説明

除去用組成物

【課題】半導体基体上のレジストや被膜残渣を、残渣物なく高速に除去できる除去用組成物を提供する。
【解決手段】硫酸及び有機ニトリルと高圧流体を含んでなる除去用組成物用いる。さらにアルコール、ケトン及び/又はエステルを含んでも良い。高圧流体としては二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)、有機ニトリルとしてはアセトニトリルが特に好ましく、ケトン及び/又はエステルとしては炭酸エステル、特に炭酸エチレンが好ましい。さらに金属防腐剤、金属キレート等を添加してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体集積回路、LCDモジュール、プリント配線基板の製造工程におけるフォトレジスト層等の被膜或いは被膜残査を除去するための高圧流体を必須成分として含んでなる除去用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は、基体上にフォトレジストを塗布し、露光、現像の後、エッチングを行い、回路を形成した後、フォトレジストを基体上から除去することによって製造される。従来、フォトレジストを基体上から除去するため、あるいはレジスト残渣を基体上から除去するため、様々なレジスト剥離剤が提案されてきた。例えばアルカノールアミン類を用いたレジスト剥離用組成物等が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところが、従来の剥離剤では粘度が高いため、半導体回路の微細化に伴い、微細パターン内部のレジスト等の除去が難しくなってきている。そのため超臨界流体を始めとした高圧流体を用いてレジストを除去する方法が提案されている(例えば特許文献2、3参照)。
【0004】
超臨界流体の様な高圧流体を用いた場合、流体の粘度が通常の液体に比べて低いため、半導体の微細パターン内部の洗浄が可能である。超臨界状態となる高圧流体として最も一般的に用いられるものは二酸化炭素であり、温和な条件で超臨界状態になるため、広く使用されている。ところが超臨界二酸化炭素(以下「scCO」と略記する)だけでは、ヘキサンなどの無極性溶媒と同程度の極性のため、レジストや被膜残渣を十分に除去できなかった。
【0005】
そこでキレート剤、アルキルアミン類、有機溶剤をscCOと併用する方法が提案されている(例えば特許文献4、5参照)。しかし、従来提案された剥離用組成物では基体の付着物(剥離残存物)を工業的な速度で、なおかつ完全に除去することは困難であった。
【0006】
そこで、scCOを始めとした高圧流体を含む剥離用組成物において、レジスト等を十分に除去できる除去用組成物が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−49355号公報
【特許文献2】特開平8−181050号公報
【特許文献3】特開平9−43857号公報
【特許文献4】特開平10−260537号公報
【特許文献5】特開2002−1242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超臨界流体を含む低粘度の高圧流体では、微細パターン内部の洗浄には適しているが、これまで超臨界流体として最も一般的なscCOだけでは工業的に十分な速度でレジストを除去することはできなかった。本発明の目的は、scCOの様な高圧流体を含む除去用組成物においてレジストや被膜残渣を除去することができる除去用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、除去用組成物について鋭意検討した結果、硫酸、有機ニトリル及びscCOなどの高圧流体を含んでなる除去用組成物では、特にレジストや被膜残渣等の除去性能に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の除去用組成物は高圧流体を含んでなるものである。本発明で言う高圧流体とは、1MPa以上の圧力をかけた低粘度の流体のことである。本発明の高圧流体は上記の定義の範囲であれば特に限定されないが、例えば超臨界流体、亜臨界流体等が例示でき、物理的性質として液体と気体の中間的な性質を示す流動性の高いものであることが好ましい。特に超臨界状態の高圧流体は本発明の除去用組成物と均一に混合され易く、また低粘度なために微細な領域の付着物を除去し易いため特に好ましい。
【0012】
高圧流体のより具体的な化合物としては、二酸化炭素からなるscCOが例示できるが、これに限定されず、他にも例えば炭化水素、アンモニア、一酸化二窒素、各種有機溶媒類等も用いることができる。
【0013】
高圧流体の圧力は、例えば高圧流体が二酸化炭素からなるscCOの場合には、その圧力は5〜20MPa、特に10〜20MPaであることが好ましい。
【0014】
本発明の除去用組成物は、さらに硫酸及び有機ニトリルを含んでなるものである。
【0015】
ここでいう硫酸には特に制限はなく、濃硫酸、希硫酸、発煙硫酸など問題無く使用することができ、一般に工業的に流通している硫酸を使用することができる。硫酸は、レジスト、反射防止膜、ギャップフィル材などの有機ポリマー被膜の結合を切断し、これらの除去を促進する効果がある。
【0016】
ここでいう有機ニトリルは、シアノ基を有する有機物ならいずれも使用することができる。沸点、溶媒への溶解度、価格から、好ましい有機ニトリルを例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリルが挙げられるが、これらのうち、特にアセトニトリルが好ましい。これらは単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。有機ニトリルはレジスト除去を促進することができる。
【0017】
本発明の除去用組成物には、さらにアルコールを添加しても良い。使用するアルコールには特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、ブトキシプロパノールなどが挙げられる。これらのうち、特にブトキシエトキシエタノール、ブトキシプロパノール、エチレングリコールが好ましい。これらは単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。これらのアルコールはレジスト除去を促進することができる。
【0018】
本発明の除去用組成物には、ケトン及び/又はエステルを添加しても良い。本発明の除去用組成物に添加できるケトン及び/又はエステルに特に制限はないが、例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどのエステル、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトンが挙げられる。これらのうち、レジスト除去を促進させる炭酸エステル、特に、炭酸エチレンが好ましい。これらは単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0019】
本発明の除去用組成物において、各成分の比率は成分の種類により変動するため一概に決めることはできないが、例えば硫酸が0.5〜50重量%、有機ニトリルが5〜99重量%、高圧流体が5〜99.99重量%、アルコールが0〜30重量%、ケトン及び/又はエステルが0〜50重量%の範囲が好ましく、硫酸が1〜20重量%、有機ニトリルが20〜95重量%、高圧流体が10〜99.9重量%、アルコールが0.1〜20重量%、ケトン及び/又はエステルが0.1〜50重量%が特に好ましい。
【0020】
硫酸が0.5重量%未満であるとレジスト等の除去能力が低く、50重量%を越えると高圧流体への溶解性が低下する。有機ニトリルは5重量%未満では高圧流体への溶解性が低下し、99重量%を超えると、除去能力が低下する。高圧流体は99.99重量%以上では除去能力が低下し、5重量%未満では高圧流体が少なすぎて細部に除去用組成物が浸透せず、やはり除去能力が低下してしまう。アルコールは0.1重量%未満でも、30重量%を越えても除去速度が低下する。ケトン及び/又はエステルが0.1重量%未満では高圧流体への溶解性が低下し、50重量%を超えると、除去能力が低下する。
【0021】
本発明の除去用組成物は、金属防食剤、金属キレート剤を添加して使用することができる。本発明の除去用組成物を除去に用いる際、特にステンレス鋼による装置を用いる場合には、ステンレス鋼の防食剤を添加することが好ましい。またステンレス鋼が腐食された場合に、その腐蝕溶出成分が半導体等の基体に付着することを抑制するため、さらにステンレス成分を溶解し得るキレート剤を添加することが好ましい。また半導体等の基体の配線材料に銅を用いた部材の付着物(被膜)を除去する際には、銅の防食剤、及び銅用のキレート剤を添加することが好ましい。
【0022】
本発明の除去用組成物においては、除去に用いる際に各成分を夫々添加して使用しても良いし、あらかじめ各成分を混合しておいてから使用しても良い。
【0023】
本発明の除去用組成物は、基体上の付着物(被膜)、例えば基体上に塗布されたフォトレジスト膜、塗布されたフォトレジスト膜をドライエッチング又はアッシングして変質したフォトレジスト層、反射防止膜をドライエッチング又はアッシングして変質した反射防止膜、ギャップフィル材などを除去出来る。基体は特に限定されないが、例えばレジスト等が付着したSi,GaAsなどの半導体ウエハ、半導体チップ等が例示できる。
【0024】
本発明の除去用組成物が除去の対象とするレジスト、レジスト残査、反射防止膜、反射防止膜残査、ギャップフィル材、エッチング残査、アッシング残査は特に限定しないが、例えばレジストとしては、i線、g線、KrF、ArF用フォトレジストが挙げられる。これら付着物の組成も特に限定されないが、例えばノボラック系ポリマー、ポリヒドロキシスチレン系ポリマー、脂肪族カルボン酸ポリマー等から構成されているものが例示できる。反射防止膜、ギャップフィル材としては、これらのレジストポリマーを架橋したものが一般的であり、これらの反射防止膜、ギャップフィル材、すなわち架橋したポリマーも本発明の除去用組成物で除去することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の除去用組成物は、基体上のレジスト等の付着物(被膜)を高速かつ残査なく除去することができる。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
AcCN:アセトニトリル
PrCN:プロピオニトリル
BuCN:ブチロニトリル
BzCN:ベンゾニトリル
EG:エチレングリコール
BP:ブトキシプロパノール
BEE:ブトキシエトキシエタノール
EtOH:エタノール
EC:炭酸エチレン
PC:炭酸プロピレン
AC:アセトン
DMC:炭酸ジメチル
実施例1〜12、比較例1〜4
シリコンウエハ上に、市販のKrF用有機系反射防止膜を2μmの厚みで塗布し、ベーク処理した。このシリコンウエハを耐圧容器に入れ、表1に示す除去用組成物及び二酸化炭素(炭酸ガス)を容器に導入した(除去用組成物濃度は二酸化炭素に対して30重量%とした)。70℃に加熱し、圧力を15MPaとして二酸化炭素を超臨界状態にした。所定時間維持した後、冷却しウエハを取り出した。これを水洗いし、乾燥した。表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、反射防止膜の除去状態を調べた。なお、SEMは日本電子社製JSM T220Aを用いた。
【0027】
反射防止膜の除去状態は以下の様に評価した。
○:除去性良好
×:大部分残存
各レジスト除去用組成とscCOの相溶解性は以下の様に評価した。
○:溶解
×:不溶
【0028】
【表1】

本発明の除去用組成物は、レジストの除去性に優れ、各成分と高圧流体のscCOとの相互溶解性にも優れていた。一方、比較例の除去用組成物では特にレジストの除去性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸及び有機ニトリル及び高圧流体を含んでなるレジスト及び/又は被膜残渣の除去用組成物。
【請求項2】
有機ニトリルがアセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリルから成る群より選ばれる少なくとも1種を含んでなる請求項1記載の除去用組成物。
【請求項3】
さらにアルコールを含んでなる請求項1〜請求項2記載のいずれかに記載の除去用組成物。
【請求項4】
アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、ブトキシプロパノールから選ばれる少なくとも1種を含んでなる請求項3に記載の除去用組成物。
【請求項5】
さらにケトン及び/又はエステルを含んでなる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の除去用組成物。
【請求項6】
ケトン及び/又はエステルが、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノンから成る群より選ばれる少なくとも1種を含んでなる請求項1に記載の除去用組成物。
【請求項7】
硫酸が0.5〜50重量%、有機ニトリルが5〜99重量%、アルコールが0〜30重量%、ケトン及び/又はエステルが0〜50重量%である請求項1〜請求項6のいずれかに記載の除去用組成物。
【請求項8】
高圧流体が二酸化炭素である請求項1〜請求項7のいずれかに記載の除去用組成物。
【請求項9】
高圧流体が、超臨界状態の二酸化炭素である請求項1〜請求項8のいずれかに記載の除去用組成物。
【請求項10】
高圧流体が1〜20MPaの圧力範囲である請求項1〜請求項9のいずれかに記載の除去用組成物。

【公開番号】特開2006−163022(P2006−163022A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355049(P2004−355049)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】