説明

電力変換装置

【課題】モータに電力を供給する電力変換装置において、入力力率の改善を図る。
【解決手段】インバータ回路(4)でのスイッチングを制御する制御部(5)に、モータ(7)(例えばIPMモータ)の速度を制御する操作量を求める速度制御部(50)を設ける。また、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を制御する操作量を求める電力制御部(51)を設ける。また、モータ電流(id,iq)を制御する操作量を求める電流制御部(52)(例えばq軸電流制御部)を設ける。そして、速度制御部(50)、電力制御部(51)、及び電流制御部(52)を組み合わせて、モータ電流(id,iq)とインバータ回路(4)の出力電圧指令値(vd*,vq*)(例えばq軸電圧指令値)とから求めた出力電力(pinv)を、入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに電力を供給する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバータ回路とインバータ回路を有した電力変換装置には、直流リンク部に比較的小容量のコンデンサを設けて直流リンク電圧に脈動(リプル)を発生させつつ、前記直流リンク電圧に同期させて負荷の電流を脈動させることで、入力電流の導通幅を広げて入力力率の改善を実現しているものがある(例えば非特許文献1を参照)。この文献の例では、コンバータ回路への入力電流を正弦波にするために、前記コンデンサの電流(直流リンク電流)を考慮してインバータ回路の直流電流を制御している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】横山,大石,芳賀,柴田 “電解コンデンサレス単相-三相電力変換器を用いたIPMモータの高力率ディジタル制御法” 電気学会論文誌D(2009年5月),129,5,ページ490-497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記文献の例は、検出したインバータ電流を制御することで入力力率の改善を図っているので、実際の出力電力がどのようになっているかが解らず、力率の改善効果を十分に得られない場合がある。また、直流リンク電流がインバータ回路におけるスイッチングで振動するので、直流リンク電流の検出にはローパスフィルタ(LPF)が必要になり、LPFによる遅れが原因で入力力率が低下するという問題を有していた。また、直流リンク電流の検出には電流センサが必要になり、コスト増加につながる。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、モータに電力を供給する電力変換装置において、入力力率の改善を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
モータ(7)に電力を供給する電力変換装置であって、
入力交流を全波整流するコンバータ回路(2)と、
前記コンバータ回路(2)の出力に並列接続されたコンデンサ(3a)を有し、直流電圧(vdc)を出力する直流リンク部(3)と、
前記直流リンク部(3)の出力をスイッチングして交流に変換し、前記モータ(7)に供給するインバータ回路(4)と、
前記スイッチングを制御する制御部(5)とを備え、
前記制御部(5)は、
前記モータ(7)の速度を制御する操作量を求める速度制御部(50)と、
前記インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を制御する操作量を求める電力制御部(51)と、
モータ電流(id,iq)を制御する操作量を求める電流制御部(52)とを備え、
前記速度制御部(50)、前記電力制御部(51)、及び前記電流制御部(52)を組み合わせて、前記モータ電流(id,iq)と前記インバータ回路(4)の出力電圧指令値(vd*,vq*)とから求めた前記出力電力(pinv)を、前記入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期させることを特徴とする。
【0007】
この構成では、モータ電流(id,iq)とインバータ回路(4)の出力電圧指令値(vd*,vq*)とから求めたインバータ回路(4)の出力電力(pinv)を、制御部(5)によって、入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期させる。
【0008】
また、本発明では、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を求める際に、モータ電流(id,iq)と電圧指令値(vd*,vq*)を用いている。このモータ電流(id,iq)は、モータ(7)のインダクタンス成分によって、パルス成分の少ない波形になっている。また、電圧指令値(vd*,vq*)にもパルス成分がほとんど含まれない。それゆえ、制御部(5)では、LPFのような信号を遅延させる要素が不要になる。
【0009】
また、第2の発明は、
第1の発明の電力変換装置において、
前記制御部(5)は、前記モータ(7)をd-q軸ベクトル制御し、
前記速度制御部(50)は、速度を制御する前記操作量を前記入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期して脈動させ、前記インバータ回路(4)の出力電力指令値(pinv*)を生成し、
前記電力制御部(51)は、前記出力電力指令値(pinv*)と前記インバータ回路(4)の出力電力(pinv)の偏差が小さくなるように、q軸電流指令値(iq*)を生成し、
前記電流制御部(52)は、前記q軸電流指令値(iq*)とq軸電流(iq)の偏差が小さくなるように、q軸電圧指令値(vq*)を生成することを特徴とする。
【0010】
この構成では、速度制御部(50)がインバータ回路(4)の出力電力指令値(pinv*)を生成する。この出力電力指令値(pinv*)は、前記入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期して脈動する。一方、電力制御部(51)は、q軸電流指令値(iq*)を生成し、電流制御部(52)は、q軸電圧指令値(vq*)を生成する。すなわち、この構成では、出力電力制御系を速度制御系と電流制御系の間に設けて前記発明の構成を実現している。
【0011】
また、第3の発明は、
第2の発明の電力変換装置において、
前記電力制御部(51)は、P制御器又はPI制御器であることを特徴とする。
【0012】
この構成では、P制御器又はPI制御器によって、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)の操作量が求められる。
【0013】
また、第4の発明は、
第2又は第3の発明の電力変換装置において、
前記電力制御部(51)の前段及び後段の少なくとも一方には、特定周波数の入力に対してゲインが高くなる制御を行う副制御器(57)が設けられていることを特徴とする。
【0014】
例えば、電力制御部(51)や電流制御部(52)への入力信号が、ある周波数で脈動すると、その制御部で脈動に対して十分に追従できない場合がある。これに対し、この構成では、副制御器(57)が特定周波数の成分のゲインを大きくするので、入力が当該定周波数で脈動している場合に、該副制御器(57)よりも後段の制御部における応答の遅れを補償できる。
【0015】
また、第5の発明は、
第2から第4の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記電力制御部(51)の前段及び後段の少なくとも一方には、2つ以上の特定周波数の入力に対してゲインが高くなる制御を行う2つ以上の副制御器(57)が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この構成では、2つ以上の副制御器(57)を有しているので、前記脈動に複数の周波数成分が含まれる場合に、前記の応答の遅れを補償できる。
【0017】
また、第6の発明は、
第4又は第5の発明の電力変換装置において、
前記副制御器(57)は、繰り返し制御器であることを特徴とする。
【0018】
この構成では、繰り返し制御器(57)によって、前記の応答の遅れの補償が実現される。
【0019】
また、第7の発明は、
第4から第6の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記特定周波数は、前記入力交流の周波数(ωs)の整数倍であることを特徴とする。
【0020】
例えばコンデンサ(3a)の容量が小さいと、インバータ回路(4)の出力が、電源周波数(ωs)の整数倍の周波数で脈動する。そのため、前記特定周波数を、前記入力交流の電源周波数(ωs)の整数倍としておけば、その脈動による前記の応答の遅れを補償できる。
【0021】
また、第8の発明は、
第2から第7の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記コンデンサ(3a)における電力(pc)を差し引いた値に前記出力電力指令値(pinv*)を補償するコンデンサ電力補償部(56)を備えていることを特徴とする。
【0022】
この構成では、コンデンサ(3a)における電力(pc)を差し引いた値に出力電力指令値(pinv*)を補償するので、出力電力(pinv)をより正確に制御できる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、第1、2の発明によれば、出力電力(pinv)を入力電圧(vin)に同期させるので、入力力率の改善をそれぞれ実現できる。また、制御部(5)には、LPFのような信号を遅延させる要素がないので、この点からも入力力率の改善が可能になる。
【0024】
また、第3の発明によれば、操作量を容易に求めることが可能になる。
【0025】
また、第4の発明によれば、入力が当該特定周波数で脈動している場合に、該副制御器(57)よりも後段の制御部における応答の遅れを補償できるので、より効果的に入力力率を改善できる。
【0026】
また、第5の発明によれば、前記脈動に複数の周波数成分が含まれる場合にも、第4の発明の効果が実現される。
【0027】
また、第6の発明によれば、繰り返し制御器(57)によって、第4の発明の効果が実現される。
【0028】
また、第7の発明によれば、インバータ回路(4)の出力が電源周波数(ωs)の整数倍の周波数で脈動する場合に、第4の発明の効果が実現される。
【0029】
また、第8の発明によれば、出力電力(pinv)をより正確に制御できるので、より効果的に入力力率を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、制御部の構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、本実施形態の電力変換装置及び従来の電力変換装置の入力力率の測定結果である。
【図4】図4は、繰り返し制御器を電力制御部の前段に設けた場合のブロック図である。
【図5】図5は、繰り返し制御器を電力制御部の後段に設けた場合のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0032】
〈実施形態の概要〉
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。同図に示すように電力変換装置(1)は、コンバータ回路(2)、直流リンク部(3)、インバータ回路(4)、及び制御部(5)を備え、単相の交流電源(6)から供給された交流の電力を所定の周波数の電力に変換して、モータ(7)に供給するようになっている。なお、この例ではモータ(7)は、空気調和機の冷媒回路に設けられた圧縮機を駆動するモータである。また、本実施形態のモータ(7)は、IPM(Interior Permanent Magnet)モータである。このIPMモータ(7)は、d−q軸ベクトル制御をもとにして得られた電圧指令によって駆動される。
【0033】
〈各部の構成〉
〈コンバータ回路(2)〉
コンバータ回路(2)は、リアクトル(L)を介して交流電源(6)に接続され、交流電源(6)からの交流(以下、入力交流)を直流に整流する。この例では、コンバータ回路(2)は、複数(本実施形態では4つ)のダイオード(D1〜D4)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。これらのダイオード(D1〜D4)によって、交流電源(6)の交流電圧を全波整流して、直流電圧に変換する。
【0034】
〈直流リンク部(3)〉
直流リンク部(3)は、コンデンサ(3a)を備えている。コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)の出力に並列接続され、該コンデンサ(3a)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧(vdc))がインバータ回路(4)の入力ノードに接続されている。このコンデンサ(3a)は、インバータ回路(4)のスイッチング素子(後述)がスイッチング動作する際に、スイッチング周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。すなわち、コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)によって整流された電圧(電源電圧に応じて変動する電圧)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。この例では、一般的なコンバータ回路の出力の平滑化に用いる電解コンデンサの概ね1/100の容量を有している。したがって、この直流リンク部(3)が出力する直流リンク電圧(vdc)は脈動している。コンデンサ(3a)には、一例としてフィルムコンデンサを採用できる。
【0035】
〈インバータ回路(4)〉
インバータ回路(4)は、入力ノードが直流リンク部(3)のコンデンサ(3a)に並列に接続され、直流リンク部(3)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、IPMモータ(7)に供給するようになっている。本実施形態のインバータ回路(4)は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。このインバータ回路(4)は、三相交流をIPMモータ(7)に出力するので、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおける上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、それぞれIPMモータ(7)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が逆並列接続されている。そして、インバータ回路(4)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(3)から入力された直流リンク電圧(vdc)をスイッチングして三相交流電圧に変換し、IPMモータ(7)へ供給する。このオンオフ動作の制御は制御部(5)が行う。
【0036】
〈制御部(5)〉
制御部(5)は、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)が、入力交流の周波数(ωs)(以下、電源周波数ともいう)の2倍に同期して脈動するように、インバータ回路(4)におけるスイッチング(オンオフ動作)を制御する。より詳しくは、制御部(5)は、モータ電流(id,iq)(後述)とインバータ回路(4)の出力電圧指令値(vd*,vq*)とから求めたインバータ回路(4)の出力電力(pinv)を、入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期させる。
【0037】
図2は、制御部(5)の構成例を示すブロック図である。この例では、制御部(5)は、速度制御部(50)、電力制御部(51)、q軸電流制御部(52)、座標変換部(53)、d軸電流制御部(54)、及びスイッチング制御部(55)を備えている。
【0038】
−速度制御部(50)−
速度制御部(50)は、IPMモータ(7)の速度を制御する操作量を求めるようになっている。具体的に、速度制御部(50)は、PI演算部(50a)、減算器(50b)、コンデンサ電力補償部(56)を備えている。この速度制御部(50)では、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)の指令値(出力電力指令値(pinv*))を、PI演算部(50a)の出力に応じて生成する。この出力電力指令値(pinv*)は、前記入力交流の周波数(ωs)の2倍に同期して脈動する。
【0039】
具体的にこの実施形態では、速度制御部(50)は、減算器(50b)が、IPMモータ(7)の機械角の回転角周波数(ωm)と、回転角周波数の指令値(ωm*)との偏差を求める。また、PI演算部(50a)は、減算器(50b)が求めた前記偏差に対して、比例・積分演算(以下、PI演算)を行って、その結果を出力する。そして、速度制御部(50)は、PI演算部(50a)の出力と、前記入力交流を二乗した波形(sin2(ωst))とを乗じ、入力電力指令値(pin*)として出力している。これにより、入力電力指令値(pin*)は、前記入力交流の周波数(ωs)の2倍に同期して脈動することになる。
【0040】
この入力電力指令値(pin*)を出力電力指令値(pinv*)として使用することも考えられる。しかしながら、該入力電力指令値(pin*)は、直流リンク部(3)のコンデンサ(3a)に流れる電流を考慮せずに生成したものなので、出力電力指令値(pinv*)には、入力電力指令値(pin*)をコンデンサの電力(pc)で補償した値を用いるのが好ましい。本実施形態では、この補償をコンデンサ電力補償部(56)で行う。この例では、コンデンサ電力補償部(56)は、コンデンサ電力算出部(56a)と減算器(56b)とを備え、コンデンサ(3a)における電力(pc)を差し引いた値に出力電力指令値(pinv*)を補償するようになっている。
【0041】
この補償は、入力電力(pin)、コンデンサ(3a)の電力(pc)、及びインバータ回路(4)の出力電力(pinv)に次の式(1)の関係があることを利用して行っている。
【0042】
【数1】

【0043】
コンデンサ電力補償部(56)では、コンデンサ電力算出部(56a)が、コンデンサ(3a)における電力(pc)を計算する。具体的には、コンデンサ電力算出部(56a)は、次の式(2)をもとに、電力(pc)の算出を行っている。
【0044】
【数2】

【0045】
ただし、icは、コンデンサ(3a)の電流、Cdcはコンデンサ(3a)の容量である。
【0046】
そして、コンデンサ電力補償部(56)では、入力電力指令値(pin*)からコンデンサ(3a)の電力(pc)を、減算器(56b)によって差し引いて、出力電力指令値(pinv*)を生成している。これにより、出力電力(pinv)をより正確に制御できる。
【0047】
なお、このようにコンデンサ(3a)に流れる電流を考慮することで、より適切な出力電力指令値(pinv*)を求めることができるが、電力変換装置の仕様等によっては、コンデンサ(3a)の電力(pc)を考慮しなくても、所望の入力力率を得られる場合もある。この場合には、コンデンサ電力補償部(56)を省略することも可能である。
【0048】
−電力制御部(51)−
電力制御部(51)は、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を制御する操作量を求める。この例では、電力制御部(51)は、出力電力指令値(pinv*)とインバータ回路(4)の出力電力(pinv)との偏差が小さくなるように、q軸電流の指令値(q軸電流指令値(iq*))を生成する。詳しくは、電力制御部(51)は、出力電力指令値(pinv*)とインバータ回路(4)の出力電力(pinv)との偏差に対してPI演算を行って求めた値をq軸電流指令値(iq*)として出力する。なお、q軸電流指令値(iq*)の算出には、比例演算(P演算)の採用も可能である。また、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)は、IPMモータ(7)の入力電力(pin)と等しいので、検出したモータ電流(id,iq)と電圧指令値(vd*,vq*)(後述のd軸電圧指令値 、q軸電圧指令値)を用いて、次の式(3)から算出している。
【0049】
【数3】

【0050】
−座標変換部(53)−
座標変換部(53)は、IPMモータ(7)の回転子(図示は省略)の回転角(電気角(θe))と、相電流(iu,iw)とから、d軸電流(id)とq軸電流(iq)を求めるようになっている(以下、d軸電流やq軸電流をモータ電流とも呼ぶ)。ここで、電流(iu)はu相の電流、電流(iw)はw相の電流であり、これらの相電流(iu,iw)は、例えば、直流リンク部(3)に設けたシャント抵抗(図示は省略)の電圧から求めればよい。
【0051】
−q軸電流制御部(52)−
q軸電流制御部(52)は、q軸電流(iq)を制御する操作量を求める。このq軸電流制御部(52)は、本発明の電流制御部の一例である。この例では、q軸電流制御部(52)は、q軸電流指令値(iq*)とq軸電流(iq)との偏差が小さくなるように、q軸電圧の指令値(q軸電圧指令値(vq*))を生成する。より詳しくは、q軸電流制御部(52)は、q軸電流指令値(iq*)とq軸電流(iq)との偏差に対して、PI演算を行ってq軸電圧指令値(vq*)を生成している。なお、q軸電圧指令値(vq*)の算出には、P演算の採用も可能である。
【0052】
−d軸電流制御部(54)−
d軸電流制御部(54)は、d軸電流の指令値(d軸電流指令値(id*))と、d軸電流(id)との偏差が小さくなるように、d軸電圧指令値(vd*)を生成する。具体的には、d軸電流指令値(id*)とd軸電流(id)との偏差に対して、PI演算を行ってd軸電圧指令値(vd*)を出力している。本実施形態では、d軸電流指令値(id*)には、回転角周波数(ωm)に応じた一定値を与えている。なお、d軸電圧指令値(vd*)の算出には、P演算の採用も可能である。
【0053】
−スイッチング制御部(55)−
スイッチング制御部(55)は、d軸電圧指令値(vd*)、q軸電圧指令値(vq*)、直流リンク電圧(vdc)、及び電気角(θe)が入力され、これらの値に基づいて、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作を制御するゲート信号(T1,T2,…,T6)を生成する。具体的にスイッチング制御部(55)は、インバータ回路(4)に対して、キャリア信号(例えば三角波)に同期してPWM(Pulse Width Modulation)制御を行う。
【0054】
《電力変換装置(1)の動作》
本実施形態では、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)が、入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期して脈動するように、制御部(5)がインバータ回路(4)におけるスイッチングを制御する。具体的に、制御部(5)では、まず、速度制御部(50)が、前記入力交流の周波数(ωs)に応じて脈動する出力電力指令値(pinv*)を生成する。次に、電力制御部(51)が、出力電力指令値(pinv*)とインバータ回路(4)の出力電力(pinv)との偏差に対してPI演算を行って求めた値をq軸電流指令値(iq*)として出力する。
【0055】
次に、q軸電流制御部(52)は、そのq軸電流指令値(iq*)とq軸電流(iq)の偏差に対してPI演算を行って、q軸電圧指令値(vq*)を生成する。そして、スイッチング制御部(55)は、このq軸電圧指令値(vq*)と、d軸電流制御部(54)が生成したd軸電圧指令値(vd*)とを用いて、6つのゲート信号(T1,T2,…,T6)を生成する。これらのゲート信号(T1,T2,…,T6)によって、インバータ回路(4)においてスイッチングが行われIPMモータ(7)に電力が供給される。
【0056】
前記の動作により、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)は、入力電圧(vin)に同期し、Vm・Im・sin2(ωs・t)となる。ただし、Vmは入力電圧(vin)の振幅、Imは入力電流の振幅である。
【0057】
〈本実施形態における効果〉
このように、本実施形態では、出力電力(pinv)を入力電圧(vin)に同期させるので、入力力率の改善を実現できる。
【0058】
また、コンデンサ電力補償部(56)を設けてあるので、出力電力(pinv)をより正確に制御できる。この点からも、より効果的に入力力率を改善できる。
【0059】
また、直流リンク電流を考慮してインバータ回路を制御する装置(以下、説明の便宜上、従来の電力変換装置と呼ぶ)で必要であったLPFが、本実施形態では不要になる。これは、電力変換装置(1)では、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を求める際に、モータ電流(id,iq)と電圧指令値(vd*,vq*)を用いていることに起因する。このモータ電流(id,iq)は、IPMモータ(7)のインダクタンス成分によって、パルス成分の少ない波形になっている。また、電圧指令値(vd*,vq*)にもパルス成分がほとんど含まれない。それゆえ、本実施形態の制御部(5)では、LPFのような信号を遅延させる要素が不要になり、この点からも入力力率の改善が可能になるのである。
【0060】
本願発明者は、本実施形態における入力力率改善効果を検証する実験を行った。実験では、従来の電力変換装置の入力力率と、本実施形態の電力変換装置(1)の入力力率とを比較した。比較の条件は、IPMモータ(7)の速度を2000(rpm)と4000(rpm)の2種類、トルクを0.5(Nm)とした。図3は、本実施形態の電力変換装置(1)及び従来の電力変換装置の入力力率の測定結果である。同図に示すように、本実施形態の電力変換装置(1)は、従来の電力変換装置よりも入力力率が改善している。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、モータに電力を供給する電力変換装置において、入力力率の改善を図ることが可能になる。これにより、モータを有した装置(例えば空気調和機など)の省エネルギー化が可能になる。しかも、本実施形態では、電解コンデンサよりも小容量のコンデンサ(上記の例ではフィルムコンデンサ)を採用しているので、装置の小型化(省資源化)も可能になる。また、従来の電力変換装置で必要であった電流センサも不要であり、低コスト化も可能になる。
【0062】
《実施形態の変形例》
電力制御部(51)の前段及び後段の少なくとも一方には、繰り返し制御器(57)を設けてもよい。この繰り返し制御器(57)は、特定周波数の入力に対してゲインが高くなる制御を行う制御器であり、この変形例での特定周波数とは、入力交流の周波数(ωs)の整数倍の周波数である。この電力制御部(51)は、本発明の副制御器の一例である。
【0063】
図4は、繰り返し制御器(57)を電力制御部(51)の前段に設けた場合のブロック図である。また、図5は、繰り返し制御器(57)を電力制御部(51)の後段に設けた場合のブロック図である。図4等では、繰り返し制御器(57)のブロックに示したZ-MはM段の遅延を示し、電力脈動の周期だけ入力を遅延させている。また、B(z)はバンドパスフィルタである。このバンドパスフィルタは、電力脈動の周波数成分だけを考慮するように中心周波数を定めてある。この例では、前記特定周波数は入力交流の周波数(ωs)(例えば50Hz)の2倍であり、バンドパスフィルタの中心周波数を100Hzとしている。
【0064】
電力変換装置(1)では、インバータ回路(4)の出力が電源周波数(ωs)の2倍の周波数で脈動する。そのため、一般的に使用されるPI制御器では脈動に対して追従を十分に補償することができない。これに対し、この変形例では、繰り返し制御器(57)を設け、電力脈動の周波数成分のゲインを高くし、応答の遅れを補償している。これにより、本変形例では、インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を、入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に、より確実に同期させることが可能になる。すなわち、本変形例では、入力力率をより効果的に改善することが可能になる。
【0065】
なお、繰り返し制御器(57)は、複数設けてもよい。この場合には、それぞれの繰り返し制御器(57)においてゲインが高くなる周波数(前記の特定周波数)を、電源周波数(ωs)の2倍,3倍,…,n倍(nは整数)のように、それぞれ異ならせておくとよい。こうすることで、電源周波数(ωs)の複数の高次成分が信号に含まれる場合に、該繰り返し制御器(57)よりも後段の制御部(この例では、電力制御部(51)もしくはq軸電流制御部(52))での応答遅れを補償することが可能になる。すなわち、電源周波数(ωs)の複数の高次成分を含んだ脈動があっても、入力力率をより効果的に改善することが可能になる。
【0066】
《その他の実施形態》
なお、速度制御部、電力制御部、電流制御部(上記の例ではq軸電流制御部(52))の3つの組み合わせ順は任意である。例えば、電力制御部、速度制御部、電流制御部の順で制御ブロックを繋いで、電流制御部で出力電圧指令を生成するようにしてもよい。
【0067】
また、交流電源(6)は三相であってもよい。
【0068】
また、IPMモータ(7)の用途は圧縮機の駆動には限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、モータに電力を供給する電力変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 電力変換装置
2 コンバータ回路
3 直流リンク部
3a コンデンサ
4 インバータ回路
5 制御部
7 IPMモータ(モータ)
50 速度制御部
51 電力制御部
52 q軸電流制御部(電流制御部)
56 コンデンサ電力補償部
57 繰り返し制御器(副制御器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(7)に電力を供給する電力変換装置であって、
入力交流を全波整流するコンバータ回路(2)と、
前記コンバータ回路(2)の出力に並列接続されたコンデンサ(3a)を有し、直流電圧(vdc)を出力する直流リンク部(3)と、
前記直流リンク部(3)の出力をスイッチングして交流に変換し、前記モータ(7)に供給するインバータ回路(4)と、
前記スイッチングを制御する制御部(5)とを備え、
前記制御部(5)は、
前記モータ(7)の速度を制御する操作量を求める速度制御部(50)と、
前記インバータ回路(4)の出力電力(pinv)を制御する操作量を求める電力制御部(51)と、
モータ電流(id,iq)を制御する操作量を求める電流制御部(52)とを備え、
前記速度制御部(50)、前記電力制御部(51)、及び前記電流制御部(52)を組み合わせて、前記モータ電流(id,iq)と前記インバータ回路(4)の出力電圧指令値(vd*,vq*)とから求めた前記出力電力(pinv)を、前記入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1の電力変換装置において、
前記制御部(5)は、前記モータ(7)をd-q軸ベクトル制御し、
前記速度制御部(50)は、速度を制御する前記操作量を前記入力交流の電源周波数(ωs)の2倍に同期して脈動させ、前記インバータ回路(4)の出力電力指令値(pinv*)を生成し、
前記電力制御部(51)は、前記出力電力指令値(pinv*)と前記インバータ回路(4)の出力電力(pinv)の偏差が小さくなるように、q軸電流指令値(iq*)を生成し、
前記電流制御部(52)は、前記q軸電流指令値(iq*)とq軸電流(iq)の偏差が小さくなるように、q軸電圧指令値(vq*)を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2の電力変換装置において、
前記電力制御部(51)は、P制御器又はPI制御器であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3の電力変換装置において、
前記電力制御部(51)の前段及び後段の少なくとも一方には、特定周波数の入力に対してゲインが高くなる制御を行う副制御器(57)が設けられていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記電力制御部(51)の前段及び後段の少なくとも一方には、2つ以上の特定周波数の入力に対してゲインが高くなる制御を行う2つ以上の副制御器(57)が設けられていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5の電力変換装置において、
前記副制御器(57)は、繰り返し制御器であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記特定周波数は、前記入力交流の周波数(ωs)の整数倍であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項2から請求項7のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記コンデンサ(3a)における電力(pc)を差し引いた値に前記出力電力指令値(pinv*)を補償するコンデンサ電力補償部(56)を備えていることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−44830(P2012−44830A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185994(P2010−185994)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】