説明

電動機器のシステム設計支援装置

【課題】総合的に電動機器全体のシステムの設計を行なうことが難しい。
【解決手段】システム設計支援装置は、解析手段10と、プログラム実行手段20と、記憶手段30と、入力手段40と、動作結果と設計要素を選択的に一覧表示する表示手段50と、システム設計モデルを有機的に結合させるモデル結合手段60と、設計要素を調整または変更する変更手段70と、を備える。解析手段10は、リニアモータ6の変動推力Frを減じた推力Fmを演算する推力演算手段11と、変位δを減じた検出位置Xiと検出速度Viとを演算する移動量演算手段12と、位置と速度の誤差を補正した移動指令に従う制御量Hcを演算する制御量演算手段13と、制御量Hcに対応する電流振動Irを減じた駆動電流Iiを演算する駆動電流演算手段14と、指令位置Pjと指令速度Vjを演算する指令値演算手段15と、を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を含む機器本体と、移動体を移動させる電動アクチュエータと、電動アクチュエータを制御する制御装置との複数の装置が組み合わされてなる電動機器のシステムを設計するために、システム設計モデルによるシミュレーションを行なうシステム設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明でいう電動機器は、少なくとも、直線移動体または回転体である移動体を含む機器本体と、移動体を移動させる電動アクチュエータと、電動アクチュエータを制御する制御装置とが組み合わされてなる複合装置を示す。このような電動機器は、最終製品としての体裁であるかどうかに関わらず、例えば、リニアステージ、ポンプ、攪拌機、ディスクドライブのように、電動アクチュエータを駆動制御することで移動体を移動制御して所与の目的を達成する装置である。
【0003】
特に、位置決め制御系を有する電動機器は、基本的に、移動体と動力伝達手段とを含む機器本体と、移動体を移動させる電動アクチュエータと、移動体を所定の速度で目的の位置に移動させる移動指令を与える指令制御装置と、移動体の位置を検出する検出装置と、移動指令に対する移動体の位置と速度の偏差を補償して制御量を出力する移動制御装置と、制御量に対応する駆動電流を電動アクチュエータに供給する駆動制御装置と、を含んでなる。ただし、指令制御装置と移動制御装置と駆動制御装置とは、明確に区別されないことがある。
【0004】
電動アクチュエータは、主にモータである。移動体は、モータによって直接移動される物体を示す。ただし、電動機器のシステムの設計を行なう場合、移動体の移動によって移動体と共に移動する物体を含んで移動体ということがある。例えば、リニアステージでは、モータによって直接移動するテーブルだけではなく、テーブルに載置される積載物を含んで移動体という。また、攪拌機では、モータによって直接回転するシャフトだけではなく、シャフトに取り付けられるインペラを含んで移動体という。
【0005】
電動機器の主要部位を構成する機器本体、モータ、検出装置、指令制御装置、移動制御装置、駆動制御装置の各装置の設計には、各装置毎に高度な専門知識が要求される。したがって、各装置の基本設計は、一般的に各装置毎に専門知識を有する設計者によって別々に行なわれる。
【0006】
以下の説明では、形がある物理的な構成要素と演算アルゴリズムおよび制御変数のような概念上の構成要素とを含む電動機器の性能に影響を与えるシステムの設計に欠くことができない構成要素を設計要素と総称する。また、設計上の装置をシステム設計モデルという。
【0007】
システム設計モデルを用いて装置の動作を再現し、動作結果のデータを収集して解析するシミュレーション装置が提供されている。例えば、モータ制御装置のシミュレーション装置が特許文献1または特許文献2に代表的に開示されている。モータ制御装置のシミュレーション装置では、システム設計モデルを模擬動作させて、システム設計モデルで実物のモータと機器本体を実際に動作させることができる。そのため、設計者は、実物の制御装置を製作する前に実物のモータと機器本体の動作をモニタリングして解析し、設計要素のいくつかをチューニングすることができる。
【0008】
また、特許文献3に開示されるようなモータの解析装置が知られている。典型的なモータの解析装置では、モータのシステム設計モデルを模擬動作させて、供給電力に対応する可動子の相対位置の変化に対する磁界または磁束密度のようなモータの物理的な現象のデータを得ることができる。収集したデータから変動推力などを演算することができるので、設計者は、実物のモータがなくても、理論的にモータの動作結果を知ることができる。そのため、モータの設計が容易になり、設計者の負担が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−51061号公報
【特許文献2】特開2006−236035号公報
【特許文献3】特開2009−176061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電動機器の各装置の基本設計が各装置毎に専門知識を有する設計者によって別々に行なわれることが一般的であることから、新規に電動機器のシステムを設計して製造するときは、各装置の設計者どうしが互いに情報を提供し合いながら、各設計者が電動機器が要求される仕様に対応するように、それぞれ装置の仕様を決定して基本設計し、設計要素を調整ないし変更する必要がある。
【0011】
したがって、各設計者は、電動機器の主要部位を構成する各装置が全て組み合わされて電動機器が出来上がった状態を想定して各装置を設計することができない。そのため、各装置において、それぞれ決定された仕様に見合うように基本設計されていても、実際に各装置を組み合わせて電動機器を製造して動作させたときに、電動機器が要求される仕様どおりの性能を発揮するかどうかは不確実である。
【0012】
このようなことから、電動機器が要求される仕様どおりの性能を発揮するように各装置を製作するためには、各設計者がそれぞれ予め要求される仕様に従って基本設計をし、実物のモータと機械本体を動作させ、試運転を繰り返しながら動作結果のデータを収集して解析して設計要素を調整ないし変更する必要がある。
【0013】
各装置の基本設計と設計要素の調整ないし変更は、各装置の設計者の経験的な理論と感覚に頼るところが少なくない。そのため、設計された各装置を組み合わせて直ちに電動機器が期待どおりに動作するというケースは、それほど多くはない。大抵の場合は、実物を用いた試験運転で動作結果のデータを収集した後で動作結果のデータを分析して電動機器が期待どおりに動作しない原因を調査する必要がある。
【0014】
しかしながら、各装置においてそれぞれ電動機器が要求される仕様どおりの性能を得ることができない原因の究明は、精通した設計者にとってさえも簡単なことではない。しかも、不良の原因が解明された結果、単に設計要素を調整し直すだけではなく、基本設計から見直す必要が出てくるおそれがある。そして、時には、すでに試作されている実物のモータ、機器本体、または制御装置の装置全体を丸ごと交換しなければならないほどに電動機器の全体にわたって設計変更を余儀なくされることがある。
【0015】
特に、すでに広く普及し多くの運転実績がある電動機器であって、例えば、特定の使用者向けに電動機器のシステムを設計し直すのに当たって、電動機器の設置環境または使用者の要求する仕様あるいは価格のように使用者毎の事情の相違で常に多くの設計者が関わって試作と試験運転が繰返し行われているのが実情であり、相当の手間と時間を要している。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みて、電動機器のシステムを設計する場合に、電動機器の主要部位を構成する全ての装置において実物を使用することなく、各装置のシステム設計モデルによって各装置が連動している状態で各装置を模擬動作させることで電動機器の動作を高い正確性をもって再現し、システム設計上有効な動作結果のデータを得ることができるシステム設計支援装置を提供することを主たる目的とする。また、設計要素をより容易に調整ないし変更できるシステム設計支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のシステム設計支援装置は、上記課題を解決するために、移動体を含む機器本体と移動体を移動させる電動アクチュエータと電動アクチュエータを制御する制御装置との複数の装置が組み合わされてなる電動機器のシステム設計支援装置であって、システム設計上欠くことができない構成要素である複数の設計要素でなる各装置のシステム設計モデルを有機的に結合させるモデル結合手段と、移動指令値を演算する指令値演算手段;駆動電流に対応する電動アクチュエータの変動推力を減じた連続する実質的な推力を演算する推力演算手段;実質的な推力に基づいて移動体の位置と速度とを演算する移動量演算手段;移動指令値に基づいて指令位置と移動体の位置との偏差および指令速度と移動体の速度との偏差を補正した位置指令と速度指令に従う制御量を演算する制御量演算手段;制御量に対応する駆動回路による駆動電流を演算する駆動電流演算手段;とを含む解析手段と、システム設計モデルを有機的に結合された状態で表示するとともに解析手段によって演算された動作結果のデータと設計要素のデータを選択的に一覧表示する表示手段と、設計要素を調整または変更する変更手段と、を備えてなるようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシステム設計支援装置では、モデル結合手段によって電動機器の主要部位を構成する複数の装置のシステム設計モデルを有機的に結合させることができるので、電動機器の主要部位を構成する全ての装置が連動している状態で各装置の動作を再現させることができる。したがって、シミュレーションによる各装置の動作結果のデータは、連続的か離散的であるかに関わらず、各装置との間で時間の変化とともに相互に密接に関連付けられる。そのため、各装置が別々に設計されていても、各装置の動作結果のデータは、電動機器のシステムの状態を的確に反映し、信頼性が高い。
【0019】
特に、解析手段は、電動機器が要求される仕様どおりの性能を発揮する上で看過することができない重大な影響を与える設計要素に基づいてより実物に近い状態で各装置の動作を連動させて再現させることができる。そのため、各装置においてシステム設計上重要な変動要因が除かれた動作結果のデータを得ることができる。したがって、システム設計上許容できる必要十分に高い正確性をもって電動機器全体のシミュレーションを行なうことができる。
【0020】
そして、表示手段は、解析手段で得られた各装置の動作結果のデータと設計要素のデータを選択的に一覧表示することができるので、各装置の基本設計と設計要素の適否をより容易に総合的に判別することができる。また、変更手段によってシステム設計支援装置において各装置の設計要素を調整または変更することができるとともに、モデル結合手段によってシステム設計モデルを結合し直して再度設計変更された電動機器のシミュレーションを行なうことができる。そのため、実物がなくても各装置の基本設計を見直すことができるとともに、一層的確に設計要素を調整ないし変更することができる。
【0021】
したがって、本発明のシステム設計支援装置によると、基本設計と設計要素の適否の判断がより容易になるとともに不良の原因を解明するまでに要する時間がより短縮されることが期待される。また、各装置の設計者に依らずに電動機器のシステム全体で総合的に設計要素の調整ないし変更を行なうことができる。そのため、各装置の設計者に対する依存度を低減して各装置の設計者の負担を軽減するとともに、全体的に作業効率を向上させることができる。その結果、電動機器の設計から製造までに要する時間と費用を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】システム設計支援装置の設計対象である電動機器のシステム設計モデルの一例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態のシステム設計支援装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、位置決め制御系を有する電動機器の一例として、リニアステージの概容を示す。図1は、リニアステージの主要部位を構成する各装置のシステム設計モデルが有機的に結合されている状態を示す。システム設計モデルとは、電動機器の主要部位を構成する各装置の動作を再現するために欠くことができない設計要素を装置の実物と同等に組み合わせて装置を抽象化して簡素に表わした模型図である。
【0024】
システム設計モデルの単位構成要素は、設計要素である。設計要素は、各装置のシステム設計モデルを用いて各装置が連動する状態で各装置を模擬動作させるときに、電動機器が要求される仕様どおりの性能を発揮する上で看過することができない重大な変動要因を与える電動機器の各装置の構成要素である。設計要素は、設計者が任意に与えることができる。
【0025】
したがって、各装置の構成要素が設計要素に相当するかどうかは、電動機器に要求される仕様に対応して決定される。例えば、図1に示されるシステム設計モデルでは、検出回路のフィルタまたはアナログデジタル変換器は、要求される位置決め精度に対してその電動機器のシステムを設計する場合に限って考慮しなくても差し支えのない構成要素として、図示省略されている。しかしながら、電動機器によっては、検出回路のフィルタあるいはアナログデジタル変換器が要求される位置決め精度に対して見過ごすことができない変動要因を与えるときは、設計要素としてシステム設計モデルに与えることができる。
【0026】
図1に示されるリニアステージは、主要部位を構成する、ステージ1と、指令制御装置2と、検出装置3と、移動制御装置(モーションコントローラ)4と、駆動制御装置(モータドライバ)5と、リニアモータ6と、の複数の装置が組み合わされてなる。各装置の中で、指令制御装置2と、移動制御装置4と、駆動制御装置5とを一括して制御装置ということがある。
【0027】
ステージ1は、電動機器であるリニアステージの機器本体である。テーブル1Aは、水平1軸方向に往復移動することができる直線移動体である。シミュレーションでは、テーブル1Aに積載物があるときは、積載物を含めてテーブル1Aとする。テーブル1Aは、床面に水平に据え置かれたベース1Bの上に載置される。テーブル1Aは、図示しない案内装置で直線移動するように案内される。実施の形態のステージ1Aでは、空気静圧ガイドを想定している。
【0028】
検出装置3は、ステージ1側に設けられる検出器(センサ)と制御装置側に設けられる検出回路とを含んでなる。検出装置3は、リニアステージを構成する主要部位に含まれる。ただし、実施の形態のリニアステージにおいては、検出装置3は、特に断りがない限り、ステージ1に含んで説明される。検出装置3の検出器は、光学式の位置検出器である。具体的に、検出装置3の検出器は、リニアエンコーダ3Aである。
【0029】
図1に示されるテーブル1Aを移動させる電動アクチュエータは、リニアモータ6である。図1に示されるリニアステージにおけるリニアモータ6は、一次側が可動子で二次側が固定子であるコア付片側式三相交流同期モータである。リニアモータ6の励磁コイル6Aは、水平1軸方向に沿って櫛歯状に所定間隔ごとに設けられる鉄心にそれぞれ巻き回される。一方、図示しない永久磁石が配列された磁石板が所定のギャップをもって励磁コイル6Aに対向するようにベース1Bの上面に取り付けられる。
【0030】
制御装置は、指令制御装置2と、移動制御装置4と、駆動制御装置5と、でなる。指令制御装置2と移動制御装置4と駆動制御装置5に対してそれぞれ専門的な知識が要求される。そのため、図1では、点線で示される境界によって制御装置が指令制御装置2と移動制御装置4と駆動制御装置5とに分けて示される。ただし、各制御装置の領域を明確に区別することが要求されるものではない。
【0031】
制御装置は、電動機器を操作する操作者によって与えられる移動指令に従ってリニアモータ6を駆動制御し、その結果として、テーブル1Aを移動制御する。図1に示される実施の形態における制御装置は、リニアモータ6をサーボモータとしてフルクローズドループ方式のサーボシステムを形成する。実施の形態の制御装置におけるリニアモータ6に駆動電流を供給する方式は、PWM方式である。
【0032】
図2は、本発明のシステム設計支援装置の典型的な構成を示すブロック図である。図2に示されるシステム設計支援装置は、汎用のコンピュータを利用する。入力装置は、キーボードのような操作装置と、ディスクドライブのような読取装置と、ユニバーサルシリアルバスメモリのような外部記憶装置と、ネットワークアダプタのような通信装置と、入力インターフェースとを含んでいう。また、コンピュータ本機には、グラフィックアダプタと液晶ディスプレイを備えるモニタとを含んでなる表示装置が並設される。
【0033】
システム設計支援装置は、解析手段10と、プログラム実行手段20と、記憶手段30と、入力手段40と、表示手段50と、モデル結合手段60と、変更手段70と、でなる。解析手段10は、推力演算手段11と、移動量演算手段12と、制御量演算手段13と、駆動電流演算手段14と、指令値演算手段15と、を含んでなる。
【0034】
解析手段10と、プログラム実行手段20と、モデル結合手段60と、変更手段70は、例えば、パーソナルコンピュータの演算処理装置に設けられる。記憶手段30は、具体的に書き換えることができるメモリあるいはハードディスクのような記憶装置である。入力手段40は、キーボードのように直接文字と数字を入力できる入力装置だけではなく、ディスクドライブのような読取装置を含む。表示手段50は、一般にパーソナルコンピュータのモニタである。
【0035】
システム設計モデルのデータは、入力手段40からシステム設計支援装置に入力され、記憶手段30に保存される。システム設計モデルは複数の設計要素からなるので、基本的には、システム設計モデルのデータから設計要素のデータが取得できる。
【0036】
電動機器の主要部位を構成する複数の装置のシステム設計モデルを有機的に結合して電動機器のシミュレーションを行なう演算プログラム(シミュレーションプログラム)を含んでなるアプリケーションソフトウェア(システム設計支援ソフトウェア)は、予め汎用のコンピュータにインストールされる。
【0037】
特に、実施の形態のシステム設計支援装置では、各装置の動作を解析する演算プログラム(解析プログラム)を含んでなる解析ソフトウェアが予めコンピュータにインストールされている。解析プログラムは、シミュレーションプログラムに関連付けられて記憶手段30に記憶される。解析プログラムは、シミュレーションプログラムの実行中に読み出されて実行される。
【0038】
また、実施の形態のシステム設計支援装置では、主要部位を構成する特定の装置を独立して制御する固有の制御プログラムがあるときは、その制御プログラムが予め記憶手段30に記憶される。実施の形態のシステム設計支援装置において、具体的に特定の装置を独立して制御する固有の制御プログラムは、指令制御装置2を制御する制御プログラムと、移動制御装置4を制御する制御プログラムである。
【0039】
解析手段10の推力演算手段11は、電動アクチュエータの設計要素に基づいて制御装置から供給される駆動電流に対応する電動アクチュエータの変動要因として変動推力(トルクリップル)を減じた連続する実質的な推力を演算する。以下、推力演算手段11が電動アクチュエータの動作結果のデータとして出力する実質的な推力を単に推力データという。
【0040】
電動機器が図1に示されるリニアステージであるとき、推力演算手段11は、リニアモータ6の設計要素に基づいて駆動電流Iiに対応するリニアモータ6の変動推力Frを減じた連続する実質的な推力Fmを演算する。推力演算手段11で求められる推力Fmは、リニアモータ6が発生するモータ単体の推力であり、実質的に無負荷の推力である。
【0041】
具体的に、推力演算手段11は、まず所定時間毎の駆動電流Iiに直接対応するリニアモータ6の電磁力Foを計算する。ここでは、電磁力Foは、変動要因を含まない原推力を意味する。所定時間は、制御装置における繰返し演算時間に基づいて決定される。次に、所定時間毎の変動推力Frを求める。そして、電磁力Foから変動推力Frを減算して、所定時間毎のリニアモータ6が実質的に出力する推力Fmを求める。
【0042】
移動量演算手段12は、機器本体の設計要素に基づいて推力演算手段11で求められた電動アクチュエータの推力に対応する機器本体の振動系に因る変位を減じた移動体の位置と速度とを演算する。以下、移動量演算手段12が動作結果のデータとして出力する移動体の位置、速度、または速度に変換することができるパラメータを含めて単に検出データと総称する。
【0043】
電動機器が図1に示されるリニアステージであるとき、移動量演算手段12は、ステージ1の設計要素に基づいて推力演算手段11で求められたリニアモータ6のモータ単体の実質的な推力Fmに対応するステージ1の振動系に因る変位δを減じたテーブル1Aの検出位置Xiと検出速度Viを演算する。
【0044】
具体的に、移動量演算手段12は、まずリニアモータ6の動作結果データである推力演算手段11で演算された推力Fmを取得して、可動子を含むテーブル1Aを移動させる正味推力Fxを求める。正味推力Fxは、リニアモータ6の無負荷の推力Fmから推力Fmが作用する方向に対して反対方向に推力Fmに対抗する反力Fkを減算したリニアモータ6の加負荷時の推力である。
【0045】
図1に示されるリニアステージでは、ステージ1の軸受が空気静圧軸受であるので、設計上は摩擦抵抗を無視できる。また、直線移動体がテーブル1Aであるので、空気抵抗を無視できる。したがって、推力Fmに対抗する主たる反力Fkは、可動子と積載物を含むテーブル1Aの慣性による反力Fsと、固定子がテーブル1Aを戻そうとする反力Fbである。
【0046】
次に、正味推力Fxの変化からテーブル1Aの速度の変化を求めて所定時間毎の位置を求める。このとき、ステージ1は、構造上の固有の振動系を有している。そのため、ステージ1の固有の振動に因る変位δによって位置誤差が発生する。そこで、ステージ1Aの設計要素に基づいてステージ1の振動系に因る変位δを求める。そして、速度変化に対応する位置から変位δを減算することによって検出位置Xiを演算する。また、検出位置Xiを微分して検出位置Xiのときの検出速度Viを演算する。
【0047】
ステージ1は、ベース1Bがばね要素とダッシュポットを介在させて接地し、テーブル1Aがベッド1Bの上に空気静圧軸受を介在させて搭載されている。したがって、推力Fxのときの変位δは、各振動モードを等価質量、剛性、減衰に置き換えて、運動方程式で求めることができる。
【0048】
制御量演算手段13は、制御装置の設計要素に基づいて指令位置と移動体の位置との偏差および指令速度と移動体の速度との偏差を補正した位置指令と速度指令に従う制御量を演算する。以下、制御量演算手段13が動作結果のデータとして出力する補正された位置指令と速度指令を含む制御量のデータを制御量データと総称する。
【0049】
電動機器が図1に示されるリニアステージであるとき、制御量演算手段13は、予め記憶手段30に記憶されている移動制御装置4の固有の制御プログラムに従って移動制御装置4の設計要素に基づいて指令位置Piとテーブル1Aの検出位置Xiの偏差および指令速度Fiとテーブル1Aの検出速度Viの偏差を補正した位置指令と速度指令を含む移動指令に従う制御量Hcを演算する。
【0050】
図1に示される実施の形態のリニアステージにおける移動制御装置4は、リニアモータ6に供給される駆動電流を検出して、電流指令と検出電流との偏差を求めて電流誤差を補正する電流補償系を含んでいる。そこで、制御量演算手段13は、補正された位置指令と速度指令を含む移動指令(電流指令)と駆動電流演算手段14で求められる駆動電流との偏差を求め、偏差に所定のゲインを付与して補正した移動指令を求める。そして、制御量演算手段13は、補正された移動指令に基づいて制御信号である制御量Hcを演算する。
【0051】
したがって、図1に示されるリニアステージの移動制御装置4の設計要素は、制御量Hcを求めるために必要な主に演算アルゴリズムと制御変数値である。移動制御装置4における制御変数値は、設計者によってシステム設計モデルの設計要素が与えられるときに予め設定として同時に与えられる。
【0052】
駆動電流演算手段14は、制御装置の設計要素に基づいて制御量演算手段13で求められた制御量に対応する駆動回路に因る電流振動(電流リップル)を減じた駆動電流を演算する。また、駆動電流演算手段14は、制御装置の設計要素に基づいて制御量演算手段13で求められた制御量に対応する駆動回路に因る電圧振動(電圧リップル)を減じた印加電圧を演算する。駆動電流演算手段14は、動作結果のデータとして印加電流データと印加電圧データを出力する。
【0053】
電動機器が図1に示されるリニアステージであるとき、駆動電流演算手段14は、駆動制御装置5の設計要素に基づいて制御量演算手段13で求められた制御量Hcに対応する駆動回路に因る電流リップルIrを減じた駆動電流Iiを演算する。また、駆動電流演算手段14は、駆動制御装置5の設計要素に基づいて制御量演算手段13で求められた制御量Hcに対応する駆動回路に因る電圧リップルErを減じた印加電圧Eiを演算する。
【0054】
駆動制御装置5のシステム設計モデルには、設計要素が組み合わされてなる駆動回路の構成によって駆動制御装置5における駆動電流の出力方式の情報が含まれる。特に、インバータ回路が設けられている場合は、システム設計モデルにインバータ回路の制御方式の情報が含まれる。図1に示されるリニアステージの駆動制御装置5のシステム設計モデルでは、設計要素の配置がPWM方式で駆動電流Iiを供給する制御方式の情報を与えている。
【0055】
図1に示されるPWM方式の駆動制御装置5の動作結果のデータである駆動電流Iiと駆動電圧Eiを求めるために主要な設計要素は、電源電圧Erと、PWMのスイッチング周波数Qcと、デッドタイムDcと、電流リップルIrと、電圧リップルErである。ただし、実施の形態の駆動電流演算手段14は、駆動電流Iiと印加電圧Eiを演算するときに、推力演算手段11から与えられるフィードバックデータを駆動電流Iiと印加電圧Eiを求めるときのパラメータとして使っている。
【0056】
指令値演算手段15は、指令位置と指令速度を演算する。指令位置と指令速度を演算する方法は、指令制御装置2の固有の制御プログラムに依存する。例えば、指令値演算手段15は、操作者がシステム設計支援装置の入力手段40を通して与える目標位置と設定速度に相当する指令位置Piと指令速度Fiを演算する。
【0057】
位置と速度が所定の移動プログラムで与えられるとき、指令値演算手段15は、指令制御装置2の制御プログラムに従って記憶手段30に記憶されている移動プログラムを解読して、指令位置Piと指令速度Fiを演算する。移動プログラムは、指令制御装置2が解読できる固有のフォーマットで記述されている移動体を移動する命令を示す。例えば、指令制御装置2が工作機械の数値制御装置である場合、移動プログラムは、数値制御プログラム(加工プログラム)である。指令制御装置2が演算して出力する指令位置Piと指令速度Viのような移動指令を移動指令データと総称する。
【0058】
プログラム実行手段20は、システム設計支援装置の操作者がシミュレーションを開始する命令を与えたときに、シミュレーションプログラムを起動して実行させる。プログラム実行手段20は、シミュレーションプログラムに従って解析手段10に対して電動機器の主要部位を構成する複数の装置のシステム設計モデルのデータに基づいて電動機器のシミュレーションを実行させる。プログラム実行手段20は、解析手段10に各装置の動作を再現させるときに、必要に応じて解析プログラムを実行させることがある。
【0059】
記憶手段30は、システム設計支援装置に必要なデータを記憶する。具体的に、記憶手段30は、システム設計支援装置を動作させるシミュレーションプログラムおよび解析プログラムと、特定の装置に固有の制御プログラムと、移動プログラムと、設計要素のデータと、解析手段10の演算で得られる各装置の動作結果のデータと、を記憶する。
【0060】
図1に示されるリニアステージの場合、記憶手段30が記憶する動作結果のデータは、具体的に、リニアモータ6の推力データと、ステージ1の検出データと、指令制御装置2の移動指令データと、移動制御装置4の制御量データと、駆動制御装置5の駆動電流データおよび印加電圧データと、である。
【0061】
入力手段40は、必要なデータをシステム設計支援装置に与える。具体的に、入力手段40は、設計要素を含むシステム設計モデルのデータとシステム設計モデルの各装置を動作させる固有の制御プログラム、および移動プログラムをシステム設計支援装置に与える手段である。なお、システム設計支援装置を動作させるシミュレーションプログラムと解析プログラムは、入力手段40を通して予め演算装置にインストールされている。
【0062】
表示手段50は、少なくとも、機器本体と、移動体を移動させる電動アクチュエータと、電動アクチュエータを制御する制御装置との複数の装置のシステム設計モデルを有機的に結合された状態で表示する。表示手段50は、例えば、図1に示されるように、リニアステージの主要部位を構成するテーブル1Aを含むステージ1と、リニアモータ6と、指令制御装置2と移動制御装置4と駆動制御装置5とを含む制御装置との複数の装置のシステム設計モデルを有機的に結合された状態でモニタのディスプレイに表示させる。
【0063】
また、表示手段50は、解析手段10によって演算で得られた各装置の動作結果のデータと設計要素のデータを総合的に選択的に一覧表示する。表示手段50は、例えば、時間とともに変化する動作結果のデータまたは設計要素のデータをすでに有機的に結合された状態で表示されているシステム設計モデルに重ね合わせてグラフ表示する。
【0064】
モデル結合手段60は、電動機器の主要部位を構成する各装置のシステム設計モデルを有機的に結合させる。モデル結合手段60は、入力手段40から入力されて記憶手段30に記憶されている各装置のシステム設計モデルのデータを別々に取得する。または、モデル結合手段60は、システム設計支援装置上で生成されて記憶手段30に記憶されているシステム設計モデルのデータを取得する。そして、複数の装置の各システム設計モデルどうしを入出力線で接続して結合する。
【0065】
モデル結合手段60は、入力された各装置の設計モデルどうしの間で入出力する動作結果のデータの種類が一致しないときは、表示手段50を通して、各装置のシステム設計モデルの入出力線がなく隣接している状態で各装置のシステム設計モデルをディスプレイに表示させる。モデル結合手段60は、変更手段70によって新しいシステム設計モデルが生成されたり、設計要素が変更されたときは、各装置のシステム設計モデルを再度結合し直す。
【0066】
変更手段70は、システム設計支援装置上でシステム設計モデルを作成することを助ける。システム支援設計装置の操作者によって入力手段40を通して設計要素のデータが与えられると、変更手段70は、与えられた設計要素を予め決定されている配置構成に従って組み合わせてシステム設計モデルを生成する。
【0067】
また、変更手段70は、システム設計支援装置に外部から与えられる設計図面または設計モデルのデータをシステム設計支援装置が解析できるフォーマットに変換して記憶手段30に記録する。変更手段70は、与えられる設計図面または設計モデルのデータからシステム設計に必要な複数の設計データを抽出してシステム設計支援装置のデータに変換し、変換された各設計要素を予め決定されている配置構成に従って組み合わせてシステム設計モデルを生成する。また、操作者が所定の設計要素を所定の装置に与えることによって設計モデル間で動作結果のデータを一致させるようにすると、設計モデル間に入出力線が出現して設計モデルどうしを結合させることができる。
【0068】
変更手段70は、システム設計支援装置の操作者の命令によって電動機器の主要部位を構成する各装置のシステム設計モデルの設計要素を操作者の要求どおりに変更する。変更手段70は、変更される設計要素を表示手段50に色替え表示させる。同時に、変更手段70は、変更される設計要素をモデル結合手段60に出力する。表示手段50は、変更手段70によって設計要素が変更されて、モデル結合手段60がシステム設計モデルを生成し直したときは、結合し直されたシステム設計モデルを表示する。
【0069】
変更手段70は、システム設計支援装置の操作者の命令によって電動機器の主要部位を構成する各装置のシステム設計モデルの設計要素の変数値を操作者の要求どおりに調整する。変更手段70は、調整される設計要素を表示手段50に色替え表示させる。表示手段50は、変更手段70によって設計要素が調整されたときは、調整された変数値を表示する。
【0070】
次に、図1および図2を用いて本発明のシステム設計支援装置の動作を説明する。リニアステージの主要部位を構成する複数の装置の設計要素を含んでなるシステム設計モデルのデータが予め記憶段30に記憶されている。また、特定の装置の固有の制御プログラムが特定の装置のシステム設計モデルのデータに関連付けられて記憶手段30に記憶される。また、移動プログラムが記憶手段30に記憶される。
【0071】
変更手段70は、コンピュータ支援設計システムの設計図面または設計モデルが外部から与えられるとき、設計図面または設計モデルのデータを解析してシステム設計支援装置のためのシステム設計モデルを生成する。または、変更手段70は、操作者がシステム設計モデルを生成することを助ける。生成されたシステム設計モデルは、記憶手段30に記憶されるとともに表示手段50によってモニタのディスプレイに表示される。
【0072】
モデル結合手段60は、複数の装置のシステム設計モデルの出力と入力とを線で接続して各装置のシステム設計モデルを有機的に結合する。システム設計支援装置の操作者は、ディスプレイを見てシステム設計モデルの結合状態を確認する。システム設計モデルが有機的に結合されない場合は、操作者は、変更手段70によって設計要素を追加したり変更したりして設計モデルどうしが結合できるようにする。
【0073】
操作者が入力手段40を通して電動機器のシミュレーションを開始させる命令をシステム設計支援装置に与えると、プログラム実行手段20が記憶手段30からシミュレーションプログラムを読み込んで起動させる。システム設計支援装置は、シミュレーションプログラムに従うプロセスで解析手段10を動作させる。
【0074】
シミュレーションプログラムに従って、解析手段10は、指令値演算手段15を動作させる。指令値演算手段15は、記憶手段30に予め記憶されている指令制御装置2の固有の制御プログラムを起動する。そして、固有の制御プログラムに従って指令制御装置2の動作を再現させる。
【0075】
始めに、指令演算手段15は、記憶手段30に記憶されている移動指令プログラムを読み出して解読する。次に、移動指令プログラムの解読データからテーブル1Aの移動方向と移動量を算出する。そして、目標位置から各指令位置Piと対応する指令速度Fiを順次演算する。このときの指令速度Fiは、位置と単位時間と設定加速度から計算される単位時間当たりの実速度である。
【0076】
指令位置Piと指令速度Fiが演算されたら、解析手段10は、制御量演算手段13を動作させる。制御量演算手段13は、予め記憶手段30に記憶されている移動制御装置4の固有の制御プログラムを起動して移動制御装置4の動作を再現させる。制御量演算手段13は、固有の制御プログラムに従いシステム設計モデルで表わされる演算アルゴリズムと変数値に基づく演算を実行する。
【0077】
制御量演算手段13は、指令値演算手段15から与えられる指令位置Piを移動量演算装置12から与えられる検出位置Xiで減算して指令位置Piと検出位置Xiとの偏差を求める。そして、偏差に予め設計要素として与えられている位置ゲインを与えて補正した位置指令を得る。テーブル1Aが動き出す前に指令位置Piが最初に与えられるときは、検出位置Xiは変動していない。したがって、偏差が最大であって理論的に指令位置Piを補正する必要がない状態である。
【0078】
次に、制御量演算手段13は、指令値演算手段15から与えられる指令速度Fiを移動量演算装置12から与えられる検出速度Viで減算して指令速度Fiと検出速度Viとの偏差を求める。そして、偏差に予め設計要素として与えられている速度ゲインを与えて補正した速度指令を得る。テーブル1Aが動き出す前に指令速度Fiが最初に与えられるときは、検出速度Viは0である。したがって、偏差が最大であって理論的に指令速度Viを補正する必要がない状態である。
【0079】
そして、制御量演算手段13は、位置指令と速度指令を含む電流指令(移動指令)と駆動電流Iiとを比較して偏差を求める。そして、偏差に所定のゲインを付与して補正された電流指令を得て制御信号である制御量Hcを演算する。テーブル1Aが動き出す前に電流指令が最初に与えられるときは、まだ駆動電流Iiが出力されていない。したがって、偏差が最大であって理論的に電流指令を補正する必要がない状態である。
【0080】
以上のことから、図1に示されるリニアステージの移動制御装置4の動作結果のデータである制御量Hcを求めるために必要な移動制御装置4の設計要素は、具体的に、少なくとも位置ゲインと速度ゲインおよびフィードバックゲインまたはフィードフォワードゲインを含む複数の電圧利得である。また、移動制御装置4における設計要素の変数値は、設計者によって予め設定値として与えられ、設計モデルのデータに含まれている。
【0081】
制御量Hcが演算されたら、解析手段10は、駆動電流演算手段14を動作させる。駆動電流演算手段14は、駆動制御装置5の設計要素に関するデータに基づいて駆動制御装置5を模擬動作させる。駆動電流演算手段14は、設計要素に従う回路要素をパラメータとして設計要素に従う演算アルゴリズムで制御量演算手段13から与えられる制御量Hcに対応する駆動電流Iiと印加電圧EiをPWM信号として求める。このとき、駆動電流演算手段14は、推力演算手段11から与えられるコイル抵抗RiとコイルインダクタンスLiとノイズNiとのフィードバックデータで駆動電流Iiと印加電圧Eiを補正する。
【0082】
その結果、電圧リップルErで変動する周波数Qcで決まるパルス幅の印加電圧Eiと電流リップルIrで変動する連続する駆動電流Iiが求められる。したがって、駆動電流演算手段14で演算された駆動電流Iiは、変動要因である駆動回路に因る電流リップルIrが減じられている。また、印加電圧Eiは、変動要因である駆動回路に因る電圧リップルErが減じられている。
【0083】
以上のことから、図1に示されるリニアスケールの駆動制御装置5の動作結果のデータである駆動電流Iiと印加電圧Eiを求めるために必要な駆動制御装置5の設計要素は、少なくとも信号スケール(増幅率)、印加電圧(電源電圧)Ei、周波数Pc、デッドタイムDc、電圧リップルEr、電流リップルIrである。
【0084】
駆動電流Iiが演算されたら、解析手段10は、推力演算手段11を動作させる。最初に、推力演算手段11は、駆動電流Iiに直接対応するリニアモータ6の電磁力Foを求める。リニアモータ6は、コア付片側式三相交流同期モータであるので、リニアモータ6の電磁力Foは、スター結線された三相の各励磁コイル6Aを含むモータの電気回路に駆動制御装置5から印加電圧Eiが入力されて駆動電流Iiが供給されるときに、コイル抵抗をRi、コイルインダクタンスをLiとして計算される。
【0085】
次に、推力演算手段11は、駆動電流Iiに直接対応する電磁力Foからリニアモータ6の変動推力Frを減算して、リニアモータ6のモータ単体の推力Fmを演算する。コア付片側式三相交流同期モータであるリニアモータ6の変動推力Frは、主にコギングに因る変動推力(コギングトルク)Fcと渦電流に因る変動推力(渦電流リップル)Feである。したがって、推力演算手段11は、電磁力FoからコギングトルクFcと渦電流リップルFeを減算する。
【0086】
実施の形態のシステム設計支援装置では、コギングトルクFcと渦電流リップルFeのデータは、リニアモータ6のシステム設計モデルのデータから直接取得できる設計要素である。変動推力Frがシステム設計モデルから直接得ることができない場合、推力演算手段11は、記憶手段30に記憶されている解析プログラムを実行させて、システム設計モデルを用いてリニアモータ6を模擬動作させる。そして、リニアモータ6の動作を再現して得られる物理的な現象のデータを解析して変動推力Frを求める。
【0087】
以上のことから、図1に示されるリニアステージのリニアモータ6の動作結果のデータである実質的な推力Fmを求めるために必要なリニアモータ6の直接の設計要素は、電磁力Foと変動推力Frでである。また、間接の設計要素は、電磁力Foを求めるためのコイル抵抗RiとコイルインダクタンスLi、および変動推力Frを求めるためのコイル位置、磁極ピッチ、永久磁石位置、ギャップ、鉄心と永久磁石の材質である。
【0088】
推力演算手段11は、解析手段10の他の演算手段における演算で必要なパラメータとして、設計要素であるコイル抵抗RiとコイルインダクタンスLiとノイズNiを選択的に表示手段40に出力するとともに、記憶手段30に累積記憶する。
【0089】
リニアモータ6の推力Fmが演算されたら、解析手段10は、移動量演算手段12を動作させる。移動量演算手段12は、最初に無負荷のときのリニアモータ6の単体の推力Fmの変化から負荷が与えられたときの正味推力Fxの変化を演算する。図1に示されるリニアステージの場合、移動量演算手段12は、リニアモータ6のモータ単体の推力Fmから反力Fkを減算するこによって正味推力Fxを求める。
【0090】
図1に示されるリニアステージでは、空気静圧軸受における摩擦抵抗とテーブル1Aに加わる空気抵抗を無視することができるので、リニアモータ6の推力Fmに対して反対方向に対抗する主たる力は、可動子と積載物を含むテーブル1Aの慣性による反力Fsと、固定子がテーブル1Aを戻そうとする反力Fbである。したがって、正味推力Fxは、リニアモータ6のモータ単体の推力Fmから反力Fsと反力Fbとを減算して求められる。
【0091】
反力Fsは、テーブル1Aの重心Gsから鉛直方向に質量Msが重力加速度で作用する力から求めることができる。また、反力Fbは、ベース1Bの重心Gbから鉛直方向に質量Mbが重力加速度で作用する力から求めることができる。
【0092】
次に、移動量演算手段12は、正味推力Fxのときの所定時間毎のテーブル1Aの速度を求めてテーブル1Aの位置を求める。制御装置は、推力と質量で決まる加速度と速度でテーブル1Aを移動するように制御するから、所定時間毎のテーブル1Aの速度は、設定加速度が与えられると、正味推力Fxと質量Msと設定加速度とによって求めることができる。速度と時間とから所定時間中の移動量が求められ、移動量から所定時間ごとの位置が得られる。
【0093】
続いて、移動量演算手段12は、正味推力Fxのときの変位δを求める。図1におけるリニアステージのステージ1は、構造上固有の振動系を有している。そのため、振動に因る変位δによって位置誤差が発生する。ステージ1は、ベース1Bがばね要素とダッシュポットを介在させて接地し、テーブル1Aがベッド1Bの上に空気静圧軸受を介在させて搭載されている。したがって、推力Fxのときの変位δは、各振動モードを等価質量、剛性、減衰に置き換えて、運動方程式で求めることができる。
【0094】
そして、移動量演算手段12は、移動量から計算される位置に変位δを減算して、リニアモータの実質的な推力Fm、正味推力Fxのときのテーブル1Aの検出位置Xiを求める。また、検出位置Xiを微分してテーブル1Aの検出位置Viを求める。
【0095】
以上のことから、図1に示されるリニアステージのステージ1の動作結果のデータである検出位置Xiと検出速度Viを求めるために必要なステージ1の直接の設計要素は、リニアモータ6の正味推力Fxと振動による変位δである。また、間接の設計要素は、正味推力Fxを求めるための反力Fkの計算に必要なテーブル1Aの質量Msと重心Gsおよびベース1Bの質量Mbと重心Gbと、変位δを求めるために加えて必要なテーブル1Aの剛性Ksとベース1Bの質量Mbと減衰定数Cbおよび剛性Kbである。
【0096】
以上のようにして、解析手段10は、指令値演算手段15が演算する新しい移動指令データがなくなるまで、指令値演算手段15から移動量演算手段12に至るまでの一連の動作を繰り返してリニアステージのシミュレーションを行なって、理論的な各装置の動作結果のデータと必要な設計要素のデータを収集して記憶手段30に記録する。各装置のシステム設計モデルは、有機的に結合された閉回路の中でそれぞれ模擬動作されているので、リニアステージ全体の動作が高い正確性をもって再現される。
【0097】
以上に説明される実施の形態の設計支援装置と全く同じ構成である必要はなく、本発明の技術思想を逸脱せず、本発明の作用効果を得ることができる範囲で、実施の形態のシステム設計支援装置を変形して実施することが可能である。
【0098】
本発明のシステム設計支援装置は、図1に代表的に示されるリニアステージに限らず、少なくとも、移動体を含む機器本体と、移動体を移動させる電動アクチュエータと、電動アクチュエータを制御する制御装置とが組み合わされてなる複数の装置の複合装置である電動機器のシステムの設計に有益である。特に、総合的なシステムの設計が難しい位置決め制御系を有する電動機器のシステムの設計に役立つ。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のシステム設計支援装置は、移動体を含む機器本体と、移動体を移動させる電動アクチュエータと、電動アクチュエータを制御する制御装置とが組み合わせてなる電動機器の設計に適用される。本発明のシステム設計支援装置は、リニアステージ、ポンプ、攪拌機、ディスクドライブのように、幅広い電動機器のシステム設計を助け、種々の電動機器の発展に寄与する。
【符号の説明】
【0100】
1 ステージ(機器本体)
1A テーブル(移動体)
1B ベース
2 指令制御装置
3 検出装置
3A リニアエンコーダ(検出器)
4 移動制御装置(モーションコントローラ)
5 駆動制御装置(モータドライバ)
6 リニアモータ(電動アクチュエータ)
10 解析手段
20 プログラム実行手段
30 記憶手段
40 入力手段
50 表示手段
60 モデル結合手段
70 変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を含む機器本体と前記移動体を移動させる電動アクチュエータと前記電動アクチュエータを制御する制御装置との複数の装置が組み合わされてなる電動機器のシステム設計支援装置であって、システム設計上欠くことができない構成要素である複数の設計要素でなる前記各装置のシステム設計モデルを有機的に結合させるモデル結合手段と、移動指令値を演算する指令値演算手段;駆動電流に対応する前記電動アクチュエータの変動推力を減じた連続する実質的な推力を演算する推力演算手段;前記実質的な推力に基づいて前記移動体の位置と速度とを演算する移動量演算手段;前記移動指令値に基づいて指令位置と前記移動体の位置との偏差および指令速度と前記移動体の速度との偏差を補正した位置指令と速度指令に従う制御量を演算する制御量演算手段;前記制御量に対応する駆動回路による駆動電流を演算する駆動電流演算手段;とを含む解析手段と、前記システム設計モデルを有機的に結合された状態で表示するとともに解析手段によって演算された動作結果のデータと前記設計要素のデータを選択的に一覧表示する表示手段と、前記設計要素を調整または変更する変更手段と、を備えてなる電動機器のシステム設計支援装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−231552(P2012−231552A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96680(P2011−96680)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】