説明

電動巻上機

【課題】ブレーキライニングの摩耗量を自動的に検出するようにした電動巻上機を提供する。
【解決手段】出力軸43に連結されるブレーキホイール44a,44bにブレーキライニング47を介してブレーキディスク46a,46bが密着すると制動状態となり、密着を解除すると開放状態となり、ブレーキディスク46a,46bはブレーキレバー51により駆動される。ブレーキレバー51は駆動リンク機構63によりソレノイド56の可動コア54に連結され、調整ねじ部材64のラチェットホイール64bに係合するラチェット爪68aが調整レバー68に設けられており、ブレーキライニング47の摩耗量が一定値を超えると調整ねじ部材64は調整リンク機構69により調整回転される。調整ねじ部材64の調整回数に基づいてブレーキ摩耗量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を吊り上げる電動巻上機に関し、特に電動巻上機のブレーキライニングの摩耗を検出するようにした電動巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を吊荷としてこれを上下動するためのホイストクレーン等の電動巻上機は、吊荷を吊り下げるためのフックを有しており、このフックはドラムに巻き付けられるワイヤに装着されている。ドラムを回転駆動することによりフックを上下動させて吊荷の巻上げと巻下げが行われている。巻上機本体には、ドラムを回転駆動するための電動モータと、電動モータの回転を減速してドラムに伝達するための減速機とが組み込まれており、ドラムは減速機を介して回転駆動される。電動モータのシャフトには電磁ブレーキが装着されており、電磁ブレーキを作動させることにより吊荷を吊り下げた状態に保持することができる。ホイストクレーンにおいては、吊荷は吊り下げられた状態のもとで水平方向に搬送移動されることになる。
【0003】
電磁ブレーキは電動モータの出力軸に固定されるブレーキホイールと、このブレーキホイールに設けられたブレーキライニングに摩擦接触するブレーキディスクとを有している。ブレーキディスクは巻上機本体に取り付けられたガイドピンに装着され、ブレーキディスクにブレーキライニングを介して密着する制動位置つまり停止位置と密着を解除する開放位置とに移動自在となっている。
【0004】
ホイストクレーンの減速機に組み込まれた歯車の摩耗量を診断するために、特許文献1に記載されるように、電動モータの回転起動から歯車の噛み合いにより電動モータに流れる電流が立ち上がるまでの間に測定される回転軸の回転角度値から摩耗量を診断するようにしている。
【0005】
一方、電動巻上機においては電磁ブレーキのブレーキライニングの摩耗量が大きくなると、吊荷を停止させたときにブレーキがスリップしてしまうことになるので、電磁ブレーキを定期的に点検している。この定期点検は、ブレーキディスクを移動自在に支持するためのガイドピンの段付き部におけるギャップを目視検査することにより行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−213966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来では、このように、ブレーキディスクとガイドピンの段付き部におけるギャップを目視検査することによりブレーキライニングの摩耗量を確認するようにしている。このため、摩耗量の見落としや点検作業ミスが生じると、ブレーキライニングの摩耗により停止時にブレーキのスリップが発生し、吊荷がずれて下降移動する恐れがある。また、ブレーキライニングの摩耗量は、ホイストクレーンの使用頻度等により相違することになるので、摩耗量を目視検査する方式では、前回の摩耗量と比較することによりブレーキの交換時期を正確に予測することはできない。特許文献1に記載されるように、回転角度値から摩耗量の判定を行うようにすると、回転角度検出装置を巻上機本体に装着する必要があり、巻上機の製造コストを高めることになる。
【0008】
本発明の目的は、ブレーキライニングの摩耗量を自動的に検出するようにした電動巻上機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動巻上機は、吊荷を巻上げおよび巻下げする回転体を駆動する電動モータと、当該電動モータの出力軸を停止状態と開放状態とに切り換える電磁ブレーキとが設けられた巻上機本体を有する電動巻上機であって、前記出力軸に連結されるブレーキホイールにブレーキライニングを介して密着するブレーキ制動状態と密着を解除するブレーキ開放状態とに作動するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクに当接する作動部を有し、支点を中心に揺動自在に前記巻上機本体に装着されるブレーキレバーと、ソレノイドの可動コアと前記ブレーキレバーの駆動部との間に連結され、前記ブレーキレバーを駆動する駆動リンク機構と、前記巻上機本体に回転自在に装着され、ラチェットホイールが設けられるとともに前記ブレーキレバーの支点に当接する支点部を有する調整ねじ部材と、前記ラチェットホイールに係合するラチェット爪が設けられた調整レバーと前記可動コアとの間に連結され、前記ブレーキライニングの摩耗量が一定値を超えたときに前記調整ねじ部材を調整回転する調整リンク機構と、前記調整ねじ部材が調整回転されたことを検出して前記調整ねじ部材の調整回数に基づいてブレーキ摩耗量を検出する摩耗量判定手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
ブレーキライニングの摩耗量が所定値を超えると、調整ねじ部材が調整リンク機構により摩耗調整回転され、ブレーキディスクを駆動するブレーキレバーの支点位置が調整ねじ部材により自動的に調整され、調整ねじ部材の調整回転の数を検出することによってブレーキライニングの摩耗量を判定することができる。これにより、ブレーキライニングの摩耗量が交換時期となるまで進んだことを判定することができる。交換時期となったことが判定されたときには、警報を出力することにより、作業者は確実に最適な交換時期にブレーキの点検とブレーキの部品交換とを行うことができる。
【0011】
ブレーキ制動時における電動モータの出力軸のスリップ回転数を検出することにより、調整ねじ部材が摩耗調整回転されたことを求めることができるので、調整ねじ部材の調整回転の回数を直接検出することなく、電動モータの回転数を検出するエンコーダによって摩耗量が交換時期となったか否かを判定するとこができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態である電動巻上機としてのホイストクレーンを示す斜視図である。
【図2】図1に示された巻上機本体を示す正面図である。
【図3】ホイストクレーンの制御回路を示すブロック図である。
【図4】巻上機本体に設けられた電磁ブレーキを示す断面図である。
【図5】図4に示した電磁ブレーキの制動動作を示す概略図である。
【図6】電動巻上機の使用に伴うブレーキ動作回数とスリップ量の変化を示す概念図である。
【図7】ブレーキライニングの摩耗を判定するためのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1に示すホイストクレーンは、インバータ式クレーンであり、巻上機本体10をX方向つまり水平方向に案内する横行用ガータ11を有している。この横行用ガータ11の両端部には走行装置12がそれぞれ取り付けられており、それぞれの走行装置12は横行用ガータ11に対して直角方向となって水平に延びる走行用ガータ13に案内されてY方向に移動するようになっている。したがって、巻上機本体10は横行用ガータ11に沿ってX方向に移動するとともに走行用ガータ13に沿ってY方向に移動することになり、水平面に沿って移動することができる。
【0015】
巻上機本体10は、横行用ガータ11を両側から挟むように2つのフレーム14を有し、それぞれのフレーム14には横行用ガータ11を転動する車輪15が設けられている。なお、図1においては一方のフレーム14のみが示されている。一方のフレーム14には、図1に示されるように、車輪15を駆動するために横行用の電動モータ16が取り付けられており、この電動モータ16としては誘導モータが用いられている。
【0016】
巻上機本体10は、図2に示されるように、本体フレーム17を有し、この本体フレーム17内には回転体つまり回転ドラムが回転自在に組み込まれている。この回転ドラムは本体フレーム17に取り付けられた巻上げ用の電動モータ18により回転駆動される。この電動モータ18も誘導モータが用いられている。電動モータ18の出力軸の回転を減速して回転ドラムに伝達するために、図2に示されるように、本体フレーム17には減速機19が取り付けられている。回転ドラムにはワイヤロープ21が巻き付けられており、ワイヤロープ21が掛け渡される動滑車22が設けられたフック23には、吊荷が取り付けられるフック爪24が設けられている。
【0017】
巻上機本体10には図1に示されるように巻上機制御ユニット25が設けられており、図3に示すように、巻上機制御ユニット25には、巻上げ用の電動モータ18の駆動を制御する巻上用インバータ26と、横行用の電動モータ16の駆動を制御する横行用インバータ27とが設けられており、それぞれのインバータ26,27は巻上・横行インバータ制御部28からの信号により制御される。電動モータ18の出力軸の回転数を検出するために、巻上機本体10にはエンコーダ29が設けられており、エンコーダ29の検出信号は巻上・横行インバータ制御部28に送られる。横行用ガータ11には図1に示されるように走行制御ユニット31が設けられており、図3に示されるように、走行制御ユニット31には、走行装置12に設けられた走行用の電動モータ32の駆動を制御する走行用インバータ33が設けられており、走行用インバータ33は走行インバータ制御部34からの信号により制御される。
【0018】
図3に示されるように、巻上げ用の電動モータ18の出力軸をブレーキ制動状態とブレーキ開放状態とに切り換えるために、電磁ブレーキ35が巻上機本体10に設けられ、横行用の電動モータ16の出力軸をブレーキ制動状態とブレーキ開放状態とに切り換えるために、電磁ブレーキ36が巻上機本体10に設けられており、それぞれの電磁ブレーキ35,36は巻上・横行インバータ制御部28により制御される。また、走行装置12には走行用の電動モータ32の出力軸をブレーキ制動状態とブレーキ開放状態とに切り換えるために、電磁ブレーキ37が設けられており、電磁ブレーキ37は走行インバータ制御部34により制御される。巻上機制御ユニット25と走行制御ユニット31は、電源ユニット38に接続されている。
【0019】
巻上機本体10には、図1に示されるように、入力操作部39が接続されており、入力操作部39のキーを操作することにより、電動巻上機には動作指令が出力されて巻上・横行インバータ制御部28には操作指令が出力される。吊荷の巻上げ動作や巻下げ動作が指示されると、巻上用インバータ26が制御されて、巻上用インバータ26からは必要な周波数と電圧が巻上げ用の電動モータ18に印加される。これにより、電磁ブレーキ35が開放動作されてワイヤロープ21を介して吊荷を吊したフック23を上下方向に移動させることができる。フック23が上下方向に移動した距離を判定するために、エンコーダ29により電動モータ18の回転数が検出され、エンコーダ29により検出されたパルスが巻上・横行インバータ制御部28に送られる。巻上・横行インバータ制御部28は、受け取ったパルスから距離に換算してフック23が移動した距離を算出する。
【0020】
入力操作部39の操作により巻上機本体10の横行動作が指示されたときには、横行用インバータ27が制御されて横行用インバータ27から必要な周波数と電圧が横行用の電動モータ16に印加される。これにより、電磁ブレーキ36が開放動作されて巻上機本体10はX方向に駆動される。同様に、入力操作部39の操作により巻上機本体10の走行動作が指示されたときには、走行インバータ制御部34が制御されて走行用インバータ33から必要な周波数と電圧が走行用の電動モータ32に印加される。これにより、電磁ブレーキ37が開放動作されて走行用ガータ13に沿って巻上機本体10はY方向に駆動される。
【0021】
図4は図2に示された電磁ブレーキ35を示す断面図であり、図5は図4に示した電磁ブレーキ35の制動動作を示す概略図である。
【0022】
図4に示されるように、巻上げ用の電動モータ18を収容するモータケース41に取り付けられる端板42には、電動モータ18の出力軸43が回転自在に支持されている。出力軸43には回転側のブレーキ部材として2枚のブレーキホイール44a,44bがスプライン結合されており、ブレーキホイール44a,44bは出力軸43と一体に回転するとともに出力軸43に対して軸方向に移動自在となっている。巻上機本体10の端板42には段付きのガイドピン45が固定されており、2枚のブレーキホイール44a,44b間には環状のブレーキディスク46aが配置され、ブレーキホイール44bの外側には円盤形状のブレーキディスク46bが配置されている。固定側のブレーキ部材としてのそれぞれのブレーキディスク46a,46bにはガイドピン45が貫通しており、それぞれのブレーキディスク46a,46bはガイドピン45により回転が規制され、軸方向に移動自在となっている。ブレーキホイール44a,44bの外周部にはブレーキライニング47が取り付けられており、出力軸43に連結されるブレーキホイール44a,44bに対してブレーキライニング47を介してブレーキディスク46a,46bを密着させると、出力軸43はブレーキ制動状態となり、密着を解除するとブレーキ開放状態となる。なお、ブレーキライニング47をブレーキディスク46a,46bに設けるようにしても良く、ブレーキホイール44a,44bとブレーキディスク46a,46bの両方に設けるようにしても良い。また。ブレーキディスク46a,46bとブレーキホイール44a,44bの枚数は任意の枚数とすることができる。
【0023】
端板42に固定されるブレーキスタンド48には駆動ロッド49が軸方向に往復動自在に装着されている。この駆動ロッド49は、駆動側のブレーキディスク46bとブレーキスタンド48との間に配置されたブレーキレバー51の一端部の駆動部51aに取り付けられている。ブレーキレバー51はその他端部を支点51bとして揺動自在となっており、駆動部51aと支点51bとの間の作動部51cには、ブレーキディスク46bの中心部に設けられた突起部52に当接している。駆動ロッド49には圧縮コイルばねからなるブレーキばね53が装着されており、このブレーキばね53によりブレーキレバー51には支点51bを中心として作動部51cからブレーキディスク46bをブレーキホイール44a,44bおよびブレーキディスク46aに向けて押し付けてこれらを密着させるためのばね力が加えられている。
【0024】
ブレーキスタンド48には、可動コア54を軸方向に往復動するコイル55が設けられたソレノイド56が装着されている。可動コア54には駆動リンク57がピン58により連結され、ブレーキスタンド48にピン59により揺動自在に装着された駆動リンク61がピン62により駆動リンク57に連結されている。駆動リンク61には駆動ロッド49がピン62により連結されており、ソレノイド56のコイル55に通電すると、駆動リンク57,61によりばね力に抗して駆動ロッド49が後退方向に駆動される。これにより、ブレーキディスク46a,46bとブレーキホイール44a,44bとの密着が解除されて、電磁ブレーキ35はブレーキ開放状態となる。このように、駆動ロッド49と2つの駆動リンク57,61は、ブレーキレバー51の駆動部51aと可動コア54との間を連結してソレノイド56によりブレーキレバー51を駆動するための駆動リンク機構63を構成している。
【0025】
ブレーキスタンド48には、ブレーキレバー51の支点51bに当接する球面形状の支点部64aを有する調整ねじ部材64が回転自在にねじ結合されており、この調整ねじ部材64には大径のラチェットホイール64bが設けられている。ブレーキスタンド48にはピン65により揺動自在に調整リンク66が装着され、この調整リンク66の一端部はピン58により駆動リンク57とともに可動コア54に連結されている。調整リンク66の他端部にはピン67により調整レバー68が連結されており、調整レバー68にはラチェットホイール64bに係合するラチェット爪68aが設けられている。調整リンク66は、調整レバー68と可動コア54との間を連結して、調整レバー68を駆動するための調整リンク機構69を構成している。
【0026】
ソレノイド56のコイル55に通電すると、駆動リンク機構63と調整リンク機構69は図5において破線で示すようにブレーキ開放位置となる。これにより、ブレーキディスク46a,46bのブレーキホイール44a,44bに対する密着が解かれたブレーキ開放状態となる。これに対し、コイル55に対する通電を停止すると、ブレーキばね53のばね力によりブレーキレバー51が支点51bを中心として図4および図5において反時計方向に揺動し、ブレーキディスク46bの突起部52がブレーキレバー51により押圧される。これにより、ブレーキディスク46a,46bとブレーキホイール44a,44bとが密着するブレーキ制動状態となる。図5において実線は、駆動リンク機構63と調整リンク機構69とがブレーキ制動状態となった位置を示す。
【0027】
したがって、ブレーキレバー51と駆動リンク機構63と調整リンク機構69は、コイル55への電力供給のオンオフにより、図5に示されるように、実線で示すブレーキ制動位置と破線で示すブレーキ開放位置との間で駆動されることになる。このときの可動コア54の往復動ストロークをGとし、ラチェット爪68aの往復動ストロークをSとすると、ラチェット爪68aの往復動ストロークSはラチェットホイール64bの歯先間の距離Tよりも短くなる。したがって、この状態のもとでは、ラチェット爪68aはラチェットホイール64bの歯に噛み合うことなく、空振り移動することになる。
【0028】
これに対して、電動巻上機が長期間に渡って使用されて、ブレーキライニング47の摩耗が進むと、コイル55への通電を停止したブレーキ制動状態のときには、例えば、図5において二点鎖線で示すように、駆動リンク機構63と調整リンク機構69は実線で示す位置よりも前進した位置となり、ブレーキレバー51の駆動部51aはブレーキディスク46a,46b側に変位することになる。したがって、このようにブレーキライニング47の摩耗が進んだ状態のもとでは、コイル55に通電してブレーキ開放状態にすると、可動コア54の往復動ストロークは、例えばG+αで示すように大きくなり、ラチェット爪68aの往復動ストロークSは、例えばS+βで示すように大きくなる。
【0029】
ラチェット爪68aの往復動ストロークS+βがラチェットホイール64bの歯先間の距離Tよりも大きくなると、ブレーキ制動状態のもとでは、ラチェット爪68aはラチェットホイール64bの歯先を超えてラチェットホイール64bの歯に噛み合う位置となる。この状態のもとで、コイル55に通電してブレーキ開放状態とすると、調整レバー68により調整ねじ部材64はラチェットホイール64bの1つの歯に対応した角度だけ調整回転することになる。調整ねじ部材64が回転すると、支点部64aがブレーキディスク46bに向けて前進移動するので、ブレーキレバー51の支点51bの位置がずれる。これにより、制動したときのブレーキレバー51と駆動リンク機構63と調整リンク機構69は図5において実線で示す初期位置となり、ブレーキ制動時における押圧力は摩耗前の状態に自動的に摩耗が調整される。このように、ブレーキライニング47の摩耗量が一定値を超えると、調整リンク機構69によって調整ねじ部材64は調整回転されて摩耗調整動作される。
【0030】
上述のように、電動巻上機の使用に伴ってブレーキライニング47の摩耗が進むと、可動コア54の往復動ストロークとブレーキレバー51の揺動ストロークが大きくなるので、ブレーキ制動時におけるブレーキばね53の押圧力が弱くなる。したがって、停止されたフック23に吊荷を吊り下げた状態のもとでは、ブレーキホイール44a,44bがスリップすることになり、そのスリップ量はブレーキライニング47の摩耗量が増加するに伴って大きくなる。摩耗量が所定量を超えると、調整レバー68によって調整ねじ部材64が調整回転されるので、ブレーキレバー51の支点51bの位置が調整されて自動的にブレーキばね53による押圧力が摩耗前に初期状態に戻される。つまり、摩耗調整が行われる。押圧力が摩耗前の初期値に戻されると、スリップの発生は抑制される。このように、ブレーキライニング47の摩耗が進んでも、ラチェットホイール64bにより支点部64aの位置を徐々に前進させることにより押圧力を戻すことができるが、ブレーキライニング47が所定値以上摩耗すると、ブレーキライニング47が取り付けられたブレーキホイール44a,44bやブレーキディスク46a,46b等のブレーキ部材を交換する必要がある。
【0031】
その交換時期はラチェットホイール64bが調整回転された回数を求めることにより検出することができる。ラチェットホイール64bの摩耗調整回数の検出は、調整ねじ部材64の調整回数を直接検出することによっても求めることができるが、ブレーキホイール44a,44bのスリップ状態を検出することによって調整回数を求めることができる。スリップ量は、ブレーキ制動時における巻上げ用の電動モータ18の出力軸43の回転数によって検出することができ、スリップ量の変化を検出することによって調整回数を求めることができる。スリップに起因した電動モータ18の回転数は、スリップ信号出力手段として機能する図3に示したエンコーダ29によって検出することができる。
【0032】
図6は電動巻上機の使用に伴うブレーキ動作回数とスリップ量の変化を示す概念図であり、縦軸はスリップ量に対応してエンコーダ29から出力されるパルス数を示す。
【0033】
図6に示すように、電動巻上機の使用に伴ってスリップ量が徐々に増加し、ブレーキライニング47の摩耗量が一定値を超えると、上述のように、調整ねじ部材64が調整回転されて押圧力の調整が行われてスリップ量が初期値に調整されるので、スリップ量に対応したパルス数は鋸歯状に変化することになる。図6には、第1回目の調整から第3回目の調整が行われた状態が示されている。
【0034】
摩耗調整が行われると、スリップに起因したパルス数は摩耗前のパルス数A0に戻ることになる。そこで、自動調整後のパルス数のバラツキを考慮し、摩耗前のパルス数A0よりも例えば10パルス程度増加させたパルス数を初期値Aとし、この初期値Aに例えば5パルス程度増加させたパルス数を判定値Bとする。したがって、エンコーダ29からの信号によりスリップに起因したパルス数が判定値Bよりも1度増加した後に、判定値Bよりも低下したことが検出されたときには、摩耗調整が行われて調整ねじ部材64が回転駆動されたと判定することができる。
【0035】
この判定は、エンコーダ29の信号が送られる巻上・横行インバータ制御部28により行われ、巻上・横行インバータ制御部28は摩耗量判定手段を構成している。巻上・横行インバータ制御部28には、制御信号を演算するマイクロプロセッサと、演算式やマップデータ等が格納されるROM、および一時的にデータを格納するRAM等が設けられている。
【0036】
図7はエンコーダ29からのパルス信号に基づいてブレーキライニング47の摩耗を判定するためのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0037】
ブレーキライニング47が摩耗する前のパルス数の初期値Aが設定される(ステップS1)。この初期値Aは、電動巻上機の運転を開始してから例えば100回分のブレーキ制動時のパルス数を平均化することにより摩耗前のパルス数A0を求めて、図6に示したように、そのパルス値A0に10を足して求められる。求められた初期値Aはメモリに格納される。電動巻上機が運転されたら、ステップS2において、ブレーキ制動時のパルス信号を検出し、ステップS3においては、検出されたパルス数を判定値Bと比較する。判定値Bは上述のように、初期値Aに例えば5パルス加えた数が設定されている。検出されたパルス値が判定値Bを超えているとステップS3で判定されたときには、ステップS4でフラグをセットしてステップS2に戻される。
【0038】
一方、ステップS3において判定値B以下であると判定されたときには、ステップS5においてフラグが立っているか否かを判定する。フラグが立っていないときは、判定値Bに対応したスリップ量となるまでブレーキライニング47は摩耗していないことになり、ステップS2に戻される。これに対し、ステップS5においてフラグが立っていると判定されたときは、既にパルス値が判定値Bを超えるまで増加した後に、パルス数が判定値Bよりも低下したことになり、調整ねじ部材64が調整回転された摩耗前の状態に摩耗調整が行われたことになる。そこで、ステップS5でYESと判定されたら、調整回数をカウントし、現在の摩耗量を算出し、フラグをクリアにする(ステップS6〜S8)。
【0039】
ステップS7においては算出された現在の摩耗量に基づいてステップS9においてはブレーキライニング47が交換時期となっているか否かを判定する。交換時期でなければステップS2に戻され、交換時期となっていると判定されたときには、ステップS10においてアラーム信号を出力し、警報ランプや警報ブザー等の警報手段を作動させる。警報ランプや警報ブザーは、例えば、巻上機制御ユニット25等に設けられている。
【0040】
図4および図5に示すように、ブレーキライニング47が全く摩耗していない電動巻上機の運転初期のブレーキギャップ値をFとすると、この値Fと1度摩耗調整される毎のブレーキギャップ値Fの減少値とが予め設定されており、それぞれがメモリに格納されている。例えば、全く摩耗していないときのブレーキギャップ値Fを12mmとし、1度調整される毎のブレーキギャップ値Fの減少量を1mmとすると、第1回目の摩耗調整が行われた後のブレーキギャップ値Fは11mmとなる。例えば、ブレーキライニング47の限界摩耗値が2mmとすると、現在の摩耗量が例えば5mm以下となったと判定されたときに、ブレーキライニング47の交換時期としてアラーム信号が出力される。
【0041】
以上のように、ブレーキライニング47が所定量摩耗すると、ブレーキホイール44a,44bとブレーキディスク46a,46bとのブレーキギャップを自動的に調整するようにした調整ねじ部材64の調整回転の回数を検出してブレーキライニング47の摩耗状態を検出するようにしたので、作業者の主観に頼ることなくブレーキライニング47の摩耗確認を行うことができる。調整ねじ部材64による調整回数を電動モータ18の回転数を検出するエンコーダを利用して出力軸43のスリップ回転数に基づいて判定すると、調整ねじ部材64による摩耗調整の回数を検出するための特別な装置を用いることなく、ブレーキライニング47の交換時期ないし寿命を低コストで判定することができる。これにより、ブレーキライニング47が設けられたブレーキホイール44a,44b等のように摩耗することになるブレーキ部材を最適の交換時期に確実に交換することができる。
【0042】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本発明は図1に示されるホイストクレーンのみならず、ブレーキを有する種々のタイプの電動巻上機に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…巻上機本体、11…横行用ガータ、12…走行装置、13…走行用ガータ、14…フレーム、15…車輪、16…電動モータ、17…本体フレーム、18…電動モータ、19…減速機、21…ワイヤロープ、22…動滑車、23…フック、24…フック爪、25…巻上機制御ユニット、26…巻上用インバータ、27…横行用インバータ、28…巻上・横行インバータ制御部、29…エンコーダ、31…走行制御ユニット、32…電動モータ、33…走行用インバータ、34…走行インバータ制御部、35〜37…電磁ブレーキ、38…電源ユニット、39…入力操作部、41…モータケース、42…端板、43…出力軸、44a,44b…ブレーキホイール、45…ガイドピン、46a,46b…ブレーキディスク、47…ブレーキライニング、48…ブレーキスタンド、49…駆動ロッド、51…ブレーキレバー、51a…駆動部、51b…支点、51c…作動部、52…突起部、53…ブレーキばね、54…可動コア、55…コイル、56…ソレノイド、57…駆動リンク、58…ピン、59…ピン、61…駆動リンク、62…ピン、63…駆動リンク機構、64…調整ねじ部材、64a…支点部、64b…ラチェットホイール、65…ピン、66…調整リンク、67…ピン、68…調整レバー、68a…ラチェット爪、69…調整リンク機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷を巻上げおよび巻下げする回転体を駆動する電動モータと、当該電動モータの出力軸を停止状態と開放状態とに切り換える電磁ブレーキとが設けられた巻上機本体を有する電動巻上機であって、
前記出力軸に連結されるブレーキホイールにブレーキライニングを介して密着するブレーキ制動状態と密着を解除するブレーキ開放状態とに作動するブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクに当接する作動部を有し、支点を中心に揺動自在に前記巻上機本体に装着されるブレーキレバーと、
ソレノイドの可動コアと前記ブレーキレバーの駆動部との間に連結され、前記ブレーキレバーを駆動する駆動リンク機構と、
前記巻上機本体に回転自在に装着され、ラチェットホイールが設けられるとともに前記ブレーキレバーの支点に当接する支点部を有する調整ねじ部材と、
前記ラチェットホイールに係合するラチェット爪が設けられた調整レバーと前記可動コアとの間に連結され、前記ブレーキライニングの摩耗量が一定値を超えたときに前記調整ねじ部材を調整回転する調整リンク機構と、
前記調整ねじ部材が調整回転されたことを検出して前記調整ねじ部材の調整回数に基づいてブレーキ摩耗量を検出する摩耗量判定手段とを有することを特徴とする電動巻上機。
【請求項2】
請求項1記載の電動巻上機において、前記ブレーキ摩耗量が前記ブレーキライニングの交換時期となったときに警報を発する警報手段を有することを特徴とする電動巻上機。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動巻上機において、ブレーキ制動時における前記出力軸のスリップ回転数に対応したパルス信号を出力するスリップ信号出力手段を有し、前記パルス信号のパルス数が判定値を一度超えた後に前記判定値よりも減少に転じたときに前記調整ねじ部材が調整回転されたと判定することを特徴とする電動巻上機。
【請求項4】
請求項3記載の電動巻上機において、前記判定値をブレーキギャップが初期設定されたときのスリップ回転数に対応したパルス信号のパルス数の初期値に所定数を加えた値に設定することを特徴とする電動巻上機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動巻上機において、前記巻上機本体を水平方向に案内する横行用ガータと、当該横行用ガータの両端部をそれぞれ前記巻上機本体の移動方向に対して直角の方向に案内する走行用ガータとを有し、前記巻上機本体を水平面に沿って移動することを特徴とする電動巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−116623(P2012−116623A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268041(P2010−268041)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】