説明

防火区画貫通部構造

【課題】区画を貫通するケーブル配線管類の形状に依存することなく容易に施工することができ、火災等の発生の際にもケーブル配線管類近傍に熱による膨張後の空洞が生じない防火区画貫通部構造を提供すること。
【解決手段】構造物の仕切り部に設けられた区画を貫通する孔に挿通された、両端に開口部を有するスリーブと、前記スリーブ内部に挿通されたケーブル配線管類と、膨張開始温度120〜180℃の熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物を成形して得られる柱状本体の外周にエラストマー層を備えた柱状熱膨張性成形体と、を備え、
前記柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた防火区画貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の仕切り部の一方で火災が発生した場合でも、炎や煙等が他方へ広がることを防ぐために、建築物等の仕切部には通常区画が設けられている。
この建築物内部に電気配線等の工事を施す場合には、この区画を貫通する孔を設け、この貫通孔にケーブル配線管類を挿通する必要がある。
この場合、単にケーブル配線管類を前記の孔に挿通させただけでは火災等の発生時に前記貫通孔を伝わって、炎や煙等が一つの区画から他の区画へ拡散する危険性がある。
これらの炎や煙等の拡散を防止する構造として、熱膨張性成形体同士が互いに接する様に、前記貫通孔とケーブル配線管類との間に熱膨張性成形体を設置した構造が知られている。
具体的には貫通孔を有する防火区画の防火構造であって、前記貫通孔にケーブル配線管類が貫通する一方、前記貫通孔とケーブル配線管類との間に、立方体や直方体の熱膨張性成形体が互いに接合する様に設置されている構造が知られている。
この構造であれば前記貫通孔とケーブル配線管類との隙間に立方体や直方体の熱膨張性成形体を積み上げることにより防火区画貫通部構造が得られることから耐火性に加えて施工性に優れた防火区画貫通部構造を提供することが可能とされる(特許文献1)。
【0003】
上記の公知の防火区画貫通部構造の場合、前記ケーブル配線管類の全体の断面が長方形や正方形等であり、前記貫通孔とケーブル配線管類との間が立方体や直方体の熱膨張性成形体により容易に隙間なく積み上げることができる条件が整うのであれば施工性に特段問題となるところはない。
【0004】
ところが実際の施工現場では前記ケーブル配線管類は複数のケーブル配線等が束ねられて形成されることがあり、前記ケーブル配線管類の断面形状は長方形や正方形等の理想的な形状になるとは限らず、円形や楕円形になる場合が少なくない。また複数存在する束ねられたケーブル配線等のそれぞれの断面の大きさも大小様々である。この様な背景から前記貫通孔とケーブル配線管類との間に立方体や直方体の熱膨張性成形体を隙間なく積み上げることは容易ではない。
【0005】
また施工途中の段階で積み上げた熱膨張性成形体が崩れ落ちることもあり、従来提案されている防火区画貫通部構造では施工が困難となる場合があった。
【0006】
一方船舶等の防火区画貫通部構造では、隔壁や甲板等に円形孔や四角形孔等が設けられ、この円形孔や四角形孔等を挿通する円筒状のスリーブや四角筒状のスリーブがさらに設けられる。この防火区画貫通部構造では通常ケーブル配線管類がスリーブを挿通している。
【0007】
そして前記スリーブとケーブル配線管類との隙間に対して外側から粘度状の耐火パテを充填することにより、前記スリーブの両端を前記耐火パテにより閉塞させた後、前記スリーブ内部に流動性のある耐火シール材を流しこむことにより、前記スリーブとケーブル配線管類との隙間を閉塞させた構造が一般的である。
【0008】
この様な船舶等の防火区画貫通部構造では前記スリーブの両端部を閉塞させることが容易ではなく、特に前記スリーブの開口部が大きい場合には前記スリーブの両端部を閉塞させることが困難であり、施工に時間が掛る等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−29023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
先に説明した前記貫通孔と電線ケーブル等との間に熱膨張性成形体同士が互いに接する様に耐火充填材を設置した構造の場合、火災の炎等の熱が防火区画貫通部構造に達すると、熱にさらされる場所の近くにある熱膨張性成形体が膨張して断熱層を形成するため熱の伝達を遮ることができる。
【0011】
ところが実際には熱にさらされる場所の近くにある熱膨張性成形体の膨張により、防火区画貫通部構造内部にあるケーブル配線管類付近に設置された熱膨張性成形体にまで熱が十分に伝わらない場合がある。このため、ケーブル配線管類付近に設置された熱膨張性成形体が十分に膨張せず、ケーブル配線管類近傍に空洞が生じる場合のあることに本発明者らは気が付いた。
【0012】
前記ケーブル配線管類近傍に空洞が生じた場合、膨張後の熱膨張性成形体による十分な断熱効果が発揮できず、前記ケーブル配線管類が損傷しやすくなる問題が生じる他、火災の炎や煙が区画を超えて広がる問題も生じる。
【0013】
また前記ケーブル配線管類を支える膨張後の熱膨張性成形体が存在しない部分が防火区画貫通部構造内部にあると、一部の膨張後の熱膨張性成形体に前記ケーブル配線管類の重量が集中するため、膨張後の熱膨張性成形体が崩れることにより、火災等の炎や熱を遮断するための防火区画貫通部構造の気密が広範囲に渡って崩壊する等の潜在的な問題も生じる。
【0014】
一方、熱膨張性成形体の膨張開始温度を低く設定すればケーブル配線管類付近に設置された熱膨張性成形体に熱が十分伝わらない場合でも、ケーブル配線管類付近に設置された熱膨張性成形体を膨張させることが可能になると考えられる。
しかしながら、単に低温で膨張を開始する樹脂組成物を熱膨張性成形体に適用しただけでは、熱膨張性成形体を製造している際に樹脂組成物の膨張が始まるため、熱膨張性成形体を製造することが極めて困難になるとの問題があった。
【0015】
本発明の目的は、区画を貫通するケーブル配線管類の形状に依存することなく容易に施工することができ、火災等の発生の際にもケーブル配線管類近傍に熱による膨張後の空洞が生じない防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、膨張開始温度が120〜180℃の熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物を成形して得られる柱状本体の外周にエラストマー層を備えた柱状熱膨張性成形体を使用した防火区画貫通部構造が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、
[1]構造物の仕切り部に設けられた区画を貫通する孔に挿通された、両端に開口部を有するスリーブと、
前記スリーブ内部に挿通されたケーブル配線管類と、
膨張開始温度120〜180℃の熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物を成形して得られる柱状本体の外周にエラストマー層を備えた柱状熱膨張性成形体と、
を備え、
前記柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0018】
また本発明は、
[2]互いに接する二以上の柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に前記ケーブル配線管類の長手方向に沿って設置された、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0019】
また本発明は、
[3]二以上の柱状熱膨張性成形体を着脱可能に束ねて形成された熱膨張性ブロックが、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置された、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0020】
また本発明は、
[4]前記ケーブル配線管類に環状に巻き付けられた柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置された、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0021】
また本発明は、
[5]前記スリーブの外周に環状に巻き付けられた柱状熱膨張性成形体が、前記区画を貫通する孔と前記スリーブとの隙間に設置された、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0022】
また本発明は、
[6]上記に加えて、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に耐火シール材が充填されている、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0023】
また本発明は、
[7]前記柱状熱膨張性成形体が、熱可塑性樹脂および/またはゴム、リン化合物、膨張開始温度が120〜180℃の範囲の中和処理された熱膨張性黒鉛ならびに無機充填材を含む熱膨張性樹脂組成物を成形して得られる柱状本体と、前記柱状本体の外周に形成された気泡含有ゴム層とを有する、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の防火区画貫通部構造は、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に前記柱状熱膨張性成形体を容易に設置することができることから施工性に優れる。
特に本発明の防火区画貫通部構造は、前記ケーブル配線管類の断面形状に依存することなく、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に前記柱状熱膨張性成形体を設置できることから施工性に優れる。
【0025】
また本発明の防火区画貫通部構造は、二以上の柱状熱膨張性成形体を着脱可能に束ねて形成された熱膨張性ブロックを使用することにより、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に前記熱膨張性ブロックを容易に設置することができる。また前記ケーブル配線管類の断面形状に合わせて前記熱膨張性ブロックから柱状熱膨張性成形体を適宜取り除いたり追加したりすることが可能であるから、前記ケーブル配線管類の断面形状に依存することなく、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間を容易に閉塞させることができ、施工性に優れる。
【0026】
また本発明の防火区画貫通部構造は、環状に丸めた柱状熱膨張性成形体を前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に挿入することにより、前記隙間を容易に閉塞させることができることから施工性に優れる。
同様に環状に丸めた柱状熱膨張性成形体を、前記区画の貫通孔と前記スリーブ外周との隙間に挿入することにより、前記隙間を容易に閉塞させることもできることから施工性に優れる。
【0027】
本発明の防火区画貫通部構造は施工性に優れることから、前記スリーブの開口部に前記柱状熱膨張性成形体を設置するまでの時間や、さらに前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間にシール材を充填するまでの時間を短縮することができるため、防火区画貫通部構造の単位時間当たりの生産性に優れる。
【0028】
また本発明に使用する柱状熱膨張性成形体は外周にエラストマー層を備える。このため比較的低温で膨張を開始する熱膨張性黒鉛を使用した場合でも外周のエラストマー層が断熱層および形状保持層の役割を果たすため柱状熱膨張性成形体の製造の際に柱状熱膨張性成形体が膨張することを抑制することができ、実使用に耐える柱状形状を保持することができる。この柱状熱膨張性成形体を使用することにより施工性に優れた本発明の防火区画貫通部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に使用する柱状熱膨張性成形体を説明するための模式斜視図である。
【図2】本発明に使用する柱状熱膨張性成形体を説明するための模式斜視図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面である。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図6】本発明に使用する熱膨張性ブロックを説明するための模式斜視図である。
【図7】本発明に使用する熱膨張性ブロックを説明するための模式斜視図である。
【図8】本発明に使用する熱膨張性ブロックの変形例を説明するための模式斜視図である。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図10】本発明の第二の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図11】本発明の第三の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図12】本発明の第三の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図13】本発明の第四の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図14】本発明の第五の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図15】第一の実施形態の変形例を説明するための模式断面図である。
【図16】実施例1の防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図17】実施例1の防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図18】実施例2の防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図19】実施例2の防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図20】本発明に使用する柱状熱膨張性成形体の熱膨張について説明するための模式正面図である。
【図21】本発明に使用する柱状熱膨張性成形体の熱膨張について説明するための模式正面図である。
【図22】従来使用されている柱状熱膨張性成形体の熱膨張について説明するための模式正面図である。
【図23】従来使用されている柱状熱膨張性成形体の熱膨張について説明するための模式正面図である。
【図24】実施例3の防火区画貫通部構造を示した模式斜視図である。
【図25】実施例4の防火区画貫通部構造を示した模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は防火区画貫通部構造に関するものであるが、最初に本発明に使用するスリーブについて説明する。
前記スリーブは、建築物、船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた区画を貫通する孔に固定されるものである。
【0031】
このスリーブは、例えば、金属材料、無機材料、有機材料等の材料からなるものであるが、火災発生時にもその形状を保つことから、金属材料、無機材料等の材料からなるものが好ましい。前記スリーブは一種もしくは二種以上の材料からなるものであってもよい。
【0032】
前記スリーブの形状については特に限定はないが、例えば、前記スリーブの長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等の形状が挙げられる。これらの中でも、断面形状が円形、四角形等であるものが施工性に優れることから好ましい。
【0033】
前記スリーブの断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの距離が最も大きい辺の長さを基準として、通常、10〜1000mmの範囲であり、好ましくは50〜750mmの範囲である。
【0034】
前記スリーブの長さは、通常、区画の厚み以上500mm以下の範囲であり、好ましくは区画の厚み以上〜250mm以下の範囲である。
【0035】
前記スリーブを区画を貫通する孔に固定する方法としては、例えば、建築物等の床、天井、壁等の区画を形成するスラブ等の場合は、前記スラブ等に形成された貫通孔に前記スリーブを挿入し、型枠等により前記スリーブを固定した後、前記スリーブと前記貫通孔との隙間に充填したモルタル等の耐火材料を固化させた後、型枠を除去する方法等が挙げられる。
【0036】
また例えば、船舶等の床、天井、壁等の鋼板に区画を形成する場合は、前記鋼板等に形成された貫通孔に前記スリーブを挿入し、前記鋼板と前記スリーブとを溶接する方法等が挙げられる。
【0037】
次に本発明に使用する配線ケーブル管類について説明する。
本発明では、この配線ケーブル管類は前記スリーブを挿通するものである。
この様な配線ケーブル管類の具体例としては、例えば、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等のケーブル類、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の気体移送用管類等が挙げられる。これらの中でも延焼防止の観点から電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等のケーブル類が好ましく、電線ケーブル、船舶用ケーブルであれば、火災発生時等に前記スリーブに熱が伝わり、前記熱膨張性耐火材シートの膨張を促進することからさらに好ましい。
【0038】
前記配線ケーブル管類は一種もしくは二種以上を用いることができる。
【0039】
前記配線ケーブル管類は、金属材料、無機材料、有機材料等の一種もしくは二種以上からなるものであるが、取り扱い性の面からその外周部は樹脂等の有機材料等により被覆されているものが好ましい。
この様な有機材料の具体例としては、例えば、塩化ビニル等の熱可塑性樹脂類等が挙げられる。
【0040】
なお配線ケーブル管類の中でも船舶用ケーブルは航海中に揺動するため強度のあるものが求められる。この様な船舶用ケーブルの具体例としては、例えば、あじろ外装ケーブルと呼ばれる、樹脂等の外面被覆材の中に鋼線を編みこんだケーブル、樹脂等の外面被覆材のさらに外側に網状鋼線を被覆したケーブル等を挙げることができる。
【0041】
前記配線ケーブル管類の形状については特に限定はないが、例えば、前記配線ケーブル管類の長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等のものが挙げられる。これらの中でも、断面形状が円形であるものが施工作業性に優れることから好ましい。
【0042】
前記配線ケーブル管類の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの最も大きい辺の長さを基準として、通常、0.5mm〜10cmの範囲であり、好ましくは1mm〜5cmの範囲である。
【0043】
次に本発明に使用する柱状熱膨張性成形体について説明する。
前記柱状熱膨張性成形体は、柱状本体と、その柱状本体の外周にエラストマー層とを少なくとも有する。
【0044】
図1および2は本発明に使用する柱状熱膨張性成形体を説明するための模式斜視図である。
図1および2に例示される様に、前記柱状熱膨張性成形体は三角柱101、四角柱102、六角柱103等の多角柱や、円柱100、楕円柱104等の形状のものを使用することができる。
【0045】
また本発明に使用する前記柱状熱膨張性成形体のエラストマー層2は、柱状本体1の一部または全部に形成することができる。前記エラストマー層2は柱状本体1側面の全部に形成されることが好ましい。
【0046】
図1および図2では前記柱状本体の両端面には前記エラストマー層2が形成されていないため、前記柱状本体1が現れている。この様に、前記柱状本体の両端面について前記エラストマー層の形成を省略することができる。
【0047】
前記柱状熱膨張性成形体の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの最も大きい辺の長さを基準として、通常、0.5mm〜10cmの範囲であり、好ましくは1mm〜5cmの範囲である。
前記柱状熱膨張性成形体の断面形状の大きさは、使用する前記配線ケーブル管類のうち、最も断面形状が大きいものと同じか、それ以下であることが好ましく、具体的には5mm〜3cmの範囲であることが施工性に優れるためより好ましい。
【0048】
前記柱状熱膨張性成形体の柱状本体は熱膨張性樹脂組成物を成形することにより得られる。
本発明に使用する熱膨張性樹脂組成物としては、膨張開始温度120〜180℃の熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物が挙げられる。
この様な樹脂組成物としては、具体的には熱可塑性樹脂及び/又はゴムよりなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛ならびに無機充填剤を含有する樹脂組成物等が挙げられる。
【0049】
前記樹脂分としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン系樹脂(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0050】
中でも、エチレン−プロピレン−ジエン系樹脂(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴム等のゴムが取り扱い性に優れるため好ましい。
【0051】
前記樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
【0052】
前記樹脂分には、耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。上記樹脂分の架橋や変性を行う場合は、予め樹脂分に架橋や変性を施してもよく、後述のリン化合物や無機充填剤等の他の成分の配合時又は配合した後で架橋や変性を施してもよい。
【0053】
前記架橋方法については、特に限定されず、上記樹脂分について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法などが挙げられる。
【0054】
前記樹脂分の溶融、軟化温度は、後述する中和処理された熱膨張性黒鉛の膨張開始温度以下であることが好ましい。
【0055】
前記リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0056】
【化1】

【0057】
式中、R 及びR は、水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0058】
上記赤リンは、少量の添加で難燃効果が向上する。上記赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。
【0059】
前記ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
市販品としては、例えば、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」、チッソ社製「テラージュC60」、「テラージュC70」、「テラージュC80」等が挙げられる。
【0060】
前記一般式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。なかでも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点においては好ましい。
前記リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記中和処理された熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質である熱膨張性黒鉛を中和処理したものである。上記熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0062】
上述のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することにより、上記中和処理された熱膨張性黒鉛とする。
【0063】
前記脂肪族低級アミンとしては、特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
前記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、特に限定されず、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0064】
前記中和処理された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、UCAR Carbon社製「GRAFGuard#160」、「GRAFGuard#220」等が挙げられる。
【0065】
前記中和処理された熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さいため、所定の耐火断熱層が得られず、粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、熱可塑性樹脂及び/又はゴムと混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0066】
前記中和処理された熱膨張性黒鉛としては、膨張開始温度120〜180℃のものが用いられる。膨張開始温度が、120℃未満では熱可塑性樹脂及び/又はゴムとの混練時に膨張して耐火性能が低下し、180℃を超えるとケーブル配線管類付近に設置された熱膨張性成形体が十分に膨張しないため、ケーブル配線管類近傍に空洞が生じ、本発明の防火区画貫通部構造の耐火性能が十分に発揮されなくなる場合がある。
前記中和処理された熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、120〜160℃の範囲が好ましく、125〜145℃の範囲であればさらに好ましい。
【0067】
前記無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、けい酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥などが挙げられる。
これらの中でも、含水無機物及び金属炭酸塩が好ましい。
【0068】
一般的に、前記無機充填剤は、骨材的な働きをすることから、残渣強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。上記無機充填剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
前記無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。
また、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものとを組み合わせて使用することがより好ましく、このような組み合わせによって、シート状成形体の力学的性能を維持したまま、高充填化することが可能となる。
【0070】
前記樹脂組成物において、リン化合物及び中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜200重量部が好ましい。
配合量が20重量部未満では加熱後の燃焼残渣量が不十分となり、200重量部を超えると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなる場合がある。
【0071】
前記中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物の重量比(熱膨張性黒鉛/リン化合物)は0.01〜9の範囲であることが好ましい。中和処理された熱膨張性黒鉛の配合比率が多くなると、燃焼時に膨張した黒鉛が飛散し、十分な膨張断熱層が形成されず、リン化合物の配合比率が多くなると、十分な膨張断熱層が形成されないため、十分な断熱性能が得られない場合がある。
【0072】
前記樹脂組成物には、樹脂組成物の物性を損なわない範囲で、粘着性付与剤、難燃剤、酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等を添加することもできる。
【0073】
前記樹脂組成物は、前記各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等従来公知の混練装置を用いて溶融混練することにより得ることができる。
【0074】
得られた樹脂組成物を使用して前記柱状本体を成形する場合、例えば、プレス成形、押出成形等の成形方法を行うと、前記樹脂組成物に含まれる膨張開始温度が120〜180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛が部分的に膨張する。これにより前記柱状本体表面が泡状に膨らんで荒れるため、市場に出荷できる品質の柱状本体を製造することが困難となる問題がある。
【0075】
一方、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂及び/又はゴムの溶融粘度を調整することにより前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満の温度で成形することも可能であるが、前記樹脂組成物の軟化温度が低くなるため前記柱状本体の形状保持性が悪く、取扱が困難となる問題もある。
【0076】
本発明に使用する柱状熱膨張性成形体は柱状本体の外周にエラストマー層が設けられた構造を有する。この構造により上記の問題を統合的に解決することができる。
つまり前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満の温度で流動性を有する熱可塑性樹脂及び/又はゴムを含む樹脂組成物を使用することにより、膨張開始温度が120〜180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛を含む前記樹脂組成物の成形時の膨張を回避しつつ、前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満の温度で押出成形することが可能である。
【0077】
また前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満の温度で流動性を有する熱可塑性樹脂及び/又はゴムを含む樹脂組成物を前記エラストマー層が保持しているため、形状保持性に優れる柱状熱膨張性成形体を得ることができる。
【0078】
さらには前記柱状本体の外周に設けられたエラストマー層が防水層の役割を果たすため、前記柱状熱膨張性成形体の端面をシート等により防水処理することにより、湿気や水分を遮断することができる。これにより、湿気や水分を原因とする柱状熱膨張性成形体の熱膨張性等の性能劣化を防止することができる。
【0079】
本発明に使用する柱状熱膨張性成形体を製造する方法としては、例えば、柱状本体断面形状孔を有するダイを用いて、前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満の温度で押出成形すると共に、前記ダイの周囲に設けられた環状ダイからエラストマーを同時押出成形する等の方法が挙げられる。これにより柱状本体の外周にエラストマー層が設けられた柱状熱膨張性成形体を得ることができる。
【0080】
得られる柱状本体の硬さは熱可塑性樹脂及び/又はゴムの種類を選択することにより調整することが可能である。
また前記柱状本体の形状保持性を向上させる方法としては、例えば、樹脂組成物に架橋成分や加硫成分を添加しておき、同時押出により得られた柱状熱膨張性成形体に対して高周波加熱や熱風加熱等の手段により熱膨張性黒鉛の膨張が問題とならない範囲の時間内により加熱し、柱状本体の樹脂組成物の架橋や加硫反応を促進させる方法等を挙げることができる。
【0081】
本発明に使用する柱状熱膨張性成形体のエラストマー層としては、例えば、先に説明したゴムからなる層や、前記ゴムに発泡剤等を加えて発泡させた気泡含有ゴム層等が挙げられる。
前記エラストマー層は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0082】
同時押出成形等により得られた柱状熱膨張性成形体を長手方向に垂直に切断することにより、図1および図2に例示される柱状熱膨張性成形体が得られる。
【0083】
次に図面を参照しつつ前記柱状熱膨張性成形体を使用した本発明の第一の実施形態について説明する。
図3は本発明の第一の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図であり、建築物等のコンクリート壁を垂直に切断した状態を例示したものである。
【0084】
図3に例示される様に、建築物等のコンクリート壁3にスリーブ4が挿通されていて、前記スリーブ4の周囲がモルタル5等の不燃材により埋め戻されている。このスリーブ4の内部をケーブル配線管類6が挿通している。
【0085】
図2に例示した柱状熱膨張性成形体100を前記スリーブ4に挿入することにより、図3に例示する様に前記スリーブ4の開口端部に前記ケーブル配線管類6の長手方向に沿って柱状熱膨張性成形体100を設置することができる。二以上の柱状熱膨張性成形体100は互いに接していて、前記スリーブ4とケーブル配線管類6との隙間に設置されている。
【0086】
図3では前記柱状熱膨張性成形体100をその端面が前記スリーブの開口面に一致する様に設置しているが、前記柱状熱膨張性成形体100はその端面が前記スリーブ4の開口面の外側か内側に位置する様に設置してもよい。
【0087】
また図3に例示される様に、前記スリーブ4の中央部に前記柱状熱膨張性成形体100を設置せず、前記柱状熱膨張性成形体100を前記スリーブの開口端部に設置することもできるし、前記スリーブ4内部全体に前記柱状熱膨張性成形体100を設置することもできる。
【0088】
図4は本発明の第一の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面であり、建築物等のコンクリート壁3面に沿ってスリーブ4を切断した状態を例示したものである。
前記ケーブル配線管類6の断面形状が四角形や円形でない場合でも前記柱状熱膨張性成形体100を使用することにより前記スリーブ4とケーブル配線管類6との隙間を前記柱状熱膨張性成形体100により容易に閉塞することができる。
【0089】
本発明の第一の実施形態に係る防火区画貫通部構造は、柱状熱膨張性成形体100を使用することにより、前記ケーブル配線管類6の断面形状に依存せず前記スリーブ4とケーブル配線管類6との隙間に前記ケーブル配線管類6の長手方向に沿って柱状熱膨張性成形体100を設置することができることから施工性に優れる。
【0090】
また、第一の実施形態に係る防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合、前記柱状熱膨張性成形体100は比較的低温でも膨張するため前記スリーブ4とケーブル配線管類6との間に均一な断熱層を形成する。このため前記スリーブ4とケーブル配線管類6との間に空洞が生じず、区画の一方から他方へ火災の炎や煙等が移動することを防止することができる。
【0091】
次に本発明の第二の実施形態について説明する。
図5は本発明の第二の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図であり、船舶等の区画を形成する鋼板を垂直に切断した状態を例示したものである。
【0092】
船舶の船室、操舵室等の仕切り部に設けられた区画を形成する鋼板10の孔にスリーブとして断面が長方形のコーミング20(炭素鋼管)が溶接されている。これにより両端に開口部を有するコーミング20が鋼板10の孔に固定されている。このコーミング20の内部をケーブル配線管類6が挿通している。
また前記鋼板10には断熱材12が貼付されていて、船室、操舵室等の内部の冷暖房効率が高められている。
またコーミング20の外周には防熱材としてロックウール14が貼付されている。
【0093】
図6〜図7は本発明に使用する熱膨張性ブロックを説明するための模式斜視図である。
先の図1および2により説明した柱状熱膨張性成形体100を2本以上束ねることにより熱膨張性ブロック200が形成される。
【0094】
柱状熱膨張性成形体100同士は互いに着脱可能に貼着されている。柱状熱膨張性成形体100同士を貼着する方法としては、例えば、粘着剤を柱状熱膨張性成形体100側面に塗布して貼着する方法、柱状熱膨張性成形体100のエラストマー層に粘着成分を含有させ、前記エラストマー層自体に粘着性を付与して貼着する方法等を挙げることができる。
【0095】
前記熱膨張性ブロック200を形成するために使用する柱状熱膨張性成形体100の形状は、三角柱、四角柱、六角柱、円柱等が好ましく、容易に着脱可能なことから円柱が好ましい。
【0096】
また図7に例示される様に、必要に応じて前記熱膨張性ブロック200の少なくとも一方の端面にシート21を貼着することもできる。
前記熱膨張性ブロック200の少なくとも一方の端面にシート21を貼着することにより、流動性の高いシール材を前記コーミング20とケーブル配線管類6との隙間に注入した場合でも、前記シール材が前記コーミング20の開口端から漏出することを防止することができる(図5および図10参照)。
【0097】
前記熱膨張性ブロック200に貼着するシート21としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム、無機繊維フィルム、アルミ箔、銅箔等の金属箔、不織布、織布等の布、紙等を使用することができる。
前記シート21は保存性、耐久性等の面から樹脂フィルムであれば好ましい。
【0098】
前記シート21を前記熱膨張性ブロック200の少なくとも一方の端面に貼着する方法としては、粘着剤により貼着する方法、前記熱膨張性ブロック200を形成する柱状本体等に粘着成分を添加しておき、前記熱膨張性ブロック200の端面に粘着性を付与して貼着する方法等を挙げることができる。
【0099】
図8は本発明に使用する熱膨張性ブロックの変形例を説明するための模式斜視図である。
本発明に使用する前記熱膨張性ブロック200から前記熱膨張性ブロック200を形成する一または二以上の柱状熱膨張性成形体100を取り外したり、前記熱膨張性ブロック200に対し前記熱膨張性ブロック200を形成する一または二以上の柱状熱膨張性成形体100を追加して貼着したりすることにより、自由にその形状を変化させることができる。
【0100】
図9は本発明の第二の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図であり、船舶等の区画を形成する鋼板に水平な面により前記防火区画貫通部構造を切断した状態を例示したものである。
【0101】
図9に例示される様に、コーミングの内部を挿通するケーブル配線管類6の断面形状に依存せず、コーミング20とケーブル配線管類6との隙間に前記熱膨張性ブロック200を設置することができる。
【0102】
前記熱膨張性ブロック200を使用した場合、コーミング20とケーブル配線管類6との隙間が大きい場合でも1本ずつ柱状熱膨張性成形体を設置する必要がなく、短時間でコーミング20とケーブル配線管類6との隙間に前記熱膨張性ブロック200を設置することができることから施工性に優れる。
【0103】
図10は本発明の第二の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図であり、船舶等の区画を形成する鋼板を垂直に切断した状態を例示したものである。
図10では前記熱膨張性ブロック200はその端面が前記スリーブの開口面に一致する様に設置されているが、前記熱膨張性ブロック200はその端面が前記コーミング20の開口面の外側か内側に位置する様に設置してもよい。
【0104】
前記熱膨張性ブロック200、前記コーミング20および前記ケーブル配線管類6により囲まれる空間には耐火シール材16が注入されている。前記コーミング20内部に耐火シール材16を注入するためには、例えば、前記コーミング20上部に孔を開けて耐火シール材16を充填すればよい。
【0105】
この耐火シール材16により、船舶が揺動した場合でも前記ケーブル配線管類6がコーミング20内部で揺れることを防止することができる。このため船舶が航海して前記ケーブル配線管類6が揺動した場合でも前記熱膨張性ブロック200と前記ケーブル配線管類6との間に隙間が生じることを防止することが可能である。
【0106】
本発明に使用する耐火シール材16としては、例えば、JIS A5758により規定されている建築用シーリング材、JIS A6024により規定されている建築補修用注入エポキシ樹脂シーリング材、JIS A6914により規定されている石膏ボード用目地処理材、モルタル、パテ、コーキング等を挙げることができる。耐火シール材16は、施工性の観点からクロロプレンゴム等のゴムやシリコーン等に充填材、難燃剤等を配合してなるパテ、コーキング等であれば好ましい。
【0107】
また耐火シール材16を前記コーミング20内部に注入した場合でも、前記熱膨張性ブロック200の前記コーミング20内部側にはシート21が貼着されているため、前記パテ状シール材16が前記コーミング20の開口面から漏出することがない。
【0108】
また先の第一の実施形態で説明した場合と同様、第二の実施形態の場合も防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合、前記柱状熱膨張性成形体は比較的低温でも膨張するため前記コーミング20とケーブル配線管類6との間に均一な断熱層が形成される。このため前記コーミング20とケーブル配線管類6との間に空洞が生じず、区画の一方から他方へ火災の炎や煙等が拡散することを防止することができる。
【0109】
次に本発明の第三の実施形態について説明する。
図11および12は本発明の第三の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【0110】
船舶の船室、操舵室等の仕切り部に設けられた区画を形成する鋼板10の孔にスリーブとして断面が円形のSGP30(炭素鋼管)が溶接されている。これにより両端に開口部を有するSGP30が鋼板10の孔に固定されている。このSGP30の内部をケーブル配線管類6が挿通している。
【0111】
また前記鋼板10には断熱材12が貼付されていて、船室、操舵室等の内部の冷暖房効率が高められている。またSPG30の外周には防熱材としてロックウール14が貼付されている。
【0112】
先の図2により説明した柱状熱膨張性成形体100を環状に丸めて前記SPG30とケーブル配線管類6との隙間に挿入することにより、前記柱状熱膨張性成形体100を前記ケーブル配線管類6に巻き付けて、前記SPG30の開口端部の、前記ケーブル配線管類6と前記SPG30との隙間に設置することができる。
【0113】
前記柱状熱膨張性成形体100、前記SPG30および前記ケーブル配線管類6により囲まれる空間には第二の実施形態の場合と同様に耐火シール材16が注入されている。
また図12に例示される様に、前記柱状熱膨張性成形体100は両端面が接するように前記SPG30の開口端部に設置されているため、前記SPG30の開口部は閉塞されていて、耐火シール材が前記SPG30の開口端部から漏出することを防止している。
【0114】
次に本発明の第四の実施形態について説明する。
図13は本発明の第四の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
先の第三の実施形態に係る防火区画貫通部構造の場合には、前記SPG30の両端に環状に丸めた柱状熱膨張性成形体100が設置されていたが、第四の実施形態の場合には前記SPG30の内部に環状に丸めた柱状熱膨張性成形体100が挿入されている点が異なる。前記SPG30の内部では柱状熱膨張性成形体100が互いに接する様に設置されている。
また前記SPG30の両端には、耐火パテ18が設置されている。前記耐火パテ18としては、例えば、先に説明した耐火シール材のうち性状が粘土状のものを選択して使用することができる。
その他の構造については先の第三の実施形態の場合と同様である。
【0115】
次に本発明の第五の実施形態について説明する。
図14は本発明の第五の実施形態に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
先の第三の実施形態に係る防火区画貫通部構造の場合には、前記SPG30の両端に環状に丸めた柱状熱膨張性成形体100が設置されていたが、第五の実施形態の場合には前記SPG30の内部に、前記ケーブル配線管類6の長手方向に沿って柱状熱膨張性成形体100が挿入されている点が異なる。二以上の柱状熱膨張性成形体100は互いに接していて、前記スリーブ4とケーブル配線管類6との隙間に設置されている。
また前記SPG30の両端には、耐火パテ18が設置されている。前記耐火パテ18としては、例えば、先に説明した耐火シール材のうち性状が粘土状のものを選択して使用することができる。
その他の構造については先の第三の実施形態の場合と同様である。
【0116】
次に本発明の変形例について説明する。
図15は第一の実施形態の変形例を説明するための模式断面図である。
先の第一の実施形態の場合には、図2に例示される様に、建築物等のコンクリート壁3にスリーブ4が挿通されていて、前記スリーブ4の周囲がモルタル5等の不燃材により埋め戻されていたが、前記モルタルに代えて柱状熱膨張性成形体100等を使用することも可能である。
【0117】
先の図1により説明した柱状熱膨張性成形体100等を環状に丸めて前記コンクリート壁3とスリーブ4との隙間に対して、柱状熱膨張性成形体100等の両端面が接する様に挿入することにより、前記柱状熱膨張性成形体100等を前記スリーブ4に巻き付けて、前記柱状熱膨張性成形体100等を前記区画を貫通する孔と前記スリーブ4との隙間に設置することができる。
【0118】
この構造であれば、コンクリート壁を貫通する孔にモルタルを充填する作業を省略することが可能であるため施工時間を短縮でき、単位時間当たりの生産性に優れる防火区画貫通部構造を提供することができる。
先の第二〜第五の実施形態の場合には鋼板にSPGを溶接したが、同様にこれらの溶接等に代えて柱状熱膨張性成形体を使用することも可能である。
【0119】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0120】
[柱状熱膨張性成形体]
表1に示した配合の樹脂組成物をミキサーにより均一に混合した後、断面が円形の柱状本体とエラストマー層とを同時押出により成形し、柱状本体の外周にエラストマー層が設けられた断面が円形の成形体を得た。
同時押出の温度は使用した中和済み熱膨張性黒鉛の膨張温度未満とした。なお、使用した中和済み熱膨張性黒鉛の膨張温度は130℃である。
エラストマー層は発泡剤と発泡助剤を使用することにより気泡含有ゴム層とした。
次に、マイクロ波出力1.0〜1.2kwの範囲の高周波加熱により前記成形体を加熱した後、ベルトコンベアー付きの200〜210℃の熱風加熱炉で前記成形体を3〜4分間加熱した。
冷却後得られた成形体を切断して、長さが20cm、直径が2cmの円柱状の柱状熱膨張性成形体100を得た。得られた柱状熱膨張性成形体100は図2に示した円柱状のものであり、外観上、表面が均一の黒色の柱状のゴムである。前記柱状熱膨張性成形体100は柔軟性があり自由に曲げることが可能である。
【0121】
【表1】

【0122】
なお、表1に示した配合表に使用した原料の詳細を表2に示す。
【表2】

【0123】
[熱膨張性ブロック]
先に示した図7の場合と同様に実施例1に使用する熱膨張性ブロック200を成形した。
粘着剤により縦横それぞれ5本、全部で25本の前記柱状熱膨張性成形体100を貼着し、両端面にポリエチレンフィルムを貼着して前記熱膨張性ブロック200を得た。
【0124】
[防火区画貫通部構造]
図16および17は実施例1の防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
図16に示す様に、鋼鉄製のコーミング20に電線ケーブル60が挿通していて、前記コーミング20と前記電線ケーブル60との隙間に、前記熱膨張性ブロック100が設置されている。前記電線ケーブル60は外径が27mmであり、あじろ外装ケーブルと呼ばれる最外被覆層が網状鋼線の船舶用電線(TPCY 35sq)を使用した。
図16に示す様に、前記コーミング20は区画を形成する鋼板10に溶接されていて、その断面の形状は横750mm、縦250mmの長方形である。
【0125】
図17に示す様に、前記熱膨張性ブロック200を前記コーミング20と前記電線ケーブル60との隙間に設置する際には前記電線ケーブル60と接する部分の柱状熱膨張成形体100を適宜取り外したり、取り外した柱状熱膨張成形体100を別の隙間に設置したりすることにより、図17に示す通り、前記コーミング20と前記電線ケーブル60との隙間を略閉塞した。
【0126】
図16および17に示す実施例1の防火区画貫通部構造を形成するのに要した前記熱膨張性ブロックは15個であり、その総重量は10kgであった。
前記熱膨張性ブロックを設置するのに要した時間は7分50秒であった(施工4回の平均時間)。
【実施例2】
【0127】
図18および19は実施例2の防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
実施例1に使用したコーミングと同じコーミング20を使用し、前記コーミングの半分をモルタル5で閉塞させた。
次に外径が27mmの電線ケーブル60を使用し、各電線ケーブル3本を一つのセットとして4セット分の電線ケーブル60をコーミング20内部に挿通させ、前記コーミング20と前記電線ケーブル60との隙間に、前記熱膨張性ブロック200を設置した。
なお電線ケーブル60の下端からコーミング20内側下端までの距離は44mmであった。
【0128】
前記電線ケーブル60は、コーミング20開口端部の両方から50cm程度外側に出ていて、前記熱膨張性ブロック200以外に前記電線ケーブルを支えるものはない状態となっている。
またコーミング20の上部左半分に15mmの隙間40をあらかじめ形成しておいた。
この様にして得られた防火区画貫通部構造に対してISO834に準拠して耐火試験を実施した。
【0129】
耐火試験開始直後は柱状熱膨張性成形体同士の隙間から外部に煙の流出が観察されたが、10分経過後にはほぼ煙の流出が止まった。
また耐火試験開始後、加熱により電線ケーブル60は自らの重量により徐々に下がり始めたが45分経過時点で電線ケーブル60の動きに合わせて膨張した前記柱状熱膨張性成形体100が追従し、前記コーミング20に貫通部が生じることはなかった。
【0130】
耐火試験開始53分経過後、電線ケーブル60の自らの重量によりさらに電線ケーブル60は下がり、電線ケーブル60の上部から炎が噴出した。このときの電線ケーブル60の下端からコーミング20内側下端までの距離は20mmであった。
炎が噴出した後も、電線ケーブル60下にある膨張後の柱状熱膨張性成形体100の型崩れは観察することはできなかった。
【0131】
なお実際の船舶等の防火区画貫通部構造では電線ケーブル60等はケーブルラック等の保持部材により固定されているため電線ケーブル60の全ての重量が前記柱状熱膨張性成形体100に掛ることはなく、53分以降も耐火性が保持されるものと考えられる。
また本実施例2により、防火区画貫通部構造の前記コーミング20と前記電線ケーブル60との間を前記柱状熱膨張性成形体100が完全に閉塞していない場合でも有効に火災等の炎や煙を有効に遮ることが明かとなった。
さらに電線ケーブル60が移動した場合であっても電線ケーブル60の動きに合わせて膨張した前記柱状熱膨張性成形体100が追従するため、有効に火災等の炎や煙を有効に遮ることができる。
【0132】
[比較例1]
実施例1の場合で本発明に使用した前記柱状熱膨張性成形体100に代えて、エラストマー層のない柱状熱膨張性成形体の成形を試みた。得られた柱状熱膨張性成形体は樹脂組成物の熱膨張により表面が泡状となっているため、視覚的に市場に出荷することのできる品質の柱状熱膨張性成形体を得ることはできなかった。
【0133】
[比較例2]
実施例1の場合で本発明に使用した前記柱状熱膨張性成形体100に代えて、従来船舶等のコーミングの閉塞に使用される粘土状の耐火パテを使用した防火区画貫通部構造を製造した。
実施例1の場合と同様の構造を得るために使用した市販の耐火パテの数は60パックでありその総重量は30kgであった。
また前記耐火パテを設置するのに要した時間は28分30秒であった。また施工現場付近は前記耐火パテの包装袋が60枚散乱し、後片付けのためにさらに時間を要した。
【0134】
[参考例1]
使用した熱膨張性黒鉛の量を2/3にした他は実施例1の場合と同様の操作により柱状熱膨張性成形体110を得た。
図20および21は本発明に使用する柱状熱膨張性成形体110の熱膨張について説明するための模式正面図である。
区画を形成する鋼板5に設けられた孔に挿入され、鋼板10に隙間なく溶接されたSPG30に、図20に示す様に前記柱状熱膨張性成形体110を14本挿入した。
ついでISO834に準拠して耐火試験を実施した。その結果を図21に示す。加熱後の柱状熱膨張性成形体130は前記SPG内部全体に均一に膨張し、空洞は生成しなかった。
【0135】
[比較参考例1]
参考例1の場合で、使用した熱膨張性黒鉛を膨張開始温度が200℃のものにした以外は参考例1の場合と同様の操作により柱状熱膨張性成形体120を得た。なおこの柱状熱膨張成形体にはエラストマー層が形成されていない。
図22および23は従来使用されている柱状熱膨張性成形体120の熱膨張について説明するための模式正面図である。
区画を形成する鋼板5に設けられた孔に挿入され、鋼板に溶接されたSPG30に、図22に示す様に前記柱状熱膨張性成形体120を14本挿入した。
ついでISO834に準拠して耐火試験を実施した。その結果を図23に示す。加熱後の柱状熱膨張性成形体140は前記SPG30内部において前記SPG30に接する部分は膨張したが、中央部分は十分に膨張することなく、前記SPG30を貫く空洞130が生成した。
【実施例3】
【0136】
図24は実施例3の防火区画貫通部構造を示した模式斜視図である。
区画を形成する鋼板に設けられた孔に挿入され、鋼板10に隙間なく溶接されたSPG40(直径50mm)に、図24に示す様に電線ケーブル60が6本挿通している。前記電線ケーブル60として、外形が12mmの船舶用ケーブルを使用した。
実施例1に使用した柱状熱膨張性成形体100を前記電線ケーブル60に巻き付けて、前記電線ケーブル60と前記SPG40との間に前記柱状熱膨張性成形体100を隙間なく環状に設置して、防火区画貫通部構造を得た。
次にISO834に準拠して耐火試験を実施した。その結果、電線ケーブル60に使用している樹脂が熱により手前側に飛びだしてきたが、炎の噴出や電線ケーブルの荷重により膨張後の柱状熱膨張性成形体が崩れることはなかった。
【実施例4】
【0137】
図25は実施例4の防火区画貫通部構造を示した模式斜視図である。
区画を形成する鋼板に設けられた孔に挿入され、鋼板に隙間なく溶接されたSPG50(直径80mm)に、図25に示す様に電線ケーブル60が14本挿通している。前記電線ケーブル60として、外形が12mmの船舶用ケーブルを使用した。
実施例1に使用した柱状熱膨張性成形体100を電線ケーブル60の長手方向と同じ方向にSPG50の内周に沿って並べて、前記電線ケーブル60と前記SPG50との間に前記柱状熱膨張性成形体100を互いが接する様に設置し、防火区画貫通部構造を得た。
次にISO834に準拠して耐火試験を実施した。その結果、耐火試験開始直後は柱状熱膨張性成形体100同士の隙間から外部に煙の流出が観察されたが、10分経過後にはほぼ煙の流出が止まった。
その後、電線ケーブル60に使用している樹脂が熱により手前側に飛びだしてきたが、炎の噴出や電線ケーブル60の荷重により膨張後の柱状熱膨張性成形体100が崩れることはなかった。
【符号の説明】
【0138】
1 柱状本体
2 エラストマー層
3 コンクリート壁
4 スリーブ
5 モルタル
6 ケーブル配線管類
10 鋼板
12 断熱材
14 ロックウール
16 耐火シール材
18 耐火パテ
20 コーミング
30、40,50 SPG
60 電線ケーブル
100、110、120、140 円柱の柱状熱膨張性成形体
101 三角柱の柱状熱膨張性成形体
102 四角柱の柱状熱膨張性成形体
103 六角柱の柱状熱膨張性成形体
104 楕円柱の柱状熱膨張性成形体
200 熱膨張性ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の仕切り部に設けられた区画を貫通する孔に挿通された、両端に開口部を有するスリーブと、
前記スリーブ内部に挿通されたケーブル配線管類と、
膨張開始温度120〜180℃の熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物を成形して得られる柱状本体の外周にエラストマー層を備えた柱状熱膨張性成形体と、
を備え、
前記柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。
【請求項2】
互いに接する二以上の柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に前記ケーブル配線管類の長手方向に沿って設置された、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項3】
二以上の柱状熱膨張性成形体を着脱可能に束ねて形成された熱膨張性ブロックが、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置された、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項4】
前記ケーブル配線管類に環状に巻き付けられた柱状熱膨張性成形体が、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に設置された、請求項1〜3のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。
【請求項5】
前記スリーブの外周に環状に巻き付けられた柱状熱膨張性成形体が、前記区画を貫通する孔と前記スリーブとの隙間に設置された、請求項1〜4のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。
【請求項6】
上記に加えて、前記ケーブル配線管類と前記スリーブとの隙間に耐火シール材が充填されている、請求項1〜5のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。
【請求項7】
前記柱状熱膨張性成形体が、熱可塑性樹脂および/またはゴム、リン化合物、膨張開始温度が120〜180℃の範囲の中和処理された熱膨張性黒鉛ならびに無機充填材を含む熱膨張性樹脂組成物を成形して得られる柱状本体と、前記柱状本体の外周に形成された気泡含有ゴム層とを有する、請求項1〜6のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−36290(P2011−36290A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183922(P2009−183922)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】