説明

電子回路及び電子モジュール

【課題】 フィルタの挿入損失の低下及び小型化が可能な電子回路、及び当該電子回路を搭載した電子モジュールを提供すること。
【解決手段】 アンテナ端子20に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサ(23、24)と、アンテナ端子20と複数のデュプレクサ(23、24)のそれぞれとの間に接続された複数の弾性波フィルタ(40、41)と、を備え、複数の弾性波フィルタ(40、41)のうち第1弾性波フィルタ40のフィルタ特性は、複数のデュプレクサ(23、24)のうち、第1弾性波フィルタ40に接続された第1デュプレクサ23の送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させ、複数のデュプレクサ(23、24)のうち、第1弾性波フィルタ40とは異なる第2弾性波フィルタ41に接続された第2デュプレクサ24の送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧するように設定されている電子回路、及び当該電子回路を含む電子モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路及び当該電子回路を含む電子モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等をはじめとする移動通信システムの技術分野では、トラフィックの増大に対応するために、無線通信の伝送速度の向上が望まれている。伝送速度を向上させるための方法の1つとして、異なる周波数帯のキャリアを複数束ねて通信を行うCarrier Aggregation(CA)技術が検討されている(例えば、非特許文献1を参照)。Carrier Aggregationにおいて用いられる周波数帯は、例えば800MHz帯と2GHz帯の組み合わせが考えられるが、これ以外にも様々な周波数帯の組み合わせを用いることができる。
【0003】
CAにおける送受信用の高周波回路では、共通のアンテナ端子と複数の内部端子(受信端子または送信端子)のそれぞれとの間に、特定の周波数帯の信号を通過させるためのデュプレクサが配置されている。デュプレクサは、異なる複数の周波数帯のそれぞれに対応して複数配置されている。また、アンテナ端子と複数のデュプレクサとの間には、それぞれダイプレクサが配置されている。ダイプレクサは、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタが合成された特性を有し、一方(例えば、800MHz帯)の信号経路に他方(例えば、2GHz帯)の信号が流入することを抑制するフィルタとして機能する。ダイプレクサの構成としては、例えばインダクタとコンデンサの組み合わせによる集中定数型や、λ/4線路が形成された分布定数型等の構成を用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル、Vol.18、No.2、p12-p21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のCAにおける送受信用の高周波回路は、アンテナ端子と各デュプレクサとの間にダイプレクサが配置されていた。しかし、ダイプレクサは小型化が難しく、挿入損失が比較的大きいという課題があった。また、ダイプレクサの減衰曲線のスカート特性は急峻ではないため、Carrier Aggregationで使用される複数の周波数帯同士が接近している場合に、互いの周波数帯において充分な信号抑圧が確保できない場合があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、フィルタにおける挿入損失の低下及び小型化が可能な電子回路、及び当該電子回路を搭載した電子モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アンテナ端子に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサと、前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数の弾性波フィルタと、を備え、前記複数の弾性波フィルタのうち第1弾性波フィルタのフィルタ特性は、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタに接続された第1デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させ、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタに接続された第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧するように設定されていることを特徴とする電子回路、及び当該電子回路を含む電子モジュールである。
【0008】
上記構成において、前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、バンドパスフィルタである構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、2重モードフィルタである構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、バルク波を用いるフィルタである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、圧電薄膜を用いたCRF(Coupled Resonator Filter)である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電薄膜は、圧電定数を高める元素を含む窒化アルミニウムである構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、板波を用いる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィルタにおける挿入損失の低下及び小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、比較例に係る電子モジュールの全体ブロック図である。
【図2】図2は、実施例1に係る電子モジュールの全体ブロック図である。
【図3】図3は、デュプレクサの回路構成図である。
【図4】図4は、弾性波フィルタの断面図である。
【図5】図5は、弾性波フィルタ及びデュプレクサの構成図(上面図)である。
【図6】図6は、弾性波フィルタ及びダイプレクサのフィルタ特性を示すグラフである。
【図7】図7は、弾性波フィルタ及びデュプレクサを組み合わせたフィルタの帯域特性を示すグラフである。
【図8】図8は、弾性波フィルタ及びデュプレクサを組み合わせたフィルタの広帯域特性を示すグラフ(その1)である。
【図9】図9は、弾性波フィルタ及びデュプレクサを組み合わせたフィルタの広帯域特性を示すグラフ(その2)である。
【図10】図10は、弾性波フィルタ及びデュプレクサの実装形態を示す図である。
【図11】図11は、実施例1に係る電子モジュールの外観を示す斜視図である。
【図12】図12は、板波を用いた弾性波フィルタ構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、比較例に係る電子モジュールの全体ブロック図である。電子モジュールは、2つのアンテナ端子(第1アンテナ端子10及び第2アンテナ端子20)と、アンテナ端子を介して入出力される信号の処理を行うための内部回路30とを備えている。アンテナ端子(10、20)と内部回路30との間には、ダイプレクサ及びデュプレクサにより構成されるフィルタ回路が、それぞれの信号経路毎に設けられている。
【0017】
第1アンテナ端子10には、スイッチ11が接続されている。スイッチ11は、1対多端子型のSPNT−SW(Single pole N throw)スイッチであり、第1アンテナ端子10からの信号を、複数の信号線に切り替えて出力すると共に、複数の信号線からの信号を第1アンテナ端子10へと出力する。スイッチ11から出力される信号線のうち1つは、ダイプレクサ12に接続されており、他の信号線は図示しない同様な回路を介して内部回路30に接続されている。内部回路30は、アンテナ端子から入力された高周波信号を、回路内のローノイズアンプ(不図示)によりダウンコンバートして、ベースバンド信号へと変換する。また、内部回路30は、送信用のベースバンド信号をアップコンバートして、アンテナ端子から出力可能な高周波信号に変換する。
【0018】
ダイプレクサ12は、ハイパスフィルタ及びローパスフィルタが組み合わされた構成を有し、スイッチ11からの信号を2つの信号成分(高周波側と低周波側)に分割して出力すると共に、内部回路30側からの信号をスイッチ11へと出力する。ダイプレクサ12は、例えば、積層されたセラミックの中に、インダクタとコンデンサを形成した集中定数型またはλ/4線路を形成した分布定数型とすることができる。
【0019】
ダイプレクサ12から出力される2本の信号線には、それぞれデュプレクサ13及び14が接続されている。デュプレクサ13及び14は、それぞれ2つのバンドパスフィルタ(13a及び13b、14a及び14b)が組み合わされた構成を有する。送信側のバンドパスフィルタ(13a、14a)は、内部回路30から入力された信号のうち、特定の周波数帯の信号を通過させ、アンテナ側へと出力する。受信側のバンドパスフィルタ(13b、14b)は、ダイプレクサ12から入力された信号のうち、特定の周波数帯の信号を通過させ、内部回路30へと出力する。これらのバンドパスフィルタにより、送信側の信号が受信側の信号線に混入すること、及び受信側の信号が送信側の信号線に混入することが抑制されている。デュプレクサ13及び14を構成するバンドパスフィルタは、例えば圧電薄膜共振器(FBAR)、あるいは、弾性表面波共振器(SAW)をラダー型に組み合わせたフィルタにより実現することができる。
【0020】
デュプレクサ13及び14からは、それぞれ2本ずつの信号線が内部回路30へと接続されている。2本の信号線のうち一方は送信信号を、他方は受信信号をそれぞれ伝達する。送信側のバンドパスフィルタ(13a、14a)に接続された信号線には、それぞれ信号増幅用のパワーアンプ15及び16が設けられている。
【0021】
第2アンテナ端子20には、1段目のダイプレクサ21が接続されている。ダイプレクサ21は、第2アンテナ端子20からの信号を2本の信号線に分割して内部回路30側へ出力すると共に、内部回路30側からの信号を第2アンテナ端子20へと出力する。ダイプレクサ21に接続された内部回路30側の2本の信号線のうち、一方はダイプレクサ22へと接続され、他方はデュプレクサ25へと接続されている。第2アンテナ端子20側のフィルタ回路におけるデュプレクサ(23、24、25)及びダイプレクサ(21、22)の構成等は、第1アンテナ端子10側のフィルタ回路におけるデュプレクサ(13、14)及びダイプレクサ12と同様とすることができる。
【0022】
2段目のダイプレクサ22から出力される2本の信号線には、それぞれデュプレクサ23及び24が接続されている。デュプレクサ23及び24は、それぞれ2つのバンドパスフィルタ(23a及び23b、24a及び24b)が組み合わされた構成を有する。送信側のバンドパスフィルタ(23a、24a)は、内部回路30から入力された信号のうち、特定の周波数帯の信号を通過させ、アンテナ側へと出力する。受信側のバンドパスフィルタ(23b、24b)は、ダイプレクサ21から入力された信号のうち、特定の周波数帯の信号を通過させ、内部回路30へと出力する。これらのバンドパスフィルタにより、送信側の信号が受信側の信号線に混入すること、及び受信側の信号が送信側の信号線に混入することが抑制されている。デュプレクサ23及び24を構成するバンドパスフィルタは、例えば圧電薄膜共振器(FBAR)、あるいは、弾性表面波共振器(SAW)をラダー型に組み合わせたフィルタにより実現することができる。
【0023】
デュプレクサ23及び24からは、それぞれ2本ずつの信号線が内部回路30へと接続されている。2本の信号線のうち一方は送信信号を、他方は受信信号をそれぞれ伝達する。送信側のバンドパスフィルタ(23a、24a)に接続された信号線には、それぞれ信号増幅用のパワーアンプ26及び27が設けられている。また、1段目のダイプレクサ21に接続されたデュプレクサ25からは、2本の信号線が内部回路30へと接続されており、送信側のバンドパスフィルタ25aに接続された信号線には、パワーアンプ28が設けられている。
【0024】
図1に示すように、比較例では、アンテナ端子とデュプレクサとの間にダイプレクサが挿入されている。例えば、第2アンテナ端子20側の回路において、デュプレクサ23及び24の前段(アンテナ端子側)に、ダイプレクサ22が接続されている。前述のように、ダイプレクサは積層セラミックにより形成されているため、低背化及び小型化が比較的困難である。また、ダイプレクサが挿入されることにより、信号損失(例えば、0.5dB程度)が発生してしまう(例えば、800MHz及び2GHzの組み合わせ等)。さらに、ダイプレクサはQ値が低く、スカート特性(減衰特性)が急峻ではない。このため、Carrier Aggregationで使用される2つの周波数帯の間隔が狭い(例えば、1.5GHz及び2GHzの組み合わせ等)場合、互いの周波数帯で充分な抑圧が確保することが難しい。仮に、充分な抑圧を確保しようとすると、インダクタやコンデンサによる回路を多段にしなければならず、トレードオフとして通過帯域の損失が増加してしまう。以下の実施例では、上記の課題を解決するための電子回路について説明する。
【実施例1】
【0025】
図2は、実施例1に係る電子モジュールの全体ブロック図である。比較例(図1)と異なり、領域32において、2段目のダイプレクサ22の代わりに弾性波フィルタ(40、41)が設けられている。具体的には、1段目のダイプレクサ21の出力が2系統の信号線に分割され、そのうち一方が弾性波フィルタ40に、他方が弾性波フィルタ41にそれぞれ接続されている。弾性波フィルタ40から出力される信号線はデュプレクサ23へ接続され、弾性波フィルタ41から出力される信号線はデュプレクサ24へと接続されている。弾性波フィルタ(40、41)は、後段のデュプレクサの送信周波数、受信周波数の双方を通過させる帯域幅を有するフィルタである必要がある。これは、弾性表面波フィルタ(SAW)では実現が難しい。なお、デュプレクサは2つの場合を例示しているが、3個以上であっても構わない。
【0026】
ここで、デュプレクサ23は例えば800MHz帯のBand8(送信帯域:880〜915MHz、受信帯域925〜960MHz)のデュプレクサとし、デュプレクサ24は例えば2GHz帯のBand2(送信帯域:1850〜1910MHz、受信帯域:1930〜1990MHz)のデュプレクサとすることができる。これにより、比較例に係るフィルタに比べ、0.2〜0.4dB程度低損失な領域32を形成することができ、異なる周波数帯(Band8及びBand2)を用いたCarrier Aggregationを実現することができる。また、周波数帯の間隔がさらに狭い1.5GHz及び2GHzの組み合わせに本実施例を用いれば、低損失でかつ互いの周波数帯で十分な抑圧を確保することのできる領域32を形成でき、狭い周波数帯を組み合わせたCarrier Aggregationが実現できる。
【0027】
図3は、図2に示すデュプレクサの回路構成図である。ここでは、デュプレクサ23の構成について説明する。デュプレクサ23と第2アンテナ端子20との間にあるダイプレクサ21、弾性波フィルタ40の記載は省略している。デュプレクサ23は、送信端子TX及び受信端子RXにそれぞれ接続されたラダーフィルタ23a及び23bを含む。
【0028】
送信側のラダーフィルタ23aは、アンテナ端子20と送信端子TXとの間に接続された直列共振器S10〜S13と、それぞれの直列共振器の間に接続された並列共振器P10〜P12とを含む。並列共振器P10〜P12の一端は、共通のインダクタL10を介して接地されている。
【0029】
受信側のラダーフィルタ23bは、アンテナ端子20と受信端子RXとの間に接続された直列共振器S20〜S23と、それぞれの直列共振器の間に接続された並列共振器P20〜P22とを含む。並列共振器P20〜P22の一端は、それぞれ別個のインダクタL20〜L22を介して接地されている。なお、デュプレクサ24もデュプレクサ23と同様の回路構成となっている(図5にて図示)。
【0030】
2つのラダーフィルタ23a及び23bとアンテナ端子20との間には、整合回路が設けられている。本実施例では、整合回路は片側が接地されたインダクタL1により構成されている。このL1は、図5ではL2、L3として示されているが、L1はL2もしくはL3と同じ機能である。
【0031】
図4は、図2に示す弾性波フィルタ(40、41)の一例の断面模式図である。弾性波フィルタ(40、41)には、共にCRF(Coupled Resonator Filter)構造を有する2重モード型の弾性波フィルタを用いることができる。すなわち、弾性波フィルタ40は、基板50上に、圧電薄膜共振器(Film Bulk Acoustic Resonator:FBAR)である第1共振器60及び第2共振器80が、デカプラ膜70を挟んで重ねられた構成を有する。第1共振器60は、下部電極62、圧電薄膜64、及び上部電極66を含み、第2共振器80は、下部電極82、圧電薄膜84、及び上部電極86を含む。また、第1共振器60の下部電極62と基板50との間に空隙52が形成されている。
【0032】
第1共振器60の下部電極62は第1端子56に接続され、第2共振器80の上部電極86は第2端子54に接続されている。第1共振器60の上部電極66及び第2共振器80の下部電極82は、共に接地されている。
【0033】
圧電薄膜64及び84には、例えば、AlNに圧電定数を高める元素(例えば、アルカリ土類金属(スカンジウム(Sc)等)または希土類金属(エルピウム(Er)等)を添加した材料を用いることができる。また、上記の材料の代わりに、AlNよりも圧電性の大きいPZT(Lead Zirconate Titanate)またはBST(Barium Strontium Titanate)を用いることもできる。これらの材料を用いることにより、圧電定数を高める元素が添加がされていないAlN圧電膜を用いる場合に比べ、十分な帯域幅をもち且つ低損失な特性を有するバンドパスフィルタを実現することができる。なお、通常のAlN圧電膜の圧電定数(圧電歪定数)は1.55[C/m]であるが、本実施例では圧電定数を高める元素を添加することにより、圧電定数が3.0[C/m]まで高められている。
【0034】
基板50には、例えばシリコン(Si)を用いることができる。下部電極(62、82)及び上部電極(66、86)を形成する電極膜には、例えばタングステン(W)を用いることができる。デカプラ膜70には、例えば酸化シリコン(SiO)を用いることができる。この構成により、弾性波フィルタ(40、41)は、後段のデュプレクサの送信周波数、受信周波数の双方を通過させる通過帯域(送信及び受信双方の通過帯域)を有し、低損失で、高抑圧のフィルタを実現できる。
【0035】
図5は、図2に示す弾性波フィルタ(40、41)及びデュプレクサ(23、24)の構成を示す上面模式図であり、図3の回路図に対応する。弾性波フィルタ(40、41)は、それぞれCRF構造を有する弾性波フィルタである。
【0036】
弾性波フィルタ40は、3つの端子T1a、T1b、T1cを備える。T1aはアンテナ側の信号端子であり、図4における第1端子56及び第2端子54の一方に相当する。T1bは内部回路側の信号端子であり、図4における第1端子56及び第2端子54の他方に相当する。T1cは接地端子であり、図4におけるグランドに相当する。
【0037】
弾性波フィルタ40には、デュプレクサ23における送信側のラダーフィルタ23aと、受信側のラダーフィルタ23bが接続されている。送信側のラダーフィルタ23aは、直列共振器S10〜S13及び並列共振器P10〜P12を含み、各共振器の間は配線42(実際は上部電極と下部電極からなる)により電気的に接続されている。受信側のラダーフィルタ23bは、直列共振器S20〜S23及び並列共振器P20〜P22を含み、各共振器の間は配線43(実際は上部電極と下部電極からなる)により電気的に接続されている。弾性波フィルタ40とラダーフィルタ(23a、23b)との間には、整合回路L2が設けられている。ラダーフィルタを構成する直列共振器及び並列共振器は、圧電薄膜共振器(FBAR)により形成されている。
【0038】
弾性波フィルタ41は、3つの端子T2a、T2b、T2cを備える。T2aはアンテナ側の信号端子であり、図4における第1端子56及び第2端子54の一方に相当する。T2bは内部回路側の信号端子であり、図4における第1端子56及び第2端子54の他方に相当する。T2cは接地端子であり、図4におけるグランドに相当する。
【0039】
弾性波フィルタ41には、デュプレクサ24における送信側のラダーフィルタ24aと、受信側のラダーフィルタ24bが接続されている。送信側のラダーフィルタ24aは、直列共振器S30〜S33及び並列共振器P30〜P32を含み、各共振器の間は配線44(実際は上部電極と下部電極からなる)により電気的に接続されている。受信側のラダーフィルタ24bは、直列共振器S40〜S43及び並列共振器P40〜P42を含み、各共振器の間は配線45(実際は上部電極と下部電極からなる)により電気的に接続されている。弾性波フィルタ41とラダーフィルタ(24a、24b)との間には、整合回路L3が設けられている。ラダーフィルタを構成する直列共振器及び並列共振器は、圧電薄膜共振器(FBAR)により形成されている。
【0040】
実施例1に係る電子回路によれば、デュプレクサとアンテナ端子との間に接続されるフィルタにおいて、ダイプレクサに代えて弾性波フィルタを用いている。弾性波フィルタは、積層セラミック型のダイプレクサに比べ、小型化・低背化が容易である。また、弾性波フィルタは、挿入損失が小さく、減衰曲線のスカート特性が急峻であるという特性を有する。特に、Carrier Aggregationにおいて近い周波数帯の信号を使用する場合、スカート特性が急峻であれば、互いの周波数帯で十分な信号抑圧を確保することが容易となり、フィルタ全体の挿入損失を低下させることができる。
【0041】
図6は、実施例1に係る弾性波フィルタ(図2の符号40及び41)と、比較例に係るダイプレクサ(図1の符号22)とのシミュレーションによるフィルタ特性の比較を示すグラフである。図6〜図9のシミュレーションでは、弾性波フィルタとして図4に示すCRFを用いた。第1共振器60及び第2共振器80において、下部電極(62、82)及び上部電極(66、86)には、タングステン(W)を用い、それぞれの膜厚を、Band2側は170nm(62、86)、380nm(66、82)、Band8側は260nm(62、86)、730nm(66、82)とした。圧電薄膜(64、84)には、圧電定数を高める元素を添加することにより、圧電定数を2.2[C/m]まで高めたAlN薄膜を用い、それぞれの膜厚を、810nm(Band2側)、1760nm(Band8側)とした。デカプラ膜70の膜厚は、380nm(Band2側)、820nm(Band8側)とした。
【0042】
図6(a)は、Band2側のフィルタ特性を、図6(b)は、Band8側のフィルタ特性をそれぞれ示している。図中のBand2及びBand8は、それぞれのバンドにおける通過帯域を示す。また、グラフ中の実線は弾性波フィルタ(実施例1)の特性を、点線はダイプレクサ(比較例)の特性をそれぞれ示している。図示するように、弾性波フィルタはダイプレクサに比べスカート特性が急峻であり、通過帯域近傍の周波数の抑制に優れている。また、弾性波フィルタ(40、41)はバンドパスフィルタであるため、低周波側と高周波側の両方を抑圧することができ、ダイプレクサに比べて広帯域抑圧に優れている。
【0043】
図7は、弾性波フィルタ及びデュプレクサを組み合わせたフィルタ(図2の領域32に相当する部分)の帯域特性を示すグラフである。図7(a)は、Band2側のフィルタ特性を、図7(b)は、Band8側のフィルタ特性をそれぞれ示している。また、グラフ中の実線は弾性波フィルタとデュプレクサとの組み合わせフィルタ(実施例1)の特性を、点線はダイプレクサとデュプレクサとの組み合わせフィルタ(比較例)の特性をそれぞれ示している。図示するように、実施例1に係るフィルタは、比較例に係るフィルタに比べ、0.2〜0.4dB程度低損失となっている。
【0044】
図8及び図9は、上記組み合わせフィルタの広帯域特性を示すグラフである。図8(a)は、Band2の送信側(TX)のフィルタ特性を、図8(b)は、Band2の受信側(RX)のフィルタ特性を、図9(a)は、Band8の送信側(TX)のフィルタ特性を、図9(b)は、Band8の受信側(RX)のフィルタ特性をそれぞれ示している。また、グラフ中の実線は弾性波フィルタとデュプレクサとの組み合わせフィルタ(実施例1)の特性を、点線はダイプレクサとデュプレクサとの組み合わせフィルタ(比較例)の特性をそれぞれ示している。図示するように、実施例1に係るフィルタは、比較例に係るフィルタに比べ、広帯域抑圧に優れている。一般的に、帯域内損失と広帯域抑圧とはトレードオフの関係にあるため、実施例1のように広帯域抑圧に余裕があるフィルタでは、フィルタ特性を低損失設計とすることにより、挿入損失を更に低下させることができる。
【0045】
以上のように、実施例1に係る電子回路によれば、挿入損失を抑制し、広帯域抑圧に優れたフィルタ特性を得ることができる。また、上記電子回路を種々の電子モジュール(例えば、携帯電話等)に組み込むことにより、電子モジュールの小型化及び高性能化を図ることができる。
【0046】
図10(a)〜(c)は、図2の領域32に示す弾性波フィルタ及びデュプレクサの実装形態を示す模式図である。弾性波フィルタ(40、41)と第2アンテナ端子20との間にあるダイプレクサ21の記載は省略している。図12(a)に示す形態では、弾性波フィルタ40及び41が同一のパッケージC1に封止されて一体となり、その他のデュプレクサ(23、24)は個別のパッケージ(C2、C3)に封止されている。図10(b)に示す形態では、弾性波フィルタ40とそれに接続されたデュプレクサ23、及び弾性波フィルタ41とそれに接続されたデュプレクサ24が、それぞれ同一のパッケージ(C1、C2)に封止されて一体となっている。図10(c)に示す形態では、弾性波フィルタ(40、41)とデュプレクサ(23、24)とが、全て同一のパッケージ(C1)に封止されて一体となっている。このように、図2に示す高周波回路における領域32のフィルタ回路は、様々な実装方法により実現することができる。
【0047】
図11は、実施例1(図2、図5)に係る電子回路を搭載した電子モジュールの外観を示す斜視図である。図11に示すように、電子回路を構成する弾性波フィルタ(40、41)及びデュプレクサ(23a、23b、24a、24b)は、それぞれパッケージ化され、プリント基板100の上面に実装されている。図11では、弾性波フィルタ及びデュプレクサがそれぞれ別個にパッケージングされた例を示しているが、図10(a)〜(c)にて説明したように、弾性波フィルタ及びデュプレクサを一体化してもよい。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、弾性波フィルタ(40、41)に、CRFの代わりに板波を利用するフィルタを用いた例である。
【0049】
図12は、実施例2に係る弾性波フィルタの上面及び断面模式図である。基板90上に圧電薄膜91が設けられている。圧電薄膜91は、スパッタ等の物理気相成長、あるいは、圧電単結晶基板を薄板化することにより作製される。圧電薄膜91上に櫛形電極92〜94及び反射電極95〜96が形成されている。櫛形電極92〜94及び反射電極95〜96は、弾性波の伝搬方向に配列されている。また、櫛形電極92〜94及び反射電極95〜96が形成された領域の下方には、基板90と圧電薄膜91との間に空隙97が設けられている。
【0050】
中央に配置された櫛形電極93の一端は、第1端子T1に接続され、他方は接地されている。櫛形電極93の両側に配置された櫛形電極92及び94の一端は、共通の第2端子T2に接続され、他方は接地されている。実施例2に係る弾性波フィルタは、板波を用いる弾性波フィルタである。板波はバルク波の一種であり、ラム波及びSH波がこれに含まれる。
【0051】
実施例2に係る弾性波フィルタでは、圧電体結晶(圧電薄膜91)のカット面の方位を調節することにより、ラム波またはSH波のいずれを用いるかを決定することができる。例えば、ラム波を利用する場合には、ZカットX伝播のLiNbO等を使用することができ、SH波を利用する場合には、42°YカットX伝播のLiTaO等を使用することができる。実施例2に係る弾性波フィルタは、ラム波及びSH波のうちいずれを用いても実現することができる。
【0052】
実施例2に係る電子回路によれば、実施例1と同様に、挿入損失を抑制し、広帯域抑圧に優れたフィルタ特性を得ることができる。また、上記電子回路を種々の電子モジュール(例えば、携帯電話等)に組み込むことにより、電子モジュールの小型化及び高性能化を図ることができる。このように、弾性波フィルタ(40、41)に板波を利用するフィルタを用いた場合でも、後段のデュプレクサの送信周波数及び受信周波数の双方を通過させる通過帯域(送信及び受信双方の通過帯域)を有し、低損失で、高抑圧のフィルタを実現することができる。
【0053】
実施例1〜2では、弾性波フィルタ(40、41)にバンドパスフィルタを用いている。ハイパスフィルタとローパスフィルタを組み合わせたダイプレクサでは、高周波側と低周波側のいずれか一方しか抑圧することができない。これに対し、バンドパスフィルタでは、高周波側と低周波側の両方を抑圧することができるため、広帯域抑圧に優れている。また、バンドパスフィルタは、ダイプレクサに比べQ値が高く、減衰曲線のスカート特性が急峻である。このため、Carrier Aggregationにおいて間隔の近い2つの周波数帯を用いる場合に特に好適である。
【0054】
実施例1〜2では、弾性波フィルタ(40、41)に2重モードフィルタを用いている。2重モードフィルタとしては、DMS(Double Mode SAW Filter)及びCRF等を用いることができる。2重モードフィルタは、広帯域抑圧に優れるため、フィルタ特性を低損失設計とすることで、挿入損失を更に低下させることができる。このように、弾性波フィルタ(40、41)に2重モードフィルタを用いることで、後段のデュプレクサの送信周波数、受信周波数の双方を通過させる通過帯域(送信及び受信双方の通過帯域)を有し、低損失で、高抑圧のフィルタを実現することができる。
【0055】
実施例1〜2では、弾性波フィルタ(40、41)にバルク波を利用する弾性波フィルタを用いている。弾性波フィルタには、表面波を利用するフィルタ(SAWフィルタ等)と、バルク波を利用するフィルタ(FBAR、CRF、板波フィルタ等)がある。表面波を利用するフィルタでは、IDT(Interdigital Transducer)に微細な電極パターンを使用するため、耐電力性が弱く、ハイパワーの信号を用いた通信には不向きである。これに対し、バルク波を利用するフィルタのうち、FBAR及びCRF(図4)は微細な電極パターンを使用しないため、耐電力性に優れている。また、板波フィルタ(図12)はIDT(櫛形電極)を使用するフィルタであるが、板波の伝搬速度は表面波よりも早いため、IDTの電極指幅を太くすることができ、SAWフィルタよりも耐電力性に優れている。このように、弾性波フィルタ(40、41)をバルク波を利用する弾性波フィルタとすることで、耐電力性に優れ、ハイパワーの信号通信に適したフィルタを実現することができる。
【0056】
実施例1〜2では、弾性波フィルタの後段に接続されるデュプレクサをラダー型フィルタとした例について説明したが(図3)、他の型(例えば、ラティス型または2重モード型)のフィルタを用いてもよい。ラダー型フィルタとした場合の共振器の数も、図3の形態に限定されるものではない。また、実施例1では、デュプレクサにおける整合回路にシャントインダクタ(L1、L2、L3)を使用したが、整合回路はλ/4線路等他の回路で構成してもよい。また、フィルタ設計でインピーダンスを最適化することが出来る場合には、整合回路を設けなくともよい。
【0057】
実施例1〜2に係る電子回路は、種々の高周波回路に対し適用することが可能であるが、異なる周波数帯のキャリアを複数束ねて通信を行うCarrier Aggregationに対し、特に好適である。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 第1アンテナ端子
12、21、22 ダイプレクサ
13、14、23、24、25 デュプレクサ
15、16、26、27、28 パワーアンプ
20 第2アンテナ端子
30 内部回路
40、41 弾性波フィルタ
50、90 基板
60 第1共振器
62、82 下部電極
64、84、91 圧電薄膜
66、86 上部電極
70 デカプラ膜
80 第2共振器
92、93、94 櫛形電極
95、96 反射電極
100 プリント基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ端子に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサと、
前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数の弾性波フィルタと、を備え、
前記複数の弾性波フィルタのうち第1弾性波フィルタのフィルタ特性は、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタに接続された第1デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させ、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタに接続された第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧するように設定されていることを特徴とする電子回路。
【請求項2】
前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、バンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、2重モードフィルタであることを特徴とする請求項1または2に記載の電子回路。
【請求項4】
前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、バルク波を用いるフィルタであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子回路。
【請求項5】
前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、圧電薄膜を用いたCRF(Coupled Resonator Filter)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子回路。
【請求項6】
前記圧電薄膜は、圧電定数を高める元素を含む窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項5に記載の電子回路。
【請求項7】
前記複数の弾性波フィルタのうち少なくとも1つは、板波を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子回路。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子回路を備えた電子モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−253497(P2012−253497A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123452(P2011−123452)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】