説明

防護面あるいは防護盾用透明樹脂積層体の製造方法

【課題】
アクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板との平板状積層体を湾曲形状に成形して得られる防護面あるいは防護盾用の透明樹脂積層体において、この成形の際に、発泡がなく透視性に優れた樹脂積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】
アクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板とを接着層を介して積層一体化して得られた積層体を湾曲形状に成形し、該成形品をオートクレ−ブにより加熱加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明樹脂積層体、とくに防護面あるいは防護盾として用いるために湾曲状に成形した際に発泡がなく透視性に優れた透明樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、投石等から顔面、身体を保護するための防護面あるいは防護盾として、アクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板とを接着層を介して積層された積層体が用いられる。
【0003】
この積層体を防護面、あるいは防護盾として用いる際には、通常、このアクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板との平板状の積層体を、加熱し所望の湾曲形状に成形されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記湾曲形状へ成形する際に、成形品に発泡がみられ透視性に劣るという問題がある。本発明は、この問題を解決し、発泡がなく透視性に優れた防護面あるいは防護盾用樹脂積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板とを接着層を介して積層一体化して得られた積層体を湾曲形状に成形し、該成形品をオートクレ−ブにより加熱加圧することを特徴とする防護面あるいは防護盾用樹脂積層体の製造方法を要旨とする。
【0006】
アクリル樹脂としては、たとえばポリメチルメタクリレートや、メチルメタクリレートを主成分とする共重合体などの、種々のアクリル樹脂があげられる。メチルメタクリレートと共重合可能な他の単量体としては、たとえばエチルメタクリレート、プロピルメ タクリレート、ブチルメタクリレート、オクチルメタクリレートなどの、炭素数2〜8のアルキル基を有 するアルキルメタクリレート類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブ チルアクリレート、オクチルアクリレートなどの、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート類、メタクリル酸、アクリル 酸、メタクリルアミド、アクリル アミド、スチレン、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートおよびこれらの混合物などがあげられる。
【0007】
また、アクリル樹脂の分子量としては、重量平均分子量で10万〜120万、好ましくは50万〜100万のものが好適である。重量平均分子量が10万未満である場合、樹脂積層体を湾曲形状に成形する際に、成形品に気泡が発生しやすく、オートクレーブにより加熱加圧しても気泡が残ってしまうことが多く、透視性が悪くなるため好ましくない。重量平均分子量が120万を超えると、湾曲形状への成形がやりにくくなるため好ましくない。
【0008】
上記アクリル樹脂には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤などの、従来公知の各種添加剤を適宜含有させてもよい。また、従来公知の方法によってゴム成分を含有させて、アクリル樹脂板の耐衝撃性を向上させることもできる。
【0009】
本発明で用いられるアクリル樹脂板は、例えば鋳込み重合法などの従来公知の方法で製造される。アクリル樹脂板の厚みはとくに限定されないが、2〜15mm程度であるのが好ましい。アクリル樹脂板の厚みが2mm未満では、その強度が低下して割れやすくなるおそれがある他、樹脂積層体の表面硬度が低下して傷つきやすくなるおそれもある。また逆に、アクリル樹脂の厚みが15mmを超えると、耐衝撃性の向上が期待できない他、重量の増加を招き、コスト面でも不経済であるので好ましくない。アクリル樹脂板の厚みは、とくに3〜13mm程度であるのが好ましい。
【0010】
ポリカーボネート樹脂は、例えば2価フェノールとホスゲンの反応によるホスゲン法や、2価のフェノールと炭酸ジエステルとの反応によるエステル交換法によって製造される。2価フェノールとしては、ビスフェノール類、特に2,2―ビス(4―ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を使用するのが好ましい。また、炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネートを使用するのが好ましい。
【0011】
ポリカーボネート樹脂の分子量としては、粘度平均分子量で20000〜30000、好ましくは24000 〜27000が好適である。分子量が20000未満であると、樹脂積層体を湾曲形状に成形する際に、成形品に多くの気泡が発生し、オートクレーブにより加熱加圧しても気泡が残ってしまうことがあり、透視性が悪くなるため好ましくない。分子量が30000を超えると、湾曲形状への成形がやりにくくなるため好ましくない。
【0012】
ポリカーボネート樹脂板は、押出成形などにより製造される。ポリカーボネート樹脂板の厚さは、特に限定されないが、3mm〜12mmであり、好ましくは5〜10mm程度のものが使用される。3mm未満では、防護面あるいは防護盾に必要な十分な耐衝撃性を得られず、12mmを越えると、樹脂積層体を湾曲に成形しにくくなるため好ましくない。
【0013】
接着層としては熱可塑性ポリウレタン、エチレンー酢酸ビニル共重合体、エチレンーアクリル酸エステル共重合体等透明でフィルム状の形態を成し、80℃〜200℃で溶融し、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂と接着可能なものであれば、使用可能である。
【0014】
熱可塑性ポリウレタンは、透明性を有するものであり、無黄変性イソシアネートとポリエーテルポリオールもしくはポリエステルポリオールのいずれかと、鎖長延長剤との反応生成物である。
【0015】
ここで無黄変性イソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族系ジイソシアネート化合物、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)プロパン、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、1−メチルー2,4―ジイソシアネートなどの脂環族系ジイソシアネート化合物、およびイソホロンジイソシアネートなどの脂肪族、脂環族系混合系ジイソシアネート化合物が上げられる。
【0016】
ポリエーテルジオールとしては、例えば、アルキレンオキシド(例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなど)および/または複素環式エーテル(例えばテトラヒドロフランなど)を重合または共重合(ブロックまたはランダム共重合)させることにより得られるもの、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン−プロピレン)グリコール(ブロックまたランダム)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリオクタメチレンエーテルグリコールなどがあげられ、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが好適に用いられる。
【0017】
また、ポリエステルジオール としては、脂肪族または芳香族ジカルボン酸(例えばアジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸など)とグリコール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサンなど)とを縮合させたものがあげられ、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートなどあげられ、さらに、ポリラクトンジオール(例えばポリカプロラクトンジオール、ポリ−3−メチルバレロニトリルラクトンジオールなど)、ポリカーボネートジオールなども使用することができ、好適にはポリカーボネートジオールが用いられる。
【0018】
鎖長伸長剤はイソシアネート基と反応し得る少くとも2個の活性水素原子を有する化合物であって、例えばエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N−エタノールエチレンジアミン、N,N' −ジエタノールエチレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、ビス−4−アミノフェニルメタン、3,3' −ジクロロ−4,4' −ジアミノジフェニルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジンの如きグリコール類:アルカノールアミン類、ジアミン類が例示される。
【0019】
特に好ましい鎖長延長剤としてはブタジオール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの炭素数3以上の脂肪族ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのエーテル結合を有するジオール、シクロヘキサンジオール、水素化ビスフェノールAなどの脂環族ジオールが例示される。
【0020】
この発明に用いられる熱可塑性ポリウレタンの接着層は、無黄変ジイソシアネートとポリエーテルジオールもしくはポリエステルジオールと鎖長延長剤との反応生成物からなる膜状のものであるが、その製法は特に限定されるものではなく、例えば押出成形等により製造すればよい。
【0021】
熱可塑性ポリウレタンの接着層の厚さは、0.05〜5.0mm、好ましくは0.2〜4.0mm、より好ましくは0.5〜3.0mmの範囲が選択される。0.05mm未満であると、薄すぎるため樹脂板と均一な接着が困難であり、その他衝撃吸収性能や内部応力緩和性能が低下するため好ましくない。また、厚さが5.0mmを超えると、衝撃吸収性能や内部応力緩和性能が向上せず、重量の増加、およびコスト面で不経済であるため好ましくない。
【0022】
エチレンー酢酸ビニル共重合体(EVA)は、熱により溶融して接着性を発揮させるホットメルトの主成分であり、エチレンと酢酸ビニルとを重合させたエチレンー酢酸ビニル共重合体,エチレンー酢酸ビニル共重合体を加水分解させて得られるEVA加水分解物およびエチレンー酢酸ビニル共重合体に第3成分をグラフト重合させたエチレンー酢酸ビニル共重合体グラフトターポリマーなどが好適である。
【0023】
エチレンーアクリル酸エステル共重合体は、エチレンとアクリル酸エステルとから得られる共重合体で、アクリル酸エステル としては、例えばメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられ、これらは単独で用いられてもよいし、併用されてもよい。
【0024】
本発明の樹脂積層体は、一枚あるいは複数のアクリル樹脂板と一枚あるいは複数のポリカーボネート樹脂板との間に接着層を介在させ積層一体化させたもので、例えば、図1に示すように、各一枚のアクリル樹脂板(a)とポリカーボネート樹脂板(b)との間に接着層(c)を介在させ積層したもの、あるいは、図2に示すように、2枚のアクリル樹脂板と一枚のポリカーボネート樹脂板との間に接着層を介在させ積層したもの等がある。
【0025】
本発明に用いられるアクリル樹脂板、ポリカーボネート樹脂板の厚さは、とくに限定されるものではなく、防護面、防護盾に求められる性能により適宜選択される。実用的には、通常防護面あるいは防護盾の厚さが5〜30mm程度となるような範囲で選択されるものである。
【0026】
先ず本発明の平板状の積層体を得るには、アクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板とを接着層を介して積み重ね、これらの積層物をホットプレスで一体化させる、あるいは、エアバッグ中で脱気した状態で加熱し仮接着した後、オートクレーブで加熱・加圧することにより一体化させる。
【0027】
ホットプレスで積層一体化させる場合、選択される接着層により、適宜加熱条件および加圧条件が決定される。例えば、接着層が熱可塑性ポリウレタン、エチレンー酢酸ビニル共重合体を使用する場合は、加熱温度は80〜150℃の範囲で設定される。温度が低いと接着層の溶融が不十分で樹脂板との接着が不十分となり、得られた積層体を湾曲形状に曲げる際に剥離現象がみられる。また、加熱温度が高すぎると、接着層が軟化流動し、所望厚さ以下になってしまうだけでなく、樹脂板そのものが軟化流動してしまう惧れもある。また圧力は、0.5〜5MPaの範囲で設定される。圧力が小さいと、樹脂板と接着層との接着が不十分となり、得られた積層体を湾曲形状に曲げる際に剥離してしまう惧れがある。逆に、高圧では接着層が流動し所望の厚さのものを得られなくなる。
【0028】
エアバッグおよびオートクレーブを使用して積層一体化させる場合も、選択される接着層により、適宜加熱条件および加圧条件が決められる。例えば、接着層が熱可塑性ポリウレタン、エチレンー酢酸ビニル共重合体を使用する場合は、エアバッグでの仮接着工程では80〜150℃となるように設定される。80℃未満では接着層の溶融が不十分であり樹脂板との接着が不十分であるばかりか、樹脂板と接着層との間に大きな気泡が発生したりする。加熱条件が150℃を超えると、接着層が流動し、所望のあつさのものを得られなくなるばかりか、一体化した積層体の反りが大きくなるので好ましくない。次いで、オートクレーブでの加熱条件としては80〜150℃に設定される。80℃未満の場合、エアバッグを使用した仮接着工程で残留した気泡が完全に消えず、また、150℃を越える場合、一体化した透明合成樹脂板の反りが大きくなるので好ましくない。
【0029】
上記のようにして得られた平板状の積層体は、オーブンなどで加熱軟化され、型に押し当てて、所望の湾曲形状に成形される。加熱条件としては160〜185℃が好適である。160℃未満である場合、積層体の溶融軟化が不十分であり、所望の形状に曲げることは困難となる。また、185℃を超えると、成形品に気泡が大量に発生し、この成形品をオートクレーブにより加熱加圧しても気泡を消し去ることが困難となり好ましくない。
【0030】
湾曲形状としては、防護面あるいは防護盾により適宜決められるが、曲率半径がR=100mm以上であることが望ましい。曲率半径がR=100未満である場合、湾曲形状への成形おいて、樹脂板と接着層との間で剥離が起こり易く好ましくない。
【0031】
上記のようにして得られた成形品は、オートクレーブにより加熱加圧される。この目的は、積層体を湾曲形状に成形した際に、成形品に発生した気泡を消し去り透視性を向上させることである。オートクレーブでの加熱条件は、80〜150℃、好ましくは100〜140℃に設定される。80℃未満の場合、成形品に発生した気泡が完全に消えず、透視性の低下を招くため好ましくない。また、150℃を越えると、湾曲形状に成形された成形品が変形、具体的には、所定の曲率半径で成形されていたものが、過剰の熱がかかることにより、曲率半径が大きくなり、所定の湾曲形状と異なってしまうため好ましくない。
【0032】
このようにして得られた湾曲形状をした樹脂積層体は、ヘルメットに装着すための治具を取り付けることにより防護面として、あるいは、手で保持するための把手、周囲を保護するためのゴム巻きなどを取り付けることにより防護盾として利用される。
【実施例】
【0033】
厚さ10mm、サイズ500mm×1000mmのアクリル樹脂板(住友化学工業製「スミペックス 000」と、厚み8mmで同サイズのポリカーボネート樹脂板(筒中プラスチック工業製「ポリカエース」)とを、無黄変イソシアネートとポリカーボネートジオール(ポリエステルジオール)を主反応成分とする熱可塑性ポリウレタンを接着層として、金属メッキ板の間に図1の順序に重ね合せ、ホットプレスの熱板間に挟み込み、温度130℃、圧力2.0MPaにて30分保持した後常温まで冷却を行い、一体化積層体を得た。
【0034】
得られた一体化積層体を180℃の循環式オーブンに入れ1時間かけて加熱軟化させた後、曲率半径R=100mmのアルミ製金型を用いて、湾曲状成形品を得た。成形品には、接着層に微細な発泡が認められた。
【0035】
上記成形品をオートクレーブ内で、温度120℃、圧力0.7MPaで20分加熱した後、圧力を保持しながら室温まで冷却を行った。先の湾曲状成形で認められた気泡は完全になくなり、透視性に優れた成形品を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】透明樹脂積層体の積層構成の例を示した説明図
【図2】透明樹脂積層体の積層構成の別の例を示した説明図
【符号の説明】
【0037】
(a) アクリル樹脂板
(b) 接着層
(c) ポリカーボネート樹脂板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂板とポリカーボネート樹脂板とを接着層を介して積層一体化して得られた積層体を湾曲形状に成形し、該成形品をオートクレ−ブにより加熱加圧することを特徴とする防護面あるいは防護盾用透明樹脂積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−1070(P2006−1070A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177932(P2004−177932)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000223414)筒中プラスチック工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】