説明

除菌または除粒子による洗浄方法、およびそれに用いる装置

【課題】化学薬品を使用することなく、十分に洗浄効果を発揮することができる新規な方法、およびそのための装置を提供する。
【解決手段】水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を用いて、被処理物を除菌または除粒子により洗浄する方法、ならびに、被処理物を除菌または除粒子により洗浄処理するための処理槽と、前記処理槽に水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給する手段とを備える除菌または除粒子による洗浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を用いた除菌または除粒子による洗浄方法、ならびに当該方法に用いるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国内では輸入食物の増加に伴い、野菜や果実などに使用されるポストハーベスト農薬の残留による安全性の問題、あるいは、国内生産の農作物においても、ポストハーベスト農薬に比べ残留量は少ないとされているものの栽培時に使用されるプレハーベスト農薬の残留による安全性の問題が注目されている。一方で、農薬を使用しない無農薬栽培や有機農法栽培による農作物も年々増加してきている。これらの農作物は、農薬の残留は少ないものの有害な細菌が付着していることがあり、決して安全であるとは限らない。
【0003】
したがって、食品の安全性、衛生の確保の面で農作物を十分に洗浄することが重要となってくる。
【0004】
従来においては、化学薬品を用いた洗浄殺菌が行なわれてきたが、人体に影響が懸念されており、近年では人体に影響を与えない仕方で十分に食品を洗浄殺菌する方式が種々提案されている。その1つとしてヒドロキシラジカルを用いた洗浄方法が提案されている。ヒドロキシラジカルは、たとえばオゾン水に紫外線を照射する方法によって生成される。
【0005】
しかしながら、ヒドロキシラジカルは寿命が短く(10-6-1-1)、ヒドロキシラジカルを含んだ水を製造し、系外に取り出して被処理物に作用させたとしても、十分には効果が得られにくい。そのため、オゾン水と処理対象物に接触させた状態で紫外線を照射することが必要であったり、化学薬品を使用するヒドロキシラジカル生成法を利用することが必要であった。しかし、オゾン水と処理対象物に接触させた状態で紫外線を照射すると、オゾン水による対象物の劣化、作業環境中へのガス漏洩が起こり、また水溶液中の汚れで紫外線が透過しなかったり、照射面のみにしかヒドロキシラジカルが生成しないなどの問題がある。一方、化学薬品を使用するヒドロキシラジカル生成法を利用する場合には、後洗浄が必要であったり、化学薬品を使用すること自体が嫌われるケースもある。
【0006】
また、たとえば特開2001−231525号公報(特許文献1)には、シャワー方式としてヒドロキシラジカルを含む水溶液を被処理物に高速で衝突させることによって、より効率的に殺菌を行なう方法が開示されている。しかし、上述したようなヒドロキシラジカルの短い寿命の問題がある。
【0007】
またたとえば特開2005−237230号公報(特許文献2)には、オゾン水洗浄水槽、オゾン水殺菌水槽、オゾン水鮮度維持水槽を個別に設けることで、食品から放出される有機物によるオゾン消費を抑える方法が開示されている。しかし、この特許文献2に開示された方法は、2段または3段処理が必要であるため、装置が大きくなってしまうという不具合がある。
【特許文献1】特開2001−231525号公報
【特許文献2】特開2005−237230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、化学薬品を使用することなく、十分に洗浄効果を発揮することができる新規な方法、およびそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を用いて、被処理物を除菌または除粒子により洗浄する方法である。
【0010】
本発明の方法に用いる水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水は、酸化還元電位が800mVから200mVまで100mV/秒以下の低下率での低下を示すものであることが好ましい。
【0011】
また本発明の方法に用いる前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水は、水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させることにより作製されたものであるか、水素原子および/または炭素原子を含有するガスを混合させた水中でヒドロキシラジカルを発生させることにより作製されたものであることが、好ましい。
【0012】
本発明の方法は、浸漬方式またはシャワー方式で、前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を被処理物に接触させることが好ましい。中でも、シャワー方式で、前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を被処理物に接触させることがより好ましい。
【0013】
また本発明は、被処理物を除菌または除粒子により洗浄処理するための処理槽と、前記処理槽に水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給する手段とを備える、除菌または除粒子による洗浄装置を提供する。
【0014】
本発明の装置において、前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給する手段は、水溶性有機物を含有する水を供給する手段と、当該水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させる手段とを備えるか、または、水中に水素原子および/または炭素原子を含有するガスを混合する手段と、当該ガスを混合させた水中でヒドロキシラジカルを発生させる手段とを備えることが好ましい。
【0015】
また本発明の装置は、前記水溶性有機物を含有する水または水素原子および/または炭素原子を含有するガスが混合された水が供給され、その内部に前記ヒドロキシラジカルを発生させる手段が組み込まれてなるシャワーヘッドを備え、当該シャワーヘッドを介して水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水がシャワー方式にて処理槽に供給されるように構成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ヒドロキシラジカルを起源として連鎖的に発生したラジカルを用いることにより、被処理物に対して十分な除菌または除粒子による洗浄効果を発揮する。また、本発明で用いる水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水は、被処理物に対してシャワー方式にて作用させても十分に効果を発揮できるため、常に新鮮な水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給することができ、均一で高い除菌または除粒子による洗浄効果を得ることができる。さらに、本発明ではラジカルの化学的な作用で除菌、除粒子して洗浄するため、処理環境や被処理物に対する悪影響が少ないという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、水素ラジカル(H・)および/または炭素ラジカル(R・)を含む水(以下、「ラジカル水」と呼ぶ)を用いて、被処理物を除菌または除粒子により洗浄する方法である。本発明で用いるラジカル水は、水素ラジカルおよび炭素ラジカルのうち少なくともいずれかを含んでいればよい。好ましくは、本発明におけるラジカル水は水素ラジカル、炭素ラジカルの両方を含む水である。なお、水中に水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルが含まれていることは、フリーラジカルモニタJES−FR30(日本電子社製)を用いた電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)(Electron Paramagnetic Resonanceとも呼ばれる。)に供し、得られたESRチャートから、水素ラジカル、炭素ラジカルの存在を示すピークが存在しているか否かで確認することができる。図1には、本発明の方法に用いられるラジカル水(後述する実験例2で得られた水道水を用いた場合のラジカル水)の一例についてのESRチャートを示している。なお、本明細書中において、「炭素ラジカル」は、炭素または炭素化合物の炭素原子部分がラジカル化した有機化合物を指すものとする。
【0018】
本発明は、上述したようなラジカル水を用いて、被処理物の除菌または除粒子により洗浄を行なう方法である。ここで、「除菌」とは、処理対象物から菌を取り除くことを意味する。また、「除粒子」とは、処理対象物からゴミ、汚れなどの粒子分を取り除くことを意味する。本明細書中でいう「洗浄」は、いわゆる洗浄の効果に加え、上述した除菌または除粒子の効果を併せて発揮し得る(これらの効果を総括して「洗浄効果」とも呼ぶ)処理を指すものである。
【0019】
本発明の方法において、被処理物としては、特に制限されるものではないが、有機物を多く含むような被処理物、たとえばカット野菜、鶏卵、海産物、食品製造機器、医療器具、リネン、半導体、電子部品洗浄などに特に好適に適用することができる。また、金属、高分子化合物(特には親水性の低い(疎水性の)フッ素樹脂やシリコーン化合物など)などの材質にて形成された被処理物にも好適に適用することができる。
【0020】
本発明で用いるラジカル水において、連鎖反応により順次水素ラジカル、炭素ラジカルが生成されるため、寿命が10-6-1-1であるヒドロキシラジカル(OH・)と比較して、長い時間、除菌または除粒子効果を発揮し得るものである。このような本発明におけるラジカル水は、ヒドロキシラジカルを含む水のような強力な酸化力、殺菌能力はないが、未処理の水(たとえば水道水)とは電気的な性質が異なるため、付着した粒子や菌の電荷を中和し、除去、再付着しにくくさせるように作用する。したがって、本発明におけるラジカル水は、被処理物に影響を与えることなく、上述したような除菌または除粒子効果を発揮し得、さらにこの効果は、生成したラジカル水を生成のための系の外に取り出して使用した場合であっても、実用的な時間レベルにおいて維持される。このため、このようなラジカル水は、後述するように、浸漬方式と比較して洗浄効果の高いシャワー方式に適用しても、当該効果を維持することができるという利点がある。さらに、本発明で用いるラジカル水はオゾンを含まないため、処理環境や被処理物に悪影響を与えることなく除菌または除粒子による洗浄処理を施すことができる。
【0021】
本発明の方法において、前記ラジカル水は、酸化還元電位が800mVから200mVまで100mV/秒以下の低下率での低下を示すものであることが好ましい。酸化還元電位の低下率が100mV/秒を超えるラジカル水を用いる場合には、水素ラジカル、炭素ラジカルの含有量が低いと考えられ、洗浄効果が低くなる傾向にあるためである。上記酸化還元電位の低下率は10mV/秒以下であると、より優れた洗浄効果を示すため、より好ましい。
【0022】
なお、上述したラジカル水の酸化還元電位の低下率の測定には、反応塔において、オゾンが混合された水溶性有機物を含有する水(ヒドロキシラジカルを含有する)に、紫外線ランプにて紫外線を照射した直後に生成されたラジカル水を、ポータブルORP計RM−20P(東亜ディーケーケー社製)のORP電極を差し込んだ100ml容のビーカーに供給するように構成されたこと以外は、後述する図2に示す例の本発明の洗浄装置と同様の構成を備える装置を用いる。まず、紫外線照射直後のラジカル水を、5リットル/分の流量にて、上記ORP電極を差し込んだ100ml容のビーカーに供給してオーバーフローさせた後、当該ビーカーを装置の系外に外し、ビーカーへのラジカル水の供給を停止する。そして、ポータブルORP計RM−20Pにて測定された、ビーカーを系外に外した直後、および10秒後のORP値から、1秒あたりの酸化還元電位の低下率を算出する。
【0023】
また本発明の方法において用いられるラジカル水は、水素ラジカルおよび炭素ラジカルの少なくともいずれかを含むように作製されたものであれば、どのような方法にて作製されたものであってもよい。当該ラジカル水の好適な作製方法の1つとして、たとえば、水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカル(OH・)を発生させ、このヒドロキシラジカルを起源とする水溶性有機物との連鎖的な反応により水素ラジカルおよび炭素ラジカルを生成させる方法が例示される。すなわち、いわゆる促進酸化処理にてヒドロキシラジカルを発生させ、このヒドロキシラジカルを直接処理に用いるのではなく、ヒドロキシラジカルを起源として炭素ラジカルおよび水素ラジカルを連鎖的に発生させ、この二次的に発生した炭素ラジカルおよび/または水素ラジカルを含む水(本発明におけるラジカル水)を作製する方法である。
【0024】
なお本明細書中における「水溶性有機物」としては、公知の指定食品添加物や既存食品添加物を好適に用いることができ、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、過酸化水素、酢酸エチルなどが挙げられる。なお、本明細書でいう「水溶性有機物を含有する水」には、水道水(TOC<5mg/h)も包含される。
【0025】
上述したような水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させる促進酸化処理の方法としては、たとえば自体公知の方法であるオゾン/紫外線併用法が挙げられる。オゾン/紫外線併用法でのヒドロキシラジカルの生成経路としては、たとえば、以下のようにオゾンが処理液中の水と反応して自己分解によりHO2ラジカルを経由してOHラジカルが発生する経路が想定される。
【0026】
3+H2O→HO3++OH-
HO3++OH-→2HO2
3+2HO2・→OH・+2O2
また、オゾン/紫外線併用法でのヒドロキシラジカルの生成経路には、以下のようにオゾンに紫外線を照射することにより過酸化水素を経由してOHラジカルを生成する経路も想定される。
【0027】
3+H2O+hν→H22+O2
22+hν→2OH・
このような経路により発生したヒドロキシラジカルは、以下のようにして、水中の水溶性有機物(R)と反応し、当該水溶性有機物から水素を引き抜く形でラジカル反応が開始される。
【0028】
RH+OH・→R・+H2
さらに生成した炭素ラジカルR・は、水中の他の水溶性有機物(R’)と反応し、以下のようにして連鎖的に炭素ラジカルや水素ラジカルが生成される。
【0029】
R・+R’H→RH+R’・
R・+R’H→RR’+H・
このように水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させることにより水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を作製する場合、水中における水溶性有機物の好適な濃度は、水溶性有機物の種類、ラジカル水による処理対象によって様々であり、特に制限されるものではないが、TOC(全有機炭素)が0.01〜20mg/Lの範囲内であることが好ましく、0.1〜10mg/Lの範囲内であることがより好ましい。
【0030】
なお、本発明におけるラジカル水は、水(好ましくは水道水、純水または超純水)に水素ガス、炭酸ガスなど水素原子および/または炭素原子を含有するガスを混合し、当該ガスが混合された水中でヒドロキシラジカルを発生させることによって、水素ラジカル、炭素ラジカルを発生させたものであってもよい。このように超純水中の溶存ガスにより水素ラジカル、炭素ラジカルを発生させた水も本発明におけるラジカル水に包含される。
【0031】
水素原子および/または炭素原子を含むガスを水に混合し、当該水中でヒドロキシラジカルを発生させることで、本発明におけるラジカル水を作製する場合、水中における水素原子および/または炭素原子を含むガスの好適な濃度は、ガスの種類、ラジカル水による処理対象によって様々であり、特に制限されるものではないが、1〜50ppmの範囲内であることが好ましく、1〜20ppmの範囲内であることがより好ましい。
【0032】
上述したラジカル水を用いた本発明の除菌または除粒子による洗浄方法において、当該ラジカル水と被処理物とを接触させる方法について特に制限されるものでないが、浸漬方式またはシャワー方式により上記接触を行なうことが好ましい。中でも、被処理物がたとえば千切りキャベツなど液(浸出液)を浸出させるカット野菜などである場合であっても、洗浄効果が阻害されにくく、短時間で効率的な洗浄を行なうことができるシャワー方式にて本発明におけるラジカル水と被処理物とを接触させることが好ましい。なお、本発明におけるラジカル水は、上述したように連鎖反応により順次ラジカル生成が継続されるため、生成後に当該ラジカル水を生成するための系の外に取り出して浸漬方式またはシャワー方式にて被処理物と接触させるようにしても十分に洗浄効果を発揮することができ、特にシャワー方式において好適に適用することができる。
【0033】
図2は、本発明の好ましい一例の除菌または除粒子による洗浄装置1を模式的に示す図である。本発明の装置1は、被処理物を除菌または除粒子により洗浄処理するための処理槽2と、前記処理槽2に、上述したラジカル水(水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水)を供給する手段とを基本的に備える。このような基本構成を備える装置1により、処理槽2内に被処理物を入れてラジカル水と接触させるようにすることで、上述した本発明の除菌または除粒子による洗浄方法を行なうことができる。
【0034】
本発明の装置において、ラジカル水を供給する手段は、水溶性有機物を含有する水を供給する手段と、当該水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させる手段とを備えることが好ましい。これらの手段をさらに備えることによって、上述したように、水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させ、このヒドロキシラジカルを起源として水溶性有機物と連鎖的に反応させることで、水素ラジカルおよび炭素ラジカルを水中で発生させ、本発明におけるラジカル水を好適に作製することができる。また、本発明の装置において、ラジカル水を供給する手段は、水溶性有機物を含有する水を供給する手段の代わりに、水に水素原子および/または炭素原子を含有するガス(たとえば水素ガスや炭酸ガスなど)を混合する手段を備える構成であってもよく、このような構成であっても水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む本発明におけるラジカル水を好適に作製することができる。
【0035】
前記ラジカル水を供給する手段が、水溶性有機物を含有する水を供給する手段と、当該水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させる手段とを備える場合、水溶性有機物を含有する水を供給する手段は、図2に示す例のように、原水を供給する管路3と、管路3を介して供給された水溶性有機物を含有する水を貯留するためのタンク4と、管路3の中途に連結され、必要に応じて水溶性有機物を原水に添加するための薬注装置5とを備えるように実現されてなることが好ましい。このような装置1において、管路3に供給する原水としては、純水や超純水、予め調製された水溶性有機物を含有する水(水道水を含む)などを用いることができる。水道水など予め調製された水溶性有機物を含有する水を供給する場合には、薬注装置5による水溶性有機物の添加を行なわずにタンク4に供給するようにしてもよい。また、図2に示す例のように、前記管路3の中途(薬注装置5は連結された部分とタンク4との間)には、必要に応じて水中の水溶性有機物の濃度を測定するための濃度計6(たとえばUV有機物計UVAS−sc(セントラル科学社製)など)が設けられていてもよい。なお、ラジカル水を供給する手段が、水に水素原子および/または炭素原子を含有するガスを混合する手段を備える場合には、たとえば図2に示した例の薬注装置5により必要な水素原子および/または炭素原子を含有するガスを管路3に供給された原水に添加するようにして実現することができる。この場合、原水としては純水または超純水を用いることが好ましい。
【0036】
また図2に示す例では、前記ヒドロキシラジカルを発生させる手段として、酸素または空気を原料としてオゾンを発生させるオゾン発生器7と、前記タンク4から水溶性有機物を含む水、または、水素原子および/または炭素原子を含むガスを混合させた水を汲み出し、オゾン発生器7で発生させたオゾンと混合させるためのミキシングポンプ8と、ミキシングポンプ8内で混合された水(ヒドロキシラジカルが含まれる)に紫外線を照射するための紫外線ランプ9aをその内部に収容した反応塔9とを備えるように実現される。ここで、ミキシングポンプ8としては、オゾン発生器7で発生させたオゾンをマイクロバブル状に混相流として、タンク4より汲みだした水溶性有機物を含有する水、または、水素原子および/または炭素原子を含むガスを混合させた水に対し過飽和で吹き込むことができるものを用いることが好ましい。このようにオゾンを溶解度以上に前記水溶性有機物を含有する水、または、水素原子および/または炭素原子を含むガスを混合させた水に吹きこむことで、多量のヒドロキシラジカルを発生させることができるためである。こうしてヒドロキシラジカルを発生させた水に、さらに反応塔9内で紫外線ランプ9aにより紫外線を照射してヒドロキシラジカルをより多く発生させ、上述したようなヒドロキシラジカルとの連鎖的な反応によって、水中に水素ラジカルおよび炭素ラジカルを発生させることで、本発明におけるラジカル水が作製される。
【0037】
図2に示すような構成の装置1において、オゾン発生器7および紫外線ランプ9aは従来公知のオゾン発生器および紫外線ランプ(たとえばオゾン発生器としては汎用型水冷式オゾン発生器ED−OG−G1(エコデザイン社製)など、紫外線ランプとしては低圧水銀ランプSUV−40(セン特殊光源社製)など)を適宜組み合わせて用いることができ、特に制限されるものではない。また本発明の装置1は、図2に示す例のように、ミキシングポンプ8と反応塔9とを連結する管路10の中途に、オゾンの濃度を計測するための濃度計11(たとえばインライン型溶存オゾンモニタEL−600(荏原実業社製)など)が設けられていてもよい。
【0038】
紫外線ランプ9aにより紫外線を照射後のラジカル水は、その少なくとも一部である必要量が管路12を介して処理槽2に供給され、残りは管路13を介してタンク4に戻される。本発明の装置では、浸漬方式、シャワー方式のいずれの方式にてラジカル水を処理槽2内の被処理物と接触させるように実現されてもよい。図2には、シャワー方式にてラジカル水を被処理物と接触させるように、管路12の先端がシャワーヘッド14に連結されており、当該シャワーヘッド14を介してシャワー状のラジカル水15が処理槽2に注がれるように構成された例を示している。シャワーヘッド14としては、従来公知の適宜のシャワーヘッドを特に制限なく用いることができるが、処理槽2内に入れた被処理物の全体にシャワー状のラジカル水を注ぐことができるようなものを用いることが望ましい。また本発明の装置1は、図2に示す例のように、反応塔9とシャワーヘッド14との間を連結する管路12の中途に、酸化還元電位計16(たとえば工業用ORP計HDM−138A(東亜ディーケーケー社製)など)が設けられていてもよい。
【0039】
また本発明の装置1は、処理槽2内のラジカル水を必要に応じて循環させ得るように構成されていてもよい。図2には、処理槽2内のラジカル水は、必要に応じ管路17を介して排水され得るように構成され、また管路17に中途に、処理槽2から排水されたラジカル水の一部をタンク4に循環させるための管路18が連結されてなる例を示している。また好ましくは、水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させることにより水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を作製する場合には、図2に示す例のように、管路17の中途(処理槽2と管路18が連結された部分との間)に濃度計19(たとえばUV有機物計UVAS−sc(セントラル科学社製)など)が設けられ、濃度計19により処理後のラジカル水中の水溶性有機物の濃度を測定し、測定値が管路3の中途に設けられた濃度計6により測定された水溶性有機物の濃度以下であれば排水し、濃度計6により測定された水溶性有機物の濃度以上であれば循環するように構成される。
【0040】
図3は、本発明の好ましい他の例の洗浄装置21を模式的に示す図であり、図4はその一部を拡大して示す斜視図である。図3および図4に示す例における装置21には、シャワー方式でラジカル水を被処理物に接触させる場合に特に好適な構成を示している。装置21においては、処理槽22内に、上方から下方へ向かって水平方向に関する面積が徐々に小さくなるように(たとえばすり鉢状)に形成された内部空間を有するバケット23が設けられ、当該バケット23内にシャワーヘッド24を介してシャワー状のラジカル水25が供給されるように構成されている。バケット23は、その底面26のみがたとえばメッシュ状に形成されており、また、処理槽22のバケット23の底面26側には、ポンプ28を介した管路29が連結され、バケット23内に一定量のラジカル水27を留めつつ、ポンプ28による汲み出しによって底面26から順次ラジカル水27が排水されるように構成されている。これによって、バケット23内のラジカル水27は上方から下方へ向かった水流が形成されることになり、シャワー方式にて被処理物を処理することに加え、被処理物の全体にわたってラジカル水を接触することができるため、格段に優れた洗浄効果を得ることができる。なお、管路31の先には、図2に示した例の装置と同様の水溶性有機物を含有する水を供給する手段、およびオゾン発生器などを連結することができる。
【0041】
また、図3および図4に示す例の装置21においては、シャワーヘッド24の内部に紫外線ランプ30が組み込まれ、このシャワーヘッド24に管路31を介して、たとえばオゾンを混合させた水溶性有機物を含有する水が供給されるように構成されている。シャワーヘッド24内の紫外線ランプ30により、シャワーヘッド24に供給されたオゾンを混合させた水溶性有機物を含有する水でさらにヒドロキシラジカルが発生し、このヒドロキシラジカルを起源として水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む本発明におけるラジカル水を常に新鮮な状態で被処理物の除菌または除粒子による洗浄処理に供することができる。
【0042】
また、図3に示す例の装置21には、バケット23の底部からバブリングのためのエアを供給するためのバブリング用エア供給路32が設けられている。このようなバブリング用エア供給路32により、被処理物を一定時間処理後、バケット23の底部からラジカル水27にバブリング用エアを供給することで、バケット23内で被処理物を反転させ、その後、さらに被処理物を一定時間処理するようにすることもできる。このようにすることで、被処理物の全体にわたって均一にラジカル水を接触させ、除菌または除粒子による洗浄処理を行なうことができる。
【0043】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実験例1>
吸光度測定用の石英セルを用いて、水中の水溶性有機物の濃度と生成されたラジカル種との関係を検証するための実験を行なった。ラジカルの生成に供する水として、超純水、1%エタノール水溶液、5%エタノール水溶液、10%エタノール水溶液および20%エタノール水溶液をそれぞれ用い、オゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを10分間照射することによってラジカル水を生成させた。生成後すぐに、それぞれのラジカル水を、フリーラジカルモニタJES−FR30(日本電子社製)を用いた電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)に供し、得られたESRチャートより、ラジカル水中のラジカル種および含有比率を検出した。
【0045】
図5は、実験例1の結果を示すグラフである。図5には、超純水、1%エタノール水溶液、5%エタノール水溶液、10%エタノール水溶液および20%エタノール水溶液を用いて得られたラジカル水について、ヒドロキシラジカル(OH・)、水素ラジカル(H・)および炭素ラジカル(R・)のESRでのピーク強度を示している。図5から、水溶性有機物を含まない超純水を用いたラジカル水ではヒドロキシラジカルのみが検出されているのに対し、エタノールの濃度が高くなるに従ってヒドロキシラジカルの生成率は減少し、水素ラジカルおよび炭素ラジカルの比率が増加していることが分かる。
【0046】
<実験例2>
図2に示した本発明の装置を用いて、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによって、ラジカル水を生成させた。生成後すぐに、当該ラジカル水をフリーラジカルモニタJES−FR30(日本電子社製)を用いた電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)に供した。図1には、実験例2で得られたESRチャートを示している。
【0047】
図1のESRチャートでは、水素ラジカルの存在を示すピークおよび炭素ラジカルの存在を示すピークが見られる一方で、ヒドロキシラジカルの存在を示すピークは見られない。このことから、オゾンおよび紫外線照射により生成したヒドロキシラジカルが、水中の水溶性有機物(本実験例では水道水中に含まれる有機物)と反応して、水素ラジカルおよび炭素ラジカルを発生していることが示唆される。
【0048】
<実験例3>
図2に示した本発明の装置を用いて、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによって、ラジカル水を生成させた。このようにして生成したラジカル水について、工業用ORP計HDM−138A(東亜ディーケーケー社製)を用いて、酸化還元電位(ORP)の経時変化を計測した。また、比較実験としてオゾン水(3ppm)についての酸化還元電位(ORP)の経時変化も計測した。
【0049】
図6は、実験例3の結果を示すグラフであり、縦軸は酸化還元電位(mV)、横軸は経過時間(秒)である。図6に示されるように、ラジカル水は生成直後の酸化還元電位が725mVであるのに対し、約1分経過後には324mVに低下した。一方、オゾン水は計測直後から約1分経過後でも、酸化還元電位は975mVであり変化がみられなかった。
【0050】
<実験例4>
ラジカル水の酸化還元電位と殺菌効果との関係を検証する実験を行なった。大葉からリン酸バッファ生理食塩水で抽出した菌液1mLを液体培地(ニュートリエントブロス)100mLに入れ、37℃で24時間振盪培養し、この培養液1mLと各試料溶液100mLを滅菌バッグに入れ、良く振り混ぜた後、平板混釈法により一般生菌数を算出することによって、各試料溶液の殺菌能力を調べた。試料溶液としては、図2に示した本発明の装置を用いて、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによって、ラジカル水を生成後、酸化還元電位がそれぞれ700mV、600mV、450mV、350mV、300mVおよび250mVの時点でのラジカル水をそれぞれ用いた。また、比較実験として、培養液(原液)単独、水道水、オゾン水(3ppm)および次亜塩素酸水(200ppm)を試料溶液として用いた場合についての殺菌能力についても同様の実験を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から、水道水を試料溶液として用いた場合には、一般生菌数は希釈により培養液(原液)単独を試料溶液として用いた場合の約1/100になっており、殺菌効果はみられないことが分かる。また、ラジカル水では、酸化還元電位の値に関係なく水道水と同等の一般生菌数が検出され、このことから、当該ラジカル水にはオゾン水や次亜塩素酸水のような殺菌効果はないものと考えられる。
【0053】
<実験例5>
ラジカル水の酸化還元電位と洗浄効果との関係を検証する実験を行なった。図2に示した装置を用い、処理槽(5L)に大葉を約5gを入れ、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによってラジカル水を1L/分で生成後、酸化還元電位が450mV、300mV、270mVおよび250mVの時点のラジカル水を処理槽に浸漬方式で供給し、ラジカル水を被処理物である大葉と約5分間接触させた後、実験例4と同様の方法にて一般生菌数を算出した。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。また、比較実験として、水道水または次亜塩素酸水(200ppm)で同様に洗浄を行なった場合、ならびに洗浄を行なわなかった場合についても、同様に一般生菌数を算出した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から、酸化還元電位が450mV以上のラジカル水が、次亜塩素酸とほぼ同様の洗浄能力を発揮することが確認された。
【0056】
<実験例6>
図2に示した装置を用いて、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによってラジカル水を3L/分で生成し、生成直後の酸化還元電位が600〜700mVの時点でラジカル水が被処理物に接触するように、シャワー方式にて処理槽内の被処理物に5分間接触させる処理を行なった。被処理物としては、カット野菜である青ねぎ(初発菌数:1.2×105個/g)、きゅうり(初発菌数:6.1×104個/g)、人参(初発菌数:1.4×104個/g)、レタス(初発菌数:9.0×104個/g)、大葉(初発菌数:1.4×107個/g)および大根(初発菌数:3.3×103個/g)をそれぞれ用い、大葉については約5g、大葉以外の被処理物については約25gを処理槽(5L)に入れた。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。また、比較実験として、一般的に野菜殺菌に使用されている200mg/Lの次亜塩素酸水溶液を用い、同様にシャワー方式にて5分間各被処理物と接触させた。処理後、各被処理物について、実験例4と同様にして一般生菌数を算出した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3から、本発明のラジカル水では、次亜塩素酸水溶液とほぼ同様の洗浄能力を発揮することが確認された。
【0059】
<実験例7>
図2に示した装置を用いて、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによってラジカル水を3L/分で生成し、生成直後の酸化還元電位が600〜700mVの時点でのラジカル水が被処理物に接触するように、シャワー方式にて除菌効果を確認した。滅菌した包丁で魚を切断して菌を付着させたものを、上記ラジカル水とシャワー方式で接触させ、5秒後および10秒後の一般生菌数を、ふき取り試験法にて算出した。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。また比較実験として、水道水、70%エタノール水溶液およびオゾン水(3ppm)を用いて、同様の包丁をシャワー方式で接触させ、5、10秒後の一般生菌数をふき取り試験法にて測定した。
【0060】
図7は、実験例7の結果を示すグラフであり、未洗浄の場合、ならびに、水道水(5秒後、10秒後)、70%エタノール水溶液(5秒後、10秒後)、ラジカル水(5秒後、10秒後)、オゾン水(5秒後、10秒後)の各場合についての一般生菌数(個/包丁)を示している。図7から、ラジカル水が、一般に刃物の除菌に使用されている70%エタノール水溶液とほぼ同等の除菌能力を有していることが確認された。
【0061】
<実験例8>
被処理物として浸出液の多い千切りキャベツを用いて、浸漬方式およびシャワー方式で除菌処理を行なった場合の効果を比較する実験を行なった。浸漬方式の処理は、図2に示した装置を用い、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによって3L/分で生成直後の酸化還元電位が400〜500mVの時点でのラジカル水を、処理槽(5L)に入れ、これに約25gの千切りキャベツを浸漬させて行なった。またシャワー方式の処理は、同様に生成させたラジカル水をシャワーヘッドに供給し、処理槽(5L)内に入れた約25gの千切りキャベツに、シャワー状のラジカル水を接触させるようにした。浸漬方式、シャワー方式のそれぞれについて、処理開始1分間後、3分間後、5分間後および10分間後の一般生菌数を実験例4と同様にして算出した。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。また、比較実験として、水道水、200mg/Lの次亜塩素酸水溶液を用いてそれぞれ5分間の浸漬方式、シャワー方式での処理を行ない、処理後の一般生菌数も算出した。
【0062】
図8は、実験例8の浸漬方式についての結果を示すグラフであり、また図9は、実験例8のシャワー方式についての結果を示すグラフである。図8、9には、それぞれ、未洗浄の場合、ならびに、水道水(5分間)、ラジカル水(1分間、3分間、5分間および10分間)、次亜塩素酸水溶液(5分間)の処理後の一般生菌数(個/g)を示している。図8および図9から、浸漬方式では、次亜塩素酸水溶液を用いた5分間の浸漬方式の処理とほぼ同等の効果を得るために約10分間必要であるのに対し、シャワー方式では、約3分間の処理で次亜塩素酸水溶液を用いた5分間のシャワー方式の処理とほぼ同等の結果が得られたことが分かる。
【0063】
<実験例9>
図2に示した装置を用い、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによって生成直後の酸化還元電位が400〜500mVの時点でのラジカル水を用いて、洗浄効果を評価する実験を行なった。被処理物としては、綿100%厚地の綿布を約20cm角にカットしたものに、各汚れ物質(ダイヤペースト(日本化学繊維協会規格、防汚加工評価用試薬)、醤油(キッコーマン製、濃い口)、ソース(KYK製)、ケチャップ(カゴメ製)、コーヒー(カルピス株式会社製缶コーヒー)を、適当量ずつ別々に塗布後、約2時間風乾させたものを用いた。ラジカル水を処理槽(20L)とタンクとの間を循環させて、処理槽内のラジカル水を攪拌させ、このラジカル水に上記綿布1枚を20分間浸漬させた。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。また、比較実験として、同じ装置を用い、水道水を用いた場合、洗剤(トップ、ライオン株式会社製)を10g入れた水道水を用いた場合についても、処理槽とタンクとの間で循環させて、20分間の浸漬処理を行なった。なお、洗剤を用いた場合には、浸漬処理後、流水で約3分間のすすぎ処理を行なった。
【0064】
上記処理でそれぞれ得られた綿布について、汚れ物質の状態を目視で観察し、洗浄効果を評価した。水道水で洗浄した場合には、醤油の汚れは落ちていたが、他の汚れ物質は残っていた。また洗剤を入れた水道水で洗浄した場合には、水道水で洗浄を行なった場合と比較して、全体的に汚れ物質は落ちていたが、依然として醤油以外の汚れは残っていた。なお、洗剤を入れた水道水で洗浄した場合には、漂白効果により布全体の白度は向上していた。これらに対し、ラジカル水で洗浄した場合には、醤油の汚れ以外にも、洗剤を入れた水道水で洗浄した場合でも落ちていなかったソースやケチャップの汚れも落ちていた。
【0065】
<実験例10>
図2に示した装置を用い、水道水にオゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによってラジカル水を3L/分で生成し、生成直後の酸化還元電位が600〜700mVの時点でのラジカル水が被処理物に接触するように、シャワー方式にて除菌効果を確認した。被処理物としては、特許第2983438号の記載に従い、PFA製のフィルムに、紫外線レーザ光にてアブレーションを起こさせる芳香族化合物を塗布し、エキシマレーザを照射することで、表面にカーボン粒子を付着させたフィルムを用いた。上記ラジカル水をシャワーヘッドに供給し、処理槽内に入れた被処理物にシャワー状のラジカル水を注ぎ、約10分間シャワー方式の処理を行なった。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。比較実験として、水道水を同様にシャワー状にして約10分間被処理物に注ぐ処理を行なった。上記実験は、5つの被処理物について行ない、画像処理式接触角計CA−X型(協和界面科学株式会社製)を用いて処理後の各被処理物表面の接触角を算出した。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
表4から、ラジカル水では、水道水の場合と比較して大きく接触角が低下しており、除粒子効果を有することが確認された。なお、ラジカル水が水道水以上の洗浄能力を有していることは、目視でも明らかに確認できた。
【0068】
<実験例11>
図2に示した装置を用い、水道水、超純水を原水として用い、炭酸ガスを20ppmとなるように調製した後、オゾンを溶解度以上に過剰に吹き込んだ後、紫外線ランプを照射することによってラジカル水を3L/分で生成し、生成直後の酸化還元電位が400〜500mVの時点でのラジカル水が被処理物に接触するように、浸漬方式にて除菌効果を確認した。被処理物としては大葉を用い、ラジカル水を収容した5Lの処理槽内に約5gの大葉を入れ、5分間浸漬させて洗浄処理を行なった。なお、ラジカル水の酸化還元電位の低下率は5mV/秒であった。また、比較実験として、水道水を用いて同様の洗浄処理を行なった。処理後、大葉から菌を抽出し、平板混釈法により一般生菌数をそれぞれ算出した。
【0069】
図10は、実験例11の結果を示すグラフであり、未洗浄の場合、ならびに、水道水、水道水を用いて作製したラジカル水、超純水を用いて作製したラジカル水の処理後の一般生菌数(個/g)を示している。図10から、水道水を原水として作製したラジカル水と比較して、超純水を原水として作製したラジカル水は洗浄効果は若干低いが、水道水を用いた場合と比較すると、水道水、超純水のいずれを原水としたラジカル水でもともに高い洗浄効果が得られたことが分かる。
【0070】
今回開示された実施の形態および実験例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の除菌または除粒子方法に好適に用いられるラジカル水の一例のESRチャートを示す図である。
【図2】本発明の好ましい一例の洗浄装置1を模式的に示す図である。
【図3】本発明の好ましい他の例の洗浄装置21を模式的に示す図である。
【図4】図3に示した装置21の一部を拡大して示す斜視図である。
【図5】実験例1の結果を示すグラフである。
【図6】実験例3の結果を示すグラフである。
【図7】実験例7の結果を示すグラフである。
【図8】実験例8の浸漬方式についての結果を示すグラフである。
【図9】実験例8のシャワー方式についての結果を示すグラフである。
【図10】実験例11の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1,21 洗浄装置、2,22 処理槽、3 管路、4 タンク、5 薬注装置、6 濃度計、7 オゾン発生器、8 ミキシングポンプ、9 反応塔、9a 紫外線ランプ、10 管路、11 濃度計、12 管路、13 管路、14 シャワーヘッド、15 ラジカル水、16 酸化還元電位計、17 管路、18 管路、19 濃度計、23 バケット、24 シャワーヘッド、25 ラジカル水、26 バケット底面、27 ラジカル水、28 ポンプ、29 管路、30 紫外線ランプ、31 管路、32 バブリング用エア供給路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を用いて、被処理物を除菌または除粒子により洗浄する方法。
【請求項2】
水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水は、酸化還元電位が800mVから200mVまで100mV/秒以下の低下率での低下を示すものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水が、水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させることにより作製されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水が、水素原子および/または炭素原子を含むガスを混合させた水中でヒドロキシラジカルを発生させることにより作製されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
浸漬方式またはシャワー方式で、前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を被処理物に接触させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
シャワー方式で、前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を被処理物に接触させることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
被処理物を除菌または除粒子により洗浄処理するための処理槽と、
前記処理槽に水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給する手段とを備える、除菌または除粒子による洗浄装置。
【請求項8】
前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給する手段が、水溶性有機物を含有する水を供給する手段と、当該水溶性有機物を含有する水中でヒドロキシラジカルを発生させる手段とを備える、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水を供給する手段が、水に水素原子および/または炭素原子を含むガスを混合させる手段と、当該ガスを混合させた水中でヒドロキシラジカルを発生させる手段とを備える、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記水溶性有機物を含有する水、または、水素原子および/または炭素原子を含有するガスを混合させた水が供給され、その内部に前記ヒドロキシラジカルを発生させる手段が組み込まれてなるシャワーヘッドを備え、当該シャワーヘッドを介して水素ラジカルおよび/または炭素ラジカルを含む水がシャワー方式にて処理槽に供給されるように構成されたものである、請求項7〜9のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−326096(P2007−326096A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125888(P2007−125888)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】