説明

電子キーシステムの携帯機、エマージェンシーキー

【課題】車両用電子キーシステムの携帯機におけるデザイン上の自由度を高める。
【解決手段】エマージェンシーキー37は、通信部32による電波通信に影響を与えない樹脂材料で構成される。より具体的には、エマージェンシーキー37は、鍵溝部37aと鍵溝部37aを保持する保持部37bとからなるキープレート部37cと、キープレート部37cの保持部37bと連続して一体に形成され、使用者に把持される板状の把持部37dと、を有する。また、鍵溝部37aはナイロン66で構成されており、一方、保持部37bと把持部37dとはカーボングラファイトで構成されている。つまり、鍵溝部37aが、保持部37bおよび把持部37dよりもその硬度が低い材料で構成されるとともに、保持部37bおよび把持部37dが鍵溝部37aよりもその硬度が高い材料で構成されている。また、鍵溝部37aは、切削加工性に優れる材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子キーシステムにおいて使用者に携帯される携帯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、使用者に携帯される携帯機と電子装置との間で無線通信によりIDを照合してドアの施解錠といったセキュリティ機能の動作を行う電子キーシステムが知られており、特に自動車では、車両盗難防止効果を高めるために、エンジンの始動許可も、携帯機と車載電子装置との間のID照合に基づいて行うようにしたものが実用化されている。
【0003】
そして、この種の電子キーシステムでは、携帯機の電池の電力が無くなった場合に備えて、その携帯機の本体に設けられた収納部に、メカニカルなキー(キープレート)であるエマージェンシーキーを収納しておくようにしている。
【0004】
なお、上述のエマージェンシーキーは、長尺状のキープレート部分の少なくとも一部が金属材料で構成されるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−88856号公報(第3頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような電子キーシステムの携帯機においては、エマージェンシーキーの金属部分による電波通信への影響を極力避けるために、筐体内部で通信手段とエマージェンシーキーとを離して配置する必要がある。このため、携帯機のデザイン上の自由度が制約されるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、車両用電子キーシステムの携帯機におけるデザイン上の自由度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る車両用電子キーシステムの携帯機は、車両に搭載された車載装置へID情報を送信する通信部を筐体内部に備えると共に、前記筐体に設けられた収納部にメカニカルなエマージェンシーキーが着脱可能に収納される。そして、エマージェンシーキーは樹脂材料で構成される。
【0009】
このように構成された本発明の車両用電子キーシステムの携帯機によれば、エマージェンシーキーが樹脂材料で構成されるので、通信部による電波通信へ影響を与えず、筐体内部で通信部とエマージェンシーキーとを離して配置する必要がない。
【0010】
したがって、車両用電子キーシステムの携帯機におけるデザイン上の自由度を高めることができる。
また、エマージェンシーキーを金属材料で構成する場合に比べて軽量化することができ、したがって、電子キーシステムの携帯機を軽量化することができる。
【0011】
また、エマージェンシーキーのうちの鍵溝部を、他の部分よりもその硬度が低い材料で構成してもよい。具体的には、請求項2のように、エマージェンシーキーが、鍵溝が形成された鍵溝部と鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、保持部および把持部が、所定の硬度を有する第一材料で構成され、鍵溝部が第一材料よりもその硬度が低い第二材料で構成されることが考えられる。
【0012】
このように鍵溝部を他の部分よりもその硬度が低い材料で構成すれば、鍵溝部を他の部分と同一の材料で構成する場合に比べて、鍵溝部の切削加工性をより良くすることができる。したがって、エマージェンシーキーの製造工数を低減することができる。
【0013】
また、エマージェンシーキーのうちの保持部および把持部を鍵溝部よりもその硬度が高い材料で構成してもよい。具体的には、請求項3のように、エマージェンシーキーが、鍵溝が形成された鍵溝部と鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、鍵溝部が、所定の硬度を有する第三材料で構成され、保持部および把持部が第三材料よりもその硬度が高い第四材料で構成されることが考えられる。
【0014】
このように保持部および把持部を鍵溝部よりもその硬度が高い材料で構成すれば、保持部および把持部を鍵溝部と同一の材料で構成する場合に比べて、保持部および把持部の強度を高めることができる。したがって、エマージェンシーキーの耐久性能を向上させることができる。
【0015】
また、エマージェンシーキーのうちの少なくとも鍵溝部を、切削加工性に優れる材料で構成してもよい(請求項4)。このように構成すれば、エマージェンシーキーの製造工数を低減することができる。
【0016】
なお、本発明は、請求項1〜4に係る車両用電子キーシステムの携帯機に用いられるエマージェンシーキーとしても実現可能である(請求項5〜8)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の車両用電子キーシステムを表す構成図である。
【図2】(a)は携帯機を説明する説明図であり、(b)は本実施形態のエマージェンシーキーを表す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明が適用された実施形態の車両用電子キーシステムについて説明する。
[1.車両用電子キーシステム1の構成の説明]
図1に示すように、この車両用電子キーシステム1は、車両の使用者に携帯される携帯機3と、車両に搭載された車載装置5とからなり、車載装置5が、携帯機3との間で無線通信によりID情報を照合して、その照合結果に基づき車両のドアの施解錠やエンジンの始動制御などを行うものである。
【0019】
[1.1.車載装置5の構成の説明]
そして、車載装置5は、マイコン(マイクロコンピュータ)7と、車外の所定領域(以下、第1領域という)にリクエスト電波を送信するコイルアンテナ9と、上記リクエスト電波に応じて携帯機3から送信されるIDコード電波を受信するアンテナ11と、車室内の所定領域(以下、第2領域という)に電磁誘導式無線通信用の電磁界を発生させると共に、その電磁界に応じて携帯機3から送信されるトランスポンダ電波を受信するコイルアンテナ13とを備えている。なお、コイルアンテナ13が電磁界を発生される領域は、例えば、エンジンを始動させる際にオンされるスタートボタンを中心とした半径60〜70cm程度の領域である。
【0020】
そしてさらに、車載装置5は、マイコン7から出力されるリクエスト信号で搬送波を変調することにより該リクエスト信号を含むリクエスト電波を生成し、そのリクエスト電波をコイルアンテナ9に送信させる送信回路15と、アンテナ11により受信されたIDコード電波を復調して、その電波に含まれていたIDコードをマイコン7に入力させる受信回路17と、マイコン7から指令される周波数の電磁界をコイルアンテナ13に発生させると共に、そのコイルアンテナ13によって受信されたトランスポンダ電波を復調して、その電波に含まれていたIDコードをマイコン7に入力させるトランスポンダ送受信回路19と、を備えている。
【0021】
[1.2.携帯機3の構成の説明]
一方、携帯機3は、樹脂によって略直方体に形成された本体(以下、携帯機本体ともいう)21の筐体21aの内部に、マイコン23と、車載装置5からの上記リクエスト電波を受信するコイルアンテナ25と、そのコイルアンテナ25によって受信されたリクエスト電波を復調して、その電波に含まれていたリクエスト信号をマイコン23に入力させる受信回路27と、IDコード電波を送信するためのアンテナ29と、マイコン23から出力されるIDコードで搬送波を変調することにより該IDコードを含むIDコード電波を生成し、そのIDコード電波をアンテナ29に送信させる送信回路31と、マイコン23,受信回路27,及び送信回路31に動作用の電力を供給する電池33と、を備えている。なお、マイコン23が送信回路31に出力するIDコード(つまり、IDコード電波に含ませるIDコード)は、当該携帯機3に固有のものであり、ドアの施解錠を行うか否かの認証を行うためのドア施解錠認証用IDコードである。そして、このIDコードは、マイコン23内の不揮発性メモリ(図示省略)に予め記憶されている。
【0022】
なお、上述のコイルアンテナ25と、受信回路27と、アンテナ29と、送信回路31とが通信部32を形成する。
さらに、携帯機本体21の筐体21aの内部には、車載装置5のコイルアンテナ13によって発生される所定の周波数の電磁界を受けると、その電磁界から電力を生成して、その電力により動作するトランスポンダ35が備えられている。そして、トランスポンダ35は、所定の周波数の電磁界を受けて動作すると、当該トランスポンダ35内の不揮発性メモリ(図示省略)に予め記憶されているIDコードを含んだトランスポンダ電波を送信する。
【0023】
また、図2(a)に示すように、携帯機本体21の筐体21aには、メカニカルなエマージェンシーキー37を着脱可能に収納するための収納部39が設けられており、通常の状態では、その収納部39にエマージェンシーキー37が挿入されて収納されている。なお、エマージェンシーキー37は、電池33の電力が無くなって携帯機3のアンテナ29からIDコード電波を送信することができなくなった場合に、車両のドアに設けられているキーシリンダに差し込んで該ドアを解錠又は施錠するために用いられる他、トランクや車室内のグローブボックスを解錠又は施錠するためにも用いられる。
【0024】
[1.3.エマージェンシーキー37の構成の説明]
次に、本発明が適用されるエマージェンシーキー37の構成について説明する。
エマージェンシーキー37は、通信部32による電波通信に影響を与えない樹脂材料で構成される。より具体的には、エマージェンシーキー37は、図2(b)に示すように、鍵溝部37aと鍵溝部37aを保持する保持部37bとからなるキープレート部37cと、キープレート部37cの保持部37bと連続して一体に形成され、使用者に把持される板状の把持部37dと、を有する。
【0025】
鍵溝部37aは、その断面が略方形である長尺状に形成されている。また、鍵溝部37aには、その両側面が波状になっている溝(鍵溝37e)が長手方向に沿って形成されている。なお、エマージェンシーキー37の鍵溝37eのうち、波状の部分は、各車両毎に異なった形状をしている。
【0026】
また、保持部37bは、その断面がコの字状である長尺状に形成され、その内側に配置される鍵溝部37aを保持している。
また、鍵溝部37aはナイロン66で構成されており、一方、保持部37bと把持部37dとはカーボングラファイトで構成されている。つまり、エマージェンシーキー37においては、鍵溝部37aが、保持部37bおよび把持部37dよりもその硬度が低い材料で構成されるとともに、保持部37bおよび把持部37dが鍵溝部37aよりもその硬度が高い材料で構成されている。また、鍵溝部37aは、切削加工性に優れる材料で構成されている。
【0027】
なお、鍵溝部37aを構成する材料が特許請求の範囲の第二材料および第三材料に相当する。また、保持部37bおよび把持部37dを構成する材料が特許請求の範囲の第一材料および第四材料に相当する。
【0028】
[2.実施形態の効果]
(1)このように本実施形態の車両用電子キーシステム1の携帯機3によれば、エマージェンシーキー37が樹脂材料で構成されるので、通信部32による電波通信へ影響を与えず、筐体21a内部で通信部32とエマージェンシーキー37とを離して配置する必要がない(図2(a)参照)。
【0029】
したがって、車両用電子キーシステム1の携帯機3におけるデザイン上の自由度を高めることができる。
また、エマージェンシーキー37を金属材料で構成する場合に比べて軽量化することができ、したがって、車両用電子キーシステム1の携帯機3を軽量化することができる。
【0030】
(2)また、本実施形態の車両用電子キーシステム1の携帯機3によれば、鍵溝部37aが、保持部37bおよび把持部37dよりもその硬度が低い材料で構成されるので、鍵溝部37aを他の部分(保持部37bおよび把持部37d)と同一の材料で構成する場合に比べて、鍵溝部37aの切削加工性をより良くすることができる。したがって、エマージェンシーキー37の製造工数を低減することができる。
【0031】
(3)また、本実施形態の車両用電子キーシステム1の携帯機3によれば、保持部37bおよび把持部37dが鍵溝部37aよりもその硬度が高い材料で構成されるので、保持部37bおよび把持部37dを鍵溝部37aと同一の材料で構成する場合に比べて、保持部37bおよび把持部37dの強度を高めることができる。したがって、エマージェンシーキー37の耐久性能を向上させることができる。
【0032】
(4)また、本実施形態の車両用電子キーシステム1の携帯機3によれば、鍵溝部37aが切削加工性に優れる材料で構成されているので、エマージェンシーキー37の製造工数を低減することができる。
【0033】
[3.他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
【0034】
(1)上記実施形態では、鍵溝部37aがナイロン66で構成されているが、これには限られない。通信部による電波通信に影響を与えず、切削加工性に優れ、保持部37bおよび把持部37dを構成する材料よりもその硬度が低い材料であれば、他の樹脂材料で鍵溝部37aを構成してもよい。
【0035】
例えば、ポリエーテルイミド樹脂や、ポリカーボネイト樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロリレン樹脂、メタクリル樹脂、変性PPE樹脂、ABS樹脂、AS樹脂などが挙げられる。また、上記合成樹脂の複合材料でもよい。
【0036】
(2)また、上記実施形態では、保持部37bと把持部37dとがカーボングラファイトで構成されているが、これには限られない。通信部による電波通信に影響を与えず、鍵溝部37aを構成する材料よりもその硬度が高い材料であれば、他の樹脂材料で保持部37bおよび把持部37dを構成してもよい。
【0037】
例えば、ガラス繊維強化樹脂や炭素繊維強化樹脂などが挙げられる。
【符号の説明】
【0038】
1…車両用電子キーシステム、3…携帯機、5…車載装置、7…マイコン、9…コイルアンテナ、11…アンテナ、13…コイルアンテナ、15…送信回路、17…受信回路、19…トランスポンダ送受信回路、21…携帯機本体、21a…筐体、23…マイコン、25…コイルアンテナ、27…受信回路、29…アンテナ、31…送信回路、32…通信部、33…電池、35…トランスポンダ、37…エマージェンシーキー、37a…鍵溝部、37b…保持部、37c…キープレート部、37d…把持部、37e…鍵溝、39…収納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車載装置へID情報を送信する通信部を筐体内部に備えると共に、前記筐体に設けられた収納部にメカニカルなエマージェンシーキーが着脱可能に収納される車両用電子キーシステムの携帯機であって、
前記エマージェンシーキーは、樹脂材料で構成されること
を特徴とする車両用電子キーシステムの携帯機。
【請求項2】
前記エマージェンシーキーは、鍵溝が形成された鍵溝部と前記鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、前記保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、
前記保持部および前記把持部は、所定の硬度を有する第一材料で構成され、前記鍵溝部は前記第一材料よりもその硬度が低い第二材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用電子キーシステムの携帯機。
【請求項3】
前記エマージェンシーキーは、鍵溝が形成された鍵溝部と前記鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、前記保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、
前記鍵溝部は、所定の硬度を有する第三材料で構成され、前記保持部および前記把持部は前記第三材料よりもその硬度が高い第四材料で構成されること
を特徴とする請求項1に記載の車両用電子キーシステムの携帯機。
【請求項4】
前記エマージェンシーキーは、鍵溝が形成された鍵溝部と前記鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、前記保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、
前記エマージェンシーキーのうちの少なくとも前記鍵溝部が切削加工性に優れる材料で構成されること
を特徴とする請求項1に記載の車両用電子キーシステムの携帯機。
【請求項5】
車両に搭載された車載装置へID情報を送信する通信部を筐体内部に備えると共に、前記筐体に設けられた収納部にメカニカルなエマージェンシーキーが着脱可能に収納される車両用電子キーシステムの携帯機に用いられる前記エマージェンシーキーであって、
樹脂材料で構成されることを特徴とするエマージェンシーキー。
【請求項6】
鍵溝が形成された鍵溝部と前記鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、前記保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、
前記保持部および前記把持部は、所定の硬度を有する第一材料で構成され、前記鍵溝部は前記第一材料よりもその硬度が低い第二材料で構成されることを特徴とする請求項5に記載のエマージェンシーキー。
【請求項7】
鍵溝が形成された鍵溝部と前記鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、前記保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、
前記鍵溝部は、所定の硬度を有する第三材料で構成され、前記保持部および前記把持部は前記第三材料よりもその硬度が高い第四材料で構成されること
を特徴とする請求項5に記載のエマージェンシーキー。
【請求項8】
鍵溝が形成された鍵溝部と前記鍵溝部を保持する保持部とからなるキープレート部と、前記保持部と連続して形成され、使用者に把持される把持部と、を有し、
少なくとも前記鍵溝部が切削加工性に優れる材料で構成されること
を特徴とする請求項1に記載のエマージェンシーキー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−236194(P2010−236194A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82642(P2009−82642)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】