説明

難燃性繊維シート

【課題】本発明は、難燃性の性能を満足するとともに腐食の発生を防ぐ効果を示す、緩衝材として使用する難燃性繊維シートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明の難燃性繊維シートは、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルが、繊維シートに添加されてなるため、難燃性繊維シートが電子部品や金属部品と接触しても、電子部品や金属部品の腐食の発生を防ぐことができる。また、難燃剤を被覆しているシラン系樹脂は、電子部品や金属部品に腐食を発生させにくいと共に、高温下においてもVOCを放出しにくいため、電子部品や金属部品の腐食の発生を防ぐことができる。
そして、本発明の難燃性繊維シートは、繊維シートの質量の60〜80質量%の難燃剤カプセルが添加されてなるため、難燃性の性能を満足すると共に、電子部品や金属部品の腐食の発生を防ぐ効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、テレビなどの映像機器、オーディオ機器、パソコン、空調機器、冷蔵庫、洗濯機などの電化製品の内部空間に存在する、電子部品や金属部品同士の間隙を埋めて、防じん性やパッキン性の付与、緩衝性の付与、吸音性などを付与するために、緩衝材を使用することが行われている。
【0003】
緩衝材を構成する材料として、軽量かつ防じん性やパッキン性に優れるとともに、緩衝性や吸音性に優れることから、繊維シートや発泡体が使用されている。
【0004】
上述の緩衝材は高温となった電子部品や金属部品と、接触した状態で使用されることがある。そのため、上述の緩衝材は、形状や物性が変化することのないように耐熱性を有するとともに、発火や燃焼することのないように難燃性を有することが求められている。
【0005】
一般的に、繊維シートや発泡体などへ耐熱性、及び難燃性を付与する方法として、ガラス転移温度や融点の高いポリマー材料を用いて繊維シートや発泡体を構成するとともに、リン酸系難燃剤、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、水酸化金属塩などの難燃剤を添加する方法が採られている。
【0006】
難燃剤を添加する方法として、合成樹脂被膜で難燃剤を被膜してなる難燃剤カプセルを、多孔質材料に添加する技術(特許文献1)が知られている。
【0007】
特許文献1は、難燃剤をポリスチレン樹脂やメラミン樹脂などの合成樹脂で被膜した難燃剤カプセルを用いることで、通気性を妨げることなく多孔質材料に難燃性を付与できるとともに、その添加量は多孔質材料に対して5〜80質量%付着できることを開示している。
【0008】
なお、難燃性多孔質材料シートが耐熱性および難燃性を得る原理として、引用文献1の発明では、難燃性多孔質材料シートが高温に曝されると難燃剤カプセルの被膜が破れて難燃剤が露出し、該難燃性多孔質材料シートに自己消火性が付与される、ことを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2005/082563号パンフレット(特許請求の範囲、0001、0005-0006、0016、0013、0015-0018、0047)
【0010】
従来よりなる難燃性が付与された緩衝材を、高温となった電子部品や金属部品と接触して使用すると、電子部品や金属部品の緩衝材と接触した部位が腐食して白色化する現象が認められた。特にこの現象は、リン系難燃剤を添加してなる緩衝材と、亜鉛を使用してなる電子部品や金属部品とを接触させた場合に、顕著に認められるものであった。
【0011】
リン系難燃剤は酸化するとともに、ブレンステッド酸と反応することで、金属塩となる傾向があることから、上述の腐食が生じた原因は、亜鉛とリン系難燃剤由来のリン酸化合物とが反応することで、リン酸亜鉛が形成されたことに起因するものであると推測された。
【0012】
また、リン酸は亜鉛の他に、鉄、リチウム、アルカリ土類金属などとも反応して、金属塩を形成することが知られている。そのため、難燃剤としてリン系難燃剤を使用する限り、亜鉛以外の金属からなる電子部品や金属部品においても、同様に腐食が発生する恐れがあった。
【0013】
このような難燃性が付与された緩衝材による電子部品や金属部品の腐食の発生は、上述のように難燃剤としてリン系難燃剤を用いた場合に限り生じるものではなく、金属と反応性を有する化合物を含んでなる難燃剤を使用する限り、腐食が発生する可能性があった。
【0014】
引用文献1の発明が開示する難燃剤カプセルは、高温下において揮発性有機化合物(VOC)を放出しやすい合成樹脂被膜を有する。そのため、引用文献1の発明のように、合成樹脂被膜を有する難燃剤カプセルを添加した緩衝材を使用した場合にも、緩衝材が電子部品や金属部品と接触した状態で高温下に晒されると、難燃剤カプセルの被膜から放出されるVOCにより、電子部品や金属部品の腐食を招く可能性があった。
【0015】
そして、電子部品や金属部品に腐食が発生すると、電子部品の故障、電子回路のショート、部品表面が剥れ落ちるなどして、電化製品の故障や劣化が招かれる。更に、腐食した化合物が人の生活空間へと放出された場合、呼吸時に人体へと取り込まれることによる、健康被害も懸念される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した従来技術が有する限界を超えるべくなされたもので、難燃性の性能を満足するとともに腐食の発生を防ぐ効果を示す、緩衝材として使用する難燃性繊維シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、
「難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルが、繊維シートに対して、繊維シート質量の60〜80質量%添加されていることを特徴とする、緩衝材として使用する難燃性繊維シート。」
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1によれば、難燃性繊維シートは、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルが、繊維シートに添加されてなるため、難燃性繊維シートが電子部品や金属部品と接触しても、電子部品や金属部品の腐食の発生を防ぐことができる。また、難燃剤を被覆しているシラン系樹脂は、電子部品や金属部品に腐食を発生させにくいと共に、高温下においてもVOCを放出しにくいため、電子部品や金属部品の腐食の発生を防ぐことができる。
そして、本発明の請求項1によれば、難燃性繊維シートは、繊維シートの質量の60〜80質量%の難燃剤カプセルが添加されてなるため、難燃性の性能を満足すると共に、電子部品や金属部品の腐食の発生を防ぐ効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】難燃性繊維シートによる、亜鉛メッキ鋼板の腐食の発生を測定するための、測定方法を示した斜視図である。
【図2】難燃性繊維シートによる、剥離強度を測定するための、測定方法を示した斜視図である。
【図3】難燃性繊維シートによる、腐食の発生を確認した、亜鉛メッキ鋼板の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明でいう繊維シートとは、例えば、不織布、織物、編み物などを指す。また、繊維シートを構成している繊維同士は、繊維を構成する熱融着樹脂成分、あるいはバインダにより、融着あるいは接着されていても良い。
【0021】
繊維シートを構成する繊維は、後述する難燃剤カプセルやバインダにより、最終的に繊維シートが難燃性を示すものとなるのであれば限定されるものではない。繊維シートを構成する繊維は、有機系化合物が重合してなるポリマー、あるいは無機系化合物が重合してなるポリマーのいずれからなるものでも構わない。
【0022】
上述の有機系化合物が重合してなるポリマーとして、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂など、公知の有機ポリマーから繊維を構成することができる。
【0023】
また、無機系化合物が重合してなるポリマーとして、例えば、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなど、公知の無機系化合物が重合してなるポリマーから繊維を構成することができる。
【0024】
これらのポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わない。
【0025】
難燃性がより向上した繊維シートを得るためには、JIS K7201 限界酸素指数に基づき求められる、LOI値(限界酸素指数)が26以上の難燃性を示す繊維から、繊維シートが構成されているのが好ましい。
【0026】
本発明の繊維シートを構成するのに好適な、LOI値(限界酸素指数)が26以上の難燃性を示す繊維として、例えば、酸化アクリル繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、アラミド繊維などが挙げられる。
【0027】
上述した繊維の繊度、繊維長は特に限定するものではないが、繊度は0.5〜10dtexであるのが好ましく、1〜5dtexであるのがより好ましい。また、繊維長は10〜100mmであるのが好ましく、20〜80mmであるのがより好ましい。
【0028】
本発明の繊維シートにおいては、複数種類のポリマーからなる複合繊維を使用して、本発明の繊維シートを構成しても良く、ポリマーの種類、繊維長、及び/又は繊度の異なる2種類以上の繊維を混合して、繊維シートを構成しても良い。
【0029】
なお、本発明に係る繊維シートとして、例えば、溶媒を用いずに繊維を開繊した乾式不織布、溶媒を用いて繊維を開繊した湿式不織布、直接法(例えば、メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)を用いてなる不織布を使用することができる。
【0030】
繊維シートの目付、厚さ、空隙率などの諸特性は難燃性繊維シートの適用用途によって異なるため、特に限定されるべきものではないが、1mあたりの質量である目付は20〜500g/mであるのが好ましく、40〜250g/mであるのがより好ましい。
【0031】
また、繊維シートの厚さは、0.05〜10mmであるのが好ましく、0.1〜1.5mmであるのがより好ましい。なお、本発明において厚さは、厚さ測定器(ダイヤルシックネスゲージ0.01mmタイプH型式(株)尾崎製作所製)により計測した、5点の厚さの算術平均値をいう。
【0032】
そして、繊維シートの空隙率は、75〜95%であるのが好ましく、80〜90%であるのがより好ましい。
【0033】
目付・厚さ・空隙率が以上の範囲である繊維シートを用いて難燃性繊維シートを調製することで、電化製品等の内部空間への充填性やクッション性に優れて取り扱い性に優れる難燃性繊維シート、特に緩衝材として使用するのが好適な難燃性繊維シートを得ることができる。
【0034】
本発明に係る難燃性繊維シートは、繊維シートに後述する難燃剤カプセルが添加されてなる、難燃性繊維シートである。
【0035】
難燃剤カプセルとは、難燃剤をシラン系樹脂で被覆したカプセル形状の難燃剤を指す。難燃剤はシラン系樹脂の被覆によって保持されているため、非加熱下および非加圧下などの、シラン系樹脂に開孔や亀裂が生じない条件下では、難燃剤カプセルの内部から難燃剤が漏出することがない。
【0036】
難燃剤カプセルのレーザー回折散乱法(JIS Z 8825-1)に基づき測定される粒子の直径は、繊維シートに難燃剤カプセルを添加できるとともに好適な量の難燃剤を保持することができるのであれば、特に限定されるものではないが、0.5〜60μmであるのが好ましく、5〜40μmであるのがより好ましく、10〜30μmであるのが最も好ましい。
【0037】
難燃剤カプセルの内部に保持されている難燃剤は、繊維シートに難燃性を付与する作用を示す。この難燃剤の種類は特に限定するものではないが、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤を使用できる。
【0038】
より具体的には、リン系難燃剤として、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、酸性リン酸エステル、含窒素リン化合物などを使用できる。
【0039】
また、臭素系難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモベンゼン、ヘキサブロモベンゼン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、デカブロモジフェニルオキサイドなどを使用できる。
【0040】
更に、無機系難燃剤として、赤燐、酸化スズ、三酸化アンチモン、水酸化ジルコニウム、メタホウ酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどを使用できる。
【0041】
これらの難燃剤の中でも繊維シートへ難燃性を効率よく付与でき、しかも環境適応性に優れることから、リン系難燃剤を使用するのが好適である。また、これら難燃剤は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明に係る難燃性繊維シートに添加されている難燃剤カプセルにおいて、シラン系樹脂は難燃剤を被覆してその内部に保持する役割を示す。難燃剤カプセルの内部からの難燃剤の漏出は、難燃剤カプセルに圧力あるいは熱が作用して、難燃剤カプセルのシラン系樹脂による被膜に開孔や亀裂が生じることで発生する。
【0043】
電子部品や金属部品に腐食を発生させにくいと共に、高温下においてもVOCを放出しにくいように、シラン系樹脂として、例えば、シリコーン樹脂、又は、官能基としてビニル基、アミノ基、メルカプト基等を持つ周知のシランカップリング剤を0.1〜5質量%添加したシラン系樹脂を使用するのが好ましい。
【0044】
難燃剤カプセルにおけるシラン系樹脂の被膜の厚さは、難燃剤カプセルの内部から難燃剤が漏出しない程度に、難燃剤を被覆することができる厚さであれば良く、難燃性繊維シートの適用用途によって異なるため、特に限定されるべきものではなく、適宜、調整するのが好ましい。
【0045】
繊維シートに難燃剤カプセルを添加する方法として、例えば、バインダを用いて難燃剤カプセルを繊維シートに添加する方法、難燃剤カプセルを繊維シートに溶着させて添加する方法などが挙げられる。
【0046】
バインダを用いて難燃剤カプセルを繊維シートに添加する場合、アクリル酸エステル系樹脂、ウレタン樹脂、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などをバインダとして使用することができる。
【0047】
バインダを用いて難燃剤カプセルを繊維シートに添加する場合、使用するバインダの質量は難燃剤カプセルの質量の80〜100質量%であるのが好ましい。難燃剤カプセルの質量に対してバインダの質量が80質量%より少ないと、難燃性繊維シートから難燃剤カプセルが剥離しやすくなることで、難燃性繊維シートの難燃性が低下するおそれがある。また、難燃剤カプセルの質量に対するバインダの質量が100質量%より多いと、繊維シートが形成している空隙をバインダが充填してしまうことで、難燃性繊維シートの緩衝性や吸音性の性能を低下させるおそれがある。
【0048】
本発明の難燃性繊維シートは、繊維シートに上述の難燃剤カプセルが添加されることで難燃性を示す。本発明では、繊維シートに、該繊維シートの質量の60〜80質量%の難燃剤カプセルが添加されてなることを特徴とする。
【0049】
繊維シートの質量の80質量%よりも、多くの難燃剤カプセルが添加されてなる難燃性繊維シートであると、添加されている難燃剤の量が多いことで、難燃性繊維シートが高温に曝された際に、難燃剤カプセルから漏出する難燃剤の量もまた多くなることで自己消火性に優れるため、難燃性に優れる難燃性繊維シートが得られる。
【0050】
しかしながら、繊維シートの質量の80質量%よりも、多くの難燃剤カプセルが添加されてなる難燃性繊維シートであると、添加されている難燃剤の量が多いことで、難燃性繊維シートが電子部品や金属部品と接触して圧力を受けた際にシラン系樹脂の被膜が変形する確率も高くなることで、難燃剤カプセルの被膜の変形箇所から漏出する難燃剤の量もまた多くなり、接触している電子部品や金属部品に腐食を生じさせやすくなる。
【0051】
更に、繊維シートの質量の80質量%よりも多くの質量の難燃剤カプセルが添加されてなる難燃性繊維シートであると、添加されている難燃剤の量が多いことで、難燃性繊維シートの表面から難燃剤カプセルが剥れ落ちる確率が高くなると共に、両面テープや接着剤により難燃性繊維シートを固定する場合、両面テープや接着剤などとの接着性が劣り、難燃性繊維シートを様々な形状の対象物へと追従させることが困難となり、緩衝材としての取り扱い性に劣る傾向がある。
【0052】
繊維シートの質量の60質量%よりも、少ない難燃剤カプセルが添加されてなる難燃性繊維シートであると、添加されている難燃剤の量が少ないことで、難燃性繊維シートが高温に曝された際に、難燃剤カプセルから漏出する難燃剤の量もまた少なくなることで自己消火性に劣るため、緩衝材としての難燃性に劣る傾向がある。
【0053】
本発明に係る難燃性繊維シートの目付は、該難燃性繊維シートの適用用途によって異なるため、特に限定されるべきものではないが、1mあたりの質量である目付は20〜500g/mであるのが好ましく、40〜250g/mであるのがより好ましい。
【0054】
また、本発明に係る難燃性繊維シートの厚さは、0.05〜4mmであるのが好ましく、0.1〜1.5mmであるのがより好ましい。そして、本発明に係る難燃性繊維シートの空隙率は、75〜95%であるのが好ましく、80〜90%であるのがより好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
(繊維シートの製造方法)
繊度2.2dtexで繊維長51mmの難燃性レーヨン繊維(レンチング社製、LENZIN FR 2.2*51)、繊度2.2dtexで繊維長51mmのPPS繊維(東レ株式会社製、東レPPS S-301)、繊度1.7dtexで繊維長51mmの難燃性ポリエステル繊維(東洋紡績社製、トウヨウボウエステル 1.7*51-G08)を用意した。
次いで、難燃性レーヨン繊維40質量%、PPS繊維30質量%、難燃ポリエステル繊維30質量%とを混合し、カード機により開繊して繊維ウエブを形成した後、針密度10本/cmでニードルパンチ処理を施して、目付50g/m、厚さ10mmの不織布を製造した。
【0057】
(実施例1)
難燃剤成分としてポリリン酸アンモニウム(リン系難燃剤)をシリコーン樹脂(シラン系樹脂)で被覆した難燃剤カプセルを、水に分散させてなる、難燃剤(日華化学社製、製品名:ニッカファイノンHF−36)と、バインダとしてアクリル酸エステル共重合体エマルジョン(DIC株式会社、製品名:ディックナールDS−23)を用意し、難燃剤カプセルの質量とバインダの固形分質量が(難燃剤カプセルの質量:バインダの固形分質量)=(100:80)となるように混合して接着剤を製造した。

次いで、(繊維シートの製造方法)の項で得られた不織布に、該接着剤を1mあたり固形分質量が54gとなるように塗布して、150℃に設定したドライヤーにより乾燥することで、難燃性繊維シート(目付:104g/m、厚さ:0.55mm)を製造した。
なお、難燃性繊維シートにおける難燃剤カプセルの添加質量は1mあたり30gであるため、不織布質量の60質量%の難燃剤カプセルが添加されてなる、難燃性繊維シートであった。
【0058】
(実施例2)
実施例1で使用した、難燃剤カプセルの質量とバインダの固形分質量が(難燃剤カプセルの質量:バインダの固形分質量)=(100:100)となるように混合して接着剤を製造した。

次いで、(繊維シートの製造方法)の項で得られた不織布に、該接着剤を1mあたり固形分質量が80gとなるように塗布して、150℃に設定したドライヤーにより乾燥することで、難燃性繊維シート(目付:130g/m、厚さ:0.55mm)を製造した。
なお、難燃性繊維シートにおける難燃剤カプセルの添加質量は1mあたり40gであるため、不織布質量の80質量%の難燃剤カプセルが添加されてなる、難燃性繊維シートであった。
【0059】
(比較例1)
(繊維シートの製造方法)の項で得られた不織布に、実施例1で使用した接着剤を1mあたり固形分質量が76.5gとなるように塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、難燃性繊維シート(目付:126.5g/m、厚さ:0.55mm)を製造した。
なお、難燃性繊維シートにおける難燃剤カプセルの添加質量は1mあたり42.5gであるため、不織布質量の85質量%の難燃剤カプセルが添加されてなる、難燃性繊維シートであった。
【0060】
(比較例2)
(繊維シートの製造方法)の項で得られた不織布に、実施例2で使用した接着剤を1mあたり固形分質量が55gとなるように塗布したこと以外は、実施例2と同様にして、難燃性繊維シート(目付:105g/m、厚さ:0.55mm)を製造した。
なお、難燃性繊維シートにおける難燃剤カプセルの添加質量は1mあたり27.5gであるため、不織布質量の55質量%の難燃剤カプセルが添加されてなる、難燃性繊維シートであった。
【0061】
実施例1〜2ならびに比較例1〜2で得られた難燃性繊維シートを、以下の評価試験へと導き、腐食性、難燃性、剥離強度を評価した。
【0062】
(1)腐食性の評価
図1をもとに、難燃性繊維シートの腐食性の評価方法を説明する。
(i)実施例1〜2ならびに比較例1〜2で得られた各々の難燃性繊維シートを、縦:3cm、横:1.3cmの短冊状に切り取って、各々の難燃性繊維シートに対応する試験片(12)とした。
(ii)長方形状の亜鉛メッキ鋼板(11a、縦:5cm、横:8cm、重さ:40g)の一方の主面上に、各々の難燃性繊維シートの試験片(12)を離間させて配置した(図1(a)参照)。さらに同じ大きさのもう一枚の亜鉛メッキ鋼板(11b、縦:5cm、横:8cm、重さ:40g)を用いて、各々の難燃性繊維シートの試験片(12)を亜鉛メッキ鋼板(11a、11b)で挟み込んだ。
(iii)その状態のまま、亜鉛メッキ鋼板(11b)の紙面上の上方向から、亜鉛メッキ鋼板(11b)自身の質量以外の荷重をかけることなく、室温:45℃、湿度:90%の条件下において24時間放置した後、亜鉛メッキ鋼板(11b)と各々の難燃性繊維シートの試験片(12)を、亜鉛メッキ鋼板(11a)上から除いた(図1(b)参照)。
(iv)亜鉛メッキ鋼板(11a)の主面における、各々の難燃性繊維シートの試験片が鋼板と接していた箇所(13)の変化を目視で確認し、次の基準にて評価を行った。

○:変化は生じていなかった。
×:白く変色していた。

腐食性を評価した結果の写真を(図3)に示した。
なお、本腐食性評価において亜鉛メッキ鋼板(11a)に変化が生じないことは、難燃性繊維シートにより亜鉛メッキ鋼板(11a)に、リン酸亜鉛の発生による腐食が生じていないことを指し、部位が白く変色していることは、難燃性繊維シートにより亜鉛メッキ鋼板(11a)に、リン酸亜鉛の発生による腐食が生じたことを示すものである。
【0063】
(2)難燃性の評価
実施例1〜2ならびに比較例1〜2で得られた各々の難燃性繊維シートを、縦:125cm±5cm、横:13cmの短冊状に切り取って、各々の難燃性繊維シートに対応する試験片としてクランプに垂直に取付け、UL94垂直燃焼試験に則って、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により「V-0に適合」、「V-1あるいはV-2に適合」、「不適合」の判定を行うことで、試験片の難燃性を評価した。なお、難燃性の評価基準を(表1)にまとめた。
【0064】
【表1】

本難燃性の評価において燃焼性分類「V-0に適合」したことは、試験片に対応する難燃剤繊維シートが難燃性に優れていることを示しており、燃焼性分類に「不適合」であったことは、試験片に対応する難燃剤繊維シートが難燃性に劣ることを示すものである。
【0065】
(3)剥離強度の評価
図2をもとに、難燃性繊維シートの剥離強度の評価方法を説明する。
(i)実施例1〜2ならびに比較例1〜2で得られた各々の難燃性繊維シートの、一方の主面の全体に、接着機(アサヒ繊維機械(株)製、品番:JR−600)を用い、温度60℃、圧力0.29MPa、接着時間10秒の条件で、両面テープを貼り合わせた。
(ii)一方の主面の全体に両面テープが貼り合わせられた、実施例1〜2ならびに比較例1〜2で得られた各々の難燃性繊維シートを、縦:6cm、横:1.2cmの短冊状に切り取って、各々の難燃性繊維シートに対応する試験片(12’)とした。
(iii)正方形状のアルミ板(AL1、AL2、一辺:6cm、重さ40g)を2枚用意し端部同士で当接させ、正方形状のアルミ板(AL1、AL2)同士の境界線と各試験片(12’)の長手方向が直交するように、両面テープによって各試験片(12’)を、2枚の正方形状のアルミ板(AL1、AL2)の主面上に接着した。
なお、一方の正方形状のアルミ板(AL2)と各試験片(12’)は、各試験片(12’)の長手方向と3mm、もう一方の正方形状のアルミ板(AL1)と各試験片(12’)は、各試験片(12’)の長手方向と57mm接着する態様で接着を行った。(図2(a)参照)。
(iv)一方の正方形状のアルミ板(AL2)を折り曲げ、正方形状のアルミ板同士(AL1、AL2)のなす角度を90°とした(図2(b)参照)。
(v)正方形状のアルミ板同士(AL1、AL2)のなす角度が90°の時に、各試験片(12’)と正方形状のアルミ板のいずれか(AL1、AL2)の間に剥離が生じるかどうか、あるいは、各試験片(12’)の層間に剥離が生じるかどうかを確認し、次の基準にて剥離強度の評価を行った。

○:剥離は生じなかった。
×:剥離が生じた。

各試験片(12’)といずれかのアルミ板(AL1、AL2)の間に剥離が生じた、あるいは、各試験片(12’)の層間に剥離が生じた難燃性繊維シートは、様々な形状の対象物へと追従させることが困難であるため、緩衝材として使用するのに不適な難燃性繊維シートであることを意味する。
【0066】
以上の評価結果を(表2)にまとめた。
【0067】
【表2】

【0068】
表2および図3の結果から、繊維シートに対して、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルが、繊維シート質量の60〜80質量%添加されてなる実施例1〜2の難燃性繊維シートは、難燃性の性能を満足するとともに腐食の発生を防ぐ効果を示す難燃性繊維シートであった。
更に、実施例1〜2の難燃性繊維シートは剥離強度に優れるため、緩衝材として使用するのに適した難燃性繊維シートであった。
【0069】
一方、繊維シートに対して、難燃剤カプセルが繊維シート質量の85質量%添加されてなる比較例1の難燃性繊維シートは、難燃性の性能を満足するものの、腐食の発生を防ぐことのできない難燃性繊維シートであった。更に、剥離強度に劣るため、緩衝材として使用するのに不適な難燃性繊維シートであった。
【0070】
また、繊維シートに対して、難燃剤カプセルが繊維シート質量の55質量%添加されてなる比較例2の難燃性繊維シートは、腐食性の発生を防ぐ効果を示すと共に剥離強度に優れるものの、難燃性の性能を満足しないため、緩衝材として使用するのに不適な難燃性繊維シートであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る難燃性繊維シートは、緩衝材に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
11a、11b・・・亜鉛メッキ鋼板
12、12’・・・難燃性繊維シートの試験片
13・・・難燃性繊維シートの試験片が鋼板と接していた箇所
AL1、AL2・・・アルミ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルが、繊維シートに対して、繊維シート質量の60〜80質量%添加されていることを特徴とする、緩衝材として使用する難燃性繊維シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17538(P2012−17538A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155536(P2010−155536)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】