説明

電動パワーステアリング装置

【課題】歯打ち音が発生することを抑制することに伴い、容易に製造でき、かつ、ウォームホイールに対するウォーム軸の追従性を向上させることができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、ハウジング31と軸受38の外周面38bとの間に設けられ、被支持部26cをウォームホイールに向かう第1の方向に付勢する付勢機構を備える。電動パワーステアリング装置は、ハウジングと軸受との間に設けられ、互いに第1の方向を挟むように配置されて、軸受を介してウォーム軸が第1の方向に直交する第2の方向に揺動することを規制する一対の弾性部材51,52と、軸受の外周面と一対の弾性部材との間に設けられ、一対の弾性部材に比べて摩擦力が低い滑り部材53と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム軸を備えた電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータを駆動源としてステアリングシャフトを回転駆動させることにより、ステアリング操作を補助するためのアシスト力を操舵系に付与する。こうしたEPSとして、モータにより回転されるウォーム軸及びステアリングシャフトに連結されるウォームホイールを噛合してなる減速機構を備えたものが知られている。
【0003】
しかし、上記のような減速機構を用いたEPSでは、そのバックラッシュに起因して、操舵方向の切り替え時や逆入力の印加時において、歯打ち音が発生することがある。そこで、こうしたEPSには、例えば、特許文献1に示すように、バックラッシュを除去する所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれているものが開示されている。このようなEPSには、ウォーム軸の第1被支持部がモータの出力軸に対して傾動可能に連結し、かつ、付勢機構によりウォーム軸の第2被支持部がウォームホイール側に押し付けられることにより、ウォームホイールとウォーム軸との芯間距離が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−108025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなEPSにおいて、ウォーム軸とウォームホイールとを適切に噛合させるために、ウォーム軸をウォームホイール側以外の方向に対する揺動を抑制する必要がある。そこで、図5に示すように、ウォーム軸91の端部91aを収納するハウジング93における収納部93aを長穴形状に加工することで、ウォーム軸91を軸支する軸受92をウォームホイールに向かう芯間方向Y以外の方向Xに対する揺動を規制している。
【0006】
しかしながら、収納部93aを軸受92の外径とほぼ同じにすると、軸受92の外周面92aとハウジング93の内壁93bとの間に隙間が少なく、軸受92の外周面92aとハウジング93の内壁93bとの間の摩擦力は大きくなる。その一方で、収納部93aが軸受92の外径より大きすぎると、軸受92がウォームホイールに向かう芯間方向Y以外の方向Xに揺動し、軸受92の外周面92aとハウジング93の内壁93bとの衝突音が発生することがある。このため、軸受92の外径よりも長穴を僅かに大きく形成する必要があり、長穴の形成が容易ではなかった。
【0007】
また、特許文献1に示すように、軸受の外周面を付勢する手段を備える構成であっても、軸受の外周面と付勢する手段との間に摩擦が生じてしまい、反ってウォームホイールに対するウォーム軸の追従性が悪化してしまうおそれがあった。
【0008】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、歯打ち音が発生することを抑制することに伴い、容易に製造でき、かつ、ウォームホイールに対するウォーム軸の追従性を向上させることができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、螺旋状の第1の歯部を有するウォーム軸と、前記ウォーム軸の前記第1の歯部と噛合する第2の歯部を有するウォームホイールと、前記ウォーム軸及び前記ウォームホイールを収納するハウジングと、前記ウォーム軸の一端における被支持部を摺動可能に軸支する軸受と、前記ハウジングと前記軸受の外周面との間に設けられ、前記被支持部を前記ウォームホイールに向かう第1の方向に付勢する付勢機構と、前記ハウジングと前記軸受との間に設けられ、互いに前記第1の方向を挟むように配置されて、前記軸受を介して前記ウォーム軸が前記第1の方向に直交する第2の方向に揺動することを規制する一対の弾性部材と、前記軸受の外周面と前記一対の弾性部材のそれぞれとの間に設けられ、前記一対の弾性部材のそれぞれに比べて摩擦係数が低い滑り部材と、を備えたことを要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記一対の弾性部材のそれぞれは、合成樹脂から形成されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記滑り部材は、合成樹脂から形成されていることを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記滑り部材は、前記軸受の外周面と前記一対の弾性部材のそれぞれとの間に配置される前において、該滑り部材の断面がC形状又は環状であることを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、前記ハウジングの内面によって形成される前記滑り部材を収納する収納部は、前記ウォーム軸の軸方向に対して真円形状であることを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の電動パワーステアリング装置において、前記滑り部材は、変形され、前記収納部に配設されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯打ち音が発生することを抑制することに伴い、容易に製造でき、かつ、ウォームホイールに対するウォーム軸の追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態における電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】第1実施形態におけるEPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図3】第1実施形態におけるEPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図4】(a)及び(b)は、第1実施形態におけるEPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図5】従来のEPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4を参照して説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1は、ステアリング2の操作により転舵輪12の舵角を変更する。ステアリング2は、ステアリングシャフト3の端部3aに固定されている。ステアリングシャフト3は、ステアリング2の操作により回転する。ステアリングシャフト3の端部3bは、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。なお、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。ラックアンドピニオン機構4は、ステアリング2の操作に伴うステアリングシャフト3の回転をラック軸5の直線運動に変換する。ラック軸5は、直線運動を行うことにより、タイロッド11を介して転舵輪12の舵角を変更する。
【0017】
EPS1は、ステアリング2の操作を補助するためのアシスト力をステアリングシャフト3に付与するEPSアクチュエータ22を備えている。なお、本実施形態のEPSアクチュエータ22は、ステアリングシャフト3に含まれるコラムシャフト8にアシスト力を付与するコラムアシスト型のEPSアクチュエータである。EPSアクチュエータ22は、モータ21を駆動源としている。モータ21は、ステアリングシャフト3の回転に応じて駆動する。モータ21は、減速機構24を介してステアリングシャフト3と連結されている。減速機構24は、ステアリングシャフト3に連結されたウォームホイール25と、モータ21に連結されてウォームホイール25に噛合するウォーム軸26とを備えている。ウォームホイール25は、樹脂で形成されている。ウォーム軸26は、金属で形成されている。減速機構24は、モータ21の回転を減速してステアリングシャフト3に伝達する。これにより、モータ21のトルクは、アシスト力としてステアリングシャフト3に付与される。
【0018】
次に、本実施形態におけるEPSアクチュエータ22の構成について説明する。
図2に示すように、EPSアクチュエータ22は、減速機構24を収納するハウジング31を備えている。このハウジング31は、ウォーム軸26を収納するウォーム軸収納部32と、ウォームホイール25を収納するウォームホイール収納部33とを有している。ウォーム軸収納部32は、ウォームホイール収納部33と連通している。
【0019】
ウォーム軸収納部32は、ウォーム軸26の軸方向Aに延びる円柱状の空間である。ウォーム軸収納部32は、ウォーム軸26の歯部26a(第1の歯部)を収納する第1収納部32aと、ウォーム軸26の第1被支持部26bを収納する第2収納部32bと、ウォーム軸26の第2被支持部26cを収納する第3収納部32cとに便宜上区分される。第1収納部32aは、第2収納部32bと、第3収納部32cとにそれぞれ連通している。第2収納部32bは、モータが固定されるモータ固定部(いずれも図示略)と連通している。第3収納部32cは、ハウジング31の外部に開口しており、エンドカバー35により閉塞されている。
【0020】
また、ウォームホイール25とウォーム軸26との間におけるバックラッシュを除去するために、アンチ・バックラッシュ・システムがEPSアクチュエータ22に組み込まれており、ウォームホイール25とウォーム軸26との間の芯間距離を調整する。
【0021】
ウォーム軸26は、ウォームホイール25の歯部25a(第2の歯部)に噛合する螺旋状の歯部26aと、第1被支持部26bと、第2被支持部26cとを有する。第1被支持部26bと第2被支持部26cとは、歯部26aのそれぞれの端部に一体に形成されている。
【0022】
第1被支持部26bは、モータの出力軸(図示略)に対して傾動可能に連結されている。第1被支持部26bは、円柱状の摺動部26dと、その摺動部26dの両端にストッパ26e,26fと、を有する。
【0023】
摺動部26dは、円柱状である。摺動部26dの外径は、第1軸受37の内径よりも僅かに小さい。摺動部26dは、第1軸受37の内周面37aで、内周面37aに沿って摺動(回転)可能に軸支される。
【0024】
ストッパ26eは、摺動部26dの軸方向Aに対する歯部26a側に第1被支持部26bと一体に形成されている。ストッパ26eは、第1軸受37の内径よりも外径が大きい円柱状である。
【0025】
ストッパ26fは、摺動部26dの軸方向Aに対する端側において、第1被支持部26bに固定されている。ストッパ26fも、第1軸受37の内径よりも外径が大きい円柱状である。
【0026】
ストッパ26eは、第1軸受37の前面37cに面しており、第1軸受37の前面37cとの間に大きな隙間が形成されないように配設されている。ストッパ26fは、第1軸受37の背面37dに面しており、第1軸受37の背面37dとの間に大きな隙間が形成されないように配設されている。
【0027】
第1軸受37は、第2収納部32bに収納されている。なお、本実施形態において、第1軸受37は、内輪と、外輪と、内輪及び外輪の間に介在する球状の転動体とを含むボール軸受である。第1軸受37は、内周面37aによりウォーム軸26の摺動部26dを摺動可能に軸支する。第1軸受37の外周面37b及び前面37cの一部は、第2収納部32bにおけるハウジング31の内壁(内面)に当接する。第1軸受37の背面37dの一部は、固定部材39に当接する。これにより、第1軸受37は、固定部材39によりハウジング31に固定される。なお、第1軸受37の内周面37aは、内輪の内周面であり、第1軸受37の外周面37bは、外輪の外周面である。
【0028】
第2被支持部26cは、円柱状である。第2被支持部26cの外径は、第2軸受38の内径よりも僅かに小さい。第2被支持部26cは、第2軸受38の内周面38aで、その内周面38aに沿って摺動(回転)可能に軸支される。
【0029】
第2軸受38は、第3収納部32cに収納される。第2軸受38は、内周面38aによりウォーム軸26の第2被支持部26cを摺動可能に軸支する。なお、本実施形態において、第2軸受38は、内輪と、外輪と、内輪及び外輪の間に介在する球状の転動体とを含むボール軸受である。
【0030】
特に、第2軸受38は、ウォーム軸26のウォームホイール25に対する芯間方向Bに移動可能に第3収納部32cに保持される。芯間方向Bとは、ウォーム軸26とウォームホイール25とが噛合する位置と、ウォームホイール25の中心とを結ぶ方向であり、ウォーム軸の軸方向A及びウォームホイール25の接線方向に対して垂直な方向である。つまり、芯間方向Bとは、ウォームホイール25に向かう方向である。なお、本実施形態において芯間方向Bが第1の方向に相当する。
【0031】
第2軸受38は、付勢機構40により芯間方向Bに沿ってウォームホイール25側に付勢されている。付勢機構40は、第3収納部32cに収納される。特に、付勢機構40は、第2軸受38に対してウォームホイール25と逆側に配設されている。第3収納部32cは、芯間方向Bに対して円柱状の空間である。第3収納部32cは、ハウジング31の外部に開口しており、エンドカバー43により閉塞されている。
【0032】
軸方向Aから見ると、図3に示すように、付勢機構40は、円柱状のヨーク41と、圧縮コイルばね42とから構成されている。ヨーク41は、第3収納部32cの内壁に沿ってウォームホイール25とは逆側から第2軸受38の外周面38bに当接する。圧縮コイルばね42は、ヨーク41とエンドカバー43との間に配設され、第3収納部32cの内壁に沿って第2軸受38側にヨーク41を付勢する。エンドカバー43は、ハウジング31に固定され、第3収納部32cを閉塞する。弾性部材44は、ヨーク41とエンドカバー43との間に配設される。弾性部材44は、圧縮コイルばね42のコイル内を貫通し、ヨーク41とエンドカバー43との間隔を所定範囲内に保持する。
【0033】
第2軸受38は、弾性支持機構50により支持される。弾性支持機構50は、一対の弾性部材51,52と滑り部材53とを含む構成である。弾性支持機構50は、第3収納部32cに収納される。第3収納部32cは、ウォーム軸26の軸方向Aからみて真円形状である。つまり、滑り部材53を収納する収納部は、ウォーム軸26の軸方向Aからみて真円形状である。
【0034】
一対の弾性部材51,52のそれぞれは、弾性を有する合成樹脂(例えばゴム)により形成されている。一対の弾性部材51,52のそれぞれは、第2軸受38と当接せずに、ハウジング31の内壁と滑り部材53の外周面53aとの間に狭持されている。
【0035】
一対の弾性部材51,52のそれぞれは、ウォーム軸26の軸方向A及び芯間方向Bを含む面に対して垂直な規制方向Cから滑り部材53の外周面53aに当接している。なお、この規制方向Cは、ウォーム軸26の軸方向A及び芯間方向Bに対して垂直な方向とも言える。一対の弾性部材51,52のそれぞれは、ウォーム軸26の軸方向Aと、芯間方向B(具体的には第2軸受38の中心を通る芯間方向B)との両方に対称に配設されている。つまり、一対の弾性部材51,52のそれぞれは、ウォーム軸26の軸方向Aと、芯間方向Bとを挟むように配設されている。このように、一対の弾性部材51,52のそれぞれは、滑り部材53を介して、第2軸受38に規制方向Cから弾性力を付与することによって、第2軸受38を規制方向Cから支持する。なお、本実施形態において、規制方向Cが第2の方向に相当する。
【0036】
一対の弾性部材51,52のそれぞれは、滑り部材53の外周面53aから突出している突出部53c,53dと嵌合する嵌合穴51a,52aを有する。弾性部材51は、嵌合穴51aと突出部53cとが嵌合することで滑り部材53に固定される。また、弾性部材52は、嵌合穴52aと突出部53dとが嵌合することで滑り部材53に固定される。
【0037】
滑り部材53は、ウォーム軸26の軸方向Aからみて芯間方向Bに長い楕円形状で配設されている。滑り部材53は、弾性部材51,52と外周面53aで当接している。滑り部材53は、第2軸受38の外周面38bと内周面53bで当接している。滑り部材53は、弾性部材51,52のそれぞれにより規制方向Cから弾性力を外周面53aで受け、内周面53bにより当接する第2軸受38の外周面38bに伝達する。このため、滑り部材53と第2軸受38の外周面38bとの間に隙間が形成されない。
【0038】
滑り部材53は、外周面53aから突出した突出部53c,53dを有する。滑り部材53は、突出部53c,53dのそれぞれが一対の弾性部材51,52の嵌合穴51a,52aに嵌合することで、一対の弾性部材51,52を固定する。突出部53c,53dのそれぞれは、端部側のほうが外周面53a側よりも外径が大きい形状である。
【0039】
滑り部材53は、弾性部材51,52のそれぞれよりも摩擦係数が小さい低μ材料で形成されている。特に、本実施形態において、滑り部材53は、金属よりも摩擦係数が小さい材料で形成されている。また、本実施形態において、滑り部材53は、合成樹脂(例えばプラスチック)で形成されている。
【0040】
滑り部材53の内周面53bは、芯間方向Bに沿って延伸する直線部53e,53fを有する。直線部53e,53fは、突出部53c,53dの内周面53b側に形成される。直線部53e,53fは、第2軸受38の外周面38bを支持する。このため、直線部53e,53fは、芯間方向Bに対する第2軸受38の移動を許容し、かつ、規制方向Cに対する第2軸受38の移動を規制する。つまり、滑り部材53は、第2軸受38を芯間方向Bに円滑に案内する案内部材でもある。
【0041】
なお、本実施形態において、滑り部材53は、ヨーク41が挿通可能な開口53gを有する。このため、滑り部材53は、芯間方向Bに対するヨーク41の移動を干渉しない。
滑り部材53は、第3収納部32cに収納されていない場合には、図4(a)に示すように、真円形状であるが、第3収納部32cに収納されると、図4(b)に示すように、弾性部材51,52のそれぞれからの弾性力により芯間方向Bに撓み、楕円形状に変形する。つまり、滑り部材53は、ウォーム軸26の軸方向Aからみて、芯間方向Bに沿って楕円形状に変形させて、第3収納部32cに配設される。
【0042】
(実施形態の作用)
ここで、上述したように構成されたEPS1の作用について説明する。
最初に、図2に示すように、圧縮コイルばね42は、ヨーク41とエンドカバー43の間に介在され、ヨーク41を芯間方向Bに沿って第2軸受38に付勢する。つまり、付勢機構40は、芯間方向Bに沿ってウォームホイール25側に第2軸受38を付勢する。
【0043】
第2軸受38は、内周面38aによりウォーム軸26の第2被支持部26cを軸支する。ウォーム軸26は、ウォームホイール25との芯間距離が適正でない場合、付勢機構40の付勢により、第2軸受38を介して、芯間方向Bに沿ってウォームホイール25側に移動する。
【0044】
第1軸受37は、内周面37aによりウォーム軸26の第1被支持部26bを軸支する。これにより、付勢機構40は、第1被支持部26bを中心として、第2被支持部26cをウォームホイール25側に移動させる。つまり、付勢機構40は、第2軸受38を付勢することで、ウォーム軸26の歯部26aを、ウォームホイール25の歯部25aに噛合させる。したがって、付勢機構40は、ウォームホイール25とウォーム軸26との芯間距離を適正に調整する。
【0045】
第2軸受38は、図3に示すように、滑り部材53を介して規制方向Cに沿って両側から一対の弾性部材51,52のそれぞれにより支持されている。弾性部材51,52のそれぞれは、滑り部材53を介して規制方向Cに沿って圧縮されて第2軸受38を支持している。このため、弾性支持機構50は、第2軸受38の規制方向Cへの移動を規制し、第2軸受38の芯間方向Bへの移動を許容する。したがって、第2軸受38は、付勢機構40の付勢により、芯間方向Bに沿ってウォームホイール25側に移動可能である。
【0046】
特に、滑り部材53は、弾性部材51,52よりも摩擦係数が小さく、芯間方向Bに沿って延伸する直線部53e,53fにより第2軸受38の外周面38bを支持する。このため、第2軸受38は、滑り部材53により芯間方向Bに沿って円滑に案内される。
【0047】
(実施形態の効果)
以上詳述したように、本実施形態は、以下の効果を有する。
(1)付勢機構40は、ウォーム軸26の第2被支持部26cをウォームホイール25が設けられた芯間方向Bに付勢する。一対の弾性部材51,52のそれぞれは、ウォーム軸26の軸方向A及び芯間方向Bを含む面に直交する規制方向Cに対するウォーム軸26の揺動を規制する。滑り部材53は、一対の弾性部材51,52のそれぞれよりも摩擦係数が低く、一対の弾性部材51,52のそれぞれと第2軸受38の外周面38bとの間に設けられる。このため、滑り部材53は、第3収納部32cの形状に拘わらず、弾性部材51,52のそれぞれの弾性力により規制方向Cに対するウォーム軸26の揺動を規制する。滑り部材53は、第3収納部32cの形状に拘わらず、第2軸受38の移動に伴う摩擦を低減させることができ、第2軸受38を円滑に芯間方向Bに移動させることができる。したがって、EPS1は、歯打ち音が発生することを抑制することに伴い、容易に製造でき、かつ、ウォームホイール25に対するウォーム軸26の追従性を向上させることができる。
【0048】
(2)滑り部材53は、芯間方向Bに沿って延伸する形状で第3収納部32cに配設される。このため、滑り部材53は、芯間方向Bに対する第2軸受38の移動を許容するだけではなく、芯間方向Bに対する第2軸受38の移動を案内することができる。
【0049】
(3)滑り部材53は、ウォーム軸26の軸方向Aからみて芯間方向Bに長い楕円形状で配設されている。このため、芯間方向Bに対する第2軸受38の移動を許容することができる。
【0050】
(4)一対の弾性部材51,52は、嵌合穴51a,52aを有し、滑り部材53は、外周面53aから外側に向かって突出した突出部53c,53dを有する。このように、滑り部材53の内周面53bは、突出する形状ではないため、芯間方向Bに対する第2軸受38の移動を許容することができる。また、滑り部材53は、凹形状の加工を施さないため、分厚く形成する必要もない。
【0051】
(5)突出部53c,53dのそれぞれは、端部側のほうが外周面53a側よりも外径が大きい形状である。このため、突出部53c,53dのそれぞれは、一対の弾性部材51,52から抜け難くすることができる。
【0052】
(6)一対の弾性部材51,52のそれぞれは、合成樹脂から形成されるため、安価な材料で、軽量化を図ることができる。
(7)滑り部材53は、合成樹脂から形成されるため、安価な材料で、軽量化を図ることができる。
【0053】
(8)滑り部材53は、O字形状(環状)であるため、第2軸受38を芯間方向Bに案内する箇所を一体に形成することができ、組み立てを容易にすることができ、かつ、部品点数の減少を図ることができる。
【0054】
(9)第3収納部32cは、ウォーム軸26の軸方向Aに対して真円形状であるため、第3収納部32cの加工精度が確保し易くなり、容易に製造することができる。
(10)滑り部材53は、第3収納部32cに配設される前後の形状を異ならせることができ、一対の弾性部材51,52のそれぞれによる弾性力のみならず、変形された滑り部材53の復元力により第2軸受38を支持することができる。
【0055】
(11)滑り部材52は、第3収納部32cに配設される前において、ウォーム軸26の軸方向Aに対して真円形状であるため、製造し易い形状とすることで、容易に製造することができる。
【0056】
尚、上記実施形態は、次のような別の実施形態(別例)にて具体化できる。
・上記実施形態において、滑り部材53は、一体に形成されたが、別体に形成してもよい。これにより、滑り部材を小型化することができる。
【0057】
・上記実施形態において、滑り部材53は、変形させずに第3収納部32cに収納されてもよい。滑り部材53は、楕円形状又は直線形状で形成してもよい。
・上記実施形態において、第3収納部32cは、ウォーム軸26の軸方向Aからみて楕円形状であってもよく、四角形状であってもよい。
【0058】
・上記実施形態において、弾性部材51,52のそれぞれに突出部が形成され、滑り部材53に嵌合穴が形成されてもよい。
・上記実施形態において、滑り部材53は、C字形状であってもよい。また、滑り部材53は、U字形状であってもよい。これにより、付勢機構40は、開放された箇所を介して第2軸受38を付勢することができる。したがって、付勢機構40による付勢を干渉しない構造を容易に製造することができる。
【0059】
・上記実施形態において、滑り部材53が弾性部材51,52のそれぞれよりも摩擦係数が低ければ、弾性部材51,52のそれぞれ、及び滑り部材53の少なくともいずれか一方を合成樹脂で形成しなくてもよい。例えば、弾性部材51,52のそれぞれは、バネを含む構成であってもよい。
【0060】
・上記実施形態において、滑り部材53は、第2軸受38に当接していれば、一対の弾性部材51,52のそれぞれと当接しなくてもよく、別の部材を介して弾性力を受けてもよい。
【0061】
・上記実施形態において、一対の弾性部材51,52のそれぞれは、芯間方向Bに対称に配置されていれば、ウォーム軸26の軸方向Aに対称に配置されていなくてもよい。
・上記実施形態において、芯間方向Bに対する第2軸受38の移動を許容すれば、ウォーム軸26の軸方向Aに対する第2軸受38の移動を許容してもよい。
【0062】
・上記実施形態において、第1軸受37及び第2軸受38は、転動体としてころを採用したころ軸受であってもよい。
・上記実施形態において、ラックアンドピニオン機構4と駆動連結されたピニオンアシスト型のEPSアクチュエータに本発明を採用してもよい。
【0063】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記一対の弾性部材は、互いに前記第1の方向及び前記ウォーム軸の軸方向に対称に配置されて、前記軸受を介してウォーム軸が前記第1の方向及び前記軸方向を含む面に垂直な第2の方向に揺動することを規制する電動パワーステアリング装置。
【0064】
(ロ)請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、前記滑り部材は、前記第1の方向に沿って延伸する形状で前記収納部に配設される電動パワーステアリング装置。
【符号の説明】
【0065】
A…軸方向、B…芯間方向、C…規制方向、1…電動パワーステアリング装置、25…ウォームホイール、25a,26a…歯部、26…ウォーム軸、26b…第1被支持部、26c…第2被支持部、31…ハウジング、32b…第2収納部、32c…第3収納部、37…第1軸受、38…第2軸受、40…付勢機構、50…弾性支持機構、51,52…弾性部材、53…滑り部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の第1の歯部を有するウォーム軸と、
前記ウォーム軸の前記第1の歯部と噛合する第2の歯部を有するウォームホイールと、
前記ウォーム軸及び前記ウォームホイールを収納するハウジングと、
前記ウォーム軸の一端における被支持部を摺動可能に軸支する軸受と、
前記ハウジングと前記軸受の外周面との間に設けられ、前記被支持部を前記ウォームホイールに向かう第1の方向に付勢する付勢機構と、
前記ハウジングと前記軸受との間に設けられ、互いに前記第1の方向を挟むように配置されて、前記軸受を介して前記ウォーム軸が前記第1の方向に直交する第2の方向に揺動することを規制する一対の弾性部材と、
前記軸受の外周面と前記一対の弾性部材のそれぞれとの間に設けられ、前記一対の弾性部材のそれぞれに比べて摩擦係数が低い滑り部材と、を備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記一対の弾性部材のそれぞれは、合成樹脂から形成されている電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記滑り部材は、合成樹脂から形成されている電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記滑り部材は、前記軸受の外周面と前記一対の弾性部材のそれぞれとの間に配置される前において、該滑り部材の断面がC形状又は環状である電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ハウジングの内面によって形成される前記滑り部材を収納する収納部は、前記ウォーム軸の軸方向に対して真円形状である電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記滑り部材は、変形され、前記収納部に配設される電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87868(P2013−87868A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229115(P2011−229115)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】