説明

電動ステアリング装置

【課題】運転者にとって期待される安定した修正操舵の実施を可能とする電動ステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルクTに基づいて制御装置200Aにより制御されて操舵補助力を発生する電動機を11備えた電動パワーステアリング装置において、操向ハンドルに設けられて、運転者の操作により電気信号を出力する操作スイッチ2aL,2aRと、操作スイッチ2aL,2aRからの電気信号に応じて電動機11を駆動する電流を付加する付加電流値波形を演算して出力する付加電流演算部300Aと、を備えている。付加電流演算部300Aは、中立位置近傍の所定の操舵角の範囲において操作スイッチ2aL,2aRが操作されたことを検出したとき、修正操舵のための第1電流と、その修正操舵に対する戻し操舵のための第2電流を、車両の走行状態に応じて生成し、付加電流値IAdとして出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機(転舵モータ)により転舵機構を駆動する又は転舵機構に操舵補助力を付与する電動ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、電動機が操舵トルクの大きさに応じた操舵補助力を発生し、この操舵補助力をステアリング系に伝達して、運転者が操舵する操舵力を軽減するものである。操舵トルクと車速によって定まるベース電流(アシストトルク)を、ステアリング系のイナーシャ(慣性)で補償したり、ダンピング補正したりし、この補償及び補正された電流を目標電流として電動機を制御する技術が開示されている(特許文献1,2参照)。
なお、特許文献2の慣性補償電流値決定手段には、トルクセンサ出力のみが入力されており車速信号が入力されていない。
【0003】
特許文献3には、転舵輪を転舵する操向ハンドルに設けたグリップを回転させると、操舵角及び車速から算出された規範レートとなるヨーレートを調整する車両状態量制御装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献4には、クローラを走行装置として用いた、例えば、コンバイン等の作業機の走行方向を制御する操作装置として、ステアリングホイール形状の操向操作具を左右に回動操作することにより、左右サイドクラッチの一方の継脱、及び左右ブレーキの内のサイドクラッチを切った側のブレーキを掛けて、左右方向に制動旋回するものが記載され、更に、左右サイドクラッチの継脱を操向操作具に設けた方向修正をするスイッチによっても行えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−59855号公報(図2)
【特許文献2】特開2000−177615号公報(図2)
【特許文献3】特開平10−295151号公報(図2)
【特許文献4】特開2008−174006号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、操向ハンドルの操舵角が中立近傍のときにグリップの回転角又はスイッチの操作によって修正操舵を行うと、転舵輪のセルフアライニングトルクが小さくて、転舵輪が中立位置に戻ることが無く、修正操舵に対して戻し操舵が必要になる可能性がある。
【0007】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、運転者にとって期待される安定した修正操舵の実施を可能とする電動ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、転舵輪を転舵する転舵モータと、運転者が操舵するステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、ステアリングホイールの操舵と操作部から出力される電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき転舵モータを制御する制御部と、を備え、制御部は、操作部から出力される電気信号に基づき転舵モータを制御する場合に、操作部の操作方向に基づいた方向に転舵モータに第1電流を出力し、その後、第1電流と逆の方向に転舵モータに第2電流を出力することを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、制御部は、操作部から出力される電気信号に基づき転舵モータを制御する場合に、操作部の操作方向に基づいた方向に転舵モータに第1電流を出力し、その後、第1電流と逆の方向に転舵モータに第2電流を出力する。従って、操作部による修正操舵に対してその後、戻し操舵が自動的に行われ、例えば、直進状態に近い操舵角の状態で、セルフアライニングトルクが小さいため、ステアリング系の摩擦力の影響で第1電流による修正操舵に対して転舵輪の戻りが弱いときにも、つまり、修正操舵後の戻りが弱いときにも、第2電流により転舵輪を戻し操舵でき、運転者が所望の修正操舵を操舵部の操作により容易に実現できる。
【0010】
請求項2に係る発明は、転舵輪を転舵する転舵モータと、運転者が操舵するステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、ステアリングホイールの操舵と操作部から出力される電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき前記転舵モータを制御する制御部と、を備え、制御部は、操作部から出力される電気信号に基づき転舵モータを制御する場合に、ステアリングホイールの操舵角が中立位置に近い所定値の範囲のときは、操作部の操作方向に基づいた方向に転舵モータに第1電流を出力し、その後、第1電流と逆の方向に前記転舵モータに第2電流を出力することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、制御部は、制御部は、操作部から出力される電気信号に基づき転舵モータを制御する場合に、ステアリングホイールの操舵角が中立位置に近い所定値の範囲のときは、操作部の操作方向に基づいた方向へ転舵モータに第1電流を出力し、その後、第1電流と逆の方向へ転舵モータに第2電流を出力する。従って、直進状態に近い操舵角の状態で、操作部による修正操舵に対してその後、戻し操舵が自動的に行われるので、第1電流による転舵モータでの修正操舵後に、セルフアライニングトルクが小さいため、ステアリング系の摩擦力の影響で転舵輪の戻りが少ないときにも、第2電流による転舵モータでの転舵輪の戻し操舵ができ、運転者が所望の修正操舵を操舵部の操作により容易に実現できる。
【0012】
ちなみに、制御部は、操作部から出力される電気信号に基づき転舵モータを制御する場合に、ステアリングホイールの操舵角が中立位置に近い所定値の範囲外のときは、セルフアライニングトルクが期待できるので戻し操舵のための第2電流を出力する必要性は低減し、第2電流を出力しないこととする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明の構成に加え、更に、第2電流の絶対値は、第1電流の絶対値よりも小さいことを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明の構成に加え、操作部の1回の操作により出力される第1電流の継続時間と第2電流の継続時間とでは、第2電流の継続時間の方が短いことを特徴とする。
【0015】
請求項3,4に記載の発明によれば、制御部は、第2電流の絶対値は第1電流の絶対値よりも小さい、及び/又は、操作部の1回の操作により出力される第1電流の継続時間と第2電流の継続時間とでは、第2電流の継続時間の方が短いので、第1電流による転舵モータの回転角の絶対値よりも第2電流による転舵モータの回転角の絶対値の方が小さくなる。このため、第1電流による転舵輪の転舵角の変化に対して、第2電流による転舵輪の転舵角の変化を小さくでき、第2電流によるセルフアライニングトルクを考慮した修正操舵の戻しとすることができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明の構成に加え、更に、制御部は、第1電流を転舵モータに出力完了してから転舵モータに第2電流を出力開始するまでの間隔時間を所定時間とすることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、第1電流を転舵モータに出力完了直後に第2電流を出力開始しないので、修正操舵とそれに対する戻し操舵が滑らかに行われ、乗員に与える横加速度がジグザグ走行のような感覚を与えない。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明の構成に加え、更に、制御部は、第1電流の絶対値、第2電流の絶対値、第1電流の継続時間、第2電流の継続時間、及び、第1電流を転舵モータに出力完了してから転舵モータに第2電流を出力開始するまでの間隔時間のうち少なくとも一つは車速に応じて可変とすることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、制御部は、第1電流の絶対値、第2電流の絶対値、第1電流の継続時間、第2電流の継続時間、及び、第1電流を転舵モータに出力完了してから転舵モータに第2電流を出力開始するまでの時間のうち少なくとも一つは車速に応じて可変とする。従って、車速の増大よるセルフアライニングトルクの増大を考慮した修正操舵の戻しとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、運転者にとって期待される安定した修正操舵の実施を可能とする電動ステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態である電動パワーステアリング装置の構成図である。
【図2】図1における操向ハンドルに設けられた操作スイッチの説明図である。
【図3】第1の実施形態における制御装置の機能ブロック構成図である。
【図4】図3における付加電流演算部300Aの詳細機能ブロック構成図である。
【図5】操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲R1θの設定方法の説明図であり、(a)は、操舵角θが所定の範囲R1θ内の状態の説明図、(b)は、操舵角θが所定の範囲R1θ外の状態の説明図である。
【図6】図4に示された第1電流波形設定部291Aにおいて生成された第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの時間変化の説明図であり、(a)は、第1の電流波形W1に基づき出力される付加電流値IAdの時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが第1の電流波形W1に基づいて出力される付加電流値IAdの電流波形に影響を与えないことの説明図である。
【図7】図4に示された第1電流波形設定部291Aにおける第1の電流波形W1を生成するゲインK1の車速VSに応じた設定方法の説明図、及び第2電流波形設定部295における第2の電流波形W2を生成するゲインK2A,K2Bの車速VSに応じた設定方法の説明図である。
【図8】図4に示された第2電流波形設定部295における第2の電流波形W2の生成方法の説明図であり、(a)は第2の電流波形W2の生成のベースになる第1の電流波形W1の説明図、(b)は第1の電流波形W1に基づいて第2の電流波形W2を生成する説明図である。
【図9】第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの出力完了から第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdの出力開始までの間隔時間T3の車速VSに応じた設定方法の説明図である。
【図10】図4に示された付加電流演算部300Aから第1の電流波形W1及び第2の電流波形W2に基づいて出力される付加電流値IAdの時間変化の推移の説明図である。
【図11】図4に示された付加電流演算部300Bにおける付加電流値IAdの波形の生成及び出力制御の流れを示すフローチャートである。
【図12】図11の続きのフローチャートである。
【図13】図12の続きのフローチャートである。
【図14】第1の実施形態における走行ハンドルが中立近傍の際に、操作スイッチ2aRを操作して、右方向の修正操舵をした場合の車両の走行軌跡の説明図であり、(a)は、付加電流値の時間推移の説明図、(b)は、前輪の向きの時間変化の説明図、(c)は、車両の走行軌跡の比較例と対比した作用効果の説明図である。
【図15】第2の実施形態の図4に示された第1電流波形設定部291Bにおける第1の電流波形W1の生成方法の説明図であり、(a)は、基準の電流矩形波の時間幅を車速VSに応じて変化させて設定する説明図、(b)は、基準の電流矩形波の時間幅の車速VSに応じた変化の説明図である。
【図16】図4における第1電流波形設定部291Bで、車速VSに応じた第1の電流波形W1の波高を設定するゲインK1の説明図である。
【図17】図4における第1電流波形設定部291Bで、矩形電流波形に一時遅れ処理を行うために用いる立ち上がり用時定数τ1と、立ち下がり用時定数τ2の車速VSに応じた設定の説明図である。
【図18】図4に示された第1電流波形設定部291Bにおいて生成された第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの時間変化の説明図であり、(a)は、第1の電流波形W1に基づき出力される付加電流値IAdの時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが第1の電流波形W1に基づいて出力される付加電流値IAdの電流波形に影響を与えないことの説明図である。
【図19】操作スイッチの操作を有効とする操舵角θの範囲R1θ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速に応じた設定とする説明図である。
【図20】図1における操向ハンドルに設けられた操作スイッチの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
《第1の実施形態》
本発明の第1の実施形態である電動パワーステアリング装置を、図1から図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態である電動パワーステアリング装置の構成図であり、図2は、図1における操向ハンドルに設けられた操作スイッチの説明図である。図3は、第1の実施形態における制御装置の機能ブロック構成図である。図4は、図3における付加電流演算部300Aの詳細機能ブロック構成図である。
【0023】
(電動パワーステアリング装置の全体構成)
図1において、電動パワーステアリング装置(電動ステアリング装置)100は、操向ハンドル(ステアリングホイール)2が設けられたメインステアリングシャフト3と、シャフト1と、ピニオン軸5とが、2つのユニバーサルジョイント(自在継手)4,4によって連結されている。また、ピニオン軸5の下端部に設けられたピニオンギア7は、車幅方向に往復運動可能なラック軸8のラック歯8aに噛合し、ラック軸8の両端には、タイロッド9,9を介して左右の転舵輪である前輪10F,10Fの図示しないナックルアームが連結されている。この構成により、電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル2の操舵(操舵入力)時に車両の進行方向を変えることができる。
ここで、ラック軸8、ラック歯8a、タイロッド9,9、ナックルアームは転舵機構を構成する。
【0024】
なお、ピニオン軸5は、その下部、中間部、上部を軸受6a,6b,6cを介してステアリングギアボックス20に支持されている。
【0025】
また、電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル2による操舵力を軽減するための操舵補助力を供給する電動機(転舵モータ)11を備えており、この電動機11の出力軸に設けられたウォームギア12が、ピニオン軸5に設けられたウォームホイールギア13に噛合している。すなわち、ウォームギア12とウォームホイールギア13とで減速機構が構成されている。
ここで、シャフト1と、操向ハンドル2と、電動機11の回転子と、電動機11に連結されているウォームギア12及びウォームホイールギア13と、ピニオン軸5とラック軸8とラック歯8aとタイロッド9,9等により、ステアリング系が構成される。
電動機11は、複数の界磁コイルを備えた固定子(図示せず)とこの固定子の内部で回動する回転子(図示せず)からなる3相ブラシレスモータである。
(電動ステアリング装置)
【0026】
なお、図1において制御装置(制御部)200と代表的に表示しているが、( )内に表示の制御装置(制御部)200Aは、第1の実施形態における制御装置に、制御装置(制御部)200Bは、第2の実施形態における制御装置に対応している。
【0027】
インバータ60は、例えば、3相のFETブリッジ回路のような複数のスイッチング素子を備え、制御装置200からのDUTY(図3中では、「DUTYu」,「DUTYv」,「DUTYw」と表示)信号を用いて、矩形波電圧を生成し、電動機11を駆動するものである。また、インバータ60は、例えば、ホール素子等の電流センサSIu,SIv,SIw(図3参照)を用いて3相の実電流値I(図3中では、「Iu」,「Iv」,「Iw」と表示)を検出して制御装置200に入力する機能を有している。ちなみに、図3では、電流センサSIu,SIv,SIwを分かり易いようにインバータ60の外部に表示してある。
【0028】
レゾルバ50は、電動機11の回転子の回転角θを検出し、それに対応する角度信号を出力するものであり、例えば、周方向に等間隔の複数の凹凸部を設けた磁性回転体に磁気抵抗変化を検出する検出回路を近接させた可変リラクタンス型のレゾルバである。
操舵角センサ52で検出された操向ハンドル2の操作角θを示す信号は制御装置200に入力され、前輪10F,10Fの転舵角δに換算される。
【0029】
図1に戻って、操舵トルクセンサ30は、ピニオン軸5に加えられるピニオントルク、つまり、操舵トルクTを検出するものであり、例えば、ピニオン軸5の軸方向2箇所に逆方向の異方性となるように磁性膜が被着され、各磁性膜の表面に検出コイルがピニオン軸5に離間して挿入されている。差動増幅回路40は、検出コイルがインダクタンス変化として検出した2つの磁歪膜の透磁率変化の差分を増幅し、操舵トルクTを示す信号を制御装置200に入力する。
【0030】
車速センサ35は、車両の車速VS(走行状態情報)を単位時間あたりのパルス数として検出するものであり、車速VSを示す信号を出力する。
【0031】
図1、図2に示すように操向ハンドル2の上面側には、操向ハンドル2が中立状態において略左右方向にリング状の被把手部にまで延びるスポークの左右両側近傍には、上下方向にスライドする操作スイッチ(操作部)2aL,2aRが設けられている。
そして、図2に示すように操作スイッチ2aL,2aRは、上下に運転者が指でスライド可能なスライド式のスイッチであり、操作力が加わっていない場合は、内蔵されたスプリングにより中立点Aに復帰するように構成されている。
図2に示すように操作スイッチ2aL,2aRは、操向ハンドル2が直進方向、つまり、中立位置方向を対称軸Dとして左右対称位置に操向ハンドル2の周方向に沿って設けられている。そして、対称軸Dに対して直角な水平軸Lに対し操作スイッチ2aL,2aRのそれぞれの中立点Aがなす角度αdegを、例えば、後記するスイッチ操作判定部290(図4参照)における操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲R1θの設定、つまり、操舵角θが左方向又は右方向に所定の第1の閾値以内か否かの判定値の設定の際に考慮する。ちなみに、有効な操舵角θの範囲R1θは、操舵角θの絶対値で設定され、左右に同一の操舵角θの範囲である。例えば、−30deg≦θ≦+30degである。
ここで、操作スイッチ2aLが「左側操作部」に対応し、操作スイッチ2aRが「右側操作部」に対応する。また、「有効な操舵角θの範囲R1θ」が、「ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値」に対応する。
【0032】
また、操向ハンドル2の中立位置中心に左右に中立位置近傍の所定の操舵角θの範囲R2θを予め設定する。ここで、中立位置近傍の所定の操舵角θの範囲R2θは、有効な操舵角θの範囲R1θに対して左右により狭い範囲である。中立位置近傍の所定の操舵角θの範囲R2θは、ここでは例えば、−15deg≦θ≦+15degである。ここで、中立位置近傍の所定の操舵角θの範囲R2θが、特許請求の範囲に記載の「ステアリングホイールの操舵角が中立位置に近い所定値の範囲」に対応する。
【0033】
操作スイッチ2aLが中立点Aから所定量以上の距離上側にスライドするか、もしくは、操作スイッチ2aRが中立点Aから所定量以上の距離下側にスライドすると、操作スイッチ2aL、もしくは、操作スイッチ2aRは、オン(ON)状態となり、右方向に所定量の操舵をするための付加電流値IAd(図3参照)の少なくとも第1の電流波形W1(付加電流値波形)を発生させる。このオン(ON)状態の信号を、「右方向修正舵信号」と以下では称する。
また、操作スイッチ2aLが中立点Aから所定量以上の距離下側にスライドするか、もしくは、操作スイッチ2aRが中立点Aから所定量以上の距離上側にスライドすると、操作スイッチ2aL、もしくは、操作スイッチ2aRは、オン(ON)状態となり、左方向に所定量の操舵をするための付加電流値IAdの少なくとも第1の電流波形W1を発生させる。このオン(ON)状態の信号を、「左方向修正舵信号」と以下では称する。
ちなみに、操作スイッチ2aL,2aRが、中立点Aにある場合は、操作スイッチ2aL,2aRはオフ(OFF)状態である。
【0034】
なお、操作スイッチ2aL,2aRが、左右いずれの方向に所定量の操舵をするための付加電流値IAdの第1の電流波形W1を発生させる信号を出力しているかは、操作スイッチ2aL,2aRから出力信号がプラス、マイナスの極性を持つように操作スイッチ2aL,2aRの回路構成をすれば容易にスイッチ操作判定部290において判定可能である。
本実施形態では、操作スイッチ2aL,2aRを備えているが、いずれか一方のみを備えるものでも良い。
【0035】
《制御装置》
次に、図3、図4を参照しながら、適宜、図1、図5から図10を参照して、第1の実施形態における制御装置(制御部)200Aの構成と機能について説明する。
制御装置200Aは、CPU(Central Processing Unit),ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory )等を備えるマイクロコンピュータ、インタフェース回路及びROMに格納されたプログラムからなり、図3の機能ブロック構成図に記載される機能を実現する。
【0036】
図3の制御装置200Aは、ベース信号演算部220、イナーシャ補償信号演算部210、ダンパ補正信号演算部225、q軸PI制御部240、d軸PI制御部245、2軸3相変換部260、PWM変換部262、3相2軸変換部265、励磁電流生成部275、付加電流演算部(付加電流演算手段)300A等を有する。
【0037】
(ベース信号演算部220)
ベース信号演算部220は、差動増幅回路40(図1参照)からの操舵トルクTを示す信号と、車速センサ35(図1参照)からの車速VSを示す信号に基づいて、電動機11(図1参照)の出力する操舵補助力の基準となる目標値であるベース目標電流値Iを生成する。このベース目標電流値Iの生成は、予め実験測定等によって設定されたベーステーブル220aを、操舵トルクTと車速VSとで参照することによって行われる。
【0038】
図示省略するが、操舵トルクTの値が正の場合にはベース目標電流値Iの値は正になり、操舵トルクTが負の場合は、ベース目標電流値Iの値は負になる。そして、操舵トルクTの値の正負の絶対値が所定の範囲では、ベース目標電流値Iが出力されない不感帯の幅も車速に応じて設定される。ここで、右側への転舵操作の操舵トルクTを正(+)、左側への転舵操作の操舵トルクTを負(−)とする。
ちなみに、操舵角θについても中立状態から左側を負値とし、右側を正値として以下では示してある。
【0039】
また、一般に車両は、走行速度に応じて路面の負荷(路面反力)が異なるため、車速VSにより前記した不感帯の幅、操舵トルクTに応じたベース目標電流値Iを算出するゲインの値、ベース目標電流値|I|の飽和値が調整される。車速ゼロの据え切り操作時が最も負荷が重く中低速では比較的負荷が軽くなる。このため、ベース信号演算部220は、車速VSが大きく高速になるに従ってゲイン及びベース目標電流値|I|の飽和値の絶対値を低く、かつ、不感帯の幅を広く設定して、マニュアルステアリング領域を大きくとって路面情報を運転者に与える。
すなわち、車速VSの増大に応じてしっかりとした操舵トルクTの手応え感が付与される。このとき、マニュアルステアリング領域においてもイナーシャ補償がなされることが必要である。
【0040】
(ダンパ補正信号演算部225)
図3に戻り、ダンパ補正信号演算部225は、ステアリング系が備える粘性を補償するため、又車両が高速走行時に収斂性が低下する際にこれを補正するステアリングダンパ機能を有するために設けられるものであり、ダンパ補正信号演算部225のダンパテーブル225aを用いて、電動機11の回転角速度ωを参照してダンパ補正電流値Iが演算される。
【0041】
例えば、切り増し時には、操向ハンドル2の回転速度が高くなるに従って、電動機11への切り増し方向の操舵補助力電流の値を小さくして操向ハンドル2の操舵感を重く切りづらくし、操向ハンドル2の戻し時には電動機11へ戻し操作に対する反力方向の電流を大きくして戻りづらくしている。このステアリングダンパ効果により、操向ハンドル2の収斂性を向上させ、車両の旋回運動特性を安定化させることができる。
【0042】
(減算器251)
再び図3に戻り、減算器251は、ベース信号演算部220のベース目標電流値Iからダンパ補正信号演算部225のダンパ補正電流値Iを減算し、その結果を加算器250に入力する。
【0043】
(イナーシャ補償信号演算部210)
イナーシャ補償信号演算部210は、ステアリング系の慣性による影響を補償するものであり、イナーシャ補償信号演算部210のイナーシャテーブル210aを用いて操舵トルクTを参照して、前記したイナーシャ補償電流値Iを演算する。
【0044】
(加算器250、加算器252、減算器253、q軸PI制御部240)
加算器250は、減算器251からの入力とイナーシャ補償信号演算部210のイナーシャ補償電流値Iとを加算するものである。加算器250の出力信号であるq軸目標電流値ITG1は、電動機11の出力トルクを規定するq軸電流の目標信号であり、加算器252に入力される。
加算器252には、付加電流演算部300Aからの後記する付加電流値IAdが入力され、前記したq軸目標電流値ITG1に付加電流値IAdを加算演算した結果であるq軸目標電流値Iqを、減算器253に入力する。その結果、q軸目標電流値ITG1は、加算器252によって所定の電流波形を有した付加電流値IAdが加算されて、q軸目標電流値Iqとして減算器253に入力される。
減算器253には、3相2軸変換部265からq軸実電流値Iqが入力され、前記したq軸目標電流値Iqからq軸実電流値Iqを減算した結果を、q軸PI制御部240に制御信号である偏差値ΔIqとして入力する。
【0045】
q軸PI制御部240は、偏差値ΔIqが減少するように、P(比例)制御及びI(積分)制御のフィードバック制御を行い、q軸目標信号であるq軸目標電圧値Vqを得て、2軸3相変換部260に入力する。
【0046】
(励磁電流生成部275、減算器254、d軸PI制御部245)
励磁電流生成部275は、電動機11のd軸目標電流値Idの目標信号として「0」を生成するが、必要に応じd軸目標電流値Idとq軸目標電流値Iqとを略等しくすることにより、弱め界磁制御を行うことができる。
減算器254には、3相2軸変換部265からd軸実電流値Idが入力され、前記したd軸目標電流値Idからd軸実電流値Idを減算した結果を、d軸PI制御部245に制御信号である偏差値ΔIdとして入力する。
d軸PI制御部245は、偏差値ΔIdが減少するように、P(比例)制御及びI(積分)制御のPIフィードバック制御を行い、d軸目標信号であるd軸目標電圧値Vdを得て、2軸3相変換部260に入力する。
【0047】
(2軸3相変換部260、PWM変換部262)
2軸3相変換部260は、回転角θを用いてd軸目標電圧値Vd及びq軸目標電圧値Vqの2軸信号を3相信号Uu,Uv,Uwに変換する。PWM変換部262は、3相信号Uu,Uv,Uwの大きさに比例したパルス幅のON/OFF信号[PWM(Pulse Width Modulation)信号]であるDUTY信号(図3中では「DUTYu」,「DUTYv」,「DUTYw」と表示)を生成する。
なお、2軸3相変換部260及びPWM変換部262には、レゾルバ50から電動機11の回転角θを示す信号が入力され、回転子の回転角θに応じた演算や制御がなされる。
【0048】
(3相2軸変換部265)
3相2軸変換部265は、インバータ60の電流センサSIu,SIv,SIwが検出する、電動機11の3相の実電流値Iu,Iv,Iwを、回転角θを用いてd−q座標系のd軸実電流値Id、q軸実電流値Iqに変換し、d軸実電流値Idを減算器254に入力し、q軸実電流値Iqを減算器253に入力する。
ちなみに、q軸実電流値Iqは電動機11の発生トルクに比例し、d軸実電流値Idは励磁電流に比例する。
【0049】
(回転角速度演算部270)
回転角速度演算部270は、入力された回転角θを時間微分して回転角速度ωを算出し、ダンパ補正信号演算部225に入力する。
【0050】
《付加電流演算部300A、加算器252》
次に、図3、図4から図10を参照しながら、適宜、図1、図2を参照して本実施形態における特徴的な構成である付加電流演算部300Aについて説明する。
【0051】
図4に示すように、付加電流演算部300Aは、スイッチ操作判定部290、第1電流波形設定部291A、付加電流出力制御部292、出力波形監視部293、第2電流波形設定部295を含んで構成され、付加電流出力制御部292から出力される付加電流値IAdが加算器252に入力される。そして、加算器252において前記したように加算器250から出力されたq軸目標電流値ITG1と付加電流値IAdとが加算され、減算器253にq軸目標電流値Iqとして出力される。
以下に、詳細に付加電流演算部300Aの構成と機能を説明する。
【0052】
ちなみに、付加電流演算部300Aでの制御処理は、一定の処理周期、例えば、10msecの周期で、前記したベース信号演算部220、イナーシャ補償信号演算部210、ダンパ補正信号演算部225、q軸PI制御部240、d軸PI制御部245、2軸3相変換部260、PWM変換部262、3相2軸変換部265、励磁電流生成部275等と同様にCPUにおいて実行されるものである。
【0053】
(スイッチ操作判定部290)
スイッチ操作判定部290には、操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号、が入力されるとともに、操舵角センサ52(図1参照)からの操舵角θを示す信号、車速センサ35(図1参照)からの車速VSを示す信号が入力される。
本実施形態では、スイッチ操作判定部290は、操舵角センサ52からの操舵角θを示す信号の入力と車速VSを示す信号を受けて、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効か否かを判定する。
図5及び表1、表2を参照しながら、適宜、図1、図2を参照して操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効か否かの判定方法を説明する。図5は、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲R1θの設定方法の説明図であり、(a)は、操舵角θが所定の範囲R1θ内の状態の説明図、(b)は、操舵角θが所定の範囲R1θ外の状態の説明図である。
【0054】
操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効か否かの判定方法を説明する前提として、操舵角頻度、操作スイッチ2aL,2aR(図1参照)の操作しやすさ及び修正操舵力について説明する。発明者らが、テストコースでの街路走行や高速路走行を含む所定の走行パターンモデルを設定して実車の走行試験をし、操向ハンドル2(図1参照)の操舵角θの発生頻度を取得したところ、操舵角θの中立近傍の所定範囲、概ね、−15〜+15deg程度の範囲の操舵角θの発生頻度が圧倒的に高く、それ以上の右操舵角や左操舵角の発生頻度は格段に小さいことが分かった。
【0055】
そこで、修正操舵を操作スイッチ2aL,2aRの操作で行わせることができる所定の範囲R1θの閾値として、操舵角θが左右へ、前記した概ね−15〜+15deg程度の操舵角θの中立近傍の所定範囲に対して余裕を取って操舵角θの中立位置を中心にしたその近傍のより大きな範囲の所定の範囲R1θとして、例えば、−30〜+30degと設定する。
そして、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効か否かを判定する方法として次の2通りの方法を考えた。
第1の方法は、操舵角θが所定の範囲R1θ内にある場合に、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aRの操作による修正操舵をいずれも有効とし、操舵角θが所定の範囲R1θ外に対してはいずれも無効とする第1の方法である。
第2の方法は、操舵角θが所定の範囲R1θ内にある場合に、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aRの操作による修正操舵をいずれも有効とするとともに、所定の範囲R1θ外でも操作の方向が確実に認識され易い側の操作スイッチ2aL,2aRに対してはその修正操舵を有効とする方法である。以下に第1の方法及び第2の方法について詳細に説明する。
そして、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効と判定されたときに、修正操舵のための第1電流として所定の電流波形W1をした付加電流値IAdを出力させることとしている。そのために、スイッチ操作判定部290は、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効であると判定したときには、第1電流の所定の電流波形生成の指令信号SW1を第1電流波形設定部291Aに出力する。以下では、「第1電流の電流波形W1」を「第1の電流波形W1」と称し、「第1電流の電流波形生成の指令信号SW1」を「第1の電流波形生成の指令信号SW1」と称する。
【0056】
前記した操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲R1θを設定する一例としての±30degの値は、例えば、前記した水平軸L(図2参照)に対し操作スイッチ2aL,2aRのそれぞれの中立点Aがなす角度αdegを、参考して設定することが望ましい。
図5の(a)に示すように|θ|≦αdegの場合、操作スイッチ2aRの中立点Aは、最大でも車体横方向D位置であるか、又はそれより上側にある。そのため、操作スイッチ2aRの上側(逆時計回り方向)へのスライド方向は、運転者に対して左側への修正操舵の操作と明確に認識されやすく、又、操作スイッチ2aRを下側へのスライド方向(時計回り方向)も、運転者に対して右側への修正操舵の操作と直感的に明確に認識されやすい。
【0057】
ちなみに、操作スイッチ2aLの中立点Aは、最大でも車体横方向D位置に対して上側に2αdegの位置であるか、又はそれより下側にある。そのため、操作スイッチ2aLの上側へのスライド方向(時計回り方向)は、運転者に対して右側への修正操舵の操作とまだ十分に直感的に明確に認識され、又、操作スイッチ2aLの下側へのスライド方向(逆時計回り方向)も、運転者に対して左側への修正操舵の操作とまだ十分に直感的に明確に認識されやすい。
【0058】
これに対し、図5の(b)に示すように|θ|>αdegの場合、操作スイッチ2aRの中立点Aは、最大でも車体横方向D位置より下側にある。そのため、操作スイッチ2aRの上側へのスライド方向(逆時計回り方向)は運転者に対して右側方向を示すため左側への修正操舵の操作と直感的に認識されにくく、又、操作スイッチ2aRの下側へのスライド方向(時計回り方向)も、運転者に対して左側方向を示すため右側への修正操舵の操作とまだ十分に直感的に認識されにくくなる。
しかし、操作スイッチ2aRではなく操作スイッチ2aLについてみれば、操作スイッチ2aLの中立点Aは、有効な操舵角θの範囲R1θの最大で車体横方向D位置に対して上側に2αdeg以上の位置であるが、車体前方方向Dより左側にある。従って、操作スイッチ2aLの上側へのスライド方向(時計回り方向)は、運転者に対して右側への修正操舵の操作と直感的に明確に認識されやすく、又、操作スイッチ2aLの下側へのスライド方向(逆時計回り方向)も、運転者に対して左側への修正操舵の操作と直感的に明確に認識されやすい。
【0059】
そこで、後記する図11のフローチャートのステップS03におけるスイッチ操作判定部290による操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効か否かを判定して、修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させるか、出力させないかの制御の方法としては、前記した2つの方法が考えられ、いずれの方法を選んでも良い。
前記した第1の方法は、表1に示すように操舵角θを示す信号として、所定の範囲R1θ外、つまり、所定の第1の閾値を超えて、範囲R1θ外を示す信号がスイッチ操作判定部290に入っている場合に、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aL,2aRのいずれのオン状態の検出に対しても誤操作(操作の意思がない)とみなして修正操舵のための第1電流波形の付加電流値IAdを出力させないものである。そして、第1の方法においては、操舵角θが、所定の範囲R1θ内の場合、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aL,2aRいずれのオン状態の検出に対しても運転者の操作の意思があるとみなして修正操舵のための第1電流波形の付加電流値IAdを出力させる。
表1において、○は、当該操作スイッチ2aL,2aRの有効を意味し、×は、当該操作スイッチ2aL,2aRの無効を意味する。
【表1】

【0060】
前記した第2の方法は、表2に示すように操舵角θが、所定の範囲R1θ外で、つまり、所定の第1の閾値を超えて、例えば、右に操舵角θが+αdeg<θ≦+90degの範囲(ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第2の閾値)では、操作スイッチ2aRのオン状態を検出したとき、操作スイッチ2aRのオン状態の検出に対応した修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させない、つまり操作スイッチ2aRの操作を無効とする。そのとき、スイッチ操作判定部290が、操作スイッチ2aLのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aLのオン状態の検出に対応した修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させる。つまり操作スイッチ2aLの操作を有効とする。
逆に、操舵角θが、所定の範囲R1θ外で、例えば、左に操舵角θが−90deg≦θ<−αdegの範囲では、スイッチ操作判定部290が、操作スイッチ2aLのオン状態を検出したとき、操作スイッチ2aLのオン状態の検出に対応した修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させない、つまり操作スイッチ2aLの操作を無効とする。そのとき、スイッチ操作判定部290が、操作スイッチ2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aRのオン状態の検出に対応した修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させる。つまり操作スイッチ2aRの操作を有効とする。
表2において、○は、当該操作スイッチ2aL,2aRの有効を意味し、×は、当該操作スイッチ2aL,2aRの無効を意味する。
【表2】

【0061】
ちなみに、第2の方法において、操舵角θが、所定の範囲R1θ内の場合は、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aL,2aRのいずれのオン状態の検出に対しても運転者の操作の意思があるとみなして修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させる、つまり有効とする。また、操舵角θが、θ<−90deg又は+90deg<θの場合は、操作スイッチ2aL,2aRいずれのオン状態の検出に対しても運転者の操作の意思があるとせず修正操舵のための第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力させない。つまり操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の検出を無効とする。
なお、所定の範囲R1θを設定する前記した所定の第1の閾値、所定の第1の閾値より大きな値の所定の第2の閾値は、ROMに予め記憶されており、スイッチ操作判定部290がそれを用いる。
【0062】
更に、前記した第1、第2の方法において、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL及び/又は2aRの操作を無効と判定する操舵角θの場合は、無効と判定された当該の操作スイッチ2aL及び/又は操作スイッチ2aRに対して、スライドしないようにロックをしたり、操作時にその操作が無効とされたことを示す警報音を発生させたり、操作スイッチ2aL,2aRに内蔵又はその近傍に設けられた発光表示部の色を変更(例えば、緑から赤に発光色を変更)したり、発光表示部の表示輝度を変更(例えば、輝度を高くする)したり、インストルメントパネルの表示部にその旨の表示をしたりして、運転者に操作スイッチ2aL及び/又は操作スイッチ2aRの無効を認知させるようにしても良い。
【0063】
なお、スイッチ操作判定部290は、操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号を受付けてから所定の閾値時間tthに達した場合には、操作スイッチ2aL,2aRからの新たなスイッチ信号の入力を受け付ける。この詳細な機能については、図12のフローチャートの説明の中で詳細に説明する。
【0064】
そして、スイッチ操作判定部290は、操作スイッチ2aL又は操作スイッチは2aRの操作を有効と判定したときに、第1の電流波形生成の指令信号SW1を第1電流波形設定部291Aに出力するとともに、操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRの操作右方向が左右いずれの方向の修正舵かを判定し、右方向修正舵に対してはプラス(+)信号を第1電流波形設定部291Aに出力し、左方向修正舵に対してマイナス(−)信号を出力する。
【0065】
また、スイッチ操作判定部290は、所定の範囲R1θよりも狭い中立近傍の所定の範囲R2θ内における有効と判定した操作スイッチ2aL,2aRの操作に対しては、第1の電流波形W1を生成して付加電流値IAdを出力させるように第1の電流波形生成の指令信号SW1を第1電流波形設定部291Aへ出力する。その際に、スイッチ操作判定部290は、第1の電流波形W1の付加電流値IAdによる修正操舵に対する戻し操舵をさせるための第2電流として、電流波形W2の付加電流値IAdを出力させることも可能とするように第2電流波形設定部295に対して第2電流の電流波形生成の指令信号SW2を出力する。ここで、中立近傍の所定の範囲R2θとしては、例えば、−15〜+15deg程度の範囲を設定する。
以下では、「第2電流の電流波形W2」を「第2の電流波形W2」と称し、「第2電流の電流波形生成の指令信号SW2」を「第2の電流波形生成の指令信号SW2」と称する。ちなみに、第2の電流波形生成の指令信号SW2は、後記する図11のフローチャートにおけるIFLAGA=1を示す信号のことである。
【0066】
(第1電流波形設定部291A)
次に、第1電流波形設定部291Aについて図6、図7を参照して説明する。図6は、図4に示された第1電流波形設定部291Aにおいて生成された第1の電流値波形に基づく付加電流値IAdの時間変化の説明図であり、(a)は、第1の電流波形W1に基づき出力される付加電流値IAdの時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが第1の電流波形W1に基づいて出力される付加電流値IAdの電流波形に影響を与えないことの説明図である。図7は、図4に示された第1電流波形設定部291Aにおける第1の電流波形W1を生成するゲインK1の車速VSに応じた設定方法の説明図、及び第2電流波形設定部295における第2の電流波形W2を生成するゲインK2A,K2Bの車速VSに応じた設定方法の説明図である。
【0067】
図6においては、修正舵のための付加電流値IAdが正の場合の第1の電流波形W1の付加電流値IAdを例示しており、修正舵のための付加電流値IAdが負の場合の第1の電流波形W1の付加電流値IAdは、時間軸に対して下側に線対称に反転した波形となる。
第1電流波形設定部291Aは、スイッチ操作判定部290から第1の電流波形生成の指令信号を入力されたとき、図6の(a)に示す基準電流パルス波形X0に基づいて予めROMに格納された図7に示すようなゲインK1の特性データを参照して、車速VSに応じたゲインK1の値を取得する。そして、第1電流波形設定部291Aは、基準電流パルス波形X0にスイッチ操作判定部290から入力されたプラスマイナス(±)信号に応じたプラスマイナス(±)符号を乗じるとともに、取得した車速VSに応じたゲインK1を乗じて、付加電流値IAdの第1の電流波形W1を生成する。その後、第1電流波形設定部291Aは、第1の電流波形W1のデータと時間(第1電流の継続時間)T1を付加電流出力制御部292及び第2電流波形設定部295へ出力するとともに、第1の電流波形W1のデータを出力波形監視部293にも出力する。
【0068】
ここで、基準電流パルス波形X0は、予め実験的に設定された基準電流パルスの波高がH0の電流波形であり、そのデータはROMに予め格納されており、第1電流波形設定部291Aはそれを読み出して用いる。
ゲインK1のゲイン特性データは、図7に示すように車速VSが遅いときは1.0以上のゲインK1の値となるが、車速VSが速くなると徐々にゲインK1の低下度合いが急になりほぼ直線的に低下し、所定の車速VS以上でほぼ飽和したゲインK1の値となる特性を示す。このゲイン特性データは、電動パワーステアリング装置100に用いられる電動機11の電流−出力特性と車両の転舵時の車速VSに応じた転舵負荷、及び、車速に応じた1つの付加電流値IAdの第1の電流波形W1により前輪10F,10F(図1参照)を転舵させる転舵角目標変化量の設定に依存して予め設定されるものである。
【0069】
先ず、1つの付加電流値IAdの第1の電流波形W1による転舵角δの目標変化量は、車速VSが遅いときは大きく、速いときは、小さくなるように設定する。例えば、約100km/h以上では転舵角δの目標変化量を約1deg程度とし、約40km/h以下では転舵角δの目標変化量を約3deg程度とし、約40〜100km/hの間では直線的に内挿した転舵角δの目標変化量となるように設定する。以下では、「転舵角δの目標変化量」を「転舵角目標変化量」と称する。
その上で、前記転舵角目標変化量になるように実車による試験又はシミュレーション試験で電動機11の電流−出力特性、前輪10F,10Fの路面との転舵負荷を考慮してゲインK1のゲイン特性データは設定される。
【0070】
図7に示すようにゲインK1の値が車速VSの値に応じて変化することで、車速VSの値が小さいほどゲインK1の値が大きくなり符号X1A(図6の(a)参照)で示すような付加電流値IAdの電流波形となり、車速VSの値が大きいほどゲインK1の値が小さくなり符号X1Bで示すような付加電流値IAdの第1の電流波形W1となる。
ちなみに、符号X0で示す付加電流値IAdの第1の電流波形W1は、ゲインK1=1.0の場合であり、符号X1Bで示す付加電流値IAdの第1の電流波形W1は、ゲインK1<1.0の場合であり、符号X1Aで示す付加電流値IAdの第1の電流波形W1は、ゲインK1>1.0の場合である。
【0071】
第1電流の付加電流値IAdの波形は、図6の(a)に示したように矩形波でなく、立ち上がりは最初ややなだらかにし、その後急峻立ち上がりとし、その後になだらかに立ち下がる波形としたのは、運転者が操作スイッチ2aL,2ARを操作したときに急激に電動機11の動作が開始して急激に停止すると、操向ハンドル2の動きも急激な動き、例えば、路面から急激なキックバックを受けたときのようなものとなり、運転者が修正操舵を行う動きとは極めて異なる動作となるので、運転者が無意識に前方を見ながら行う修正操舵の操作と同じ動きとするためである。
なお、制御系(制御装置200)・機械系の伝達遅れを考慮すると目標とする転舵角変化量が小さいことから第1電流の付加電流値IAdの電流波形は矩形波でも良い。
【0072】
図6の(a)において時間t1は、運転者が操作スイッチ2aL,2aRのいずれか一方を操作してオン状態になったタイミングを示し、時間t4は時間t1で立ち上がりを開始した付加電流値IAdの第1の電流波形W1が0(ゼロ)にまで立下がったタイミングを示す。いかでは、時間t1から時間t4までの第1の電流波形W1の時間を時間T1と称することとする。
ちなみに、時間t1は、後記する図11のフローチャートにおけるステップS06のタイマtスタートのタイミングに対応する。そして、後記する時間t3は図12のフローチャートにおけるステップS16の閾値時間tthに対応する。
なお、車速VSの値に応じた付加電流値IAdの第1の電流波形W1は、基準電流パルス波形X0にプラスマイナス(±)符号とゲインK1とを乗じたものであり、時間t1〜t4までの範囲の所定の時間長さの付加電流値IAdの電流波形である。そして図6の(a)に示した時間t3(=tth)は、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号を受付けてから所定の閾値時間tthに達した場合に、操作スイッチ2aL,2aRからの新たなスイッチ信号の入力を受け付ける時間である。例えば、時間t3(tth)は、付加電流値IAdの電流波形が、例えば、(H0×K1)/eの値になったときの時間であり、この時間t3は、ゲインK1の値によらず一意に決まる。
H0は基準電流の波高を示し、eは自然対数の底の値である。
【0073】
そして、図6の(a)の時間軸に対応させて、図6の(b)に示した横棒は、操作スイッチ2aL,2aRのオン状態が時間t1から開始されてオン状態が終わる時間(操作時間)がt2A,t2B,t2Cと異なっても、第1の電流波形W1の付加電流値IAdは、時間t1〜t4の1つの第1の電流波形W1の付加電流値IAdのみしかスイッチ操作判定部290が発生させないことを説明するためのものである。
【0074】
(付加電流出力制御部292)
付加電流出力制御部292は、第1電流波形設定部291Aからの付加電流値IAdの第1の電流波形W1の入力を受けて、一時的に電流波形データを記憶部292aに保持し、一定の時間ステップ、例えば、10msecの時間ステップで記憶部292aに一時保持された第1の電流波形W1から付加電流値IAdをサンプリングし、第1の電流波形W1に応じた時間ステップごとの付加電流値IAdを加算器252に出力する。
付加電流出力制御部292は、スイッチ操作判定部290から制御信号Scが入力されたときは、現在出力中の第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止し、一時的に記憶部292aに保持していた第1の電流波形W1のデータを消去するとともに、一時的に記憶部292bに保持していた後記する第2の電流波形W2のデータも消去する。
【0075】
また、付加電流出力制御部292は、第2電流波形設定部295からの後記する付加電流値IAdの第2の電流波形W2の入力を受けて、一時的に電流波形データを記憶部292bに保持し、第1の電流波形W1の出力を完了してから、後記する間隔時間T3経過後に、一定の時間ステップ、例えば、10msecの時間ステップで記憶部292bに一時保持された第2の電流波形W2から付加電流値IAdをサンプリングし、第2の電流波形W2に応じた時間ステップごとの付加電流値IAdを加算器252に出力する。
付加電流出力制御部292は、スイッチ操作判定部290から制御信号Scが入力されたときは、現在出力中の第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止し、一時的に記憶部292aに保持していた第1の電流波形W1のデータを消去するとともに、一時的に記憶部292bに保持していた後記する第2の電流波形W2のデータも消去する。
【0076】
(出力波形監視部293)
出力波形監視部293は、第1電流波形設定部291Aにおいて図6の(a)に示したように付加電流値IAdの第1の電流波形W1を生成された場合に、第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高(H0×K1)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K1)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290に入力するものである。本実施形態では、前記したように閾値時間tthは固定値であり、第1電流波形設定部291Aからの付加電流値IAdの電流波形のデータを取得することなく、スイッチ操作判定部290が固定値である閾値時間tthの値を有している構成でも良い。
【0077】
ここで、閾値時間tthの設定の考え方は、第1の電流波形W1の出力が立ち下がりの状態になり、所定の修正操舵がほぼ完了しているとみなせる波高にまで減衰しているとみなせる観点と、現在出力中の第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止しても運転者に違和感をそれ程与えない観点から設定するものであり、(H0×K1)/eの値を下回ったタイミングに限定されるものではない。
【0078】
本実施形態では、前記した閾値時間tthを、例えば、約2秒と設定し、低速、例えば、約40km/hでは、修正操舵における前輪10F,10F(図1参照)の転舵角目標変化量として、例えば、約2degを実現できる付加電流値IAdの第1の電流波形W1とし、高速、例えば、約100km/hでは、修正操舵における前輪10F,10Fの転舵角目標変化量として、低速時より小さい値、例えば、約0.5degを実現できる付加電流値IAdの第1の電流波形W1とするように図6の(a)の基準電流パルス波形X0及び図7のゲインK1を設定する。
【0079】
(第2電流波形設定部295)
次に、第2電流波形設定部295について図4、図7から図10を参照しながら説明する。図8は、図4に示された第2電流波形設定部295における第2の電流波形W2の生成方法の説明図であり、(a)は第2の電流波形W2の生成のベースになる第1の電流波形W1の説明図、(b)は第1の電流波形W1に基づいて第2の電流波形W2を生成する説明図である。図9は、第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの出力完了から第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdの出力開始までの間隔時間T3の車速VSに応じた設定方法の説明図である。図10は、図4に示された付加電流演算部300Aから第1の電流波形W1及び第2の電流波形W2に基づいて出力される付加電流値IAdの時間変化の推移の説明図である。
【0080】
図6を用いて説明したように第1の電流波形W1は、基準電流パルス波形X0にゲインK1を乗じてその波高H1(=H0×K1)としたものであり、この例では、常に電流波形の時間T1は一定である。図8の(a)にはそのようにして第1電流波形設定部291Aで生成された第1の電流波形W1が示されている。そして、第2電流波形設定部295は、スイッチ操作判定部290から第2の電流波形生成の信号を入力されたとき、第1電流波形設定部291Aで生成された第1の電流波形W1のデータも入力されるので(図4参照)、先ず、第1の電流波形W1に対して符号を逆転させ、つまり、マイナス符号(−)を乗算する。例えば、図8の(b)の例では、図8の(a)に示された第1の電流波形W1が正(プラス)なので、第1の電流波形W1を負に反転した電流波形を演算する。そして、第2電流波形設定部295は、更に、ゲインK2A,K2Bのゲイン特性(図7参照)を参照して車速VSに応じたゲインK2A,K2Bの値を取得し、前記した第1の電流波形W1にマイナス符号(−)を乗算して反転した電流波形に、ゲインK2Aを乗じて波高H2(H1×K2A)とするとともに、時間T1にゲインK2Bを乗じて時間(第2電流の継続時間)T2(T1×K2B)の第2の電流波形W2を演算して設定する。
【0081】
ちなみに、図7では、ゲインK2A,K2Bは、1.0より小さい正値であり、常に第2の電流波形W2の波高H2を第1の電流波形W1の波高H1よりも小さいものとし、また第2の電流波形W2の時間T2も第1の電流波形W1の時間T1よりも短くするとしているが、これに限定されるものではない。第2の電流波形W2の波高H2及び時間T2の内いずれか一方のみを第1の電流波形W1の波高H1、又は時間T1よりも小さいとしても良い。
また、図7では、ゲインK2A,K2Bともに、車速VSに応じて可変に設定するとしたがそれに限定されるものではない。ゲインK2A,K2Bの内一方のみを車速VSに応じて可変とし、他方は固定値としても良い。
ここで、第2の電流波形W2の波高H2及び時間T2の内少なくとも一方を第1の電流波形W1の波高H1、又は時間T1よりも小さくすることが、特許請求の範囲に記載の「第2電流の絶対値は、前記第1電流の絶対値よりも小さいこと」に対応する。つまり、第1電流及び第2電流の絶対値は、第1の電流波形W1の時間積分値の絶対値、第2の電流波形W2の時間積分値の絶対値に対応しているからである。
【0082】
このように、スイッチ操作判定部290において操舵角θが中立近傍の所定の範囲R2θにおいて、操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRの操作が有効と判定されたとき、第1電流波形設定部291Aにおいて修正操舵用の第1の電流波形W1が生成されるとともに、第2電流波形設定部295が、生成された第1の電流波形W1に基づいて符号が第1の電流波形W1と逆転した第2の電流波形W2を生成する。
【0083】
これは次のような修正舵に対して戻し操作が必要になる場合のためのものである。操舵角θが中立近傍において、例えば、車線の一方側のラインに車両が接近してきたのを運転者が視認して、車両を車線の中央に戻そうとして操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRの操作により修正操舵をしたのに対し、車速VSが小さくセルフアライニングトルクの発生が弱い場合に、ステアリング系やサスペンション系のフリクションのために前輪10F,109F(図1参照)が転舵されたままの状態になり、車線の中央を通り越して車線の他方側のラインに接近する。その結果、再び修正操舵が必要となり、車両が緩やかなジグザグ走行をすることになるのを抑制するために、修正操舵のための第1の電流波形W1に対して、その修正操舵に対する戻し操作用の第2の電流波形W2を生成するものである。
第2電流波形設定部295において生成された第2の電流波形W2は、付加電流出力制御部292に入力され、記憶部292bに一時記憶される。
【0084】
従って、車速VSが大きくなるとセルフアライニングトルクによる前輪10F,10Fの中立位置への戻りは良くなるので、ゲインK2A,K2Bの値は車速VSの増大に応じてゲインK2A,K2Bの値が減衰し、戻し操作用の第2の電流波形W2を小さく設定するようにしている。
なお、ゲインK2A,K2Bの車速VSに応じた特性は、車両の特性に応じて実験的に又はシミュレーション計算等によって予め設定することができる。
【0085】
また、第2電流波形設定部295は、第1の電流波形W1の付加電流値IAdを出力完了後、第2の電流波形W2の付加電流値IAdを出力開始するまでの間隔時間T3を車速に応じて設定しても良い。図9は、第1の電流波形W1に基づく付加電流値の出力完了から第2の電流波形W2に基づく付加電流値の出力開始までの間隔時間T3の車速VSに応じた設定方法の説明図である。図10は、図4に示された付加電流演算部300Aから第1の電流波形W1及び第2の電流波形W2に基づいて出力される付加電流値の時間変化の推移の説明図である。
【0086】
図9に示すように間隔時間T3を車速VSがV1以下では、例えば、約40km/h以下では一定値とし、車速VSがV2未満まで増加するにつれて、例えば、直線的に低減し、車速VSがV2、例えば、約100km/h以上では、所定の飽和値の一定値に固定される。車速VSがV1以下での間隔時間T3は、例えば、十数秒〜数秒オーダであり、車速VSがV2以上での間隔時間T3の飽和値は、極めて短い値が適切であり、例えば、約1秒程度であることが望ましい。
これは、修正操舵による車両の車線内での位置修正に要する時間が、車速VSが大きくなるほど短い時間で済むからである。
この図9に示した間隔時間T3の車速VSに応じたデータは、ROMに予め記憶されている。
第2電流波形設定部295で設定された間隔時間T3は、付加電流出力制御部292に入力される。
【0087】
そして、図10に示すように、時間t1のタイミングでスイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRを用いて右方向への修正操舵をした際に、そのときの操舵角θが中立近傍の所定の範囲R2θ内の場合、付加電流出力制御部292は、第1電流波形設定部291Aで生成された、例えば、右修正舵用の第1の電流波形W1を時間T1掛けて付加電流値IAdとして加算器252(図4参照)に出力する。第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを出力完了した時間t4のタイミングから間隔時間T3を経過した後、時間t5のタイミングから戻し操作用の第2の電流波形W2を時間T2掛けて付加電流値IAdとして加算器252(図4参照)に出力し始め、時間t6のタイミングで出力を完了する。
【0088】
(付加電流演算部300Aにおける付加電流の生成及び出力制御)
次に、図11から図13を参照しながら適宜、図4、図7から図10を参照して、付加電流演算部300Aにおける付加電流値IAdの出力制御について説明する。図11から図13は、図4における付加電流演算部300Aにおける付加電流値IAdの波形の生成及び出力制御の流れを示すフローチャートである。
先ず、ステップS01では、スイッチ操作判定部290(図4参照)は、フラグIFLAGA,IFLAGBをリセットする(IFLAGA=IFLAGB=0)。ここで、フラグIFLAGAは、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aR(図4参照)のいずれかのオン操作を検出して、その操作が有効と判定されたときの操舵角θが、中立位置近傍の操舵角θの所定の範囲R2θ内か否かの判定された結果を示すものである。フラグIFLAGA=0は、操舵角θが範囲R2θ外と判定された場合を示し、フラグIFLAGA=1は、操舵角θが範囲R2θ内と判定された場合を示す。
フラグIFLAGBは、スイッチ操作判定部290が操作スイッチ2aL,2aR(図3参照)のいずれかのオン状態を検出して、第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを出力させてから、操作スイッチ2aL,2aRのいずれかの次のオン操作を検出したとき、新たな第1の電流波形の付加電流値IAdを出力させて良い状態か否かを判別するためのフラグであり、フラグIFLAGB=0のときは、新たな第1の電流波形の付加電流値IAdを出力させて良い状態であり、フラグIFLAGB=1のときは、新たな第1の付加電流値IAdを出力させてはいけない状態を示す。
【0089】
ステップS02では、スイッチ操作判定部290は、操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS03へ進み、そうでない場合(No)はステップS02へ戻る。
ステップS03では、スイッチ操作判定部290は、ステップS02において検出した操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かを判定する。操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効と判定した場合(Yes)は、ステップS04へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS02へ戻る。
ちなみに、スイッチ操作判定部290における操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かの判定は、前記した表1による第1の方法又は表2による第2の方法のいずれでも良い。
【0090】
ステップS04では、スイッチ操作判定部290は、ステップS02において操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したときの操舵角θは、中立位置近傍の所定の範囲R2θ内か否かをチェックする。中立位置近傍の所定の範囲R2θ内の場合(Yes)は、ステップS05へ進み、フラグIFLAGA=1とし、フラグIFLAGAの信号を第2の電流波形生成の指令信号SW2として第2電流波形設定部295に出力する(「IFLAGA=1として出力」)。その後ステップS06へ進む。中立位置近傍の所定の範囲R2θ外の場合(No)は、ステップS05を経ずにステップS06へ進む。
【0091】
ステップS06では、スイッチ操作判定部290は、タイマtをスタートさせ、ステップS07では、スイッチ操作判定部290は、第1電流波形設定部291Aへ第1の電流波形生成の指令信号SW1を出力する。
ステップS08では、スイッチ操作判定部290は、操作された操作スイッチ2aL,2aRの示す操作方向は左右のいずれかを判定する。右の操作方向、つまり、右方向修正舵信号の場合(右)は、ステップS09へ進み、スイッチ操作判定部290は、符号+を設定して第1電流波形設定部291Aへ出力する。ステップS09の後、ステップS11へ進む。
ステップS08において左の操作方向、つまり、左方向修正舵信号の場合(左)は、ステップS10へ進み、スイッチ操作判定部290は、符号−を設定して第1電流波形設定部291Aへ出力する。ステップS09の後、ステップS11へ進む。
ステップS11では、第1電流波形設定部291Aは、ステップS07における第1の電流波形生成信号を受けて、車速VSに応じた第1の電流波形W1を生成して、付加電流出力制御部292の記憶部292aに一時記憶させる。具体的には、第1電流波形設定部291Aは、基準電流パルス波形X0(図6の(a)参照)に、操作方向に対応する符号と、車速VSに応じたゲインK1(図7参照)とを乗じて、第1の電流波形W1を生成して、そのデータを付加電流出力制御部292へ出力する。このとき、第1電流波形設定部291Aは、生成した第1の電流波形W1のデータを第2電流波形設定部295にも出力する。
このとき、第1電流波形設定部291Aは、第1の電流波形W1の時間T1(図6参照)の情報も付加電流出力制御部292に出力する(図4参照)。
【0092】
ステップS12では、第2電流波形設定部295は、フラグIFLAGAが1か否か、つまり、第2の電流波形生成の指令信号SW2を受信したか否かをチェックする(「IFLAGA=1?」)。IFLAGA=1の場合(Yes)は、ステップS13へ進み、そうでない場合、つまり、IFLAGA=0の場合(No)は、結合子(A)に従って、図12のステップS14へ進む。
【0093】
ステップS13では、第2電流波形設定部295は、車速VSに応じた第2の電流波形W2を生成して、付加電流出力制御部292の記憶部292bに一時記憶させる。具体的には、第2電流波形設定部295は、ステップS11において第1電流波形設定部291Aから入力された第1の電流波形W1に対して、−符号を乗じ、更に車速VSに応じたゲインK2A(図7参照)を乗じて波高H1を修正するとともに、電流波形の時間軸に対して車速VSに応じたゲインK2B(図7参照)を乗じて、最終的に第2の電流波形W2を生成する(図8の(b)参照)。そして、第2電流波形設定部295は、生成した第2の電流波形W2のデータを付加電流出力制御部292に出力して記憶部292bに一時記憶させる。このとき、第2電流波形設定部295は、第2の電流波形W2の時間T2(図8の(b)参照)の情報及びフラグIFLAGAの信号も付加電流出力制御部292に出力するとともに、第2の電流波形W2生成の際に、図9に示した間隔時間T3も車速VSに応じて設定し、付加電流出力制御部292に出力する(図4参照)。
【0094】
ステップS13の後、結合子(A)に従って、図12のステップS14へ進む。
ステップS14では、付加電流出力制御部292は、ステップS11において第1電流波形設定部291Aで生成されて入力され記憶部292aに一時記憶した第1の電流波形W1に従って、付加電流値IAdを加算器252(図4参照)に出力する(「生成された第1の電流波形W1に従って、付加電流値IAdを出力」)。この加算器252への付加電流値IAdの出力は、付加電流出力制御部292が、記憶部292aに一時記憶した第1の電流波形W1を所定の周期の時間ステップ毎に読み出し、付加電流値IAdとして加算器252に出力する。
ステップS15では、加算器252が、q軸目標電流値ITG1に第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを加算して、q軸目標電流値Iqとして減算器253(図3参照)に出力する。その後、通常の電動パワーステアリング装置100の制御部と同様にq軸実電流値Iq、d軸実電流値Idのフィードバック制御により、電動機11(図3参照)が駆動される。
【0095】
ちなみに、付加電流出力制御部292が第1の電流波形W1に基づいて所定の周期で時間ステップ毎に付加電流値IAdを出力した後は、0(ゼロ)信号を加算器252に出力する。つまり、加算器252は、操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じた右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号に対応して電動機11を所定量だけ回転させ転舵角目標変化量を実現する。
【0096】
ステップS16では、スイッチ操作判定部290は、ステップS06でスタートさせたタイマtが出力波形監視部293から入力された閾値時間tthに達したか否かをチェックする。タイマtが閾値時間tthに達した場合(Yes)は、ステップS17へ進み、IFLAGB=0とし、ステップS19へ進む。ステップS16においてタイマtが閾値時間tthに達していない場合(No)は、ステップS18へ進み、IFLAGB=1とし、ステップS19へ進む。
【0097】
ステップS19では、スイッチ操作判定部290は、少なくとも操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信しない場合(No)は、ステップS20へ進み、右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS40へ進む。
【0098】
ステップS20では、スイッチ操作判定部290は、タイマtが時間T1(図6参照)に達したか否か否かをチェックする。タイマtがT1に達した場合(Yes)は、ステップS21へ進み、タイマtをリセットする。タイマtがT1に達していない場合(No)は、ステップS14へ戻る。
【0099】
ステップS22では、付加電流出力制御部292は、フラグIFLAGAが1か否かをチェックする(「IFLAGA=1?」)。IFLAGA=1の場合(Yes)は、結合子(D)に従って、図13のステップS23へ進み、IFLAGA≠1の場合(No)は、一連の右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号による付加電流値IAdの電流波形生成と出力制御を終了し、ステップS01に戻る。
【0100】
ステップS23では、付加電流出力制御部292は、タイマtをスタートさせる。このタイマtの監視及び制御は、付加電流出力制御部292だけでなく、スイッチ操作判定部290でもなされている。
そして、ステップS24では、付加電流出力制御部292は、タイマtが間隔時間T3に達したか否かをチェックする(「t≧T3?」)。タイマtが間隔時間T3に達した場合(Yes)は、ステップS25へ進み、タイマtが間隔時間T3に達していない場合(No)は、ステップS50へ進む。
【0101】
ステップS25では、付加電流出力制御部292は、タイマtをリッセットし、ステップS26へ進み、タイマtをスタートさせる。このタイマtの監視及び制御は、付加電流出力制御部292だけでなく、スイッチ操作判定部290でもなされている。
ステップS27では、ステップS13において第2電流波形設定部295で生成されて入力され記憶部292bに一時記憶した第2の電流波形W2に従って、付加電流値IAdを加算器252(図4参照)に出力する(「生成された第2の電流波形W1に従って、付加電流値IAdを出力」)。この加算器252への付加電流値IAdの出力は、付加電流出力制御部292が、記憶部292bに一時記憶した第2の電流波形W2を所定の周期の時間ステップ毎に読み出し、付加電流値IAdとして加算器252に出力する。
【0102】
ステップS28では、加算器252が、q軸目標電流値ITG1に第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdを加算して、q軸目標電流値Iqとして減算器253(図3参照)に出力する。その後、通常の電動パワーステアリング装置100の制御部と同様にq軸実電流値Iq、d軸実電流値Idのフィードバック制御により、電動機11(図3参照)が駆動される。
【0103】
ちなみに、付加電流出力制御部292が第2の電流波形W2に基づいて所定の周期で時間ステップ毎に付加電流値IAdを出力した後は、0(ゼロ)信号を加算器252に出力する。つまり、加算器252は、操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じた右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号に対応して電動機11を所定量だけ回転させ転舵角目標変化量を実現した後に、それに対しての戻し操舵のために電動機11を所定量だけ逆回転させ中立位置に(直進状態の転舵角δ=0に)戻す。
【0104】
ステップS29では、スイッチ操作判定部290は、少なくとも操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信しない場合(No)は、ステップS27へ戻り、右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS30へ進む。ステップS30では、スイッチ操作判定部290は、ステップS29において検出した操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かを判定する。操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効と判定した場合(Yes)は、ステップS55へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS31へ進む。
ステップS31では、付加電流出力制御部292は、タイマtが時間T2に達したか否かをチェックする。タイマtが時間T2に達した場合(Yes)は、ステップS32へ進み、達していない場合(No)は、ステップS27へ戻る。ステップS32では、付加電流出力制御部292は、タイマタイマtをリセットする。
ステップS33では、付加電流出力制御部292は、記憶部292a,292bに一時記憶された第1の電流波形W1、第2の電流波形W2のデータを消去する。そして、これで、一連の右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号による付加電流値IAdの電流波形生成と出力制御を終了し、ステップS01に戻る。
【0105】
図12に戻って、ステップS19においてYesでステップS40へ進むと、スイッチ操作判定部290は、ステップS19において検出した操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かを判定する。スイッチ操作判定部290における操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かを判定は、前記したステップS03における判定方法と同じである。スイッチ操作判定部290が、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効と判定した場合(Yes)は、ステップS41へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS20へ進む。
ステップS41では、スイッチ操作判定部290は、フラグIFLAGBが0か否かをチェックする(「IFLAGB=0?」)。IFLAGB=0の場合(Yes)は、ステップS42へ進む。そうでない場合(No)は、ステップS20へ進む、つまり、スイッチ操作判定部290は、IFLAGB≠0の場合(No)は、ステップS41において操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから受信した右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受付けない(無視する)で、ステップS20へ進む。
【0106】
ステップS42では、スイッチ操作判定部290は、タイマtをリセットし、制御信号Scを付加電流出力制御部292へ出力する。そして、ステップS43では、付加電流出力制御部292は、スイッチ操作判定部290からの制御信号Scを受けて、付加電流値IAdの出力を0(ゼロ)にリセットする。つまり、付加電流出力制御部292は、記憶部292aに一時記憶された第1の電流波形W1のデータに従った付加電流値IAdの出力を中止する。続いて、ステップS44では、付加電流出力制御部292は、記憶部292a,292bに記憶された第1、第2の電流波形W1,W2それぞれのデータを消去する。その後、ステップS45では、スイッチ操作判定部290が、フラグIFLAGA,IFLAGBをともに0にリセットする(「IFLAGA=IFLAGB=0」)。ステップS45の後、結合子(B)に従って、図11のステップS04へ戻る。
【0107】
このステップS19からYesでステップS40〜S45、そして結合子(B)に従って、ステップS04への制御の流れは、記憶部292aに記憶された第1の電流波形W1のデータに従って、付加電流値IAdを出力中に、閾値時間tthを経過した場合は、IFLAGB=0となり、スイッチ操作判定部290が、新たな操作スイッチ2aL,2aRの操作を受付けて、それによる修正操舵をすることを意味する。
これは、タイマtが閾値時間tthを経過しており、付加電流値IAdの絶対値は波高(Ho×K1)/e以下まで低下しており、操向ハンドル2に与える動きの違和感は軽微である。そこで、次の修正操舵の操作を操作スイッチ2aL,2aRから受付けることが可能とし、運転者の要求操作に迅速に応えることを目的とした制御の流れである。
【0108】
図13のステップS24においてNoでステップS50へ進むと、スイッチ操作判定部290は、少なくとも操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信しない場合(No)は、ステップS24へ進み、右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS51へ進む。ステップS51では、スイッチ操作判定部290は、ステップS50において検出した操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かを判定する。スイッチ操作判定部290における操作スイッチ2aL,2aRの操作は有効か否かを判定は、前記したステップS03における判定方法と同じである。スイッチ操作判定部290が、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効と判定した場合(Yes)は、ステップS52へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS24へ進む。
ステップS52では、スイッチ操作判定部290は、タイマtをリセットし、結合子(C)に従って、ステップS43へ進む。
【0109】
このステップS24からNoでステップS50〜S52と進み、結合子(C)を介してステップS43〜S45、更に結合子(B)を介してステップS04へと進む制御の流れは、記憶部292aに記憶された第1の電流波形W1のデータに従って、付加電流値IAdを出力した後に、間隔時間T3だけタイマtが経過するのを待って、記憶部292bに記憶された第2の電流波形W1のデータに従って、付加電流値IAdを出力しようとして待機している間に、スイッチ操作判定部290が、新たな操作スイッチ2aL,2aRの操作を受付けて、それによる修正操舵をすることを意味する。
【0110】
図13のステップS30においてYesでステップS55に進むと、スイッチ操作判定部290は、タイマtをリセットし、制御信号Scを付加電流出力制御部292に出力する。その後、結合子(C)に従って、図12のステップS43へ進む。
このステップS30からYesでステップS55、結合子(C)に従ってステップS43〜S45へ、更に結合子(B)に従ってステップS04への制御の流れは、付加電流出力制御部292が、記憶部292bに記憶された第2の電流波形W2のデータに従って、付加電流値IAdを出力中に、スイッチ操作判定部290が、新たな操作スイッチ2aL,2aRの操作を受付けると、第2の電流波形W2のデータに従った付加電流値IAdの出力を中止し、直ちに新たな操作スイッチ2aL,2aRの操作に対応した新たな修正操舵をすることを意味する。
【0111】
以上で、付加電流演算部300Aにおける付加電流の生成及び出力制御の流れの説明を終わる。
【0112】
本実施形態によれば、操向ハンドル2(図1参照)の操作スイッチ2aL,2aRいずれかの1回のオン状態への操作により、オン状態の時間的長さに関係なく、車速VSに応じた第1の電流波形W1(図6参照)を生成して、所定の修正操舵を操向ハンドル2の回動操作(腕力を使った操舵入力)によらず行うことができる。操向ハンドル2による修正操舵の場合には、例えば、1Nm程度の操舵力を必要としていたものが、操作スイッチ2aL,2aRの操作に置き換わり、運転者の操舵時の負担が軽減される。
【0113】
操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の保持時間は、運転者の運動神経や時間感覚、操向ハンドル2の操舵角θに伴う操舵反力等によって影響を受ける。また、スライド式の操作スイッチ2aL,2aRであるので、操作スイッチ2aL,2aRを操作中に路面からのキックバックにより操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の保持時間に長短の変化を生じる場合もある。
従って、操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の保持時間に応じて修正操舵の量を設定することは、運転者が期待した修正操舵とならず違和感を与えたり、逆修正操舵を必要としたりする可能性があるので、本実施形態のように、1回のオン状態の検出で所定の修正操舵を行う方が運転者に操作スイッチ2aL,2aRの操作を安心して使用できる。
【0114】
また、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効として受付ける制御を、前記した表1に示した第1の方法又は前記した表2に示した第2の方法で設定しているので、操作スイッチ2aL,2aRをスライド操作しにくい操舵角θの状態で、操作スイッチ2aL,2aRを運転者が何らかの原因で誤操作しても、図11〜図13のフローチャートのステップS03,S30,S40,S51において修正舵信号として受付けないので、運転者に誤操作による違和感を与えることがない。
【0115】
また、表2のような操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効として受付ける第2の方法の場合、操舵角θが−α≦θ≦+αの外の範囲であっても、操作スイッチ2aL,2aRの操作方向が修正操舵の方向と一致し、直感的に運転者に対して修正操舵の操作方向が明確に認識されやすい側の操作スイッチは有効とすることによって、付加電流値IAdを出力させることができるので、操舵角θのより広範囲において運転者が意図した方向の確実な修正操舵を、操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRで行える。
【0116】
また、1回の修正舵信号による第1の電流波形W1を生成して、その第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを一定周期の時間ステップで加算器252(図3参照)に出力中に、タイマtが閾値時間tth以上になるまでは、次の修正操舵の信号を受付けないので、運転者に予想外の修正操舵が発生することが防止できる。
このようなことは、操作スイッチ2aL,2aRを、例えば、左方向の修正操舵の操作をしている最中に操向ハンドル2に更に左方向に回動させるような外乱が入り操作スイッチ2aL,2aRが右方向の修正操舵の信号を発生させる場合に生じる。
【0117】
更に、本実施形態では、スイッチ操作判定部290において操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効と判定された際に、そのときの操舵角θが中立位置近傍の所定の範囲R2θ内にあるときは、第1電流波形設定部291Aにおいて修正操舵のための第1の電流波形W1を生成させて、付加電流出力制御部292から第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを出力する。更に、第2電流波形設定部295に修正操舵に対する戻し操舵のための第2の電流波形W2を生成させて、付加電流出力制御部292から第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdを出力する。
このとき、第2の電流波形W2は、その波高H2、出力する時間T2とも、又は、いずれか一方を第1の電流波形W1の波高H1、出力する時間T1よりも小さい値としてある。
【0118】
ここで、図14を参照しながら車速VSが小さくほぼ直進(操舵角θが中立位置近傍)状態を想定する。そして、比較例として、操作スイッチ2aL,2aRを操作して修正操舵をする際に、第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdのみによる修正操舵をする車両の軌跡を考える。
図14は、第1の実施形態における走行ハンドルが中立近傍の際に、操作スイッチ2aRを操作して、右方向の修正操舵をした場合の車両の走行軌跡の説明図であり、(a)は、付加電流値の時間推移の説明図、(b)は、前輪の向きの時間変化の説明図、(c)は、車両の走行軌跡の比較例と対比した作用効果の説明図である。
図14の(c)に破線で示すように比較例では、最初に車両が車線の一方側端(例えば、路肩線)に接近してきたので、運転者は、車線中央に移行させるために操作スイッチ2aL,2aRによる右側修正舵の操作をするが、車速VSが小さくセルフアライニングトルクの発生が弱いので、ステアリング系やサスペンション系のフリクションのために前輪10F,10F(図1参照)が転舵されたままの状態になり、車線の中央よりも車線の他方側(例えば、センタライン)のラインに接近する。その結果、運転者には再び修正操舵が必要となり、再び反対方向(左側)の修正操舵のために操作スイッチ2aL,2aRによる左側修正舵の操作をすると車両が緩やかなジグザグ運転をすることになる。
これに対し、本実施形態によれば、電動パワーステアリング装置100は、車両がほぼ直進状態でセルフアライニングトルクが小さい場合でも、図14の(a)に示すように修正操舵用の第1の電流波形W1に基づいて付加電流値IAdとして出力させた後、所定の間隔時間T3を経た後、第1の電流波形W1と逆方向の戻し操舵用の第2の電流波形W2に基づいて付加電流値IAdとして出力するので、図14の(b)に示すように前輪10F,10Fは最初ほぼ直進状態から第1の電流波形W1に基づいた付加電流値IAdにより右修正操舵に従った右転舵角をとり、その後第2の電流波形W2に基づいた付加電流値IAdにより自動的な戻し操舵により右転舵角から直進状態に戻る。従って、図14の(c)に実線で示した車両の軌跡のように操作スイッチ2aL,2aRの操作により滑らかに車線中央に車両を移行させることができる。つまり、比較例のような運転者による操作スイッチ2aL,2aRを用いた修正操舵の繰り返しによる車両の緩やかなジグザグ運転の発生を抑制できる。
【0119】
また、本実施形態によれば、第2の電流波形W2は、車速VSに応じてその波高H1、時間T2の少なくともいずれかを第1の電流波形W1に対して小さくするように設定しているので、車速VSが大きくなり、セルフアライニングトルクが大きくなるのに応じて、修正操舵用の第1の電流波形W1に対する戻し操舵用の第2の電流波形W2による電動機11(図1参照)の修正操舵後の逆方向への回転が抑制され、操作スイッチ2aL,2aRの操作による安定した修正操舵が実現できる。
【0120】
更に、本実施形態によれば、間隔時間T3も車速VSに応じ、例えば、車速VSの値が小さいときは間隔時間T3を比較的大きく設定し、車速VSの値が大きいときは間隔時間T3を比較的小さく設定するので、車速VSに応じた修正操舵の効果を確実に確保することができる。特に、高速でのほぼ直進状態における修正操舵後の戻し操舵開始までの間隔時間T3を短くすることにより、迅速な修正操舵を実現することができる。
【0121】
ちなみに、本実施形態によれば、付加電流演算部300Aは、所定の操舵角θの範囲R2θ内において操作スイッチ2aL,2aRの操作により修正操舵用に生成された第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdを出力後に、その修正操舵に対する戻し操舵用の第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdを出力する場合は、間隔時間T3の間、又は第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdを加算器252に出力中において、操作スイッチ2aL,2aRの有効な新たな操作がなされたときは、第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdを加算器252に出力するのを注視する。つまり、操作スイッチ2aL,2aRの有効な新たな操作に対する修正操舵の制御を優先する。従って、運転者の操作スイッチ2aL,2aRの新たな操作を、その前の操作スイッチ2aL,2aRによる第2の電流波形W2に基づく付加電流値IAdの出力よりも優先することができ、運転者の意図した修正操舵が可能となり、操作スイッチ2aL,2aRによる修正操舵に対し、付加電流演算部300Aがそれと逆方向の操舵をして、運転手に違和感を与えることが抑制できる。
【0122】
《第1の実施形態の変形例》
第1の実施形態では、出力波形監視部293は、第1電流波形設定部291Aにおいて図6に示したように第1の電流波形W1を生成されたのを受け、付加電流出力制御部292が第1の電流波形W1に基づいて付加電流値IAdの出力を開始してから波高(H0×K1)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K1)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290に入力するものとしたがそれに限定されるものではない。
出力波形監視部293は、図12のステップS16の代わりに、第1電流波形設定部291Aから入力された第1の電流波形W1に基づいて、図4に破線で示した矢印のように付加電流出力制御部292から出力される時間ステップごとの付加電流値IAdの値を監視し、付加電流値IAdの値が最大波高(H0×K1)を過ぎてから(H0×K1)/eの値を下回った場合(Yes)に、ステップS18でIFLAGB=0とし、(H0×K1)/eの値をまだ下回らない場合(No)にステップS17でIFLAGB=1とし、スイッチ操作判定部290にフラグIFLAGBの値を出力するようにしても良い。
【0123】
《第2の実施形態》
次に、図15から図19を参照しながら、適宜図1、図3、図4を参照して本発明の第2の実施形態に係る電動パワーステアリング装置100について説明する。
第2の実施形態における制御装置(制御部)200Bが第1の実施形態における制御装置200Aと異なる点は、付加電流演算部300Aが付加電流演算部(付加電流演算手段)300Bに置き換わる点である。第1の実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0124】
図4に示すように、付加電流演算部300Bは、スイッチ操作判定部290、第1電流波形設定部291B、付加電流出力制御部292、出力波形監視部293、第2電流波形設定部295を含んで構成され、付加電流出力制御部292から出力される付加電流値IAdが加算器252に入力される。そして、加算器252において前記したように加算器250から出力されたq軸目標電流値ITG1と付加電流値IAdとが加算され、減算器253にq軸目標電流値Iqとして出力される。
以下に、詳細に第1電流波形設定部291Bの機能を説明する。
なお、付加電流演算部300Bでの制御処理は、一定の処理周期、例えば、10msecの周期で、前記したベース信号演算部220、イナーシャ補償信号演算部210、ダンパ補正信号演算部225、q軸PI制御部240、d軸PI制御部245、2軸3相変換部260、PWM変換部262、3相2軸変換部265、励磁電流生成部275等と同様に付加電流演算部300BでCPUにおいて実行されるものである。
【0125】
(第1電流波形設定部291B)
次に、図15から図18を参照して第1電流波形設定部291Bについて説明する。図15は、第2の実施形態の図4に示された第1電流波形設定部291Bにおける第1の電流波形W1の生成方法の説明図であり、(a)は、基準の電流矩形波の時間幅を車速VSに応じて変化させて設定する説明図、(b)は、基準の電流矩形波の時間幅の車速VSに応じた変化の説明図である。
【0126】
第1電流波形設定部291Bは、スイッチ操作判定部290から第1電流の電流波形生成の指令信号SW1を入力されたとき、図15の(b)に示すように基準の付加電流矩形波の時間幅Tw(通電期間)を車速VSに応じて設定して、図15の(a)に示す基準の付加電流矩形波を先ず生成する。
ちなみに、基準の付加電流矩形波の時間幅Twは、図14の(b)に示すように、車速VSがV1、例えば、約40km/h以下では一定値であり、車速VSがV2未満まで増加するにつれて、例えば、直線的に低減し、車速VSがV2、例えば、約100km/h以上では、所定の飽和値の一定値に固定される。
この基準の付加電流矩形波の波高H0及び車速VSに応じた時間幅Twのデータは、予め実験的に設定されたものであり、ROMに予め格納されており、それを読み出して用いる。次いで、第1電流波形設定部291Bは、生成した基準の付加電流矩形波にゲインK1を乗じて波高H1を設定する。以下のその波高H1の設定について説明する。
【0127】
次に、図16を参照して第1の電流波形W1の波高H1を設定する方法について説明する。図16は、図4における第1電流波形設定部291Bで、車速VSに応じた第1の電流波形W1の波高を設定するゲインK1の説明図である。第1電流波形設定部291Bは、予めROMに格納された図16に示すようなゲイン特性データを参照して、車速VSに応じたゲインK1の値を取得して、波高H0、時間幅Twの基準の付加電流矩形波に乗じて波高H1の矩形電流波形を得る。
ゲイン特性データは、図16に示すように符号Y0で示す基準ゲイン曲線Y0と、符号Y1で示す切り増し修正舵ゲイン曲線Y1、符号Y2で示す戻し修正舵ゲイン曲線Y2を有している。基準ゲイン曲線Y0、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1及び戻し修正舵ゲイン曲線Y2は、それぞれ車速VSが遅いときは1.0以上のゲインK1の値となるが、車速VSが速くなると徐々にゲインK1の低下度合いが急になりほぼ直線的に低下し、所定の車速VS以上でほぼ飽和したゲインK1の値となる特性を示す。
【0128】
そして、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1は、車速VSが前記したV1の値を超えると基準ゲイン曲線Y0に対し上側に徐々に離れて、基準ゲイン曲線Y0のゲインK1と切り増し修正舵ゲイン曲線Y1のゲインK1との差分が増大し、車速VSが前記したV2の値以上で一定の差となる。
これに対し、戻し修正舵ゲイン曲線Y2は、車速VSが前記したV1の値を超えると基準ゲイン曲線Y0に対し下側に徐々に離れて、基準ゲイン曲線Y0のゲインK1と戻し修正舵ゲイン曲線Y1のゲインK1との差分が増大し、車速VSが前記したV2の値以上で一定の差となる。
【0129】
そして、第1電流波形設定部291Bは、車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値以内の範囲では、基準ゲイン曲線Y0を用いて設定した車速VSに応じたゲインK1を乗じて波高H1の矩形電流波形を得ることができる。ちなみに、前記した車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置を中心にした左右の所定の操舵角θの第3の閾値以内の範囲は、例えば、前記した操舵角θの中立位置を中心に設定された所定の範囲R1θと同じかそれよりも小さい範囲である。
車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値を左右に超えた範囲では、操舵角θの符号とスイッチ操作判定部290から入力される修正操舵の方向を示す符号が同じか異なるかを判定して、その結果で切り増し修正舵ゲイン曲線Y1又は戻し修正舵ゲイン曲線Y2を使い分ける。
【0130】
つまり、車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値を左右に超えた範囲では、操舵角θの符号とスイッチ操作判定部290から入力される修正操舵の方向を示す符号が同じ場合は、切り増し修正操舵を意味し、符号が異なる場合は、戻し修正操舵を意味する。
切り増し修正操舵と判定された場合は、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1を用いて設定した車速VSに応じたゲインK1を基準の付加電流矩形波に乗じて波高H1の矩形電流波形を得る。
戻し修正操舵と判定された場合は、戻し修正舵ゲイン曲線Y2を用いて設定した車速VSに応じたゲインK1を基準の付加電流矩形波に乗じて波高H1の矩形電流波形を得る。
ちなみに、前記した中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値は、車速VSが小さいときは中立位置を中心にして左右に広く、車速VSが大きくなればそれに応じて狭くするように設定されている。
【0131】
このように、基準ゲイン曲線Y0、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1、戻し修正舵ゲイン曲線Y2を使い分けるのは、セルフアライニングトルクが車速VSに応じて変化し、操舵角θが中立位置から左右に所定の操舵角θの第3の閾値を超えた状態で、操作スイッチ2aL,2aRを用いて修正操舵を行うとき、切り増し側と戻し側では同じ転舵角δの目標変化量を得ようとしても電動機11の出力すべき操舵補助力に差が生じるので、それを補正して安定に転舵角δの目標変化量を得るためである。
【0132】
このゲイン特性データは、電動パワーステアリング装置100に用いられる電動機11の電流−出力特性と、車両の転舵時の車速VSに応じた転舵負荷、及び、車速に応じた1つの付加電流値IAdの電流波形の基準波形設定部291Bにおける基準の付加電流矩形波の時間幅Twとの組み合わせを考慮した上で、前輪10F,10F(図1参照)を転舵させる転舵角目標変化量の設定に依存して予め設定されるものである。
【0133】
先ず、1つの第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdによる転舵角目標変化量は、車速VSが遅いときは大きく、速いときは、小さくなるように設定する。例えば、約100km/h以上では転舵角目標変化量を0.5degとし、約40km/h以下では転舵角目標変化量を3degとし、40〜100km/hの間では直線的に内挿した転舵角目標変化量となるように設定する。その上で、前記転舵角目標変化量になるように実車による試験又はシミュレーション試験で電動機11の電流−出力特性、前輪10F,10Fの路面との転舵負荷を考慮して前記した図15の基準の付加電流矩形波の時間幅Tw、図16のゲイン特性データは設定される。
【0134】
次に、図17を参照して第1電流波形設定部291Bにおける矩形電流波形の立ち上がりと立下りの波形整形について説明する。図17は、図4における第1電流波形設定部291Bで、矩形電流波形に一時遅れ処理を行うために用いる立ち上がり用時定数τ1と、立ち下がり用時定数τ2の車速VSに応じた設定の説明図である。
第1電流波形設定部291Bは、車速VS等に応じた波高H1の矩形電流波形の立ち上がりと立ち下がりを、なだらかな立ち上がりと立ち下がりを有する第1の電流波形W1に整形させる(一時遅れ処理させる)ための所定の時定数τ1,τ2を設定し、波形整形する。この時定数τ1,τ2の車速VSの値に応じた特性データは、予めROMにマップとして格納されている。
時定数τ1は立ち上がりの一次遅れ処理用のものであり、時定数τ2は立ち下がりの一次遅れ処理用のものである。以下では、時定数τ1を「立ち上がり用時定数τ1」、時定数τ2を「立ち下がり用時定数τ2」ともいう。
図17に示すように、時定数τ2の値は時定数τ1の値よりも大きく設定されるが、更に、車速VSに応じて、車速VSがV1、例えば、約40km/h以下では所定の一定値であり、車速VSがV1を超えてV2未満まで、例えば、約100km/h未満までは車速VSが増加するにつれて同じ減少率で低減させ、車速VSがV2以上では、所定の一定値とする。
【0135】
このように時定数τ1,τ2の値を車速VSに応じて変化させるのは、操作スイッチ2aL,2aRの操作による修正操舵の応答性として、車速VSが速いほどより速い応答性が求められるためである。これは、高車速ではより速い修正操舵の応答性が求められるためである。
【0136】
次に、図18を参照して第1電流波形設定部291Bにおいて生成された第1の電流波形W1について説明する。図18は、図4に示された第1電流波形設定部291Bにおいて生成された第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの時間変化の説明図であり、(a)は、第1の電流波形W1に基づき出力される付加電流値IAdの時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが第1の電流波形W1に基づいて出力される付加電流値IAdの電流波形に影響を与えないことの説明図である。
第1電流波形設定部291Bは、波高H1の矩形電流波形を生成した後、設定した立ち上がりの一次遅れ処理用の時定数τ1と立ち下がりの一次遅れ処理用の時定数τ2を用いて、一次遅れの立ち上り、立ち下がりの整形処理をした第1の電流波形W1を生成して、時間T1を演算(図18のt4A,t4B,t4Cに対応)し、第1の電流波形W1のデータと時間T1を付加電流出力制御部292及び第2電流波形設定部295へ出力するとともに、第1の電流波形W1のデータを出力波形監視部293にも出力する。
【0137】
図18の(a)に示すように基準の付加電流矩形波の時間幅Tw(図15参照)及びゲインK1(図16参照)の値が車速VSの値に応じて変化することで、車速VSの値が小さいほど基準の付加電流矩形波の時間幅Twが大きくなるとともにゲインK1の値が大きくなり符号X2Cで示すような第1の電流波形W1となり、車速VSの値が大きいほど基準の付加電流矩形波の時間幅Tw及びゲインK1の値が小さくなり符号X2A,X2Bで示すような第1の電流波形W1となる。
ちなみに、符号X2Aで示す第1の電流波形W1は、ゲインK1=1.0の場合であり、符号X2Bで示す第1の電流波形W1は、ゲインK1<1.0の場合であり、符号X2Cで示す第1の電流波形W1は、ゲインK1>1.0の場合である。
【0138】
第1の電流波形W1は、図18の(a)に示したように矩形波でなくなだらかに立ち上がり、なだらかに立ち下がる波形としたのは、第1の実施形態と同じ目的である。
なお、第1の電流波形W1は、時間T1と波高H1が車速VSの値に応じて変化させることで、より柔軟に前記した転舵角目標変化量が実現し易くなる。
【0139】
図18の(a)において時間t1は、運転者が操作スイッチ2aL,2aRのいずれか一方を操作してオン状態になったタイミングを示し、時間t4A,t4B,t4Cは時間t1で立ち上がりを開始した第1の電流波形W1が0(ゼロ)にまで立ち下がったタイミングを示す。
ちなみに、時間t1は、前記した図11のフローチャートにおけるステップS06のタイマtスタートのタイミングに対応する。そして、時間t3(図18の(a)では、時間t3A,t3B,t3Cで表示)は図12のフローチャートにおけるステップS16の閾値時間tthに対応する。
なお、車速VSの値に応じた第1の電流波形W1は、図15の(a)に示した基準の付加電流矩形波にプラスマイナス(±)符号とゲインK1とを乗じ、更に、立ち上がり一次遅れ処理用の時定数τ1と立ち下がり一次遅れ処理用の時定数τで一次遅れの整形処理されたものであり、時間t1〜t4(図18の(a)では、時間t4A,t4B,t4Cで表示)までの範囲の所定の時間T1の電流波形である。そして図18の(a)に示した時間t3(図18の(a)では、時間t3A,t3B,t3Cで表示)は、第1の電流波形W1が実際に出力される際に、例えば、(H0×K1)/eの値になったときの時間であり、本実施形態ではこの時間t3(tth)は、一定値ではない。
ちなみに、H0は基準の付加電流矩形波の波高を示し、eは自然対数の底の値である。
【0140】
そして、図18の(a)の時間軸に対応させて、図18の(b)に示した横棒は、操作スイッチ2aL,2aRのオン状態が時間t1から開始されてオン状態が終わる時間がt2A,t2B,t2Cと異なっても、第1の電流波形W1に基づいて出力される付加電流値IAdは、時間t1〜t4(図18の(a)では、時間t4A,t4B,t4Cで表示)の1つの付加電流値IAdの電流波形のみしかスイッチ操作判定部290が発生させないことを説明するためのものである。
【0141】
(出力波形監視部293)
出力波形監視部293は、第1電流波形設定部291Bにおいて図17の(a)に示したように付加電流値IAdの電流波形が生成された場合に、付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高(H0×K1)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K1)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290に入力するものである。本実施形態では、前記したように閾値時間tthは固定値ではない。
【0142】
ここで、閾値時間tthの設定の考え方は、付加電流値IAdの電流波形の出力が立ち下がりの状態になり、所定の修正操舵がほぼ完了しているとみなせる波高にまで減衰しているとみなせる観点と、現在出力中の付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止しても運転者に違和感をそれ程与えない観点から設定するものであり、(H0×K1)/eの値を下回ったタイミングに限定されるものではない。
【0143】
ちなみに、出力波形監視部293は、第1電流波形設定部291Bにおいて図18の(a)に示したように付加電流値IAdの第1の電流波形W1を生成された場合に、第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高H1(=H0×K1)に達して立ち下がり始め、その波高が(H1)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290に入力するものである。
【0144】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同じ作用効果に加え次の作用効果がある。
本実施形態では、第1の実施形態のように付加電流値IAdの第1の電流波形W1の波高H1をゲインK1で車速VSに応じて変化させるだけでなく、付加電流値IAdの第1の電流波形W1の時間T1も変化させている。従って、低車速の状態でより大きな転舵角目標変化量を設定する場合に、付加電流値IAdの電流波形の設定生成の自由度が増え、設定が容易になる。
また、高速走行時に素早い修正操舵を操作スイッチ2aL,2aRで行えるように容易に設定できる。
【0145】
さらに、図16に示したようにゲインK1のゲイン特性曲線として、基準ゲイン曲線Y0、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1及び戻し修正舵ゲイン曲線Y2の3種を用意し、車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値以内の範囲では基準ゲイン曲線Y0でゲインK1を設定し、操舵角θの第3の閾値より外では、操作スイッチ2aL,2aRの操作方向が切り増し修正操舵の場合は切り増し修正舵ゲイン曲線Y1でゲインK1を設定し、戻し修正操舵の操作の場合は戻し修正舵ゲイン曲線Y2でゲインK1を設定するので、前輪10F,10Fのセルフアライメントによる操舵力の変化を考慮した運転者が期待する所定の修正操舵が切り増し方向、戻し方向に対して同等に実現可能となる。
【0146】
《第2の実施形態の第1の変形例》
第2の実施形態では、出力波形監視部293は、第1電流波形設定部291Bにおいて図18に示したように付加電流値IAdの第1の電流波形W1を生成された場合に、第1の電流波形W1に基づいた付加電流値IAdの出力電流が付加電流出力制御部292から出力開始されてから波高(H1)に達して立ち下がり始め、その波高が(H1)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290に入力するものとしたがそれに限定されるものではない。
出力波形監視部293は、図12のステップS16において、図4に破線で示した矢印のように付加電流出力制御部292から出力される一定周期の時間ステップごとの第1の電流波形W1に基づく付加電流値IAdの値を監視し、付加電流値IAdの値が最大波高H1を過ぎてから(H1)/eの値を下回った場合(Yes)となり、ステップS17でIFLAGB=0とし、(H1)/eの値をまだ下回らない場合(No)にステップS48でIFLAGB=1とし、スイッチ操作判定部290にフラグIFLAGBの値をスイッチ操作判定部290に出力するようにしても良い。
【0147】
《第2の実施形態の第2の変形例》
第2の実施形態では、第1電流波形設定部291BにおいてゲインK1を設定して基準の電流値矩形波に乗じるものとしたが、その機能をなくし、基準の電流値矩形波の時間幅Twのみを車速VSに応じて変化させ、転舵角目標変化量を設定するようにしても良い。
【0148】
《第2の実施形態の第3の変形例》
更に、第2の実施形態では、第1電流波形設定部291Bは、車速VSに応じてゲインK1を設定することとしたがそれに限定されるものではない。
付加電流演算部300Bは、横加速度(走行状態情報)を検出する横加速度センサから横加速度を示す信号を第1電流波形設定部291Bに入力されるように構成されていても良い。その場合、電流波形設定部291Bは、横加速度の絶対値が所定の閾値未満では1.0で、所定の閾値以上になると横加速度の絶対値が大きくなるほどその値を減少させるように予め設定された第3のゲインK3を設定し、ゲインK1とゲインK3の積を補正されたゲインK1として用いるようにしても良い。
このようにすることにより、高速で、例えば、操舵角θが−15〜+15degで旋回走行中に、操作スイッチ2aL,2aRを操作しても、修正操舵の量を小さくでき、運転者に違和感を与えなくて済む。
これは、運転者は高速での旋回中は操向ハンドル2を比較的強く握り路面からの反力に対して車体の旋回走行を安定させるようにするのが通常であり、そのような場合に操作スイッチ2aL,2aRでの修正操舵の量が大きいと違和感を与えやすいためである。
【0149】
《操作スイッチの操作を有効とする操舵角θの範囲R1θ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速に応じて設定する変形例》
前記した第1、第2の実施の形態及びそれらの変形例においては、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効とする操舵角θの範囲R1θ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値については、固定値としてきたがそれに限定されない。スイッチ操作判定部290が、図4に点線で示すように車速VSを示す信号を取得する。図19は、操作スイッチの操作を有効とする操舵角θの範囲R1θ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速に応じた設定とする説明図である。車速VSに応じて可変に設定する。ちなみに、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効とする操舵角θの範囲R1θ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値は、図19に示すように、車速VSがV1、例えば、約40km/h以下では一定値であり、車速VSがV2未満まで増加するにつれて低減し、車速VSがV2、例えば、約100km/h以上では、所定の飽和値の一定値にそれぞれ固定される。
この図19に示すようなデータは、予めスイッチ操作判定部290に記憶されている。
【0150】
このように操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効とする操舵角θの範囲R1θ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速VSに応じて車速VSが大きくなるほど操舵角θの範囲R1θと所定の第2の閾値とを低減することにより、車速VSが大きくなるほど大きな旋回半径での旋回運動中に操作スイッチ2aL,2aRの操作による転舵角の所定の変化量を許容することなる。それにより、高速旋回走行時の操作スイッチ2aL,2aRを用いた修正操舵の操作による横方向加速度の変化による乗り心地の悪さを防止することができる。
【0151】
《操作スイッチの変形例》
前記した第1、第2の実施の形態及びそれらの変形例においては、操向ハンドル2に設けられた操作スイッチ2aL,2aRは、スライド操作方式のものとしたが、それに限定されるものではなく、例えば、操作スイッチ2aL,2aRのそれぞれ上側、下側を押下することシーソー式に傾いて出力信号を出し、押下されていない状態では、内蔵されたスプリング等の弾性力により中立位置に復帰するように構成されているものでも良い。
また、図20は、図1における操向ハンドル2に設けられた操作スイッチ2aL,2aRの変形例の説明図であるが、図20に示すように操作スイッチ2aLは、左方向の修正操舵用のスイッチ、操作スイッチ2aRは、右方向の修正操舵用のスイッチとしても良い。このような一方向のみの修正操舵用の操作スイッチ2aL,2aRは、図20の(a)に示すような押しボタンスイッチ方式、図20の(b)に示すようなスライドスイッチ方式でも良い。
なお、有効な操舵角θの範囲R1θを設定する際に考慮する角度αdegを図2と同様に定義してある。
【0152】
《第1、第2の実施の形態及びそれらの変形例の他の操舵装置への適用》
第1、第2の実施形態及びその変形例では、車両の操舵装置として前輪10F,10Fを操向ハンドル2で操舵するときに電動機11の操舵補助力で操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置100において説明し、前輪10F,10Fの修正操舵を操作スイッチ2aL,2aRを用いて行うものとしたがそれに限定されるものではない。
【0153】
(ステアバイワイヤ方式の操舵装置への適用)
第1、第2の実施形態及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bは操向ハンドル2がラック軸8を直接動かすように機械的に接続されていないステアバイワイヤ方式の操舵装置にも適用できる。
操向ハンドル2の操舵角θに基づいてラック軸8を左右に駆動する第1の電動機(転舵モータ)を制御するとともに、操向ハンドル2に操舵反力を付与するための第2の電動機(操舵反力モータ)を制御する制御装置において、前記第1の電動機の駆動をする目標電流値に第1の実施形態、第2の実施形態、及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bから出力される付加電流値IAdの電流波形を操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じて加算するようにして容易に実現でき、同じ作用効果を得ることができる。
【0154】
(舵角比可変装置を有した操舵装置への適用)
操向ハンドル2の操舵角θが増減されて前輪10F,10Fに伝達されるようにする舵角比可変装置を有した操舵装置に対しても、第1の実施形態、第2の実施形態、及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bから出力される付加電流値IAdの電流波形を操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じて加算するようにして容易に実現でき、同じ作用効果を得ることができる。
【0155】
(後輪操舵装置への適用)
第1、第2の実施形態及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bは操向ハンドル2の操作に伴って後輪を転舵する後輪操舵装置の制御装置にも適用できる。
その場合、後輪操舵装置の制御装置において操向ハンドル2の操作に伴って後輪の目標転舵角を設定する目標後輪転舵電流値に第1の実施形態、第2の実施形態、及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bから出力される付加電流値IAdの電流波形を操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じて加算するようにして容易に実現でき、同じ作用効果を得ることができる。
なおその場合、後輪の転舵角目標変化量は、前輪に対するよりも小さく設定する。
【符号の説明】
【0156】
2 操向ハンドル(ステアリングホイール)
2aL 操作スイッチ(操作部)
2aR 操作スイッチ(操作部)
10F 前輪(転舵輪)
11 電動機(転舵モータ)
30 操舵トルクセンサ(トルクセンサ)
35 車速センサ(車速検出手段)
50 レゾルバ
52 操舵角センサ
60 インバータ
100 電動パワーステアリング装置(電動ステアリング装置)
200,200A,200B 制御装置(制御部)
250 加算器
290 スイッチ操作判定部
291A,291B 第1電流波形設定部
292 付加電流出力制御部
292a,292b 記憶部
293 出力波形監視部
295 第2電流波形設定部
300A,300B 付加電流演算部(付加電流演算手段)
R1θ 範囲
R2θ 範囲(ステアリングホイールの操舵角が中立位置に近い所定値の範囲)
T1 時間(第1電流の継続時間)
T2 時間(第2電流の継続時間)
T3 間隔時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪を転舵する転舵モータと、運転者が操舵するステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、前記ステアリングホイールの操舵と前記操作部から出力される前記電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき前記転舵モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記操作部から出力される前記電気信号に基づき前記転舵モータを制御する場合に、前記操作部の操作方向に基づいた方向に前記転舵モータに第1電流を出力し、その後、前記第1電流と逆の方向に前記転舵モータに第2電流を出力することを特徴とする電動ステアリング装置。
【請求項2】
転舵輪を転舵する転舵モータと、運転者が操舵するステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、前記ステアリングホイールの操舵と前記操作部から出力される前記電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき前記転舵モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記操作部から出力される前記電気信号に基づき前記転舵モータを制御する場合に、前記ステアリングホイールの操舵角が中立位置に近い所定値の範囲のときは、前記操作部の操作方向に基づいた方向に前記転舵モータに第1電流を出力し、その後、前記第1電流と逆の方向に前記転舵モータに第2電流を出力することを特徴とする電動ステアリング装置。
【請求項3】
前記第2電流の絶対値は、前記第1電流の絶対値よりも小さいことを特徴とする請求項1又請求項2に記載の電動ステアリング装置。
【請求項4】
前記操作部の1回の操作により出力される前記第1電流の継続時間と前記第2電流の継続時間とでは、前記第2電流の継続時間の方が短いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動ステアリング装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1電流を前記転舵モータに出力完了してから前記転舵モータに前記第2電流を出力開始するまでの間隔時間を所定時間とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電動ステアリング装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1電流の絶対値、前記第2電流の絶対値、前記第1電流の継続時間、前記第2電流の継続時間、及び、前記第1電流を前記転舵モータに出力完了してから前記転舵モータに前記第2電流を出力開始するまでの間隔時間のうち少なくとも一つは車速に応じて可変とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電動ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−240594(P2012−240594A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114393(P2011−114393)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】