説明

隅肉溶接部の構造及び隅肉溶接方法

【課題】安価で溶接止端部の形状が応力集中の軽減が図れる滑らかな形状となり、アクスルケースへのブレーキフランジの隅肉溶接に適用することで、ブレーキ時の制動トルクの保持と高い耐久性とを安価に両立できる隅肉溶接部の構造及び隅肉溶接方法を提供する。
【解決手段】第1の部材3に第2の部材4を隅肉溶接してなる隅肉溶接部の構造であって、第1の部材3及び第2の部材4の内の少なくとも一方の部材3の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝10を形成し、溶接時にその溝10を溶着金属で埋めて溶接ビード7の脚長aが上記溝10の幅Xよりも大きくなるように溶接してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接止端部の形状を滑らかにし、応力集中の軽減を図った隅肉溶接部の構造及び隅肉溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8(a)に示すように、車両用のアクスルケース1は、ディファレンシャル機構が収容されるディファレンシャル収容部2と、その左右に配置されアクスルが収容される円筒状のアクスルハウジング部3とから成っている。左右のアクスルハウジング部3には、ブレーキを取り付けるための環状板状のブレーキフランジ4が夫々嵌合され、各ブレーキフランジ4の少なくとも一方の側面がアクスルハウジング部3の外周面にその周方向に沿って隅肉溶接されている。
【0003】
かかるアクスルケース1には、各ブレーキフランジ4の取付部よりも車幅中心側の左右各一カ所にサスペンション用のスプリング5が装着され、両端部すなわちブレーキフランジ4の取付部よりも車幅外側にタイヤ6が配置される。このため、スプリング5からの懸架力とタイヤ6からの路面反力とにより生成される曲げモーメントによりアクスルケース1の下面側には引張応力が発生する。よって、アクスルケース1の下面側におけるアクスルハウジング部3とブレーキフランジ4との隅肉溶接部に大きな応力集中(引張応力集中)が生じ、その隅肉溶接部を始端としてアクスルケース1に亀裂が発生する可能性が考えられる。
【0004】
そこで、ブレーキフランジ4をアクスルケース1のアクスルハウジング部3に全周は溶接せず、アクスルハウジング部3の下面側の所定角度(例えば90度〜120度)の範囲を隅肉溶接せずに未溶接のままとし、下面側の隅肉溶接部における応力集中を回避するようにした手法が知られている。しかし乍ら、この手法では、ブレーキフランジ4のアクスルハウジング部3に対する溶接長が減少するため、制動時にブレーキフランジ4に加わる制動トルクの支持能力が溶接長の減少に応じて低下してしまう。
【0005】
そこで、この対策として、図9(b)に示すようにフレックス入りワイヤを用いたCF溶接を用い、ブレーキフランジ4をアクスルハウジング部3にその下面側をも含めて隅肉溶接する手法が知られている。この手法によれば、溶接長が稼げるためブレーキハウジング4に加わる制動トルクの支持能力を確保でき、CF溶接(フレックス入りワイヤ)により、図9(a)に示す一般的なソリッドワイヤを用いたCO2 溶接によるブレーキフランジ4のアクスルハウジング部3への隅肉溶接と比べて溶接ビード7の溶接止端部8の形状が滑らかになるため、アクスルハウジング部3の下面側における溶接止端部8の応力集中が軽減される。
【0006】
また、図9(c)に示すエアタガネによる手法も実用化されている。このエアタガネによる手法は、ブレーキフランジ4をアクスルハウジング部3にその下面側をも含めて隅肉溶接(ソリッドワイヤを用いたCO2 溶接)した上で、アクスルハウジング部3の下面側の引張曲げ応力の厳しい所定の範囲の溶接止端部8の近傍に、複数の針状の打撃体9を高圧エアの力で振動するようにして叩きつけるものである。この手法によれば、溶接長が稼げるためブレーキハウジング4に加わる制動トルクの支持能力を確保でき、針状の打撃体9によって叩かれた部分(アクスルハウジング部3の下面側の引張曲げ応力の厳しい部分)の表面が硬化して強度が向上すると共に、引張応力集中部に圧縮の残留応力が発生するため応力が相殺される。
【0007】
【特許文献1】特開平8−108882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、フレックス入りワイヤを用いたCF溶接による手法においては、溶接ワイヤのコストが一般的なソリッドワイヤと比較して高価である上、溶接ビード7の表面がスケールで覆われるためこのスケールを除去する必要があり、コストアップ、作業工数の増加及び作業環境の悪化が問題となる。また、エアタガネによる手法においては、溶接後の処理時間の増加や、打撃音等による作業環境の悪化が問題となる。
【0009】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、安価で溶接止端部の形状が応力集中の軽減が図れる滑らかな形状となり、アクスルケースへのブレーキフランジの隅肉溶接に適用することで、ブレーキ時の制動トルクの保持と高い耐久性とを安価に両立できる隅肉溶接部の構造及び隅肉溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために第1の発明は、第1の部材に第2の部材を隅肉溶接してなる隅肉溶接部の構造であって、第1の部材及び第2の部材の内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接してなるものである。
【0011】
上記溝の幅が上記脚長の1/4以上、上記溝の深さが上記溝の幅の略1/2であることが好ましい。
【0012】
また、第2の発明は、車両用のアクスルケースの円筒状のアクスルハウジング部に、ブレーキを取り付けるための環状板状のブレーキフランジを嵌合して上記アクスルハウジング部の周方向に隅肉溶接してなる隅肉溶接部の構造であって、上記アクスルハウジング部及びブレーキフランジの内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接してなるものである。
【0013】
上記溝が、上記アクスルハウジング部の車両下側の外周面に形成されることが好ましい。
【0014】
上記溝が、上記アクスルハウジング部の車両下側の外周面の少なくとも60度の範囲に形成されることが好ましい。
【0015】
上記溝の幅が上記脚長の1/4以上、上記溝の深さが上記溝の幅の略1/2であることが好ましい。
【0016】
上記溝が、上記アクスルハウジング部の上記ブレーキフランジよりも車幅中心側の外周面にのみ形成されることが好ましい。
【0017】
また、第3の発明は、第1の部材に第2の部材を隅肉溶接する方法であって、第1の部材及び第2の部材の内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接するものである。
【0018】
また、第4の発明は、車両用のアクスルケースの円筒状のアクスルハウジング部に、ブレーキを取り付けるための環状板状のブレーキフランジを嵌合して上記アクスルハウジング部の周方向に隅肉溶接する方法であって、上記アクスルハウジング部及びブレーキフランジの内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接するものである。
【0019】
また、第5の発明は、隅肉溶接された溶接ビードの溶接線の一部分に応力が集中するような状況が見込まれるとき、少なくとも上記一部分を含むようにして溶接線に沿った溝を母材に形成しておき、その溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が溝の幅以上となるように隅肉溶接するようにしたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る隅肉溶接部の構造及び隅肉溶接方法によれば、安価で溶接止端部の形状が応力集中の軽減が図れる滑らかな形状となり、アクスルケースへのブレーキフランジの隅肉溶接に適用することで、ブレーキの制動トルクの保持と高い耐久性とを安価に両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1(a)、図1(b)、図8(a)、図8(b)に示すように、車両用のアクスルケース1の円筒状のアクスルハウジング部3の外周面には、ブレーキを取り付けるための環状板状のブレーキフランジ4が被嵌され、そのブレーキフランジ4は、アクスルハウジング部3の外周面に、その周方向に沿って隅肉溶接されている。隅肉溶接は、本実施形態では、ブレーキ部品の取付性を考慮してアクスルハウジング部3のブレーキフランジ4よりも車幅中心側にのみ施され、低コスト化を考慮してソリッドワイヤを用いた一般的なCO2 溶接が採用される。
【0023】
アクスルハウジング部3の外周面の隅肉溶接する部分には、その溶接線の一部に、周方向に沿って溝10が形成されている。詳しくは、溝10は、アクスルハウジング部3の外周面の車両下側の部分に形成され、特に車両下側の部分の少なくとも60度の範囲10a(図8(b)参照)、すなわちアクスルハウジング部3の中心からの鉛直線を挟んで少なくとも左右30度の範囲10aに形成される。ここで「少なくとも60度の範囲10aに溝10を形成する」とは、上述した60度の範囲10aには必ず溝10を形成し、加えて60度を超える範囲にも溝10を形成することを妨げない、と言う意味である。
【0024】
本実施形態では、ブレーキフランジ4がアクスルハウジング部3の外周面の全周に亘って隅肉溶接され、その溶接部の内、アクスルハウジング部3の外周面の車両下側の部分の60度の範囲10aにのみ溝10が形成されている。但し、隅肉溶接は全周に亘って施されていなくてもよく、溝10は60度の範囲10aを超えて形成されていてもよい。アクスルハウジング部3は本実施形態ではその中心線に沿って円筒を略半割りした2分割パーツからなり、溝10はその分割パーツをプレス成形する際に同時にプレス型に押圧されて円弧状(略半円状)に成形される。よって、溝10を成形するための追加の工程は不要である。但し、溝10の断面は三角形や矩形でもよく、溝10を切削加工で成形してもよい。
【0025】
溝10は、ブレーキフランジ4をアクスルハウジング部3に隅肉溶接(ソリッドワイヤを用いた一般的なCO2 溶接)する際に、溶着金属で埋められ、溶接ビード7の脚長aが溝10の幅Xよりも大きくなるように溶接ビード7が形成される。このように溶着金属が溝10の内面を溶かしつつ溝10の内部に嵌り込むようにして収容されるため、溝10が無い場合と比べると、単位長さ当たりの溶着金属の体積は同じであっても、溶接ビード7の表面7aが凸形状と成り難くなり、凹形状乃至は平面形状、或いは凸形状と成ったとしても凸の程度が小さく成る。すなわち、安価なソリッドワイヤを用いたCO2 溶接を採用しても、高価なフラックス入りワイヤを用いたCF溶接(図9(b)参照)を採用した場合と同様の溶接ビード7の形状が得られる。
【0026】
この結果、極めて低コストで溶接ビード7の溶接止端部8のフランク角αが大きくなって、溶接止端部8が滑らかに母材(アクスルハウジング部3)と接続する形状となり、溶接止端部8における応力集中が軽減される。すなわち、アクスルケース1において引張応力が集中するアクスルハウジング部3の車両下面側におけるブレーキフランジ4の溶接ビード7の溶接止端部8の形状が、車両下面側の60度の範囲10aで滑らかになり、その部分での応力集中が緩和される。よって、車両下面側における溶接止端部8を始点とする応力集中に因る亀裂の発生を低コストで抑制することができ、耐久性が向上する。また、フラックス入りワイヤを用いたCF溶接を採用していないので溶接ビード7の表面がスケールで覆われることはなく、このスケールを除去するための作業工数の増加や作業環境の悪化の問題は生じない。
【0027】
また、溝10が隅肉溶接時に溶着金属で埋められ、溶接ビード7の脚長aが溝10の幅Xよりも大きくなるように溶接されることで、上述のようにフランク角αを大きくしつつ単位長さ当たりの溶着金属の体積が十分に確保され、溶着金属が母材に十分溶け込むため、高い溶接強度を確保できる。また、溝10を形成する以外は従来の隅肉溶接(ソリッドワイヤを用いたCO2 溶接)と同様の溶接条件(電圧、溶接速度等)で溶接しているので、低コストとなると共に従来と同様の溶接強度が得られる。加えて、本実施形態では、ブレーキフランジ4をアクスルハウジング部3の外周面の全周に亘って隅肉溶接しているので、長い溶接長が確保される。このように、高い溶接強度が得られると共に長い溶接長が確保できるため、制動時にブレーキフランジ4に加わる制動トルクの支持能力が高まり耐久性が向上する。
【0028】
すなわち、本実施形態は、制動時にブレーキフランジ4に加わる制動トルクの支持能力を高めるため、ブレーキフランジ4をアクスルハウジング部3にその下面側をも含めて隅肉溶接し、且つ引張応力の集中に因り亀裂の発生が懸念される溶接ビード7の車両下面側の溶接止端部8の形状を滑らかに母材に繋がるようにしてその応力集中を緩和すべく、車両下面側の60度の範囲10aに溝10を形成した上で、安価なソリッドワイヤを用いたCO2 溶接によって隅肉溶接を行ったものである。これにより、安価で溶接止端部8の形状が応力集中の軽減が図れる滑らかな形状となり、ブレーキの制動トルクの保持と高い耐久性とを安価に両立できる。
【0029】
なお、溝10は、上述したように溶接長さの全ての範囲に形成する必要はなく、強度上特に厳しい範囲(応力集中が顕著な範囲)、本実施形態のようにアクスルケース1のアクスルハウジング部3へのブレーキフランジ4の隅肉溶接においては、アクスルハウジング部3の車両下側の60度の範囲10aに溝10を設け、隅肉溶接時にその溝10を埋めて脚長aが溝10の幅Xより大きくなるように溶接ビード7を形成することで、十分な強度向上効果(応力集中緩和効果)が得られる。但し、溝10を溶接長さの全ての範囲、即ちアクスルハウジング部3の外周面の全周に亘って形成してもよいことは勿論である。
【0030】
以下に、本発明の技術的な前提を述べる。
【0031】
一般に、隅肉溶接部(溶接ビード7)の外観は、溶接ビード7の脚長aが同じ場合には単位長さ当たりの溶着金属の量が少ないほど凹んだ形状となって溶接止端部8が滑らかに母材に接続する形状となり、溶接止端部8における溶着金属表面と母材表面の成すフランク角α(図2参照)が大きくなり、その溶接止端部8における応力の集中係数が軽減される。
【0032】
溶着金属の量を減らすには電流を減らすか溶接速度を上げて単位溶接長当たりの入熱量を減らせばよいが、入熱量が減少することにより溶接の溶け込みや溶接ビード7の有効のど厚も減少してしまい、溶接ルート部からの亀裂発生や破壊の原因となるため、この方法によって溶着金属の量を減らしてフランク角αを増加させるのには限度がある。特に、溶接材料費が安く溶接の後処理が容易なCO2 溶接の場合には溶接ワイヤから比較的大きな溶滴が落下することにより溶着金属が形成される上、スラグの少ない分だけ溶着金属の冷却凝固が速いため、溶接ビード7の幅や高さにムラのある、不連続な溶接ビード7と成り易く、更に限度が狭いため、より凸形状の溶接ビード7と成り易い(図9(a)参照)。
【0033】
ところで、図2において、2つの部材(例えば、ブレーキフランジ4、アクスルハウジング部3)の溶接ビード7の水平方向及び垂直方向の脚長aが等しく溶接ビード7の表面が略平坦の場合には、フランク角αは約135度(180度−45度)となる。本発明者は、溶着金属の量が50%増えて溶接ビード7が凸形状となるとフランク角αは約40度減少し、逆に溶着金属の量が50%減って溶接ビード7が凹形状となるとフランク角αは約40度増加することを見出した(図3参照)。
【0034】
図3は、溶着金属の溶着量変化率(B/A)と、フランク角αと相関する角度θ(θ=180度−(45度+フランク角α))との関係を表す説明図である。図3は次のようにして求められた。先ず、図2において、Aは、溶接ビード7の水平方向の脚長a、垂直方向の脚長a、表面が平坦な部分の体積であり、Bはその表面から膨出した或いは表面から凹んだ部分の体積である。図2の三角形XYZについて次式が成立する。
【0035】
sinθ=(√2a/2)/R
書き換えて
R=a/(√2sinθ)…(1)
また
A=0.5a2…(2)
B=πR2 (2θ/360)−0.5(Rsinθ)(Rcosθ)×2
=0.5R2 (4πθ/360)−0.5R2 sin2θ
=0.5R2 ((4πθ/360)−sin2θ)
(1)式を代入して
B=(0.25a2 /sin2 θ)×((4πθ/360)−sin2θ)…(3) (2)式、(3)式より
B/A=(0.5/sin2 θ)×((4πθ/360)−sin2θ)…(4)
(4)式より図3のグラフが得られる。図3によれば、B/Aが+0.5の場合、即ちベース部Aの表面にAの50%の体積の膨出部Bが膨出している場合、θが約+40度となってフランク角αが約40度小さく成る。逆に、B/Aが−0.5の場合、即ちベース部Aの表面からAの50%の体積の凹み部Bが窪んでいる場合、θが約−40度となってフランク角αが約40度大きく成る。
【0036】
ここで、図1(a)に示すように、隅肉溶接する部材の少なくとも一方(本実施形態ではアクスルハウジング部3)に、脚長aの範囲で脚長aの1/4以上の幅Xを有し、深さYが幅Xの略1/2となる溝10を溶接線に沿って形成する。そして、この部材(アクスルハウジング部3)に他方の部材(ブレーキフランジ4)を、ソリッドワイヤを用いてCO2 溶接により隅肉溶接し、図1(b)に示すように、溝10を溶着金属で完全に埋めることにより、溝10の無い場合に比べて表面の膨らみが少ない乃至は表面の凹んだ溶接ビード7の外観が得られる。
【0037】
例えば、図2に示すように、溝10の幅Xが溶接ビード7の脚長aの1/2の半円状の溝10を配置した場合、溝10の断面積は脚長aを2辺とする2等辺直角三角形(ベース部A)の面積の約20%であることから、溶着金属の約20%がこの溝10を埋めるために消費されるため、図3によりフランク角αが約17度増加し、溶接止端部8の応力集中が緩和され、溶接止端部8からの亀裂の発生が抑制され、寿命を大幅に向上できる。
【0038】
また、溝10の幅Xが溶接ビード7の脚長aの1/4の半円状の溝10を配置した場合には、溝10の断面積はベース部Aの面積の約5%となるので、溶着金属の約5%がこの溝10を埋めるために消費され、図3によりフランク角αが約4度増加するが、溝10の幅Xが溶接ビード7の脚長aの1/5の半円状の溝10を配置した場合、溝10の断面積はベース部Aの面積の約3%となるので、溶着金属の約3%がこの溝を埋めるために消費され、図3によりフランク角αが約3度しか増加しない。
【0039】
よって、フランク角αが少なくとも約4度以上増加することを確保して、或る程度の応力集中緩和の効果を得るべく、特許請求の範囲において、溝10の幅Xが溶接ビード7の脚長aの1/4以上、溝10の深さYが溝10の幅Xの略1/2であることを限定した請求項を設けている。
【0040】
本発明の変形実施形態を図4〜図7に示す。
【0041】
図4(a)、図4(b)に示すものは、溝10をアクスルハウジング部3のブレーキフランジ4よりも車幅中心側のみならず車幅端部側にも同様に設け、車幅中心側のみならず車幅端部側にも同様に溶接ビード7を形成した点のみが前実施形態と異なり、その他は前実施形態と同様となっている。車幅中心側の溝10の幅X1は脚長a1の1/4以上、溝10の深さY1は溝10の幅X1の略1/2である。車幅端部側の溝10の幅X2は脚長a2の1/4以上、溝10の深さY2は溝の幅X2の略1/2である。
【0042】
図5(a)、図5(b)に示すものは、溝10をアクスルハウジング部3に設けることに加えブレーキフランジ4にも同様に設けた点のみが最初の実施形態と異なり、その他は最初の実施形態と同様となっている。アクスルハウジング部3の溝10の幅X3は脚長a3の1/4以上、溝10の深さY3は溝10の幅X3の略1/2である。ブレーキフランジ4の溝10の幅X4は脚長a4の1/4以上、溝10の深さY4は溝10の幅X4の略1/2である。
【0043】
図6(a)、図6(b)に示すものは、図4(a)、図4(b)に示すものと図5(a)、図5(b)に示すものとを組み合わせたものである。溝10の幅X5は脚長a5の1/4以上、溝10の深さY5は溝10の幅X5の略1/2である。溝10の幅X6は脚長a6の1/4以上、溝10の深さY6は溝10の幅X6の略1/2である。溝10の幅X7は脚長a7の1/4以上、溝10の深さY7は溝10の幅X7の略1/2である。溝10の幅X8は脚長a8の1/4以上、溝10の深さY8は溝10の幅X8の略1/2である。
【0044】
図7(a)、図7(b)に示すものは、溝10の断面を三角形、矩形としたものであり、溝10をプレス加工ではなく切削加工やコイニング加工により成形して溝10の反対側の突起を無くしたものである。
【0045】
これらの変形実施形態においても、最初の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0046】
なお、本発明は、アクスルケース1におけるアクスルハウジング部3とブレーキフランジ4との隅肉溶接に限られることはない。すなわち、隅肉溶接された溶接ビードの溶接線に沿った一部分に応力(引張又は圧縮)が集中するような状況が見込まれるのであれば、少なくとも上記一部分を含むようにして溶接線に沿った溝を母材に形成しておき、その溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が溝の幅以上となるように隅肉溶接(安価なCO2 溶接等)することで、各種の隅肉溶接に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の好適実施形態に係る隅肉溶接部の構造、隅肉溶接方法を示す説明図であり、(a)はアクスルハウジング部とブレーキフランジの溶接前の断面図、(b)は溶接後の同断面図である。
【図2】隅肉溶接部の拡大断面図である。
【図3】溶着金属量とフランク角αに相関する角度θとの相関を示す説明図である。
【図4】本発明の変形実施形態に係る隅肉溶接部の構造、隅肉溶接方法を示す説明図であり、(a)はアクスルハウジング部とブレーキフランジの溶接前の断面図、(b)は溶接後の同断面図である。
【図5】本発明の別の変形実施形態に係る隅肉溶接部の構造、隅肉溶接方法を示す説明図であり、(a)はアクスルハウジング部とブレーキフランジの溶接前の断面図、(b)は溶接後の同断面図である。
【図6】本発明の更に別の変形実施形態に係る隅肉溶接部の構造、隅肉溶接方法を示す説明図であり、(a)はアクスルハウジング部とブレーキフランジの溶接前の断面図、(b)は溶接後の同断面図である。
【図7】本発明のまた更に別の変形実施形態に係る隅肉溶接部の構造、隅肉溶接方法を示す説明図であり、(a)は溝の断面が三角形のもの、(b)は溝の断面が矩形のものを示す。
【図8】アクスルケースの説明図であり、(a)はアクスルケースの正面図、(b)は同側面図である。
【図9】従来例を示す説明図であり、(a)はアクスルハウジング部にブレーキフランジをCO2 溶接したものの断面図、(b)は同様にCF溶接したものの断面図、(c)は同様にCO2 溶接したものにエアタガネを施した断面図を示す。
【符号の説明】
【0048】
1 アクスルケース
3 アクスルハウジング部
4 ブレーキフランジ
7 溶接ビード
8 溶接止端部
10 溝
10a 範囲
a 溶接ビードの脚長
X 溝の幅
Y 溝の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材に第2の部材を隅肉溶接してなる隅肉溶接部の構造であって、
第1の部材及び第2の部材の内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接してなることを特徴とする隅肉溶接部の構造。
【請求項2】
上記溝の幅が上記脚長の1/4以上、上記溝の深さが上記溝の幅の略1/2である請求項1に記載の隅肉溶接部の構造。
【請求項3】
車両用のアクスルケースの円筒状のアクスルハウジング部に、ブレーキを取り付けるための環状板状のブレーキフランジを嵌合して上記アクスルハウジング部の周方向に隅肉溶接してなる隅肉溶接部の構造であって、
上記アクスルハウジング部及びブレーキフランジの内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接してなることを特徴とする隅肉溶接部の構造。
【請求項4】
上記溝が、上記アクスルハウジング部の車両下側の外周面に形成された請求項3に記載の隅肉溶接部の構造。
【請求項5】
上記溝が、上記アクスルハウジング部の車両下側の外周面の少なくとも60度の範囲に形成された請求項4に記載の隅肉溶接部の構造。
【請求項6】
上記溝の幅が上記脚長の1/4以上、上記溝の深さが上記溝の幅の略1/2である請求項3〜5いずれかに記載の隅肉溶接部の構造。
【請求項7】
上記溝が、上記アクスルハウジング部の上記ブレーキフランジよりも車幅中心側の外周面にのみ形成された請求項3〜6いずれかに記載の隅肉溶接部の構造。
【請求項8】
第1の部材に第2の部材を隅肉溶接する方法であって、
第1の部材及び第2の部材の内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接することを特徴とする隅肉溶接方法。
【請求項9】
車両用のアクスルケースの円筒状のアクスルハウジング部に、ブレーキを取り付けるための環状板状のブレーキフランジを嵌合して上記アクスルハウジング部の周方向に隅肉溶接する方法であって、
上記アクスルハウジング部及びブレーキフランジの内の少なくとも一方の部材の隅肉溶接する部分の一部又は全部に溶接方向に沿った溝を形成し、溶接時にその溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が上記溝の幅よりも大きくなるように溶接することを特徴とする隅肉溶接方法。
【請求項10】
隅肉溶接された溶接ビードの溶接線の一部分に応力が集中するような状況が見込まれるとき、少なくとも上記一部分を含むようにして溶接線に沿った溝を母材に形成しておき、その溝を溶着金属で埋めて溶接ビードの脚長が溝の幅以上となるように隅肉溶接するようにしたことを特徴とする隅肉溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−183569(P2008−183569A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16781(P2007−16781)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】