説明

電子写真機器用無端ベルト

【課題】、基層の表面に、多量の無機フィラーを含む弾性層が設けられてなるベルトであって、ベルト表面(弾性層表面)の柔軟性及び耐摩耗性に優れた電子写真機器用無端ベルトを提供すること。
【解決手段】基層の表面に、ゴム材料及び無機フィラーが配合されてなるゴム組成物を用いて、弾性層が設けられてなる電子写真機器用無端ベルトにして、前記弾性層における全有機成分の質量分率が40〜75%であると共に、該弾性層の押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pを6000〜50000の範囲内とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用無端ベルトに係り、特に、フルカラーLBP(レーザービームプリンタ)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を利用した電子写真機器において、中間転写ベルト等として好適に用いられ得る電子写真機器用無端ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を利用した電子写真機器においては、導電性を有する無端ベルト(シームレスベルト)が様々な用途に用いられている。例えば、感光体(感光ドラム)上に形成されたトナー像を、ベルト表面に一次転写し、その後、ベルト表面のトナー像を被印刷物(紙)に二次転写するという役割を果たす電子写真機器用無端ベルト(以下、単にベルトともいう)として、中間転写ベルトが広く知られている。
【0003】
また、昨今、電子写真機器に対して、印刷速度の高速化や機器の高寿命化が要求されているところ、その構成部材である電子写真機器用無端ベルトとしても、機器の高速運転に耐えることが出来、且つ高寿命のものが求められている。このため、剛性に優れた合成樹脂からなるベルト(樹脂ベルト)が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、そのような樹脂ベルトを中間転写ベルトとして採用する電子写真機器にあっては、例えば凹凸紙や厚紙、粗悪紙等を印刷する場合、充分な転写効率を確保して印刷の画質を維持することを目的として、紙質に応じて機器の給紙速度を変化させるシステムが採用されている。このようなシステムの採用によって、印刷画質の維持は図られ得るものの、電子写真機器の等速性能を欠くという問題が内在していたのであり、かかる問題を解決すべく、合成樹脂製の基層の表面に、ゴム材料からなる弾性層が表層として設けられてなる導電性ベルトや無端管状フィルム等が、種々、提案されている(特許文献2参照)。また、近年、そのようなゴム材料からなる弾性層を有する導電性ベルト等(電子写真機器用無端ベルト)にあっては、多くの場合、加工性や難燃性を確保し、更には製造コストの低減等を目的として、無機充填剤(無機フィラー)等の各種添加剤が配合されている。
【0005】
しかしながら、無機フィラーを始めとする各種添加剤が配合された弾性層を有する電子写真機器用無端ベルトにあっては、弾性層中の各種添加剤(特に無機フィラー)の配合量が多過ぎると、弾性層が所望の物性(特に柔軟性)を発揮しない恐れがある。具体的には、多量の無機フィラーが配合されてなる弾性層を有する電子写真機器用無端ベルトにあっては、弾性層の柔軟性が乏しいことに起因して、充分なトナー転写性が発揮されない恐れがあり、また、そのようなベルトを電子写真機器において中間転写ベルトとして採用し、長期間に亘って使用すると、ベルト表面(弾性層表面)と被印刷物(紙)やクリーニング部材との摩擦によって、ベルト表面(弾性層表面)が削れる恐れがあるという問題を、内在している。
【0006】
このような状況の下、表面の柔軟性や耐摩耗性に優れた電子写真機器用無端ベルトとして、従来より様々なものが提案されている(特許文献3〜5参照)。しかしながら、それら特許文献にて提案されたものを始めとする従来の電子写真機器用無端ベルトについて、本発明者等が詳細に検討したところ、特に、基層の表面に、多量の無機フィラーを含む弾性層が設けられてなるベルトにあっては、ベルト表面(弾性層表面)が充分な耐摩耗性を有するものとは言い難いものであることが判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−152013号公報
【特許文献2】特開2007−240939号公報
【特許文献3】特開2005−25052号公報
【特許文献4】特開2001−347593号公報
【特許文献5】特許3969080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、基層の表面に、多量の無機フィラーを含む弾性層が設けられてなるベルトであって、ベルト表面(弾性層表面)の柔軟性及び耐摩耗性に優れた電子写真機器用無端ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、そのような課題を有利に解決するために、基層の表面に、ゴム材料及び無機フィラーが配合されてなるゴム組成物を用いて、弾性層が設けられてなる電子写真機器用無端ベルトにして、前記弾性層における全有機成分の質量分率が40〜75%であると共に、該弾性層の押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pが6000〜50000の範囲内にあることを特徴とする電子写真機器用無端ベルトを、その要旨とするものである。
【0010】
なお、そのような本発明に従う電子写真機器用無端ベルトにおける好ましい第一の態様においては、前記押し込みヤング率が4〜150MPaである。
【0011】
また、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトにおける好ましい第二の態様においては、前記破断歪みが40〜1500%である。
【0012】
さらに、本発明の電子写真機器用無端ベルトにおける好ましい第三の態様においては、前記ゴム材料がNBR、BR、SBR、IIR又はCRである。
【0013】
加えて、本発明における好ましい第四の態様においては、前記ゴム組成物に樹脂架橋剤が含まれている。
【0014】
また、本発明の好ましい第五の態様においては、前記無機フィラーが少なくとも無機系難燃剤を含むものである。
【0015】
更にまた、本発明の好ましい第六の態様においては、前記弾性層がディスペンサーコーティング法に従って形成されている。
【0016】
そして、本発明の好ましい第七の態様においては、前記基層がポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂にて形成されているのである。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従う電子写真機器用無端ベルトは、基層の表面に、ゴム材料及び無機フィラーが配合されてなるゴム組成物を用いて、弾性層が設けられてなるベルトであって、特に、1)弾性層における全有機成分の質量分率が40〜75%であり、且つ、2)弾性層の押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pが所定の範囲内(6000〜50000)にあるものである。このような構成を採用したことにより、本発明の電子写真機器用無端ベルトにあっては、弾性層に無機フィラーを配合することによる種々の効果、具体的には、加工性や難燃性の向上、コストの低下等を有利に享受すると共に、ベルト表面(弾性層表面)が優れた柔軟性及び耐摩耗性を発揮し、中間転写ベルトとして長期間に亘って使用した場合にも、ベルト表面(弾性層表面)における被印刷物(紙)のエッジ部(端部)に対応する部分の摩耗(削れ)が効果的に抑制され、以て、従来のものと比べて寿命の長いベルトとなっているのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの一例を示す部分断面説明図である。
【図3】中間転写ベルトを採用する電子写真機器における転写機構の一例を、部分的に且つ模式的に示す説明図である。
【図4】本発明に従う電子写真機器用無端ベルトを製造する際のディスペンサコーティング法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を適宜、参照しつつ、本発明を更に具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの一例を、ベルトの軸方向に平行で且つ軸中心を含む面にて切断した断面説明図であり、図2は、ベルトの軸方向に直交する面(図1におけるA−A面)にて切断した断面の部分説明図である。それら図1及び図2から明らかなように、本発明の電子写真機器用無端ベルト2は、基層4の表面に弾性層6が設けられてなる2層構造を呈するものである。
【0021】
先ず、基層4は、ゴム材料や合成樹脂材料を主成分とする基層用材料を用いて、従来より公知の各種手法に従って形成されている。基層用材料の主成分たるゴム材料及び合成樹脂材料としては、電子写真機器用無端ベルト作製の際に従来より用いられているものであれば、如何なるものであっても使用可能であるが、ベルト2の耐久性の観点から、合成樹脂材料が有利に用いられる。合成樹脂材料としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂等を例示することが出来、これらを単独で若しくは二種以上のものを併せて用いることが可能である。本発明においては、優れた剛性等を発揮するポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂が特に有利に用いられる。
【0022】
また、基層用材料には、必要に応じて、上述の如きゴム材料及び/又は合成樹脂材料と共に、導電剤や難燃剤、炭酸カルシウム等の充填剤、レベリング剤等の添加剤が、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、適宜、配合される。
【0023】
基層用材料に配合される導電剤は、特に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラックやグラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末やステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO)、導電性酸化チタン(c−TiO2 )、導電性酸化鉄(c−Fe34)や導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコールや脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン導電剤を、用いることが可能である。また、基層用材料に配合される難燃剤としては、後述する無機系難燃剤や有機系難燃剤等を例示することが出来る。
【0024】
上述した合成樹脂材料等を配合してなる基層用材料の調製は、ベルト2の製造方法に応じて行なわれる。例えば、後述するディスペンサコーティング法に従って基層4を形成せしめる場合には、上述した合成樹脂材料等を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエンやアセトン等の有機溶媒に添加し、混合することによって、液状の基層用材料が調製される。尚、かかる液状の基層用材料を用いて、ディスペンサコーティング法(図4参照)に従って基層4を形成せしめる場合には、通常、材料の粘度が50〜50000mPa・sとなるように、調製される。
【0025】
また、かかる基層用材料を用いて形成される基層4の厚さは、電子写真機器用無端ベルト2に要求される特性等に応じて適宜に決定されるが、通常、50〜200μm程度とされる。
【0026】
そして、図1及び図2に示す如き本発明に係る電子写真機器用無端ベルト2は、上述した基層4の表面に、ゴム材料及び無機フィラーが配合されてなるゴム組成物を用いて、全有機成分の質量分率が40〜75%であり、且つ、押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pが6000〜50000の範囲内である弾性層6が設けられているところに、大きな特徴が存するのである。
【0027】
以下、押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pを所定の範囲内とすることにより、本発明の目的が有利に達成され得ることについて詳述する。図3は、中間転写ベルトを採用する電子写真機器における、中間転写ベルト上に形成されたトナー像を被印刷物(紙)へ転写する機構(転写機構)の一例を、部分的に且つ模式的に示す説明図である。そこにおいて、中間転写ベルト8は、図示しない駆動手段によって所定の速度(ベルト周速:A)にて循環駆動せしめられるようになっており、一方、被印刷物たる紙10は、図示しない搬送手段によって所定の速度(搬送速度:B)にて搬送されるようになっている。また、中間転写ベルト8及び紙10が部分的に当接し、且つその当接部位において中間転写ベルト8が紙10に対して押圧せしめられるように、中間転写ベルト8及び紙10を挟み込むように転写ロール12及びバックアップロール14が配置されている。そして、中間転写ベルト8上に形成されたトナー像が速度(ベルト周速):Aにて移動すると共に、紙10が搬送速度:Bにて搬送され、中間転写ベルト8と紙10との当接部位において、中間転写ベルト8上に形成されたトナー像は紙10上に転写されるのである。
【0028】
図3に示す如き転写機構においては、紙10に対してトナー像を効果的に転写するために、一般に紙10の搬送速度:Bの方がベルト周速:Aより速く設定されている(B>A)ため、中間転写ベルト8における紙10との当接部位においては、かかるベルト8の厚さ方向(図3の上下方向)にバックアップロール14(及び紙10を介して転写ロール12)から押圧力が加えられると共に、紙10の搬送速度:Bの方がベルト周速:Aより速いことに起因して、ベルト8の周方向に引張力が加わることとなる。本発明者等は、転写の際に中間転写ベルト8がその厚さ方向及び周方向に負荷を受けることに着目して、鋭意検討を進めたところ、基層の表面に弾性層が設けられてなる2層構造の電子写真機器用無端ベルトであって、弾性層の全有機成分の質量分率が40〜75%であるもののうち、特に弾性層の押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pが所定の範囲内(6000〜50000)であるベルトについては、ベルト表面(弾性層表面)が優れた柔軟性及び耐摩耗性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0029】
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、弾性層における全有機成分とは、弾性層(6)を構成する架橋ゴムについて、JIS−K−6226−1:2003又はJIS−K−6226−2:2003に準じて測定されたものを意味する。本発明において、弾性層(6)の全有機成分が40%未満であると、無機フィラーの配合効果(加工性や難燃性の向上、低コスト化等)を効果的に享受し得ない恐れがある。その一方、弾性層(6)の全有機成分が75%を超えると、(I)全有機成分中において架橋剤が占める割合が多い場合には、弾性層(6)が硬くなり過ぎて、用紙対応性が悪化する恐れがあり、(II)全有機成分中において軟化剤が占める割合が多い場合には、弾性層(6)が軟化し過ぎて、層として形成され得ない恐れがある。
【0030】
また、本発明において、弾性層の押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pが6000より小さくなると、ベルト表面(弾性層表面)における被印刷物(紙)のエッジ部(端部)に対応する部分が、長期に亘る通紙によって摩耗し、ベルト表面が削れるという問題が発生する恐れがある。その一方、積:Pが50000より大きくなると、ベルトとして作製することが困難となる恐れがある。
【0031】
さらに、弾性層(6)の押し込みヤング率:αと破断歪み:βとの積:Pが6000〜50000であれば、本発明の目的を達成することが可能であるが、押し込みヤング率:αが小さ過ぎると、弾性層(6)が軟らかくなり過ぎ、タック性が増して、クリーニング性悪化による画像不具合が発生する恐れがあり、一方、大き過ぎると、弾性層(6)が硬くなり過ぎ、用紙対応性が悪化する。また、破断歪み:βが小さ過ぎると、弾性層(6)が脆くなり、クラックが発生し易くなって寿命の問題が発生する恐れがあり、一方、大き過ぎると、弾性層(6)が軟らかくなり過ぎ、タック性が増して、クリーニング性悪化による画像不具合が発生する恐れがある。従って、本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの弾性層(6)において、その押し込みヤング率:αは好ましくは4〜150MPaであり、破断歪み:βは好ましくは40〜1500%である。
【0032】
なお、弾性層(6)の押し込みヤング率:αは、弾性層を構成するゴム組成物を用いて試料(厚さ:200μm)を作製し、この試料についてISO 14577−1「金属材料−硬さのためのインデンテーション試験テストと材料パラメーター Part1:試験方法」に規定されている押込み試験を行ない、その結果を用いて同付属書Aの「A.5押込み弾性率EIT」に準拠して算出されたものである。また、弾性層(6)の破断歪み:βは、弾性層を構成するゴム組成物を用いて試料(厚さ:200μm)を作製し、この試料についてJIS−K−6251に準じて引張試験を行ない、測定されたものである。
【0033】
上述の如き弾性層6を基層4の表面に形成せしめるに際しては、ゴム材料及び無機フィラー、更には必要に応じて各種添加剤が配合されてなるゴム組成物が調製される。
【0034】
先ず、ゴム材料としては、従来より公知の各種ゴム材料の中から、最終的に目的とする電子写真機器用無端ベルトに応じたものを適宜、選択して、使用することが可能である。それらの中でも、特に、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)又はクロロプレンゴム(CR)が、有利に用いられ得る。なお、これら各種ゴム材料は、単独で用い得ることは勿論のこと、2種以上を併用することも可能である。
【0035】
また、そのようなゴム材料に配合される無機フィラーとしては、従来より物性改善や容積増加等を目的としてゴム材料や樹脂材料に配合される無機粉末であって、本発明の目的を阻害しないものであれば、如何なるものであっても配合することが可能である。本発明において用いられ得る無機フィラーとしては、シリカ(酸化ケイ素)、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、各種セラミックス、ガラスビーズ、マイカ(雲母)等の他、無機系難燃剤、具体的には、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系難燃剤等を、例示することが出来る。本発明においては、無機フィラーとして、少なくとも無機系難燃剤を含むもの、具体的には無機系難燃剤を用いること、若しくは無機系難燃剤と上述したシリカ等とを併用することが好ましい。
【0036】
本発明のゴム組成物には、上述したゴム材料及び無機フィラーに加えて、従来より電子写真機器用無端ベルトの弾性層を作製する際に用いられる各種添加剤、具体的には、架橋剤や導電剤等を、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、配合することが可能である。
【0037】
本発明のゴム組成物に配合される架橋剤としては、亜鉛華(酸化亜鉛)や酸化マグネシウム等の金属酸化物、各種硫黄類、樹脂架橋剤等を用いることが可能である。硫黄類としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等の硫黄や、一塩化硫黄、二塩化硫黄等のハロゲン化硫黄等を、例示することが出来る。また、樹脂架橋剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレア樹脂等を、例示することが出来る。それら従来より公知の架橋剤の中でも、本発明においては、特に樹脂架橋剤が有利に用いられる。その理由としては、架橋速度の制御が容易であり、また、ゴム組成物の経時安定性が向上するからである。
【0038】
なお、樹脂架橋剤として用いられるフェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂やレゾール型キシレン樹脂等を、例示することが出来る。
【0039】
また、樹脂架橋剤として用いられるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型グリシジルエーテル系、ビスフェノール型グリシジルエーテル系、ノボラック型グリシジルエーテル系、ポリエチレングリコール型グリシジルエーテル系、ポリプロピレングリコール型グリシジルエーテル系、グリセリン型グリシジルエーテル系、芳香族型グリシジルエーテル系、芳香族型グリシジルアミン系、フェノール型グリシジルアミン系、ハイドロフタル酸型グリシジルエステル系、及びダイマー酸型グリシジルエステル系等の各種エポキシ樹脂を、挙げることが出来る。
【0040】
さらに、アミン樹脂とは、尿素(ユリア)、メラミン、ベンゾグアナミン、アニリン等のアミノ基を有する化合物に、ホルムアルデヒドを付加縮合せしめて得られる熱硬化性樹脂の総称である。本発明において、樹脂架橋剤として用いられるアミン樹脂としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、メチロールメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アニリン樹脂、アセトグアナミン樹脂、ホルムグアナミン樹脂やメチロールグアナミン樹脂等を、例示することが出来る。
【0041】
また、樹脂架橋剤として用いられるイソシアネート樹脂としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等や、これらイソシアネートのビュレットタイプ、イソシアヌレートタイプ、トリメチロールプロパン変性タイプ及びこれらのブロックタイプ等を、例示することが出来る。
【0042】
一方、電子写真機器用無端ベルト2に導電性を付与せしめるべく、弾性層を形成するためのゴム組成物には、一般に、導電剤が配合される。かかる導電剤としては、従来より広く用いられているカーボンブラックや金属酸化物のみならず、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコールや脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン導電剤等を挙げることが出来、特に、イオン導電剤が有利に用いられる。
【0043】
また、昨今、電子写真機器用無端ベルトに対しても難燃性が要求されていることから、ゴム組成物に有機系難燃剤を配合することが好ましい。本発明において用いられる有機系難燃剤としては、例えば、a)デカブロモジフェニルエーテル、b)テトラブロモビスフェノール−A及びその誘導体、c)ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の多ベンゼン環化合物、d)臭素化ポリスチレン及びポリ臭素化スチレン等の臭素系難燃剤や、e)芳香族リン酸エステル類、f)芳香族縮合リン酸エステル類、g)含ハロゲンリン酸エステル類、h)含ハロゲン縮合リン酸エステル類、i)フォスファゼン誘導体等のリン系難燃剤等を、挙げることが出来る。これらの有機系難燃剤は、単独で使用し得ることは勿論、二種以上を併用することも可能であり、更には、前述した無機フィラーたる無機系難燃剤と併用することも可能である。
【0044】
その他にも、本発明の範囲内において、レベリング剤や架橋促進剤等の添加剤を弾性層用材料に配合することも可能である。
【0045】
本発明において用いられるレベリング剤としては、シリコン系レベリング剤やアクリル系レベリング剤等を挙げることが出来る。具体的に、シリコン系レベリング剤としては、ポリジメチルシロキサンを代表とする有機変性ポリシロキサンがあり、その有機変性としては、ポリエーテル変性、ポリエステル変性、ベンゼン環を有するアラルキル変性等を例示することが出来る。また、アクリル系レベリング剤としては、ポリアクリレートを基本骨格として、変性部位にアルキルやパーフルオロアルキル、ポリエステル、ポリエーテルを導入したものを例示することが出来る。
【0046】
また、本発明において用いられる架橋促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系架橋促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系架橋促進剤;チオカルボアニリド、ジオルトトリルチオウレア、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア等のチオウレア系架橋促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩、2−メルカプトベンゾチアゾールシクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール系架橋促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系架橋促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸セレン、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸鉄、ジエチルジチオカルバミン酸ジエチルアミン、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、メチルペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペコリン等のジチオカルバミン酸系架橋促進剤;イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛等のキサントゲン酸系架橋促進剤等を、例示することが出来る。
【0047】
上述したゴム組成物の調製は、ベルト2の製造方法に応じて適宜に行なわれる。例えば、後述するディスペンサコーティング法に従って弾性層6を形成せしめる場合には、上述したゴム材料等を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエンやアセトン等の有機溶媒に添加し、混合することによって、液状のゴム組成物が調製される。尚、かかる液状のゴム組成物を用いて、ディスペンサコーティング法に従って弾性層6を形成せしめる場合には、通常、材料の粘度が50〜50000mPa・sとなるように、調製される。
【0048】
ところで、本発明の電子写真機器用無端ベルト2を構成する基層4及び弾性層6は、各々、従来より公知の各種手法に従って作製することが可能であるが、本発明においては、以下に述べるディスペンサコーティング法に従って、基層4及び弾性層6を作製することが好ましい。以下、ディスペンサコーティング法に従って、本発明の電子写真機器用無端ベルト2を製造する場合について詳述する。
【0049】
先ず、軸中心に回転可能な円筒状乃至は円柱状の基体と、二つのノズル(第1ノズル、第2ノズル)と、二つの材料タンク(第1材料タンク、第2材料タンク)とを有するディスペンサを準備する。二つのノズル(第1ノズル、第2ノズル)は、基体の外周面と近接する位置で、基体の軸方向に沿って移動可能に配置される。その一方、液状の基層用材料及び液状のゴム組成物(弾性層用材料)を調製し、基層用材料を第1材料タンクに、ゴム組成物を第2材料タンクに、各々、収容する。なお、基体の外径は、最終的に得られる電子写真機器用無端ベルト2の仕様に応じて決定され、通常、30〜1000mmである。また、ノズル径は0.5〜2.0mmであるノズルが、一般的に用いられる。
【0050】
次いで、図4に示すように、円筒状の基体16を垂直にした状態で、軸中心に回転させる。かかる基体16を回転させた状態で、基層用材料18が収容された第1材料タンク20から、内蔵する基層用材料18を第1ノズル22に送り、かかる第1ノズル22から、基体16の外周面に対して基層用材料18を吐出させる。この基層用材料18の吐出と同時に、第1ノズル22を、基体16の軸方向に沿って一定速度で移動させる。これによって、基体16の外周面には、基層用材料18からなる一定幅の帯(塗膜)が、らせん状に形成されるのであり、第1ノズル22を基体16の一方の端部側から他方の端部側へ移動せしめることによって、基体16の外周面には、基層用材料18のらせん状塗膜の連続からなる全体塗膜が形成されるのである。基層用材料18のらせん状塗膜は、通常、上側の帯と下側の帯との間に所定の間隔が生ずるように、基体16の外周面上に形成される。
【0051】
そのようにして基体16の外周面上に形成された、基層用材料18からなる全体塗膜に対して、所定条件にて加熱処理を施し、溶媒を除去することにより、先ず、基層4が形成される。
【0052】
その後、外周面上に基層4が形成された基体16を、先程と同様に(図4に示すように)、軸中心に回転させる。基体16を軸中心に回転させた状態で、液状のゴム組成物が収容された第2材料タンクから、内蔵するゴム組成物を、基体16の外周面(形成された基層4の表面)に近接する第2ノズルに送り、かかる第2ノズルから、基体16の外周面上の基層4に対して、弾性層用材料を吐出させる。このゴム組成物の吐出と同時に、第2ノズルを、基体16の軸方向に沿って一定速度で移動させる。これによって、基体16の外周面に形成された基層4の表面に、液状のゴム組成物からなる一定幅の帯(塗膜)が、らせん状に形成されるのであり、第2ノズルを基体16の一方の端部側から他方の端部側へ移動せしめることによって、基体16の外周面上の基層4には、その表面に、ゴム組成物のらせん状塗膜の連続からなる全体塗膜が形成されるのである。尚、本発明において、弾性層6が薄すぎると、弾性層を設けることによる効果(ベルト表面の柔軟性の確保)を有利に享受し得ない恐れがあり、その一方で、弾性層が厚すぎると、加熱処理に時間がかかるため実用的ではない。このため、本発明においては、厚さが50〜1000μmの弾性層が得られるように、ゴム組成物からなる全体塗膜が形成される。
【0053】
そして、得られた全体塗膜に対して、ゴム組成物を構成するゴム材料及び架橋剤に応じた架橋処理(加熱処理等)を施すことによって、基層4の表面に弾性層6が設けられてなる電子写真機器用無端ベルト2が得られるのである。
【0054】
なお、上述の如きディスペンサコーティング法に従って、基層4及び弾性層6を作製する際の各種条件、具体的には、基体16の回転速度、ノズルの移動速度及び各材料の吐出量等は、使用する基層用材料及び弾性層用材料に応じた条件が適宜に選択されて、採用される。
【0055】
また、上述してきた手法においては、円筒状の基体16に代えて、中実の円柱状基体を用いることも可能であるが、回転部の負担を軽く出来るという観点から、円筒状基体が有利に用いられる。具体的には、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属製のドラム等が、好適に用いられ得る。
【0056】
さらに、液状材料(基層用材料、弾性層用材料)を吐出するためのノズルとしては、ニードルノズル等が用いられ、その吐出部形状は、丸形状、平形形状、矩形状等のものを用いることが出来る。
【0057】
そして、以上の如くして得られた電子写真機器用無端ベルト2にあっては、弾性層に無機フィラーが配合されていることによる種々の効果(加工性や難燃性の向上、コストの低下等)を有利に享受しつつ、ベルト表面(弾性層表面)が優れた柔軟性及び耐摩耗性を発揮し、中間転写ベルトとして長期間に亘って使用した場合にも、ベルト表面(弾性層表面)における被印刷物(紙)のエッジ部(端部)に対応する部分の摩耗(削れ)が効果的に抑制され得るものとなっているのである。
【0058】
以上、本発明の代表的な一実施形態を詳述してきたが、本発明の電子写真機器用無端ベルトが上述した態様に限定されないことは、言うまでもないところである。
【0059】
例えば、中間転写ベルトとして用いた際により優れた耐トナー付着性を発揮させることを目的として、上述の如くして得られた基層4及び弾性層6からなる2層構造のベルトの表面(弾性層6の表面)に、所定の表面処理を施すことも可能である。尚、かかる表面処理としては、塩素化合物を用いた塩素処理、フッ素化合物及び塩素化合物を用いたフッ素・塩素処理、イソシアネートを用いたイソシアネート処理、更には、UV照射によるUV処理等を例示することが出来、これら表面処理は、従来より公知の手法に従って実施することが可能である。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0061】
−基層用材料の調製−
先ず、ポリイミド樹脂(PI)として新日本理化株式会社製のリカコートEN-20 (商品名)を、また、ポリアミドイミド樹脂(PAI)として東洋紡績株式会社製のバイロマックスHR-16NN (商品名)を準備し、これらのうちの何れか一方の樹脂:100重量部と、カーボンブラック:10重量部とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP):800重量部に配合して、混合することにより、2種類の液状基層用材料を調製した。尚、下記表において、「基層」の欄にPI又はPAIと示されているが、これは、各々の実施例又は比較例で用いた基層用材料に含まれる樹脂を示すものである。
【0062】
−ゴム組成物(弾性層用材料)の調製−
下記表1及び2に示す各成分を、所定量のシクロヘキサノン中に、それぞれ下記表に示す各割合にて配合し、混合することにより、液状のゴム組成物(弾性層用材料)を複数種、調製した。なお、かかる調製に際して使用した各成分は、以下の通りである。
・アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)
:ニポール DN101(商品名)、日本ゼオン株式会社製
・ブタジエンゴム(BR):ニポール BR1220 (商品名)、日本ゼオン株式会社製
・スチレンブタジエンゴム(SBR):タフデン 1000 (商品名)、旭化成株式会社製
・ブチルゴム(IIR):JSR BUTYL 365 (商品名)、JSR株式会社製
・クロロプレンゴム(CR)
:デンカクロロプレン DCR-75 (商品名)、電気化学工業株式会社製
・架橋剤I(フェノール樹脂架橋剤)
:スミライトレジン PR-11078 (商品名)、住友ベークライト株式会社製
・架橋剤II(エポキシ樹脂架橋剤)
:デナコール EX-622 (商品名)、ナガセケムテックス株式会社製
・架橋剤III (メラミン樹脂架橋剤)
:スーパーベッカミン J-820-60 (商品名)、DIC株式会社製
・架橋剤IV(イソシアネート樹脂架橋剤)
:デュラネート E402-B80T(商品名)、旭化成ケミカルズ株式会社製
・無機系難燃剤A:APYRAL(商品名)、ナバルテック社(独国)製
・無機系難燃剤B:Magnifin (商品名)、アルベマール日本株式会社製
・有機系難燃剤
:フォスファゼン誘導体、ラビトル FP-110 (商品名)、株式会社伏見製薬所製
・イオン導電剤:4級アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルファート、TBAHS )、和光純薬工業株式会社製
【0063】
−ベルトの作製−
基体として、アルミニウム製の円筒状金型を準備する一方、2つのノズルを有するディスペンサ(液体定量吐出装置)を準備した。かかるディスペンサのノズルは、内径φ:1mmのニードルノズルである。次いで、先に準備した液状の基層用材料及びゴム組成物を、それぞれ別のエアー加圧タンクに収容し、金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmとして、金型及びノズルをセットした。金型を垂直にした状態で、回転数:200rpmで軸中心に回転させながら、基層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度にて軸方向下方に移動させると共に、エアー加圧タンクに0.4MPaの圧力をかけて基層用材料をノズルに圧送し、かかるノズルから基層用材料を吐出せしめて、金型の外周面上にらせん状にコーティングし、らせん状塗膜の連続からなる全体塗膜を形成した(図4参照)。なお、形成された全体塗膜の厚さは80μmであった。形成された全体塗膜に対して、加熱処理(常温→250℃:2時間、250℃:1時間)を施すことにより、金型の外周面上に基層を形成せしめた。
【0064】
次いで、かかる基層が形成された金型を、回転数:200rpmで軸中心に回転させながら、液状のゴム組成物を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度にて軸方向に沿って移動させると共に、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけてゴム組成物をノズルに圧送し、かかるノズルからゴム組成物を吐出せしめて、金型の外周面上にある基層の表面にらせん状にコーティングし、らせん状塗膜の連続からなる全体塗膜を形成した。なお、形成された全体塗膜の厚さは200μmであった。形成された塗膜に対して、加熱処理(常温→170℃:3時間、170℃:0.5時間)を施すことにより、金型の外周面上に、基層表面に弾性層が設けられてなるベルトを作製した。尚、比較例6については、基層と弾性層とが一体となったベルトとしては得ることが出来なかった。
【0065】
−弾性層の表面処理−
実施例1〜4、同6〜15、比較例1〜5に係るベルトに対しては、以下の手法に従って弾性層の表面処理を行なった。先ず、酢酸エチルとターシャリーブチルアルコール(TBA)との混合溶媒[酢酸エチル:TBA=9:1(重量比)]に、各成分を下に示す各割合で配合し、表面処理液A(固形分:2%)及び表面処理液B(固形分:2%)を調製した。
〔表面処理液A〕
・次亜塩素酸t−ブチル 2重量部
・酢酸エチル 9.8重量部
・ターシャリーブチルアルコール 88.2重量部
〔表面処理液B〕
・三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体 2重量部
・酢酸エチル 9.8重量部
・ターシャリーブチルアルコール 88.2重量部
【0066】
実施例1〜3、同6〜15、比較例1〜5に係るベルトに対しては、表面処理液Aと表面処理液Bとの混合溶液(混合比=1:1[重量比])を用いて、一方、実施例4に係るベルトに対しては表面処理液Aのみを用いて、大気雰囲気中、室温下にて、所定のベルトの表面にローラー塗工せしめた後(塗工時間:30秒)、ベルト表面を水で洗浄し、エアーブローにより水滴を除去した。尚、下記表1及び2において、「F・Cl処理」とは表面処理液Aと表面処理液Bとの混合溶液を用いた表面処理を、また、「Cl処理」とは表面処理液Aのみを用いた表面処理を、それぞれ示すものである。
【0067】
実施例5に係るベルトに対しては、弾性層に対してUV処理を実施した。具体的には、アイグラフィックス株式会社製の紫外線照射機「UB031-2A/BM 」(商品名、水銀ランプ形式)を用いて、表面処理前ベルトの表面(弾性層の表面)に対して、周速:570〜590mm/secでベルトを回転させながら、照射強度:120mW/cm2 、紫外線照射機の光源と弾性層表面との距離:40mm、照射時間:30秒の条件にて紫外線を照射することにより、表面処理を行なった。
【0068】
得られた電子写真機器用無端ベルトの各特性を、以下の手法に従って測定乃至は評価した。尚、以下に述べる「全有機成分の質量分率」、「押し込みヤング率:α」及び「破断歪み:β」の測定(算出)は、何れも、試料として、各ベルトの弾性層を構成するゴム組成物をベルト作製時と同様の条件に従って架橋せしめたもの(架橋ゴム)を用いた。
【0069】
−弾性層における全有機成分の質量分率−
株式会社島津製作所製の熱重量分析装置(TGA-50H :商品名)を用いて、JIS−K−6226−1:2003 又はJIS−K−6226−2:2003 に準じて測定された全有機成分の重量と、用いた試料の重量から、全有機成分の質量分率を算出した。
全有機成分の重量=試料重量−灰分重量(−カーボンブラック重量)
なお、カーボンブラックは、試料に含まれている場合にのみ検出される。
全有機成分の質量分率=[全有機成分の重量/試料重量]×100(%)
【0070】
−弾性層の押し込みヤング率:α−
厚さ:200μmの試料について、ISO 14577−1「金属材料−硬さのためのインデンテーション試験テストと材料パラメーター Part1:試験方法」に規定されている押込み試験を行ない、その結果を用いて同付属書Aの「A.5押込み弾性率EIT」に準拠して算出した。具体的には、微小硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製、商品名:HM2000LT)を用いて、ビッカース圧子の30μm定変位押し込みを行なうことにより、測定した。尚、かかる測定は各ベルトについて5回行ない、その平均値を算出し、その結果を表1〜表3に示した。
【0071】
−弾性層の破断歪み:β−
厚さ:200μmの試料について、JIS−K−6251に準じて引張試験を行ない、破断歪み:βを測定した。
【0072】
測定された押し込みヤング率:αと破断歪み:βとの積:Pを算出した。その結果を、下記表1〜表3に示す。
【0073】
−簡易摩耗試験−
回転運動が可能なロール(ロール径:φ14)の表面に一般紙を巻きつける一方、得られたベルトを紙面に対して一定荷重で押し当てた。この押し当てた状態を保持しながら、ロールを回転数:約2300rpmで15秒間、回転させた。その後、ベルト表面における紙のエッジ部に対応する部位をレーザー顕微鏡で観察し、紙のエッジ部による削れ(削れ高低差:未切削部の平らな部位を基準とした、スムージング補正後の最大削れ部の深さ)を測定した。その測定結果を、下記表1〜表3に示す。
【0074】
−実機耐久試験−
得られたベルトを、市販のマルチファンクションプリンタ(コニカミノルタ社製、商品名:bizhub C550 )に中間転写ベルトとして組み込み、23.5℃×53%RHの環境下、A4サイズにて200000枚の画像出し(テストパターン印刷)を行なった。その後、ベルトをプリンタから取り外し、ベルト表面における紙のエッジ部に対応する部位を目視で観察した。削れ(摩耗)が認められない場合を○と、削れ(摩耗)が認められる場合を×と、それぞれ評価した。各ベルトの評価結果を、下記表1〜表3に示す。
【0075】
−難燃性−
米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ・INC.(UL)が規定したUL規格94(第5版、第11章)に準じたVTM燃焼性試験を行なった。尚、この試験における評価を下記表4に示すが、かかる表4から明らかなように、VTM−0が最も優れた評価であり、以下、VTM−1、VTM−2となり、VTM−2を超える場合はnotとなる。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
かかる表1〜表3からも明らかなように、本発明に従う電子写真機器用無端ベルトにあっては、ベルト表面(弾性層表面)が優れた耐摩耗性を発揮し、中間転写ベルトとして長期間に亘って使用した場合にも、ベルト表面(弾性層表面)における被印刷物(紙)のエッジ部(端部)に対応する部分の摩耗(削れ)が効果的に抑制されることが、確認されたのである。
【符号の説明】
【0081】
2 電子写真機器用無端ベルト 4 基層
6 弾性層 8 中間転写ベルト
10 紙 12 転写ロール
14 バックアップロール 16 基体
18 基層用材料 20 第1材料タンク
22 第1ノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層の表面に、ゴム材料及び無機フィラーが配合されてなるゴム組成物を用いて、弾性層が設けられてなる電子写真機器用無端ベルトにして、
前記弾性層における全有機成分の質量分率が40〜75%であると共に、該弾性層の押し込みヤング率(MPa):αと破断歪み(%):βとの積:Pが6000〜50000の範囲内にあることを特徴とする電子写真機器用無端ベルト。
【請求項2】
前記押し込みヤング率が4〜150MPaである請求項1に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項3】
前記破断歪みが40〜1500%である請求項1又は請求項2に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項4】
前記ゴム材料がNBR、BR、SBR、IIR又はCRである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項5】
前記ゴム組成物に樹脂架橋剤が含まれている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項6】
前記無機フィラーが少なくとも無機系難燃剤を含む請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項7】
前記弾性層がディスペンサーコーティング法に従って形成されている請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項8】
前記基層がポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂にて形成されている請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−37725(P2012−37725A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177758(P2010−177758)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】