説明

電子ビーム照射装置

【課題】電子ビーム照射対象体が筒状の立体的なものであっても、電子ビーム照射対象体に対して電子ビームの照射を、部分的に過剰に照射することなく、確実かつ容易に行うことのできる電子ビーム照射装置を提供すること。
【解決手段】電子ビーム照射装置は、真空状態が形成された内部に電子ビーム発生器が配設されてなり、当該電子ビーム発生器において発生した電子ビームを放射するための電子ビーム出射窓を有する電子ビーム管と、当該電子ビーム管を収容するための電子ビーム管収容空間を有するケーシングとを備えた電子ビーム照射装置であって、前記電子ビーム管の電子ビーム出射窓から放射される電子ビームの放射方向に伸び、電子ビーム出射窓から放射される電子ビームを導通するための電子ビーム照射ノズルが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム照射装置に関し、更に詳しくは、開口を有する有底筒状の形態の容器を滅菌処理するために用いられる電子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば医薬品、飲料水、化粧水などの人体に適用する物質を充填するための容器は、人体に有害な菌が繁殖することを回避するために滅菌処理を施すことが必要とされており、従来、この滅菌処理の方法としては、エチレンオキサイドガス(EOG)や過酸化水素(H2 2 )ガスを容器に対して吹き付ける手法、赤外線または紫外線を容器に対して照射する手法などが知られている。
【0003】
しかしながら、エチレンオキサイドガスや過酸化水素ガスを用いた滅菌処理は、薬剤が容器に残留することが問題とされており、また、赤外線または紫外線を用いた滅菌処理は、容器が樹脂や紙などの熱に弱い材質のものである場合には、容器が変質してしまうおそれがあるために適用することができないという問題がある。
而して、近年、滅菌処理の方法として、容器に対して電子ビームを照射する手法が着目されており、この電子ビームを用いた滅菌処理によれば、薬剤が容器に残留することもなく、また容器が熱に弱い材質よりなるものであっても、当該容器が変質するおそれがなくなる、と期待されている。
【0004】
一方、電子ビーム照射装置の或る種のものは、図6に示すように、例えばガラスよりなる有底筒状のバルブ21を備え、このバルブ21の開口21Aが、電子ビーム出射窓23を有する円板状の蓋部22によって閉塞され、これにより密閉された内部が真空状態とされており、この真空状態が形成された内部に、カソード(図示せず)を備えた電子ビーム発生器24が配設され、電子ビーム発生器24において発生した電子ビームが電子ビーム出射窓23から放射される構成を有する電子ビーム管20を具備してなるものである。この電子ビーム管20は、例えばエポキシ樹脂によってモールド化されたケーシング62における、柱状であって当該ケーシング62の一面62Aに形成された開口62Bによって開放された状態の電子ビーム管収容空間63内に、電子ビーム出射窓23がケーシング62の開口62Bが形成されている一面62A側(図1において下側)に位置するよう挿入された状態で蓋部22がケーシング62の一面62Aに適宜の手法で固定されることによって固設されている。
ここに、電子ビーム管20の電子ビーム出射窓23は、蓋部22の中央部分に形成された電子ビーム出射孔22Aを閉塞するよう設けられており、例えばシリコン製の肉厚1〜3μmの薄膜よりなるものである。
図6において、16は、電子ビーム管20と電気的に絶縁した状態となるよう、モールド化されたケーシング62に埋設されている高圧トランスであり、19は、高圧トランス16に電気的に接続された制御ユニットであり、68は、ケーシング62の外部に設置されたガス供給手段(図示せず)から供給されるガスを電子ビーム管収容空間63内に流入させるためのガス流路であり、26は、電子ビーム発生器24のカソードに対して給電をするための給電端子であり、27は、複数の給電端子26を束ねるためのベースであり、18は、高圧トランス16に接続されている給電線17の先端に設けられたコネクタである。
【0005】
このような構成を有する電子ビーム照射装置を用いて容器の滅菌処理を行う場合においては、電子ビーム照射対象体である容器が開口を有する有底筒状の形態の立体的なものであるため、開口を上方にして正立した状態の容器に対して開口側から電子ビームを照射(図6参照)したのでは、容器の線量分布が均一にならないことに起因して弊害が生じる、という問題がある。
すなわち、電子ビームの照射線量が電子ビームが放射される電子ビーム出射窓からの離間距離が大きくなるに従って小さくなるため、電子ビーム照射対象体である容器における線量が最も小さくなる部分(具体的には底部)において必要とされる線量を得ようとすれば、線量が最も大きくなる部分(具体的には開口部)においては電子ビームが過剰に照射されることとなることから、容器における線量が最も大きくなる部分が部分的に劣化してしまう、という問題がある。
【0006】
而して、電子ビーム照射装置を用いて容器の滅菌処理を行う場合には、例えば図7に示すように、電子ビーム照射対象体である容器(図の例においては紙コップ)70に、当該容器70に関する線量分布に基づいて遮蔽構造体、具体的には、紙コップにおける例えば飲み食口および飲み口部分近辺の側面などの線量が大きくなる部分に電子ビームを部分的に遮蔽するための飲み口用遮蔽部71Aおよび側面用遮蔽部71Bよりなる遮蔽構造体71を設け、この遮蔽構造体71の上から電子ビームを照射することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
このような手法によれば、電子ビーム照射対象体である容器70に対して所定の線量を均一に照射することができることから、容器70に確実に滅菌処理を施すことができると共に、当該容器70自体が電子ビームが照射されることによって部分的に劣化することを回避することができる、と期待されている。
【0007】
しかしながら、このように遮蔽構造体を用いて電子ビーム照射装置によって滅菌処理を行う手法においては、電子ビームの照射前には、電子ビーム照射対象体である容器に遮蔽構造体を取り付け、かつ電子ビームの照射後には容器から遮蔽構造体を除去して回収する必要があるため、作業工数が増加してしまう、という問題があり、また遮蔽構造体を容器に取り付けるため、遮蔽構造体によって容器が汚染されることのないよう、遮蔽構造体に対しても滅菌処理を施さなくてはならないため、新たに準備作業が必要となり、結果として作業工数が増加してしまう、という問題もある。
【0008】
【特許文献1】特開平8−151021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、電子ビーム照射対象体が筒状の立体的なものであっても、電子ビーム照射対象体に対して電子ビームの照射を、部分的に過剰に照射することなく、確実かつ容易に行うことのできる電子ビーム照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子ビーム照射装置は、真空状態が形成された内部に電子ビーム発生器が配設されてなり、当該電子ビーム発生器において発生した電子ビームを放射するための電子ビーム出射窓を有する電子ビーム管と、当該電子ビーム管を収容するための電子ビーム管収容空間を有するケーシングとを備えた電子ビーム照射装置であって、
前記電子ビーム管の電子ビーム出射窓から放射される電子ビームの放射方向に伸び、電子ビーム出射窓から放射される電子ビームを導通するための電子ビーム照射ノズルが設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電子ビーム照射装置においては、電子ビーム管の電子ビーム出射窓が露出された状態となるよう形成されたガス流路が設けられていることが好ましい。
このような構成の電子ビーム照射装置においては、ガス流路が、ケーシングに形成された、電子ビーム管を冷却するための冷却ガスを流動させるための領域を有し、当該冷却ガスが不活性ガスであることが好ましい。
【0012】
本発明の電子ビーム照射装置においては、電子ビーム照射対象体が電子ビーム管に向かう方向に移動することを規制するための位置決めストッパが設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明の電子ビーム照射装置においては、電子ビーム管をケーシングにおける電子ビーム管収容空間内に固設するための電子ビーム管ホルダが設けられており、当該電子ビーム管ホルダに電子ビーム照射ノズルが設けられていることが好ましい。
【0014】
本発明の電子ビーム照射装置は、電子ビーム照射ノズルが筒状の電子ビーム照射対象体の開口から挿入され、その状態において電子ビーム照射対象体に対して電子ビームが照射されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子ビーム照射装置によれば、電子ビーム管の電子ビーム出射窓から放射される電子ビームを導通するための電子ビーム照射ノズルが設けられており、電子ビーム照射対象体に対して電子ビームを、電子ビーム照射ノズルによって部分的に遮蔽した状態で照射することができるため、電子ビーム照射対象体が筒状の立体的なものであっても、電子ビーム照射対象体に対して電子ビームの照射を、部分的に過剰に照射することなく、確実かつ容易に行うことができる。
従って、電子ビーム照射対象体としての開口を有する有底筒状の形態の容器に対して確実かつ容易に滅菌処理を施すことができると共に、当該容器自体が電子ビームが照射されることによって部分的に劣化することを防止することができる。
【0016】
また、本発明の電子ビーム照射装置においては、電子ビーム管の電子ビーム出射窓が露出された状態となるよう形成されたガス流路を設けることにより、当該ガス流路に適宜のガスを流動させることによって充填させ、これにより、電子ビーム出射窓および当該電子ビーム出射窓から放射される電子ビームが大気に曝されることを抑制することができると共に、当該電子ビーム出射窓から放射される電子ビームが通過する空間の酸素分圧を低下させることができるため、電子ビーム出射窓からの電子ビームの放射によってオゾンが発生することを防止することができ、その結果、電子ビーム出射窓がオゾンの発生に起因して酸化することを防止することができる。
このような構成の本発明の電子ビーム照射装置においては、ガス流路を、ケーシングに形成された、電子ビーム管を冷却するための冷却ガスを流動させるための領域を有するものとし、このガス流路に電子ビーム管を冷却するための不活性ガスよりなる冷却ガスを流動させることにより、上記の効果と共に、電子ビーム管に高い加速電圧が印加される場合においても、冷却ガスによる冷却作用によって電子ビーム管が高温になることに起因してケーシングが劣化することを抑制することができ、かつ冷却ガスが電子ビーム管の外表面に沿うよう流動されることによって当該電子ビーム管の外表面に発生した静電気が除去されることから、不要なアーク放電の発生を防止することができる。
【0017】
また、本発明の電子ビーム照射装置においては、電子ビーム照射対象体が電子ビーム管に向かう方向に移動することを規制するための位置決めストッパを設けることにより、電子ビーム照射対象体を確実に所期の電子ビーム照射位置に配置することによって必要とされる線量の電子ビームを確実に照射することが容易にできると共に、電子ビーム照射対象体に対する電子ビーム照射の際に、当該電子ビーム照射対象体が移動して電子ビーム出射窓に接触することに起因して当該電子ビーム出射窓が破損することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の電子ビーム照射装置の構成の一例を示す説明用概略図であり、図2は、図1の電子ビーム照射装置の要部を、電子ビーム照射対象体に電子ビームを照射している一状態で示す説明用部分拡大図であり、図3は、電子ビーム照射対象体に電子ビームを照射している他の状態を示す説明用部分拡大図である。
この電子ビーム照射装置10は、開口1Aを有する有底筒状の形態の容器(以下、「筒状容器」ともいう。)1を電子ビーム照射対象体として滅菌処理するためのものである。
【0019】
電子ビーム照射装置10は、例えばガラスよりなる有底筒状のバルブ21を備え、このバルブ21の開口21Aが、円板状の蓋部22によって閉塞され、これにより密閉された内部が真空状態とされており、この真空状態が形成された内部に、カソード(図示せず)を備えた電子ビーム発生器24が配設され、当該電子ビーム発生器24において発生した電子ビームが電子ビーム出射窓23から放射される構成を有する電子ビーム管20を具備してなるものである。この電子ビーム管20は、ケーシング12における、柱状であって当該ケーシング12の一面(以下、「開口形成面」ともいう。)12Aに形成された開口12Bによって開放された状態の電子ビーム管収容空間13内に、電子ビーム出射窓23がケーシング12の開口形成面12A側(図1において下側)に位置するよう挿入された状態で電子ビーム管ホルダ30によって固設されている。
ここに、電子ビーム管20の電子ビーム出射窓23は、蓋部22の中央部分に形成された電子ビーム出射孔22Aを閉塞するよう設けられており、例えばシリコン製の肉厚1〜3μmの薄膜よりなるものである。また、ケーシング12に形成されている電子ビーム管収容空間13は、電子ビーム管20の全長に適合した全長を有すると共に、電子ビーム管20における蓋部22の外径に適合した開口径を有し、開口形成面12A側に位置する、ケーシング12の開口12Bの開口径と同一の外径を有する蓋部固定空間と、当該蓋部固定空間の外径よりも小径かつ電子ビーム管20のバルブ21の外径よりも大径の外径を有するバルブ収容空間とよりなるものである。
【0020】
この電子ビーム照射装置10を構成する電子ビーム発生器24には、カソードに対して給電をするための給電端子26が複数接続されている。
これらの複数の給電端子26が、当該電子ビーム管20のバルブ21から外方に突出し、ベース27に束ねられた状態でケーシング12内に埋設されている高圧トランス16に接続された給電線17の先端に設けられたコネクタ18に嵌入されて接続されており、このようにして、電子ビーム管20が高圧トランス16に対して電気的に接続されている。 この図の例において、ケーシング12は、電子ビーム管20と高圧トランス16とを電気的に絶縁するために、例えばエポキシ樹脂などの絶縁材料によってモールド化されてなるものであり、当該ケーシング12には、外部に設置されたガス供給手段(図示せず)から供給されるガスを電子ビーム管収容空間13内に流入させるためのガス流路用溝14Aが形成されている。また、高圧トランス16は、ケーシング12外部に設置された制御ユニット19に接続されている。
【0021】
そして、電子ビーム照射装置10においては、電子ビーム管ホルダ30に、電子ビーム管20の電子ビーム出射窓23から放射される電子ビームの放射方向(図1において下方向)に伸び、当該電子ビーム出射窓23から放射される電子ビームを導通するための電子ビーム照射ノズルが設けられている。
この電子ビーム照射ノズルは、電子ビーム照射対象体である筒状容器1の開口1Aから挿入されるものであることから、筒状容器1の開口1Aの開口径および電子ビーム照射ノズルが挿入されるべき開口部分の内径よりも小径の外径を有するものであることが必要とされる。
ここに、電子ビーム照射ノズルは、例えばSUSおよびアルミニウムなどの電子ビームに対して非透過性を示す材質のものである。
【0022】
また、電子ビーム管ホルダ30には、筒状容器1が電子ビーム管20に向かう方向(図1において上方向)に移動することを規制するための位置決めストッパが設けられている。
【0023】
この図の例においては、電子ビーム管ホルダ30は、電子ビーム照射ノズルと位置決めストッパとが一体的に設けられてなる構成のものである。この電子ビーム管ホルダ30は、全体が円筒形を有する、電子ビーム管20を所定の位置に固定するための位置決め固定部31と、当該位置決め固定部31の外径に適合した外径の円板形態を有する、筒状容器1が電子ビーム管20に向かう方向に移動することを規制するための位置決めストッパ部33と、位置決め固定部31よりも小径の円筒形態を有する電子ビーム照射ノズル部35とを有し、その外観形状が、外径の異なる2つの円筒体が重ね合わせられてなる形態のものである。また、この電子ビーム管ホルダ30においては、その中心軸を含む軸方向に平行な断面における内表面側の形状は、位置決め固定部31に、電子ビーム管20の蓋部22に適合した形状を有する電子ビーム管組込み空間31Aと、当該電子ビーム管組込み空間31Aに連続し、電子ビーム管組込み空間31Aの外径よりも小さく、かつ電子ビーム出射窓23によって閉塞されている電子ビーム出射孔22Aの孔径よりも大きい外径を有する電子ビーム通過空間31Bとが形成されていることから、その内径が電子ビームの放射方向に向かうに従って中心軸に向かう方向に階段状に傾斜されなる形態とされている。 また、電子ビーム管ホルダ30には、位置決め固定部31側の端面と、当該位置決め固定部31における電子ビーム通過空間31Bを囲繞する内面との各々に開口を有するガス流路用溝37Aが形成されており、このガス流路用溝37Aは、ケーシング12に形成されている、電子ビーム管収容空間13のバルブ収容空間を囲繞する内面と、ケーシング12の開口形成面12Aとの各々に開口を有するガス流路用溝14Bに連通されている。
図2および図3において、36は、ガス抜き孔であり、このガス抜き孔36は、電子ビーム照射ノズル部35の外径と筒状容器1の開口1Aの開口径および開口部分の内径との差が小さい場合には、電子ビーム管収容空間13および電子ビーム管ホルダ30の内部にガス供給手段から供給されるガスが滞留することを抑制するために設けられていることが好ましく、その孔径は、電子ビーム照射ノズル部35を経由して筒状容器1内にガスが充填されることを阻害することがないよう、例えば2mmとされている。
【0024】
電子ビーム管ホルダ30は、ケーシング12の電子ビーム管収容空間13内に電子ビーム管20が挿入され、当該電子ビーム管収容空間13の蓋部固定空間に、電子ビーム管20の蓋部22の後端部分が組み込まれた状態において、当該電子ビーム管ホルダ30の位置決め固定部31側の端面がケーシング12の開口形成面12Aに当接した状態で例えば螺子止めによりケーシング12に対して固定されている。このようにして、電子ビーム管ホルダ30は、位置決め固定部31の電子ビーム管組込み空間31Aに、電子ビーム管20の蓋部22の先端部分が組み込まれることによって当該電子ビーム管20をケーシング12の電子ビーム管収容空間13内の所定の位置に固定している。
【0025】
また、電子ビーム照射装置10には、ガス供給手段から供給されるガスを流動させるためのガス流路が形成されており、このガス流路によって電子ビーム管20の電子ビーム出射窓23が露出された状態とされている。
この図の例において、ガス流路は、ガス供給手段から供給されたガスが、ケーシング12に形成されたガス流路用溝14A、電子ビーム管20が配設された電子ビーム管収容空間13のバルブ収容空間、ケーシング12に形成されたガス流路用溝14B、電子ビーム管ホルダ30に形成されたガス流路用溝37Aおよび電子ビーム管ホルダ30に係る電子ビーム通過空間31Bをこの順に流動し、ガス抜き孔36または電子ビーム照射ノズル部35を介して電子ビーム照射装置10内から排出されるよう形成されており、このガス流路の電子ビーム通過空間31Bによって区画される領域において、電子ビーム出射窓23が露出されている。
【0026】
以下、本発明に係る電子ビーム照射装置10における電子ビーム照射ノズル部35および電子ビーム照射対象体である筒状容器1の一構成例を示す。
電子ビーム照射ノズル部35は、外径が8mm、内径が7mm、全長が8mmのものである。
筒状容器1は、開口径が9mm、開口部分の長さlが8mm、全長が33mmのものである。
【0027】
このような構成を有する電子ビーム照射装置10によれば、以下のようにして電子ビーム照射対象体に対して滅菌処理を行うための電子ビームの照射が行われる。
【0028】
先ず、図2に示すように、電子ビーム照射対象体である筒状容器1を、その開口1Aを上方とした正立状態で電子ビーム照射装置10の電子ビーム管ホルダ30における電子ビーム照射ノズル部35の真下に位置させ、上方(図1において上方)に移動させることによって当該筒状容器1の開口1Aから、この開口1Aが電子ビーム管ホルダ30の位置決めストッパ部33に当接する状態まで電子ビーム照射ノズル部35を挿入する。
このように電子ビーム照射ノズル部35が筒状容器1内に挿入された状態において、ガス供給手段から、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスを供給してガス流路に流動させることにより、電子ビーム照射ノズル部35を介して筒状容器1内に不活性ガスを導入する。
そして、筒状容器1内および電子ビーム管ホルダ30内、並びに筒状容器1内に不活性ガスが充填された状態において、電子ビーム発生器24を駆動して電子ビームを発生させることにより、電子ビーム出射窓23から放射された電子ビームが、電子ビーム管ホルダ30における電子ビーム通過空間31Bを通過した後、電子ビーム照射ノズル部35によって筒状容器1の内部に導通され、これにより、電子ビーム照射ノズル部35が挿入されている開口1Aおよび開口部分を除く内表面に電子ビームを照射する(以下、「電子ビーム内表面照射工程」ともいう。)。
図2においては、筒状容器1を破線で示し、また、電子ビームの放射方向を破線の矢印で示し、不活性ガスの流動方向を実線の矢印で示す。
【0029】
次いで、図3に示すように、電子ビーム発生器24が駆動されて電子ビーム出射窓23から電子ビームが放射され、かつガス供給手段によってガス流路に不活性ガスが流動されて充填されている状態において、筒状容器1を下方(図2において下方)に移動させることによって当該筒状容器1の開口1Aから電子ビーム照射ノズル部35を引き抜き、更に、この筒状容器1を電子ビーム照射ノズル部35の真下における所定の位置まで移動させる。このようにして、電子ビーム内表面照射工程において電子ビーム照射ノズル部35が挿入されていた開口1Aおよび開口部分に対して筒状容器1を移動させながら電子ビームを照射する(以下、「電子ビーム開口部照射工程」ともいう。)。
図3においては、図2と同様に電子ビームの放射方向を破線の矢印で示し、不活性ガスの流動方向を実線の矢印で示す。また、容器の移動方向を一点鎖線の矢印で示す。
【0030】
以上のような電子ビーム照射装置10によれば、電子ビーム管ホルダ30に電子ビーム照射ノズル部35が設けられていることから、電子ビーム照射対象体が、筒状容器1のような開口1Aを有する有底筒状の形態の立体的なものであっても、筒状容器1に対して電子ビームを、電子ビーム照射ノズル部35によって部分的に遮蔽した状態で照射することができるため、当該筒状容器1に対して所期の線量を均一に照射することができる。
すなわち、先ず、電子ビーム内表面照射工程において、筒状容器1の開口1Aおよび開口部分に電子ビーム照射ノズル部35を挿入することにより、この電子ビーム照射ノズル部35が挿入されている部分を完全に遮蔽した状態で当該筒状容器1に電子ビームを照射し、このようにして筒状容器1の開口1Aおよび開口部分を除く内表面に対して電子ビームを照射する。次いで、この電子ビーム内表面照射工程に連続する、電子ビーム開口部照射工程において、筒状容器1を、当該筒状容器1の開口1Aから電子ビーム照射ノズル部35を引き抜くよう下方に移動するという簡単な操作により、開口1Aおよび開口部分に対して電子ビーム出射窓23との離間距離を筒状容器1に関する線量分布に基づいて調整することによって照射線量を制御した状態で電子ビームを照射することができる。
従って、電子ビーム照射装置10によれば、筒状容器1に対して電子ビームの照射を、その開口1Aおよび開口部分に過剰に照射することなく、確実かつ容易に行うことができることから、当該筒状容器1に対して確実に滅菌処理を施すことができると共に、筒状容器1自体が電子ビームが照射されることによって部分的に劣化することを防止することができる。
【0031】
また、電子ビーム照射装置10においては、電子ビーム管30の電子ビーム出射窓23が露出された状態となるよう形成されたガス流路が設けられていることから、電子ビーム内表面照射工程および電子ビーム開口部照射工程のいずれの工程においても、このガス流路に不活性ガスを流動させた状態において充填させ、これにより、電子ビーム出射窓23および当該電子ビーム出射窓23から放射される電子ビームが大気に曝されることを抑制することができる。また、電子ビーム出射窓23から放射される電子ビームが通過する空間、具体的には、電子ビーム管ホルダ30の電子ビーム通過空間31Bおよび電子ビーム照射ノズル部35の内部空間における酸素分圧を低下させることができるため、電子ビーム出射窓23からの電子ビームの放射によってオゾンが発生することを防止することができる。従って、電子ビーム出射窓23がオゾンの発生に起因して酸化することを防止することができる。
更に、電子ビーム照射装置10においては、ガス流路が、電子ビーム管20の収容されているケーシング12の電子ビーム管収容空間13内を流動するよう形成されてなるものであることから、電子ビーム管20に、例えば60kVもの高い加速電圧が印加される場合においても、冷却ガスによる冷却作用によって電子ビーム管20が高温になることに起因してケーシング12が劣化することを抑制することができ、かつ冷却ガスが電子ビーム管20の外表面に沿うよう流動されることによって当該電子ビーム管20の外表面に発生した静電気が除去されることから、不要なアーク放電の発生を防止することができる。
【0032】
また、電子ビーム照射装置10においては、電子ビーム管ホルダ30に位置決めストッパ部33が設けられていることにより、電子ビーム内表面照射工程においては、筒状容器1の開口1Aを位置決めストッパ部33に当接させることによって当該筒状容器1を確実に所望の電子ビーム照射位置に配置することができるため、筒状容器1の内表面に対して必要とされる線量の電子ビームを確実に照射することが容易にできる。その上、電子ビーム内表面照射工程および電子ビーム開口部照射工程において、筒状容器1に電子ビームを照射している最中に、当該筒状容器1が電子ビーム管20に向かう方向に移動しても位置決めストッパ部33に阻まれて電子ビーム出射窓23に接触することがないため、筒状容器1が電子ビームの照射時に電子ビーム出射窓23に接触することに起因して当該電子ビーム出射窓23が破損することを防止することができる。
【0033】
このような電子ビーム照射装置10は、例えば医薬品、化粧水などの人体に適用する物質を容器に充填するための作業ライン上において、当該容器に必要とされる滅菌処理を行うためのものとして好適であり、例えば、電子ビーム照射装置10により滅菌処理が施された容器を、当該電子ビーム照射装置10に係る滅菌処理工程から、例えばベルトコンベアなどによって次工程である充填工程に搬送することにより、滅菌処理を容易にインラインで行うことができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、電子ビーム照射装置は、電子ビーム管に、例えば60kVもの高い加速電圧が印加されるような場合には、冷却ガスが電子ビーム管収容空間内に流動されるよう形成されたガス流路が設けられてなるものであることが好ましいが、電子ビーム管に印加される加速電圧が比較的高くない場合には、図4に示すように、ガス流路が、ケーシング41に形成された領域を有さずに、ガス供給手段が電子ビーム管ホルダ45に形成されたガス流路用溝49に直接的に接続されるよう形成されてなる構成のものであってもよい。図4に示されているケーシング41は、ガス流路用溝14A、14Bが設けられていないこと以外は、図1の電子ビーム照射装置10に係るケーシング12と同様の構成を有するものであり、また電子ビーム管ホルダ45は、位置決め固定部31、ガス抜き孔36の形成された位置決めストッパ部33および電子ビーム照射ノズル部35を有するものであり、ガス流路用溝37Aに代えてガス流路用溝49が設けられていること以外は図1の電子ビーム照射装置10に係る電子ビーム管ホルダ30と同様の構成を有するものである。
また、電子ビーム照射ノズルは、電子ビーム管ホルダに一体的に設けられているものである必要はなく、例えば図5に示すように、ガス流路用溝59が形成されてなるリング状の電子ビーム管ホルダ51の下方(図5において下方)に設けられるものであって、位置決めストッパと一体的に設けられてなる構成のものであってもよい。図5において、55は、ガス抜き孔58が形成された円板状の位置決めストッパ部56と、この位置決めストッパ部56に連続し、電子ビーム管20の電子ビーム出射窓23から放射される電子ビームの放射方向に伸びるよう突出する円筒状の形態を有する電子ビーム照射ノズル部57とを有する電子ビーム照射ノズル構造体である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の電子ビーム照射装置の構成の一例を示す説明用概略図である。
【図2】図1の電子ビーム照射装置の要部を、電子ビーム照射対象体に電子ビームを照射している一状態で示す説明用部分拡大図である。
【図3】電子ビーム照射対象体に電子ビームを照射している他の状態を示す説明用部分拡大図である。
【図4】本発明の電子ビーム照射装置の構成の他の例における要部を示す説明用部分拡大図である。
【図5】本発明の電子ビーム照射装置の構成の更に他の例における要部を示す説明用部分拡大図である。
【図6】従来の電子ビーム照射装置の構成の一例を示す説明用概略図である。
【図7】従来の電子ビーム照射装置を用いて容器に電子ビームを照射する際に用いられる遮蔽構造体の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 容器
1A 開口
10 電子ビーム照射装置
12 ケーシング
12A 一面
12B 開口
13 電子ビーム管収容空間
14A、14B ガス流路用溝
16 高圧トランス
17 給電線
18 コネクタ
19 制御ユニット
20 電子ビーム管
21 バルブ
21A 開口
22 蓋部
22A 電子ビーム出射孔
23 電子ビーム出射窓
24 電子ビーム発生器
26 給電端子
27 ベース
30 電子ビーム管ホルダ
31 位置決め固定部
31A 電子ビーム管組込み空間
31B 電子ビーム通過空間
33 位置決めストッパ部
35 電子ビーム照射ノズル部
36 ガス抜き孔
37A ガス流路用溝
41 ケーシング
45 電子ビーム管ホルダ
49 ガス流路用溝
51 電子ビーム管ホルダ
55 電子ビーム照射ノズル構造体
56 位置決めストッパ部
57 電子ビーム照射ノズル部
58 ガス抜き孔
59 ガス流路用溝
62 ケーシング
62A 一面
62B 開口
63 電子ビーム管収容空間
68 ガス流路
70 容器
71 遮蔽構造体
71A 飲み口用遮蔽部
71B 側面用遮蔽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空状態が形成された内部に電子ビーム発生器が配設されてなり、当該電子ビーム発生器において発生した電子ビームを放射するための電子ビーム出射窓を有する電子ビーム管と、当該電子ビーム管を収容するための電子ビーム管収容空間を有するケーシングとを備えた電子ビーム照射装置であって、
前記電子ビーム管の電子ビーム出射窓から放射される電子ビームの放射方向に伸び、電子ビーム出射窓から放射される電子ビームを導通するための電子ビーム照射ノズルが設けられていることを特徴とする電子ビーム照射装置。
【請求項2】
電子ビーム管の電子ビーム出射窓が露出された状態となるよう形成されたガス流路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム照射装置。
【請求項3】
ガス流路が、ケーシングに形成された、電子ビーム管を冷却するための冷却ガスを流動させるための領域を有し、当該冷却ガスが不活性ガスであることを特徴とする請求項2に記載の電子ビーム照射装置。
【請求項4】
電子ビーム照射対象体が電子ビーム管に向かう方向に移動することを規制するための位置決めストッパが設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【請求項5】
電子ビーム管をケーシングにおける電子ビーム管収容空間内に固設するための電子ビーム管ホルダが設けられており、当該電子ビーム管ホルダに電子ビーム照射ノズルが設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【請求項6】
電子ビーム照射ノズルが筒状の電子ビーム照射対象体の開口から挿入され、その状態において当該電子ビーム照射対象体に対して電子ビームが照射されることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−145291(P2008−145291A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333321(P2006−333321)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】