説明

陽極酸化皮膜を用いる触媒体

【課題】触媒として用いれば、比較的低温でも活性がありしかも貴金属の使用量が低い、ディーゼルエンジン等から発生する窒素酸化物を低減する効果がある触媒体の提供。
【解決手段】
アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)およびガドリニウム(Gd)からなる群から選ばれる少なくとも一種、並びにパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)およびガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種を担持してなる触媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃ガス中の窒素酸化物を処理する触媒に関し、特にアルミニウムの陽極酸化皮膜からなる触媒体に関する。本発明の触媒体は廃ガス中の窒素酸化物を処理する浄化装置に用いられる。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べ、燃焼効率が高く、トルク等の動力性能が高いといったユ−ザーメリットがある。また、排気ガス中のCO2、CHがガソリン車に比べ10〜50%と低濃度であり、昨今の地球環境配慮の観点から炭酸ガス排出総量規制が実施されつつあり、そのような観点から見直されてきている。
一方、デメリットとして、ガソリン車に比べ、排気ガス中のPM(黒煙物質)やSOF(未燃焼燃料、潤滑油、硫黄化合物)などの環境汚染物質が多い。さらに、排気ガス中にはCO、CH、NOxを含んでいる。
これらの排気ガスを浄化する技術開発が待たれており、PMに関しては、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)と呼ばれるセラミックフィルターで捕捉する方法が多く用いられている。DPFフィルターは短時間で目詰まりが発生するので、DPFフィルターの前に酸化触媒としてコーディライトと呼ばれる耐熱性セラミックに触媒としてPtを担持させて、NOを酸化触媒で反応させてNO2を発生させ、PM(主成分は炭素)を二酸化炭素化する手法が用いられている(特許文献1)。2NO2 + C → 2NO + CO2
この手法によってPMは除去可能となったが、窒素酸化物(NOx)に関しては、低減できていなかった。
【0003】
ディーゼルエンジンの窒素酸化物の除去方法として、困難な点は、<1>燃料である軽油は、酸素濃度が5%以上と高い状態で燃焼するので、酸素導入量の制御による成分制御ができない。(ガソリン車は酸素導入量の制御による成分制御が可能)。<2>PMがガソリン車の20〜60倍と多いので、触媒の劣化が激しい。(DPFフィルターによってガソリン車並に低減が可能)。<3>軽油燃料中の、硫黄化合物含有量、水分含有量がガソリンに比べて多いので、触媒の被毒による性能低下が著しい。<4>排気の温度がガソリン車に比べて低温なので、触媒が活性化しない。特に、低速走行ではヒーター加熱を要するので、燃費の悪化に繋がる。
これら、困難な点から、ガソリン車で広く使われてきているPt-Pd-Rhからなる三元系触媒が使えない事が知られている。
【0004】
そこで、近年は、一般に市町村の焼却炉などで多用されているNH3-SCR方式と呼ばれ、V25-TiO2系セラミックに尿素を噴射してNO+NO2+2NH3 → 2N2+3H2
反応によって無害化する方法を応用した技術が大型車を中心に導入されている。アンモニアを還元剤として用いる場合であれば、アンモニアが排ガス中のSOx と反応して塩類を形成し、その結果、低温で触媒活性が低減する。また、とりわけ、自動車のような移動発生源からのNOxを処理する場合、その安全性が問題となる。また、アンモニアの毒性、腐食性に対する懸念や装置自体が高額であることから、一般乗用車用途としては、広まっていないのが実情である。
そこで、ディーゼルエンジンで発生するNOxを低減可能な触媒の開発が望まれている。
【0005】
ディーゼルエンジン用NOx除去システムとしては、触媒を用いて、窒素酸化物を還元して無害化する下記のような方式が知られている。
特許文献2によれば基材にγ-アルミナ(NOx吸蔵物質)からなる多孔質担体層を形成し、白金Ptを担持させたものから成る。
空気過剰率が希薄燃焼時においては、触媒上では、酸素イオンO2-又はO2-とNOXが反応して硝酸イオンNO3-が生じ、硝酸イオンNO3-は触媒の表面に吸着して硝酸塩を形成する。触媒上の硝酸塩が飽和状態になると、リッチ状態で内燃機関を数秒間稼働させ(リッチスパイク)、硝酸塩を排気ガス中に含まれている未燃のHC、COと反応させることにより、触媒上の硝酸塩をN2、CO2及びH2Oに分解して還元し、除去が可能となる。
【0006】
特許文献1には、空燃比がリーンの時には窒素酸化物を吸蔵し、空燃比がリッチの時には窒素酸化物を放出する窒素酸化物吸蔵物質を有し、排ガス中のNOxを還元浄化する窒素酸化物吸蔵還元触媒において、該窒素酸化物吸蔵還元触媒に酸素を吸蔵及び放出する機能を有する酸素吸蔵物質を担持させる方法が知られている。ここでは、NOx吸蔵機能を持つ物質としてカリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)等のNOx吸蔵物質等を使用し、酸素吸蔵物質は、セリウム(Ce)やジルコニウム(Zr)等の化合物を使用する。
【0007】
特許文献3は、酸素、硫黄酸化物又は水の存在下においても、リッチ条件下での有害なアンモニアの生成がなく、広い温度域において、耐久性よくNOx を還元するための方法である。
排ガス中の窒素酸化物を接触還元する方法において、触媒が(A)(a)セリア又は (b)酸化プラセオジム又は (c)セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、テルビウム、サマリウム、ガドリニウム及びランタンから選ばれる少なくとも2つの元素の酸化物の混合物及び/又は複合酸化物からなる酸化物触媒成分(A)と、(B)(d)白金、ロジウム、パラジウム及びこれらの酸化物から選ばれる少なくとも1種からなる貴金属触媒成分(B)とを触媒成分として有する。
【0008】
特許文献4は、アンモニアの生成及びNOxの還元を効率よく行うことにより、排気を還元雰囲気とする時間的割合を減少させ、燃費の悪化を抑制することができる排気浄化装置として、排気が還元雰囲気にあるとき排気中のNOxと還元剤との反応によりアンモニアを生成するアンモニア生成触媒が排気管に設けられている。アンモニア生成触媒の下流側には、排気が酸化雰囲気にあるときに排気中のNOxを吸着し、排気が還元雰囲気にあるとき吸着したNOxを還元するとともに、アンモニアを生成し、該生成したアンモニアを貯蔵するNOx浄化装置が設けられた浄化装置が提案されている。
【0009】
特許文献5には高濃度の酸素等が共存する条件下においても、排ガス中に含まれる窒素酸化物を効率良く除去することができる窒素酸化物の選択的還元触媒を安価に提供すること。さらに、上記窒素酸化物の選択的還元触媒の製造方法及び該触媒を使用した窒素酸化物の除去方法を提供することを課題として、アルミニウムを陽極酸化して得られる酸化アルミニウム層を有する基体の該酸化アルミニウム層に銀を担持したことを特徴とする窒素酸化物の選択的還元触媒を使用し、高濃度の酸素等が共存する条件下において、排ガス中に含まれる窒素酸化物を効率良く除去する技術が開示されている。しかし、ディーゼル車の市街地走行における排気温度は、50℃〜150℃の帯域が42%であり、350℃以上の温度帯域は12%である事が知られており、バス、乗用車等の市街地走行が中心となる用途には十分な性能を示していなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2001-276622号公報
【特許文献2】特開2000−8909号公報
【特許文献3】特開2006−43533号公報
【特許文献4】特開2006−183477号公報
【特許文献5】特開2006−320893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決し、特に都市部で走行するディーゼルエンジンの場合には、停止が多いので、排気管の主要な温度帯域は150℃〜250℃程度と考えられる。この為、ガソリン車で用いられている三元系のPt-Pd-Rh触媒も活性化せず、使用できない。そこで、このような比較的低温でも活性があり、しかも貴金属の使用量が低い触媒を用いてNOx(窒素酸化物)の除去を行う事ができる触媒体を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、従来技術の問題点を解決する手段を検討した結果、マイクロポアと呼ばれる細孔を有するアルミニウムの陽極酸化皮膜を用いることによって課題が解決できることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、以下を提供する。
(1) アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)、およびガドリニウム(Gd)からなる群から選ばれる少なくとも一種、並びにパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)およびガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種を担持してなる触媒体。
(2) 厚さが10μm未満のアルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)およびガドリニウム(Gd)からなる群から選ばれる少なくとも一種、並びにパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)およびガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種を担持してなる触媒体。
(3) (1)または(2)記載の触媒体上に、さらに陽極酸化皮膜上にアンモニアを吸着する性質を有する材料を設けた触媒体。
(4) 前記アンモニアを吸着する性質を有する材料が、ゼオライトを含む多孔質材料であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒体。
(5) 前記アルミニウムの陽極酸化皮膜が、アルミニウムを表面に有する基板に、粗面化処理を施した後、陽極酸化処理されることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の触媒体。
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の触媒体の陽極酸化皮膜の単位厚み当たりのパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)およびガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種の担持量が0.15g/m/μm以上であることを特徴とする触媒体。
(7) 前記アンモニアを吸着する性質を有する材料からなる層として、ゼオライト;および;燐酸または/およびコロイダルシリカまたは/およびベーマイトゾルからなるスラリーを、アルミニウムの陽極酸化皮膜の上に、塗布して設けることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の触媒体。
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の触媒体をそのまま、または小片状に加工または、折り曲げ加工、もしくは微小体に粉砕したNOx浄化用触媒体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の触媒体は、触媒として用いればディーゼルエンジン等から発生する窒素酸化物を低減する効果がある。従来から使用されている方法に比べ、還元剤としてのアンモニアの使用量の削減または不使用化が可能である。特に、一般に用いられているアルミナからなるセラミック担体を使用したものに比べPtなどの貴金属の担持量が低い状態でも活性が高く、低温でも活性を示す。
【0015】
本発明の触媒体は、
(1)アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、
(2)NOxを吸着・吸蔵する性質を有する金属酸化物と触媒活性を有する金属または酸化物を担持させた触媒体である。
また、陽極酸化皮膜の表面に
(3)アンモニアを吸着する性質を有する層を有する、触媒体である。
本発明のNOxを吸着する性質を有する金属または/および金属酸化物は、触媒活性を有する金属または/および金属酸化物と物理的に接触している事が好ましい。
アンモニアを吸着する性質を有する層は、触媒活性を有する金属または/および金属酸化物と物理的に接触していなくても良く、ガスを吸蔵するための空隙率が30%〜90%であるような多孔体であることが好ましい。層を形成する必要も無く、アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部または細孔上に構成化合物がランダムに付着していても良い。
本発明の触媒体はNOx浄化用の触媒体として用いる事ができる。
【0016】
本発明の触媒体を触媒として用いる場合、本発明の触媒体を有するNOx浄化装置の上流側には、アンモニア生成触媒が設けられている事が好ましい。アンモニア生成触媒は、排気が還元雰囲気(リッチバーン、リッチ状態:始動加速時の燃料リッチな状態)にあるとき、下記化学反応式(1)及び(2)で表される化学反応により、二酸化窒素(NO2)を還元して、窒素(N2)、水(H2O)及びアンモニア(NH3)を生成する。
2NO2+4H2 → N2+4H2O (1)
2NO2+7H2 → 2NH3+4H2O (2)
アンモニア生成触媒は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)などの貴金属から1種以上を、耐熱性多孔質担体に担持させて構成される。中でも、アンモニア生成触媒は、多孔質担体と、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれた少なくとも一種を含むことが望ましい。市販の三元触媒やエンジン始動時の炭化水素を除去することを目的とする触媒を使用することも可能である(特開2001-132432号公報)。
【0017】
本発明の触媒体は、バルブ金属に陽極酸化処理を施して得られる、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜と、前記マイクロポア内に存在する、触媒活性を有する金属とを有する触媒体である。
【0018】
<バルブ金属>
バルブ金属としては、陽極酸化処理により表面がその金属の酸化物の皮膜で覆われる特性を示す金属を用いることができる。例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンが挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましい。
【0019】
アルミニウムとしては、特に限定されず、従来公知のアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を用いることができる。例えば、純アルミニウム板、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板、低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)が挙げられる。
本発明においては、アルミニウム純度が99質量%以上であるのが好ましく、99.5質量%以上であるのがより好ましく、99.9質量%以上であるのが更に好ましい。そのような純度を有するアルミニウムとしては、JIS1000番台のアルミニウムが容易に入手可能である。例えば、JIS 1N00、1200、1100、1N30、1230、1050、1060、1070、1080、1085、1N90および1N99材が挙げられる。
低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)としては500〜550℃の高い熱負荷でも強度劣化がしにくく、陽極酸化処理の均質性が高い材料として3004材、5021材が挙げられる。
非特許文献 軽金属 vol35、No63 p370 図13(1985) に記載されているように不活性ガス中で300℃〜600℃の温度で熱処理を施し、Al[100]結晶面の面積率を向上させた処理を施した材料も好適に使用できる。
このような熱処理を施すことで、引き続き、塩素を含む電解水溶液中で電気化学的粗面化を施すと拡面率を向上させることが可能となる。
非特許文献 軽金属 vol35、No63 p370 図13(1985)
【0020】
陽極酸化皮膜は、上述したバルブ金属に陽極酸化処理を施すことにより、形成させることができるが、必要に応じて、陽極酸化処理の前にバルブ金属の表面を清浄にするための脱脂処理、陽極酸化皮膜のマイクロポアを所定の位置に形成させるための起点形成処理、陽極酸化処理により形成された陽極酸化皮膜のマイクロポアの口径を拡大するポアワイド処理、表面積を増大させるための表面積増大処理等を行うことができる。以下、バルブ金属としてアルミニウムを用いる場合を例に挙げて、各処理について説明する。
【0021】
アルミニウムを表面に有する金属基板の形状は特に限定されないが、全体の厚さは好ましくは、0.05〜0.4mm、より好ましくは0.08〜0.35mm、さらに好ましくは0.1〜0.3mmである。金属基板表面のアルミニウムの厚さは、0.05〜0.3mmが好ましい。耐熱基板の厚さは、好ましくは0.05〜0.3mm、より好ましくは0.05〜0.25mmである。
<熱処理>
本発明においては、後述する粗面化処理として、電気化学的粗面化処理を施す場合は、予めアルミニウム基板に熱処理を施すことが好ましい。
熱処理は、150〜550℃で30分〜10時間程度施すのが好ましく、200〜530℃で30分〜8時間程度施すのがより好ましく、250〜500℃で30分〜6時間程度施すのが更に好ましい。なお、自然酸化皮膜の形成を阻害するため、不活性ガス(例えば、アルゴンガス、窒素ガス等)中で施すのが好ましい。具体的には、例えば、アルミニウム基板を不活性ガスを導入可能な加熱オーブンに入れる方法等が挙げられる。
詳細のメカニズムは不明であるが、このような熱処理を施すことにより、アルミニウム基板の結晶粒の大きさが大きくなるとともに、結晶方位[100]面の割合が増加することが一般に知られている(例えば、「軽金属(1985)Vol.35,No6,p365〜371」参照。)。
【0022】
<脱脂処理>
本発明においては、アルミニウム基板のうち後述する陽極酸化処理(A)を施す表面は、処理面の均一性の観点からあらかじめ脱脂処理を施すことが好ましい。
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム基板表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
【0023】
中でも、以下の各方法が好適に用いられる。
脱脂処理としては、具体的には、例えば、各種アルコール(例えば、メタノール等)、各種ケトン(例えば、メチルエチルケトン等)、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム基板表面に接触させる方法(有機溶剤法);石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム基板表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法);濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム基板表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム基板表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム基板表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム基板表面に接触させつつ、アルミニウム基板表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法;濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム基板表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム基板表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法);炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム基板表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法);等が挙げられる。
【0024】
これらのうち、アルミニウム表面の脂分を除去しうる一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらない観点から、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。中でも、原料の入手性や排水処理の簡便性の観点から、界面活性剤法がより好ましい。
【0025】
<拡面率の拡大処理>
(粗面化処理)
本発明においては、陽極酸化皮膜自体の表面積をより増加させ、機能材料として更に高機能とする観点から、アルミニウム基板に粗面化処理(砂目立て処理)を施すのが好ましい。
粗面化処理としては、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的粗面化処理、化学的エッチング、電解グレイン等がある。
具体的には、例えば、塩化物イオンを含有する電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的粗面化処理(電解粗面化処理);アルミニウム基板の表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法;研磨球と研磨剤でアルミニウム基板の表面を砂目立てするボールグレイン法;ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法などの機械的粗面化処理;等が挙げられる。
これらの粗面化処理は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩化物イオンを含有する電解液中または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせ等が挙げられる。特に、電解粗面化処理を施すと、得られるアルミニウム基板のBET法で測定した拡面率がより向上するため好ましい。
【0026】
ブラシグレイン法の場合、研磨剤として使用される粒子の平均粒径、最大粒径、使用するブラシの毛径、密度、押し込み圧力等の条件を適宜選択することによって、アルミニウム基板表面の長い波長成分(大波)の凹部の平均深さを制御することができる。
ブラシグレイン法により得られる凹部は、平均波長が2〜10μmであるのが好ましく、平均深さが0.2〜1μmであるのが好ましい。
【0027】
(電気化学的粗面化処理)
電気化学的粗面化処理は、アルミニウム板に、酸を含有する水溶液中で交流電流を流す電気化学的粗面化処理を施す。水溶液に添加する酸は、塩酸が好ましい。塩酸を含有する水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(塩酸電解粗面化処理)を行うことにより、平均開口径0.01〜5μm、平均深さ0.01μm〜10μm のピットがアルミニウム板表面全面に均一に形成される。
【0028】
水溶液における塩酸濃度は、1〜10質量%であるのが好ましい。上記範囲であると、アルミニウム板の表面に形成されるピットの均一性が高くなる。
電解粗面化処理としては、上述した塩化物イオンを含有する電解液中または硝酸電解液中で化学的に砂目立てする電気化学的方法が好適に例示される。
具体的には、例えば、0.1〜50質量%の塩酸またはNaCl、KCl、CuCl2もしくはこれらの混合物からなる水溶液あるいは硝酸を含む電解液中で、温度20〜100℃、時間1秒〜30分電解処理されるものであり、陽極時電気量は、20C/dm2以上であることが好ましく、20〜10000C/dm2であることがより好ましく、30〜7000C/dm2であることが更に好ましい。粗面化処理は直流または交流を用いて行われる。電気化学的粗面化処理に用いられる電源波は、特に限定されず、直流、正弦波、矩形波、台形波、三角波等が用いられる。電流密度1〜100A/dm2、直流電解が好適に用いることができる。交流でも可能であるが、その場合、周波数は1Hz〜200Hzが好ましい。
【0029】
塩化物イオンを含有する電解液としては、具体的には、例えば、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化窒素、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化チタン等を溶解させた水溶液が用いられる。中でも、入手性と排水処理の簡便性の点で、塩酸、塩化ナトリウムが好ましい。
また、水溶液中の塩化物イオンの濃度範囲は、1〜10質量%であるのが好ましく、2〜9質量%であるのがより好ましく、3〜8質量%であるのが更に好ましい。
更に、塩化物イオンを含む電解液の温度範囲は、25℃〜90℃であるのが好ましく、40℃〜85℃であるのがより好ましく、60℃〜80℃であるのが更に好ましい。
更にまた、塩化物イオンを含む電解液による電解条件は、直流が好ましく、片面処理の場合には、電流密度が1〜12A/dm2の範囲であるのが好ましく、2〜11A/dm2の範囲であるのがより好ましく、3〜10A/dm2の範囲が更に好ましい。
両面処理の場合には、電流密度が2〜24A/dm2の範囲であるのが好ましく、4〜22A/dm2の範囲であるのがより好ましく、6〜20A/dm2の範囲が更に好ましい。
また、塩化物イオンを含む電解液による処理時間は、1〜15分が好ましく、2〜12分が好ましく、3〜10分が更に好ましい。
この範囲で塩化物イオンを含有する電解液を用いて電解処理を施すと、全面に渡って均一に拡面率の高いアルミニウム基板を得ることが可能となる。これは、塩素イオンは、アルミの方位[100]面に特異的に吸着するため、塩素イオンを含む電解液中で電解するとアルミの方位[100]面に沿って電解エッチングが進行し深いピットが形成され、アルミニウム基板のBET法で測定した拡面率を大幅に向上させることが可能となる。
【0030】
このような電解粗面化処理を施すことにより、アルミニウム基板の表面にピットを付与することが容易となり、BET法で測定した拡面率をより向上でき、種々の用途に応用可能となる。
また、このような電解粗面化処理により、平均直径0.1〜5μm、平均深さ0.05〜50μmのクレーター状またはハニカム状またはトンネル状のピットをアルミニウム板の表面に90〜100%の面積率で生成することができる。
【0031】
粗面化処理としては、上述した機械的粗面化処理を施さずに、電解粗面化処理のみを施すこともできる。
粗面化処理後の表面粗さは、JIS B0601−1994に準拠してカットオフ値0.8mm、評価長さ3.0mmで測定した算術平均粗さ(Ra)が、0.2μm以上であるのが好ましい。
【0032】
(アルカリエッチング処理)
本発明においては、上述した粗面化処理により砂目立て処理されたアルミニウム板は、アルカリにより化学的にエッチングすることもできる。
本発明において好適に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
アルカリエッチング処理の条件は特に限定されないが、Alの溶解量が0.05〜30g/m2となるような条件で行うのが好ましい。また、他の条件も、特に限定されないが、アルカリの濃度は1〜50質量%であるのが好ましく、5〜30質量%であるのがより好ましい。更に、アルカリの温度は20〜100℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。また、処理時間は2〜60秒であるのが好ましい。
【0033】
このようなアルカリエッチング処理は、1種の方法に限らず、複数の工程を組み合わせることができる。
また、アルカリエッチング処理は、1段階の処理に限られない。例えば、機械的粗面化処理を施した後に、アルカリエッチング処理を行い、引き続きデスマット処理(後述するスマット除去のための酸洗い)を行い、更に電解粗面化処理を施した後に、再びアルカリエッチング処理を行い、引き続きデスマット処理を行うなど、アルカリエッチング処理およびデスマット処理は、いずれも複数回組み合わせて行うことができる。
【0034】
(デスマット処理)
本発明においては、アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(デスマット処理)を施してもよい。
用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。特に、電解粗面化処理後のスマット除去処理方法としては、具体的には、例えば、特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸に30秒〜2分間接触させる方法;30〜70℃の温度の5〜65質量%の硝酸に30秒〜2分間接触させる方法;等が好適に挙げられる。
【0035】
本発明においては、上記アルミニウム基板は、必要に応じて上述した拡大処理を施すことにより、BET法で測定した拡面率が1.2以上となる基板であるのが好ましく、1.2〜120となる基板であるのがより好ましく、1.5〜55となる基板であるのが更に好ましい。
拡面率が上記範囲であると、後述する陽極酸化処理(A)により形成する陽極酸化皮膜自体の表面積をより増加させることができ、機能材料として更に高機能となる微細触媒体を提供することができる。
ここで、拡面率は、拡大処理を施した後のアルミニウム基板と拡大処理を施していない平滑なアルミニウム基板のBET法による比表面積の比(処理後基板/平滑基板)である。なお、本発明においては、BET法による比表面積の測定において検出感度以下の値(計測値が0.01mm2以下(拡面率が10以下)の場合。)であるものについては、拡大処理を施したアルミニウム基板と拡大処理を施していない平滑なアルミニウム基板のそれぞれに同一の条件で定電圧電解処理を施すことによって、厚み0.05〜0.2μmの陽極酸化皮膜が形成されるように陽極酸化処理を施した後の比表面積の比から算出した。陰極はカーボンまたは白金をコーティングしたチタンを用いることが好ましい。
また、拡大処理を施していない平滑なアルミニウム基板とは、JIS B0601−1994に規定された表面粗さRaが0.2μm以下のアルミニウム基板を示す。
【0036】
BET法は、試料表面に吸着占有面積の知られている物質を液体窒素の温度で吸着させ,その量から試料の表面積を求める方法である。
本発明においては、BET法は、常法により行うことができる。例えば、触媒学会編,「触媒実験ハンドブック」,講談社,1989年,p.167−168の記載を参照して行うことができる。
BET法に用いられる測定器は、特に限定されず、例えば、市販の測定器が挙げられる。具体的には、例えば、島津製作所社製のフローソーブ、カンタクローム社製のオートソーブが挙げられる。
吸着質としては、窒素、クリプトン、ベンゼン、トルエン等の有機化合物が用いられる。中でも、窒素、窒素とヘリウムとの混合ガスが一般的に用いられる。また、表面積が比較的低い場合にはクリプトンガスが使用される。
BET法により比表面積を測定するアルミニウム板には、前処理が施されることが好ましい。前処理の条件は、200〜500℃、1〜4時間の真空中で加熱することが好ましい。真空保管後、不活性流通ガス中で加熱する方法も好ましく用いられる。
BET法での吸着時間は、BET表面積やサンプル量によって異なるが、例えば、25mm×20mmの大きさでは、概ね30分〜15時間の範囲である。また、脱着時間は概ね5〜10分程度で行なわれる。
【0037】
[陽極酸化処理(A)]
陽極酸化処理は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、基板を陽極として通電する方法を用いることができる。基板は片面または両面を陽極酸化する。高温での変形が少ない点から、両面陽極酸化処理が好ましい。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、酸溶液であるのが好ましく、硫酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸の溶液がより好ましく、硫酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸の溶液が更に好ましい。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0038】
電解液の濃度は、通常、0.1〜12mol/Lであり、0.2〜10mol/Lであるのが好ましく、0.3〜8mol/Lであるのがより好ましい。
電解液の温度は、通常、10〜70℃で適宜設定することができるが、15〜60℃であるのが好ましく、20〜60℃であるのがより好ましい。
電解液の電気伝導度は、通常、30〜400mS/cmであり、40〜300mS/cmであるのが好ましく、50〜200mS/cmであるのがより好ましい。
電流密度は、通常、0.1〜300A/dm2であり、0.3〜250A/dm2であるのが好ましく、0.5〜200A/dm2であるのがより好ましい。
電圧は、通常直流であり、3〜500Vであるが、電解液の種類に応じて適宜好適範囲を選択することができる。例えば、硫酸水溶液では10〜30Vであるのが好ましく、リン酸水溶液では150〜210Vであるのが好ましく、シュウ酸水溶液では30〜60Vであるのが好ましく、クエン酸水溶液では230〜250Vであるのが好ましく、マロン酸水溶液では100〜140Vであるのが好ましく、酒石酸水溶液では180〜210Vであるのが好ましい。
陽極酸化皮膜の好ましい厚さは0.2μm〜10μmであり、0.2μm〜10μm未満、0.3μm〜5μmが好ましく、0.4μm〜3μmがさらに好ましい。この範囲であると、少ない貴金属使用量で、高い浄化効率が可能となる。
好ましい処理時間の範囲は、10秒〜10分の範囲であり、20秒〜8分の範囲が好ましく30秒〜5分の範囲が最も好ましい。この範囲であると、連続処理工程での制御が容易である。
【0039】
陽極酸化処理は、3〜12mol/Lの硫酸を含有する電解浴中で行う以外は、特に限定されず、例えば、従来公知の方法を用いることができる。
【0040】
本発明においては、陽極酸化処理に用いる電解液の硫酸濃度は、3〜12mol/Lであり、3〜11mol/Lであるのが好ましく、4〜6mol/Lであるのがより好ましい。
【0041】
また、本発明においては、陽極酸化処理の処理電圧は、2〜300Vであるのが好ましく、5〜250Vであるのがより好ましく、9〜200Vであるのが更に好ましい。
処理電圧が上記範囲であると、本陽極酸化皮膜により形成される陽極酸化皮膜に存するマイクロポアの密度が適当となる。
【0042】
更に、本発明においては、陽極酸化処理の処理時間は、0.5分〜600分であるのが好ましく、0.8分〜60分であるのがより好ましく、1〜30分であるのが更に好ましい。
処理時間が上記範囲であると、陽極酸化処理により形成される陽極酸化皮膜の厚みが適切となる。
【0043】
本発明においては、陽極酸化処理の処理温度は、5〜80℃であるのが好ましく、10〜60℃であるのがより好ましく、20〜55℃であるのが更に好ましい。
処理温度が上記範囲であると、陽極酸化処理により形成される陽極酸化皮膜の形成速度が適当となる。
【0044】
また、本発明においては、マイクロポアの細孔径の好ましい範囲は1.5〜250nmであるのが好ましく、4〜210nmであるのがより好ましく、7〜170nmであるのが更に好ましい。陽極酸化処理後の陽極酸化皮膜の膜厚は、0.5〜40μmであるのが好ましく、0.8〜20μmであるのがより好ましく、1〜10μmであるのが更に好ましい。
膜厚が上記範囲であると、陽極酸化皮膜により形成される陽極酸化皮膜は十分な比表面積を確保することが可能であり、種々の用途に展開することができる。陽極酸化皮膜の膜厚は、概ね電気量に比例するので、処理時間と電流密度とを適宜選択することにより、調節することができる。
【0045】
本発明においては、陽極酸化処理により形成される陽極酸化皮膜の量は、2〜140g/m2であるのが好ましく、2.5〜70g/m2であるのがより好ましく、3〜30g/m2であるのが更に好ましい。
陽極酸化皮膜の量が上記範囲であると、比較的薄い皮膜に高額の金属元素を必要最小限の分量を高濃度で担持させる事が可能となり、機能材料として更に高機能となる微細触媒体を提供することができる。なお、陽極酸化皮膜の量は、陽極酸化処理を施したアルミニウム基板を、例えば、50℃のクロム酸とリン酸混合処理液に1〜12時間浸せきさせ、浸せき前後の重量変化から算出することができる。
また、臭素-エタノール混合水溶液や塩酸、塩化第2銅混合水溶液など公知の技術で金属アルミのみを溶解除去して直接、酸化皮膜の重量を計測する事もできる。
【0046】
このような本陽極酸化処理を施すことにより、形成される陽極酸化皮膜自体の表面積を増加させることができ、機能材料としてより高機能となる微細触媒体を提供することができる。
これは、電解液の硫酸濃度が上述した範囲であることにより、陽極酸化皮膜に取り込まれるSO4イオン濃度が高くなり、陽極酸化皮膜が3次元的多孔質構造を示し、比表面積が向上するためであると考えられる。
【0047】
[溶解処理(B)]
溶解処理(B)は、上記陽極酸化処理(A)により形成される陽極酸化皮膜の一部を、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液により溶解する処理であって、陽極酸化皮膜自体の表面積をより増加させ、陽極酸化処理(A)の後に所望により施す水和処理(C)や機能性材料の充填処理における経時の表面積低下を抑制する観点;このように抑制できる結果、一時保管する等の随時処理も可能となる観点から、必要に応じて施す処理である。
【0048】
溶解処理(B)に酸水溶液を用いる場合は、上記陽極酸化処理で用いた電解液を用いることができ、具体的には、例えば、硫酸、シュウ酸、リン酸、酒石酸、マロン酸、クエン酸、クロム酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いるのが好ましい。中でも、硫酸、シュウ酸、リン酸の水溶液を用いるのが、入手性、廃液処理の容易性の観点からより好ましい。
【0049】
本発明においては、酸水溶液の濃度は、1〜30質量%であるのが好ましく、2〜20質量%であるのがより好ましく、3〜15質量%であるのが更に好ましい。また、酸性水溶液のpHは、1〜5であるのが好ましく、1.5〜4.5であるのがより好ましく、2〜4であるのが更に好ましい。更に、酸水溶液の温度は、5〜50℃であるのが好ましく、10〜45℃であるのがより好ましく、15〜40℃であるのが更に好ましい。また、酸水溶液による処理時間は、0.1〜30分であるのが好ましく、0.5〜20分であるのがより好ましく、1〜10分であるのが更に好ましい。
酸水溶液の濃度、pH、温度および処理時間が上記範囲であると、溶解処理(B)後の陽極酸化皮膜が3次元的多孔質構造を示し、比表面積が更に向上する。
【0050】
一方、溶解処理(B)にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのナトリウム塩水溶液;水酸化カリウムなどのカリウム塩水溶液;水酸化リチウムなどのリチウム塩水溶液;等を用いるのが好ましい。中でも、ナトリウム塩水溶液の水溶液を用いるのが、入手性、廃液処理の容易性の観点からより好ましい。
【0051】
本発明においては、アルカリ水溶液の濃度は、0.05〜20質量%であるのが好ましく、0.08〜10質量%であるのがより好ましく、0.1〜5質量%であるのが更に好ましい。また、アルカリ水溶液のpHは、8〜13であるのが好ましく、8.5〜12であるのがより好ましく、9〜11.5であるのが更に好ましい。更に、アルカリ水溶液の温度は、5〜50℃であるのが好ましく、10〜45℃であるのがより好ましく、15〜40℃であるのが更に好ましい。また、アルカリ水溶液による処理時間は、0.1〜30分であるのが好ましく、0.5〜20分であるのがより好ましく、1〜10分であるのが更に好ましい。
アルカリ水溶液の濃度、pH、温度および処理時間が上記範囲であると、溶解処理(B)後の陽極酸化皮膜が3次元的多孔質構造を示し、比表面積が更に向上する。
【0052】
陽極酸化皮膜の一部の溶解は、陽極酸化皮膜を上述した酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させることにより行う。
接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法等が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
浸せき法は、上記陽極酸化処理(A)を施した後のアルミニウム基板を上述したアルミナ溶解液に浸せきさせる処理である。
接触させる際の処理時間は0.1〜30分であるのが好ましく、0.5〜20分であるのが好ましく、1〜10分であるのが更に好ましい。
【0053】
このような溶解処理(B)を上記陽極酸化処理(A)を施したアルミニウム基板に対して施すことにより、形成される陽極酸化皮膜自体の表面積をより増加させることができ、機能材料として更に高機能となる微細触媒体を提供することができる。
これは、後述する実施例から分かるように、上記陽極酸化処理(A)により形成された陽極酸化皮膜の方が、平版印刷版用支持体を製造する際の一般的な酸濃度である0.5〜1.7mol/Lの硫酸水溶液を用いて形成した陽極酸化皮膜に比較して、細孔密度が高く、また、マイクロポア間の壁の厚みが薄く、更に、陽極酸化皮膜中の硫酸イオン濃度が高いため、溶解処理(B)を施した際にマイクロポアの壁面に貫通孔が多数生成し、3次元的な多孔質状の触媒体となるためであると考えられる。
【0054】
[水和処理(C)]
水和処理(C)は、上記陽極酸化処理(A)または上記溶解処理(B)の後に、上記陽極酸化処理により形成される陽極酸化皮膜の有するマイクロポアの内部に水和物を生成させる処理であって、陽極酸化皮膜自体の表面積をより増加させ、機能材料として更に高機能とする観点から、必要に応じて施す処理である。
【0055】
本発明においては、水和処理(C)は、40℃未満、pH8〜12である反応促進剤の水溶液を用いて行うのが好ましい。温度およびpHが上記範囲であると、処理効率に優れ、かつ、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの開口部が閉塞されることが防止される。
また、水溶液の温度は、温度5℃以上であるのが好ましく、10〜35℃であるのがより好ましく、20〜30℃であるのが更に好ましい。
更に、水溶液は、pH9.5〜11.5であるのが好ましく、pH10.5〜11であるのが好ましい。
【0056】
反応促進剤としては、具体的には、例えば、アンモニア、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、ケイ酸ナトリウム、重クロム酸カリウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、水和処理の効率の点で、アンモニア、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびケイ酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、アンモニアおよび/またはケイ酸ナトリウムであるのがより好ましく、アンモニアであるのが更に好ましい。
【0057】
水溶液中の反応促進剤の量は、通常、1〜50質量%であり、3〜40質量%であるのが好ましく、5〜30質量%であるのがより好ましい。
水和処理の処理時間は、0.5〜30分であるのが好ましく、1〜20分でであるのがより好ましく、2〜10分でであるのが更に好ましい。
水和処理の条件が、上記範囲であると、マイクロポアの内部に微細凹凸構造が形成されることによって表面積を増大させることができるとともに、マイクロポアの開口部が塞がれることを防止することができる点で好ましい。
【0058】
このような水和処理(C)を上記陽極酸化処理(A)または上記溶解処理(B)を施したアルミニウム基板に対して施すことにより、形成される陽極酸化皮膜自体の表面積をより増加させることができ、機能材料として更に高機能となる微細触媒体を提供することができる。
これは、後述する実施例から分かるように、上記陽極酸化処理(A)により形成された陽極酸化皮膜の方が、平版印刷版用支持体を製造する際の一般的な酸濃度である0.5〜1.7mol/Lの硫酸水溶液を用いて形成した陽極酸化皮膜に比較して、水和処理(C)によってベーマイトと思われる微細な水和生成物がマイクロポア内部に生成するため表面積が著しく高いためであると考えられる。
【0059】
[微細触媒体]
本発明の微細触媒体は、上述した本発明の微細触媒体の製造方法により得られる。
また、本発明の微細触媒体は、平均ポア密度が50〜10000個/μm2であるのが好ましい。
更に、本発明の微細触媒体は、マイクロポアの占める面積率が20〜80%であるのが好ましい。
【0060】
具体的には、本発明の微細触媒体は、金属アルミの表面にアルミナやその水和物が生成しているため、遠赤外線放射率が大きくなり、加熱帯、放熱体、鮮度保持部材、冷蔵庫内壁材等として好適に用いることができる。
また、本発明の微細触媒体は、BET比表面積が大きく、導電性に優れたアルミ基体であることを活用し、軽量の遮音・防音材、振動吸収材、電磁波シールド、熱伝播材料、触媒担体等としても用いることができる。
【0061】
<(2)NOx吸着・吸蔵材>
NOxを吸着する性質を有する金属酸化物には、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ストロンチウムまたはバリウムの酸化物、ナトリウム、またはセシウム(Cs)の酸化物、セリウム、ランタン、プラセオジウムまたはネオジウムの酸化物、またはこれらの2以上の混合物が挙げられる。
好ましくは、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)およびガドリニウム(Gd)であり、カルシウム、またはバリウムの酸化物、カリウム、またはナトリウムの酸化物、セリウム、ランタン、またはプラセオジウムの酸化物である。
さらに好ましくは、バリウム、またはセリウムの酸化物であり、CeO2、BaOが好ましい。
【0062】
<NOx吸着材の形成方法>
本発明の触媒体にNOx吸着材層を形成する方法は、
1)含漬法
セリウムやバリウムなどの硝酸塩または、酢酸塩水溶液に浸漬する方法
2)NOx吸着材のコロイド溶液(ゾル)を陽極酸化皮膜に塗布して設けても良い。
【0063】
NOx吸着材のコロイド溶液(ゾル)の形成方法は、以下の条件が挙げられる。詳細は、新化学実験講座18界面とコロイド(S54発行 p323〜328に記載)に記載されている。
2−1)加熱法
各種金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、または塩酸塩水溶液を加熱して加水分解する。
2−2)有機金属化合物の加水分解
有機金属としては、M(OR)mが挙げられ、ここで、Rはアルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基であり、mは金属Mの電荷数と同じ値である。Mとしてはセリウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコン、アンチモン、タンタル、ゲルマニウム、アルミニウムなどであり、単独でも2種以上の混合物でも良い。好ましくは、Mとしてはセリウム、アルミニウム、ケイ素、ジルコンなどである。さらに好ましくはMは、セリウム、アルミニウムである。
加水分解条件は、温度0℃〜100℃、金属酸化物濃度1〜70質量%で、水および・またはアルコールを添加して加水分解する。添加量は水酸化物に対して質量基準で1〜100倍である。無機酸または有機酸を、全量を100質量部としたとき0.1〜50質量部配合しても良い。
好ましくは、加水分解条件は、温度10℃〜50℃、金属酸化物濃度1〜50質量%であり、好ましい無機酸または有機酸量は、全量を100質量部としたとき0.1〜20質量部である。
【0064】
2−3)中和法
各種金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩水溶液にアルカリを添加し、沈殿、乾燥する方法。好ましくは各種金属イオンの硝酸塩水溶液にアルカリを添加し、沈殿乾燥させる。アルカリは、KOH,NH3が好ましく、pH6〜12とするのが好ましい。
中和法で沈殿する溶液中に陽極酸化皮膜を浸漬または溶液を塗布して細孔中に沈殿、乾燥させる。沈殿乾燥物を陽極酸化皮膜の細孔中に充填しても良い。
硝酸塩濃度は、0.0001〜5mol/L、液温0℃〜100℃、時間0.5時間〜10週間で沈殿させる。好ましくは、温度10℃〜90℃、時間0.5時間〜4週間であり、さらに好ましくは、温度10℃〜80℃、時間0.5時間〜2週間である。
2−4)凍結乾燥法
中和法などで得られたコロイドゲルを−5℃以下で凍結し、20hPa以下の真空中で48時間乾燥させる。好ましくは、−20℃以下で凍結し、10hPa以下の真空中で24時間乾燥させる。より好ましくは、−30℃以下で凍結し、60hPa以下の真空中で12時間乾燥させる。陽極酸化皮膜に液状で塗布、または含浸させその後凍結乾燥させる、または凍結乾燥品を充填しても良い。
【0065】
コロイドゾル溶液の形成方法は、中和法、加水分解法、凍結乾燥法が好ましく、中和法がさらに好ましい。
陽極酸化皮膜におけるコロイドゾルの塗布・乾燥条件は、固形分濃度1〜60質量%の溶液で、塗布量1〜20cc/m2、乾燥温度95℃〜200℃が例示でき、好ましくは、固形分濃度5〜55質量%の溶液で、塗布量3〜15cc/m2、乾燥温度110℃〜200℃、より好ましくは、固形分濃度10〜50質量%の溶液で、塗布量5〜15cc/m2、乾燥温度120℃〜180℃である。
アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)及びランタン(La)の群から選ばれる少なくとも一種の群から選ばれる少なくとも一種を担持する担持量の好ましい範囲は、単位陽極酸化皮膜厚み[μm]当たり、0.01g/m/μm以上であることが好ましい。
【0066】
<触媒活性を有する金属又は酸化物の陽極酸化皮膜への担持方法>
触媒活性のある元素としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)およびガリウム(Ga)や、Pt,Ag,Pd,Cu,Irのアンモニア錯体、または硝酸塩、Ga,Inのアルコキシドが例示できる。In23、Ga23等も知られており、中でもAg,In23、Ga23は、SCx(硫黄化合物)や水蒸気の存在下でも触媒活性の劣化が少ないことが知られている。また、Ptは低温での活性が特に優れている事が知られている。Pt,Ag,Irのアンモニア錯体、または硝酸塩が好ましく、Pt,Ag,のアンモニア錯体、または硝酸塩がより好ましい。
アンモニア錯体、または硝酸塩の陽極酸化処理皮膜への含浸法は、濃度0.01〜5mol/Lの溶液に処理温度15℃〜50℃で処理時間0.5分〜180分で含浸させればよい。好ましくは、濃度0.01〜3mol/Lの溶液に処理温度20℃〜40℃で処理時間1分〜90分、より好ましくは、濃度0.01〜1mol/Lの溶液に処理温度20℃〜30℃で処理時間5分〜30分である。
アルコキシドを用いる場合は、金属酸化物濃度として、1〜70質量%の溶液に処理温度0℃〜100℃で処理時間0.5分〜180分で含浸させる、好ましくは、1〜60質量%の溶液、特には1〜50質量%の溶液に処理温度10℃〜50℃で処理時間1分〜90分で含浸させればよい。
アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)の群から選ばれる少なくとも一種を担持する担持量の好ましい範囲は、単位陽極酸化皮膜厚み[μm]当たり、0.15g/m/μm以上である事が好ましい。
白金を担持させたものの担持量は、王水にて基板を全量溶解し、それ以外は希硝酸で全量溶解させた後、対象金属濃度を原子吸光光度計、ICPなどの無機水溶液の機器分析手法によって定量分析して得られた数値を用いる事が好ましい。
陽極酸化皮膜の厚みに関しては、10μm以上の厚みの場合には、渦電流式膜厚計が好ましく、10μm以下の厚みの場合には、サンプルを折り曲げた破断面をSEM観察して計測する方法が好ましい。
【0067】
<(3)アンモニアを吸収する性質を有する多孔質材料>
本発明の触媒体に用いるアンモニアを吸収する性質を有する多孔質材料には、脱硝触媒として知られるTiO担体にV 、WO がで担持されたものが挙げられ、また、ゼオライトが挙げられる。
1)脱硝触媒
アンモニア吸着・脱着能を有するものとして、通常の脱硝触媒(VがTiO担体で担持されたもの等)がアンモニア吸着・脱着能を有することは公知の事実である(例えば、特開平05―146634号公報の段落0013参照)。また、特開平5−337336号公報にも、排ガス中にアンモニアを添加し、これを脱硝用触媒に接触させてNOxを分解低減することが記載されている。
アンモニア吸蔵材は、その温度により、アンモニアを吸着、若しくは脱着する特性を有している。具体的には、アンモニア吸蔵材は、Al、Si、Zr、Tiの各酸化物(Al 、SiO 、ZrO 、TiO 等)の群から選ばれた一つ以上の酸化物を含む構成である。これら酸化物のアンモニアTPD曲線から、どの酸化物も“脱着アンモニア量/初期吸着アンモニア量”のピークが200〜300℃の範囲にあることが分る。すなわち、アンモニア吸蔵材が300℃以上の場合、アンモニア吸着量はごく僅かである。そのため、アンモニア吸蔵材を昇温することで、これまでの吸着していたアンモニアがほとんど脱着する。またその逆に、300℃以上の高温状態からアンモニア吸蔵材の温度を下げると、アンモニアを吸着する作用が生じる。
【0068】
2)酸性を有する無機成分
アンモニアを吸着する成分として、ゼオライト、シリカ(SiO2),チタニア(TiO2)シリカ・アルミナ(SiO2・Al23)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)のうち、いずれか一つ以上の成分を陽極酸化皮膜の細孔内または細孔上に有していても良い。
【0069】
3)ゼオライトを含む多孔質材料
陽極酸化皮膜の細孔内部または表面に、上記で説明した、NOxを吸着する性質を有する金属酸化物と触媒活性を有する金属または酸化物を含む層を形成した後、さらに該細孔内部または表面に、ゼオライトと結着材としてのリン酸を主成分とする塗布液を塗布することにより高空隙で硬質のゼオライト層を形成するのが好ましい。場合によってはコロイダルシリカ粒子を添加してもよい。ゼオライトは、アルカリ又はアルカリ土類金属、特にナトリウムのアルミノケイ酸塩からなり、SiOおよびAlOの正四面体が酸素を共有して結合した三次元網状構造を基本的骨格構造としているが、多数の形態の結晶構造が知られている。そして、結晶中に陽イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、水素イオン(H型)などを含むことにより、電気的中和を保っており、これらの陽イオンは適当なイオン交換法により、他の陽イオンと置換できることもゼオライトの大きな特徴の一つとしてよく知られている。ゼオライトには、大きく分けて天然産と合成品がある。天然産としては、例えば、ホウフッ石、ソーダフッ石、キフッ石、クリノブチロライト、カイジュウジフッ石、モリブデンフッ石、リョウフッ石、フォージャス石等が知られているが、多くの非晶質あるいは他の異質のゼオライトまたは長石、石英のようなゼオライトでない結晶等が含まれていてその結晶性は、低いのが一般的である。 また、合成ゼオライトは、一般にシリカ源、アルミナ源、アルカリ金属源又はアルカリ土類金属源を用いた水熱反応により合成され、成分が均一で結晶性が高いものが得られるという利点を有している。このために、これまでに、A型、B型、D型、X型、Y型、Z型、β型などの多数の型の合成ゼオライトが提供されてきた。X型やY型の合成ゼオライトは、SiO/Alのモル比(以下、SAORという。)が、2〜5でアルミニウムを多量に含み、耐熱性が低く、塩酸、硫酸などの酸性条件下で分解するだけでなく、再生における水蒸気条件下でも分解するし、触媒活性が短期間で失活するなど実用的には問題が多い。一般に、ゼオライトのSAORが高くなると、耐熱性が高く、コーク生成も少ないという利点がある。このためにアルミニウム含有量の大きな、即ちSAORの大きいゼオライトが開発されてきている。合成ゼオライトZSM−5は、SAORが20以上でアルミニウムをほどよく含み、耐熱性、水蒸気耐性が高い、炭素の10〜30倍のアンモニアを吸着するなどの特徴を有する。また、合成ゼオライト〔Al〕−SSZ−31は、12員環の大径孔と高表面積とを有し、炭化水素などの大きな分子の化学反応に広範に適用できるゼオライトも開発されてきている(特許文献1参照)。
[特許文献]特開2002−356323号公報
このゼオライト層の形成は、例えば、下記A液とB液を混合し、塗布乾燥(120〜180℃)させてゼオライトのアルミナサイトをリン酸アルミ化して結着層を形成するのが好ましい。
【0070】
A液:ゼオライト粉 + 85wt%リン酸 + クエン酸
B液:AlCl3(反応促進剤)
用いられるゼオライト粒子としては、特に限定されないが、平均粒径が0.05〜5μmのものが好ましく、より好ましくは0.08〜1μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。表面粗さを上げる為に、異なる平均粒子のものを2種以上含有させても良い。その場合、第1のゼオライト粒子の平均粒径は、0.05〜5μmのものが好ましく、より好ましくは0.08〜1μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。第2のゼオライト粒子の平均粒径は、第1のゼオライト粒子の平均粒径の2〜50倍が好ましく、より好ましくは3〜20倍、さらに好ましくは4〜10倍である。第2の粒子を混合することで、表面粗さを望みの荒さにすることが可能になる。種類としてはアンモニア吸着力に優れるモルデナイト型やY型が好ましく、天然ゼオライトでも良い。具体的に例示すると、東ソー(株)製 HSZシリーズなどシリカ成分が比較的多いものが好ましい。モリデナイト型640HOA、Y型331HSA、341NHAが好適に使用できる。アンモニアTPD[mmol/g]が高いもの程、アンモニア吸着力に優れ好ましい。
各種ゼオライト微粒子の市販品が利用可能である。
【0071】
塗布液中のゼオライト粒子の含有量としては、所望とする空隙率、厚さによって適宜調整されるものであるが、35〜55質量%が好ましく、より好ましくは40〜50質量%である。用いられる塗布液中のリン酸の含有量としては、特に限定されないが、0.05〜12質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.3〜8質量%である。
【0072】
塗布液には、必要に応じて、反応促進剤を添加してもよい。反応促進剤としては、特に限定されないが、塩化アルミニウム等が挙げられる。反応促進剤として塩化アルミニウムを用いる際、その塗布液中での含有量としては、特に限定されないが、0.05〜12質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%、である。
また、塗布液に、ゼオライトを水中で均一に分散させるための各種分散剤を含有することが望ましい。分散剤としては特に限定されないが、一般的にゼオライトの分散剤として知られている、クエン酸、ヘキサメタリン酸ソーダ等が使用できる。塗布液中の含有量は特に限定されないが、0.1質量%〜1質量%、望ましくは0.2質量%〜0.8質量%、さらに望ましくは0.2質量%〜0.5質量%の範囲である。
【0073】
層の平均厚みは、1〜50μmが好ましく、より好ましくは3〜40μm、さらに好ましくは5〜30μmである。1μm未満であると触媒活性が低くなることがある。また50μmを超えると、それ以上の効果が得られない。空隙率は、5〜70%が好ましく、より好ましくは10〜60%、さらに好ましくは15〜50%である。5%未満であると触媒活性が低くなる。また50%を超えると、機械的強度が低くなることがある。
ゼオライト(zeolite)とは、結晶中に微細孔を持つアルミノ珪酸塩の総称。日本名は沸石(ふっせき)。もとは天然に産出する鉱物であり、内部に水が含まれている。分子ふるい、イオン交換材、触媒、吸着材として利用されている。現在ではさまざまな性質を持つゼオライトが人工的に合成されている。ゼオライトは二酸化ケイ素からなる骨格を基本とし、一部のケイ素がアルミニウムに置き換わることによって結晶格子全体が負に帯電している。そのため微細孔内にナトリウムなどのカチオンを含み、電荷のバランスを取っている。ゼオライトはその細孔内に選択的に分子を取り込み、反応させることができるため、触媒として多方面に利用されている。例えばZSM-5という合成ゼオライトを用いることでメタノールからガソリンを合成することに成功している。また、ディーゼル排気中に含まれるNOxを分解・除去するための触媒としても期待されている。天然に産するゼオライトは溶岩と水の相互作用により生じ、主に温泉地帯から産出。枕状溶岩や深海中、そして火山灰の地層と地下水との接触によっても生じる。沸石グループとしてまとめられており、これまでに52種(1996年)が認定されている。
粒子径は0.1μm〜数cmのものが、市販されており、粒子径の小さいものほど高価である。現在、市販のゼオライトの粒子径は小さくても100nmであり、陽極酸化皮膜の細孔径10nmに対して大きいので、細孔内部に入る事はできない。
しかし、結着材やアルミノシリケートゲルを水熱合成反応によって製膜したゼオライト膜は、一部微細な粒子が生成しており、その一部が陽極酸化皮膜の細孔内部にまで観察される事がある。(図1)
【0074】
<アンモニアを吸着する性質を有する多孔質材料の形成方法>
上記のゼオライトと結着材としてリン酸および・またはコロイダルシリカおよび・またはベーマイトゾルとを含む層を陽極酸化皮膜の細孔中および細孔上に形成する方法は、これらの混合物を含有する液状物を塗布、またはスラリーにどぶ漬け(浸漬塗布)する方法が用いられる。
塗布方法としては、ワイヤーバー塗布、吹きつけ塗布、ブレード塗布、浸漬塗布が用いられ、乾燥温度100℃〜300℃、焼成温度250℃〜500℃で乾燥焼成する。乾燥温度100℃〜250℃、焼成温度280℃〜500℃が好ましく、乾燥温度100℃〜200℃、焼成温度300℃〜400℃がより好ましい。
【0075】
<本発明の触媒体の実施態様>
以下に本発明の触媒体でのNOx浄化作用を、1実施態様を例として説明する。
本発明の触媒体はNOx浄化装置の触媒体として用いる事ができる。この場合、NOx浄化装置の上流側には、アンモニア生成触媒が設けられている事が好ましい。アンモニア生成触媒は、下記化学反応式(1)及び(2)で表される化学反応により、排気が還元雰囲気(リッチ状態)にあるとき、二酸化窒素(NO2)を還元して、窒素(N2)、水(H2O)及びアンモニア(NH3)を生成する。
2NO2+4H2 → N2+4H2O (1)
2NO2+7H2 → 2NH3+4H2O (2)
【0076】
本発明の触媒体は、アルミニウム表面を有する基板に陽極酸化処理を施して得られた陽極酸化皮膜(γ-Al23)に担持された、例えば、触媒として作用する白金(Pt)と、NOx吸着能力を有するセリアまたは、バリウムを備えている。
さらに、排気中のアンモニア(NH3)を、アンモニウムイオン(NH4+)として、保持する機能を有するゼオライトとを陽極酸化皮膜上に備えている。
【0077】
排気中に含まれるNOx、及びセリア(及び白金)に吸着されているNOx(NO,NO2)と、生成された水素とが、触媒の作用で反応し、アンモニア(NH3)及び水が生成される。これを化学反応式で示すと、下記式(5)及び(6)のようになる。
2NO2+7H2→2NH3+4H2O (5)
2NO+5H2→2NH3+2H2O (6)
生成されたアンモニアは、アンモニウムイオン(NH4+)の形で、ゼオライトに吸着される。
【0078】
セリアまたは、ベーマイト水和物にNOxが吸着される。さらに、ゼオライトにアンモニウムイオンが吸着した状態では、下記式(7)及び(8)で示すように、排気中のNOx及び酸素と、アンモニアとが反応して、窒素(N2)と水が生成される。
4NH3+4NO+O2→4N2+6H2O (7)
2NH3+NO+NO2→2N2+3H2O (8)
【0079】
<内燃機関の制御方法の一例>
本発明の触媒体を触媒体として用いて、排気ガス中のNOxを浄化する際の内燃機関の制御方法の一例を示す。本発明の触媒体はこの方法に限定されず、任意の制御方法を用いることができる。
【0080】
図3(A)は、内燃機関の希薄燃焼時(空気過剰率λ=1.5)において、本発明の触媒体からなる触媒体1上に排気ガス中の窒素酸化物NOX(代表例として一酸化窒素NOのみを示す)が吸着される状態を示す模型図である。また、図1(B)は、内燃機関の理論空燃比(空気過剰率λ=1.0、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンにおけるそれぞれの化学量論的な空燃比)における触媒体1上での反応の模型図を示している。希薄燃焼時の空気過剰率は1.5に限らず、内燃機関の製造のばらつきや使用条件等を勘案して任意に設定することができる。
【0081】
触媒体1は、排気管(図示せず)に設置する。空気過剰率が希薄燃焼時(リーン状態)においては、触媒体1上では、酸素イオンO2-又はO2-とNOXが反応して硝酸イオンNO3-が生じ、硝酸イオンNO3-は触媒体1の表面に吸着して硝酸塩を形成する。
【0082】
触媒体1上の硝酸塩が飽和状態になると、図4に示すように、空気過剰率をλ=1.0よりも若干小さくし、リッチ状態で内燃機関を5、6秒間稼働させ、硝酸塩を排気ガス中に含まれている未燃のHC、COと反応させることにより、触媒体1上の硝酸塩をN2、CO2及びH2Oに分解して還元し、除去することができる(以後、これをリッチスパイクと呼ぶ)。リッチスパイク実行後、再度空気過剰率をリーン状態(λ=1.5)に設定する。
【0083】
触媒体1上の硝酸塩が飽和状態になると、もはや触媒体1はNOXを吸蔵することができず、NOXは排気ガス中に多量に混入する。これを排気管の触媒体1より下流側に設けたNOXセンサが検知し、リッチスパイクを実行することで触媒体1上の硝酸塩を還元し、新たにNOXを吸蔵することができるようにしてもよい。また、触媒体1の上流側または下流側に、酸素センサを設けて酸素濃度を測定し、これらの信号に基づいて空気過剰量を調整しても良い。
【0084】
リーン状態とリッチスパイクを交互に繰り返す内燃機関の稼働方法を吸蔵触媒モードと呼ぶ。
【0085】
実施例
<触媒体の作製>
以下に示す各基板に、以下の表1〜3に示す条件の粗面化処理、陽極酸化処理、溶解処理および水和処理を順次施して、各微細触媒体を得た。各表中「−」は該当する処理を施していないことを示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
(1)基板
触媒体の作製に用いた基板は、以下のとおりである。これらを5cm×10cmの処理面積で陽極酸化処理できるようカットして使用した。
・基板A:アルミニウム基板(JIS A1050材、純度99.5質量%、厚さ0.3mm)を、濃度25質量%の硫酸水溶液(60℃)に、2分間接触させた基板を用いた。
・基板B:アルミニウム基板(JIS 1N99材、純度99.99質量%、厚さ0.4mm)を、濃度25質量%の硫酸水溶液(60℃)に、2分間接触させた基板を用いた。
・基板C:脱脂基板(上記基板B)をアルゴン雰囲気下で350℃1時間の熱処理を施した後、下記、表2に示す条件の拡大処理(電解粗面化処理)を施した基板を用いた。なお、OPP粘着テープ(商品名:ダンプロンプロ No375A、日東電工製)で裏面マスキングした熱処理後のサンプルを陽極とし、陰極には白金コーティングしたチタンを用いた。
・基板F:脱脂基板(上記基板A)をアルゴン雰囲気下で350℃1時間の熱処理を施した後、下記表3に示す条件の拡大処理(電解粗面化処理)を施した基板を用いた。なお、OPP粘着テープ(商品名:ダンプロンプロ No375A、日東電工製)で裏面マスキングした熱処理後のサンプルを陽極とし、陰極には白金コーティングしたチタンを用いた。
【0089】
【表3】

【0090】
基板I:未使用の平版印刷版を再生利用したものを用いた。
具体的には、まず、市販の平版印刷版原版(商品名:HP-F、富士フィルム社製)を有機溶剤(γ-ブチロラクトン)に30分間浸せきさせた後、メチルエチルケトンで洗浄し、画像記録層をほぼ溶解させた。次いで、30℃の5%リン酸水溶液に20分間浸せきさせ、陽極酸化皮膜(X線源:Rh-Lαコンプトン散乱腺による酸素量の定量)の大部分および有機物(元素C)が蛍光X線分析装置にて検出されない基板Iを得た。
【0091】
(2)陽極酸化処理
基板A、C、F、I の表面に、表1に示される条件で、陽極酸化処理を行った。
具体的には、表1に示される硫酸濃度の電解液、温度、電圧および処理時間で、陽極酸化処理を行い、表1に示される皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成させた。なお、陽極酸化処理においては、冷却装置としてNeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置としてペアスターラー PS−100(EYELA社製)、電源としてGP0650−2R(高砂製作所社製)を用いた。また、電解液の平均流速は、渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて測定した。
陽極酸化皮膜の皮膜厚は、渦電流式膜厚計(EDY−1000、(株)サンコウ電子研究所製)を用いて測定した。
【0092】
(3)溶解処理
・条件A:pH3、液温30℃の5質量%リン酸水溶液に、陽極酸化処理後のアルミニウム基板を表1に示される時間浸漬させ、陽極酸化皮膜の一部を溶解させた。
【0093】
(4)水和処理
陽極酸化処理後(溶解処理を施した例においては溶解処理の後)のアルミニウム基板を、温度25℃、pH11のアンモニア水に、表1に示される時間浸漬させた。その後、電気炉にて500℃で3時間焼成した。
(5)NOx吸蔵材と触媒の担持処理
【0094】
【表4】

表4に示す順でNOx吸蔵材と触媒を担持した。担持量は簡単の為、EPMAによる全定性分析を行った。Al、O、P、Sの他にNOx吸蔵材と触媒が検出された。(単位wt%)
測定条件 機種:JEOL製 JXA-8800、加速電圧20kV、照射電流値10-7A、Dwell50ms、倍率1000倍
白金担持量[g/m2]とEPMA強度は標準品から得られた検量線で換算可能である。
例えば白金の場合には図2のような関係となる。(陽極酸化皮膜厚み 3μmの場合の片面陽極酸化品の検量線を示した。)
陽極酸化皮膜の厚みが3μm以下の場合には、全量溶解する事無く、白金同様に、Ag、Ce、Baなどの金属元素をEPMAによる全定性分析を行った後、検量線から、担持量を感度良く求めることができる。
【0095】
【表5】

【0096】
処理番号1〜19の基板に触媒(Pt)を担持した。
Ptの担持処理方法
1)処理番号1〜9
Ptの含有量が1g/L程度となるように 塩化白金酸(和光純薬株式会社製)を純水に溶解させた。pHが11.4となるようにアンモニア水で調製した。25℃にて5分間浸漬した。
【0097】
2)処理番号10、11
45分間浸漬した。浸漬時間以外は処理番号1〜9と同じ処理を施した。
【0098】
3)処理番号12
90分間浸漬した。浸漬時間以外は処理番号1〜9と同じ処理を施した。
【0099】
4)処理番号13〜23は、表4に示すように触媒担持を行った。
【0100】
触媒(ベーマイトゾル+Ag)の担持
処理番号24
ベーマイトゾル+Agの担持処理方法
Agの含有量が1g/lであり、AlとAgの合計量に対するAgの含有率が80mol%となるようにAl及びAgを含有する硝酸塩溶液を調製した。なお、Al原料としては硝酸アルミニウム9水和物(関東化学製 試薬)、Ag原料としては硝酸銀(関東化学製 試薬)を用いた。次に、それらの硝酸塩を沈殿させるのに必要なNH量を含む28%アンモニア水(関東化学製 試薬)を用意した。そして、上記硝酸塩溶液を撹拌しながら上記アンモニア水をpHが11になるまで混合した。10時間撹拌を継続した。処理番号4と同様に水和処理まで実施した基板を25℃にて8分間浸漬した。
【0101】
触媒(Ag+セリア)の担持
処理番号25
Agの含有量が1g/lであり、CeとAgの合計量に対するAgの含有率が80mol%となるようにCe及びAgを含有する硝酸塩溶液を調製した。なお、Ce原料としては硝酸セリウム6水和物、Ag原料としては硝酸銀を用いた。次に、それらの硝酸塩を沈殿させるのに必要なNH量を含む25%アンモニア水を用意した。そして、上記硝酸塩溶液を撹拌しながら上記アンモニア水をpHが11になるまで混合した。10時間撹拌を継続した。処理番号4と同様に水和処理まで実施した基板を25℃にて8分間浸漬した。
【0102】
触媒(Pt+セリア)の担持
処理番号26
Ptの含有量が1g/lであり、CeとPtの合計量に対するPtの含有率が80mol%となるようにCe及びPtを含有する硝酸塩溶液を調製した。なお、Ce原料としては硝酸セリウム6水和物(関東化学製 試薬)、Pt原料としては塩化白金酸(関東化学製 試薬)を用いた。次に、それらの硝酸塩を沈殿させるのに必要なNH量を含む25%アンモニア水を用意した。そして、上記硝酸塩溶液を撹拌しながら上記アンモニア水をpHが11になるまで混合した。10時間撹拌を継続した。処理番号4と同様に水和処理まで実施した基板を25℃にて8分間浸漬した。
【0103】
触媒(酸化Ga+酸化アルミ)の担持
処理番号27
アルコキシド法による酸化ガリウム/酸化アルミニウム複合酸化物の調製
アルミニウムイソプロポキシド(Al(OC3 7 3 )12.5gを、約90℃に保持した熱水125mlに添加し、マグネチックスターラーで2時間攪拌を続けた。この溶液に硝酸(HNO3 )2.0mlをピペットにて素早く滴下してゾルを得た。さらに約90℃で1時間攪拌した。別のビーカーに計り取った硝酸ガリウム(Ga(NO3 3 ・xH2 O)3.10gをエチレングリコール((CH2 OH)2 )35mlに約70℃で溶解させた。約70℃で1時間攪拌した。この後、上記のゾル溶液に硝酸ガリウムのエチレングリコール溶液を滴下して、さらに約90℃で3時間攪拌し、得られたゾル溶液を室温で一昼夜攪拌した後、処理番号4と同様に水和処理まで実施した基板を25℃にて8分間浸漬した。
【0104】
上記の触媒活性を有する金属または酸化物を含む層を有する処理番号2の基板にゼオライトのコーティングを施して、実施例28の本発明の触媒体とした。
(6)ゼオライト層のコーティング
1)合成ゼオライト 東ソー(株)製 商品名:Y型ゼオライト HSZ-320-NAA(平均粒径6μm) 44.4g
2) 塩化アルミ (関東化学製 試薬) 44.4g
3) 85wt% リン酸(関東化学製 試薬) 2.6g
4) 1g/l クエン酸 0.1g
5) 純水50g
合成ゼオライト 東ソー(株)製 商品名:Y型ゼオライトは硫酸銅水溶液(濃度1mol/l 25℃ 1時間)に浸漬して、イオン交換処理をおこなった。(アルミ→Cu)
上記1)〜5)を混ぜて、スラリーとし、基板に市販のワイヤーバー(ワイヤー太さ0.25mm)にて塗布した。200℃で10分間乾燥後、膜厚を計測したところ、多孔質層の厚みは30μmであった。
【0105】
比較例1
実施例1でPt触媒の担持処理しないものを比較例1とした。
比較例2
実施例1でPt触媒、NOx吸蔵材の担持処理しないものを比較例2とした。
【0106】
比較例3
日揮化学(株)製市販品 X1062AZをハンマーにて粉砕して、処理番号1と同じ白金量となるように、分量を調整して用いた。
【0107】
【表6】

【0108】
AG2の銀担持量の測定
処理番号22:大きさ2×3cmの基板を密閉容器にて、希硝酸(濃硝酸1部+水1部)50cc、25℃、30分間にて溶解した。10倍に純水で希釈した後、島津製作所(株)製 ICP測定装置にて検量線法にて溶液中の銀濃度を計測した。
陽極酸化皮膜量[g/m2]はクロム酸と燐酸の混合水溶液にて50℃、6時間浸漬して、浸漬前後の重量変化より算出した。
その結果、銀担持量は、1.6g/m2であった。
処理番号2の白金担持量の測定
大きさ2×3cmの基板を王水(濃硝酸1部+濃塩酸3部)50ccで溶解した後、密閉ガラス容器で150℃、30分間処理して完全に溶解した。10倍に純水で希釈した後、島津製作所(株)製 原子吸光法測定装置にて検量線法にて溶液中の白金濃度を計測した。
陽極酸化皮膜量[g/m2]はクロム酸と燐酸の混合水溶液にて50℃、6時間浸漬して、浸漬前後の重量変化より算出した。
その結果、白金担持量は、2g/m2-Al2O3であった。
日揮化学(株)製市販品X1062AZは含有量0.5%であるので、白金量0.12mg相当量として24mg分相当の小片を評価用サンプルとした。
【0109】
<評価方法>
旧型ディーゼル車(トヨタ製 H5年モデル 原動機:3C-T 型式:Q-CXR20G 4気筒 SOHC)よりアイドリング状態でガスをテドラ-バッグ11に約10L採集した。
NOx モデルガス(NO(0.1vol%)+N2(Balance)とO2ガス2vol%を混合)を同様に他のテドラ-バッグ中に約10L採集した。
上記実施例1〜28、比較例1〜3の各触媒体1の試料3cm角を約5mm幅に裁断し、5×30mmの小片を6本得た。内径10mmφの石英管13に導入し、両端をグラスウール15で封入した。一方はテドラーバッグより定量ポンプ17にて排気ガスを導入し、他方でNOx測定器19によりNOx量を計測した。温度をヒーター20で処理温度を100〜300℃とした。50℃ごとに排ガスをサンプリングし、一酸化窒素の浄化処理率を求めた。反応後の比較をおこなった。計測値はNOx モデルガス(NO(0.1vol%)+N2(Balance)とO2ガス2vol%を混合)を使って、校正を行った。
NOx 計測機 TSI社製 CA-6215 マルチガス コンビネーション アナライザー
SV値(空間速度=処理ガス量[m3N/hr]/触媒量[m3])が20000 h-1となるように定量ポンプ17にて送気した。
触媒量は例えば、内径10φなので、断面積78.5mm2で板状の触媒体を設置する場合を想定し、0.785cm×3cm×3cmであるから7×10-7[m3]となる。
したがって導入するガス量は処理ガス量[m3N/hr]=20000[h-1]×7×10-7[m3]=14×10-3[m3N/hr]=14[L/hr]となる。そこで、1時間で14L流れるように230cc/分、定量ポンプでガスを送った。旧型ディーゼル車から採集したNOx量は500ppmであった。
【0110】
<除去率の算出>
各評価ガスの除去率は下記の式(1)を用いて算出した。
除去率(Removal ratio)(%)=( 1 - A / B)× 100 (1)
A:所定時間後のガス濃度(ppm)
B:評価ガスの初期濃度(ppm)
ゼオライト層をコーティングした実施例28の評価方法
被処理ガスの成分モル濃度比を、一酸化窒素0.1%、酸素14%、水蒸気10%、アンモニア0.3%とした。該調整ガスの流量を毎分230 ml、処理温度を100〜600℃とした。処理後の排ガスに含まれるNOxを定量分析し一酸化窒素の浄化処理率を求めた。
本発明の触媒はアンモニアを還元剤として用いても、高濃度酸素共存下において広い温度範囲で高いNOx処理率を与えることができる。
【0111】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、本発明の触媒体の1例を説明するための断面図である。
【図2】図2は、Pt担持量とEPMAのPt強度を示す検量線のグラフである。
【図3】図3は、本発明の触媒体への窒素酸化物NOxの吸着または還元の過程を示す模式図である。(A)は、希薄燃焼時を示し、(B)は、理論空燃比における状態を示す。
【図4】図4は、空気過剰率(λ)と時間との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の触媒体のディーゼル車排ガス中のNOx除去率を測定する装置の模式図である。
【符号の説明】
【0113】
1・・・触媒体
3・・・ベーマイト(γーアルミナ)
5・・・触媒活性を有する金属または酸化物
7・・・NOx吸着剤
10・・・アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔
11・・・テドラーバック
13・・・石英管
15・・・グラスウール
17・・・定量ポンプ
19・・・NOx測定器
20・・・ヒーター
21・・・ゼオライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔内部に、カリウム(K),バリウム(Ba),ランタン(La)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Te)、サマリウム(Sm)およびガドリニウム(Gd)からなる群から選ばれる少なくとも一種、並びにパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)およびガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種を担持してなる触媒体。
【請求項2】
請求項1記載の触媒体上に、さらに陽極酸化皮膜上にアンモニアを吸着する性質を有する材料を設けた触媒体。
【請求項3】
前記アンモニアを吸着する性質を有する材料が、ゼオライトを含む多孔質材料であることを特徴とする請求項1または2記載の触媒体。
【請求項4】
前記アルミニウムの陽極酸化皮膜が、アルミニウムを表面に有する基板に、粗面化処理を施した後、陽極酸化処理されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒体。
【請求項5】
前記アンモニアを吸着する性質を有する材料からなる層は、ゼオライト;並びに燐酸、コロイダルシリカおよびベーマイトゾルからなる群から選ばれる少なくとも一種;を含むスラリーを、アルミニウムの陽極酸化皮膜の上に、塗布して設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の触媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の触媒体をそのまま、小片状に加工、折り曲げ加工、または微小体に粉砕したNOx浄化用触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272743(P2008−272743A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85728(P2008−85728)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】