説明

電動機付き車両の駆動装置

【課題】モータの径方向の寸法を可及的に小さくすることができ、モータ全体の小型化及び軽量化を図り、しかも製造コストを抑制することを可能にする。
【解決手段】駆動装置10は、駆動用モータ14を備えるとともに、前記駆動用モータ14には、インボードジョイント16を介してドライブシャフト12が連結される。インボードジョイント16は、スパイダ20が収容されるアウタ部材28を備えるとともに、前記アウタ部材28は、電磁鋼板30の積層体で構成されることにより、駆動用モータ14のロータ機能部31を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源として少なくとも駆動用モータが用いられ、前記駆動用モータと駆動輪とが等速ジョイントにより連結される電動機付き車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、駆動源として、例えば、駆動用モータが用いられている場合がある。実際上、エンジンと駆動用モータとが搭載されるハイブリッド自動車や、前記駆動用モータのみが搭載される電気自動車(又は燃料電池電気自動車)等の電動機付き車両が知られている。
【0003】
この種の電動機付き車両では、一般的に、駆動用モータの回転力を等速ジョイントを介して駆動輪(タイヤ)に伝達することにより、前記駆動輪の回転作用下に走行するように構成されている。
【0004】
この種の技術として、例えば、特許文献1に開示されている電気自動車の駆動機構が知られている。この駆動機構は、図7に示すように、モータケース1内にコイル2が巻かれたステータ3が圧入固定されている。モータケース1内には、空芯モータを構成するカップ状ロータ4が収容されるとともに、このカップ状ロータ4は、永久磁石5により回転自在である。カップ状ロータ4の底部内側には、モータ側等速ジョイント6が固定されており、このモータ側等速ジョイント6に一端が連結されるシャフト7は、タイヤ側等速ジョイント8を介してタイヤ9側に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−325803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の駆動機構では、モータケース1内にカップ状ロータ4を配設することにより、空芯モータを構成している。しかも、カップ状ロータ4の外周には、永久磁石5が取り付けられている。このため、モータケース1は、径方向の寸法が大きくなり、モータ全体が径方向に相当に大型化するという問題がある。
【0007】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、モータの径方向の寸法を可及的に小さくすることができ、モータ全体の小型化及び軽量化を図り、しかも製造コストを抑制することが可能な電動機付き車両の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、駆動源として少なくとも駆動用モータが用いられ、前記駆動用モータと駆動輪とが、ドライブシャフト及び等速ジョイントにより連結される電動機付き車両の駆動装置に関するものである。
【0009】
この駆動装置では、等速ジョイントであるインボードジョイントは、ジョイント部が収容されるアウタ部材を備えるとともに、前記アウタ部材は、電磁鋼板の積層体で構成されることにより、駆動用モータのロータ機能部を構成している。
【0010】
また、この駆動装置では、電磁鋼板は、円盤形状を有するとともに、前記電磁鋼板の側板部には、複数の切り欠きが形成され、且つ、該電磁鋼板の内周部には、ジョイント部を構成するローラ部材が回転自在に摺動するための案内溝形状部が形成されることが好ましい。
【0011】
さらに、この駆動装置では、アウタ部材には、各電磁鋼板の内周部の形状に成形されたカップ内周部を有する保持部材が装着されることが好ましい。
【0012】
さらにまた、この駆動装置では、駆動用モータは、モータケースと、前記モータケースの内周側に配設されるステータコイルと、前記ステータコイルの内周側に配設されるロータ機能部とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インボードジョイントを構成するアウタ部材は、電磁鋼板の積層体で構成されている。このため、従来のように、アウタカップの外周に電磁鋼板又は永久磁石等のロータ機能部を別体で取り付ける構造に比べて、駆動用モータの径方向の寸法を可及的に小さくすることができるとともに、部品点数が有効に削減される。これにより、駆動用モータ全体の小型化及び軽量化を図るとともに、製造コストを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る駆動装置が採用される車両の説明図である。
【図2】前記駆動装置の概略断面説明図である。
【図3】前記駆動装置の、図2中、III−III線断面説明図である。
【図4】前記駆動装置を構成する電磁鋼板の分解斜視説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る電動機付き車両の駆動装置の概略断面説明図である。
【図6】前記駆動装置の一部断面説明図である。
【図7】特許文献1の駆動装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る電動機付き車両の駆動装置10は、車両11に搭載されるとともに、前記車両11は、駆動輪DWと駆動装置10とをドライブシャフト12を介して連結する。
【0016】
駆動輪DWは、サスペンションSPにより車体に対して弾性的に支持される。サスペンションSPは、駆動輪DWを車体に連結するリンク機構Lと、前記駆動輪DWに伝わる振動を吸収するショックアブソーバSAとを含む。
【0017】
ドライブシャフト12の一端側には、駆動用モータ14に連結されるインボードジョイント(等速ジョイント)16が設けられる。インボードジョイント16は、例えば、トリポート型の等速ジョイントを構成するが、その他、従来より使用されている各種の等速ジョイントに適用することができる。ドライブシャフト12の他端側には、駆動輪DWに連結されるアウトボードジョイント(等速ジョイント)17が設けられる。
【0018】
図2に示すように、ドライブシャフト12の一端部には、スプライン軸部18が設けられ、このスプライン軸部18には、インボードジョイント16のジョイント部、例えば、スパイダ20が外装される。スパイダ20の外周部には、それぞれ所定の角度間隔(等角度間隔)ずつ離間して、複数、例えば、3本のトラニオン22が一体的に形成される。
【0019】
各トラニオン22の外周部には、転動体(ニードルやころ等)24を介してリング状のローラ部材26が回転自在に軸着される。
【0020】
インボードジョイント16は、アウタ部材28を備える。このアウタ部材28は、図2及び図3に示すように、複数枚の電磁鋼板30が積層された積層体で構成されることにより、駆動用モータ14のロータ機能部31を構成する。各電磁鋼板30は、駆動用モータ14の軸方向(図2中、矢印A方向)に沿って積層される。
【0021】
各電磁鋼板30は、図4に示すように、円盤状の薄板鋼板にカップ内周部32と複数のスリット(切り欠き)33とを、例えば、プレス成形して構成される。カップ内周部32には、ローラ部材26が回転自在に摺動する案内溝(案内溝形状部)34が形成される。
【0022】
案内溝34は、カップ内周部32に等角度間隔ずつ離間して、例えば、3本設けられており、それぞれアウタ部材28の軸方向(矢印A方向)に延在して形成される。各スリット33は、例えば、2つの屈曲部を有し、電磁鋼板30の径方向に配列されるとともに、径方向外方に向かって小さな形状に構成される。スリット33は、電磁鋼板30の周方向に沿ってそれぞれ複数段に配置される。
【0023】
図2に示すように、アウタ部材28の軸方向一端には、軸部材36が設けられるとともに、前記アウタ部材28の軸方向他端とドライブシャフト12とには、ブーツ40の両端がバンド部材42を介して締め付け固定される。
【0024】
駆動用モータ14は、モータケース44を備え、このモータケース44は、一端が開口する大径ケース部44aと、前記大径ケース部44aの他端に連結される有底の小径ケース部44bとを有する。大径ケース部44a内には、ステータ46を構成する複数のコイル48が周回配置される。各コイル48は、例えば、図示しない駆動回路に接続され、S極とN極とに切り替え制御される。
【0025】
ステータ46の内側には、ロータ50が配設される。このロータ50は、複数枚の電磁鋼板30からなるアウタ部材28を設けるロータ機能部31と、このアウタ部材28に設けられる軸部材36とにより構成される。
【0026】
駆動装置10では、モータケース44の内周側に複数のコイル(ステータコイル)48が配設されるとともに、前記コイル48の内周側にロータ機能部31が配設される。軸部材36は、小径ケース部44b内にベアリング52を介して回転自在に支持される。
【0027】
このように構成される駆動装置10の動作について、以下に説明する。
【0028】
駆動用モータ14は、ステータ46を構成する複数のコイル48に電気を流すことにより、電磁力が発生する。このため、複数の電磁鋼板30の積層体により構成されるロータ機能部31を介してロータ50が回転される。
【0029】
従って、アウタ部材28のカップ内周部32に複数のローラ部材26が摺接するスパイダ20を介してドライブシャフト12に回転力が伝達される。これにより、ドライブシャフト12のアウトボードジョイント17に連結された駆動輪DWに回転力が付与され(図1参照)、車両の走行が行われる。
【0030】
この場合、第1の実施形態では、インボードジョイント16を構成するアウタ部材28は、電磁鋼板30の積層体で構成されている(図2〜図4参照)。このため、従来のように、アウタカップの外周に電磁鋼板又は永久磁石等のロータ機能部を別体で取り付ける構造に比べて、駆動用モータ14の径方向の寸法を可及的に小さくすることができ、しかも部品点数が有効に削減される。
【0031】
これにより、第1の実施形態では、駆動用モータ14全体の小型化及び軽量化を図ることが可能になるとともに、製造コストを抑制することができるという効果が得られる。
【0032】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る電動機付き車両の駆動装置60の概略断面説明図である。なお、第1の実施形態に係る駆動装置10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0033】
駆動装置60では、図5及び図6に示すように、アウタ部材28には、各電磁鋼板30の内周部の形状に成形されたカップ内周部62を有する保持部材64が装着される。保持部材64の一端側には、軸部材36が一体に設けられるとともに、前記保持部材64の他端側は、大径ケース部44a内にベアリング52aを介して回転自在に支持される。保持部材64の他端側には、ブーツ40がバンド部材42を介して締め付け固定される。
【0034】
このように構成される第2の実施形態では、アウタ部材28には、各電磁鋼板30の内周部の形状に成形されたカップ内周部62を有する保持部材64が装着されている。このため、各電磁鋼板30を一体に且つ確実に保持することができるとともに、スパイダ20の円滑な摺動動作が遂行される他、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0035】
10、60…駆動装置 11…車両
12…ドライブシャフト 14…駆動用モータ
16…インボードジョイント 18…スプライン軸部
20…スパイダ 22…トラニオン
26…ローラ部材 28…アウタ部材
30…電磁綱板 31…ロータ機能部
32、62…カップ内周部 33…スリット
34…案内溝 36…軸部材
44…モータケース 46…ステータ
48…コイル 50…ロータ
64…保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として少なくとも駆動用モータが用いられ、前記駆動用モータと駆動輪とが、ドライブシャフト及び等速ジョイントにより連結される電動機付き車両の駆動装置であって、
前記等速ジョイントであるインボードジョイントは、ジョイント部が収容されるアウタ部材を備えるとともに、
前記アウタ部材は、電磁鋼板の積層体で構成されることにより、前記駆動用モータのロータ機能部を構成することを特徴とする電動機付き車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置において、前記電磁鋼板は、円盤形状を有するとともに、
前記電磁鋼板の側板部には、複数の切り欠きが形成され、且つ、該電磁鋼板の内周部には、前記ジョイント部を構成するローラ部材が回転自在に摺動するための案内溝形状部が形成されることを特徴とする電動機付き車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の駆動装置において、前記アウタ部材には、各電磁鋼板の内周部の形状に成形されたカップ内周部を有する保持部材が装着されることを特徴とする電動機付き車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の駆動装置において、前記駆動用モータは、モータケースと、
前記モータケースの内周側に配設されるステータコイルと、
前記ステータコイルの内周側に配設される前記ロータ機能部と、
を備えることを特徴とする電動機付き車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−253881(P2012−253881A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123876(P2011−123876)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】