説明

電力増幅装置、電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法

【課題】入力バイアス電圧の調整の時間的効率を大幅に向上することができる電力増幅装置および電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法を提供すること。
【解決手段】バイアス電圧供給部は、GaN−FETのゲートにバイアス電圧を与える。演算制御部は、異なる時点の負荷電流の差を算出する。参照テーブルは、GaN−FETに対応して定められている、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときからドレイン電流が変化していく当初のドレイン電流変化率と、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときのドレイン電流を時間経過後に保つため必要なゲートソース間電圧の変更量との対応関係を記述している。参照制御部は、負荷電流の差を参照テーブルのドレイン電流変化率に当てはめて、ゲートソース間電圧の変更量を取り出す。バイアス電圧変更制御部は、変更量に基づいて、ゲートバイアス電圧を変更するように、バイアス電圧供給部を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えばUHF帯の信号を電波放射のため電力増幅する電力増幅装置、およびそのような電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばUHF帯の信号を電波放射するため電力増幅する電力増幅器は、高周波対応のほか、基本的に高効率(低損失)が好ましい。このような要求から、電力増幅器の増幅素子として、化合物半導体GaNを用いたFET素子(GaN−FET)の採用を考えることができる。GaN−FETによる増幅回路の基本は、他のFET素子を用いた場合と同様に、例えば、ゲートに入力バイアス電圧が加えられ、ドレインと電源との間に負荷素子(例えばインダクタ)が接続された回路である(AB級増幅回路)。この回路のゲートに入力高周波信号を重畳し、ドレインに電力増幅された信号が得られる。
【0003】
GaN−FETには、共通の課題として電流コラプス現象の発生が知られている。これは、低電圧動作でのオン抵抗値と比べて、高電圧動作でのオン抵抗値が高くなってしまう現象が典型であるが、さらには、ゲートソース間電圧対ドレイン電流の特性が一定に落ち着くまで、例えば、数秒から数分のオーダーの時間を要する現象としても一般に知られている。したがって、GaN−FETの増幅回路の入力バイアス電圧であるゲートソース間電圧を製造段階で調整する作業は、時間のかかる非効率なものとならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−114793号公報
【特許文献2】特開2003−124758号公報
【特許文献3】特開2003−347867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、入力バイアス電圧の調整の時間的効率を大幅に向上することができる電力増幅装置および電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電力増幅装置は、GaN−FETと、バイアス電圧供給部と、負荷素子と、電流検出部と、演算制御部と、参照テーブルと、参照制御部と、バイアス電圧変更制御部とを持つ。
【0007】
GaN−FETは、ゲート、ソース、ドレインの各端子を有する。バイアス電圧供給部は、前記GaN−FETの前記ゲート端子に接続され、該ゲート端子に入力バイアス電圧を与える。負荷素子は、前記GaN−FETの前記ドレイン端子と電源電圧との間に接続されている。電流検出部は、与えられた一定の時点である第1の時点における前記負荷素子を流れる電流を第1の負荷電流として検出し、前記一定の時点よりあとの時点である第2の時点における前記負荷素子を流れる電流を第2の負荷電流として検出する。演算制御部は、前記第1の負荷電流と前記第2の負荷電流との差である負荷電流変化量を算出する。
【0008】
参照テーブルは、前記GaN−FETに対応して定められている、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときからドレイン電流が変化していく当初のドレイン電流変化率と、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときのドレイン電流を時間経過後に保つため必要なゲートソース間電圧の変更量との対応関係である特性を記述している。参照制御部は、前記負荷電流変化量を前記参照テーブルの前記ドレイン電流変化率に当てはめて、前記GaN−FETについてのゲートソース間電圧の変更量の情報を取り出す。バイアス電圧変更制御部は、前記変更量の情報に基づいて、前記バイアス電圧供給部が前記ゲート端子に与える前記入力バイアス電圧を変更するように、前記バイアス電圧供給部を制御する。
【0009】
また、実施形態の電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法は、GaN−FETと、バイアス電圧供給部と、負荷素子と、電流検出部とを有する電力増幅装置における入力バイアス電圧調整方法である。この電力増幅装置において、GaN−FETは、ゲート、ソース、ドレインの各端子を有する。バイアス電圧供給部は、前記GaN−FETの前記ゲート端子に接続され、該ゲート端子に入力バイアス電圧を与える。負荷素子は、前記GaN−FETの前記ドレイン端子と電源電圧との間に接続されている。電流検出部は、与えられた一定の時点である第1の時点における前記負荷素子を流れる電流を第1の負荷電流として検出し、前記一定の時点よりあとの時点である第2の時点における前記負荷素子を流れる電流を第2の負荷電流として検出する。
【0010】
そして、この方法では、まず、前記第1の負荷電流と前記第2の負荷電流との差である負荷電流変化量を算出する。次に、前記GaN−FETに対応して定められている、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときからドレイン電流が変化していく当初のドレイン電流変化率と、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときのドレイン電流を時間経過後に保つため必要なゲートソース間電圧の変更量との対応関係である特性を記述した参照テーブルを用い、前記負荷電流変化量を前記参照テーブルの前記ドレイン電流変化率に当てはめて、前記GaN−FETについてのゲートソース間電圧の変更量の情報を取り出す。さらに、前記変更量の情報に基づいて、前記バイアス電圧供給部が前記ゲート端子に与える前記入力バイアス電圧を変更するように、前記バイアス電圧供給部を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態の電力増幅装置の構成を示す回路およびブロック図。
【図2】図1に示した電力増幅装置における、入力バイアス電圧調整時の経時動作を示す流れ図。
【図3】図1中に示した参照テーブルの構成例を示す説明図。
【図4】図1に示した電力増幅装置の動作原理を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以上を踏まえ、以下では実施形態の電力増幅装置を図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態の電力増幅装置の構成を示す回路およびブロック図である。同図に示すように、この電力増幅装置は、GaN−FET10、キャパシタC1、C2、抵抗R1、R2、インダクタL1、バッファ11、電流検出部12、演算制御部13、参照制御部14、参照テーブル15、バイアス電圧変更制御部16、温度センサ17を有する。
【0013】
GaN−FET10は、この電力増幅装置で信号を電力増幅している本体素子である。そのソース端子(以下、単にソースという)は接地され、ゲート端子(以下、単にゲートという)にはバッファ11、抵抗R1を介してバイアス電圧が供給され得るように抵抗R1の一端が接続され、ドレイン端子(以下、単にドレインという)には負荷となるインダクタ(チョークインダクタ)L1の一端が接続されている。インダクタL1の他端は、電流検出用の小さな抵抗(シャント抵抗)R2(例えば10mΩ)を介して電源電圧Vddに接続されている。
【0014】
ゲートには、さらに、直流をカットするキャパシタC1を介して信号が重畳され得るようにキャパシタC1の一端が接続されている。ドレインは、キャパシタC2の一端にも接続され、キャパシタC2で直流がカットされ、その他端に出力信号が得られる。
【0015】
この電力増幅装置は、例えば、UHF帯の信号を電波放射するため電力増幅する電力増幅機器のひとつのエレメントとして用いることができる。UHF帯の現実の周波数は、例えば、470MHz〜710MHzである。電源電圧Vddは例えば50Vであり、出力の平均電力は例えば20W(最大例えば200W)である。このようなエレメントを並列に多数(例えば500)接続し、総合で定格10kWクラスの電力増幅機器とすることができる。
【0016】
GaN−FET10には、共通の課題として電流コラプス現象の発生が知られている。これは、低電圧動作でのオン抵抗値と比べて、高電圧動作でのオン抵抗値が高くなってしまう現象が典型であるが、さらには、ゲートソース間電圧Vgs対ドレイン電流Idの特性が一定に落ち着くまで、例えば、数秒から数分のオーダーの時間を要する現象としても一般に知られている。実際に使用される状態は、この一定に落ち着いた後の状態になる。
【0017】
したがって、この電力増幅装置の製造時には電流コラプス現象の落ち着きを見越して、GaN−FET10の入力バイアス電圧であるゲートソース間電圧Vgsを所定に調整する必要がある。しかしながら、この作業は、電流コラプス現象の落ち着きをみるために時間のかかる非効率なものになってしまう。
【0018】
この作業を効率化するため、この電力増幅装置は、電流検出部12、演算制御部13、参照制御部14、参照テーブル15、バイアス電圧変更制御部16、温度センサ17を有している。なお、これらの構成による情報の処理はディジタル信号による処理(ディジタル処理)とすることができる。ディジタル処理を前提とすれば設計などが容易になる。以下では、ディジタル処理であるとして説明する。ディジタル処理とするため、処理の入口である電流検出部12には、アナログディジタル変換器が含まれ、処理の出口であるバイアス電圧変更制御部16にはディジタルアナログ変換器が含まれている。
【0019】
電流検出部12には、電流検出用の抵抗R2で生じている電圧が入力される。これにより、電流検出部12は、与えられた一定の時点である第1の時点におけるインダクタL1に流れる電流を第1の負荷電流(=ドレイン電流Idでもある)として検出し、さらに、この一定の時点よりあとの時点である第2の時点におけるインダクタL1に流れる電流を第2の負荷電流として検出する。これは、このあと、第1の負荷電流と第2の負荷電流とにより、負荷電流の時間的な変化率を検出するためである。負荷電流が変化するのは、上記のように、GaN−FET特有の電流コラプス現象が原因である。検出された第1、第2の負荷電流の情報は、演算制御部13に送られる。
【0020】
演算制御部13は、電流検出部12から送られた第1、第2の負荷電流の情報を用い、これらの差である負荷電流変化量ΔIdを算出する。これは、例えば、第1の負荷電流の値を例えばメモリ(不図示であるが、例えば演算制御部13内に設けることができる)に一時保持しておき、この一時保持された値と第2の負荷電流の値とを用いれば算出できる。算出された負荷電流変化量ΔIdは参照制御部14に送られる。
【0021】
参照テーブル15は、GaN−FET10に対応して定められている、ゲートソース間電圧Vgsを一定に保ち始めたときからドレイン電流Idが変化していく当初のドレイン電流変化率と、ゲートソース間電圧Vgsを一定に保ち始めたときのドレイン電流Idを時間経過後に保つため必要なゲートソース間電圧Vgsの変更量ΔVgsとの対応関係である特性を記述したテーブルである。より具体的には、のちに再度説明するが(図3)、参照テーブル15が持っている情報は、GaN−FET10の品種ごと、あるいは個別のGaN−FET10ごとにあらかじめ(例えばGaN−FET10の製造者により)用意されたものである。
【0022】
参照制御部14は、演算制御部13から得た負荷電流変化量ΔIdを用い、これを参照テーブル15のドレイン電流変化率に当てはめて、GaN−FET10についての、上記のゲートソース間電圧Vgsの変更量ΔVgsの情報を取り出す。取り出された情報は、バイアス電圧変更制御部16に送られる。
【0023】
バイアス電圧変更制御部16は、参照制御部14から得た変更量ΔVgsの情報に基づいて、バイアス電圧供給部であるバッファ11がGaN−FET10のゲートに与える入力バイアス電圧を変更するように、バッファ11を制御する。バイアス電圧変更制御部16は、このため、例えば、不揮発メモリを有しており、この不揮発メモリに、変更後のバイアス電圧に相当する数値を格納することで、これ以降は、この格納された数値によるバイアスがGaN−FET10のゲートに印加されることになる。
【0024】
温度センサ17は、GaN−FET10が位置する領域の周辺の温度を検出するセンサである。温度センサ17は、例えば集積回路で構成されており、この集積回路により検出された温度は、ディジタルの電気信号として参照制御部14に送られる。参照制御部14は、参照テーブル15が、上記の対応関係をさらに各温度での別の情報として有している場合(後述)には、この送られてきた温度情報に対応して、変更量ΔVgsの情報を取り出す。
【0025】
次に、図1に示した電力増幅装置における、入力バイアス電圧調整時の経時動作を図2に示す流れ図も参照して説明する。図2は、図1に示した電力増幅装置における、入力バイアス電圧調整時の経時動作を示す流れ図である。なお、説明の途中で、適宜、図1中に示した参照テーブル15の構成例を示す説明図である図3、および図1に示した電力増幅装置の動作原理を説明するためのグラフである図4を参照する。
【0026】
入力バイアスの調整作業は、まず、バイアス電圧の初期設定を行うことから始める(ステップ21)。具体的には、ドレイン電流Idを、あらかじめ決められた設計値である規定値Id0(例えば0.5A)とするように、バイアス電圧変更制御部16からバッファ11、抵抗R1を介してGaN−FET10のゲートにバイアス電圧(これをVgs0とする)を加える。この過程は、電流検出部12によるドレイン電流Idの検出と、この検出に基づいたバイアス電圧変更制御部16への指令により行うことができる。このとき、演算制御部13と参照制御部14とは動作をスルーする。
【0027】
ドレイン電流Idが規定値Id0になったときを第1の時点として定義する。図4を参照して、この時点の状態は、t=0のときの「@Vgs=Vgs0」のグラフ上に相当する。図4は、横軸が時間tであり縦軸がドレイン電流Idである。「@Vgs=Vgs0」のグラフは、図示するように、時間tとともに少しずつ上昇し最終的には、ΔId devだけ上昇した収束値に収束する。これは、すでに述べたGaN−FET10の電流コラプス現象によっている。
【0028】
ドレイン電流Idが規定値Id0にされ、第1の時点が定義できたら、次に、少し間をおいた第2の時点におけるドレイン電流Idを、電流検出部12により検出する(ステップ22)。第1の時点と第2の時点と間の時間は、例えば、10ms程度とすることができる。この時間は、電流コラプス現象でドレイン電流Idが落ち着く時間と比較すると、3桁程度も異なる非常に短い時間である。図4を参照して、この時点の状態は、第2時点のときの「@Vgs=Vgs0」のグラフ上に相当する。
【0029】
次に、第1時点におけるドレイン電流と第2時点におけるドレイン電流との差である負荷電流変化量ΔIdを演算制御部13により算出する(ステップ23)。負荷電流変化量ΔIdは、図4中に示すとおりの量である。また、温度センサ17によりGaN−FET10の周囲の温度Tを検出する(ステップ24)。
【0030】
続いて、温度Tにおける、ΔIdに相当の電流変化率が生じるときのゲートソース間電圧Vgsの、「ドレイン電流Id=規定値」を保つため必要な変更量ΔVgsを、参照テーブル15を用いて取得する(ステップ25)。参照テーブル15は、図3に示すような構成のテーブルである。
【0031】
この参照テーブル15は、まず、ドレイン電流Idの別ごとに用意されている。すなわち、例えば、Id=0.5A、0.4A、…、となっている。これらのテーブルのうち、規定値Id0と一致するIdのものを使用する。参照テーブル15をドレイン電流Idの別ごとに用意しているのは、ドレイン電流Idを典型的にどれだけ流す設計であるかにより、負荷電流変化量ΔId対変更量ΔVgsの特性は一般には一定ではなく、これに応ずるように設計値であるドレイン電流の値の変更に対応できるようにしたためである。ドレイン電流Idの設計が規定値Id0でしか使われない場合は、参照テーブル15は、そのId0のもののみ用意してあれば足りる。
【0032】
参照テーブル15の、各ドレイン電流Id別のテーブルのそれぞれは、次のような構成のものである。負荷電流変化量ΔIdに相当の電流変化率(一番単純には、負荷電流変化量ΔId自体)をひとつの要素として、ゲートソース間電圧Vgsの、「ドレイン電流Id=規定値」を保つため必要な変更量ΔVgsをそれぞれ記述している。また、この必要な変更量ΔVgsが一般には温度Tにより変わるので、このテーブルは、温度Tをもうひとつの要素とするテーブルになっている。
【0033】
参照テーブル15は、図3に示すように、ΔIdとして例えば10mA刻み、温度Tとして例えば10℃刻みのテーブルとすることができるが、変更量ΔVgsを取り出すときには、演算制御部13から与えられているΔId、および温度センサ17から与えられている温度Tに応じて、テーブルの情報を内挿し、より正確と考えられる変更量ΔVgsを得るようにしてもよい。
【0034】
参照テーブル15からゲートソース間電圧の必要な変更量ΔVgsを取り出したら、次に、このΔVgsに基づいて、バイアス電圧変更制御部16がバイアス電圧供給部であるバッファ11を制御するように、バイアス電圧変更制御部16の出力を変更する(ステップ26)。換言すると、バイアス電圧変更制御部16の出力を当初のVgs0からVgs0−ΔVgsに変更する。この変更された電圧をこれ以降は出力するように、バイアス電圧変更制御部16が有する不揮発メモリにはその情報が書き込まれる。
【0035】
以上の動作により不揮発メモリに情報が書き込まれた後は、電源投入後のドレイン電流Idの時間変化は、図4における「@Vgs=Vgs0−ΔVgs」のグラフに示すごとくになる。すなわち、電流コラプス現象を見越して、ドレイン電流Idが最終的に規定値Id0に落ち着くようなゲートソース間電圧がゲートに印加されていることになる。
【0036】
以上の説明からわかるように、実施形態の電力増幅装置によれば、GaN−FET10の入力バイアス電圧の調整の時間を、電流コラプス現象の収束時間である数秒ないし数分と比較して、格段に減少させることができる。端的に言うと、ごく短時間の負荷電流の変化量を捉えて、次に、これに対応する必要なVgsの変更量ΔVgsをテーブル15から取り出し、この変更量ΔVgsを加味するように入力バイアス電圧を変更する、という手順によっている。
【0037】
特に、参照テーブル15をドレイン電流の別ごとに用意することで、ドレイン電流の設計値を各様に変更する場合に対応できる。また、参照テーブル15が温度Tをひとつの要素としてテーブル化されていることで、バイアス電圧を設定する作業環境の変化にも対応してより正確なバイアス電圧調整が可能になる。電流コラプス現象の収束時間は、温度が低いほど延びる傾向があるため、相対的には、低温の作業環境下において、実施形態の電力増幅装置が有する効果はより高価値と言える。
【0038】
なお、電流検出部12、演算制御部13、参照制御部14、参照テーブル15、温度センサ17などの構成は、一度バイアス電圧調整を行ってしまえば、その後(=この電力増幅装置が実際に供用されているとき)に使用されることはないと考えられるが、例えば、この電力増幅装置をメンテナンスするような場合に活用することは考えられる。すなわち、例えば、GaN−FET10が特性劣化して交換する場合には、交換後のGaN−FETを含んで、電流検出部12、演算制御部13、参照制御部14、参照テーブル15、バイアス電圧変更制御部16、温度センサ17を、上記で説明したように動作させれば、交換後のGaN−FETについてバイアス調整が容易にできる。
【0039】
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10…GaN−FET、11…バッファ、12…電流検出部、13…演算制御部、14…参照制御部、15…参照テーブル、16…バイアス電圧変更制御部、17…温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート、ソース、ドレインの各端子を有するGaN−FETと、
前記GaN−FETの前記ゲート端子に接続された、該ゲート端子に入力バイアス電圧を与えるバイアス電圧供給部と、
前記GaN−FETの前記ドレイン端子と電源電圧との間に接続された負荷素子と、
与えられた一定の時点である第1の時点における前記負荷素子を流れる電流を第1の負荷電流として検出し、前記一定の時点よりあとの時点である第2の時点における前記負荷素子を流れる電流を第2の負荷電流として検出する電流検出部と、
前記第1の負荷電流と前記第2の負荷電流との差である負荷電流変化量を算出する演算制御部と、
前記GaN−FETに対応して定められている、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときからドレイン電流が変化していく当初のドレイン電流変化率と、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときのドレイン電流を時間経過後に保つため必要なゲートソース間電圧の変更量との対応関係である特性を記述した参照テーブルと、
前記負荷電流変化量を前記参照テーブルの前記ドレイン電流変化率に当てはめて、前記GaN−FETについてのゲートソース間電圧の変更量の情報を取り出す参照制御部と、
前記変更量の情報に基づいて、前記バイアス電圧供給部が前記ゲート端子に与える前記入力バイアス電圧を変更するように、前記バイアス電圧供給部を制御するバイアス電圧変更制御部と
を具備する電力増幅装置。
【請求項2】
前記GaN−FETが位置する領域の周辺の温度を検出する温度センサをさらに具備し、
前記参照テーブルが、前記対応関係として、温度の別ごとに前記特性の情報を有している参照テーブルであり、
前記参照制御部が、前記温度センサによって検出された温度に基づいて、前記参照テーブルを参照し、前記変更量の情報を取り出す
請求項1記載の電力増幅装置。
【請求項3】
前記参照テーブルが、前記対応関係として、ドレイン電流の別ごとに前記特性の情報を有している参照テーブルであり、
前記参照制御部が、前記第1の負荷電流の値に基づいて、前記参照テーブルを参照し、前記変更量の情報を取り出す
請求項1記載の電力増幅装置。
【請求項4】
ゲート、ソース、ドレインの各端子を有するGaN−FETと、前記GaN−FETの前記ゲート端子に接続された、該ゲート端子に入力バイアス電圧を与えるバイアス電圧供給部と、前記GaN−FETの前記ドレイン端子と電源電圧との間に接続された負荷素子と、与えられた一定の時点である第1の時点における前記負荷素子を流れる電流を第1の負荷電流として検出し、前記一定の時点よりあとの時点である第2の時点における前記負荷素子を流れる電流を第2の負荷電流として検出する電流検出部と、を具備する電力増幅装置における入力バイアス電圧調整方法であって、
前記第1の負荷電流と前記第2の負荷電流との差である負荷電流変化量を算出し、
前記GaN−FETに対応して定められている、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときからドレイン電流が変化していく当初のドレイン電流変化率と、ゲートソース間電圧を一定に保ち始めたときのドレイン電流を時間経過後に保つため必要なゲートソース間電圧の変更量との対応関係である特性を記述した参照テーブルを用い、前記負荷電流変化量を前記参照テーブルの前記ドレイン電流変化率に当てはめて、前記GaN−FETについてのゲートソース間電圧の変更量の情報を取り出し、
前記変更量の情報に基づいて、前記バイアス電圧供給部が前記ゲート端子に与える前記入力バイアス電圧を変更するように、前記バイアス電圧供給部を制御する
電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法。
【請求項5】
前記電力増幅装置が、前記GaN−FETが位置する領域の周辺の温度を検出する温度センサをさらに具備し、
前記参照テーブルが、前記対応関係として、温度の別ごとに前記特性の情報を有している参照テーブルであり、
記GaN−FETについてのゲートソース間電圧の変更量の情報を取り出すときに、前記温度センサによって検出された温度に基づいて、前記参照テーブルを参照し、前記変更量の情報を取り出す
請求項4記載の、電力増幅装置の入力バイアス電圧調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−227795(P2012−227795A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94672(P2011−94672)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】