説明

難燃性ポリスチレン

(i)発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子と、(ii)発泡性防炎剤と、(iii)耐火性結合剤とを含み、(i)と(ii)と(iii)との総質量を基準に(i)の質量が20〜75質量%である組成物が開示されている。前記耐火性結合剤が金属、ケイ酸塩、金属アルミン酸塩、金属アルミノケイ酸塩及びゼオライトから選択される無機材料で、好ましくはケイ酸ナトリウム水溶液である。難燃性ポリスチレンの製造方法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリスチレンに関するもので、詳細には難燃性ポリスチレンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンフォームは、例えば、
− 非常に低い透水性、
− 非常に高い耐水性、
− 製品の予想耐用年数(プラス40年)にわたって一定した非常に優れた断熱価、
− 優れた遮音性、
− 最低質量又は密度での高い構造強度、といった住宅の建築及び建設向けの特性を好適に組み合わせて提供する。
本来、ポリスチレンは可燃材料である。ポリスチレンフォームを優れた難燃性材料にするには、通常、特定の難燃添加剤をポリマーに使用するか、又は、ポリスチレンフォームのパーツを他の建築材料と組み合わせることよって達成できる。このようなタイプの製品や組合せにすることで、ポリスチレンフォームは安全かつ非常に効率的な建築/断熱材料としての評価を得てきた。
近年、建築物及び構造物における基礎材料の難燃性の向上に対する必要性が浮上している。特に、火災による財産の損失を回避するための対策が必要となった。このための重要な条件は、火災の最中に長時間にわたって建築材が構造的な結合性を保ち、火災で建物や財産が失われない確率を最大限にすることである。一般に、火災保険テスト(例えば、LPC建築物の防火に関するデザインガイド、付録B、LPS 1181: パート1に記載のようなテスト)は、特に火災の状態に長時間さらされる場合については、国家及びヨーロッパ立法が適用するもの (小炎試験(Small flame test)、展炎性試験(Single Burning item)等)よりも厳格である。したがって、標準的な難燃性ポリスチレンフォームは、このような最も厳しいテストには合格しないのが一般的である。
【0003】
そのため、前述のような有用な特性を独自に組み合わせていると同時に、火災にさらされた場合の構造的安定性の保持が劇的に向上したポリスチレンフォーム製品に対して、強い要望が依然としてある。
非常に難燃性が高い建設材料の例は非常にたくさんあるが、これらは、ポリスチレンフォームを、木材、金属、鉱質綿、ポリイソシアヌレート、ポリフェノール等の他の材料と一体化したものである。これらの用途において、ポリスチレンフォームは何も混合せずにそのままで、又は、いわゆる難燃性添加剤を用いて調製することもできる。ポリスチレンフォーム用難燃性添加剤の最も典型的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン等のオルガノハロゲン化合物、テトラブロモビスフェノールAトリブロモフェニルアリルエーテルの誘導体が挙げられる。これらの例では、製品が火に反応する初期段階をうまく制御している(例えば、燃焼しにくい材料との貼り合わせなどによる)点で共通している。しかしながら、火災の状態が続いて温度が上昇すると(200〜300℃)、製品の内側に存在するポリスチレンは溶けはじめる。その結果、発泡構造は崩壊し、製品構造物全体が崩壊することもある。さらに、屋根状構造物がきちんと備えられていない場合は、燃焼するポリスチレンの液滴が構造物から漏れる可能性もある。
ポリスチレンフォームの難燃性を向上させるもう一つの別の方法は、ポリスチレンフォーム自体に本来備わっている火や温度に対する挙動を変えることであった。固体の非発泡ポリスチレンについての文献には、以下のような例がたくさんある。即ち、いわゆる炭化発泡性防炎パッケージ(charring and intumescent packages)を固体のポリスチレンに加えて、燃焼挙動を大幅に変えることである(Georlette, P., Simons, J., Costa, L. in “Fire retardancy of polymeric materials”, Grand & Wilkie, Eds, Marcel Dekker, New York, 2000, 245〜283頁)。しかしながら、この方法はポリスチレンフォームの場合は非常に難しい。例えば、EP834529には、リン含有有機物質及びマグネシウムを加えてポリスチレンフォームの難燃性挙動を向上させることが教示されている。しかしながら、難燃剤を非常に多量に添加しても、火災挙動の向上は最低限でしかない。一般に、いわゆる炭化発泡性防炎剤(charring and intumescent agents)を樹脂又は重合に添加してポリスチレンフォームの燃焼挙動を変えようとすると、この問題が障害となった。
【0004】
3番目の方法としては、ポリスチレンフォーム、即ち、発泡ポリスチレンフォームビーズ状のものをポリフェノール樹脂と混合し、優れた難燃性のある発泡シートに圧縮する方法である。しかしながら、この材料は、ポリスチレンフォームの当初の性能条件の多くが失われていた。例えば、著しく脆くなり、吸水性が高くなった。そのうえ、製品の製造には、標準的な発泡品メーカーの作業場には存在しない専門の機械類が必要である。
最後になるが、いわゆるビーズ法発泡スチロール(EPS)ビーズを発泡性防炎パッケージ又はクレイ/水ガラスのようなケイ酸塩樹脂のいずれかを用いて処理することにより、ポリスチレンフォームに難燃性が付与された偶発的な例がある。こうした材料の難燃性はさらに向上し、その応用プロセスは現在の技術実態に適合可能であるという有利な点がある一方で、難燃性材料の一般的な充填量は、ポリスチレンフォームの本来の性能(前記で強調表示した性能)の多くが新たな製品において失われてしまうほどのものであった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの問題は、耐火性樹脂と発泡性防炎添加剤(intumescent additive)とを一緒に使用することにより解決できることがわかった。この添加剤パッケージにより、劇的に向上した相乗効果的な難燃性挙動を得ることができると同時に、ポリスチレンフォームの優れた性能特性を保つことができる。
【0006】
本発明は、
(i)発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子と、
(ii)発泡性防炎剤(intumescent)と、
(iii)耐火性結合剤とを含み、
(i)と(ii)と(iii)との総質量を基準に、(i)の質量が20〜75質量%の範囲である組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の更なる態様によると、発泡ポリスチレンビーズを耐火性結合剤と発泡性防炎剤とで被覆する第1の工程を含み、さらに、以下の工程:
(a)ビーズを乾燥する工程と、
(b)乾燥後のビーズを型に移す工程と、
(c)ビーズを高温で圧縮成形する工程とを有していてもよい、難燃性ポリスチレンの製造方法が提供される。
更なる態様では、発泡性防炎剤と耐火性結合剤とで被覆されている、ビーズ状又は粒子状の発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンが提供される。前記発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンは、粒状であれば再加工、再利用又は廃棄が可能である。
【0008】
前記定義において、耐火性結合剤は、i)発泡後のビーズ表面全体に発泡性防炎剤を均一に運び、分散させることができ、ii)発泡性防炎剤のビーズ表面への付着を促進させることができ、iii)火による加熱の際に不燃性物質の残留物を生成できる、液体又はペーストとして適用されることが好ましい。耐火性結合剤としては、例えば、金属ケイ酸塩、金属アルミノケイ酸塩又はゼオライトが挙げられる。耐火性結合剤は有機でも無機でもよい。ケイ酸塩及び水をベースにした無機の結合剤が好ましく、この場合のケイ酸塩とは、ケイ素、酸素及び1種以上の金属を含む数多くの化合物のいずれかであると解される。一般に、ケイ酸塩は、SiO2又はSiO4体が1種以上の金属と、ときには水素も一緒に結合して構成され、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム又は他の金属等のイオンが付与されている。Na2O/SiO2の混合比によって、さまざまな製品に分類することができる。例えば、液状ケイ酸ナトリウムは水ガラスとも呼ばれ、粘性のあるアルカリ性の透明な溶液で、SiO2:Na2O比は様々である。また、カルシウム、ナトリウム又はカリウムのケイ酸アルミニウム水和物であるゼオライトもよく知られている。付与される塩の供給源としてカルシウムがベースである場合、結合剤はセメント、石灰又は石膏となる。特に好ましいのはアルカリ金属ケイ酸塩で、例えば、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムで、ケイ酸ナトリウムが好適である。有機の結合剤には、例えば、フェノール樹脂と水との混合物、ポリウレタン分散液、又は、メラミン系液体混合物が含まれる。一例を挙げると、ケイ酸ナトリウムと水との混合物は耐火性結合剤として機能するが、例えば、水とゼオライト、フェノール誘導体(例えば、ポリフェノール、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂等)又は木炭形成塩の混合物(例えばGB2101644開示)も機能する。
耐火性結合剤もゲル状又はゾル-ゲル状であるとよく、特に結合剤がケイ酸塩又はゼオライトの場合はなおさらである。ゲルとは、多孔質のスケルトンが液相を囲繞するコロイド状懸濁液である。耐火性結合剤は、ケイ酸塩又はアルミノケイ酸塩を含み、さらに有機の液体、特には水と不混和性の有機液体も含んでいてもよい、ゲル形成組成物として塗布される。ゲル形成組成物は、金属ケイ酸塩を金属アルミン酸塩とともに、好ましくは水中で添加することにより、現場で形成することができる。
【0009】
前記定義における発泡性防炎剤(intumescent)は、加熱又は炎にさらされると、発泡炭化層をもともとの体積で多数回生成する組成物を表す。例としては、ポリリン酸アンモニウム/ペンタエリトリトール混合物、メラミン、グアニジン、クロロパラフィン、ホスフィン、ホスホネート、樹脂結合剤及び発泡性グラファイトが挙げられるが、発泡性グラファイトが好ましい。
前記結合剤と発泡性防炎添加剤との組合せは、性質上補完的であると考えられる。
本発明の特徴は、耐火性結合剤と発泡性防炎剤との充填量を合わせても、最終的な発泡体の機械的性能や熱的性能が損なわれないことである。この点は、ケイ酸塩又は水ガラス等の結合剤を単独の添加剤として使用することで発泡ポリマーの耐火性を向上させていた以前の開示(例えば、US6,545,078B1、2003;WO2006/121259;WO2007/012832A2) と対照的である。これらの場合は、より優れた耐火性を得るのに必要な充填量が高すぎて、実用では使えない。同様に、発泡性防炎剤パッケージを発泡ポリマー製品に導入したが、これもまた、必要な充填量が実際の使用には高すぎる。例えば、NL1026339には、火災挙動を許容レベルにするための、発泡プレート上層(成形後適用の費用のかかる方法による)に対する発泡性グラファイトの濃度が教示されている。
発泡ポリスチレンビーズは、発泡性ポリスチレンを熱処理することで通常形成される(例えば、 “Modern Styrenics Polymers, Scheirs & Priddy, eds. Wiley, New York 2003に記載の通り)。発泡性ポリスチレンとは、発泡剤を含有し、該発泡剤の存在により発泡が可能な組成物と解される。該組成物は、粒子状、好ましくは発泡性ビーズの状態であるとよい。ビーズとは、一般に、球体又は実質的に球体である粒子を意味し、特に大径及び小径の回転楕円体粒子であって、大径:小径の比がとりわけ1.0〜1.3、好ましくは1.0〜1.2の範囲にある粒子を意味する。発泡性粒子又はビーズの平均粒径は0.3〜3mm、好ましくは0.3〜2mm、特には0.4〜1.5mmが好ましい。また、これらの嵩密度(又は見かけ密度)は、ASTM D 1622の方法で測定した場合、550〜720kg/m3、好ましくは580〜710kg/m3、特には600〜770kg/m3が好ましい。
【0010】
発泡性ポリスチレン組成物はスチレンポリマーを含むが、これは、スチレンのホモポリマーでもよいし、スチレンを少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも80質量%、特には、少なくとも90質量%含む共重合体でもよい。スチレン共重合体に存在する1種以上のコモノマーは、ビニル芳香族化合物から選択すればよいが、特には、α-メチルスチレン、芳香環ハロゲン化スチレン又は芳香環アルキル化スチレン、(メタ)アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸のC1〜C4アルキルエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸のアミド類及びニトリル類、ブタジエン、エチレン、ジビニルベンゼン及び無水マレイン酸から選択されるとよい。また、発泡性ポリスチレン組成物は、ポリスチレンとポリオレフィンポリマーとの混合物(例えば、ノバ・ケミカルズ社から市販されているARCEL)又は、ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドの混合物(NORYL)でもよい。さらに、使用する発泡性ポリスチレンビーズには、最終発泡体の断熱性を向上させる金属酸化物、金属粉、カーボンブラック、グラファイト等の材料/添加剤(例えば、EPS Silver、Neopor及びLambdaporポリマー類)が混合されていてもよい。ホモポリスチレンの使用がより好ましい。スチレンポリマーの重量平均分子量Mwは、150,000〜450,000ダルトン、好ましくは160,000〜400,000ダルトン、特には170,000〜300,000ダルトンが好ましい。スチレンポリマーの分子量分布をポリマーのMwと数平均分子量Mnとの比で計算すると、1.5 〜4.0、好ましくは1.7〜3.5、特には1.8〜3.0の範囲がよい。重合防止剤として知られるカーボンブラックが含有されていたとしても、ポリスチレンにおける残存単量体の含有量、場合によっては、残存コモノマー(類)の含有量は、比較的低いことが好ましく、例えば、その量は2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下であるとよい。発泡性ポリスチレン組成物には、スチレンポリマー100質量部に対して、2〜20質量部、好ましくは3〜15質量部、特には3〜10質量部の少なくとも1種の発泡剤が含まれる。発泡剤は、フッ素化していてもよい脂肪族炭化水素化合物又は環状炭化水素化合物、二酸化炭素、水及びこれらの化合物2種以上による混合物から選択されるとよい。より具体的には、フレオン、直鎖又は分岐の飽和炭化水素化合物及び環状飽和炭化水素化合物から選択されるとよく、好ましくはC3〜C7炭化水素化合物、特には、C4〜C6炭化水素化合物で、例えば、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン又はイソヘキサン、二酸化炭素、水、及び、これらの化合物2種以上による混合物から選択されるとよく、特に、前記炭化水素化合物2種以上の混合物、二酸化炭素と水との混合物、二酸化炭素と少なくとも1種の前記炭化水素化合物との混合物、又は、水と少なくとも1種の前記炭化水素化合物との混合物で二酸化炭素を含んでもよい混合物から選択される。
【0011】
本発明は、本質的には非難燃性EPS製品向けであるが、発泡性ポリスチレン組成物は、難燃剤、核剤、可塑剤ならびに成形後及び発泡後の物品の離型を容易にする化学物質から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含んでもよい。とりわけ、ハロゲン化炭化水素化合物、好ましくは臭化炭化水素化合物、特にはC6〜C12炭化水素化合物、例えばヘキサブロモシクロヘキサン、ペンタブロモモノクロロシクロヘキサン又はヘキサブロモシクロドデカンから選択される少なくとも1種の難燃剤を発泡性ポリスチレン組成物に含有させることができ、スチレンポリマー100質量部に対して0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1.5質量部の範囲の量で含有するとよい。該組成物は、特には合成ワックス、特にはフィッシャー-トロプシュワックス及びポリエチレンワックス又はポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックスから選択される少なくとも1種の核剤を更に含んでいてもよく、スチレンポリマー100質量部に対して0.05〜1質量部、好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲の量で含有するとよい。同様に、該組成物は、特には鉱物油及びパラフィンワックス等の石油系ワックスから選択される少なくとも1種の可塑剤を含んでいてもよく、スチレンポリマー100質量部に対して0.1〜1質量部、好ましくは0.1〜0.8質量部の範囲の量で含有するとよい。さらに該組成物は、特にはステアリン酸の無機塩類及びエステル類、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸マグネシウムから選択される、成形後及び発泡後の物品の離型を容易にする化学物質を少なくとも1種含有してもよく、スチレンポリマー100質量部に対して0.05〜1質量部、好ましくは0.1〜0.6質量部の範囲の量で含有するとよい。
【0012】
特には発泡性粒子、又は好ましくは発泡性ビーズの形態である発泡性ポリスチレン組成物の調製方法は、スチレンと少なくとも1種の前記コモノマーを用いてもよい、水性懸濁液中での重合工程を行った後、水性相を分離除去し、特には発泡性粒子又はビーズ状の組成物を単離させる工程とを有する。水性懸濁液中での重合は攪拌しながら、少なくとも1種のラジカル重合開始剤、少なくとも1種の懸濁安定剤、発泡剤の存在下で行うとよく、前記発泡剤は、スチレン100質量部に対して3〜20質量部、好ましくは5〜10質量部の範囲の量で存在させる。
水性懸濁液中での重合は、70〜150℃、好ましくは85〜140℃の範囲内の温度で行うことができる。水:スチレン(コモノマーを含んでもよい)の質量比を0.8/1〜5/1、好ましくは0.9/1〜4/1にして重合を行うとよい。残存モノマーの量と、場合によっては残存コモノマーとの量が2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下になるまで時間をかけて重合を続けるとよい。
水性懸濁液中での重合は1種以上のラジカル重合開始剤の存在下で行い、モノマーと、場合によってはコモノマーとの合計100質量部に対して、開始剤は0.01〜2質量部、好ましくは0.05〜1質量部の範囲の量がよい。ラジカル重合開始剤は、単官能性、二官能性及び多官能性ラジカル開始剤から選択することができ、とりわけ、過酸化物、ヒドロペルオキシド類、ペルオキシカーボネート類、ペルケタール類、過酸エステル類及びアゾ化合物から選択することができる。好ましくは、ラジカル重合開始剤は二官能性又は多官能性ラジカル開始剤から選択され、過酸エステル類から選択されることがさらに好ましい。クミルヒドロペルオキシド、ペルオキシ-2-エチルヘキサン酸t-ブチル、ペルオキシネオデカン酸t-ブチル、ペルオキシピバリン酸t-ブチル、ペルオキシジエチル酢酸t-ブチル、ペルオキシイソ酪酸t-ブチル、ペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサン酸t-ブチル、ペルオキシネオデカン酸クミル、ペルオキシ-2-エチルヘキサン酸t-アミル、ペルオキシネオデカン酸t-アミル、ペルオキシピバリン酸t-アミル、2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン又は2,4,4-トリメチルペンチル-2-ペルオキシネオデカノエート等の過酸エステル類、或いは、二官能又は多官能ラジカル開始剤、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)2,5-ジメチルヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン又はビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンから選択される少なくとも1種のラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが、特に有利であることがわかった。実際のところ、これらの開始剤により、カーボンブラックが存在しているにもかかわらず、重合反応の収量を向上させることができる。したがって、残存スチレンと、場合によっては残存コモノマーとの量が非常に少ないポリスチレンを製造することができる。ラジカル重合開始剤は、その全体を重合開始時に導入してもよいし、一部を開始時に、残りを重合の最中に1回以上に分けて導入してもよい。
【0013】
水性懸濁液中での重合は、少なくとも1種の懸濁安定剤の存在下で行うことが好ましく、とりわけ、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸とエチルヘキシルアクリル酸デンプンとのランダム共重合体、ポリアクリルアミド及びポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種の有機懸濁安定剤、又は、とりわけ、アルミナ、ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、及び、リン酸三カルシウム、リン酸バリウム、リン酸アルミニウム又はピロリン酸マグネシウム等の(ピロ)リン酸の無機塩から選択される少なくとも1種の無機懸濁安定剤が好ましい。使用する懸濁安定剤の量は、スチレンと、場合によってはコモノマーとの合計100質量部に対して、0.05〜6質量部、好ましくは0.1〜4質量部であるとよい。
懸濁液の安定性向上を目的として、組成物のポリマーとは異なるスチレン(プレ)ポリマー、又は、好ましくは同一のスチレン(プレ)ポリマーの存在下で重合を行うことも可能であり、この(プレ)ポリマーの量は全体100質量部に対して、1〜50質量部、好ましくは30〜45質量部である。重合開始に先立って、モノマー又は場合によってはコモノマーを加えたものに、スチレンの(プレ)ポリマーを添加して溶解させることにより溶液を形成することも可能である。このようにして(プレ)ポリマーの割合が前述のようになるまで、スチレンと、場合によっては1種以上のコモノマーとの塊状プレ重合又は溶液プレ重合を行い、その後、前述の反応物や添加剤の存在下で水性懸濁液中での重合を継続することができる。
【0014】
水性懸濁液中での重合は、メルカプタン及びα−メチルスチレンの二量体等の連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素化合物、好ましくは臭化炭化水素化合物、特には前述の化合物などの難燃剤、ブタジエン又はジビニルベンゼン等の架橋剤、可塑剤、核剤、特に前述のようなものから選択される他の添加剤の存在下で行うとよい。
水性懸濁液中での重合は、とりわけ、少なくとも1種以上の発泡剤の存在下で行われるが、発泡剤の量は、重合で用いられるスチレンと、場合によってはコモノマーを加えた100質量部に対して、3〜23質量部、好ましくは4〜17質量部、特には4〜12質量部がよい。一般に、採用された発泡剤は重合中にわずかな部分が失われ、重合後の発泡性ポリスチレン組成物において回収されることはない。発泡剤は前記のものから選択することができ、重合開始時又は重合最中にそのすべてを導入するか、或いは、開始時に一部を導入し、残りを1回以上に分けて重合中に導入すればよい。さもなくば、別途含浸工程で導入してもよい。
発泡性ポリスチレン組成物は、発泡物品を製造するために、とりわけ、ASTM D1622記載の方法で測定した嵩密度(又は見かけ密度)が5〜200kg/m3、好ましくは5〜180kg/m3、特には5〜150kg/m3の押出品又は成形品を製造するために用いられる。発泡ポリスチレンは、通常、以下の工程を有する方法で製造される。
(i)組成物、とりわけ発泡性粒子状又は発泡性ビーズ状の組成物を、特には攪拌タンク中、好ましくは嵩密度(又は見かけ密度)が5〜200kg/m3、好ましくは5〜100kg/m3、特には5〜50 kg/m3又は5〜30kg/m3の発泡粒子又は発泡ビーズを形成することができる圧力及び温度条件のもと、例えば、温度80〜110℃又は85〜105℃、かつ、10〜160kPa又は50〜150kPaの範囲の絶対圧力下で蒸気と接触及び混合させることによって、予備発泡させる工程と、
(ii)こうして発泡させた粒子又はビーズを、温度0〜40℃かつ圧力50〜130kPa、好ましくは80〜120kPaの範囲となる絶対圧力下、数時間から数日にわたり、例えば、4時間から3日間にわたり周囲空気と接触させることにより、周囲空気と発泡粒子又はビーズの内部大気とが平衡状態に達するように安定化(熟成)させる工程を有していてもよい。
発泡ポリスチレンビーズを耐火性結合剤及び発泡性防炎剤と混合する。両者がビーズに充分に分散することが重要である。発泡性防炎剤及び耐火性結合剤は別々に添加することも、混合物として添加することもできる。混合は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜75℃、さらに好ましくは周囲温度で行うとよい。その後、ビーズを乾燥させ、更に成形してもよい。
【0015】
したがって、本発明は、前述のように嵩密度(又は見かけ密度)が例えば5〜200kg/m3、好ましくは5〜100kg/m3、特には5〜50 kg/m3、とりわけ好ましくは5〜30kg/m3の成形発泡物品を製造するための、特には発泡性粒子状、又は、好ましくは発泡性ビーズ状の発泡性ポリスチレン組成物の使用、並びに、該発泡性ポリスチレン組成物から作製された発泡粒子及び発泡ビーズの使用に関する。
通常、発泡ポリスチレンの粒子又はビーズの成形は、型に導入し、好ましくは粒子同士又はビーズ同士が互いに融着するように、例えば、温度80〜120℃で型を加熱して行い、好ましくは予備発泡粒子又はビーズと実質的に同じである所望の嵩密度(又は見かけ密度)を有する成形発泡物品を製造する。
耐火性結合剤は、溶液の状態で、好ましくは水溶液状態で用いる。耐火性結合剤用の他の溶媒又は担体の使用が可能である。耐火性結合剤を溶液状にして、例えば水溶液にして塗布する場合、溶液中の耐火性結合剤の濃度は、2〜80質量%、好ましくは10〜70%、より好ましくは15〜50質量%であるとよい。
発泡性防炎剤は、熱にさらされると膨張し、体積が増加し密度が減少するいずれの物質でもよい。発泡性防炎剤は、一般に、受動的な防火状況で用いられるもので、吸熱性であり化学的結合水を含有することもある。発泡性防炎剤の典型例としては、発泡性グラファイト、ナノクレイ、発泡性ガラスビーズ(例えば、アクゾ社製のExpancell)が挙げられるが、発泡性グラファイトが好ましい。
発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンビーズ又は粒子の質量は、発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子と発泡性防炎剤と耐火性結合剤との全質量における比で、20〜75%、好ましくは25〜60%、より好ましくは35〜45%である。
【0016】
発泡性防炎剤の質量は、発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子と発泡性防炎剤と耐火性結合剤との全質量における比で、10〜30%、より好ましくは15〜25%、例えば17〜23%が好ましい。
耐火性結合剤の質量は、発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子と発泡性防炎剤と耐火性結合剤との全質量における比で、30〜50%、より好ましくは35〜45%、例えば37〜43%が好ましい。不確かにならないようにするため、耐火性結合剤の質量に液体溶媒又は担体の質量はいれない。
通常、発泡性防炎剤及び耐火性結合剤は、成形の前に発泡性ポリスチレン又は好ましくは発泡ポリスチレンに塗布する。しかしながら、既に成形済みのポリスチレンフォーム物品、ブロック、シートに、含浸、噴霧又は槽で浸漬することにより、耐火性結合剤及び発泡性防炎剤を塗布することもできる。この場合、耐火性結合剤及び発泡性防炎剤が物品、ブロック又はシートに浸透できるようにする。例えば、耐火性結合剤及び発泡性防炎剤を含む溶液又はスラリーが、重力又はポンプ作用で透過可能な容器(例えば袋)に物品、ブロック又はシートを入れて行うことができる。
さらに本発明には、耐火性結合剤及び発泡性防炎剤で処理されたポリスチレンフォームを含み、更に石膏、鉄板、アルミニウム又は他の金属材料等の建築目的で通常用いられる材料を含んでいてもよい物品が包含される。
本発明を下記の実施例を参照しながら説明する。実施例では、発泡性ポリスチレンポリマー粒子を従来の懸濁重合により調製した。粒子は蒸気を用いて見かけ密度19kg/m3になるまで発泡を行い、熟成させた。
【0017】
実施例1
下記に定義するケイ酸ナトリウム溶液250gと、発泡性グラファイト40gとを一緒に混合した。得られたスラリーを、予備発泡させたポリスチレンビーズ100gと混合した。この混合物を乾燥させた後、標準的なEPS装置及び標準的成形条件で被覆予備発泡ビーズを成形した(300x300x50mm)。
発泡体をオーブンにいれて70℃で48時間乾燥させた後、さらに湿度50%RH、温度23℃で24時間状態調節を行い、190x90x20mmの大きさの試料に切った。DIN4102: Part 1:B2火災試験に従って、これらの試料のテストを行った。結果を表1に示す。
実施例2
発泡性グラファイト40gを添加して混合する前に、最初にケイ酸ナトリウム溶液250gを予備発泡ビーズと十分に混合したこと以外は、実施例1を繰り返した。
実施例3
ケイ酸ナトリウム溶液、発泡性グラファイトを使わなかったこと以外は、実施例1を繰り返した。
実施例4
ケイ酸ナトリウム溶液は使わず、発泡性グラファイト40gだけを予備発泡ポリスチレンビーズ100gと混合したこと以外は、実施例1を繰り返した。発泡性グラファイト被膜(予備発泡ビーズに付着)は見られなかった。予備発泡ビーズ層の下に発泡性グラファイトが堆積していることがわかった。
実施例5
250gのケイ酸ナトリウム溶液だけを使用し、発泡性グラファイトを混合物に添加しなかったこと以外は、実施例5を繰り返した。
【0018】
【表1】

【0019】
*発泡性防炎剤層
ケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス):36〜38%ケイ酸ナトリウム含有水溶液
実施例1、2及び3の発泡体について、選択した物性を表2に記載する。
【0020】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子と、
(ii)発泡性防炎剤と、
(iii)耐火性結合剤とを含み、
前記(i)と(ii)と(iii)との総質量を基準に前記(i)の質量が20〜75質量%である組成物。
【請求項2】
前記発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンがビーズ状である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリスチレンの重量平均分子量が150,000〜450,000ダルトンである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記発泡性防炎剤がメラミン、ホスフィン、ホスホネート、発泡性グラファイト、発泡性ガラスビーズ及びナノクレイの少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記発泡性防炎剤が発泡性グラファイトである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記耐火性結合剤が、フェノール樹脂、ポリウレタン分散体、ポリフェノール及びフェノール−ホルムアルデヒド樹脂から選択される有機材料であり得る、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記耐火性結合剤が、金属、ケイ酸塩、金属アルミン酸塩、金属アルミノケイ酸塩及びゼオライトから選択される無機材料である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記耐火性結合剤がケイ酸ナトリウムである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記発泡ポリスチレン又は発泡性ポリスチレンのビーズ又は粒子(i)の質量が、前記(i)、(ii)及び(iii)の総質量を基準に35〜45%である、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記発泡性防炎剤(ii)の質量が、前記(i)、(ii)及び(iii)の総質量を基準に10〜30%である、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記耐火性結合剤(iii)の質量が、前記(i)、(ii)及び(iii)の総質量を基準に30〜50%である、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
発泡ポリスチレンビーズ又は粒子を耐火性結合剤と発泡性防炎剤とで被覆する第1の工程を含む、難燃性ポリスチレンの製造方法であって、さらに、
(a)被覆したビーズを乾燥する工程と、
(b)乾燥したビーズを型に移す工程と、
(c)前記ビーズを高温で圧縮成形する工程とを有していてもよい前記製造方法。
【請求項13】
耐火性結合剤と発泡性防炎剤とで処理されたポリスチレン発泡体を含む物品であって、処理されたポリスチレン発泡体が請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物を含有する前記物品。

【公表番号】特表2010−528167(P2010−528167A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509796(P2010−509796)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056321
【国際公開番号】WO2008/145599
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509328168)イネオス ノヴァ アンテルナシオナル ソシエテ アノニム (1)
【出願人】(509328179)シーアールエイチ ピーエルシー (1)
【Fターム(参考)】