説明

電動ディスクブレーキ装置

【課題】電動ディスクブレーキ装置におけるロータ振れの発生を検知する。
【解決手段】車輪とともに回転するディスクロータの車両内側および車両外側の摩擦摺動面に相対して、インナ側ブレーキパッドおよびアウタ側ブレーキパッドがそれぞれ配置される。電動モータ30は、駆動機構を介してインナ側ブレーキパッドおよびアウタ側ブレーキパッドをディスクロータの摩擦摺動面に押し付ける。第1押付力検出部62aは、インナ側ブレーキパッドの摩擦摺動面への押付力を検出する。第2押付力検出部62bは、前記アウタ側ブレーキパッドの前記摩擦摺動面への押付力を検出する。モータ制御部68は、第1押付力検出部62aおよび第2押付力検出部62bの検出信号に基づいて、電動モータ30によるインナ側ブレーキパッドおよびアウタ側ブレーキパッドの押付力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを使用してディスクロータに制動力を発生させるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ディスクブレーキ装置は、ドライバーのブレーキペダル操作により生じる制動要求に応じて、電動モータを使用してブレーキパッドをディスクロータに押し付けて制動力を発生させる。ブレーキパッドとディスクロータとの接触による摩耗によって、ディスクロータに肉厚差が生じてくる。そのため、制動要求に応じてブレーキパッドの移動量を制御する方式よりも、制動要求に応じてブレーキパッドの押し付け力を制御する方式が好ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、ディスクロータに対してインナ側に位置する摩擦パッドによる加圧力を検出する荷重センサを設け、この荷重センサからの出力信号に基づきモータによる摩擦パッドの押し付けを制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−281191号公報
【特許文献2】特開2007−238034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように、インナ側の摩擦パッドによるディスクロータに対する加圧力を検出するだけでは、加圧力の変動がロータの肉厚差により生じているのかロータ振れにより生じているのかを区別できないという問題がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動ディスクブレーキ装置におけるロータ肉厚差とロータ振れとを区別する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の電動ディスクブレーキ装置は、車輪とともに回転するディスクロータと、前記ディスクロータの車両内側および車両外側の摩擦摺動面に相対してそれぞれ配置されるインナ側ブレーキパッドおよびアウタ側ブレーキパッドと、駆動機構を介して前記インナ側ブレーキパッドおよび前記アウタ側ブレーキパッドを前記摩擦摺動面に押し付ける電動モータと、前記インナ側ブレーキパッドの前記摩擦摺動面への押付力を検出する第1押付力検出部と、前記アウタ側ブレーキパッドの前記摩擦摺動面への押付力を検出する第2押付力検出部と、前記第1押付力検出部および前記第2押付力検出部による検出信号に基づいて、前記電動モータによる前記インナ側ブレーキパッドおよび前記アウタ側ブレーキパッドの押付力を制御するモータ制御部と、を備える。
【0008】
この態様によると、ディスクロータのインナ側とアウタ側の両方の押付力を検出することで、ロータ肉厚差とロータ振れとを区別することができる。
【0009】
前記第1押付力検出部による検出信号と、前記第2押付力検出部による検出信号との位相差が所定値以上の場合、前記モータ制御部は前記電動モータによる押付力の制御を行わないようにしてもよい。インナ側の検出信号とアウタ側の検出信号との位相差が所定値以上の場合は、ディスクロータの肉厚差で荷重変動が生じているのではなく、ロータ振れが発生していると判断できる。ロータ振れの場合にはモータの制御を行わないようにすることで、モータの作動頻度を低下させてモータにかかる負荷を軽減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動ディスクブレーキ装置においてロータ肉厚差とロータ振れとを区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動ディスクブレーキ装置の概略構成図である。
【図2】ブレーキECUの機能ブロック図である。
【図3】(a)、(b)は、第1押付力検出部によるインナ側の検出信号と第2押付力検出部によるアウタ側の検出信号との位相差を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施形態に係る車両用の電動ディスクブレーキ装置100の概略構成図である。図1では、ブレーキユニット10を断面図として示している。ブレーキユニット10はいわゆるディスクブレーキの一種であり、ブレーキECU60からの指令により制動力を発生させるように構成されている。
【0013】
ブレーキユニット10は、図示しない車両の車輪とともに回転するディスクロータ16と、摩擦材としてのブレーキパッド14a、14bと、ブレーキパッドを移動させるキャリパ12とを備える。
【0014】
インナ側ブレーキパッド14aは、ディスクロータ16の車両内側に配置され、アウタ側ブレーキパッド14bは、ディスクロータ16の車両外側に配置される。ブレーキパッド14a、14bは、ディスクロータ16の軸方向に摺動可能に支持されている。アウタ側ブレーキパッド14bの背部には、キャリパ12から鉛直下方に延び出した爪部18が配置される。また、インナ側ブレーキパッド14aの背部にはピストン20が取り付けられている。
【0015】
キャリパ12の内部には電動モータ30が配設されている。電動モータ30は、制動時にブレーキパッド14a、14bをディスクロータ16に向けて押し付けるとともに、非制動時にブレーキパッド14a、14bをディスクロータ16から離隔させるための駆動手段である。
【0016】
電動モータ30の出力軸には、上述のピストン20が連結される。ピストン20の内部には、電動モータ30の出力軸の回転運動をピストン20の直線運動に変換するためのボールねじ機構24が配設されている。また、キャリパ12内にはエンコーダ32も設けられている。エンコーダ32は、電動モータ30の回転角を検出してブレーキECU60に送信する。
【0017】
車室内にはドライバーが操作するブレーキペダル56が設置される。ブレーキペダル56がドライバーによって踏まれると、その操作量がセンサ58によって検出されてブレーキECU60に伝えられる。代替的に、ブレーキ踏力をセンサによって検出しこれをブレーキECU60に伝えてもよい。ブレーキECU60は、操作量に応じた制動力を発揮するように電動モータ30に駆動信号を与える。
【0018】
電動モータ30が駆動されると、ピストン20が図中の右方向、すなわちブレーキパッド14aの方向に移動する。これによって、ピストン20の先端に取り付けられたブレーキパッド14aがディスクロータ16の車体内側の摩擦摺動面16aに押し付けられる。このとき、ピストン20の反力によって、キャリパ12がピストン20の移動方向とは反対の方向(図中の左方向)に移動する。すると、キャリパ12の先端の爪部18によってブレーキパッド14bがディスクロータ16の車両外側の摩擦摺動面16bに押し付けられる。これにより、ディスクロータ16が一対のブレーキパッド14a、14bにより挟圧されて、車輪に制動力が発生する。
【0019】
ブレーキペダル56が操作されていない場合、電動モータ30は、ブレーキパッド14a、14bがディスクロータ16との間に所定のクリアランスを空けて位置するように、ピストン20を所定のゼロ点位置に移動させる。
【0020】
インナ側ブレーキパッド14aの背面にはインナ側荷重センサ28aが設置され、アウタ側ブレーキパッド14bの背面にはアウタ側荷重センサ28bが設置される。荷重センサ28a、28bは、それぞれディスクロータ16に対するブレーキパッド14a、14bの押し付け力を検出し、その検出信号をブレーキECU60に送信する。
【0021】
図2は、図1に示したブレーキECU60の構成を示すブロック図である。各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0022】
ブレーキECU60は、ドライバーによるブレーキペダル操作量または踏力に応じた制動力を発生させるようにブレーキユニット10を制御する。ブレーキECU60は、第1押付力検出部62a、第2押付力検出部62b、位相差判定部64、制動力計算部66およびモータ制御部68を含む。
【0023】
制動力計算部66は、センサ58によって検出された操作量または踏力に応じて、車輪に発生させる制動力を計算する。
【0024】
第1押付力検出部62aは、インナ側荷重センサ28aから、インナ側ブレーキパッド14aのディスクロータ16への押付力を検出した検出信号を受け取る。第2押付力検出部62bは、アウタ側荷重センサ28bから、アウタ側ブレーキパッド14bのディスクロータ16への押付力を検出した検出信号を受け取る。
【0025】
モータ制御部68は、電動モータ30によるインナ側ブレーキパッド14aおよびアウタ側ブレーキパッド14bの押し付けを制御する。すなわち、モータ制御部68は、制動力計算部66によって計算された制動力に対して予め設定されている押付力でブレーキパッド14a、14bをディスクロータ16に対して押し付けるように、電動モータ30を制御する。このとき、第1押付力検出部62aおよび第2押付力検出部62bの受け取る押付力の検出信号によるフィードバックループが構成される。
【0026】
位相差判定部64は、第1押付力検出部による検出信号と第2押付力検出部による検出信号との位相差を求め、この位相差が所定値以上か否かを判定する。位相差が所定値未満の場合、位相差判定部64は、インナ側荷重センサ28aとアウタ側荷重センサ28bによる検出信号の変動に合わせて、押付力を一定に制御するようにモータ制御部68に指令する。位相差が所定値以上の場合、位相差判定部64は、電動モータ30をその状態で保持するようモータ制御部68に指令する。
【0027】
以下、位相差判定部64による判定について説明する。
【0028】
図3(a)、(b)は、第1押付力検出部によるインナ側の検出信号と、第2押付力検出部によるアウタ側の検出信号との位相差を説明するグラフである。
【0029】
図3(a)は、車両制動時に、インナ側荷重センサ28aの検出信号とアウタ側荷重センサ28bの検出信号との位相差が比較的小さい場合を示す。位相差が小さい場合は、肉厚差であると判定される。図3(b)は、車両制動時に、インナ側荷重センサ28aの検出信号とアウタ側荷重センサ28bの検出信号との位相差が所定値よりも大きい場合を示す。位相差が大きい場合、ロータ振れであると判定される。
【0030】
インナ側荷重センサ28aとアウタ側荷重センサ28bとは、ディスクロータ16の両側のほぼ同位置に設置される。したがって、ロータ振れが生じている場合、インナ側荷重センサ28aによる検出信号と、アウタ側荷重センサ28bによる検出信号とは、約180°の位相差が発生することになる。そこで、上記所定値を180°に近い値に設定しておき、この所定値以上の位相差がある場合にはロータ振れと判断するのである。上記所定値は、ロータ振れが生じているブレーキユニットとロータ振れのないブレーキユニットとを用いて実験的に設定されることが好ましい。
【0031】
従来の単一の荷重センサを用いたフィードバック制御を行う電動ディスクブレーキ装置では、センサにより検出される荷重変動が、ディスクロータの肉厚差が原因であるのかロータ振れが原因であるのかをあるのかを区別することができなかった。そのため、ロータ振れが原因である場合でも、肉厚差が原因であるときと同様に電動モータを制御することで、ブレーキユニットに異常振動を発生させてしまったり、モータの作動頻度が増加してモータが焼き付いてしまうおそれがあった。
【0032】
これに対して、本実施形態に係る電動ディスクブレーキ装置によれば、ブレーキパッドのディスクロータへの押付力を検出する荷重センサを、インナ側とアウタ側の両方に設け、二つの荷重センサの検出信号の位相差に基づいて、ロータ振れと肉厚差とを区別するようにした。そして、ロータ振れのときは荷重変動に追従させてモータを駆動しないようにすることで、ブレーキ振動を抑制しつつ、不要な電動モータの作動を抑制することができる。
【0033】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0034】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 ブレーキユニット、 12 キャリパ、 14a インナ側ブレーキパッド、 14b アウタ側ブレーキパッド、 16 ディスクロータ、 16a、16b 摩擦摺動面、 20 ピストン、 28a、28b 荷重センサ、 30 電動モータ、 56 ブレーキペダル、 60 ブレーキECU、 62a 第1押付力検出部、 62b 第2押付力検出部、 64 位相差判定部、 66 制動力計算部、 68 モータ制御部、 100 電動ディスクブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転するディスクロータと、
前記ディスクロータの車両内側および車両外側の摩擦摺動面に相対してそれぞれ配置されるインナ側ブレーキパッドおよびアウタ側ブレーキパッドと、
駆動機構を介して前記インナ側ブレーキパッドおよび前記アウタ側ブレーキパッドを前記摩擦摺動面に押し付ける電動モータと、
前記インナ側ブレーキパッドの前記摩擦摺動面への押付力を検出する第1押付力検出部と、
前記アウタ側ブレーキパッドの前記摩擦摺動面への押付力を検出する第2押付力検出部と、
前記第1押付力検出部および前記第2押付力検出部による検出信号に基づいて、前記電動モータによる前記インナ側ブレーキパッドおよび前記アウタ側ブレーキパッドの押付力を制御するモータ制御部と、
を備えることを特徴とする電動ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記第1押付力検出部による検出信号と、前記第2押付力検出部による検出信号との位相差が所定値以上の場合、前記モータ制御部は前記電動モータによる押付力の制御を行わないことを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15210(P2013−15210A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150026(P2011−150026)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】