説明

防曇性物品の製法

【課題】塗布剤のポットライフを長くしつつ、保護フィルムと被膜との剥離が困難な接着を回避可能な防曇性物品の製法を提供することを課題とする。
【解決段】NCO基を有する化学種と活性水素基を有する界面活性剤及びポリオールとを混合して得られる塗布剤を、基材に塗布し、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより被膜の硬化を行って、被膜が吸水性を呈し、且つ被膜が吸水していない状態で水滴の接触角が40°以下の防曇性物品を得る工程、及び被膜の硬化後に該被膜上に粘着性を有する保護フィルムを貼付する工程を有し、塗布剤に硬化触媒である有機錫化合物を添加すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にウレタン樹脂による防曇性被膜が形成された防曇性物品の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
防曇性と耐磨耗性の両立のため、界面活性剤の親水性とウレタン樹脂の弾性による耐磨耗性を利用した防曇性被膜が検討されている。例えば、特許文献1では、NCO基を有する化学種と、親水性ポリオール及びNCO基と反応する官能基を有する界面活性剤とを反応させて得られるウレタン樹脂による防曇性被膜が開示されている。
【0003】
防曇性物品は、塗布剤を基材に塗布し、その後加熱によって、基材上に硬化した被膜を形成することにより得られる。該防曇性物品を工業生産にするにあたり、硬化が不十分な被膜をできる限り少なくしなければならない。硬化が不十分な被膜は、硬度、耐磨耗性、防曇特性等が不十分となりやすく品質の劣化を導きやすくなる。又、硬化した被膜から界面活性剤の流出が発生することも予想される。
【0004】
従って、被膜の硬化を制御するためには、塗布剤を調製する際に、NCO基数と水酸基等の活性水素基の数を調整することが、防曇性物品の生産性向上のために重要である。特許文献2では、ポリウレタンコーティング組成物において、NCO基/水酸基の当量比を、0.2〜5.0とすることが開示されている。又、特許文献3では、特に好ましいに範囲として、0.9〜1.3を開示している。
【0005】
しかしながら、これらは、界面活性剤を導入してなる防曇性物品の生産性向上のために適切な比を検討したものでなく、基材に塗布後の適切な加熱温度、加熱時間等についての示唆もなされていない。基材によっては、加熱できる温度に限界があり、生産性向上のためには、適切な比を設定する必要がある。又、被膜からの界面活性剤の流出を防ぐためには、塗布剤を均質なものとすることや、十分な硬化時間を確保する等の対策が挙げられるが、これらの対策は、コスト高の原因となる。
【0006】
防曇性物品を生産するにあたり、商品の流通過程で発生しうる被膜への物理的、化学的なアタックから被膜を保護するためには、被膜には保護フィルムが貼付されることが好ましい。生産工程において、被膜の硬化が十分でないものが発生すると、保護フィルムと被膜との間に剥離が困難な接着が生じたり、保護フィルムの表面形状を転写したりする。これを回避するためには、硬化不良が生じた物品を別途管理し、硬化が終了後に保護フィルムを貼付する必要があるが、この解決方法は、管理コスト、検査コストの増大をもたらすので、回避すべき方法である。
【特許文献1】特表2000−515572号公報
【特許文献2】特開平10−306256号公報
【特許文献3】特開平11−279484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、被膜の硬化のために、その実施例では、硬化触媒が導入されている。しかしながら、被膜形成後の保護フィルム貼付、塗布剤のポットライフ等は検討されてはおらず、その添加量は、あくまでも被膜の室温での硬化を目指したものである。
【0008】
本発明では、基材上に界面活性剤含有のウレタン樹脂の防曇性被膜が硬化してなる防曇性物品の製造方法において、硬化処理に加熱を行うことで被膜の硬化時間を図る製造条件とした場合に、塗布剤のポットライフを長く保ちつつ、保護フィルムと被膜との剥離が困難な接着等の不具合を回避可能な防曇性物品の製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の防曇性物品の製法は、NCO基を有する化学種と活性水素基を有する界面活性剤及びポリオール(これら3種の化学種を合せて以後「防曇性ウレタン成分」とする)とを混合して得られる塗布剤を、基材に塗布し、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより被膜の硬化を行って、被膜が吸水性を呈し、且つ被膜が吸水していない状態で水滴の接触角が40°以下の防曇性物品を得る工程、及び被膜の硬化後に該被膜上に粘着性を有する保護フィルムを貼付する工程を有し、塗布剤に硬化触媒である有機錫化合物を、防曇性ウレタン成分の合計に対して0.02〜0.5重量%添加することを特徴とする。
【0010】
硬化触媒である有機錫化合物の塗布剤への添加量が、防曇性ウレタン成分の合計に対して、0.02重量%未満では、硬化不良により保護フィルムと被膜との剥離が困難となったり、保護フィルム表面のエンボス等凹凸状の表面形状を転写したりする。フィルムの表面形状が被膜に転写されると被膜のヘイズが上昇し、被膜の可視光透過性が悪くなる傾向があるので、これを考慮すると該添加量は、0.05重量%以上、より好ましくは0.07重量%以上とすることが好ましい。 一方、0.5重量超では、ポットライフが短くなる。ポットライフを考慮するとこの添加量は0.5重量%以下とすることが好ましい。
【0011】
又、上記粘着性を有する保護フィルムにおいて、該保護フィルムの粘着成分を、ポリオレフィン系および合成ゴム系の粘着成分で、粘着力が0.01〜2.0N/20mmのものとすることが好ましい。アクリル系粘着成分では半年を超える長期に渡り通常の倉庫に保管された場合に粘着成分と防曇膜の相互作用により粘着力が増大し剥離が困難になりやすく、また粘着成分の転写により防曇性被膜の防曇性が低下しやすくなる。粘着力が0.01未満だと貼り付けたフィルムが非常に剥離しやすいので、鏡の搬送時にフィルムが剥離しやすくなり、2.0を超えるとフィルムの貼り直しが困難となる等作業性が悪くなる傾向となる。
【0012】
さらには、上記NCO基数/活性水素基数を1.2以上1.6以下とすることが好ましい。NCO基数/活性水素基数が、1.2未満とすれば、硬化不良の防曇性物品を少なくするために、加熱温度を140℃超とする対策、又は、NCO基と活性水素基を十分に反応させるために、塗布剤をより均質に混合する対策、もしくは上記硬化触媒を0.5重量%超添加する対策等が必要となり、防曇性物品の生産性が低下する。一方、1.6超では、塗布剤の硬化速度が速くなりすぎ、塗布剤の安定性が悪くなり、物品の防曇性の不良が生じやすくなる。そして、塗布剤の安定性を考慮し、物品の防曇性不良を少なくするために、該比は、1.5以下とすることがより好ましい。
【0013】
そして、基材の加熱温度に制限があり、塗布剤を基材に塗布後の加熱温度を、130℃以下にする必要がある場合には、前記比を、1.4以上とすることが好ましい。そして、上記温度で加熱する際の保持時間を10分〜60分とすることが好ましい。10分未満では、被膜の硬化が不十分となる傾向があり、60分超では生産時間が長くなりすぎるからである。
【0014】
本発明の防曇性物品の製法で使用される基材は、銀引き法で製造された鏡、及びポリビニルブチラール、又はエチレン酢酸ビニルを主成分とする中間膜を有する合わせガラスのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防曇性物品の製法によると、被膜を硬化させるための時間を短縮させ、且つ確実に硬化せしめる。従って、硬化した被膜に保護フィルムを貼付しても、被膜と保護フィルムとが剥離し難い接着を引き起こしたり保護フィルムの表面形状を転写したりすることがなく、防曇性物品を得た後に保護フィルムを貼付するときの全体の生産時間を短くするので、防曇性物品の生産効率向上に奏功する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の防曇性物品の製法は、NCO基を有する化学種と活性水素基を有する界面活性剤及びポリオールとを混合して得られる塗布剤を、基材に塗布し、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより被膜の硬化を行って、被膜が吸水性を呈し、且つ被膜が吸水していない状態で水滴の接触角が40°以下の防曇性物品を得る工程、及び被膜の硬化後に該被膜上に粘着性を有する保護フィルムを貼付する工程を有し、塗布剤に硬化触媒である有機錫化合物を、NCO基を有する化学種と活性水素基を有する界面活性剤及びポリオールの合計に対して0.02〜0.5重量%添加することを特徴とする。
【0017】
塗布剤は、NCO基を有する化学種、活性水素基を有する界面活性剤、及びポリオールの防曇性ウレタン成分、硬化触媒である有機錫化合物に加え、必要に応じ、フィラー成分、希釈溶媒を加えることができる。そして、好ましくは、NCO基を有する化学種と、活性水素基を有する界面活性剤及びポリオールの混合物とを混合することで塗布剤を調製する。
【0018】
硬化触媒である有機錫化合物には、ジブチル錫ジラウラート、ジオクチル錫ジラウラート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫マーカブチド、ジブチル錫チオカルボキシレート、ジブチル錫ジマレエート、ジオクチル錫マーカブチド、ジオクチル錫チオカルボキシレート等を使用することができる。
【0019】
NCO基を有する化学種には、ジイソシアネート、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット及び/又はイソシアヌレート構造を有する3官能のポリイソシアネートを使用できる。当該物質は、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に対して有効である。又、当該物質以外にも、ジイソフォロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート等も使用することができる。
【0020】
活性水素基を有する界面活性剤には、陰イオン系、陽イオン系、両性イオン系、及び非イオン系のものを使用できる。陰イオン系のものとしては、ひまし油モノサルフェート、ひまし油モノホスフェート、ソルビタン脂肪酸エステルサルフェート、ソルビタン脂肪酸エステルホスフェート、ソルビトール脂肪酸エステルサルフェート、ソルビトール脂肪酸エステルホスフェート、ショ糖脂肪酸エステルサルフェート、ショ糖脂肪酸エステルホスフェート、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルモノサルフェート、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルモノホスフェート、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルサルフェート、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルホスフェート、ポリオキシアルキレングリセリンエーテルモノサルフェート、ポリオキシアルキレングリセリンエーテルモノホスフェート等が挙げられる。
【0021】
陽イオン系のものとしては、ジアルカノールアミン塩、トリアルカノールアミン塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミンエーテル塩、脂肪酸トリアルカノールアミンエステル塩、ポリオキシアルキレンジアルカノールアミンエーテル塩、ポリオキシアルキレントリアルカノールアミンエーテル塩、ジ(ポリオキシアルキレン)アルキルベンジルアルキルアンモニウム塩、アルキルカルバモイルメチルジ(ポリオキシアルキレン)アンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレンジアルキルアンモニウム塩、リシノレアミドプロピルエチルジモニウムエトスルファート等が挙げられる。
【0022】
両性イオン系のものとしては、N,N−ジ(β−ヒドロキシアルキル)N−ヒドロキシエチル−N−カルボキシアルキルアンモニウムベタイン、N−β−ヒドロキシアルキル−N,N−ジポリオキシアルキレン−N−カルボキシアルキルアンモニウムベタイン、N−アルキル−N,N−ジ(ポリオキシアルキレン)アミンとジカルボン酸のモノエステル、N−(ポリオキシエチレン)−N′,N′−ジ(ポリオキシエチレン)アミノアルキル−N−アルキル−N−スルホアルキルアンモニウムベタイン、N,N−ジ(ポリオキシエチレン)−N−アルキル−N−スルホアルキルアンモニウムベタイン、N−(β−ヒドロキシアルキルアミノエチル)−N−(β−ヒドロキシアルキル)アミノエチルカルボン酸、N,N′−ビス(2−ヒドロキシアルキル)−N,N′−ビス(カルボキシエチル)エチレンジアミン塩、N−(β−ヒドロキシアルキル)−N′,N′−ジ(ポリオキシエチレン)−N−カルボキシエチルエチレンジアミン塩等が挙げられる。
【0023】
非イオン系のものとしては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ塘脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンひまし油エーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミンポリオキシアルキレンアルキルアミド等があげられる。
【0024】
上記界面活性剤量は、被膜への水滴の接触角が40°以下となるように調整することが好ましい。接触角を40°以下とすることで、親水性による防曇性を発現させやすくなる。又、被膜が吸水性を有している場合には、水滴の被膜への接触面が多くなるので、被膜に接触した水滴の被膜内への吸水が促進され、防曇性が高くなる効果を奏する。該接触角は、小さい程防曇性には好適であるが、小さい接触角に設定しようとすると、被膜の耐久性を悪くせざるを得ない場合がある。実用的な観点からは、該接触角は、10°以上とすることが好ましい。より好ましくは、25°以上35°以下とすることが好ましい。尚、ここでの被膜への水滴の接触角とは、吸水していない状態の被膜の表面に2μlの水を滴下したときの接触角である。
【0025】
ポリオールには、被膜に吸水性による防曇性を発現させるために、オリゴマーの吸水性ポリオールを使用することができる。吸水性ポリオールとは、水を吸水して膨潤する性状を有するものであり、分子内の水酸基がイソシアネートプレポリマーのイソシアネート基と反応してウレタン結合を生じ、ウレタン樹脂に吸水性の性状を導入することができる。該吸水性ポリオールは水溶性の性状を有してもよい。
【0026】
被膜に吸水性による防曇性の効果を発揮させるためには、被膜の吸水飽和時の吸水率が15重量%以上となるように、吸水性ポリオールの使用量を調整し、被膜中の吸水性ポリオール由来の吸水成分を適当量とすることが好ましい。該吸水性成分は、オキシアルキレン系のポリオール由来のものを使用でき、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等を有することが好ましく、吸水性に優れるオキシエチレン鎖を有することが特に好ましい。
【0027】
又、前記吸水率は、高すぎると被膜の耐水性、硬度、耐磨耗性等が低くなる傾向になるので、被膜の吸水率が30重量%以下となるように調整することが好ましい。
【0028】
前記オキシアルキレン系のポリオールは、数平均分子量が400〜5000のものを使用することが好ましい。数平均分子量が400未満の場合は、水を結合水として吸収する能力が低くなり、平均分子量が5000を超える場合は、被膜の強度が低下しやすくなる。吸水性や膜強度等を鑑み、該平均分子量は、400〜4500がより好ましい。該ポリオールには、オキシエチレン/オキシプロピレンの共重合体ポリオール、ポリエチレングリコール等を使用でき、ポリエチレングリコールを使用する場合は、吸水性と得られる被膜の強度を鑑み、数平均分子量を400〜2000とすることが好ましい。
【0029】
ポリオールには上記吸水性ポリオールに加え、疎水性ポリオール、数平均分子量が60〜200の短鎖ポリオール等を使用することができる。前記疎水性ポリオールは、可撓性と耐擦傷性の両方を併せ持ち、被膜の吸水性の機能、及び親水性の機能を低下させにくく、結果、被膜の耐水性及び耐摩耗性を向上させることができる数平均分子量500〜2000のポリエステルポリオール、又は平均分子量2000〜4000アクリルポリオールとすることが好ましい。 ポリエスルポリオールの場合、数平均分子量が500未満の場合は、被膜が緻密になりすぎ耐摩耗性が低下する。一方、2000超では、塗布剤の成膜性が悪化し、被膜を形成することが難しくなる。又、得られる膜の緻密性を考慮すると、該ポリオールの水酸基数は2又は3とすることが好ましい。該ポリエステルポリオールには、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びそれらの混合物のいずれかを使用することができる。
【0030】
アクリルポリオールの場合、数平均分子量が2000未満の場合、被膜の耐磨耗性が低下する傾向にあり、4000超では、塗布剤の塗布性が悪くなり、被膜の形成が難しくなる傾向にある。又、得られる被膜の緻密性、硬度を考慮すると、該ポリオールの水酸基数は3又は4とすることが好ましい。 これら疎水性ポリオール由来の疎水成分は、被膜の吸水率、及び水滴接触角が上記した範囲となるように導入し、好ましくは、「JIS K 5400」に準拠して得られる被膜の鉛筆硬度が被膜の吸水飽和時において、HB乃至Fとなるように導入する。
【0031】
又、短鎖ポリオール由来の成分は、塗布剤の硬化性を高め、被膜膜の強度を高める役割、被膜表面の静的摩擦係数を小さくする効果を有する。該短鎖ポリオールの水酸基数は、2又は3であることが好ましい。水酸基が1の場合は、該短鎖ポリオールが膜の骨格成分とならないため膜がもろくなり、3超では、反応性が活性過ぎて、塗布剤が不安定となりやすい。
【0032】
短鎖ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、2,2’−チオジエタノール等のアルキルポリオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンがあげられ、それらを単独、又は混合物、若しくはそれらの平均分子量200超とならない共重合体等を使用することができ、短鎖ポリオール由来の成分は、被膜の吸水率、及び水滴接触角が上記した範囲となるように導入することができ、導入する場合、短鎖ポリオールを防曇性ウレタン成分の総量に対して、2.5重量%〜10重量%とすることが好ましい。
【0033】
そして、防曇性ウレタン成分の総量に対して、活性水素基を有する界面活性剤を10重量%〜25重量%、吸水性ポリオールを10重量%〜25重量%、疎水性ポリオールを2.5重量%〜40重量%とすることが好ましい。
【0034】
上記防曇性ウレタン成分を混合して得られる塗布剤は、防曇性ウレタン成分の他に、フィラー成分、希釈溶媒等を含んでもよい。フィラー成分は、被膜の耐磨耗性、耐擦過性等を向上させる効果がある。このようなフィラー成分としては、金属酸化物の前駆体、シランカップリング剤、金属酸化物微粒子があげられる。
【0035】
金属酸化物の前駆体に関しては、エトキシド化合物、メトキシド化合物等のアルコキシド化合物、オキシハロゲン化合物、アセチル化合物等があげられる。又、金属酸化物としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化ニオブ、酸化タンタルの中から1種類以上選択したものを使用でき、経済的な観点からシリカが特に好ましい。該金属酸化物の前駆体は、防曇性ウレタン成分の総量に対して、重量比で1.25倍量迄加えることができる。1.25倍量超では、得られる膜の防曇性が低下する。被膜の耐磨耗性を向上させるためには、金属酸化物の前駆体は、防曇性ウレタン成分の総量に対し、重量比で0.1倍量迄加えることが好ましい。
【0036】
シランカップリング剤は防曇性ウレタン成分の総量に対して、重量比で0.25倍量迄加えることができる。0.25倍量超では、シランカップリング剤の未反応の官能基に起因して得られる膜の強度が低下するとともに膜表面にべたつき感が生じる等の不具合が起こりやすくなる。又、金属酸化物の前駆体由来の金属酸化物とウレタン樹脂とを架橋させるためには、シランカップリング剤は、防曇性ウレタン成分総量に対して、重量比で0.01倍量迄加えることが好ましい。該シランカップリング剤は3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランであると均質な膜が得やすく特に好ましい。
【0037】
金属酸化物微粒子としては、平均粒径が5nm〜50nmのシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化ニオブ、酸化タンタル等の金属酸化物の微粒子があげられ、特にはコロイド状のシリカが好ましい。該金属酸化物の微粒子を含有させる場合、防曇性膜の防曇性を低下させないことが重要なので、その含有量は、防曇性ウレタン成分の総量に対して、40重量%以下、好ましくは、20重量%以下、より好ましくは10重量%以下とすることが好ましい。尚、ここでいう平均粒径は、走査型電子顕微鏡観察によって倍率10万倍で膜の断面の観察を行った時に、1μm平方の範囲内に存在する全ての該粒子の粒径を目視で読みとり、その平均値を算出する。この算出を20回繰り返して得られた各値の平均値で定義されたものである。
【0038】
希釈溶媒は、活性水素基を有しないものが好ましく、アセトン類、エーテル類を使用でき、特にメチルプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、酢酸イソブチルが好ましい。
【0039】
得られた塗布剤を基材に塗布する手段は、塗布手段としてはディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知手段を採用できる。塗布後、80℃〜140℃で加熱を行うことで、被膜を硬化させることで防曇性物品が得られる。該加熱温度において、80℃未満では、被膜に硬化に時間を必要とするので物品の生産性を低下させるし、140℃超では、被膜が炭化しやすくなる等の不具合が生じややすくなる。そして、基材が銀引き法で製造された鏡、及びポリビニルブチラール、又はエチレン酢酸ビニルを主成分とする中間膜を有する合わせガラス等の場合、加熱温度を130℃以下とすることが好ましい。
【0040】
そして、防曇性物品に保護フィルムを貼付することにより、防曇性物品の積載、梱包等が容易となる。該保護フィルムは、静電貼付品、又は、粘着剤を有するフィルムを使用でき、粘着剤を有するフィルムが好ましい。特に粘着剤を有するフィルムで、粘着成分としてポリオレフィン系および合成ゴム系の粘着成分のものが好ましい。
【実施例】
【0041】
実施例1
活性水素基を有する界面活性剤として、リシノレアミドプロピルエチルジモニウムエトスルファート(商品名「LipoquatR」Lipo chemicals Inc製)、ポリオールとして吸水性ポリオールの平均分子量1000のポリエチレングリコール、疎水性ポリオールの平均分子量1250のポリカプロラクトンジオール(商品名「プラクセルL212AL」ダイセル化学工業製)、短鎖ポリオールとして1.4ブタンジオールとを準備し、これらを混合し、活性水素基を有する混合物を得た。混合比は、重量比で、界面活性剤1に対し、吸水性ポリオールを1.4、疎水性ポリオールを1.24、短鎖ポリオールを0.4である。
【0042】
そして、重量比で、上記活性水素基を有する混合物1に対して、上記イソシアネート基を有する化学種を0.98混合した。このときのNCO基数/活性水素基数は、1.4である。該混合物に防曇性ウレタン成分の総量の濃度が35重量%となるように希釈溶媒としてジアセトンアルコールを添加し、さらに、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレートを防曇性ウレタン成分総量に対して、0.1重量%添加することにより塗布剤を調製した。
【0043】
該塗布剤を、フロート法によるソーダ石灰ケイ酸塩ガラスに銀引き法にて反射層が形成された300mm×800mm×5mm(厚さ)サイズの鏡からなる基材のガラス表面側に、フローコート法により塗布し、120℃、15分間加熱した。これにより、膜厚が28μm、被膜が吸水性を呈し、且つ被膜が吸水していない状態で水滴の接触角が40°以下の防曇性物品を100個製造した。
【0044】
そして、被膜を硬化させるための加熱後、物品が40℃以下となったときに保護フィルムとして、粘着力が0.03N/20mmのポリオレフィンの1種であるポリエチレン系の粘着剤を有するフィルム(商品名「MIR−2−N」三陽化成製)を被膜上に貼付し、物品を1週間放置後に保護フィルムを剥がし、その後、物品の防曇性を確認するために、物品を0℃まで冷却させた後、被膜面に呼気をかけたところ、曇った物品数はゼロであった。そして、さらに同じ保護フィルムを再度貼付し、保護フィルムの貼付期間が通産で半年間となるように放置後に同様の防曇性評価を行ったところ、曇った物品数はゼロであった。
【0045】
実施例2
NCO基数/活性水素基数は、1.2となるように、重量比で、活性水素基を有する混合物1に対して、上記イソシアネート基を有する化学種を0.84混合し、塗布剤を基材に塗布後の加熱を135℃とした以外は、実施例1と同様の操作にて、保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法では、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0046】
実施例3
活性水素基を有する界面活性剤として、リシノレアミドプロピルエチルジモニウムエトスルファート(商品名「LipoquatR」Lipo chemicals Inc製)、ポリオールとして吸水性ポリオールの平均分子量1000のポリエチレングリコール、疎水性ポリオールの平均分子量2500のアクリルポリオール(商品名「デスモフェンA450BA」住化バイエルウレタン製)を準備し、これらを混合し、活性水素基を有する混合物を得た。混合比は、重量比で、界面活性剤1に対し、吸水性ポリオールを0.6、疎水性ポリオールを1.0である(混合物2)。
【0047】
NCO基数/活性水素基数は、1.2となるように、重量比で、活性水素基を有する混合物2に対して、上記イソシアネート基を有する化学種を0.84混合し、塗布剤を基材に塗布後の加熱を135℃とした以外は、実施例1と同様の操作にて、保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法では、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0048】
実施例4
NCO基数/活性水素基数は、1.5となるように、重量比で、活性水素基を有する混合物2に対して、上記イソシアネート基を有する化学種を0.91混合し、塗布剤を基材に塗布後の加熱を120℃とした以外は、実施例1と同様の操作にて、保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法では、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0049】
実施例5
保護フィルムとして、粘着力が1.6N/20mmのポリオレフィン系の粘着剤を有するフィルム(商品名「MPF451K」三井化学ファブロ製)を使用した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法では、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0050】
実施例6
塗布剤を実施例3のものとし、保護フィルムを実施例5のものとした以外は、実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法では、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0051】
実施例7
保護フィルムとして、粘着力が1.7N/20mmの合成ゴム系の粘着剤を有するフィルム(商品名「SPV−3643F」日東電工マテックス製)を使用した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法では、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0052】
実施例8
硬化触媒としてジブチル錫ジラウレートを防曇性ウレタン成分総量に対して、0.5重量%添加することにより塗布剤を調製し、この塗布剤を24時間放置後に基材に塗布した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。塗布剤の塗布性に問題はなく、本実施例による方法でも、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0053】
実施例9
硬化触媒としてジブチル錫ジラウレートを防曇性ウレタン成分総量に対して、0.07重量%添加することにより塗布剤を調製し、この塗布剤を24時間放置後に基材に塗布した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。本実施例による方法でも、保護フィルム貼付が通産半年経過も防曇性不良の発生はゼロであった。
【0054】
実施例10
保護フィルムとして、粘着力が0.95N/20mmのアクリル系の粘着剤を有するフィルム(商品名「エレップマスキングテープN100」日東電工マテックス製)を使用した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。
【0055】
物品を1週間放置後に保護フィルムを剥がし、その後、物品の防曇性を確認するために、物品を0℃まで冷却させた後、被膜面に呼気をかけたところ、曇った物品数はゼロであったが、同じ保護フィルムを再度貼付し、保護フィルムの貼付期間が通産で半年間となるように放置後に同様の防曇性評価を行ったところ、曇った物品数は52個であった。
【0056】
実施例11
硬化触媒としてジブチル錫ジラウレートを防曇性ウレタン成分総量に対して、0.02重量%添加することにより塗布剤を調製した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。
【0057】
物品を1週間放置後に保護フィルムを剥がし、その後、物品の防曇性を確認するために、物品を0℃まで冷却させた後、被膜面に呼気をかけたところ、曇った物品数はゼロであり、防曇性膜表面は平滑であったが、同じ保護フィルムを再度貼付し、保護フィルムの貼付期間が通産で半年間となるように放置後に同様の防曇性評価を行ったところ、曇った物品数はゼロであったが、保護フィルムの凹凸を転写して防曇性膜表面にヘイズ感を生じた物品が45個あった。
【0058】
比較例1
硬化触媒としてジブチル錫ジラウレートを防曇性ウレタン成分総量に対して、0.01重量%添加することにより塗布剤を調製した以外は実施例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。
【0059】
物品を1週間放置後に保護フィルムを剥がしたところ、保護フィルムの凹凸を転写して防曇性膜表面にヘイズ感を生じた物品が34個あった。
【0060】
比較例2
保護フィルムとして、粘着力が0.95N/20mmのアクリル系の粘着剤を有するフィルム(商品名「エレップマスキングテープN100」日東電工マテックス製)を使用した以外は比較例1と同様の手順で保護フィルムが貼付された防曇性物品を100個製造した。
【0061】
物品を1週間放置後に保護フィルムを剥がし、その後、物品の防曇性を確認するために、物品を0℃まで冷却させた後、被膜面に呼気をかけたところ、曇った物品が42個あった。
【0062】
比較例3
硬化触媒としてジブチル錫ジラウレートを防曇性ウレタン成分総量に対して、0.6重量%添加することにより塗布剤を調製し、この塗布剤を24時間放置後に基材に塗布したところ、塗布剤の流動性がほとんど無くなり、基材に塗布剤を塗布できなかった。本比較例による方法では、塗布剤のポットライフが短く、防曇性物品の生産効率が良くなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防曇性物品の製法において、NCO基を有する化学種と活性水素基を有する界面活性剤及びポリオールとを混合して得られる塗布剤を、基材に塗布し、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより被膜の硬化を行って、被膜が吸水性を呈し、且つ被膜が吸水していない状態で水滴の接触角が40°以下の防曇性物品を得る工程、及び被膜の硬化後に該被膜上に粘着性を有する保護フィルムを貼付する工程を有し、塗布剤に硬化触媒である有機錫化合物を、NCO基を有する化学種と活性水素基を有する界面活性剤及びポリオールの合計に対して0.02〜0.5重量%添加することを特徴とする防曇性物品の製法。
【請求項2】
粘着性を有する保護フィルムの粘着成分が、ポリオレフィン系および合成ゴム系の粘着成分で、粘着力が0.01〜2.0N/20mmであることを特徴とする請求項1に記載の防曇性物品の製法。
【請求項3】
NCO基数/活性水素基数を1.2以上1.6以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防曇性物品の製法。
【請求項4】
基材が、銀引き法で製造された鏡、及びポリビニルブチラール、又はエチレン酢酸ビニルを主成分とする中間膜を有する合わせガラスのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の防曇性物品の製法。

【公開番号】特開2007−23066(P2007−23066A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202798(P2005−202798)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】