説明

障害物回避支援装置及び障害物回避支援方法

【課題】運転者の意図に応じた障害物回避支援の解除を確実に反映できるようにする。
【解決手段】自車両前方に回避が必要な障害物を検出すると、その障害物に対する回避軌道を求め、その回避軌道に基づいて自車両を走行制御するための追従操舵力を算出する。その算出した追従操舵力と運転者の操舵力に基づいてアシスト操舵力を算出して障害物回避のための走行制御を行う。そして、上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えたことを検出したら、自車両のアシスト操舵力の解除と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両前方の障害物に対する運転者の運転を支援する障害物回避支援装の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、操舵制御手段を介してステアリングホイールに伝達される操舵反力に抗して運転者がステアリングホイールを保持するときの保持力を推定する。そして、車両が走行レーン内を走行するように操舵制御手段によって修正操舵を行うときの修正操舵量とそのときの保舵力との関係に基づき、操舵制御手段によるレーン走行支援制御に対する運転者の依存度を判定する。この運転者の依存度状態に基づいて操舵制御手段の解除を判定する。
【0003】
具体的に、修正操舵量が所定操舵量閾値よりも大であって、且つ推定する保持力が所定保舵力閾値を下回った状態が所定時間以上継続した場合に、運転者が操舵制御手段に依存しているという判定をする。このような場合には、運転者に対して操舵制御手段による操舵制御を解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−125852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、走行レーン内を走行するように修正操舵が必要とする状況で、運転者の保舵力が小さい場合に、操舵制御を解除する。
しかし、自車両前方の障害物を回避するための障害物回避支援における操舵制御に、上記特許文献1に記載される操舵制御の解除判定を適用すると、修正操舵が存在する状況でシステムが目標の回避経路に修正する必要があると判定してしまう。この結果、運転者が大きな操舵反力を出しても、制御が解除されないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、運転者の意図に応じた障害物回避支援の解除を確実に反映できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、自車両前方に回避が必要な障害物を検出すると、その障害物に対する回避軌道を求め、その回避軌道に基づいて自車両を走行制御するための追従操舵力を算出する。その算出した追従操舵力と運転者の操舵力とに基づいて求めたアシスト操舵力で障害物回避のための走行制御を行う。また、上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えた操舵力対抗の状態を検出したら、上記アシスト操舵力の解除と判定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転者の操舵力がアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えたことに基づき、自車両のアシスト操舵力の解除を判定するので、運転者の操舵操作とアシスト操舵力との不一致度を適切に判定できる。この結果、運転者の意図に応じた支援制御の解除を確実に反映できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るステアリング装置の主要構成を説明する図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る支援装置の構成を説明する図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る支援装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係る支援制御の処理を説明する図である。
【図5】本発明に基づく第1実施形態に係る支援制御の処理を説明する図である。
【図6】回避軌道の一例を示す図である。
【図7】危険度の一例を示す図である。
【図8】危険度の一例を示す図である。
【図9】アシスト指令トルクの算出の一例を示す図である。
【図10】アシスト指令トルクの算出の一例を示す図である。
【図11】アシスト指令トルクの算出の一例を示す図である。
【図12】操舵力対抗の状態の検出を説明する図である。
【図13】操舵力対抗の状態の別の検出を説明する図である。
【図14】操舵力対抗の状態の別の検出を説明する図である。
【図15】操舵力対抗の状態の別の検出を説明する図である。
【図16】本発明に基づく第2実施形態に係る支援装置の機能ブロック図である。
【図17】本発明に基づく第2実施形態に係る支援制御の処理を説明する図である。
【図18】本発明に基づく第3実施形態に係る支援制御の処理を説明する図である。
【図19】本発明に基づく第3実施形態に係る操舵力対抗の基準値の補正を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
「第1実施形態」
(制御装置の構成)
図1は、本発明の実施形態にかかる走行支援装置が適用された車両のステアリング装置の主要部を模式的に示す構成図である。
【0012】
自車両10は、図1に示すように、ステアリング装置を備える。本実施形態のステアリング装置は、ステアリングホイール1、ステアリングシャフト4、ピニオンシャフト5、ラック6、及びタイロッド7を備える。これによって、ステアリングホイール1と車輪2とは、操舵系によって機械的に連結されている。上記操舵系は、ステアリングシャフト4、ピニオンシャフト5、ラック6、及びタイロッド7である。
【0013】
上記ステアリングホイール1には、運転者による操作によって操舵力が入力される。上記ステアリングシャフト4は、その上端部をステアリングホイール1に連結し、下端部をピニオンシャフト5の上端部に連結する。上記ピニオンシャフト5の下端部はピニオンを構成し、そのピニオンは、車幅方向に延在したラック6に噛合して、ラックアンドピニオン機構を構成する。このラックアンドピニオン機構により、ステアリングホイール1、ステアリングシャフト4、およびピニオンシャフト5の回転運動が、ラック6の直進運動(並進運動)へと変換される。ラック6の両端部は、タイロッド7を介して車輪2に設けられたナックルアーム(図示せず)が接続されており、ラック6が水平方向に移動(並進運動)することにより車輪2に転舵角が与えられる。
【0014】
また上記ステアリング装置には、車輪へのトルク伝達経路(操舵系)の途中にアシストモータ3が設けられている。このアシストモータ3からの動力は、操舵系(例えば、ラック6)に伝達されることにより、運転者の操舵をアシストするアシスト操舵力が操舵系に加えられる。すなわち、操舵系には、運転者による操舵トルクに加え、アシストモータ3によるアシスト操舵力が加えられる。
上記アシストモータ3は、操舵アクチュエータ40を構成する。
【0015】
図2は、本実施形態の制御装置の構成を示す図である。この図2に示すように、車両には、各種センサ及び車両制御コントローラ30が搭載されている。
本実施形態の車両には、図2に示すように、レーダ20、撮像装置21、画像処理装置22、ヨーレートセンサ23、横G・前後Gセンサ24、車輪速センサ25、操舵角センサ8、操舵トルクセンサ9、操舵電流センサ11、車両制御コントローラ30、及び操舵アクチュエータ40が搭載されている。
【0016】
レーダ20は、車両前方にレーザ光を照射し、レーザ光が照射された物体からの反射光を受光系で受光し、レーザ発射時点と反射光の受光時点との時間差を検出することにより、障害物の有無、自車両10と障害物との間の距離や障害物の位置を測定する。レーダ20は、測定結果を車両制御コントローラ30に出力する。
【0017】
撮像装置21は、車両前方の画像を撮像し、撮像した画像を画像処理装置22に出力する。画像処理装置22は、撮像装置21により撮像された画像を処理することにより周囲車両や道路環境等の自車両10の走行環境情報を検出し、検出結果を車両制御コントローラ30に出力する。
【0018】
上記レーダ20、撮像装置21、及び画像処理装置22は、図3に示す障害物検出手段31として機能する。
ヨーレートセンサ23は、自車両10に発生するヨーレートを検出し、その検出値を車両制御コントローラ30に出力する。
【0019】
横G・前後Gセンサ24は、自車両10に発生する横加速度G(横G)と前後加速度G(前後G)を検出し、その検出値を車両制御コントローラ30に出力する。車輪速センサ25は、自車両10の各車輪の回転速度(車輪速度)を検出し、その検出値を車両制御コントローラ30に出力する。
【0020】
ヨーレートセンサ23、横G・前後Gセンサ24、及び車輪速センサ25は、図3に示す車両状態検出手段32として機能する。
操舵角センサ8は、自車両10のステアリングホイール1の操舵角を検出し、その検出値を車両制御コントローラ30に出力する。
【0021】
操舵トルクセンサ9は、自車両10のステアリングシャフト4に設けたステアリングカラムの捩れトルクを検出し、その検出値を車両制御コントローラ30に出力する。
【0022】
操舵電流センサ11は、自車両10のステアリング装置のアシストモータ3に実際に発生する電流を検出し、その検出値を車両制御コントローラ30に出力する。
操舵角センサ8、操舵トルクセンサ9、及び操舵電流センサ11は、図3に示す操舵力検出手段33として機能する。
【0023】
操舵アクチュエータ40は、車両制御コントローラ30からの出力に基づき、自車両10のステアリングの操舵角を制御することにより、自車両10に横力を発生させて自車両10の操舵動作を行う。操舵アクチュエータ40は、図3に示す車両運動制御手段34として機能する。
【0024】
車両制御コントローラ30は、例えばマイクロコンピュータにより構成され、内部のCPUが制御プログラムを実行する。その車両制御コントローラ30は、レーダ20、画像処理装置22、ヨーレートセンサ23、横G・前後Gセンサ24、車輪速センサ25、操舵角センサ8、操舵トルクセンサ9、及び操舵電流センサ11から入力された情報に基づき操舵アクチュエータ40の動作を制御する。また、車両制御コントローラ30は、操舵アクチュエータ40の制御動作の解除を判定し、制御動作の解除も行う。
【0025】
この車両制御コントローラ30は、図3に示すように、回避経路算出手段35、追従操舵力算出手段36、許容範囲算出手段37、アシスト操舵力算出手段38、車両運動制御手段34,操舵力対抗検出手段39、及びアシスト操舵力解除手段41を備える。
【0026】
回避経路算出手段35は、上記車両状態検出手段32が検出する自車両の運動状態および上記障害物検出手段31が検出する障害物に基づき、当該障害物に自車両が近接することを回避するための回避軌道を求める。
【0027】
追従操舵力算出手段36は、上記回避軌道に基づいて自車両を走行制御するための追従操舵力を算出する。
許容範囲算出手段37は、上記障害物検出手段31により検出された障害物を参照して、自車両の許容範囲を設定する。
【0028】
アシスト操舵力算出手段38は、上記追従操舵力算出手段36が算出した追従操舵力と運転者の操舵力に基づいて障害物回避のためのアシスト操舵力を算出する。
車両運動制御手段34は、アシスト操舵力算出手段38が算出したアシスト操舵力を操舵系に付加する走行制御を行う。
【0029】
操舵力対抗検出手段39は、上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えたことを検出する。操舵力対抗検出手段39は、例えば上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対して予め設定した所定量かつ所定時間に継続して超えていれば、操舵力対抗の状態と判定する。
【0030】
アシスト操舵力解除手段41は、操舵力対抗検出手段39が操舵力対抗の状態を検出したら、アシスト操舵力の解除を判定して、車両運動制御手段34によるアシスト操舵力の付加を解除する。
【0031】
次に、本実施形態における車両制御コントローラ30が実行する、障害物回避支援の処理を、図4及び図5を参照して説明する。
【0032】
この処理は、自車両10のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替わったタイミングで開始となり、障害物回避支援の処理はステップS1の処理に移行する。ここで、イグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替るということは、自車両を走行駆動する駆動源(エンジンや駆動モータ等)が稼働状態に切り替わることを指す。
【0033】
ステップS1の処理では、車両制御コントローラ30が、レーダ20と画像処理装置22からの入力情報を利用して、自車両10が走行可能な領域(以下“走行路”と表記する。)と走行路内に存在する物体とを検出する。なお、上記走行路の検出方法は公知の検出方法を適用すればよい。走行路の検出方法は、例えば特許第3521860号公報に記載の方法を採用する。これにより、ステップS1の処理は完了し、障害物回避支援の処理はステップS2の処理に移行する。
【0034】
ここで、上記ステップS1の処理では、走行路内に存在する物体を検出している。これに代えて、走行路内か否かを考慮せず、例えば自車両前方の所定の領域内に存在する物体を検出しても良い。
【0035】
ステップS2の処理では、車両制御コントローラ30が、ステップS1の処理結果を利用して、自車両10に近接する可能性がある物体(以下“障害物”と表記)が走行路内に存在するか否かを判定する。なお、障害物の検出方法は公知の検出方法を適用すればよい。障害物の検出方法は、例えば特開2000−207693号公報に記載の方法を適用する。車両制御コントローラ30は、判定の結果、障害物が走行路内に存在しないと判定した場合には、障害物回避支援の処理をステップS1の処理に戻す。一方、車両制御コントローラ30は、障害物が走行路内に存在すると判定した場合には、障害物回避支援の処理をステップS3の処理に移行する。
【0036】
ステップS3の処理では、車両制御コントローラ30が、障害物と自車両10との間の距離及び障害物と自車両10の相対速度の情報を利用して、ステップS2の処理によって検出した障害物の位置に自車両10が到達するまでの時間を到達予測時間TTTCとして算出する。なお、障害物と自車両10との間の距離は、レーダ20からの入力情報により算出できる。また、自車両10と障害物の相対速度は、例えば算出された距離を微分することによって算出できる。これにより、ステップS3の処理は完了し、障害物回避支援の処理はステップS4の処理に移行する。
【0037】
ステップS4の処理では、車両制御コントローラ30が、ステップS3の処理により算出された到達予測時間TTTCが予め設定された設定時間T1以下であるか否かを判定する。判定の結果、車両制御コントローラ30は、到達予測時間TTTCが設定時間T1以上である場合、障害物回避支援の処理をステップS1の処理に戻す。一方、車両制御コントローラ30は、到達予測時間TTTCが設定時間T1未満である場合には、障害物回避支援の処理をステップS5の処理に移行する。
【0038】
一般に、到達予測時間TTTCが設定時間T1以上である場合、換言すれば、自車両10が障害物の位置に到達するまでの時間が比較的長い場合には、その後の運転者による車両操作によって障害物への近接回避が可能である。すなわち、障害物回避制御を実行する必要性がなくなる可能性が高い。このように、このステップS4の判定処理によれば、障害物回避制御を実行する必要性がない蓋然性が高い場合には後述する処理ステップを実行するが無くなり、車両制御コントローラ30の処理負荷を低減することができる。
【0039】
ステップS5の処理では、車両制御コントローラ30が、ステップS1の処理により検出された走行路の情報と、ヨーレートセンサ23、横G・前後Gセンサ24、及び車輪速センサ25からの入力情報とを利用して、回避軌道を複数生成(算出)する。具体的には、車両制御コントローラ30は、自車両10の走行路及び運動状態を考慮した障害物への近接を回避するための自車両10の走行軌道を回避軌道として複数生成(算出)する。
【0040】
次に、本実施形態における上記回避軌道の生成について説明する。
本実施形態の車両制御コントローラ30は、運転者が自車両10の左方向への操舵操作を開始した場合、及び右方向に操舵操作を開始した場合をそれぞれ想定し、図6に示すように、それぞれの場合に適合する回避軌道R1、R2を生成する。なおこのとき、車両制御コントローラ30は、走行路の範囲内から外れる回避軌道や運転者による自車両10の操作では障害物への近接を回避できない回避軌道は生成しない。
【0041】
具体的には、運転者が操舵操作(左方向への操舵操作、右方向への操舵操作)を開始した場合に適合する回避軌道R1、R2を生成する場合、車両制御コントローラ30は、始めに、ヨーレートセンサ23、横G・前後Gセンサ24、及び車輪速センサ25からの入力情報と自車両10のタイヤ特性を考慮して障害物への近接を回避するための自車両10の横加速度を設定し、設定された横加速度によって障害物への近接を回避できるか否かを判定する。
【0042】
車両制御コントローラ30は、回避可能と判定した場合、横加速度のみの車両制御による回避軌道を走行路の範囲内で算出する。逆に回避不可能と判定した場合には、車両制御コントローラ30は回避軌道を算出しない。これにより、ステップS5の処理は完了し、障害物回避支援の処理はステップS6の処理に移行する。
ここで、上記のステップS3〜ステップS5の処理は、図3における回避経路算出手段35として機能する。
【0043】
次に、ステップS6の処理では、車両制御コントローラ30が、操舵角センサ8からの入力情報を参照して、運転者による操舵操作が検出されたか否かを判定する。判定の結果、操舵操作が検出されていない場合、車両制御コントローラ30は障害物回避支援の処理をステップS8の処理に移行する。一方、操舵操作が検出された場合には、車両制御コントローラ30は障害物回避支援の処理をステップS7の処理に移行する。操舵操作の検出方法は、例えば、ステップS5において回避軌道が算出されたときの操舵角から、左右いずれの方向に操舵がされたかを検出するものであれば良い。また、単に操舵方向だけでなく、回避軌道が算出されたときの操舵角からの操舵角変化が予め設定した所定のしきい値以上生じたか否かを判定するものであってもよい。さらに、操舵角変化の代わりに、操舵角速度又は操舵角加速度が予め設定した所定のしきい値以上生じたか否かを判定するものであってもよい。
【0044】
ステップS7の処理では、車両制御コントローラ30が、ステップS5の処理により生成された複数の回避軌道の中からステップS6の処理により検出された運転者の操作内容に適合した回避軌道を選択する。具体的には、車両制御コントローラ30は、運転者による左方向の操舵操作が検出された場合は、左方向への操舵を開始した場合に適合する回避軌道R1を選択し、運転者による右方向の操舵操作が検出された場合は、右方向に操舵を開始した場合に適合する回避軌道R2を選択する。
【0045】
またステップS8の処理では、車両制御コントローラ30は、ステップS3の処理により算出された到達予測時間TTTCが、制御開始地点が障害物から最も近い回避軌道の制御開始地点(図5に示す例では回避制御開始地点P2)に車両が到達した際の到達予測時間T2より大きいか否かを判定する。判定の結果、到達予測時間TTTCが到達予測時間T2より大きい場合、車両制御コントローラ30は車両制御処理をステップS6の処理に戻す。一方、到達予測時間TTTCが到達予測時間T2以上の場合には、車両制御コントローラ30は車両制御処理をステップS9の処理に移行する。
【0046】
ステップS9の処理では、車両制御コントローラ30が、運転者が操作を開始した地点がいずれの回避軌道の制御開始地点よりも障害物に近く、運転者がどの回避軌道の制御開始地点に到達しても何も操作をしていないと判定し、制御開始地点が最も障害物に近い回避軌道を選択する。これにより、ステップS9の処理は完了し、車両制御処理はステップS10の処理に移行する。
【0047】
ステップS10の処理では、車両制御コントローラ30が、ステップS7又はステップS9の処理により選択された回避軌道に沿って自車両10が走行するための追従操舵力を求めるため、ステップS11の処理に移行する。
【0048】
ステップS11の処理では、車両制御コントローラ30が、ステップS10の処理により開始される車両制御において、車両制御コントローラ30が、ステップS5で選択された目標とする回避軌道から、例えば2輪モデルを用いて目標操舵角を算出し、目標操舵角に追従するような指令トルクを算出する。なお、目標操舵角に追従するような指令トルクの算出方法については、様々な方法が存在するが、公知の算出方法を適用すればよい。また、ステップS5で選択された目標の回避軌道から、単なる車両のヨーレートセンサ23と車輪速センサ25からの入力情報のみ利用して、目標操舵角を近似的算出してもよい。また、最初からステップS5で選択された回避軌道は、目標操舵角であることでもよい。これにより、ステップS11の処理は完了し、障害物回避支援の処理はステップS12の処理に移行する。
【0049】
ここで、上記のステップS6〜ステップS11の処理は、図3に示す追従操舵力算出手段36として機能する。
【0050】
ステップS12の処理では、レーダ20、画像処理装置22、車輪速センサ25からの入力情報を利用して自車両10に対する走行路の許容範囲を算出する。走行路の許容範囲の算出は、障害物検出手段31から得られた情報を利用して、例えば目標の回避軌道に対する危険度を定義する。この危険度は、自車両10が目標の回避軌道に近い領域において小さい値に設定し、障害物の近くに存在する領域において大きい値に設定する。
【0051】
具体的に、例えば正規化した値として危険度を定義すると、目標の回避軌道上に0を設定し、障害物の位置する領域に1を設定する。その間(目標軌道上と障害物位置との間)の領域においては、例えば図7や図8のように障害物に近づくほど1に近い値に設定する。この危険度を利用して、危険度の小さい領域において運転者による修正操舵を可能にすることと、危険度の大きい領域において運転者による修正操舵を不可能若しくは小さく制限する、このように、運転者の可能な操舵操作について回避軌道の許容範囲を定義する。これにより、ステップS12の処理は完了し、障害物回避支援の処理はステップS13の処理に移行する。
【0052】
ここで、上記のステップS12の処理は、図3に示す許容範囲算出手段37として機能する。
【0053】
ステップS13の処理では、レーダ20、画像処理装置22、操舵角センサ8、操舵トルクセンサ9、操舵電流センサ11からの入力情報を利用して、自車両10の障害物に対する相対位置を算出する。さらに、ステップS13の処理では、ステップS12で算出した回避軌道の許容範囲における位置関係と比較して、運転者の意図に応じた修正操舵に対応できるようなアシスト指令トルクを算出する。すなわち、アシスト指令トルクは、自車両に対する障害物の相対位置と運転者の操舵とに基づいて算出される。ステップS13の処理が完了したら、障害物回避支援の処理はステップS15の処理に移行する。
【0054】
具体的には、回避軌道の許容範囲内(危険度が低い領域)であれば、アシスト指令トルクを大きく設定することにより、目標の回避軌道への追従指令トルクを弱めることが出来る。この結果、回避軌道の許容範囲内(危険度が低い領域)では、運転者は自車両10の軌跡を修正可能となる。一方、回避軌道の許容範囲外(危険度が高い領域)であれば、アシスト指令トルクを小さく設定する。これによって、目標の回避軌道への追従指令トルクを弱めないため、回避軌道の許容範囲外(危険度が高い領域)では、運転者は自車両10の軌跡を修正不可能若しくは小さく制限する。すなわち、アシスト指令トルクは、回避軌道の許容範囲(危険度)が大きい場合、回避軌道の許容範囲(危険度)が小さい場合に比べて、小さくなる反比例関係をもつように設定する。危険度に対するアシスト指令トルクは、例えば、図9に示すように、回避軌道の許容範囲(危険度)に応じてアシスト指令トルクも線形的に変化するように設定する。また、危険度に対するアシスト指令トルクは、図10に示すように、回避軌道の許容範囲(危険度)に応じてアシスト指令トルクが非線形的に変化するように設定する。また、危険度に対するアシスト指令トルクは、図11に示すように、ある回避軌道の許容範囲内(危険度の範囲内)では、一定のアシスト指令トルクを適用するように危険度に応じて段階的に値が変化するように設定しても良い。
【0055】
また、操舵トルクセンサ9からの入力情報を利用して、運転者の操舵状況に応じて操舵反力を調整する。具体的には、操舵トルクセンサ9で検出された操舵トルクが大きい場合には、これに応じて操舵反力を弱く設定し、操舵トルクセンサから検出された操舵トルクが小さければ、これに応じて操舵反力を強くする。ここで、操舵トルクセンサ9で検出された操舵トルクが大きい場合には、運転者は積極的に操舵するか目標操舵角から十分大きく操作したいことを意味している。このため、これに応じて操舵反力も弱くすることで、運転者がステアリングホイール1の操舵操作がしやすくすることができる。一方、操舵トルクセンサから検出された操舵トルクが小さい場合には、運転者はあまり操舵しないか目標操舵角とほとんど一致するような操舵をしていることを意味している。このため、これに応じて操舵反力を強くすることで、運転者がステアリングホイール1のしっかり感を感じることができ、安定した運転を実現可能となる。
【0056】
また、ステップS13で操舵反力を算出するために、ステップS12で算出した危険度を用いてもよい。この場合、危険度の低い領域には、操舵反力を小さくし、またはパワーステアリング特性が持っている操舵反力に設定してもよい。一方、危険度の高い領域には、操舵反力を非常に大きくし、運転者が操舵しにくくすることで、運転者のミスによる操舵操作を防ぐことができる。
【0057】
ステップS14の処理では、ステップS11、ステップS13で算出した追従指令トルクとアシスト指令トルクに基づき、その追従指令トルクとアシスト指令トルクとを足し合わせることで、操舵アクチュエータ40に指令する最終的な操舵トルク(アシスト操舵力)を算出する。さらにステップS14では、最終的な操舵トルク(アシスト操舵力)に基づき、モータ3を駆動するために必要な指令電流に変換し、変換した指令電流を指令としてモータ3に供給する。ここで、上記の最終的な操舵トルクの算出は、追従指令トルクとアシスト指令トルクに対してそれぞれ重み付けを実施してから足し合わせることで算出しても良い。これによって、車両制御コントローラ30は、運転者の操舵(運転者の意図)も加味しつつ回避軌道に沿って自車両10が走行するように操舵アクチュエータ40を制御することとなる。
【0058】
ステップS14の処理は完了したら、障害物回避支援の処理はステップS15の処理に移行する。
ここで上記のステップS13及びS14の処理は、図3に示すアシスト操舵力算出手段38として機能する。
【0059】
ステップS15の処理では、車両制御コントローラ30が、操舵角センサ8、操舵トルクセンサ9、または操舵電流センサ11からの入力情報を利用して、運転者のシステムに対する操舵力対抗を検出する。更に、ステップS15の処理では、この検出した操舵力対抗に応じて障害物回避支援制御の解除を判定する。ステップS15の処理が完了したら、障害物回避支援の処理はステップS16の処理に移行する。
【0060】
このステップS15の処理内容は、図3における操舵力対抗検出手段39及びアシスト操舵力解除手段41として機能する。
【0061】
次に、上記ステップS15の処理が行う、上記操舵力対抗の検出の例について説明する。
【0062】
「第1の操舵力対抗の検出方法の例」
ステップS15の処理は、運転者の操作とシステムの動作によって発生した合力(運手者の操舵力とアシスト操舵力)を操舵トルクセンサ9により計測し、計測した操舵トルクTtに基づき操舵力対抗を検出する。ここで、計測した操舵トルクTtは、アシスト操舵力に対する運転者の操舵力に相当する。
【0063】
具体的には、計測した操舵トルクが予め設定した基準閾値を超え、その超えた状態の継続時間が、図12に示すように、予め決められた基準時間以上を継続した場合に、操舵力対抗状態と検出する。この操舵力対抗の状態は、運転者とシステムの対立度合いが高い状態である。そして、このように対立度合いが高い(操舵力対抗状態)と判定される場合には、運転者の操作を優先するために自車両の支援制御を解除する。一方、操舵力対抗が予め決められた基準閾値を超えた状態が、予め決められた基準時間だけ継続しない場合には、運転者とシステムの対立度合いが低い(操舵力対抗状態でない)と判定する。そして、対立度合いが低い場合には、自車両の支援制御を解除しない。これにより、運転者とシステムに対する対立を適切かつ簡易的に判定できる。
【0064】
ここで、一般に操舵制御を高速で実施する場合、ステアリングホイール1の慣性力による影響が操舵トルクセンサ9の検出精度に大きな影響を与える場合がある。この場合、操舵力対抗を検出する際に使用される上記の操舵トルクの値Ttを、以下のように補正した値としても良い。
【0065】
Tt = Ts − J×(dw/dt)
ここで、
Ts:操舵トルクセンサ9により計測された実際の操舵トルク値
J :ステアリングホイール1の慣性モーメント
dw/dt:ステアリングホイール1の操舵角加速度
とする。
【0066】
「第2の操舵力対抗の検出方法の例」
また、次のようにして操舵力対抗の状態か否かの検出を実施しても良い。
そして、図13に示すように、操舵トルクTtが予め決められた基準閾値(第1の操舵力閾値)を超えてからの当該操舵トルクの合計(積分値)を算出する。但し、操舵トルクが一旦予め決められた基準閾値(第1の操舵力閾値)を下回れば、算出していた操舵トルクの積算値をゼロにリセットする。
【0067】
この操舵トルクの合計が、予め決められた基準積算値(第2の操舵力閾値)を超えていれば、運転者とシステムの対立度合いが高いとし、運転者の操作を優先するために自車両のシステム走行支援制御を解除する。一方、予め決められた基準積算値を超えていなければ、運転者とシステムの対立度合いが低いとし、自車両のシステム走行支援制御を解除しない。これにより、運転者とシステムにおける対立度合い(対立パワーと相当する)に応じてシステム動作の解除を適切に判定できる。
【0068】
「第3の操舵力対抗の検出方法の例」
上記の方法では、操舵トルクセンサ9の計測値(補正値を含む)を用いて操舵力対抗を検出している。しかし、一般的に運転者がシステムによるアシスト操舵力と対抗とする場合、アシスト操舵力が障害物回避支援制御を行うときにおけるアシストモータ3への目標電流指令値と一致しないおそれがある。その原因は、運転者の対抗力によって発生する外乱が働くためと考えられる。これを利用して、アシストモータ3への目標電流指令値に対する実際の電流値の電流差を、操舵力対抗を検出する際の指標として定義しても良い。これを利用して、上記の基準時間と基準積算値によって運転者とシステムの対立度合いを判定できる。具体的に、それぞれの利用において、図14と図15に示すように決めれば良い。
【0069】
具体的には、図14に示す方法では、目標操舵電流に対する実際の電流値の電流差を操舵力対抗を求める際の指標とする。そして、この操舵力対抗が予め設定した基準閾値を超えた状態の継続時間が、図14に示すように、予め決められた基準時間以上を継続した場合には、運転者とシステムの対立度合いが高いとする。そして、このように対立度合いが高いと判定した場合には、運転者の操作を優先するために自車両の支援制御を解除する。一方、操舵力対抗が予め決められた基準閾値を超えた状態が、予め決められた基準時間だけ継続しない場合には、運転者とシステムの対立度合いが低いと判定する。そして、対立度合いが低い場合には、自車両の支援制御を解除しない。これにより、運転者とシステムにおける対立を適切かつ簡易的に判定できる。
【0070】
また、図15に示す方法でも、目標操舵電流に対する実際の電流値の電流差を、操舵力対抗を求める際の指標とする。そして、上記電流差が予め決められた基準閾値(第1の操舵力閾値相当)を超えてからの当該電流差の合計(積分値)を算出する。但し、上記電流差が一旦予め決められた基準閾値(第1の操舵力閾値相当)を下回れば、算出していた電流差の積算値をゼロにリセットする。
【0071】
この電流差の合計が、予め決められた基準積算値(第2の操舵力閾値相当)を超えていれば、運転者とシステムの対立度合いが高いとし、運転者の操作を優先するために自車両のシステム走行支援制御を解除する。一方、予め決められた基準積算値を超えていなければ、運転者とシステムの対立度合いが低いとし、自車両の支援制御を解除しない。これにより、運転者とシステムにおける対立度合い(対立パワーに相当する)に応じてシステム動作の解除を適切に判定できる。
【0072】
次に、ステップS16の処理では、車両制御コントローラ30が、車両制御又は運転者の車両操作によって自車両10が障害物への近接の可能性がなくなったか否かを判定する。判定の結果、障害物への近接の可能性が無くなってない場合、車両制御コントローラ30は車両制御処理をステップS11の処理に戻し、現在の制御状態を維持する。一方、近接の可能性がなくなったと判定すると、ステップS1の処理に戻って、他の障害物に対する障害物回避支援の制御処理を実行する。
【0073】
(動作その他)
ここで、上述の特許文献1に記載される車両のレーン走行支援装置では、運転者による目標走行路に対する修正操舵の許容範囲を考慮しないため、目標走行路に対する修正操舵の許容範囲を持つシステムにおいて、運転者とシステムの操舵操作における不一致度を適切に判定できない。これにより、運転者の意図に応じた支援手段を確実に反映できるような走行支援の実現は困難と思われる。換言すれば、システムが許容する範囲内であれば、運転者による修正操舵は可能であるため、システムが設計した目標走行路から離れても良いので、このときに保舵力以上の操舵力を与えるので、システムの動作を簡単に解除されてしまい、運転者を全く走行支援されなくなってしまう。
【0074】
これにたいし、本実施形態では、計測した操舵トルクを指標として、操舵系に入力したアシスト操舵力に対する運転者による操舵力の操舵力対抗の状態を検出する。そして、操舵力対抗の状態を検出すると、運転者とシステムの対立度合いが高い状態と判定して、運転者の操作を優先して支援制御を解除する。
このように、本実施形態では、支援制御の意図と運転者の意図との差による対立を防ぐことができ、それに対する適切な判定を行え、運転者の意図に応じた運動制御支援の解除を確実に反映できるようになる。
【0075】
ここで、追従指令トルクとアシスト指令トルクとから求めた最終的な操舵トルクがアシスト操舵力に対応する。
【0076】
(本実施形態の効果)
(1)回避経路算出手段35は、車両状態検出手段32が検出する自車両の運動状態および障害物検出手段31が検出する障害物に基づき、当該障害物に自車両が近接することを回避するための回避軌道を求める。追従操舵力算出手段36は、上記回避経路算出手段35が求めた回避軌道に基づいて自車両を走行制御するための追従操舵力を算出する。操舵力検出手段33は運転者の操舵力を検出する。アシスト操舵力算出手段38は、追従操舵力と運転者の操舵力とに基づいて、障害物回避のためのアシスト操舵力を算出する。操舵力対抗検出手段39は、上記運転者の操舵力が、操舵系に入力するアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えた状態である操舵力対抗の状態を検出する。アシスト操舵力解除手段41は、上記操舵力対抗検出手段が操舵力対抗の状態を検出したら、操舵系に入力するアシスト操舵力の解除と判定する。
【0077】
この構成によって、本実施形態では、運転者とシステムの対立度合いが高いと想定される操舵力対抗の状態を検出すると、運転者の操作を優先して支援制御を解除する。 すなわち、運転者の操舵操作と支援制御によるアシスト操舵力との不一致度を適切に判定でき、運転者の意図に応じた支援制御の解除を確実に反映できる。
【0078】
(2)上記操舵力対抗検出手段39は、上記運転者の操舵力が上記アシスト操舵力に対して予め設定した所定値以上の状態が予め設定した所定時間以上継続した場合に、操舵力対抗の状態と検出する。
これによって操舵力対抗の状態を検出できる。また、運転者の操舵操作と支援制御における対立度合いを適切かつ簡易的に判定できる。
【0079】
(3)上記操舵力対抗検出手段39は、上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対して第1の操舵力閾値を連続的に超えた際における、その第1の操舵力閾値を超えた操舵力の積算値が第2の操舵力閾値を超えている場合に、操舵力対抗の状態と検出する。
運転者の操舵操作とシステムの支援制御の対立パワーに相当する対立度合いに応じて、システム支援制御の解除を適切に判定できる。この結果、運転者に与えるシステム解除時の感覚を同じにすることができる。
【0080】
(4)操舵力対抗検出手段39は、目標操舵電流指令値に対する実操舵電流の差が予め設定した基準電流差閾値を予め設定した基準時間に継続して超えていれば、操舵力対抗の状態と検出する。
システムの目標の回避経路のズレ具合に応じた運転者の対立度合いを素早く判定できる。この結果、システムが動作する目標の回避経路に対する運転者の修正量によって、システム解除を適切かつ簡易に適用できる。
【0081】
(5)操舵力対抗検出手段39は、目標操舵電流指令値に対する実操舵電流の差が予め設定した基準電流差閾値を連続的に超えてかつその操舵電流差の積算値が予め設定した基準電流差合計閾値を超えていれば、操舵力対抗の状態と検出する。
システムによる目標の回避経路のズレ具合に応じた運転者の対立パワーに相当する対立度合いを素早く判定できる。この結果、システムが動作する目標の回避経路に対する運転者の修正量によって、運転者に与えるシステム解除時の感覚を同じにすることができる。
【0082】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、第1実施形態と同様な構成について同一の符号を付して説明する。
【0083】
本実施形態の制御装置の基本的な構成は第1実施形態と同様である。ただし、図16に示すように、車両制御コントローラ30の制御対象としてブレーキアクチュエータ50が加わった構成となっている。
ブレーキアクチュエータ50は、各車輪に設けられるホイールシリンダに供給される制動液圧を制御することにより、自車両10に制動力を発生させて自車両10の制動動作を行う。このブレーキアクチュエータ50も、図3に示す車両運動制御手段34として機能する。
【0084】
本実施形態における車両制御コントローラ30が実行する、障害物回避支援の処理は、基本動作としては上記第1実施形態の処理(図4及び図5)と同様である。但し、図17に示すように、ステップS14とステップS15との間にステップS17の処理を追加した点が異なる。
すなわち、本実施形態の障害物回避支援の処理では、車両制御コントローラ30は、ステップS14の処理が完了したら、ステップS17の処理に移行する。
【0085】
ステップS17の処理では、車両制御コントローラ30が、自車両10が目標操舵角に追従することで、障害物を回避するのに必要な横力やヨーレートに妨げない程度に、必要な減速度を設定し、設定された減速度によって必要な液圧指令値に変換してから、ブレーキアクチュエータ50を作動させる。
なお、ステップS17の処理では、ブレーキアクチュエータ50の液圧指令値をアクチュエータが許容する最大指令値圧に設定しもよい。また、ブレーキアクチュエータ50の液圧指令値は減速をさせるために、ある一定値に設定してもよい。
【0086】
そのステップS17の処理が完了したら、ステップS15の処理に移行する。
その他の構成は上記第1実施形態と同様である。
本実施形態では、制動制御も使用することで、障害物回避の支援制御をより確実に実施可能となる。
【0087】
「第3実施形態」
次に、第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、第1実施形態と同様な構成について同一の符号を付して説明する。
【0088】
本実施形態の制御装置の基本的な構成は第1実施形態と同様である。ただし、車両制御コントローラ30が、走行安定性算出手段を備える。
【0089】
走行安定性算出手段は、自車両の走行状態における走行安定性を推定する。
本実施形態における車両制御コントローラ30が実行する、障害物回避支援の処理は、基本動作としては上記第1実施形態の処理(図4及び図5)と同様である。但し、図18に示すように、ステップS18の処理を追加した点が異なる。
【0090】
ステップS18の処理は、車両制御コントローラ30が、ヨーレートセンサ23、横G・前後Gセンサ24、車輪速センサ25、操舵角センサ8を利用して、自車両の走行状態における走行安定性を推定する。
例えば、自車両が走行する路面μを推定し、その推定した路面μに基づき自車両の走行状態における走行安定性を推定する。
【0091】
さらに、ステップS18の処理は、車両制御コントローラ30が、ステップS15で操舵力対抗を検出するための各基準値を補正する。具体的には、推定した走行安定性が高い場合、推定した走行安定が低い場合に比べて上記各基準値を高く設定する。
路面μに応じて操舵力対抗を判定するための基準値を補正する場合には、図19に示すように補正する。すなわち、路面μが低いほど上記基準値を小さく補正する。
【0092】
一般的に、路面μが低ければ低いほど、大きな操舵角操作や大きな操舵力操作が望ましくない。したがって、路面μが低ければ低いほど、操舵力対抗を判定する基準値を小さく設定すれば良い。
【0093】
ここで、ステップS18では、走行安定性の指標としての路面μの大きさに対する操舵力対抗を検出する際の基準値の補正で説明したが、追加情報として車輪速センサ25からの入力情報も利用してもよい。例えば、一般的に自車両の速度が高ければ高いほど、大きな操舵操作が望ましくないので、車輪速の増加に応じて操舵力対抗基準を小さくすることで、高速における操舵操作による車両不安定性を防ぐことができる。
【0094】
また、ステップS18では、自車両の安定性を判定する基準として、路面μの代わりに自車両のすべり角や自車両姿勢を用いても良い。この自車両の安定性を推定する機能は、様々な手法が存在して公知であり、本特許における判定する基準として用いても良い。
本実施形態では、推定する走行安定性によって操舵力対抗を検出する際の基準値を補正するので、制御解除判定の基準としての操舵力対抗の状態を、より適切に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0095】
3 アシストモータ
8 操舵角センサ(操舵力検出手段)
9 操舵トルクセンサ(操舵力検出手段)
10 自車両
11 操舵電流センサ(操舵力検出手段)
20 レーダ(障害物検出手段)
21 撮像装置(障害物検出手段)
22 画像処理装置(障害物検出手段)
23 ヨーレートセンサ(車両状態検出手段)
24 横G・前後Gセンサ(車両状態検出手段)
25 車輪速センサ(車両状態検出手段)
30 車両制御コントローラ
31 障害物検出手段
32 車両状態検出手段
33 操舵力検出手段
34 車両運動制御手段
35 回避経路算出手段
36 追従操舵力算出手段
37 許容範囲算出手段
38 アシスト操舵力算出手段
39 操舵力対抗検出手段
40 操舵アクチュエータ
41 アシスト操舵力解除手段
50 ブレーキアクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも自車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、自車両の運動状態を検出する車両状態検出手段と、
上記車両状態検出手段が検出する自車両の運動状態および上記障害物検出手段が検出する障害物に基づき、当該障害物に自車両が近接することを回避するための回避軌道を求める回避経路算出手段と、
上記回避経路算出手段が求めた回避軌道に基づいて自車両を走行制御するための追従操舵力を算出する追従操舵力算出手段と、
運転者の操舵力を検出する操舵力検出手段と、
追従操舵力算出手段が算出する追従操舵力と操舵力検出手段が検出する運転者の操舵力とに基づいて、障害物回避のためのアシスト操舵力を算出するアシスト操舵力算出手段と、
上記運転者の操舵力が、操舵系に入力するアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えた状態である、操舵力対抗の状態を検出する操舵力対抗検出手段と、
上記操舵力対抗検出手段が操舵力対抗の状態を検出したら、操舵系に入力するアシスト操舵力の解除と判定するアシスト操舵力解除手段と、
を備えることを特徴とする障害物回避支援装置。
【請求項2】
上記操舵力対抗検出手段は、上記運転者の操舵力が上記アシスト操舵力に対し予め設定した所定値以上の状態が予め設定した所定時間以上継続した場合に、操舵力対抗の状態と検出することを特徴とする請求項1に記載した障害物回避支援装置。
【請求項3】
上記操舵力対抗検出手段は、上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対して予め設定した第1の操舵力閾値を連続的に超えた際における、その第1の操舵力閾値を超えた操舵力の積算値が予め設定した第2の操舵力閾値を超えている場合に、操舵力対抗の状態と検出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した障害物回避支援装置。
【請求項4】
自車両前方に回避が必要な障害物を検出すると、その障害物に対する回避軌道を求め、その回避軌道に基づいて自車両を走行制御するための追従操舵力を算出し、その追従操舵力と運転者の操舵力とに基づいてアシスト操舵力を算出して、障害物回避のための走行制御を行い、
上記運転者の操舵力がアシスト操舵力に対抗して保舵する力を超えた操舵力対抗の状態となったことを検出したら、自車両のアシスト操舵力の解除と判定することを特徴とする障害物回避支援方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2012−11862(P2012−11862A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149057(P2010−149057)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】