説明

電力増幅器、電力増幅器の制御方法、電力増幅器の制御プログラム

【課題】全周波数帯域に渡ってドライブ段増幅器のドライブ量を最適化して、終段増幅器のオーバードライブを防止できるようにすると共に、電力増幅器全体の効率を向上させる。
【解決手段】バックオフ検出器22の検出出力からドライブ段増幅器12のバックオフ量を検出し、このバックオフ量が所定値となるように、ドレイン電圧制御回路30により、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を制御することで、ドライブ段増幅器12のドライブ量を全周波数帯域に渡って最適化する。そして、電力増幅器1の総合利得が所望の利得となるように、可変アッテネータ制御回路33で可変アッテネータ11の減衰量を制御する。ドライブ段増幅器12のドライブ量が最適化されることから、オーバードライブによる終段増幅器13の破損を防止でき、また、効率の向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル放送用テレビ送信機で使用される高出力電力増幅器に用いて好適な電力増幅器、電力増幅器の制御方法、電力増幅器の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル放送用テレビ送信機で使用される高出力電力増幅器は、UHF(Ultra High Frequency)全周波数帯域で規定出力において所望の特性を満足させなければならない。特に電力増幅器全体の特性に大きく影響する終段増幅器をUHF全周波数帯域で利得、効率、バックオフを一定にすることは困難であり、周波数特性をもってしまう。
【0003】
図11は、関連するデジタル放送用テレビ送信機で使用される高出力の電力増幅器50の構成を示すブロック図である。図11に示すように、デジタル放送用テレビ送信機で使用される電力増幅器50は、ドライブ段増幅器62と、終段増幅器63とを従属接続して構成される。
【0004】
図11において、入力端子60は、可変アッテネータ61を介して、ドライブ段増幅器62の入力端に接続される。ドライブ段増幅器62はFET(Field Effect Transistor)から構成される。ドライブ段増幅器62の出力端は、終段増幅器63の入力端に接続される。終段増幅器63の出力端は、出力端子64に接続される。
【0005】
可変アッテネータ61は、可変アッテネータ制御回路83からの制御信号に基づいて、入力端子60からの信号の利得を制御する。ドライブ段増幅器62は、終段増幅器63を十分に励振できるように、送信信号を増幅する。終段増幅器63は、送信信号を電力増幅して、出力端子64から出力する。
【0006】
終段増幅器63と出力端子64の間には方向性結合器74が設けられ、方向結合器74により終段増幅器63の出力信号の一部が取得される。方向性結合器74で取得された出力信号の一部はレベル検出器75に供給され、レベル検出器75により、終段増幅器63の出力レベルが検出される。
【0007】
また、可変アッテネータ61とドライブ段増幅器62の間には方向性結合器77が設けられており、方向性結合器77により、ドライブ段増幅器62の入力信号の一部が取得される。方向性結合器77で取得された出力信号の一部は、レベル検出器78に供給され、レベル検出器78により、ドライブ段増幅器62の入力レベルが検出される。
【0008】
利得検出器79は、レベル検出器75からの終段増幅器63の出力レベルと、レベル検出器78からのドライブ段増幅器62の入力レベルから、ドライブ段増幅器62から終段増幅器63までの間の利得を算出する。利得検出器79の検出出力は、可変アッテネータ制御回路83に送られる。
【0009】
可変アッテネータ制御回路83は、利得検出器79で検出されたドライブ段増幅器62から終段増幅器63までの間の利得に応じて、可変アッテネータ61を制御する。また、また、ドレイン電圧制御回路70はドライブ段増幅器62及び終段増幅器63に印加するドレイン電圧を可変できる回路を具備した電源回路である。
【0010】
図12は、図11に示した関連する電力増幅器50を構成するドライブ段増幅器62の特性を示したグラフである。図12において、特性901は周波数F1のときのドライブ段増幅器62の入出力特性を示し、特性902は周波数F2のときのドライブ段増幅器62の入出力特性である。また、B901は周波数F1のときのドライブ段増幅器62のバックオフを示し、B902は周波数F2のときのドライブ段増幅器62のバックオフを示す。なお、バックオフは、出力最大振幅レベルと出力飽和電力レベルのデシベル差で表すことができる。
【0011】
図12に示すように、図11に示すような電力増幅器50を構成するドライブ段増幅器62は、ドライブ量が最適化されていないことから、周波数F1のときのドライブ段増幅器62のバックオフB901と、周波数F2のときのドライブ段増幅器62のバックオフB902とは、異なるバックオフ量となる。
【0012】
図13及び図14は、図11に示した関連する電力増幅器50を構成する終段増幅器63の特性を示したグラフであり、図13は終段増幅器63の入出力特性を示し、図14は終段増幅器63の周波数特性を示している。図13において、特性1001は周波数F1のときの終段増幅器63の入出力特性を示し、特性1002は周波数F2のときの終段増幅器63の入出力特性である。B1001は周波数F1のときの終段増幅器63のバックオフ量であり、B1002は周波数F2のときの終段増幅器63のバックオフ量である。
【0013】
図14において、特性1101は各周波数における終段増幅器63の利得特性を示し、特性1102は各周波数における終段増幅器63のバックオフ特性を示し、特性113は各周波数における終段増幅器63の効率特性を示す。このように、UHF全周波数帯域をカバーする広帯域電力増幅器で使用される終段増幅器63では、周波数に応じて、数dB程度と大きな利得偏差が生じる。
【0014】
図15及び図16は、図11に示した関連する電力増幅器50の総合特性を示したグラフであり、図15は総合入出力特性を示し、図16は総合周波数特性を示している。図15において、特性1201は周波数F1のときの総合入出力特性を示し、特性1202は周波数F2のときの総合入出力特性である。B1201は周波数F1のときのバックオフ量であり、B1202は周波数F2のときのバックオフ量である。
【0015】
図16において、特性1301は各周波数における利得特性を示し、特性1302は各周波数におけるバックオフ特性を示し、特性1303は各周波数における効率特性を示す。図11に示した電力増幅器50では、利得検出器79の検出出力に応じて可変アッテネータ61の減衰量を制御することで、全周波数帯域に渡って利得を一定にしている。
【0016】
また、送信出力電力レベルを一定にすることについては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されている。また、特許文献3過剰入力信号を検出し、過剰入力信号があったときには、電力増幅器の動作電圧を高電圧にするものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平6−338731号公報
【特許文献2】特開2007−221308号公報
【特許文献3】特表2003−526980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図11に示した電力増幅器50では、終段増幅器63は、周波数特性を有する。そのため、ドライブ段増幅器62は、どのような周波数でも、終段増幅器63を十分にドライブさせることができるように、入力信号を余裕をもって増幅できるように構成している。ところが、UHF全周波数帯域をカバーする広帯域電力増幅器で使用される終段増幅器63のFETの利得偏差は、図13及び図14に示したように、数dB程度と大きい。このため、全周波数帯域に渡って入力信号を余裕をもって増幅できるようにドライブ段増幅器62を設定すると、終段増幅器63の利得が高い周波数においては、ドライブ段増幅器62は過剰なドライブ能力(=飽和電力)を有することとなり、オーバードライブにより、終段増幅器63の破損を引き起こしてしまう危険性がある。
【0019】
すなわち、図13において特性1002で示すように、図11に示した電力増幅器50における終段増幅器63では、周波数F2のときに利得が小さくなる。このため、周波数F2のときにも終段増幅器63を十分ドライブできるように、予め取得したデータにより、ドライブ段増幅器62のドライブ量を設定している。ところが、このようなドライブ量では、終段増幅器63の利得が高くなる周波数F1のときには入力電力が過剰になり、終段増幅器63のFETの破損を引き起こしてしまう可能性がある。
【0020】
そこで、全周波数帯域に渡って最適なドライブ能力が維持できるように、ドライブ段増幅器62のドライブ量を最適化することが考えられる。また、全周波数帯域に渡って最適なドライブ能力が維持できるようにドライブ量を最適化すれば、電力増幅器全体の効率を向上させることができると考えられる。
【0021】
なお、特許文献1及び特許文献2には、ドライブ段増幅器62のドライブ量を最適化することについて記載されていない。また、特許文献3では、入力信号を連続的にサンプリングして、過剰入力を検出する検出回路と、過剰入力が検出された場合に、過剰入力に応じた増幅器の電圧の制御回路が必要になり、処理が複雑化する。
【0022】
上述課題を鑑み、本発明は、全周波数帯域に渡ってドライブ段増幅器のドライブ量を最適化して、終段増幅器のオーバードライブを防止できるようにすると共に、電力増幅器全体の効率を向上させることができる電力増幅器、電力増幅器の制御方法、電力増幅器の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述の課題を解決するための、本発明に係る電力増幅器は、ドライブ段増幅器と終段増幅器とを従属接続させ、入力信号を電力増幅して出力する電力増幅器であって、全周波数帯域に渡ってドライブ段増幅器のドライブ能力が最適となるようにドライブ段増幅器の電源を設定する電源制御手段と、ドライブ段増幅器と終段増幅器とからなる総合利得が所望の利得になるように制御する利得制御手段とを備えることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る電力増幅器の制御方法は、ドライブ段増幅器と終段増幅器とを従属接続させ、入力信号を電力増幅して出力する電力増幅器の制御方法であって、全周波数帯域に渡ってドライブ段増幅器のドライブ能力が最適となるようにドライブ段増幅器の電源を制御し、ドライブ段増幅器と終段増幅器とからなる総合利得が所望の利得になるように制御することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る電力増幅器の制御プログラムは、ドライブ段増幅器と終段増幅器とを従属接続させ、入力信号を電力増幅して出力する電力増幅器の制御プログラムであって、全周波数帯域に渡ってドライブ段増幅器のドライブ能力が最適となるようにドライブ段増幅器の電源を制御するステップと、ドライブ段増幅器と終段増幅器とからなる総合利得が所望の利得になるように制御するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、全周波数帯域に渡って、オーバードライブによる終段増幅器の破損を回避でき、また、電力増幅器全体の効率を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態における電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器の動作説明に用いるグラフである。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器の動作説明に用いるグラフである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器を構成するドライブ段増幅器の入出力特性を示したグラフである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器を構成するドライブ段増幅器の周波数特性を示したグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器を構成する終段増幅器の入出力特性を示したグラフである。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器を構成する終段増幅器の周波数特性を示したグラフである。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器の総合入出力特性を示したグラフである。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器の総合周波数特性を示したグラフである。
【図11】デジタル放送用テレビ送信機で使用される関連する高出力の電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【図12】関連する電力増幅器を構成するドライブ段増幅器の入出力特性を示したグラフである。
【図13】関連する電力増幅器を構成する終段増幅器の入出力特性を示したグラフである。
【図14】関連する電力増幅器を構成する終段増幅器の周波数特性を示したグラフである。
【図15】関連する電力増幅器の総合入出力特性を示したグラフである。
【図16】関連する電力増幅器の総合周波数特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1の実施形態における電力増幅器1の構成を示すブロック図である。この発明の第1の実施形態は、例えば、デジタル放送用テレビ送信機で使用される高出力電力増幅器として用いられる。
【0029】
図1において、入力端子10は、可変アッテネータ11を介して、ドライブ段増幅器12の入力端に接続される。ドライブ段増幅器12はFETから構成される。ドライブ段増幅器12の出力端は、終段増幅器13の入力端に接続される。終段増幅器13は、複数の電力増幅用FETを並列に接続して構成される。終段増幅器13の出力端は、出力端子14に接続される。
【0030】
可変アッテネータ11は、可変アッテネータ制御回路33からの制御信号に基づいて、入力端子10からの信号の利得を制御する。ドライブ段増幅器12は、終段増幅器13を十分に励振できるように、送信信号を増幅する。終段増幅器13は、送信信号を電力増幅して、出力端子14から出力する。
【0031】
ドライブ段増幅器12と終段増幅器13との間の経路には方向性結合器20が設けられる。方向性結合器20により、ドライブ段増幅器12の出力信号の一部が取得される。方向性結合器20の出力信号は、レベル検出器21及びバックオフ検出器22に供給される。
【0032】
レベル検出器21は、ドライブ段増幅器12の出力信号レベルを検出する。レベル検出器21で検出されたドライブ段増幅器12の出力信号レベルは、利得検出器23に供給される。バックオフ検出器22は、ドライブ段増幅器12のバックオフ量を検出する。バックオフ検出器22で検出されたドライブ段増幅器12のバックオフ量は、制御回路35に供給される。
【0033】
利得検出器23は、レベル検出器21からのドライブ段増幅器12の出力信号レベルと、レベル検出器25からの終段増幅器13の出力信号レベルに基づいて、終段増幅器13の利得を算出する。利得検出器23で算出された終段増幅器13の利得は、制御回路35に供給される。
【0034】
終段増幅器13と出力端子14との間の経路には方向性結合器24が設けられる。方向性結合器24は、終段増幅器13の出力信号の一部を取得する。方向性結合器24の出力信号は、レベル検出器25及びバックオフ検出器26に供給される。
【0035】
レベル検出器25は、終段増幅器13の出力信号レベルを検出する。レベル検出器25で検出された終段増幅器13の出力信号レベルは、利得検出器23に供給されると共に、利得検出器29に供給される。バックオフ検出器26は、終段増幅器13のバックオフ量を検出する。バックオフ検出器22で検出された終段増幅器13のバックオフ量は、制御回路35に供給される。
【0036】
可変アッテネータ11とドライブ段増幅器12の間には方向性結合器27が設けられる。方向性結合器27は、ドライブ段増幅器12の入力信号の一部を取得する。方向性結合器27の出力信号は、レベル検出器28に供給される。
【0037】
レベル検出器28は、ドライブ段増幅器12の入力信号レベルを検出する。レベル検出器28で検出されたドライブ段増幅器12の入力信号レベルは、利得検出器29に供給される。
【0038】
利得検出器29は、レベル検出器25からの終段増幅器13の出力信号レベルと、レベル検出器28からのドライブ段増幅器12の入力信号レベルとに基づいて、ドライブ段増幅器12から終段増幅器13までの間の利得を算出する。利得検出器23で算出されたドライブ段増幅器12から終段増幅器13までの間の利得は、制御回路35に供給されると共に、可変アッテネータ制御回路33に供給される。
【0039】
可変アッテネータ制御回路33は、可変アッテネータ11に接続されており、電力増幅器の利得を調整する。
【0040】
ドレイン電圧制御回路30は、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を可変できる電源回路である。ドレイン電圧制御回路31は、終段増幅器13のドレイン電圧を可変できる電源回路である。
【0041】
本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器1では、入力端子10に送信信号が供給され、この送信信号が可変アッテネータ11、ドライブ段増幅器12及び終段増幅器13の従属接続に供給される。終段増幅器13により送信信号が電力増幅され、この電力増幅された送信信号が出力端子14から出力される。
【0042】
また、本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器1では、バックオフ検出器22の検出出力から、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が検出され、このバックオフ量が所定値となるように、ドレイン電圧制御回路30により、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧が設定される。そして、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧制御によるドライブ段増幅器12の利得可変分を、可変アッテネータ11で補償するようにしている。これにより、全周波数帯域に渡って、必要最低減のバックオフ量を確保することができ、また、利得、効率も、周波数特性を殆ど持たなくなる。これにより、どの周波数帯域においてもドライブ段増幅器12のドライブ能力が最適化され、オーバードライブによる終段増幅器13の破損を回避できる。
【0043】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器1の動作を示すフローチャートである。
【0044】
図2において、制御回路35は、ドレイン電圧制御回路30及び31を制御して、予め取得したドライブ段増幅器12及び終段増幅器13の特性データを基に、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧Vdd_driveを及び終段増幅器13のドレイン電圧Vdd_finalを適当な値に設定し、入力端子10に信号を入力する(ステップS101)。
【0045】
次に、制御回路35は、バックオフ検出器26の検出出力により、終段増幅器13のバックオフ量を検出し(ステップS102)、終段増幅器13のバックオフ量が必要最低バックオフ量以上になっているか確認する(ステップS103)。
【0046】
例えば、ステップS101で、終段増幅器13のドレイン電圧Vdd_finalを(Vdd_final=V11)に設定したとする。このときの終段増幅器13の入出力特性が、図3において特性101で示すように変化したとする。この場合、制御回路35は、ステップS103で、このときのバックオフ量B11を検出し、このバックオフ量B11が必要最低限のバックオフ量BR1以上かどうかを確認する。ここで、必要最低限のバックオフ量とは、予想されるダイナミックレンジを満足できる最小のバックオフ量である。
【0047】
図2において、ステップS103で、終段増幅器13のバックオフ量が必要最低バックオフ量以上になっていれば(ステップS103 Yes)、次に、制御回路35は、利得検出器23の検出出力から、終段増幅器13の利得を算出する(ステップS104)。終段増幅器13のバックオフ量が必要最低バックオフ量以上になっていなければ(ステップS103 No)、設定値の見直しを行う(ステップS109)。
【0048】
次に、制御回路35は、バックオフ検出器22の検出出力から、ドライブ段増幅器12のバックオフ量を検出する(ステップS105)。そして、制御回路35は、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が所定のバックオフ量になっているかを判定する(ステップS106)。ここで、所定のバックオフ量は、ドライブ段増幅器12の必要最低限のバックオフ量である。
【0049】
例えば、ステップS101で、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧Vdd_driveを(Vdd_drive=V21)に設定したとする。このときのドライブ段FETの入出力特性が、図4において特性201に示すように変化したとする。この場合、制御回路35は、ステップS105で、このときのバックオフ量B21を検出し、このバックオフ量B21が必要最低限の所定のバックオフ量BR2になっているかを判定する。
【0050】
図2において、ステップS106で、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が必要最低限のバックオフ量になっていなければ(ステップS106 No)、制御回路35は、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を変更して(ステップS107)、ステップS102に処理をリターンする。
【0051】
ステップS102〜ステップS107の処理を繰り返すことで、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が必要最低限のバックオフ量となるように収束され、ドライブ段増幅器12のドライブ量が最適化される。
【0052】
つまり、図4において、ドレイン電圧Vdd_driveを(Vdd_drive=V21)に設定したときには、ドライブ段FET12の入出力特性は、図4において特性201に示すように変化し、ドライブ段FET12のバックオフ量B21は、所定のバックオフ量BR2により大きくなる。この場合には、制御回路35は、ステップS106で、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が所定のバックオフ量になっていないと判定し、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を変化させる。ここで、ドレイン電圧Vdd_driveを(Vdd_drive=V22)に変化させると、ドライブ段FET12の入出力特性が、図4において特性202に示すようになったとする。このときのバックオフ量B22は、所定のバックオフ量BR2と殆ど等しい。よって、ドレイン電圧Vdd_driveを(Vdd_drive=V22)に変化させると、制御回路35は、ステップS106で、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が所定のバックオフ量になっていると判定することになる。このようにして、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧Vdd_driveを変更していくことで、ドライブ段増幅器12のバックオフ量を所定のバックオフ量BR2にすることができる。
【0053】
図2において、ステップS106で、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が所定のバックオフ量になると判定されたら、制御回路35は、利得検出器29の検出出力から、ドライブ段増幅器12から終段増幅器13までの間の利得を検出する。このときのドライブ段増幅器12から終段増幅器13までの間の利得は、図3で示される終段増幅器13の利得(=P12−P11)及び図4で示されるドライブ段増幅器12の利得(=P22−P21)を加算した利得(P22−P11)となる。なお、ここで、利得はデシベル表記で計算するものとする。
【0054】
そして、制御回路35は、電力増幅器1の総合利得が所望の利得となるように、可変アッテネータ制御回路33にて可変アッテネータ11の減衰量を制御し(ステップS108)、処理を完了する。ステップS108で、可変アッテネータ11の減衰量を可変することで、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を制御したことによるドライブ段増幅器12の利得変化分は補正されることになる。
【0055】
このように、本発明の第1の実施形態では、ドライブ段増幅器12のバックオフが所定のバックオフ量となるように、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧が制御される。バックオフ量は、最低限、予想されるダイナミックレンジを満足できる量だけ必要であるが、それ以上のバックオフ量は不要であり、バックオフ量が大きくなれば、効率は低下することになる。また、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が大きいと、終段増幅器13に対してドライブ能力が過剰となり、終段増幅器13を破損させる危険性がある。本発明の第1の実施形態では、ドライブ段増幅器12のバックオフが所定のバックオフ量となるようにドライブ段増幅器のドレイン電圧を制御することで、ドライブ段増幅器12のドライブ量が最適化され、終段増幅器13の破損を防止でき、また、効率の向上が図れる。
【0056】
図5及び図6は、本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器1を構成するドライブ段増幅器12の特性を示したグラフであり、図5はドライブ段増幅器12の入出力特性を示し、図6はドライブ段増幅器12の周波数特性を示している。図5において、特性301は周波数F1のときの入出力特性を示し、特性302は周波数F2のときの入出力特性である。本発明の第1の実施形態では、ドライブ段増幅器12のバックオフが所定量となるように、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧が制御される。したがって、周波数F1のときのバックオフ量301と、周波数F2のときのバックオフ量B302は、必要最小限のバックオフ量で等しくなる。そして、図5に示すように、ドライブ段増幅器12の入出力特性は、周波数F1の場合も周波数F2の場合も、略々同様の特性が得られる。
【0057】
図6において、特性401はドライブ段増幅器12の各周波数における利得特性を示し、特性402はドライブ段増幅器12の各周波数におけるバックオフ特性を示し、特性403はドライブ段増幅器12の各周波数における効率特性を示す。本発明の第1の実施形態では、ドライブ段増幅器12のバックオフが必要最低限のバックオフ量となるように、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を制御して、ドライブ量を最適化している。このことから、バックオフ特性402は、どの周波数でも略々一定である。また、利得特性401及び効率特性403についても、どの周波数でも略々一定に近づけることができる。なお、特性404、405、406は、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を制御化してドライブ量を最適化していなときの利得特性、バックオフ特性、及び効率特性を示す。
【0058】
図7及び図8は、本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器1を構成する終段増幅器13の特性を示したグラフであり、図7は終段増幅器13の入出力特性を示し、図8は終段増幅器13の周波数特性を示している。図7において、特性501は周波数F1のときの終段増幅器13の入出力特性を示し、特性502は周波数F2のときの終段増幅器13の入出力特性である。B51は周波数F1のときの終段増幅器13のバックオフ量であり、B52は周波数F2のときの終段増幅器13のバックオフ量B52である。
【0059】
また、図8において、特性601は各周波数における利得特性を示し、特性602は各周波数における終段増幅器13のバックオフ特性を示し、特性603は各周波数における終段増幅器13の効率特性を示す。このように、終段増幅器13は、周波数に応じて、利得偏差が生じている。
【0060】
図9及び図10は、本発明の第1の実施形態に係る電力増幅器1の総合特性を示したグラフであり、図9は総合入出力特性を示し、図10は総合周波数特性を示している。図9において、特性701は周波数F1のときの入出力特性を示し、特性702は周波数F2のときの入出力特性である。本発明の第1の実施形態では、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を制御したことから、周波数F1のときのバックオフ量B61と、周波数F2のときのバックオフ量B62との差が小さくなる。
【0061】
図10において、特性801は各周波数における総合利得特性を示し、特性802は各周波数における総合バックオフ特性を示し、特性803は各周波数における総合効率特性を示す。本発明の第1の実施形態では、総合利得が一定となるように、可変アッテネータ11を制御しており、これにより、利得特性801はどの周波数でも一定である。また、本発明の第1の実施形態では、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を制御してドライブ量を最適化したことから、バックオフ特性802は、どの周波数でも、必要最低限のバックオフ量で略々一定である。また、バックオフ量を必要最低限で略々一定としたことから、効率特性803についても、効率の改善が図れ、また、どの周波数でも効率が略々一定になる。なお、特性805、806、807は、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧を最適化しないときの利得特性、バックオフ特性、及び効率特性を示す。
【0062】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態では、バックオフ検出器22の検出出力から、ドライブ段増幅器12のバックオフ量が検出され、このバックオフ量が所定値となるように、ドライブ段増幅器12のドレイン電圧が制御される。ドライブ段増幅器12のバックオフ量が必要最低限で一定となっていれば、ドライブ段増幅器12は最適なドライブ能力で最適化されたことになり、オーバードライブによる終段増幅器13の破損を回避でき、また、効率を改善できる。
【0063】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1:電力増幅器
10:入力端子
11:可変アッテネータ
12:ドライブ段増幅器
13:終段増幅器
14:出力端子
20:方向性結合器
21:レベル検出器
22:バックオフ検出器
23:利得検出器
24:方向性結合器
25:レベル検出器
26:バックオフ検出器
27:方向性結合器
28:レベル検出器
29:利得検出器
30,31:ドレイン電圧制御回路
33:可変アッテネータ制御回路
35:制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブ段増幅器と終段増幅器とを従属接続させ、送信信号を電力増幅して出力する電力増幅器であって、
全周波数帯域に渡って前記ドライブ段増幅器のドライブ能力が最適となるように前記ドライブ段増幅器の電源を制御する電源制御手段と、
前記ドライブ段増幅器と終段増幅器とからなる総合利得が所望の利得になるように制御する利得制御手段と
を備えることを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
前記電源制御手段は、前記ドライブ段増幅器のバックオフを検出し、前記ドライブ段増幅器のバックオフが所定値となるように、前記ドライブ段増幅器の電源を制御することを特徴とする請求項1に記載の電力増幅器。
【請求項3】
前記バックオフの所定値は、ダイナミックレンジを確保するのに必要最低限となるバックオフ量であることを特徴とする請求項2に記載の電力増幅器。
【請求項4】
ドライブ段増幅器と終段増幅器とを従属接続させ、送信信号を電力増幅して出力する電力増幅器の制御方法であって、
全周波数帯域に渡って前記ドライブ段増幅器のドライブ能力が最適となるように前記ドライブ段増幅器の電源を制御し、
前記ドライブ段増幅器と終段増幅器とからなる総合利得が所望の利得になるように制御する
ことを特徴とする電力増幅器の制御方法。
【請求項5】
ドライブ段増幅器と終段増幅器とを従属接続させ、送信信号を電力増幅して出力する電力増幅器の制御プログラムであって、
全周波数帯域に渡って前記ドライブ段増幅器のドライブ能力が最適となるように前記ドライブ段増幅器の電源を制御するステップと、
前記ドライブ段増幅器と終段増幅器とからなる総合利得が所望の利得になるように制御するステップと
を含むことを特徴とするコンピュータにより実行可能な電力増幅器の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−186568(P2012−186568A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46995(P2011−46995)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】