説明

障害物近接判定装置および障害物近接判定方法

【課題】接近する障害物を検知してその実体像および近接状態を判定すること。
【解決手段】障害物近接判定装置100は、静電容量センサ10と、超音波信号送受信器41〜4Nと、制御回路80とを備え、静電容量センサ10の検知電極11〜1Nは、自動車101の後方のバンパー102に配置された超音波信号送受信器41〜4Nの間にそれぞれ配置されている。制御回路80は、静電容量センサ10および超音波信号送受信器41〜4Nからの情報に基づいて、接近している障害物の材質的観点からの実体像および近接状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物を検知してその接近を判定する障害物近接判定装置および障害物近接判定方法に関し、特に障害物の実体像および近接状態を判定することができる障害物近接判定装置および障害物近接判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば近接距離にある障害物の検出を行う障害物検知装置として、例えば下記特許文献1に開示されている超音波ソナー式の障害物検知装置が知られている。この超音波ソナー式の障害物検知装置は、送受信器が超音波振動子を備え、送受信器から超音波信号を送信するとともに障害物により反射した超音波信号を超音波振動子にて受信して、障害物の存在検知と障害物までの距離の算出を行う構成となっている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−221848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来の超音波ソナー式の障害物検知装置では、障害物が近くにあることやその距離がどの程度であるかを判別しているに過ぎず、障害物が人体などの生命体であるのか壁などの非生命体であるのか等の実体像を判別することができないという問題があった。また、送受信される超音波信号は指向性が強いため、送受信器の近傍で送受信器に非常に近接した位置に障害物がある場合は検知できないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、接近する障害物を検知してその実体像および近接状態を判定することができる障害物近接判定装置および障害物近接判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る障害物近接判定装置は、障害物を検知してその接近を判定する障害物近接判定装置であって、超音波信号を送信するとともに前記障害物によって反射された超音波信号を受信する超音波信号送受信手段と、前記超音波信号送受信手段によって受信した超音波信号の振幅を示す振幅情報と、前記超音波信号の送信から受信までの時間に関する時間情報とに基づいて、前記障害物の想定硬度を算出する想定硬度算出手段と、前記超音波信号の送信から受信までの前記時間情報を用いて、前記障害物までの近接距離を算出する近接距離算出手段と、前記想定硬度算出手段によって算出された想定硬度と、前記近接距離算出手段によって算出された近接距離とに基づいて、前記障害物の実体像および近接状態を判定する近接判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る障害物近接判定装置は、以上のように構成することにより、超音波信号によって、接近する障害物の想定硬度および近接距離を算出してその実体像および近接状態を判定することができる。
【0008】
複数の検知電極からの検知信号が示す前記障害物との間の静電容量を検知する静電容量検知手段をさらに備え、前記近接距離算出手段は、前記時間情報および前記静電容量検知手段によって検知された静電容量を示す静電容量値のうちの少なくとも一つを用いて前記近接距離を算出し、前記近接判定手段は、前記静電容量値に基づいて、前記障害物の実体像として該障害物の大きさおよび位置を判定する構成とされていてもよい。
【0009】
前記超音波信号送受信手段を複数備え、前記複数の検知電極は、複数の超音波信号送受信手段の間にそれぞれ配置されている構成とされていてもよい。
【0010】
前記想定硬度算出手段は、前記振幅情報と前記時間情報とに基づいて、あらかじめ記憶されている超音波信号の反射される材質ごとの距離に対する振幅の減衰量を示す振幅減衰量情報を読み出して、前記障害物の想定硬度を算出する構成とされていてもよい。
【0011】
前記近接判定手段は、前記障害物の実体像として該障害物が生命体であるか否かを判定する構成とされていてもよい。そして、前記近接判定手段は、前記障害物の実体像として該障害物が生命体であると判定した場合に、当該生命体が人体あるいは人体に相当する大きさの生命体であるか否かを判定する構成とされていてもよい。
【0012】
なお、前記超音波信号送受信手段および前記検知電極は、自動車の車体構造物に設けられているとよい。この場合、前記自動車の車体構造物は、バンパーであるとよい。
【0013】
本発明に係る障害物近接判定方法は、障害物を検知してその接近を判定する障害物近接判定方法であって、超音波信号を送信するとともに前記障害物によって反射された超音波信号を受信する超音波信号送受信工程と、前記超音波信号送受信工程にて受信した超音波信号の振幅を示す振幅情報と、前記超音波信号の送信から受信までの時間に関する時間情報とに基づいて、前記障害物の想定硬度を算出する想定硬度算出工程と、前記超音波信号の送信から受信までの前記時間情報を用いて、前記障害物までの近接距離を算出する近接距離算出工程と、前記想定硬度算出工程にて算出された想定硬度と、前記近接距離算出工程にて算出された近接距離とに基づいて、前記障害物の実体像および近接状態を判定する近接判定工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接近する障害物を検知してその実体像および近接状態を判定することができる障害物近接判定装置および障害物近接判定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る障害物近接判定装置および障害物近接判定方法の好適な実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る障害物近接判定装置の全体構成の例を示すブロック図、図2は同障害物近接判定装置を自動車のバンパーに適用した例を示す外観図、図3は同障害物近接判定装置のC−V変換回路の内部構成の例を示すブロック図、図4は同障害物近接判定装置の超音波信号送受信器の動作を説明するための動作説明図、図5は同超音波送受信器による超音波信号の波形を示す説明図である。
【0017】
図1に示すように、障害物近接判定装置100は、接近する障害物を検知してその材質的観点からの実体像と近接状態を判定するための装置であり、主に次のように構成されている。すなわち、障害物近接判定装置100は、図2に示すような自動車101の後方のバンパー102などに設けられた複数の超音波信号送受信器41〜4Nと、同じくバンパー102などに設けられた複数の検知電極11〜1Nを有する静電容量センサ10とを備えている。
【0018】
なお、各超音波信号送受信器41〜4Nは、本例ではバンパー102の正面側2箇所とコーナー側2箇所に超音波信号が送受信可能な状態でそれぞれ設けられており、各検知電極11〜1Nは、少なくともコーナー側2箇所に設けられた各超音波信号送受信器41〜4Nの間に位置するように(好ましくは、各超音波信号送受信器41〜4Nの間にそれぞれ位置するように)、バンパー102の所定箇所(表面、内部あるいは裏面)に設けられている。このように配置すれば、指向性が高く数を増やすと高価になる超音波信号送受信器41〜4Nの不感帯において、この不感帯を補うように配置された検知電極11〜1Nによって障害物を検知することができるため、安価な構成で不感帯を減少させることができる。
【0019】
また、障害物近接判定装置100は、複数の超音波信号送受信器41〜4Nと接続された複数の切替スイッチ41a〜4Naと、各切替スイッチ41a〜4Naと接続された発振回路51〜5Nおよび受信回路61〜6Nと、各受信回路61〜6Nと接続されたA/D変換器71〜7Nとを備えている。
【0020】
そして、障害物近接判定装置100は、複数の検知電極11〜1Nと接続された複数のC−V変換回路21〜2Nと、各C−V変換回路21〜2Nと接続されたA/D変換器31〜3Nとを静電容量センサ10がさらに備え、各A/D変換器31〜3N,71〜7Nが制御回路80と接続された構成を備えている。
【0021】
なお、制御回路80は、例えば音声出力装置91と表示装置92にそれぞれ接続されている。音声出力装置91は、制御回路80からの制御信号によって、障害物の接近を検知した場合などに警報音を出力したり、所定のガイダンス音声を出力したりする。表示装置92は、例えばLEDやLCDなどからなり、制御回路80からの情報に基づき、障害物の接近に応じた警告画像やガイダンス画像などを表示する。
【0022】
各超音波信号送受信器41〜4Nは、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などからなる圧電振動子を有し、制御回路80からの制御により切替スイッチ41a〜4Naによって発振回路51〜5Nと受信回路61〜6Nとの接続が切り替えられて、超音波信号を自動車101の後方に向けて送信したり、障害物などによって反射された超音波信号(以下、「反射信号」と呼ぶ。)を受信したりする。
【0023】
各超音波信号送受信器41〜4Nは、制御回路80によって、あらかじめ設定された時間(例えば、数100μ秒)だけ切替スイッチ41a〜4Naによって発振回路51〜5N側と接続され、超音波信号が送信される。超音波信号を送信した後は、各超音波信号送受信器41〜4Nは、切替スイッチ41a〜4Naによって受信回路61〜6N側と接続され反射信号の受信待機状態となる。
【0024】
なお、超音波信号の送受信にあたっては、通常、各超音波信号送受信器41〜4Nにおいては、超音波信号の共振周波数が同じに設定されているため、互いが干渉しないように制御回路80によって時分割されたタイミングにて超音波信号の送受信が行われ、同時には行われない設定となっている。
【0025】
そして、障害物が近くに存在する場合は、送信された超音波信号が障害物によって反射し、各超音波信号送受信器41〜4Nの圧電振動子により反射信号が受信され、受信された反射信号が受信回路61〜6Nにて検出される。受信回路61〜6Nにて検出された反射信号は、A/D変換器71〜7Nによってアナログ信号からディジタル信号に変換された後、制御回路80に入力される。
【0026】
バンパー102に設けられた静電容量センサ10の各検知電極11〜1Nは、人体などのグランドとみなせる物体との間の静電容量を検知する導体(あるいは半導体)である。これら検知電極11〜1Nは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エポキシ樹脂などの絶縁体を有するフレキシブルプリント基板、リジッド基板、リジッドフレキシブル基板上に銅、銅合金、アルミニウムなどをパターン化して形成される。
【0027】
また、検知電極11〜1Nは、電線や金属製プレートなどにより構成されたり、金属ペースト(例えば、銀ペースト)を印刷したシート(例えば、メンブレンシート)や金属メッキ、透明導電性材料(例えば、透過性導電膜フィルム)、射出成形回路部品などにより構成されてもよい。
【0028】
各検知電極11〜1Nは、透過性導電膜フィルムからなる場合、例えばプラスチックなどの材料からなるフィルム基板の表面に、ITO(スズドープ酸化インジウム)系やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)あるいはPEDOT/PSS(導電性高分子)系、IZO(酸化インジウム亜鉛:登録商標)系の可視光透過率が高い透明導電膜を蒸着した構造からなる。
【0029】
そして、各検知電極11〜1Nにより検知された静電容量は、本例の静電容量検知回路である静電容量(Capacitance)を電圧(Voltage)に変換する各C−V変換回路21〜2Nによって電圧に変換され、A/D変換器31〜3Nにて電圧を示すアナログ信号からディジタル信号に変換された後に、制御回路80に入力される。
【0030】
なお、各C−V変換回路21〜2Nは、図3に示すように、各検知電極11〜1Nとグランドとみなされる接近した人体などとの間の静電容量Cに応じてデューティー比が変化するパルス信号を出力する。すなわち、各C−V変換回路21〜2Nは、抵抗110とコンデンサ111の時定数によって出力されるパルス信号のデューティー比が変化するタイマ回路112を備えた構造からなる。
【0031】
このような構造のC−V変換回路21〜2Nでは、検知電極11〜1Nで検知された静電容量を示す静電容量値によって、静電容量Cと抵抗111との直列回路の充電時間が変化し、その充電時間を測定することによってパルス信号が出力される。この他、C−V変換回路21〜2Nは、静電容量を検知するために正弦波信号を印加して静電容量値による電圧変化や電流値から直接インピーダンスを測定したり、測定する静電容量を含めて発振回路を構成して発振周波数を測定したり、既知の電圧で充電した電荷を既知の容量に移動させてその電圧を測定したり、未知の容量に既知の電圧で充電してその電荷を既知の容量に移動させることを複数回行って、既知の容量が所定電圧に充電されるまでの回数を測定したりすることでパルス信号を出力する構成としてもよい。
【0032】
これらC−V変換回路21〜2Nは、検出した静電容量値に閾値を設けてその閾値を超えた(あるいは下回った)ときにトリガとしたり、静電容量の信号波形を解析して該当する静電容量波形となったときにトリガとしたりする処理を行うことで、スイッチとして機能することができる。
【0033】
なお、静電容量センサ10は、各検知電極11〜1Nの数に応じたC−V変換回路21〜2Nを備えているが、C−V変換回路を一つのみ備え、各検知電極11〜1Nにスイッチを介して接続し、スイッチを時分割で切り替えて各検知電極11〜1Nからの静電容量を検出するように構成してもよい。
【0034】
制御回路80は、CPUなどを備え、各A/D変換器31〜3N,71〜7Nからの入力信号などに基づいて、障害物近接判定処理などの各種処理を行う。通常、例えば面積Sの検知電極に面積Sの障害物(金属体)が距離dに近づいたときで、S>>dで検知電極と障害物とが無限の広さの平行平板とみなせる場合には、検出される静電容量Cは、C=εS/d(ε:空気中の誘電率(F/m))の式で表すことができ、これにより障害物の距離dを算出することができる。なお、検知電極と障害物との間には、空気以外にεrとなる物体が介在することがあるが、この場合はその物体の静電容量εrS/dと空気の静電容量とを直列とすればよい。
【0035】
そして、上述した静電容量センサ10では、検知電極11〜1Nによって、バンパー102に接近したグランドとみなせる物体(例えば、人体、動物、地面に接続された金属体、自動車などの大きな金属体、水分量の多いコンクリートや壁など)を検出することができる。また、複数の検知電極11〜1Nからの静電容量によって、障害物の大きさや位置を検出することができる。
【0036】
次に、このように構成された障害物近接判定装置100の複数の超音波信号送受信器41〜4Nにおける動作を説明する。まず、図4に示すように、制御回路80によって、切替スイッチ41a〜4Naを発振回路51〜5N側に切り替えて複数の超音波信号送受信器41〜4Nを発振回路51〜5Nと接続し、あらかじめ設定された時間STだけ共振周波数が数十kHzの図中矢印ssで示す超音波波形の超音波信号を送信する。
【0037】
超音波信号を送信した後は、切替スイッチ41a〜4Naを残留振動が消滅するまでの時間tだけOFF状態にし、その後受信回路61〜6N側に切り替えて反射信号の受信待機状態とする。この受信待機状態のときに、障害物が存在しない場合、図中矢印rsで示す超音波波形の反射信号は各超音波信号送受信器41〜4Nによって検出されないが、障害物が存在する場合は、反射信号が検出される。
【0038】
反射信号が検出されたら、例えば超音波信号の送信開始から受信開始までの時間を2Tとすると、障害物までの距離LはL=T×v(v:空気中の音速)で表すことができる。このため、制御回路80によってこの時間を測定することで、障害物の存在と障害物までの距離Lを検知することができる。
【0039】
次に、制御回路80は、受信した反射信号の振幅に着目して、障害物の想定される硬度(想定硬度)を判定する。通常、超音波信号は、障害物が金属やアスファルトなどの硬い(すなわち、音響インピーダンスが高い)物体である場合には、その反射量は多くなるため、受信回路61〜6Nにて検出される反射信号の振幅は大きくなる。反対に、障害物が人体などのように柔らかい(すなわち、音響インピーダンスが低い)物体である場合には、その反射量は超音波信号の一部が吸収されてしまうため少なくなり、受信回路61〜6Nにて検出される反射信号の振幅は小さくなる。
【0040】
また、例えば音響インピーダンスが一定の障害物においては、各超音波信号送受信器41〜4Nと障害物との距離によって超音波信号の減衰量が異なるため、この距離に依存した振幅が得られることとなる。このため、超音波信号の送受信の時間間隔により算出した距離に対して、実際の振幅がどの程度であるかを比較することによって、障害物が硬い物体であるか柔らかい物体であるかなどの材質的観点からの実体像を判定することができる。
【0041】
すなわち、例えば障害物が硬い物体である場合において、距離が近い場合は、超音波信号の振幅は図5(a)に示すようなものとなり、距離が遠い場合は、振幅は図5(b)に示すようなものとなる。また、例えば障害物が柔らかい物体である場合において、距離が近い場合は振幅は図5(c)に示すようなものとなり、距離が遠い場合は振幅は図5(d)に示すようなものとなる。
【0042】
したがって、具体的には、障害物との距離が一定の場合に超音波信号の振幅を測定し、制御回路80によってあらかじめ記憶しておいた障害物の材質ごとの距離に対する振幅の減衰量を示す振幅減衰量情報を読み出して比較することで、検出した障害物が硬い物体であるか柔らかい物体であるかを判定することができる。
【0043】
この場合、距離に対して「硬い」あるいは「柔らかい」と判別する振幅の閾値(すなわち、振幅減衰量情報により表される閾値)をあらかじめ測定したうえで設定しておいて、障害物との距離が算出できた際に制御回路80が有するEEPROMなどの記憶装置から読み出して用いればよい。なお、判定基準は、超音波信号の振幅のみに限らず、受信した反射信号の超音波波形を包絡線検波して直流電流に変換したうえで判定するようにしたり、フーリエ変換して送信した超音波信号と同じ周波数成分のみを評価するようにしたりしてもよい。
【0044】
こうして得られた障害物との距離および実体像とともに、制御回路80は、障害物近接判定装置100の静電容量センサ10からの出力信号に着目し、各検知電極11〜11Nからの検出値を比較することで障害物の大きさを判定する。また、判定した障害物の大きさと各検出値とを比較することで障害物までの距離を算出する。
【0045】
このような複数の超音波信号送受信器41〜4Nおよび静電容量センサ10を用いた処理によって、障害物近接判定装置100は、障害物の大きさ、距離およびグランドとみなせる物体であるか否かを判定することが可能となる。例えば、障害物が人体である場合、制御回路80によって、超音波信号送受信器41〜4Nから得られる情報により、対象物が柔らかいために対応する距離に対して振幅が小さいことが判定される。
【0046】
次に、人体が存在する範囲に配された検知電極11〜1Nが静電容量を検知するため、対象物がグランドとみなせる物体であることと、人体に相当する大きさ(例えば、幅が約30cm)の物体であることが判定される。これら超音波信号送受信器41〜4Nおよび静電容量センサ10からの情報に基づく結果から、対象物である障害物が「柔らかい」こと、「グランドとみなせる物体である」こと、および「幅が約30cmである」ことが判別でき、障害物は「人体である」ことが想定される。
【0047】
また、例えば、障害物が自動車の場合、制御回路によって、超音波信号送受信器41〜4Nから得られる情報により、対象物が硬く対応する距離に対して振幅が大きいことが判定される。そして、自動車が存在する範囲に配された検知電極11〜1Nが静電容量を検知し、対象物がグランドとみなせる物体であることと、バンパー102全体に相当する大きさの物体であることが判定される。これにより、対象物である障害物が「硬い」こと、「グランドとみなせる物体である」こと、および「幅がバンパー全体におよぶ」ことが判別でき、障害物は「自動車である」ことが想定される。
【0048】
なお、障害物が「柔らかい」ことと「グランドとみなせる物体である」ことが判定された場合で、超音波信号送受信器41〜4Nにより検出された距離と、静電容量センサ10により検出された距離とが異なる場合は、例えば「硬い材質の物体が超音波信号送受信器に対して斜めに配置されている(すなわち、人体ではない)」と判定するようにすればよい。
【0049】
すなわち、障害物が斜めに配置されている場合は、超音波信号の反射が散乱してその反射量が減少し、「柔らかい」と判定されてしまうことが想定される。これを防止するために、超音波信号送受信器41〜4Nにより検出された距離と、静電容量センサ10により検出された距離とを比較して、その差があらかじめ設定された閾値よりも大きい場合(すなわち、両者が一致していない場合)には、硬い障害物が斜めに配置されていると判定するように設定しておけば、誤判定を少なくすることができる。
【0050】
次に、上述した障害物近接判定装置100による障害物近接判定処理手順について説明する。図6〜図8は、本発明の一実施形態に係る障害物近接判定装置による障害物近接判定処理の例を示すフローチャートである。図6に示すように、まず、制御回路80の制御により、超音波信号送受信器41〜4Nから超音波信号を送信し(ステップS101)、所定の閾値以上の反射信号を受信したかに基づいて、反射信号の受信があるか否か(すなわち、障害物があるか否か)を判断する(ステップS102)。
【0051】
反射信号の受信がないと判断した場合(ステップS102のN)は、上記ステップS101に移行して超音波信号の送信を行う。反射信号の受信があると判断した場合(ステップS102のY)は、制御回路80によって、超音波信号送受信器41〜4Nによる超音波信号の送受信時間を表す時間情報に基づき障害物との距離L1を算出するとともに(ステップS103)、受信した反射信号の振幅Amを測定し記憶装置に記憶する(ステップS104)。
【0052】
そして、制御回路80は、静電容量センサ10の検知電極11〜1Nからの検出信号に基づく静電容量値C1,C2,…,Cnを測定し(ステップS105)、上記ステップS103にて算出した距離L1に対する反射信号の振幅の閾値Athを記憶装置から読み込んで(ステップS106)、振幅Amが閾値Athより大きいか否かを判断する(ステップS107)。
【0053】
振幅Amが閾値Athより大きいと判断した場合(ステップS107のY)は、制御回路80は、障害物を硬い物体であると判定し(ステップS108)、上記ステップS105にて測定された静電容量値C1,C2,…,Cnが、すべてそれぞれグランドとみなせる物体が接近していると判定するための閾値Cth以下であるか否かを判断する(ステップS109)。なお、このステップS109においては、検知電極11〜1Nによる感度が異なっている場合には、検知電極11〜1Nごとの閾値Cthが設定されていることとする。
【0054】
静電容量値C1,C2,…,Cnがすべて閾値Cth以下であると判断した場合(ステップS109のY)は、制御回路80は、接近している障害物が硬くてグランドとみなせない物体であり生命体ではない(すなわち、例えば水分量の少ない壁、木材、プラスチックなど)と判定し(ステップS110)、近接判定処理を終了するか否かを判断し(ステップS111)、終了すると判断した場合(ステップS111のY)は、本フローチャートによる一連の障害物近接判定処理を終了する。なお、終了しないと判断した場合(ステップS111のN)は、上記ステップS101に移行して処理を繰り返す。
【0055】
一方、振幅Amが閾値Athより大きくないと判断した場合(ステップS107のN)は、制御回路80は、障害物を柔らかい物体であると判定し(ステップS112)、上記ステップS105にて測定された静電容量値C1,C2,…,Cnが、すべて上述した閾値Cth以下であるか否かを判断する(ステップS113)。
【0056】
静電容量値C1,C2,…,Cnがすべて閾値Cth以下であると判断した場合(ステップS113のY)は、制御回路80は、接近している障害物がグランドとみなせない物体であり生命体ではないと判定する(ステップS114)。このとき、制御回路80は、障害物が例えばスポンジのように柔らかいか、検知電極11〜1Nに対して斜めに傾いており、例えば水分量の少ない壁にバンパー102が斜めに接近したときのように硬いかのいずれかであると判定する。
【0057】
そして、制御回路80は、近接判定処理を終了するか否かを判断し(ステップS111)、終了すると判断した場合(ステップS111のY)は、本フローチャートによる一連の障害物近接判定処理を終了し、終了しないと判断した場合(ステップS111のN)は、上記ステップS101に移行して処理を繰り返す。
【0058】
また、上記ステップS109にて静電容量値C1,C2,…,Cnが一つでも閾値Cthを超えていると判断した場合(ステップS109のN)は、障害物はグランドとみなせる物体であるため、図7に示すように、静電容量値C1,C2,…,Cnのうち、閾値Cthより大きい値を示すものの検知電極11〜1Nの数Xを計数し(ステップS115)、数Xにつき大きさZを算出する(ステップS116)。
【0059】
そして、制御回路80は、算出した大きさZがあらかじめ設定した大きさ判定用の幅判定値よりも大きいか否かを判断し(ステップS117)、幅判定値より大きいと判断した場合(ステップS117のY)は、接近している障害物がグランドとみなせて幅が広い物体であり生命体ではない(すなわち、例えば自動車、ガードレール、水分量の多い壁など)と判定し(ステップS118)、上記ステップS111の終了判断処理に移行する。
【0060】
また、幅判定値より小さいと判断した場合(ステップS117のN)は、接近している障害物がグランドとみなせて幅が狭い物体であり生命体ではない(すなわち、例えば金属ポールや立木など)と判定し(ステップS119)、上記ステップS111の終了判断処理に移行する。なお、上記幅判定値は、任意に設定でき、判定したい対象物の大きさや静電容量センサ10の検知電極11〜1Nの配置位置、配置数量などに基づき決定することができる。
【0061】
さらに、上記ステップS113にて静電容量値C1,C2,…,Cnが一つでも閾値Cthを超えていると判断した場合(ステップS113のN)は、障害物はグランドとみなせる物体であるため、図8に示すように、静電容量値C1,C2,…,Cnのうち、閾値Cthより大きい値を示すものの検知電極11〜1Nの数Xを計数し(ステップS120)、数Xにつき大きさZを算出する(ステップS121)。
【0062】
そして、制御回路80は、上記ステップS120にて計数した検知電極11〜1Nの数Xと静電容量値C1,C2,…,Cnとから障害物までの距離L2を算出し(ステップS122)、上記ステップS103にて算出した距離L1から距離L2を引いた値(すなわち、差分値)があらかじめ設定した距離誤差判定値よりも大きいか否かを判断する(ステップS123)。なお、上記ステップS122にて距離L2を求めるに際しては、制御回路80は、記憶装置にあらかじめ記憶された検知電極11〜1Nの面積と形状から成立する数式(あるいは対応表)を用いて算出する。
【0063】
差分値が距離誤差判定値よりも大きいと判断した場合(ステップS123のY)は、距離L1と距離L2が一致していないと判断し、接近している障害物が硬くてグランドとみなせる物体であり静電容量センサ10に対して傾いており生命体ではない(すなわち、例えば自動車やガードレールなど)と判定し(ステップS124)、上記ステップS111の終了判断処理に移行する。
【0064】
差分値が距離誤差判定値より小さいと判断した場合(ステップS123のN)は、距離L1と距離L2が一致していると判断し、制御回路80は、上記ステップS121にて算出した大きさZが、あらかじめ設定した人体に対応する大きさの範囲内に入っているか否かを判断する(ステップS125)。
【0065】
範囲内に入っていると判断した場合(ステップS125のY)は、制御回路80は、接近している障害物が人体もしくは人体に相当する大きさの生命体であると判定し(ステップS126)、上記ステップS111の終了判断処理に移行する。範囲内に入っていないと判断した場合(ステップS125のN)は、制御回路80は、接近している障害物が人体以外の生命体であると判定し(ステップS127)、上記ステップS111の終了判断処理に移行する。このように障害物近接判定処理を行うことによって、本例の障害物近接判定装置100は、障害物の材質的観点からの実体像や近接状態をほぼ正確に判定することができる。
【0066】
なお、上述した実施形態においては、自動車101の後方のバンパー102に各超音波信号送受信器41〜4Nおよび各検知電極11〜1Nを配置した場合を例に挙げて説明したが、本例の障害物近接判定装置100は、自動車101の後方のみならず、自動車101の周囲全体の障害物検知に適用したり、人体の侵入を検知するセキュリティ用途のセンサ類などに適用して、接近する物体が人体などの生命体であるか否かを判定する各種の用途に用いることもできる。
【0067】
また、上述した実施形態では、静電容量センサ10の各検知電極11〜1Nを、バンパー102の幅方向に沿って1次元的に配置した場合を例に挙げて説明したが、さらに上下方向に沿って2次元的に配置すれば、障害物の高さ方向の判定も可能となるため、さらに障害物の実体像や近接状態の検知精度を向上させることが可能となる。
【0068】
以上述べたように、本発明に係る障害物近接判定装置および障害物近接判定方法によれば、接近する障害物を検知してその実体像および近接状態をほぼ正確に判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、障害物の接近を検知する障害物近接判定装置において、特に障害物の材質的観点からの実体像や近接状態をより詳しく判定するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係る障害物近接判定装置の全体構成の例を示すブロック図である。
【図2】同障害物近接判定装置を自動車のバンパーに適用した例を示す外観図である。
【図3】同障害物近接判定装置のC−V変換回路の内部構成の例を示すブロック図である。
【図4】同障害物近接判定装置の超音波信号送受信器の動作を説明するための動作説明図である。
【図5】同超音波送受信器による超音波信号の波形を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る障害物近接判定装置による障害物近接判定処理の例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る障害物近接判定装置による障害物近接判定処理の例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係る障害物近接判定装置による障害物近接判定処理の例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
11〜1N…検知電極、21〜2N…C−V変換回路、31〜3N,71〜7N…A/D変換器、41〜4N…超音波信号送受信器、41a〜4Na…切替スイッチ、51〜5N…発振回路、61〜6N…受信回路、80…制御回路、91…音声出力装置、92…表示装置、100…障害物近接判定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物を検知してその接近を判定する障害物近接判定装置であって、
超音波信号を送信するとともに前記障害物によって反射された超音波信号を受信する超音波信号送受信手段と、
前記超音波信号送受信手段によって受信した超音波信号の振幅を示す振幅情報と、前記超音波信号の送信から受信までの時間に関する時間情報とに基づいて、前記障害物の想定硬度を算出する想定硬度算出手段と、
前記超音波信号の送信から受信までの前記時間情報を用いて、前記障害物までの近接距離を算出する近接距離算出手段と、
前記想定硬度算出手段によって算出された想定硬度と、前記近接距離算出手段によって算出された近接距離とに基づいて、材質的観点からの前記障害物の実体像および近接状態を判定する近接判定手段とを備えた
ことを特徴とする障害物近接判定装置。
【請求項2】
複数の検知電極からの検知信号が示す前記障害物との間の静電容量を検知する静電容量検知手段をさらに備え、
前記近接距離算出手段は、前記時間情報および前記静電容量検知手段によって検知された静電容量を示す静電容量値のうちの少なくとも一つを用いて前記近接距離を算出し、
前記近接判定手段は、前記静電容量値に基づいて、前記障害物の実体像として該障害物の大きさおよび位置を判定することを特徴とする請求項1記載の障害物近接判定装置。
【請求項3】
前記超音波信号送受信手段を複数備え、
前記複数の検知電極は、複数の超音波信号送受信手段の間にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項2記載の障害物近接判定装置。
【請求項4】
前記想定硬度算出手段は、前記振幅情報と前記時間情報とに基づいて、あらかじめ記憶されている超音波信号の反射される材質ごとの距離に対する振幅の減衰量を示す振幅減衰量情報を読み出して、前記障害物の想定硬度を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の障害物近接判定装置。
【請求項5】
前記近接判定手段は、前記障害物の実体像として該障害物が生命体であるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の障害物近接判定装置。
【請求項6】
前記近接判定手段は、前記障害物の実体像として該障害物が生命体であると判定した場合に、当該生命体が人体あるいは人体に相当する大きさの生命体であるか否かを判定することを特徴とする請求項5記載の障害物近接判定装置。
【請求項7】
前記超音波信号送受信手段および前記検知電極は、自動車の車体構造物に設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の障害物近接判定装置。
【請求項8】
前記自動車の車体構造物は、バンパーであることを特徴とする請求項7記載の障害物近接判定装置。
【請求項9】
障害物を検知してその接近を判定する障害物近接判定方法であって、
超音波信号を送信するとともに前記障害物によって反射された超音波信号を受信する超音波信号送受信工程と、
前記超音波信号送受信工程にて受信した超音波信号の振幅を示す振幅情報と、前記超音波信号の送信から受信までの時間に関する時間情報とに基づいて、前記障害物の想定硬度を算出する想定硬度算出工程と、
前記超音波信号の送信から受信までの前記時間情報を用いて、前記障害物までの近接距離を算出する近接距離算出工程と、
前記想定硬度算出工程にて算出された想定硬度と、前記近接距離算出工程にて算出された近接距離とに基づいて、材質的観点からの前記障害物の実体像および近接状態を判定する近接判定工程とを含む
ことを特徴とする障害物近接判定方法。
【請求項10】
複数の検知電極からの検知信号が示す前記障害物との間の静電容量を検知する静電容量検知工程をさらに含み、
前記近接距離算出工程では、前記時間情報および前記静電容量検知工程にて検知された静電容量を示す静電容量値のうちの少なくとも一つを用いて前記近接距離を算出し、
前記近接判定工程では、前記静電容量値に基づいて、前記障害物の実体像として該障害物の大きさおよび位置を判定することを特徴とする請求項9記載の障害物近接判定方法。
【請求項11】
前記想定硬度算出工程では、前記振幅情報と前記時間情報とに基づいて、あらかじめ記憶されている超音波信号の反射される材質ごとの距離に対する振幅の減衰量を示す振幅減衰量情報を読み出して、前記障害物の想定硬度を算出することを特徴とする請求項9または10記載の障害物近接判定方法。
【請求項12】
前記近接判定工程では、前記障害物の実体像として該障害物が生命体であるか否かを判定することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の障害物近接判定方法。
【請求項13】
前記近接判定工程では、前記障害物の実体像として該障害物が生命体であると判定した場合に、当該生命体が人体あるいは人体に相当する大きさの生命体であるか否かを判定することを特徴とする請求項12記載の障害物近接判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−292168(P2008−292168A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135047(P2007−135047)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】