説明

電動式流量制御弁

【課題】ステッピングモータ式の電動式流量制御弁において、冷暖房運転時には全開状態となり、冷房ドライ運転および暖房ドライ運転時には絞り作用を行う電動式流量制御弁を提供する。
【解決手段】ステッピングモータ式の電動式流量制御弁において、ステッピングモータMの作動で弁体5を回転させ、弁体5に形成したブリード溝21,22及び全開用溝5dと、一次口14の開口部14a及び二次口15の開口部15aとの相対位置を変更させることにより、冷媒流量を、「暖房モード」、「冷房モード」、「暖房除湿モード」及び「冷房除湿モード」の各運転モードに適した流量に制御することができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷凍サイクル式冷暖房装置における冷媒絞り弁として好適なステッピングモータを備えた電動式流量制御弁に関し、特に冷暖房運転時には全開状態となり、冷房ドライ運転及び暖房ドライ運転時には絞り作用を行う電動式流量制御弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来図1に示すような冷凍サイクルを使用した冷暖房装置が一般化している。即ち、この冷凍サイクルは、コンプレッサ101、四方切り替え弁102、室外側熱交換機103、膨張弁104、第1室内側熱交換機105、第2室内側熱交換機106、第1室内側熱交換機105と第2室内側熱交換機106との間に設けられている、電動式流量制御弁(冷媒絞り弁)107とによって構成されている。
【0003】
このような冷凍サイクル式冷暖房装置の電動式流量制御弁として、ステッピングモータを備えた電動式流量制御弁が用いられている。ステッピングモータを備えた電動式流量制御弁は、ステッピングモータのロータに弁体を一体的に設け、ロータの回転によって弁体が回転することにより弁開度を調節できるようになっている。その1例として、特開平8−312822号公報に記載されたものがある。
【0004】
この電動式流量制御弁は、図10に示すように、永久磁石011を有するロータ09と一体的に回転する軸03とによってステッピングモータの回転部030を構成し、この回転部030を弁本体01および密閉型ケース06によって形成される密閉空間に配設し、軸03に弁体03aを形成し、弁本体01に設けられている弁ポート01cと弁ポート01cに対向する弁体03aの周面とによって形成される隙間を、弁体03aの軸03の軸線に垂直な断面形状にしたがってロ−タ09の回転により変化させることにより冷媒流量を制御できるようになっている。またこの電動式流量制御弁では、一次口01aと弁ポート01cに開口する二次口01bとが、弁本体01に互いに直交するように取り付けられており、更に回転部030はガイド部01gだけで支持される構成となっている。符号07はコイル、08はケース、Mはステッピングモータを示している。
【0005】
更に、特開2000−111209号公報に記載されている電動式流量制御弁もある。この電動式流量制御弁は、図11に示すように、合成樹脂製のロータ043とマグネット040とをロータ043の樹脂成形時に一体成形し、ロータ043とマグネット040との間に隙間を生じないようにするとともに、キャン039の上蓋部の中心に支持凹部067を形成し、ガイド部材068の突出部を嵌合し、そのガイド部材068の下端にニードル弁体041を備えたピン042の上端部を摺動自在に支持させて、ロータ組立体056の回転支持部分Lb間にロータ振れ回り部Laが存在するように構成している。この電動式流量制御弁も一次口033と弁ポート036に開口する二次口035とが、弁本体032に互いに直交するように取り付けられており、さらに回転部030はガイド部051だけで支持される構成となっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来の電動式流量制御弁は、いずれも一次口と二次口035とが、弁本体に互いに直交するように取り付けられる構成であるため、冷媒の流通抵抗が大きく、更に冷媒の流れにともなって騒音が発生し易いという課題がある。また回転部は、一か所のガイド部だけで支持される構成となっているため、ふらつき易く、これが騒音発生の原因となるばかりか冷媒流量の制御が不安定となるなどの課題がある。
また、これらの電動式流量制御弁は、熱リサイクル方式の除湿機能を備えたシステムについて考慮されておらず、このような電動式流量制御弁を熱リサイクル方式の除湿機能を備えた冷凍サイクル式空気調和装置の除湿弁として用いた時、冷房除湿運転や暖房除湿運転は可能であるが、全開時の圧損が大きいため、通常の冷暖房運転時の能力は、著しく低下してしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、従来のステッピングモータを備えた電動式流量制御弁の上記のような不都合な点を解消するとともに、冷凍サイクル式冷暖房装置における冷媒絞り弁として好適で、しかも冷暖房運転時には全開状態となり、更に冷房除湿運転時にはブリード量が多く、暖房除湿運点時にはブリード量が少なくなるような絞り作用を行う電動式流量制御弁を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ステッピングモータの作動で弁体を回転させ、弁体に形成したブリード溝及び全開用溝と、一次口の開口部及び二次口の開口部との相対位置を変更させることにより、冷媒の流量を「暖房モード」、「冷房モード」、「暖房除湿モード」及び「冷房除湿モード」の各運転モードに適した流量に制御することができるようにして課題解決の手段としている。
【0009】
また、本発明は、前記一次口と二次口とを前記弁本体の左右に互いに対向するように設けて、弁開時の冷媒流通抵抗を低減して冷媒流通音の低減化をはかるようにして課題解決の手段としている。
【0010】
更に、本発明は、弁体に設けられた軸を、その下端部を上記弁本体に設けられた軸受けに支持させる一方、その上端部をステッピングモータのケースに取り付けられた上側軸受けに支持させ、かつ、上側軸受けと弁体との間に弁体押さえ用のコイルばねを介装することにより、弁体の回転時における軸振れを抑制するようにして課題解決の手段としている。
【0011】
また、本発明は、弁体を多孔質材で形成することにより、冷房除湿運転及び暖房除湿運転時での冷媒通過音の低減を可能にして課題解決の手段としている。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面により本発明の実施の形態について説明する。
図1は図2に示す電動式流量制御弁が適用される冷凍サイクルの模試構成図、図2は本発明の一実施形態としての電動式流量制御弁の側断面図、図3は同平面図、図4は同主要部の側断面図、図5は図4の一部を拡大して示す側断面図、図6は図4のC−C断面図、図7は同弁体の断面三日月状の計量周面部を示す断面図、図8は同弁座に設けられているV字型の冷媒絞り溝の拡大図、図9は作動説明図である。
【0013】
この実施形態の電動式流量制御弁も、図1に示した冷凍サイクルの模試構成図において、冷凍サイクルの電動式流量制御弁107として使用されるもので、図2に示す電動式流量制御弁の側断面図及び図4に示す主要部の側断面図においてステッピングモータMと弁本体8とによって構成されており、そのステッピングモータMは上記の従来のステッピングモータとほぼ同一の構成となっている。即ち、図2乃至図4に示すように、この電動式流量制御弁は、金属製の弁本体8を有し、弁本体8は弁室13を備え、弁室13の左右には、一次口14と二次口15とが互いに対向するように取り付けられている。一次口14と二次口15との弁室13への開口部14a,15aには、後述の断面三日月状の計量周面部5cと協働して弁作用を行う弁座16,17が形成されている。
弁本体8の上部にはケース2が取り付けられていて、ケース2内にステッピングモータMのマグネット6が回転可能に配置され、ケース2の外側に円筒状のコイル12が配置されている。
【0014】
マグネット6は、中心部に中央孔6aを有する円筒状をなしており、この中央孔6aには、弁体5の頭部5aが挿入されている。マグネット6の中央孔6aには凹部6bが形成されており、この凹部6bに弁体5の頭部5a嵌合していて、これにより、マグネット6と弁体5とがキー係合状態で係合している。これにより、マグネット6と弁体5との回転方向の位置決めが行われると同時に、マグネット6と弁体5とがトルク伝達関係で結合される構成となっている。
【0015】
弁体5は、弁本体8の弁室13に回転可能に嵌合しており、一次口14と二次口15とに対向する外周面に、偏心して形成された断面三日月状の計量周面部5cと、全開用溝5dとを形成され、回転することにより、一次口14と二次口15との連通・遮断および弁開度(連通度)を変化できるようになっている。弁体5の中心部には、金属製の軸4が貫通して設けられていて、軸4の下端部は弁本体8に形成された軸受け部8aに回転可能に支持されている。軸4の上端部は、ケース2内の上部に設けられている上側軸受け1に回転可能に支持されている。このように、軸4は上下両端部で支持される構成となっていて、この構成により弁体5の回転時における軸振れを抑制することができる。
【0016】
弁室13の底面に弁体5のストッパピン10が取り付けられている。符号3は上側軸受け1とマグネット6との間に介装されたマグネット押さえ用のコイルばねを示しており、コイルばね3でマグネット6を押さえる構成と軸4を上下両端部で支持する構成とにより、作動音を低減することができるようになっている。符号11はスプリングピンを示している。また、符号7はケース2の蓋体を示しており、この蓋体7に、図4に示すように、ストッパ部7a,7bが設けられている。このストッパ部7aは、組み立て時弁本体8の上面環状部8bに形成された係合凹部に嵌入して、弁本体8に対するケース2の位置決めが行えるようになっている。また、図6に示すように、ストッパ部7aは1か所にだけ設けてもよい。
【0017】
電動式流量制御弁の主要部を拡大して示す側断面図である図5、弁体の断面三日月状の計量周面部を示す断面図である図7及び弁座に設けられているV字型の冷媒絞り溝の拡大図である図8に示すように、弁体5の計量周面部5cの外周面に、2本のブリード溝21,22が設けられている。2本のブリード溝21,22は軸4に関し偏心した位置に設けられている。更に、弁座16,17には、その各円周面に、開口部14a,15aの外方に向かって浅くなる断面V字型の冷媒絞り溝18,18がそれぞれ形成されている。
【0018】
次に作動について説明する。
図9(a)〜(c)はステッピングモータMの作動による弁体5の回転位置を示す作動説明図で、(a)は初期(0パルス時)から弁体5が反時計方向に4パルス分回転した状態を示している。このとき、弁体5の断面三日月状の計量周面部5cに形成されているブリード溝22のみが一次口14の開口部14aに連通することとなり、冷媒は矢印Xの方向に流れて冷凍サイクルは、「暖房除湿モード」となる。
【0019】
ステッピングモータMへのパルス数が増えると、弁体5は更に反時計方向に回転する。(b)は初期から22パルス分回転した状態を示している。このとき、弁体5の断面三日月状の計量周面部5cは、一次口14の開口部14a及び二次口15の開口部15aと対向する位置から離れるため、一次口14と二次口15とは、弁体5の全開用溝5dを介して連通することになり、冷媒は矢印Ya方向又はYb方向に流れて冷凍サイクルは、「暖房モード」又は「冷房モ−ド」となる。この「暖房モード」又は「冷房モード」時、弁体5による冷媒の絞り作用は行われず、冷媒は一次口14と二次口15との間を弁体5を直線状に通過する。したがって、一次口14と二次口15とが直線状に配設されていることと相まって、冷媒の流通抵抗を極めて低くすることができ、冷媒通過音の抑制化が可能になる。
【0020】
ステッピングモータMへのパルス数をさらに増加すると、弁体5は更に反時計方向に回転する。(c)は初期から39パルス分回転した状態を示している。このとき、弁体5の断面三日月状の計量周面部5cに形成されているブリード溝21,22が二次口15の開口部15aに連通することとなり、冷媒は矢印Zの方向に流れて冷凍サイクルは「冷房除湿モード」となる。この「冷房除湿モード」では2本のブリード溝21、22が二次口15の開口部15aに連通するので、冷媒の流量は暖房除湿モード時よりも多くなり、冷房除湿モードに適した流量が得られる。なお、上記の暖房除湿モード時および冷房除湿モード時に、ブリード溝21,22のほか、弁座開口部に設けられた断面V字型の冷媒絞り溝18を介して一定量の冷媒流量が確保されている。
【0021】
このようにして、この実施形態の電動式流量制御弁では、ステッピングモータMの作動によって弁体5を回転させ、弁体5に形成したブリード溝21,22及び全開用溝5dと、一次口14の開口部14a及び二次口15の開口部15aとの相対位置を変更させることにより、「暖房モード」、「冷房モード」、「暖房除湿モード」及び「冷房除湿モード」の各運転モードに適した冷媒流量を得る
ことができる。
【0022】
上記の例では、弁体5にブリード溝21,22を形成して冷媒流量の制御を行っているが、これの変形例として、弁体5全体を多孔質材で成形するようにしてもよい。多孔質材としては、発泡金属、メッシュデミタス、焼結多孔金属、発泡セラミック、焼結多孔セラミックなどが好適である。このような多孔質材で弁体5全体を成形するとき、ブリード溝を設けることなく、同様の機能を備えた電動式流量制御弁を得ることができる。
【0023】
【発明の効果】
以上のように、本発明の電動式流量制御弁によれば、以下のような効果が得られる。
(1)ステッピングモータの作動で弁体を回転させ、弁体に形成したブリ−ド溝及び全開用溝と、一次口の開口部及び二次口の開口部との相対位置、弁座開口部のV溝の有無及びV溝の形状を変更させることにより、「暖房モード」、「冷房モード」、「暖房除湿モード」及び「冷房除湿モード」の各運転モードに適した冷媒流量に制御することができる。
(2)一次口と二次口とを、弁本体の左右に互いに対向するように設けたことにより、一次口と二次口とが弁室を介して一直線状に配設されていることになり、弁開時における冷媒の流通抵抗を極めて低くすることができ、冷媒通過音の抑制化が可能となる。
(3)ステッピングモータと上記弁本体との間の位置決め用ストッパ部をステッピングモータのケースの蓋体に設けたことにより、位置決めを容易に行うことができる。
(4)回転子、即ち弁体に取り付けた軸が、その下端部を弁本体に設けられた軸受けに支持される一方、その上端部をステッピングモータのケースに取り付けられた上側軸受けに支持されるようにし、かつ、上側軸受けと回転子との間に回転子押さえ用のコイルばねを介装した構成により、弁体の回転時における軸振れを抑制することができ、騒音の抑制と冷媒流量の正確な制御とが可能になる。
(5)弁体を多孔質材で形成することにより、上記ブリード溝を省略しても同様の機能を有する電動式流量制御弁を得ることができ、冷媒通過音の低減化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図2に示す電動式流量制御弁が適用される冷凍サイクルの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態としての電動式流量制御弁の側断面図である。
【図3】同平面図である。
【図4】同主要部の側断面図である。
【図5】図4の一部を拡大して示す側断面図である。
【図6】他の電動式流量制御弁の図4のC−C断面図である。
【図7】同弁体の断面三日月状の計量周面部を示す断面図である。
【図8】同弁座に設けられているV字型の冷媒絞り溝の拡大図である。
【図9】同作動説明図である。
【図10】従来の電動式流量制御弁の側断面図である。
【図11】従来の他の電動式流量制御弁の側断面図である。
【符号の説明】
1 上側軸受け
2 ケース
3 コイルばね
4 軸
5 弁体
5c 計量周面部
5d 全開用溝
6 マグネット
7 蓋体
7a ストッパ部
8 弁本体
10 ストッパ
11 スプリングピン
12 コイル
13 弁室
14 一次口
15 二次口
16,17 弁座
18 V字溝
21,22 ブリード溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータと、該ステッピングモータの回転子に一体的に設けられた弁体と、該弁体を回転可能に収容する弁本体とを備えるとともに該弁本体と前記弁体との間に冷媒通路としての弁室が形成された電動式流量制御弁において、前記弁体が断面三日月状の計量周面部と全開用溝とを備えるとともに前記弁体に軸が取り付けられ、前記弁本体に前記弁体の三日月状の計量周面部が摺動自在に当接する弁座が形成され、前記弁座に少なくとも一次口又は二次口が前記弁室に開口するように設けられ、前記記弁体の計量周面部に複数のブリード溝が上記軸に関して非対称に形成され、前記弁座に開口した前記一次口又は二次口の弁座開口部に冷媒絞り溝が形成されていることを特徴とする電動式流量制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の電動式流量制御弁において、前記一次口と二次口とが前記弁本体の左右に互いに対向するように設けられていることを特徴とする電動式流量制御弁。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動式流量制御弁において、前記一次口又は二次口の弁座開口部に設けられた前記冷媒絞り溝が、前記開口部の外方に向かって狭くなる断面V字型に形成されていることを特徴とする電動式流量制御弁。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電動式流量制御弁において、前記ステッピングモータと前記弁本体との間の位置決め用ストッパ部が、前ステッピングモータのケースの蓋体に設けられていることを特徴とする電動式流量制御弁。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電動式流量制御弁において、前記軸が、その下端部を前記弁本体に設けられた軸受けに支持される一方、その上端部を前記ステッピングモータのケースに取り付けられた上側軸受けに支持され、前記上側軸受けと前記弁体との間に弁体押さえ用コイルばねが介装されていることを特徴とする電動式流量制御弁。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電動式流量制御弁において、前記弁体が多孔質材で形成されていることを特徴とする電動式流量制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−291976(P2006−291976A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−384448(P2000−384448)
【出願日】平成12年12月18日(2000.12.18)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】