説明

電子放出源用ペーストおよびその製造方法

【課題】電子放出効率が高く、電子放出に要する駆動電圧を低く、電子放出の面分布が均一となる電子放出源用ペーストを提供する。
【解決手段】酸処理されたカーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを含むことを特徴とする電子放出源用ペースト。その配合比は、カーボンナノチューブが1〜5重量%、バインダー樹脂が10〜30重量%、ガラスフリット(ベヒクル)が1〜10重量%、そしてペースト用溶媒は40〜80重量%程度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極基板上に塗布する電子放出源用ペースト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極基板上に塗布する電子放出源用ペーストとしては、例えば、カーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、溶媒とを含むものが知られている(特許文献1)。例えば、カーボンナノチューブ3%、バインダーとしてエチルセルロース25%、ベヒクルとしてガラスパウダー5%、溶媒としてテルピネオール67%よりなるものが用いられ、これを基板に20ミクロンの厚さでスクリーン印刷し、400℃で焼成後、粘着テープによる引き剥がしを行っている。この方法で得られた、電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像を図3のAとBに示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−56818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着テープをペースト膜の表面に貼り付けたときの状態をミクロ的に観察すると、粘着テープは、ペースト膜全面に付着するのではなく、主としてペースト膜の表面に顔を出しているガラスフリットに付着している。粘着テープに付着したガラスフリットの一部は、粘着テープと一体となって引き剥がされる。ガラスフリットにはカーボンナノチューブが絡みついているので、ガラスフリットが引き剥がされると、それに伴ってカーボンナノチューブが起毛する。また、基板に強固に溶着したガラスフリットは引き剥がされないが、そのガラスフリットの周囲に付着しているカーボンナノチューブは多くが引き剥がされ、一部がガラスフリットに付着したまま起毛する。すなわち、ガラスフリットに絡みついているカーボンナノチューブが多いと、ペースト膜の単位面積あたりの起毛するカーボンナノチューブが多くなる。
【0005】
従来のペースト膜は、カーボンナノチューブが全体に均一に分布しているため、ガラスフリットに絡みついていないカーボンナノチューブが多かった。その様なカーボンナノチューブは起毛しにくいので、結果的に電子放出源の電子放出効率が低くなる原因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するべくなされたものであり、ペーストを製造する過程において酸を含む酸処理用有機溶媒中にカーボンナノチューブを浸漬した後(以後、この処理を酸処理という)、この酸処理用有機溶媒を蒸発させることにより、ガラスフリットに絡みつくカーボンナノチューブが多くなり、粘着テープの引き剥がし時に起毛するカーボンナノチューブが増え、電子放出源の電子放出効率が高くなることを見出してなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、酸処理したカーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを含むことを特徴とする電子放出源用ペーストと、カーボンナノチューブが分散した酸処理用有機溶媒に酸を混入する酸処理工程、前記酸処理工程で処理されたカーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを混練する混練工程を備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法によりなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、カーボンナノチューブを酸処理することにより、ガラスフリットに絡みつくカーボンナノチューブが増える。そうすることにより、引き剥がし時に起毛するカーボンナノチューブが増えるので、従来法に比べ電子放出に要する駆動電圧が低くでき、省エネ効果が高くなる。また電子放出量の面分布が均一となるので、例えば電子を蛍光物質に当て光らせる発光デバイスなどに使用すれば性能の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明のペーストと酸処理をしなかったペーストを用いて作製した電子放出源の電子放出特性を示すグラフである。
【図2】本発明のペーストと酸処理をしなかったペーストを用いて作製した印刷膜の起毛後の状態を示すSEM像である。
【図3】従来の方法で電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電子放出源用ペーストは、カーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂とペースト用溶媒とを含むものであり、ペースト製造時にカーボンナノチューブを酸処理するところに特徴がある。
【0011】
酸処理に用いる酸は、強酸、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの鉱酸あるいは、スルホン酸や酢酸などの強酸性有機酸がよい。これらの酸は、水溶液や低級アルコールなどのアルコール溶液等として用いることができ、酸処理用有機溶媒に対する酸の濃度としては、0.001〜1vol%程度、特に0.01〜0.5vol%程度が好ましい。カーボンナノチューブに対する酸の使用量としては、重量にして0.1〜5倍程度、特に0.2〜1倍程度が適当である。
【0012】
酸処理は、カーボンナノチューブを酸処理用有機溶媒に分散して行うのがよく、この酸処理用有機溶媒には、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、エチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系など、酸とカーボンナノチューブに不活性な一般の有機溶媒を広く利用できる。カーボンナノチューブに対する酸処理用有機溶媒の使用量は、カーボンナノチューブの分散状態を維持できるように定められ、カーボンナノチューブの重量に対して100〜5000倍程度、特に300〜1000倍程度が適当である。
【0013】
酸処理する際には、まず、カーボンナノチューブを酸処理用有機溶媒に分散させて、これに酸を加える方法、あるいは、酸を酸処理用有機溶媒に加えて、これにカーボンナノチューブを分散させる方法を用いることができる。カーボンナノチューブは、公知の分散方法で分散させればよく、例えば超音波を利用することができる。
【0014】
酸処理は0〜50℃程度、通常10〜30℃程度で1〜60分間程度、通常10〜20分間程度行えばよい。この酸処理は、バインダー樹脂やペースト用溶媒を加える前に行ってもよく、加えた後に行ってもよい。
【0015】
ガラスフリットは、ベヒクルとして使用されるものであり、ガラスパウダーなどを用いることができる。
【0016】
バインダー樹脂は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂などが使用可能である。
【0017】
また、ペースト用溶媒は、テルピオネール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールなどの有機溶媒が使用可能である。酸処理用有機溶媒の沸点が100℃以下なのに対し、ペースト用溶媒の沸点は100℃以上であるものが望ましい。
【0018】
配合比としては、カーボンナノチューブが1〜5重量%程度、バインダー樹脂が10〜30重量%程度、ガラスフリット(ベヒクル)が1〜10重量%程度、そして溶媒は40〜80重量%程度が適当である。
【0019】
ペーストは、例えば、次に示す手順で作成される。
(1) カーボンナノチューブを酸処理用有機溶媒で分散させる。
(2) その有機溶媒に酸を混入させる。このことにより、分散したカーボンナノチューブが凝集し、無数の小さな塊ができる。
(3) (1)と(2)を経たカーボンナノチューブ分散液と、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒を乳鉢で混ぜ合わせながら酸処理用有機溶媒を蒸発させる。
【0020】
この様にして出来たペーストは、表面にITO(錫ドープ酸化インジウム)皮膜を有するガラス基板などに塗布してペースト膜を形成する。ペースト膜の厚みは、乾燥厚みで1〜10μm程度でよく、例えば、スクリーン印刷等で膜を形成できる。
【0021】
ペースト膜を形成したら、次いで焼成する。焼成とは、ペースト中の有機成分を炭化させると共に、基板との密着性を強固にするために行う。焼成は大気中で、温度は400〜500℃程度で10〜30分程度行なえばよい。焼成後は、そのまま粘着テープの貼り付けと引き剥がしを行い、カーボンナノチューブを起毛させる。
【実施例1】
【0022】
(1) カーボンナノチューブ0.1gを、酸処理用有機溶媒であるアセトン50ccに入れて、10分間超音波分散させた。
(2) その後、5%硝酸アルコール溶液1ccを混入した。
(3) 一方、テルピネオール(ペースト用溶媒)6gにバインダー樹脂2gを入れて、10分間80℃で恒温槽溶解した。
(4) (2)と(3)とガラスフリット0.6gを自動乳鉢に入れ、1時間混練し酸処理用有機溶媒を蒸発させた。
(5) さらに、(4)を回転ミキサーで30分間混ぜた。
【0023】
この様にして得られたペーストを、ITO膜を有するガラス基板上に約20μmの厚さにスクリーン印刷した。これを100℃のホットプレートの上に約10分間置き、ペースト用溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0024】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0025】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図2に示す像を得た。同図Bに示すように、ガラスフリットにカーボンナノチューブ(CNT)が多数絡みついていることがわかる。このCNT電子放出源で電流密度1mA/cmの放出電流が得られる平均電界値は図1に示すように、2.0V/μmであった。尚、図1および図2において無処理とあるのは、酸処理用有機溶媒と5%硝酸アルコール溶液を添加しなかったほかは同様に処理して得られたものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のペーストを使用して得られるカーボンナノチューブ電子放出源は、電子放出特性にすぐれていることから、電界放出方電子放出素子として、種々の電気機器、電子装置に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸を含む酸処理用有機溶媒中に浸漬されたカーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを含むことを特徴とする電子放出源用ペースト。
【請求項2】
前記酸処理用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体からなることを特徴とする請求項1に記載の電子放出源用ペースト。
【請求項3】
前記酸処理用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体と、前記液体と親和性のある液体との混合液であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出源用ペースト。
【請求項4】
前記酸は、硝酸、塩酸、硫酸もしくは酢酸のいずれかの水溶液またはアルコール溶液であることを特徴とする請求項1及至請求項3に記載の電子放出源用ペースト。
【請求項5】
カーボンナノチューブが分散した酸処理用有機溶媒に酸を混入する、又は、酸が混入した酸処理用有機溶媒にカーボンナノチューブを分散させる酸処理工程、前記酸処理工程で得られた溶液と、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを混練するとともに前記酸処理用有機溶媒を蒸発させる工程を備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記酸処理用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体からなることを特徴とする請求項5に記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記酸処理用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体と、前記液体と親和性のある液体との混合液であることを特徴とする請求項5に記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項8】
前記酸は、硝酸、塩酸、硫酸もしくは酢酸のいずれかの水溶液またはアルコール溶液であることを特徴とする請求項5及至7のいずれかに記載の電子放出源用ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−198493(P2011−198493A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60831(P2010−60831)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】