具とを備えた防振装置を、上記本体部の形状に対応するキャビティ空間を内部に有した成形金型を用いて製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防振対象物とこれを支持する支持体との間に防振装置を介在させることで、防振対象物から支持体への振動の伝達、あるいは支持体から防振対象物への振動の伝達を抑制する技術はよく知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、防振対象物(振動体)としてのエンジンを、防振しつつ車体に取り付けるための防振装置が開示されている。具体的に、下記特許文献1の防振装置は、エンジンに取り付けられる取付部材と、車体に取り付けられる取付部材と、これら両取付部材の間を連結するように設けられた中空筒状の弾性体からなる支持弾性体とを有している。支持弾性体は、軸方向の途中部の径が大幅に絞られ、かつ両端側ほど径が拡大するように形成されている。このうち、径が絞られた部分(小径部)の内周部には、リング状の画成部材が一体に取り付けられている。また、支持弾性体の両端部には、その外周部を囲むような筒状部材が一体に取り付けられており、この筒状部材と上記取付部材とがカシメ結合されることにより、上記支持弾性体の両端部に取付部材が固定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2773796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示されるような形状の防振装置を製造するには、まず成形金型を用いて支持弾性体を成形する。具体的には、上記筒状部材と画成部材とを成形金型の内部に予め配置した状態で、その成形金型内に支持弾性体の材料を射出する。またこのとき、支持弾性体を中空形状に成形するために、その中空部分に対応する形状の中子型を金型内に挿入しておく。これにより、支持弾性体が中空状に成形されるとともに、この支持弾性体に対し上記筒状部材および画成部材が一体化される。その後は、上記支持弾性体の両端部の筒状部材に、別途用意した取付部材をカシメ結合する等の工程を経ることで、防振装置が完成する。なお、この方法では、上記支持弾性体を射出成形した後にその両端部に取付部材をカシメ結合するため、成形時に用いた中子型は、金型を開放するときに支持弾性体の両端から抜き出すことが可能である。
【0006】
ここで、上記の方法では、エンジンまたは車体への取付部材を、カシメ結合により支持弾性体の端部(筒状部材)に結合しているが、部品点数や製造工数を削減する観点からは、上記金型内での支持弾性体の成形と同時に、その端部に取付部材を一体に取り付けることが望ましい。しかしながら、このようにすると、支持弾性体の端部が取付部材により閉塞され、支持弾性体の内部の中子型を抜き出すことが不可能になってしまう。すなわち、支持弾性体は、その軸方向の途中部に径が絞られた小径部を有するため、上記のように支持弾性体の端部を取付部材により閉塞してしまうと、中子型の抜き出しが不可能なアンダーカット形状となってしまい、通常の方法では支持弾性体を成形することが不可能になる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、アンダーカット形状を有する防振装置であっても比較的簡単に、かつ精度よく成形することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、防振対象物とこれを支持する支持体との間に設けられる中空筒状の弾性体からなる本体部と、本体部の一端部に当該部の開口を覆うような状態で一体に結合されかつ上記防振対象物および支持体の一方に固定される支持具とを備えた防振装置を、上記本体部の形状に対応するキャビティ空間を内部に有した成形金型を用いて製造し、かつその過程で、上記本体部として、所定内径を有する小径部と、この小径部と上記支持具との間に設けられ、上記小径部よりも大きい内径を少なくとも一部に有する大径部とを含んだものを成形する方法であって、上記成形金型の内部に、そのキャビティ空間の一端面を覆うような状態で上記支持具を配置する第1の工程と、上記キャビティ空間における上記本体部の大径部の内部に相当する領域に、当該大径部の内周面に沿うような凹形状を有しかつその底部に開口部を有する弾性体からなる第1弾性中子型と、上記第1弾性中子型の内周面に沿うような凹形状を有する弾性体からなる第2弾性中子型とを重ねて配置する第2の工程と、上記第1および第2の工程の後、上記キャビティ空間に上記本体部の材料を射出することにより、上記第1、第2弾性中子型を取り囲むような形状に上記本体部を成形するとともに、この本体部の一端部を上記支持具に一体に結合させる第3の工程と、上記第3の工程の後、上記支持具と第2弾性中子型の間にエアを吹き込むことにより、上記本体部の小径部に囲まれた空間を通じて上記第1弾性中子型および第2弾性中子型の両方を上記本体部の外部に脱出させる第4の工程とを含むことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
なお、上記において「防振対象物」とは、自身が振動するものであってその振動を周囲に伝えないようにする必要があるもの、あるいは、自身は振動しないが、周囲に振動源があるためにその振動から保護する必要があるもの、の両方を含む概念である。
【0010】
本発明では、防振装置の本体部として、内径の小さい小径部と、小径部と支持具との間に形成された内径の大きい大径部とを有するものを成形金型内で成形した後、上記大径部の内部に存在する第1弾性中子型および第2弾性中子型を、エアの力を利用して上記本体部の外部に脱出させるようにしたため、通常の方法では中子型の抜き出しが不可能ないわゆるアンダーカット形状を有する防振装置であっても、比較的簡単に、かつ精度よく成形できるという利点がある。
【0011】
すなわち、本発明の製造対象である防振装置では、本体部の一端部にその開口を覆うように支持具が一体に結合され、しかも、この支持具と小径部との間に、相対的に内径の大きい大径部が形成されるため(アンダーカット形状)、予め大径部の内部に、例えば剛体からなる中子型を配置してしまったのでは、この中子型を抜くことが物理的に不可能となってしまう。そこで、本発明では、成形金型内のキャビティ空間のうち、上記大径部の内部に相当する領域に、弾性体からなる第1弾性中子型および第2弾性中子型を重ねて配置するとともに、その状態で上記キャビティ空間に本体部の材料を射出し、その後は、上記第1、第2弾性中子型を本体部の外部に脱出させるべく、上記支持具と第2弾性中子型との間にエアを吹き込むようにした。
【0012】
上記のように、支持具と第2弾性中子型との間にエアが吹き込まれると、第2弾性中子型の底部が第1弾性中子型の開口部に入り込むように湾曲するとともに、これに伴い第1弾性中子型も同様に湾曲するため、これら第1、第2弾性中子型が、その外径を縮めるように変形し、上記小径部に囲まれた空間を通じて本体部の外部に押し出される。このように、本発明では、大径部の内部に存在する第1、第2弾性中子型を、大径部よりも内径の小さい小径部を通じて問題なく外部に脱出させることができ、通常は成形が困難なアンダーカット形状を有する防振装置であっても、これを容易に成形することができる。
【0013】
しかも、弾性体からなる第1、第2弾性中子型を使用しながらも、これら2つの中子型を重ねて大径部の内部に配置することにより、上記本体部の成形時に、射出された材料の圧力により上記第1、第2弾性中子型が変形するのを防止することができる。このため、上記弾性中子型の変形に伴い大径部の型崩れ等が起きるのを防止でき、本体部の寸法精度を効果的に高めることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、上記防振装置は、上記支持具とは反対側にあたる上記本体部の他端部に当該部の開口を覆うことなく一体に結合される他方側支持具をさらに備え、かつ上記成形金型は、内部に空洞を有する外型と、この外型の空洞内に配置される中子型とを含み、かつ上記外型の内周面と上記中子型の外周面との間に形成される空間を上記キャビティ空間として有する。この場合、上記第1弾性中子型として、上記本体部の大径部の内周面に沿うような凹形状を有しかつその底部に上記中子型の先端部を囲むような開口部を有するものを用い、上記第1の工程では、上記成形金型内のキャビティ空間の一端面を覆うように上記支持具を配置するとともに、上記支持具から軸方向に離間した位置であって上記本体部の小径部の内部に相当する領域に上記中子型の先端部がくるように、上記中子型を上記外型の内部に配置し、さらに上記中子型の基端部を取り囲みかつ上記キャビティ空間の他端面を覆うように上記他方側支持具を配置し、上記第2の工程では、上記中子型の先端部と上記支持具との間の領域であって上記大径部の内部に相当する領域に上記第1弾性中子型を配置して、この第1弾性中子型の開口部に上記中子型の先端部を挿入するとともに、上記第1弾性中子型の内側に上記第2弾性中子型を配置し、上記第3の工程では、上記キャビティ空間に上記本体部の材料を射出することにより、上記中子型および第1、第2弾性中子型を取り囲むような形状に上記本体部を成形するとともに、この本体部の一端部および他端部を上記支持具および他端側支持具にそれぞれ結合させ、上記第4の工程では、上記本体部の内部から上記中子型を抜き出し、その状態で上記支持具と第2弾性中子型の間にエアを吹き込むことにより、上記第1中子型および第2中子型の両方を上記本体部の外部に脱出させることが好ましい(請求項2)。
【0015】
この方法によれば、中子型および第1、第2弾性中子型を利用して本体部を精度よく成形できるとともに、その後、上記中子型を本体部から抜き出して、かつ第2弾性中子型と支持具との間にエアを導入することにより、上記小径部に囲まれた空間を通じて上記第1、第2弾性中子型を確実に本体部の外部に脱出させることができる。
【0016】
上記方法による場合、より好ましくは、上記第1の工程では、上記本体部の材質よりも剛性の高いリング状の補強部材を上記中子型の先端部の周面に装着しておき、その状態で上記第2および第3の工程を行うことにより、上記小径部の内周部に上記補強部材を一体に取り付ける(請求項3)。
【0017】
このように、内径の小さい小径部の内周部に補強部材を一体に取り付けた場合には、防振装置に比較的大きな振動荷重が作用した場合でも、上記補強部材の設置部が変形しないように拘束されるため、より大きな振動荷重にも耐えることのできる防振装置を構築することができる。
【0018】
上記方法による場合、より好ましくは、上記補強部材における上記支持具側の端部に、その内周側の角部を斜めにカットしたような形状を有する傾斜面を形成する(請求項4)。
【0019】
このようにすれば、上記第1、第2弾性中子型を上記小径部に囲まれた空間(補強部材の内部)を通じて外部に脱出させる際に、補強部材の上端部に形成された傾斜面に沿って第1弾性中子型の底部を移動させることにより、上記補強部材を通過させるのに必要な第1、第2弾性中子型の湾曲変形を促進することができ、これら両弾性中子型をより確実に本体部の外部に脱出させることができる。
【0020】
上記方法において、好ましくは、上記本体部は、上記小径部および大径部以外に、上記小径部から上記他方側支持具に向かって徐々に内径が拡大する他方側大径部をさらに有し、かつ上記大径部は、上記小径部から上記支持具に向かって徐々に内径が拡大するように形成される。この場合、上記第1の工程では、上記中子型として、上記本体部の他方側大径部および小径部の各内部形状に対応するものを上記外型内に配置し、上記第2の工程では、上記キャビティ空間における上記大径部の内部に相当する領域に上記第1、第2弾性中子型を配置し、これら第1および第2の工程の後、上記第3の工程を実施することにより、上記大径部、小径部、および他方側大径部を有する上記本体部を成形するとともに、その一端部および他端部を上記支持具および他方側支持具にそれぞれ結合させることが好ましい(請求項5)。
【0021】
このようにすれば、大径部、小径部、および他方側大径部を有する比較的複雑な形状の本体部を容易かつ適正に成形できるとともに、防振装置の性能をより効果的に高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、アンダーカット形状を有する防振装置であっても比較的簡単に、かつ精度よく成形することのできる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態にかかる防振装置の縦断面図である。
【図2】上記防振装置の平面図である。
【図3】上記防振装置の荷重−変位特性を示すグラフである。
【図4】上記防振装置の変形モードを模式的に示す図である。
【図5】上記防振装置の本体部の形状をストレート状に変更した場合に得られる変形モードを比較例として示す図である。
【図6】上記防振装置の補強部材を省略した場合に得られる変形モードを比較例として示す図である。
【図7】上記実施形態の防振装置を製造する際に使用される成形金型の概略構成を示す図である。
【図8】上記成形金型の外型に上側プレートおよび下側プレートをセットする様子を説明するための図である。
【図9】上記成形金型の中子型の上部に第1弾性中子型および第2弾性中子型をセットする様子を説明するための図である。
【図10】上記成形金型の型締めが完了した状態を説明するための図である。
【図11】上記防振装置の本体部の材料を金型内に射出した状態を説明するための図である。
【図12】上記中子型を抜き出した状態を説明するための図である。
【図13】上記上側プレートと第2弾性中子型との間にエアを導入する様子を説明するための図である。
【図14】上記導入されたエアにより第2弾性中子型が変形する様子を説明するための図である。
【図15】上記第1弾性中子型および第2弾性中子型が本体部の外部に押し出される様子を説明するための図である。
【図16】本発明の変形例を説明するための図である。
【図17】本発明の別の変形例を説明するための図である。
【図18】上記上側プレートを本体部の一端部にカシメ結合した場合の構成を比較例として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(1)防振装置の構成
図1および図2は、本発明の一実施形態にかかる防振装置1の全体構成を示している。本図に示される防振装置1は、防振対象物Xとこれを支持する支持体Yとの間に取り付けられるものである。ここで、防振対象物Xとは、自身が振動するものであってもよいし、自身は振動しないが周囲の振動から保護する必要のあるものであってもよい。すなわち、前者の場合には、防振対象物Xから支持体Yに振動が伝達されるのを抑制するために防振装置1が使用され、後者の場合には、支持体Yの振動が防振対象物Xに伝達されるのを抑制するために防振装置1が使用される。なお、前者の具体例としては、防振対象物Xがエンジンで、支持体Yが自動車等の車体である場合が挙げられ、後者の具体例としては、防振対象物Xが精密機器(例えば電気制御用のコントロールボックスなど)で、支持体Yが車体である場合が挙げられる。
【0025】
上記防振装置1は、防振対象物Xに取り付けられる上側プレート2(本発明にかかる支持具に相当)と、支持体Yに取り付けられる下側プレート3(本発明にかかる他方側支持具に相当)と、これら両プレート2,3の間に設けられる本体部4とを備えている。
【0026】
上記本体部4は、軸方向(図1では上下方向)に貫通する中空部を内部に有する筒状の部材であり、その材質はゴム等の弾性体とされる。より具体的に、本体部4は、その軸方向(図1では上下方向)の中間部に形成された内径の小さい小径部5と、小径部5から上記上側プレート2に向かって徐々に内径が拡大する第1大径部6(本発明にかかる大径部に相当)と、小径部5から上記下側プレート3に向かって徐々に内径が拡大する第2大径部7(本発明にかかる他方側大径部に相当)とを有している。
【0027】
すなわち、上記本体部4の内径は、その軸方向の中間部の所定範囲が最も小さく設定されており、その部分が上記小径部5とされる。また、この小径部5から本体部4の上端部(上側プレート2)までの範囲にあたる上記第1大径部6では、その内径が上方に至るほど徐々に大きくなるように設定されており、小径部5から本体部4の下端部(下側プレート3)までの範囲にあたる上記第2大径部7では、その内径が下方に至るほど徐々に大きくなるように設定されている。なお、図示の例では、このように軸方向に沿って変化する内径と同様に、本体部4の外径についても変化しており、これによって本体部4の肉厚が略一定に維持されているが、本体部4の外径は必ずしも内径と同様に変化する必要はなく、例えば軸方向にわたって略同一の値に設定されていてもよい。
【0028】
上記上側プレート2は、金属製のプレート材からなり、その下面が上記本体部4の上端部(第1大径部6の端部)と一体に結合されている。上側プレート2は、平面視で略円形に形成されており、その直径は、上記本体部4の上端部の外径よりも若干大きい値に設定されている。また、上側プレート2の中心部には1つの締結部材10が取り付けられており、この締結部材10を介して上記上側プレート2が防振対象物Xに固定されるようになっている。
【0029】
上記上側プレート2には、厚み方向に貫通する比較的小径の2つの小孔11が設けられている。この小孔11は、防振対象物Xと上側プレート2との隙間に侵入した水分を抜くための水抜き孔として機能するものである。なお、上側プレート2の中心部には、上記締結部材10を固定するための孔も設けられるが、この孔は締結部材10によって塞がれる。このため、上記上側プレート2は、その2つの小孔11を除いて、上記本体部4の上端部の開口を略全面にわたって覆うように設けられている。
【0030】
上記下側プレート3は、一方向に長尺な楕円に近い外形を有する金属製のプレート材からなり、その上面が上記本体部4の下端部(第2大径部7の端部)と一体に結合されている。下側プレート3には、上記本体部4の下端部の開口と略同じ内径を有する開口部13が設けられている。すなわち、下側プレート3は、その開口部13の周縁部が上記本体部4の下端部と結合されており、上記本体部4の下端部の開口を覆わないように設けられている。
【0031】
また、上記下側プレート3の長径方向の両端付近には2つの締結孔14が設けられており、この締結孔14に装着されるボルト等の締結部材を介して、上記下側プレート3が支持体Yに固定されるようになっている。
【0032】
上記本体部4の小径部5には、リング状の補強部材8が取り付けられている。具体的には、上記小径部5の内周面に上記補強部材8が一体に結合されることにより、上記小径部5の内部に補強部材8が抱え込まれるような状態で固定されている。
【0033】
上記補強部材8の上端部(上側プレート2側の端部)には、その内周側の角部を斜めにカットしたような形状を有する傾斜面8aが形成されている。すなわち、この傾斜面8aは、補強部材8の内周側に至るほど高さが低くなる傾斜面によって形成されている。なお、図例の傾斜面8aは、平坦な傾斜面によって形成されているが、R状に湾曲した傾斜面であってもよい。
【0034】
次に、以上のような構成を有する本実施形態の防振装置1の作用について説明する。図3は、防振装置1に加わる軸方向の荷重(図4(b)に示す上下方向の荷重F)と、その荷重Fに基づく軸方向の変位δとの関係を示すグラフである。なお、図3では、荷重−変位線図と合わせて、その線図上の代表的なポイントP1〜P5における防振装置1の変形モードを模式的に図示している(図では主に本体部4の断面左半分のみの変形を示す)。
【0035】
図3に示すように、本実施形態の防振装置1では、軸方向に荷重Fが加わり始めると、ポイントP1やポイントP2に示すように、まず本体部4が軸方向に徐々に圧縮されるように変形する。具体的には、本体部4の第1大径部6および第2大径部7が、その曲率半径を徐々に減少させるように屈曲変形し、これによって本体部4の軸方向長さが減少していく(変位δが増大する)。このように、変形の初期(ポイントP1〜P3の区間)においては、荷重Fの増大に伴い変位δが比較的一定の割合で増大するような変形モードで防振装置1が変形する。
【0036】
上記のような状態からさらに荷重Fが増大すると、ポイントP3に示すように、第1大径部6および第2大径部7がかなり大きく折れ曲がり、上記第1大径部6の外周面と上記第2大径部7の外周面との隙間(図示の寸法S)がほとんど存在しなくなる。このように第1、第2大径部6,7が大きく折れ曲がると、それ以降は、いわば座屈変形に近いような変形が起こるため、荷重Fがあまり変化せずとも変位δのみが増大するような変形モードに変位し、グラフの傾きが横ばいに近くなる(ポイントP3〜P4の区間)。
【0037】
さらに、上記のような変形が進行すると、ポイントP4に示すように、上記第1大径部6の外周面と上記第2大径部7の外周面との隙間(図示の寸法S)が完全になくなり、上記第1、第2大径部6,7どうしが軸方向に当接する。そこからさらに荷重Fが増大すると、第1、第2大径部6,7はさらに潰されていく(90°以上の角度で屈曲する)が、最も内径の小さい小径部5の内周部に補強部材8が設けられているため、この部分が変形しないように拘束されることにより、第1、第2大径部6,7の圧潰も阻害される。これにより、上記ポイントP4以降の区間(P4〜P5の区間)においては、荷重Fが増大しても変位δがあまり変化しないような変形モードとなり、グラフの傾きが急上昇することになる。
【0038】
上記のような荷重−変位線図のように変形する本実施形態の防振装置1によれば、防振装置1に加わる振動を安定的かつ効果的に減衰させることができるという利点がある。
【0039】
すなわち、上記防振装置1では、中空筒状の弾性体からなる本体部4の軸方向の中間部に、他の部分(第1、第2大径部6,7)よりも内径の小さい小径部5が設けられているため、防振装置1に作用する振動荷重(軸方向の荷重F)に応じて本体部4が常に同じような変形モードで変形し、振動減衰性能が安定的に発揮されることになる。
【0040】
例えば、本実施形態の防振装置1とは異なる態様として、図5(a)の防振装置1’に模式的に示すように、その本体部4’を軸方向にほぼストレートに延びる円筒形に形成した場合には、図5(b),(c)に示すように、軸方向に振動荷重が作用したときの本体部4’の変形モードがその都度異なってしまい、安定した振動減衰性能が得られなくなるおそれがある。
【0041】
これに対し、上記防振装置1のように、本体部4の軸方向の中間部(小径部5)の内径を相対的に小さく設定した場合には、図4(a)(b)に模式的に示すように、本体部4が、その第1、第2大径部6,7を上下方向に圧縮させるような変形モードで常に変形するため、安定した振動減衰性能が得られるようになる。
【0042】
また、本実施形態では、上記小径部5の内周部に剛性の高い補強部材8が一体に取り付けられているため、上記第1、第2大径部6,7の各外周面どうしが当接するような状態になるまで本体部4が変形した後は、それ以上の変形が上記補強部材8の存在により阻害され(図3のポイントP4〜P5の区間)、より大きな振動荷重にも耐えることができるようになる。
【0043】
例えば、本実施形態の防振装置1から上記補強部材8を取り除いたと仮定すると、図6の防振装置1”に示すように、振動荷重Fがある程度大きくなった時点で、本体部4”が完全に潰れるように変形し、図3の一点鎖線Lxのように、荷重とは関係なく変位δのみが増大するような変形が生じてしまう。
【0044】
これに対し、上記防振装置1のように、上記小径部5の内周部に補強部材8を取り付けて本体部4を補強するようにした場合には、上記のような事態を確実に回避でき、防振装置1の耐荷重性を効果的に高めることができる。このため、比較的大きな振動荷重(大振幅の振動)が入力された場合であっても、本体部4が変形しつつ荷重を吸収するため、大きな振動に対する減衰性能を効果的に高めることができる。
【0045】
(2)防振装置の製造方法
次に、以上のような防振装置1を製造するのに好適な製造方法について説明する。図7は、防振装置1を製造する際に使用される成形金型20の概略構成を示している。この成形金型20は、上下方向に分割可能な3つの分割型22,23,24からなる外型21と、この外型21の内部に挿入される中子型30とを備える。なお、以下では、上記分割型22,23,24を、上から順に、上分割型22、中分割型23、下分割型24と称する。
【0046】
上記外型21は、その内部に、上記防振装置1の本体部4(図1)の外形に対応する空洞を有している。外型21の空洞内には上記中子型30が配置されており、これら外型21の内周面と中子型30の外周面との間に、上記防振装置1の本体部4の形状に対応するキャビティ空間26が形成されている。
【0047】
上記外型21の上分割型22は、その下面部に、上記防振装置1の上側プレート2(図1)を配置するための凹部42を有している。この凹部42には図外の磁石が埋設されており、上側プレート2を上記凹部42に下から装着した状態でも、この上側プレート2を固定してその脱落を防止できるようになっている。
【0048】
上記外型21の下分割型24は、その上面部に、上記防振装置1の下側プレート3を配置するための凹部43を有している。この凹部43は、上記中子型30の基端部を囲むように形成されている。
【0049】
上記上分割型22における凹部42の上側には、上記上側プレート2の締結部材10が挿入される孔45が設けられているとともに、周方向に連続するリング状の凹溝40が設けられている。このうち、凹溝40には、エア導入路41の一端部が接続されている。すなわち、エア導入路41は、その一端部が上記凹溝40に連通し、かつ他端部が上記上分割型22の側面に開口するように形成されている。
【0050】
上記エア導入路41の他端部(上分割型22の側面に開口する端部)には、図外のエア吹出口が接続されており、その吹出口から吹き出されたエアが上記エア導入路41を通じて上記凹溝40に導入されるようになっている。なお、この凹溝40に導入されたエアは、上記防振装置1の本体部4の成形後に、後述する第1、第2弾性中子型35,36を本体部4から脱出させるために利用される(詳細は後述する)。
【0051】
また、上記外型21は、その上分割型22および中分割型23を貫通するように延びる2つの流入路25を内部に有している。各流入路25は、一端部が上記キャビティ空間26に連通し、かつ他端部が上記上分割型22の上面に開口するように形成されている。
【0052】
上記各流入路25の他端部(上分割型22の上面に開口する端部)には、上記本体部4の材料(ここではゴム)を射出するための図外の射出口がそれぞれ接続されており、その射出口から射出されたゴム材料が上記流入路25を通じてキャビティ空間26に充填されるようになっている。
【0053】
上記中子型30は、外型21の下分割型24に対し上方に突出するように設けられている。そして、外型21(分割型22,23,24)が型締めされた状態において、上記中子型30は、その先端部31が上記上側プレート2よりも所定距離下方に位置する(軸方向に離間する)ような状態で上記外型21の内部に配置される。このとき、中子型30は、図1に示した防振装置1の本体部4のうち、第1大径部6を除いた部分(小径部5および第2大径部7)に対応する位置に配置されることになる。つまり、中子型30は、本体部4の小径部5および第2大径部7の内部空間と同じ形状を有しており、これら小径部5および第2大径部7の内部に相当する領域を占有するように配置される。そして、本体部4の成形時には、上記中子型30の外周面と外型21の内周面との間に、上記小径部5および第2大径部7が成形されるようになっている。
【0054】
また、図7において想像線で示すように(または図9、図10等に示すように)、上記中子型30の先端部31と上側プレート2との間には、弾性体からなる第1弾性中子型35および第2弾性中子型36が配置される。
【0055】
上記第1弾性中子型35は、上記本体部4の第1大径部6に対応して設けられている。すなわち、第1弾性中子型35は、上記第1大径部6の内周面に沿うような凹形状を有しており、本体部4の成形時には、上記第1弾性中子型35の外周面と外型21の内周面との間に、上記第1大径部6が成形されるようになっている。
【0056】
より具体的に、上記第1弾性中子型35は、図9または図13等に示すように、底部47と、この底部47の周縁部から上方に向けてやや拡がりながら突出する周壁部48とを有しており、このうちの周壁部48の外周面が、上記第1大径部6の内周面に沿うような形状に設定されている。
【0057】
上記第1弾性中子型35の底部47には開口部50が設けられており、上記キャビティ空間26における第1大径部6の内部に相当する領域に上記第1弾性中子型35が配置された状態で、この第1弾性中子型35の開口部50に上記中子型30の先端部31が挿入されるようになっている。なお、図7において想像線で示すように(または図9、図10等に示すように)、本体部4の成形時には、上記中子型30の先端部31の周面に上記補強部材8が装着されるとともに、上記第1弾性中子型35は、この補強部材8の上端部の上に載置される。
【0058】
上記第2弾性中子型36は、上記第1弾性中子型35の内周面に沿うような凹形状に形成されている。すなわち、第2弾性中子型36は、図9または図13等に示すように、上記第1弾性中子型35の底部47の上に載置される底部51と、この底部51の周縁部から上方に向けて突出する周壁部52とを有しており、このうちの周壁部52の外周面が、上記第1弾性中子型35の周壁部48の内周面に沿うような形状に設定されている。なお、第2弾性中子型36の底部51には、上記第1弾性中子型35の場合と異なり、開口部は設けられていない。
【0059】
ここで、上記第1弾性中子型35および第2弾性中子型36の材質としては、耐熱性を有するゴム、中でもシリコンゴムが好適である。特に、上記両弾性中子型35,36は、本体部4の成形時に、キャビティ空間26に射出された材料から圧力を受けるため、その圧力に抗して形状を保持する程度の剛性が必要である。ただし、詳しくは後述するが、上記両弾性中子型35,36は、上記本体部4を成形した後、上記エア導入路41から導入されるエアの圧力を受けたときには、上記本体部の小径部5に囲まれた空間(補強部材8の内部)を通じて脱出できるように変形する必要があるため、あまり剛性が高過ぎてもいけない。このような観点から、上記両弾性中子型35,36のゴム硬度は、Hs40〜60程度の範囲に設定されることが好ましい。
【0060】
以上のような成形金型20を用いての防振装置1の製造は、次のような手順を経て行われる。
【0061】
まず、図8に示すように、成形金型20の外型21に、上側プレート2および下側プレート3をそれぞれセットする。すなわち、下分割型24から突設された中子型30が下側プレート3の開口部13に挿入されるように位置合わせしつつ、下側プレート3を上記下分割型24の凹部43に配置する。また、上側プレート2に突設された締結部材10が上記上分割型22の孔45に挿入されるように位置合わせしつつ、上側プレート2を上記上分割型22の凹部42に配置する。なお、上側プレート2が凹部42に配置されると、この凹部42に埋設されている図外の磁石により、上側プレート2が脱落しないように固定される。
【0062】
また、上記のように上側プレート2をセットしたとき、上側プレート2の水抜き用の小孔11が、上分割型22の下面部に設けられたエア導入用の凹溝40と連通するようになる。つまり、凹溝40は、上側プレート2の小孔11に対応する周方向位置に設けられている。
【0063】
次に、図9に示すように、上記中子型30の先端部31に補強部材8を装着する。すなわち、リング状の補強部材8に上記中子型30の先端部31を挿入することにより、当該先端部31の周面を囲むように補強部材8を装着する。
【0064】
上記補強部材8の装着が終わると、続けて、上記中子型30の先端部31の上部に、第1弾性中子型35および第2弾性中子型36を重ねて配置する。すなわち、第1弾性中子型35の底部47の開口部50に上記中子型30の先端部31を挿入するとともに、上記補強部材8の先端部に上記開口部50の周縁部を載置することにより、上記第1弾性中子型35を先端部31の上にセットする。そして、この第1弾性中子型35の凹形状の中に上記第2弾性中子型36を収めるようにして、第2弾性中子型36を第1弾性中子型35の内側にセットする。
【0065】
上記のようにして補強部材8や第1、第2弾性中子型35,36等をセットした後は、成形金型20の各分割型22,23,24を型締めする。これにより、図10に示すように、防振装置1の本体部4(図1)の形状に対応したキャビティ空間26が、成形金型20の内部に形成される。
【0066】
上記中子型30のうち、補強部材8が周面に装着された先端部31は、上記本体部4の小径部5に対応して、上記キャビティ空間26における軸方向の中間部に配置される。また、上記先端部31のすぐ下側の膨出部分(先端部31よりも径方向に膨出した部分)は、上記本体部4の第2大径部7に対応して、キャビティ空間26における下端寄りの領域に配置される。すなわち、中子型30は、本体部4の小径部5および第2大径部7の内部空間をそれぞれ占有するような領域(小径部5および第2大径部7の内部に相当する領域)に配置される。
【0067】
また、上記型締めに伴って、上分割型22にセットされていた上記上側プレート2が、上記キャビティ空間26の上端面(一端面)を覆うように配置される。一方、下分割型24にセットされていた下側プレート3については、中子型30の基端部を取り囲みかつ上記キャビティ空間26の下端面(他端面)を覆うように配置される。
【0068】
上記中子型30の上にセットされていた第1、第2弾性中子型35,36は、上記キャビティ空間26のうち中子型30の先端部31と上側プレート2とに挟まれる領域、つまり、上記本体部4の第1大径部6(図1)の内部に相当する領域に配置される。このとき、第1、第2弾性中子型35,36は、その上面部の境界(第1弾性中子型35の周壁部48と第2弾性中子型36の周壁部52との境界)が、上側プレート2に設けられた水抜き用の小孔11の周方向位置と一致するように配置される。
【0069】
上記のようにして型締めが終了すると、次に、図11に示すように、高温のゴム材料(本体部4の材料)をキャビティ空間26に射出することにより、防振装置1の本体部4を成形する。すなわち、外型21に設けられた流入路25を通じてゴム材料を射出し、その材料を上記キャビティ空間26に充填することにより、上記中子型30および第1、第2弾性中子型35,36を取り囲むような中空筒状のゴム成形品を、図1等に示した本体部4(第1大径部6、小径部5、および第2大径部7)として成形する。
【0070】
また、上記本体部4の成形に伴い、この本体部4の上端部(第1大径部6の端部)が上側プレート2に加硫接着されるとともに、本体部4の下端部(第2大径部7の端部)が下側プレート3に加硫接着される。すなわち、上記ゴム材料の射出後、所定時間が経過して本体部4が硬化した状態において、本体部4の上端部に上側プレート2が一体に結合されるとともに、本体部4の下端部に下側プレート3が一体に結合される。
【0071】
さらに、上記本体部4の成形に伴い、上記中子型30の先端部31に装着されていた補強部材8に、本体部4の小径部5の内周面が加硫接着され、小径部5と補強部材8とが一体に結合される。
【0072】
上記のようにして本体部4の成形が終了すると、次に、図12に示すように、外型21の下分割型24を中分割型23に対し下方に離間させることにより、中子型30を上記本体部4の内部から抜き出す。
【0073】
そして、図13に示すように、上分割型22に設けられたエア導入路41および凹溝40を通じて高圧の圧縮エアを上側プレート2と第2弾性中子型36との間に導入することにより、第1弾性中子型35および第2弾性中子型36を本体部4の外部に脱出させる(図14、図15参照)。
【0074】
ここで、上記第1、第2弾性中子型35,36がどのようにして本体部4から脱出するかについて詳しく説明する。上記のようにエア導入路41および凹溝40に導入されたエアは、上記凹溝40に連通するように設けられた上側プレート2の小孔11や、第2弾性中子型36の上端面と上記上側プレート2との隙間等を通じて、第2弾性中子型36の底部51と上側プレート2との間に形成された空間S(より具体的には、上側プレート2に取り付けられた締結部材10の頭部10aと、第2弾性中子型36の底部51および周壁部52の各内周面との隙間に形成された空間)に導入される。
【0075】
すると、上記空間Sに導入されたエアの圧力により、図14の2点鎖線に示すように、第2弾性中子型36の底部51が、第1弾性中子型35の底部47に設けられた開口部50の入り込むように湾曲する。これにより、第2弾性中子型36の断面形状は、全体として、底の浅いU字のような形状から、底の深いV字のような形状へと変化する。なお、このような変形は、上記上側プレート2の小孔11を通じて、その真下に位置する第1弾性中子型35の周壁部48と第2弾性中子型36の周壁部52との隙間に導入されるエアの圧力によっても促進されるものと考えられる。
【0076】
上記のような第2弾性中子型36の変形に伴い、その下側の第1弾性中子型35では、図14の矢印Zに示すように、その底部47(開口部50の周縁部)に下向きの力が作用するため、上記第1弾性中子型35は、上述した第2弾性中子型36の場合と同様に下向きに湾曲し、第2弾性中子型36の外周面(図14の2点鎖線)に沿うような形状に変化しようとする。このとき、第1弾性中子型35の底部47が載置されている補強部材8の上端部に、その内周側の角部をカットしたような傾斜面8aが形成されているため、この傾斜面8aに沿って上記第1弾性中子型35の底部47が下方かつ補強部材8の中心側へと滑り落ちるように変形することで、上記第1弾性中子型35の下方への湾曲変形がより促進されるようになっている。
【0077】
以上のように、第1弾性中子型35および第2弾性中子型36がともに下向きに湾曲することで、これら両弾性中子型35,36は、図15に示すように、上記補強部材8の内部を通じて下方へと押し出され、遂には本体部4の外部へと脱出する。すなわち、上記第1、第2弾性中子型35,36は、下方に大きく湾曲してその外径を縮めることにより、上記本体部4の第1大径部6よりも内径の小さい小径部5(その内周部に設けられた補強部材8)にも収まり得る状態になり、その小径部5に囲まれた空間(補強部材8の内部)を通じて、本体部4の外部へと脱出する。
【0078】
上記のようにして第1、第2弾性中子型35,36を本体部4の外部に押し出した後は、最後に、外型21の中分割型23をさらに左右に分割する等により、本体部4を含む防振装置1を成形金型20から完全に分離させ、これによって防振装置1の製造が完了する。
【0079】
以上説明したように、当実施形態では、防振装置1の本体部4として、内径の小さい小径部5と、小径部5と上側プレート2(支持具)との間に形成された内径の大きい第1大径部6(大径部)と、小径部5と下側プレート3(他方側支持具)との間に形成された内径の大きい第2大径部7(他方側大径部)とを有するものを成形金型20内で成形した後、上記第1大径部6の内部に存在する第1弾性中子型35および第2弾性中子型36を、エアの力を利用して上記本体部4の外部に脱出させるようにしたため、通常の方法では中子型の抜き出しが不可能ないわゆるアンダーカット形状を有する防振装置1であっても、比較的簡単に、かつ精度よく成形できるという利点がある。
【0080】
すなわち、上記実施形態の防振装置1では、本体部4の上端部にその開口を覆うように上側プレート2が一体に結合され、しかも、この上側プレート2と、本体部4の軸方向中間部の小径部5との間に、相対的に内径の大きい第1大径部6が形成されるため(アンダーカット形状)、予め第1大径部6の内部に、例えば剛体からなる中子型を配置してしまったのでは、この中子型を抜くことが物理的に不可能となってしまう。そこで、上記実施形態では、成形金型20内のキャビティ空間26のうち、上記第1大径部6の内部に相当する領域に、この第1大径部6の内周面に沿うような凹形状を有しかつその底部47に開口部50を有する弾性体からなる第1弾性中子型35と、第1弾性中子型35の内周面に沿うような凹形状を有する弾性体からなる第2弾性中子型36とを重ねて配置するとともに、その状態で上記キャビティ空間26に上記本体部4の材料を射出し、その後は、上記第1、第2弾性中子型35,36を本体部4の外部に脱出させるべく、上記上側プレート2と第2弾性中子型36との間(空間S)にエアを吹き込むようにした。
【0081】
上記のように、上側プレート2と第2弾性中子型36との間にエアが吹き込まれると、第2弾性中子型36の底部51が第1弾性中子型35の開口部50に入り込むように下方に湾曲するとともに、これに伴い第1弾性中子型35も同様に湾曲するため(図14および図15参照)、これら第1、第2弾性中子型35,36が、その外径を縮めるように変形し、上記小径部5に囲まれた空間(補強部材8の内部)を通じて本体部4の外部に押し出される。このように、上記実施形態では、第1大径部6の内部に存在する第1、第2弾性中子型35,36を、第1大径部6よりも内径の小さい小径部5を通じて問題なく外部に脱出させることができ、通常は成形が困難なアンダーカット形状を有する防振装置1であっても、これを容易に成形することができる。
【0082】
しかも、弾性体からなる第1、第2弾性中子型35,36を使用しながらも、これら2つの中子型35,36を重ねて第1大径部6の内部に配置することにより、本体部4の成形時に、射出された材料の圧力により上記第1、第2弾性中子型35,36が変形してしまうのを防止することができる。このため、上記弾性中子型35,36の変形に伴い第1大径部6の型崩れ等が起きるのを防止でき、本体部4の寸法精度を効果的に高めることができる。
【0083】
なお、上記上側プレート2を、下側プレート3と同様に、本体部4の開口を覆わない形状、つまり、本体部4の上端部の開口と略同じ径の開口部を有する形状としておけば、その開口部を通じて第1、第2弾性中子型35,36を取り出せるため、上記のように内径の小さい小径部5を通じて両弾性中子型35,36を取り出す必要はなくなる。しかもこの場合、第1、第2弾性中子型35,36のような2分割された弾性体からなる中子型を第1大径部6の内部に配置する必要はなく、中子型30と同様、単一の剛体からなる中子型を第1大径部6に配置しておけば足りる。
【0084】
しかしながら、上側プレート2が固定される防振対象物Xの形状やその他の事情により、上側プレート2の外径をあまり大きく取れない場合があり、このような場合には、図1等に示したように、上側プレート2の中心部に設けた1本の締結部材10を介して、上側プレート2を防振対象物Xに締結することが合理的である。したがって、このようなケースでは、必然的に、上側プレート2に大きな開口部が存在しなくなり、上側プレート2によって本体部4の上端部の開口が覆われることになる。
【0085】
もちろん、例えば図18に示すように、本体部4の上端部に複数の金具70を一体に結合させ、その金具に対して、上記上側プレート2と同様のプレート材2’をカシメ結合等により固定すれば、上記第1大径部6の内部の中子型については、上記プレート材2’をカシメ結合する前に、本体部4の上端開口から抜き出すことが可能である。しかしながら、このようにした場合には、部品点数が増大するとともに、プレート材2’と金具70とを後工程でカシメ結合する必要が生じるという問題がある。
【0086】
これに対し、上記実施形態(図1等)に示したように、本体部4の上端部に、当該部の開口を覆うような状態で一体に上側プレート2を結合するようにした場合には、上記のような問題を生じることがなく、部品点数や工数の削減の点で有利となる。したがって、このような観点からも、図1等に示した構造の防振装置1を採用することが望ましく、上記実施形態の製造方法は、このような防振装置1を製造するのに非常に好適であるといえる。
【0087】
特に、上記実施形態では、小径部5の内周部に一体に取り付けられた補強部材8の上端部に、その内周側の角部を斜めにカットしたような形状を有する傾斜面8aを形成したため、上記第1、第2弾性中子型35,36を上記小径部4に囲まれた空間(補強部材8の内部)を通じて外部に脱出させる際に、上記傾斜面8aに沿って第1弾性中子型35の底部47を移動させることにより、上記補強部材8を通過させるのに必要な第1、第2弾性中子型35,36の湾曲変形を促進することができ、これら両弾性中子型35,36をより確実に本体部4の外部に脱出させることができる。
【0088】
また、上記実施形態では、本体部4の小径部5および第2大径部7の各内部形状に対応する中子型30を外型21の内部に挿入するとともに、この中子型30の先端部31と上側プレート2との間の領域に、第1弾性中子型35の開口部50に上記中子型30の先端部31が挿入されるような状態で第1弾性中子型35を配置し、かつその内側に第2弾性中子型36を配置した。そして、上記本体部4の成形後は、上記中子型30を本体部4の内部から抜き出し、その状態で上記第1、第2弾性中子型35,36を脱出させるためのエアの導入を行った。このような方法によれば、上記中子型30および第1、第2弾性中子型35,36を利用して本体部4を精度よく成形できるとともに、その後、上記中子型30を本体部4から抜き出して、かつ第2弾性中子型36と上側プレート2との間にエアを導入することにより、上記小径部5に囲まれた空間(補強部材8の内部)を通じて上記第1、第2弾性中子型35,36を確実に本体部4の外部に脱出させることができる。
【0089】
なお、上記実施形態では、図1に示したように、本体部4の上端部にその開口を覆うように一体に取り付けられる上側プレート2を、防振対象物Xに固定するようにしたが、上側プレート2を支持体Yに固定するようにしてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、本体部4の小径部5から上側プレート2または下側プレート3に向かって徐々に内径が拡大するような形状に第1大径部6および第2大径部7を形成したが、これら第1、第2大径部6,7を含む本体部4は、例えば図16に示すような形状であってもよい。この図16に示す例では、防振装置101の本体部104が、その軸方向中間部の小径部105と、この小径部105から上側プレート2に向けて一旦内径が拡大した後、再び内径が縮小するように形成された第1大径部106と、上記小径部105から下側プレート3に向けて一旦内径が拡大した後、再び内径が縮小するように形成された第2大径部107とを有している。すなわち、上記実施形態(図1等)における本体部4は、その軸方向中間部の小径部5から上下に離れるほど内径が大きくなるように形成されていたのに対し、図16に例示した本体部104は、その小径部105と上側プレート2との間、または小径部105と下側プレート3との間が、最も内径が大きくなるように形成されている。
【0091】
上記図16に示した防振装置101の場合でも、上記本体部104の第1大径部106が、小径部105よりも大きな内径を有するため(アンダーカット形状)、上記本体部104の成形時に、剛体からなる中子型を第1大径部106の内部に配置してしまうと、これを取り出すことが不可能になる。したがって、上記図16の例における防振装置101に対しても、上記実施形態で説明したような製造方法を採用することが好適である。すなわち、第1大径部106の内部に弾性体からなる2つの中子型(第1、第2弾性中子型35,36に相当するもの)を配置しておき、成形後にこれをエアの力で脱出されることにより、上記のような形状の本体部104を含む防振装置101を簡単かつ適正に成形することができる。なお、このような方法が好適な本体部4(104)の形状としては、第1大径部6(106)の少なくとも一部の内径が小径部5(105)よりも大きく設定されていればよく、部分的に小径部5(105)よりも小さい内径が存在していてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、図1等に示したように、小径部5の上下に第1大径部6および第2大径部7をそれぞれ形成したが、例えば図17に示すように第2大径部7を省略した場合でも、上記実施形態の製造方法を好適に適用することができる。すなわち、この図17に示す防振装置201は、小径部205と、これよりも大きい内径を有する大径部206とからなる本体部204を有している。そして、大径部206の上端部に上側プレート2が一体に結合されるとともに、小径部205の下端部に下側プレート3が一体に結合されている。
【0093】
上記図17の場合でも、大径部206に剛体からなる中子型を配置してしまうと、これを取り出すことが不可能になるため、上記実施形態と同様に、大径部206の内部に弾性体からなる中子型(第1、第2弾性中子型35,36に相当するもの)を配置し、エアの力を利用してこれらを本体部204から脱出させるという方法を採用ことが必要になる。また、図17の例では、下側プレート203に一体に補強部材208が設けられており、この補強部材208の周囲に小径部205が成形されるため、上記実施形態で示したような中子型30は必ずしも必要ではない。
【符号の説明】
【0094】
1 防振装置
2 上側プレート(支持具)
3 下側プレート(他方側支持具)
4 本体部
5 小径部
6 第1大径部(大径部)
7 第2大径部(他方側大径部)
8 補強部材
8a 傾斜面
20 成形金型
21 外型
26 キャビティ空間
30 中子型
31 (中子型)の先端部
35 第1弾性中子型
36 第2弾性中子型
50 (第1弾性中子型の)開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振対象物とこれを支持する支持体との間に設けられる中空筒状の弾性体からなる本体部と、本体部の一端部に当該部の開口を覆うような状態で一体に結合されかつ上記防振対象物および支持体の一方に固定される支持具とを備えた防振装置を、上記本体部の形状に対応するキャビティ空間を内部に有した成形金型を用いて製造し、かつその過程で、上記本体部として、所定内径を有する小径部と、この小径部と上記支持具との間に設けられ、上記小径部よりも大きい内径を少なくとも一部に有する大径部とを含んだものを成形する方法であって、
上記成形金型の内部に、そのキャビティ空間の一端面を覆うような状態で上記支持具を配置する第1の工程と、
上記キャビティ空間における上記本体部の大径部の内部に相当する領域に、当該大径部の内周面に沿うような凹形状を有しかつその底部に開口部を有する弾性体からなる第1弾性中子型と、上記第1弾性中子型の内周面に沿うような凹形状を有する弾性体からなる第2弾性中子型とを重ねて配置する第2の工程と、
上記第1および第2の工程の後、上記キャビティ空間に上記本体部の材料を射出することにより、上記第1、第2弾性中子型を取り囲むような形状に上記本体部を成形するとともに、この本体部の一端部を上記支持具に一体に結合させる第3の工程と、
上記第3の工程の後、上記支持具と第2弾性中子型の間にエアを吹き込むことにより、上記本体部の小径部に囲まれた空間を通じて上記第1弾性中子型および第2弾性中子型の両方を上記本体部の外部に脱出させる第4の工程とを含むことを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の防振装置の製造方法において、
上記防振装置は、上記支持具とは反対側にあたる上記本体部の他端部に当該部の開口を覆うことなく一体に結合される他方側支持具をさらに備え、
上記成形金型として、内部に空洞を有する外型と、この外型の空洞内に配置される中子型とを含み、かつ上記外型の内周面と上記中子型の外周面との間に形成される空間を上記キャビティ空間として有するものを用い、
上記第1弾性中子型として、上記本体部の大径部の内周面に沿うような凹形状を有しかつその底部に上記中子型の先端部を囲むような開口部を有するものを用い、
上記第1の工程では、上記成形金型内のキャビティ空間の一端面を覆うように上記支持具を配置するとともに、上記支持具から軸方向に離間した位置であって上記本体部の小径部の内部に相当する領域に上記中子型の先端部がくるように、上記中子型を上記外型の内部に配置し、さらに上記中子型の基端部を取り囲みかつ上記キャビティ空間の他端面を覆うように上記他方側支持具を配置し、
上記第2の工程では、上記中子型の先端部と上記支持具との間の領域であって上記大径部の内部に相当する領域に上記第1弾性中子型を配置して、この第1弾性中子型の開口部に上記中子型の先端部を挿入するとともに、上記第1弾性中子型の内側に上記第2弾性中子型を配置し、
上記第3の工程では、上記キャビティ空間に上記本体部の材料を射出することにより、上記中子型および第1、第2弾性中子型を取り囲むような形状に上記本体部を成形するとともに、この本体部の一端部および他端部を上記支持具および他端側支持具にそれぞれ結合させ、
上記第4の工程では、上記本体部の内部から上記中子型を抜き出し、その状態で上記支持具と第2弾性中子型の間にエアを吹き込むことにより、上記第1中子型および第2中子型の両方を上記本体部の外部に脱出させることを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の防振装置の製造方法において、
上記第1の工程では、上記本体部の材質よりも剛性の高いリング状の補強部材を上記中子型の先端部の周面に装着しておき、
その状態で上記第2および第3の工程を行うことにより、上記小径部の内周部に上記補強部材を一体に取り付けることを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の防振装置の製造方法において、
上記補強部材における上記支持具側の端部に、その内周側の角部を斜めにカットしたような形状を有する傾斜面を形成することを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の防振装置の製造方法において、
上記本体部は、上記小径部および大径部以外に、上記小径部から上記他方側支持具に向かって徐々に内径が拡大する他方側大径部をさらに有し、かつ上記大径部は、上記小径部から上記支持具に向かって徐々に内径が拡大するように形成され、
上記第1の工程では、上記中子型として、上記本体部の他方側大径部および小径部の各内部形状に対応するものを上記外型内に配置し、
上記第2の工程では、上記キャビティ空間における上記大径部の内部に相当する領域に上記第1、第2弾性中子型を配置し、
これら第1および第2の工程の後、上記第3の工程を実施することにより、上記大径部、小径部、および他方側大径部を有する上記本体部を成形するとともに、その一端部および他端部を上記支持具および他方側支持具にそれぞれ結合させることを特徴とする防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−132551(P2012−132551A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80343(P2011−80343)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】