説明

電動ブレーキ装置

【課題】バッテリの残量が少なくなった場合、または今後少なくなることが予想される場合においても、モータを作動させることによって車輪に制動力を与える電子ブレーキ装置を良好に制御する。
【解決手段】電動パーキングブレーキ200において、電動パーキングブレーキユニット80は、ブレーキモータ30を作動させることによって車輪に制動力を与える。PKBECU100は、車輪14の回転速度が所定の条件を満たす場合に、車輪14のロックを抑制するようブレーキモータ30を作動させる。PKBECU100は、バッテリ22に蓄えられた電力が減少した場合、またはバッテリ22に蓄えられた電力が減少する可能性がある場合に、車輪14のロックを抑制している間にブレーキモータ30に供給する電力を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ装置に関し、特に、モータを作動させることによって車輪に制動力を与える電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両の走行状態などによって車両に与える制動力を制御する電子制御ブレーキシステムが知られている。このような電子制御ブレーキシステムは、一般に電力を用いて制動力を制御するため、電力の供給源であるバッテリに蓄えられた電力の残量が少なくなった場合の制御を考慮する必要がある。このため、たとえば特許文献1では、ポンプ駆動用の電源電圧が所定値よりも低いときに制動圧の増圧工程を緩やかにする車両のスリップ制御装置が提案されている。また、たとえば特許文献2では、バッテリ電圧が所定値以下の場合には、デューティー制御を中止して電磁バルブの制御位置を所定のブレーキ圧に対応した位置に固定する車両用自動ブレーキ制御装置が提案されている。また、たとえば特許文献3では、第1の制動力発生手段と第2の制動力発生手段が同時に作動された場合に、いずれか一方の制動力発生手段は、それのみが作動している場合に対して制御が変更される車両用ブレーキ制御装置が提案されている。
【特許文献1】特開平7−304440号公報
【特許文献2】特開平7−17375号公報
【特許文献3】特開2001−315631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、パーキングブレーキにおいてもモータを作動させることによって車輪に制動力を与える電動パーキングブレーキが採用されるに至っている。したがって、このようにモータを作動させることによって車輪に制動力を与える電動ブレーキ装置においても、電力の供給源であるバッテリに蓄えられた電力の残量が少なくなった場合の制御を考慮する必要がある。
【0004】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、バッテリの残量が少なくなった場合、または今後少なくなることが予想される場合においても、モータを作動させることによって車輪に制動力を与える電子ブレーキ装置を良好に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電動ブレーキ装置は、モータを作動させることによって車輪に制動力を与える制動手段と、車輪の回転速度が所定の条件を満たす場合に、前記モータを作動させることにより車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実施する制動制御手段と、を備える。前記制動制御手段は、前記モータに電力を供給するバッテリに蓄えられた電力の残量が減少した場合、または前記バッテリに蓄えられた電力の残量が減少する可能性がある場合に、アンチロック制御を実施している間に前記モータに供給する電力を減少させる。
【0006】
車輪のロックを抑制する制御は、バッテリに蓄えられた電力の残量が減少してモータへ電力を供給することができなくなれば実施することが困難となる。この態様によれば、バッテリに蓄えられた電力が減少した場合、または前記バッテリに蓄えられた電力が減少する可能性がある場合に、車輪のロックが抑制されている間にバッテリの残量が少なくなることを抑制することができる。このため、車輪のロックを抑制する制御を良好に維持することができる。
【0007】
前記バッテリに蓄えられた電力が減少する可能性がある場合とは、エンジン回転数が低下した場合であってもよい。この態様によれば、エンジン回転数が低く今後バッテリに蓄えられた電力が減少する可能性がある場合に、バッテリに蓄えられた電力が減少することを抑制することができる。
【0008】
前記制動制御手段は、車輪に与える制動力を増加させるときの制動力増加速度を低下させることにより前記モータに供給する電力を減少させてもよい。車輪のロックを抑制する制御では、通常車輪に与える制動力を減少させ、その後車輪に与える制動力を増加させるようモータを作動させることによって車輪のロックを抑制する。このとき、車輪に与える制動力を増加させるときにモータは多くの電力を消費する。この態様によれば、このときの制動力増加速度を低下させるため、車輪に与える制動力を増加させるときにモータが消費する電力を低減させることができ、バッテリに蓄えられた電力の残量が減少することを抑制することができる。
【0009】
前記制動手段は、前記モータを作動させることにより引張られるワイヤと、前記ワイヤが引張られることによって車輪に制動力を与える制動ユニットと、を有してもよい。前記制動制御手段は、前記ワイヤを引張るときの引張り力の増加速度を低下させることにより、前記モータに供給する電力を減少させてもよい。
【0010】
たとえば、一般に電動パーキングブレーキは、モータとブレーキ装置がワイヤによって連結され、モータが作動してワイヤを引張ることによりブレーキ装置を作動させて車輪に制動力を与える。この態様によれば、このようにモータを作動させることによりワイヤを引張って車輪に制動力を与えるような電動ブレーキ装置においても、車輪のロックを抑止する制御が実施されている間にモータが消費する電力を抑制することができ、バッテリに蓄えられた電力の残量が減少することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バッテリの残量が少なくなった場合においても、モータを作動させることによって車輪に制動力を与える電子ブレーキ装置を良好に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電動パーキングブレーキ200の全体構成図である。電動パーキングブレーキ200は、PKBECU100(PKB:パーキングブレーキ)(ECU:電子制御ユニット)、および電動パーキングブレーキユニット80を備える。車両10は、左前輪14FL、右前輪14FR、左前輪14FL、右後輪14RR(以下、必要に応じてこれらを総称して「車輪14」という)、および車体12を備えている。左後輪14RLに対応して左後輪ブレーキ18RLが、右後輪14RRに対応して右後輪ブレーキ18RRが、ぞれぞれ設けられている。
【0014】
また車輪14の各々に対応して車輪速センサ16が設けられている。車輪速センサ16は、車輪14の各々の回転速度を検出する車輪速検出手段として機能する。車両10の車体12には、ABSECU110(ABS:Antilock Brake System)が設けられている。車輪速センサ16の各々は、ABSECU110に接続されており、車輪速センサ16の検出結果としての車輪速情報はABSECU110に入力される。ABSECU110は、入力された車輪速情報を利用して、車輪14の各々に与えるべき制動力などを決定する。
【0015】
車体12に搭載されたエンジン(図示せず)には、エンジン回転数センサ50が設けられている。エンジン回転数センサ50は、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段として機能する。エンジン回転数センサ50は、車体12に設けられたエンジンECU120に接続されている。エンジン回転数センサ50の検出結果としてのエンジン回転数情報はエンジンECU120に入力される。エンジンECU120は、入力されたエンジン回転数情報を利用して、スロットル弁開度や燃料噴出量などを制御する。
【0016】
車両10室内には、パーキングブレーキスイッチ46が設けられている。パーキングブレーキスイッチ46は、運転者によってオンおよびオフとされることが可能となっている。パーキングブレーキスイッチ46はPKBECU100に接続されており、運転者によってオンまたはオフとする操作がされた場合、オンまたはオフとする操作がされたことを示す操作情報をPKBECU100に入力する。
【0017】
PKBECU100は、ABSECU110、エンジンECU120に接続されている。ABSECU110に入力された車輪速情報はPKBECU100に入力される。また、エンジンECU120に入力されたエンジン回転数情報は、PKBECU100に入力される。また、PKBECU100は、電源電圧センサ24を介してバッテリ22にも接続されている。電源電圧センサ24は、PKBECU100に供給する電圧を検出し、検出結果としての電源電圧情報をPKBECU100に入力する。
【0018】
電動パーキングブレーキユニット80は、車輪14に制動力を与える制動手段として機能する。電動パーキングブレーキユニット80は、駆動回路28、ブレーキモータ30、減速機構32、基本ワイヤ35、張力センサ34、バランサ36、左ワイヤ38Lおよび右ワイヤ38Rを有する。駆動回路28はPKBECU100、バッテリ22、およびブレーキモータ30に接続されている。ブレーキモータ30は正転方向および逆転方向に回転可能に構成されている。PKBECU100は、駆動回路28に、ブレーキモータ30に供給すべき電力を示す制御信号を入力し、駆動回路28は、入力された制御信号を参照し、バッテリ22からブレーキモータ30に電力を供給する。
【0019】
減速機構32は、ボールネジ(図示せず)およびそれに嵌合するナット(図示せず)を有する。ナットには基本ワイヤ35の一端が接続されている。ブレーキモータ30が正転方向に回転すると、ボールネジが回転駆動され、ボールネジに嵌合するナットがボールネジの軸方向に移動させられ、基本ワイヤ35が引張られる。逆に、ブレーキモータ30が逆転方向に回転すると、基本ワイヤ35が緩められる。
【0020】
基本ワイヤ35の他端は、軸状に形成されたバランサ36の略中央に接続される。バランサ36は左右方向に延在するように配置され、左端部には左ワイヤ38Lの一端が、右端部は右ワイヤ38Rの一端がそれぞれ接続される。
【0021】
左後輪ブレーキ18RLおよび右後輪ブレーキ18RRにはドラムブレーキが採用されている。左後輪ブレーキ18RLおよび右後輪ブレーキ18RRは、ブレーキシュー(図示せず)、ライニング(図示せず)、ドラム(図示せず)などを有する。ドラムは車輪14とともに回転する回転体として機能し、ライニングはドラムに押接される摩擦部材として機能する。ブレーキシューはライニングに連結され、ライニングをドラムに押接し、および押接を解除する。
【0022】
左ワイヤ38Lの他端は左後輪ブレーキ18RLのブレーキシューに、ブレーキシューレバー(図示せず)を介して連結されている。同様に、右ワイヤ38Rの他端は右後輪ブレーキ18RRのブレーキシューにブレーキシューレバーを介して連結されている。左ワイヤ38Lまたは右ワイヤ38Rに張力が与えられると、これらに連結されたブレーキシューが駆動される。ライニングは右ワイヤ38Rまたは左ワイヤ38Lの張力に応じてドラムに押接させられ、左後輪14RLまたは左後輪14RLに制動力が与えられる。
【0023】
なお、バランサ36は、右ワイヤ38Rおよび左ワイヤ38Lの張力の相違に応じて、基本ワイヤ35が接続された略中央部を中心に回動することができるように構成されている。右ワイヤ38Rと左ワイヤ38Lは、長さが異なっていたり経時変化などによって長さが変化しする場合がある。このようにバランサ36が右ワイヤ38Rおよび左ワイヤ38Lの張力の相違に応じて回動することによって、右ワイヤ38Rと左ワイヤ38Lに略均等な引張り力が与え、右後輪14RRおよび左後輪14RLに均等な制動力を与えることが可能となる。
【0024】
基本ワイヤ35には、基本ワイヤ35の張力を検出する張力センサ34が設けられている。張力センサ34はPKBECU100に接続されており、張力センサ34の検出結果としてのワイヤ張力情報はPKBECU100に入力される。
【0025】
運転者によってパーキングブレーキスイッチ46がオンにされると、PKBECU100は駆動回路28に制御信号を入力し、ブレーキモータ30を正転方向に回転させる。PKBECU100は、入力されたワイヤ張力情報を参照し、基本ワイヤ35の張力が目標の値に達したと判断した場合には、基本ワイヤ35の張力を目標の値に維持するようブレーキモータ30に供給する電力を制御する。運転者によってパーキングブレーキスイッチ46がオフにされると、PKBECU100は駆動回路28に制御信号を入力し、ブレーキモータ30を逆転方向に回転させる。PKBECU100は、入力されたワイヤ張力情報などを参照し、基本ワイヤ35の張力が所定の値より低くなったと判断した場合には、基本ワイヤ35への電力の供給を停止する。このような電動パーキングブレーキが採用されることにより、運転者はスイッチを押すなどの簡単な操作でパーキングブレーキによって制動力を与えることが可能となる。
【0026】
車両10には、電動パーキングブレーキ200の他に、運転者によるブレーキペダルの操作に応じて車輪14に制動力を与える油圧ブレーキシステムが通常設けられている。しかし、油圧ブレーキシステムによって車輪14に与える制動力が低下する場合なども考慮する必要がある。パーキングブレーキは通常車両が停止した状態を維持するために用いられるが、このような場合は走行中の車両の速度を減少させ停止させるために用いられる得る。しかし、電動パーキングブレーキ200によって走行中の車両10を減速させる場合、制動力が与えられる左後輪14RLまたは右後輪14RRはロックする可能性がある。車輪14がロックすることにより運転者は車両10の操舵が難しくなるため、電動パーキングブレーキ200によって走行中の車両10を減速させる場合においても、車輪14のロックが抑制されることが求められる。このため、電動パーキングブレーキ200は、車輪14のロックを抑制しながら車輪14に制動力を与える、アンチロック制御を実施することが可能となっている。なお、本明細書において車輪14がロックした状態とは、車輪14が路面に対してスリップしている状態をいう。
【0027】
図2は、第1の実施形態に係るPKBECU100のアンチロック制御に関するブロック図である。PKBECU100は、バッテリ残量判定部102、バッテリ残量維持判定部104、モード決定部106、アンチロック制御部108を備える。
【0028】
バッテリ残量判定部102は電源電圧センサ24から入力されたバッテリ残量情報を利用して、バッテリ22に蓄えられた電力の残量が所定の値より多いか少ないかを判定する。バッテリ残量維持判定部104は、エンジンECU120から入力されたエンジン回転数情報を利用して、バッテリ22に蓄えられた電力を今後維持していくことが可能か否かを判定する。モード決定部106は、バッテリ残量判定部102およびバッテリ残量維持判定部104の判定結果を参照し、通常モードでアンチロック制御を実施するか、省エネルギーモードでアンチロック制御を実施するかを決定する。
【0029】
アンチロック制御部108は、ABSECU110から入力された車輪14の各々の回転速度、およびパーキングブレーキスイッチ46がオンにされているかオフにされているかを参照し、電動パーキングブレーキユニット80による左後輪14RLおよび右後輪14RRのアンチロック制御を実施するか否かを決定する。アンチロック制御を実施する場合、アンチロック制御部108はモード決定部106によって決定されたモードで、電動パーキングブレーキユニット80による左後輪14RLおよび右後輪14RRのアンチロック制御を実施する。
【0030】
図3は、第1の実施形態に係る電動パーキングブレーキ200の処理手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、運転者によってイグニッションキーがオンにされ、PKBECU100などに電源が供給されたときに開始し、その後所定時間毎に繰り返し実施される。
【0031】
PKBECU100は、PKBECU100から入力された車輪速情報を参照し、車速Vcがゼロより大きいか否かを判定する(S11)。車速Vcがゼロより大きいと判定された場合(S11のY)、車両10は走行中であると判定し、PKBECU100は、パーキングブレーキスイッチ46がオンにされているか否かを判定する(S12)。パーキングブレーキスイッチ46がオンにされている場合(S12のY)、車両10が走行中であって、電動パーキングブレーキユニット80によって左後輪14RLおよび右後輪14RRに制動力が与えられているため、PKBECU100は、電動パーキングブレーキユニット80による左後輪14RLおよび右後輪14RRのアンチロック制御を実施する(S13)。このように、PKBECU100は、ブレーキモータ30を作動させることにより車輪14のロックを抑制するアンチロック制御を実施する制動制御手段として機能する。車速Vcがゼロ以下と判定された場合(S11のN)、またはパーキングブレーキスイッチ46はオフと判定された場合(S12のN)は、電動パーキングブレーキ200によって車輪14がロックすることがないので、電動パーキングブレーキユニット80による左後輪14RLおよび右後輪14RRのアンチロック制御を実施しない。
【0032】
図4は、図3のS13のアンチロック制御の詳細な処理手順を示すフローチャートである。まずバッテリ残量判定部102は、バッテリ電圧Vが所定の電圧Vより小さいか否かを判定する(S21)。
【0033】
バッテリ電圧Vが所定の電圧Vより小さいと判定された場合(S21のY)、モード決定部106は、バッテリ22に蓄えられた電力の残量が減少していると判断し、省エネルギーモードでアンチロック制御を実施することを決定する。アンチロック制御部108は、省エネルギーモードでアンチロック制御を実施する(S22)。これによって、バッテリ22に蓄えられた電力の残量が減少している場合に、それが更に減少することを抑制することができる。
【0034】
バッテリ電圧Vが所定の電圧V以上と判定された場合(S21のN)、バッテリ残量維持判定部104は、エンジン回転数Nが所定の回転数Nより小さいか否かを判定する(S23)。
【0035】
およびエンジン回転数Nが所定の回転数Nより小さいと判定された場合(S23のY)、バッテリ残量維持判定部104は、バッテリ22には充分な電力が蓄えられているが、バッテリ22に蓄えられた電力を今後維持することができない可能性があると判断する。したがって、モード決定部106は、省エネルギーモードでアンチロック制御を実施することを決定し、アンチロック制御部108は省エネルギーモードでアンチロック制御を実施する(S22)。これによって、バッテリ22に蓄えられた電力の残量が減少している場合だけでなく、バッテリ22に蓄えられた電力が今後減少する可能性がある場合も、その減少を抑制することができる。
【0036】
エンジン回転数Nが所定の回転数N以上と判定された場合(S23のN)、モード決定部106は、バッテリ22に充分に電力が蓄えられていると判断し、またバッテリ22に蓄えられた電力を今後も維持していくことが可能と判断する。したがって、この場合、モード決定部106は、通常モードでアンチロック制御を実施することを決定し、アンチロック制御部108は、通常モードでアンチロック制御を実施する(S24)。これによって、バッテリ22に充分に電力が蓄えられており、今後もその状態を維持することが可能な場合は、高いアンチロック性能を確保することができる。
【0037】
図5は、第1の実施形態に係る電動パーキングブレーキ200において、通常モードによるアンチロック制御と省エネルギーモードによるアンチロック制御との比較を示す図である。本図には、時間Tが経過するときの、制御対象である左後輪14RLおよび右後輪14RR(以下「制御対象車輪」という)のいずれかの車輪速度Vw、基本ワイヤ35のワイヤ張力Tc、ブレーキモータ30に供給されるモータ電流Ic、の各々の変化の一例を示す。実線は通常モードにおけるこれらの値の変化を示し、破線は省エネルギーモードにおけるこれらの値の変化を示す。
【0038】
通常モードのアンチロック制御が実施されている場合、アンチロック制御部108は、制御対象車輪でない左前輪14FLおよび右前輪14FRの回転速度を利用して車速Vcを推定する。左前輪14FLおよび右前輪14FRの回転速度を利用するのは、本実施形態に係る電動パーキングブレーキ200は左後輪14RLおよび右後輪14RRに制動力を与えるものであり、左前輪14FLおよび右前輪14FRはロックする可能性が少ないからである。
【0039】
アンチロック制御部108は、推定された車速Vcおよび制御対象車輪の回転速度Vwを利用して制御対象車輪がロックしたか否かを判定する。具体的には、制御対象車輪の回転速度Vwが、推定された車速で車両10が走行している場合に回転しているべき制御対象車輪の回転速度よりも所定の値以上低ければ、アンチロック制御部108はその車輪14はロックしたものと判定する。
【0040】
この場合、アンチロック制御部108は、駆動回路28に制御信号を入力しブレーキモータ30を逆転方向に回転させ、ワイヤ張力Tcを低下させる。これによって、ロックしたと判定された制御対象車輪に与えられていた制動力が低減し、その車輪14のロックが抑制される。
【0041】
低下していた制御対象車輪の回転速度Vwが、推定された車速で車両10が走行している場合に回転しているべき制御対象車輪の回転速度まで増加した場合、アンチロック制御部108はその車輪14はロックが解消したと判定する。アンチロック制御部108は、駆動回路28に制御信号を入力し、ブレーキモータ30を正転方向に回転させ、ワイヤ張力Tcを増加させる。これによって、ロックが解消されたと判定された制御対象車輪に与える制動力を増加することがでる。アンチロック制御部108は、制御対象車輪がロックしたと判定する度にこの動作を繰り返す。これによって、車輪14のロックを効果的に抑制することができる。
【0042】
本図では、時間T1において、電源電圧VがVより小さいと判定された、またはエンジン回転数NがNより小さいと判定された場合の一例が示されている。この場合、PKBECU100は、省エネルギーモードで左後輪14RLおよび右後輪14RRのアンチロック制御を実施することにより、ブレーキモータ30に供給する電力を減少させる。
【0043】
具体的には、制御対象車輪がロックしたと判定された場合に、アンチロック制御部108は、基本ワイヤ35を引張るときの引張り力の増加速度を低下させることにより、ロックが解消したと判定された車輪14に与える制動力を増加させるときの制動力増加速度を低下させる。これによって、車輪14に与える制動力を増加させるときにモータが消費する電力を低減させることができ、アンチロック制御が実施されている間にバッテリ22の残量が少なくなることを抑制することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態に係る電動パーキングブレーキ200において、通常モードが選択される条件を表した制御マップである。本実施形態に係る電動パーキングブレーキ200の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0045】
制御マップには、V11及至V15までの電源電圧Vの各々と、N11及至N15までのエンジン回転数Nの各々とが組み合わされている。V11及至V15までの電源電圧の閾値は、表の下方に行くにしたがって高い値となるように設定されている。また、N11及至N15までの電源電圧の閾値は、表の下方に行くにしたがって低い値となるように設定されている。
【0046】
本実施形態に係る電動パーキングブレーキ200において、モード決定部106は、図4のS21およびS23において、図6に示される制御マップに表される電源電圧Vとエンジン回転数Nのいずれかの組合せを満たすか否かを判定する。制御マップのいずれかの組合せを満たすと判定された場合、モード決定部106は、通常モードでアンチロック制御を実施することを決定する。逆に、制御マップのいずれの組合せも満たさないと判定された場合、モード決定部106は、省エネモードでアンチロック制御することを決定する。
【0047】
たとえば、電源電圧が低くてもエンジン回転数が充分に高ければバッテリ22にその後電力が蓄えられる可能性は高い。逆に、エンジン回転数が低くても、電源電圧が充分に高ければ、すなわちバッテリ22に充分に電力が蓄えられていれば、バッテリ22に蓄えられている電力の残量が減少するまでに多くの時間を要する。本実施形態ではこのような場合を考慮し、バッテリ22に蓄えられた電力の残量を示す電源電圧と、バッテリ22に蓄えられた電力を今後維持することができるかを示すエンジン回転数とを複数組み合わせた制御マップを使用してアンチロック制御を実施するモードを決定する。これによって、第1の実施形態のように電源電圧とエンジン回転数を一つの閾値で判定する場合に比べ、バッテリ22に蓄えられた電力が減少する可能性が低い場合に省エネルギーモードでアンチロック制御を実施することを抑制することができる。
【0048】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。以下、そうした例をあげる。
【0049】
電源電圧センサ24の代わりに、バッテリ22の残量を直接検出するバッテリ充電状態検出センサが設けられてもよい。図4のS21において、PKBECU100は、バッテリ充電状態検出センサによって検出されたバッテリ22に蓄えられた電力の残量が所定の値より少ないか否かを判断してもよい。バッテリ充電状態検出センサを使用することによって、バッテリの充電状態を直接検出することができ、より正確にバッテリの充電状態を判定することが可能となる。
【0050】
複数種類の省エネルギーモードが設定されていてもよい。たとえば、バッテリ22の電源電圧が所定の値よりも低いと判断された場合に選択される省エネエネルギーモードと、エンジン回転数が所定の値よりも低いと判断された場合に選択される省エネルギーモードとでは、異なるアンチロック制御が実施されてもよい。これによって、車両10の状態に適した省エネルギーモードによってアンチロック制御を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1の実施形態に係る電動パーキングブレーキの全体構成図である。
【図2】第1の実施形態に係るPKBECUのアンチロック機能におけるブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る電動パーキングブレーキの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図3のS13のアンチロック制御の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態に係る電動パーキングブレーキにおいて、通常モードによるアンチロック制御と省エネルギーモードによるアンチロック制御との比較を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る電動パーキングブレーキにおいて、通常モードが選択される条件を表した制御マップである。
【符号の説明】
【0052】
10 車両、 14 車輪、 16 車輪速センサ、 18 ブレーキ、 22 バッテリ、 24 電源電圧センサ、 30 ブレーキモータ、 46 パーキングブレーキスイッチ、 100 PKBECU、 110 ABSECU、 120 エンジンECU、 200 電動パーキングブレーキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを作動させることによって車輪に制動力を与える制動手段と、
車輪の回転速度が所定の条件を満たす場合に、前記モータを作動させることにより車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実施する制動制御手段と、を備え、
前記制動制御手段は、前記モータに電力を供給するバッテリに蓄えられた電力の残量が減少した場合、または前記バッテリに蓄えられた電力の残量が減少する可能性がある場合に、アンチロック制御を実施している間に前記モータに供給する電力を減少させることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記バッテリに蓄えられた電力の残量が減少する可能性がある場合とは、エンジン回転数が低下した場合であることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記制動制御手段は、車輪に与える制動力を増加させるときの制動力増加速度を低下させることにより、前記モータに供給する電力を減少させることを特徴とする請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制動手段は、前記モータを作動させることにより引張られるワイヤと、前記ワイヤが引張られることによって車輪に制動力を与える制動ユニットと、を有し、
前記制動制御手段は、前記ワイヤを引張るときの引張り力の増加速度を低下させることにより、前記モータに供給する電力を減少させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電動ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−161217(P2007−161217A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364064(P2005−364064)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】