説明

電子放出素子とその製造方法、電子源及び画像表示装置

【課題】電子放出効率に優れ、大きな電子放出量を得ることができ、安定な電子放出特性を得ることのできる電子放出素子を提供する。
【解決手段】間隙5を介して配置する第1の導電性膜4a及び第2の導電性膜4bと、該第1の導電性膜4aに接続された第1のカーボン膜6a1,6a2と、第2の導電性膜4bに接続され、第1のカーボン膜6a1,6a2とは間隙7a,7bを介して対向する第2のカーボン膜6b1,6b2と、を有し、間隙7a,7bに、連続する凹部9a,9bを有する素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる電子放出素子とその製造方法、該電子放出素子を配置してなる電子源、該電子源を用いて構成した画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面伝導型電子放出素子は、絶縁性の基板上に形成された導電性膜に、膜面に平行に電流を流すことにより電子放出が生ずる現象を利用するものである。基本的には、基板上に一対の素子電極を形成し、該素子電極間をつなぐように形成した導電性膜に微小な間隙を形成して一対の導電性膜とし、さらに、「活性化」と呼ばれる処理を施すことにより、該間隙内及び該間隙付近の導電性膜上にカーボン膜を堆積させる。カーボン膜は微小な間隙を有する一対であり、それぞれが一対の導電性膜のどちらか一方に接続された状態となる。当該素子において、素子電極間に所定の電圧を印加すると、導電性膜の間隙及びカーボン膜の間隙付近から電子が放出される。
【0003】
特許文献1には、該カーボン膜が、導電性膜の間隙付近からさらにその外側の基板上にまで延在して堆積した構成が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−251628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボン膜の延在部は導電性であるため、周囲の絶縁性基板表面の電位の変動を低減する効果がある。しかしながら、一方で、形成条件などによっては、一対のカーボン膜の延在部間に十分な間隙を設けることができず、延在部の最外周部(導電性膜から離れた部分)で互いにつながっている場合があった。
【0006】
このように、延在部においてカーボン膜がつながっている場合には、該延在部を介して、素子電極間に無効な電流(リーク電流)が流れ、結果、電子放出効率を低減してしまう場合があった。また、長時間駆動したり、真空雰囲気が低下したりすると、放電破壊を生じ易くなる場合もあった。また、電子放出素子が載置される基板の材料や表面状態などによっては、カーボン膜の延在部の形状バラツキを生じ易く、結果、電子放出素子間の電子放出特性のバラツキが生じ易かった。尚、上記電子放出効率(η)とは、電子放出素子を構成する一対の素子電極間を流れる素子電流Ifと、電子放出電流Ie(アノードに到達する電流)との比で評価されるもので、η=Ie/Ifという関係で表される。
【0007】
また、電子放出素子を多数用いたディスプレイでは、低消費電力且つ高輝度であり、均一性の高い画像を得ることが求められている。そのため、電子放出素子には、高効率であること、及び、大きな電子放出量を安定且つ均一に得ること、が求められている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電子放出効率に優れ、大きな電子放出量を得ることができ、安定な電子放出特性を得ることのできる電子放出素子を提供することを目的とする。また、そのような電子放出素子を用いることで、均一性及び安定性に優れ、大きな電子放出量を得られる電子源、並びに、表示特性に優れた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1は、基板上に間隙をおいて配置された第1の導電性膜及び第2の導電性膜と、
一端が第1の導電性膜に接続され、他端が第1の導電性膜と第2の導電性膜の間隙に位置する第1のカーボン膜と、
一端が第2の導電性膜に接続され、他端が第1のカーボン膜の他端と第2の間隙を挟んで対向する第2のカーボン膜と、
を有する電子放出素子であって、
前記第1の導電性膜と第2の導電性膜の対向方向をX方向、基板表面に平行で該X方向に直交する方向をY方向とした時、第1のカーボン膜及び第2のカーボン膜がそれぞれ、第1の導電性膜と第2の導電性膜が対向する部位からY方向に延びる延在部を有し、
前記第1のカーボン膜と第2のカーボン膜との間隙内において、基板表面が該カーボン膜の延在部の最外周部にまで連続して至る凹部を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2は、上記本発明の電子放出素子を複数備えたことを特徴とする電子源である。
【0011】
本発明の第3は、上記本発明の電子源と、該電子源から放出される電子を照射することにより発光する発光体とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【0012】
本発明の第4は、上記本発明の電子放出素子の製造方法であって、
表面に酸化シリコンを含有する基板上に間隙をおいて第1の導電性膜及び第2の導電性膜を形成した後、
炭素含有ガスを含む雰囲気下に、第1の導電性膜と第2の導電性膜との間にパルス状の電圧を印加して、第1の導電性膜に接続された第1のカーボン膜と、第2の導電性膜に接続された第2のカーボン膜とを形成すると同時に、第1のカーボン膜と第2のカーボン膜との間隙に凹部を形成し、
次いで、上記雰囲気よりも炭素含有ガスの分圧が高い雰囲気下において、第1の導電性膜と第2の導電性膜との間にパルス状の電圧を印加して、第1のカーボン膜と第2のカーボン膜にそれぞれ延在部を設けることを特徴とする。
【0013】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、
第1のカーボン膜及び第2のカーボン膜にそれぞれ延在部を設けた後、第1のカーボン膜及び第2のカーボン膜の間隙の基板表面を選択的にフッ化水素を含む水溶液に曝すことを好ましい態様として含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電子放出素子は、カーボン膜が延在部においても良好な間隙を有しており、間隙の形成不良によるリーク電流の発生や素子の放電破壊といった問題が防止される。よって、係る素子においては、導電性膜の間隙及びカーボン膜の間隙から安定して電子放出を行うことができる。そのため、従来の電子放出素子に比べて、より大きな電子放出量を得、より優れた電子放出効率を得ることができる。
【0015】
本発明の電子放出素子を用いてなる画像表示装置においては、低消費電力で且つ高輝度が実現し、高画質の画像表示を安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載の無い限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
図1は、本発明の電子放出素子の一実施形態を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)中のA−A’線での断面図、(c)は(a)中のB−B’線での断面図である。
【0018】
図1(a)乃至(c)では、基板1上に、第1の導電性膜4aに接続する第1の電極2と、第2の導電性膜4bに接続する第2の電極3とが載置された形態を示した。しかしながら、導電性膜4a,4bと不図示の電源とを接続できれば、電極2,3は省略することもできる。以下の説明において、第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bの対向方向をX方向、基板1表面に平行で該X方向に直交する方向をY方向とする。
【0019】
本発明の電子放出素子は、基板1上に、互いに間隙5を介して配置する第1の導電性膜4a、第2の導電性膜4bを有する。第1の導電性膜4aは一端が第1の電極2に接続され、第2の導電性膜4bは一端が第2の電極3に接続されている。また、第1の導電性膜4aの他端と第2の導電性膜4bの他端との間には第1の間隙5があり、第1の導電性膜4aの他端と第2の導電性膜4bの他端が間隙5を介して対向している〔図1(b)〕。
【0020】
第1のカーボン膜6a1は第1の導電性膜4aに接続され、第2のカーボン膜6b1は第2の導電性膜4bに接続されている。そして、X方向において第1のカーボン膜6a1の一端は、第1の導電性膜4aの少なくとも一部を覆っており、第2のカーボン膜6b1の一端は、第2の導電性膜4bの少なくとも一部を覆っている。そして、第1のカーボン膜6a1の他端と第2のカーボン膜6b1の他端とが、第2の間隙7aを挟んで対向している〔図1(b)〕。尚、カーボン膜6a1,6b1は導電性である。
【0021】
第2の間隙7aは、第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bとの間(間隙5内)に位置している。また、基板1の表面は、第2の間隙7a内に(間隙7aの直下に)、第1の間隙7aに沿って設けられた凹部9aを備えている。
【0022】
第1のカーボン膜6a1には、Y方向において第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bとが対向する部位から外に向かって延びる第1の延在部6a2が並設されており、第2のカーボン膜6b1には第2の延在部6b2が並設されている。第1の延在部6a2は、第1のカーボン膜6a1の両脇に、第1のカーボン膜6a1を挟むように配置されている。同様に、第2の延在部6b2は、第2のカーボン膜6b1の両脇に、第2のカーボン膜6b1を挟むように配置されている。
【0023】
そして、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、第3の間隙7bを隔てて対向している〔図1(c)〕。
【0024】
延在部6a2,6b2は、基板1の表面に直接設けられた(基板1の表面との間に導電性膜4a,4bを介さずに設けられた)導電性のカーボン膜である。そして同時に、延在部6a2,6b2は、第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bとで挟まれた領域(即ち第1の間隙5で定義される領域)の外側に位置する。また、第1のカーボン膜6a1と第1の延在部6a2とが連続しており、第2カーボン膜6b1と第2の延在部6b2とが連続している。そして、第3の間隙7bと第2の間隙7aも連続している。
【0025】
尚、説明の都合上、ここでは、カーボン膜6a1,6b1と延在部6a2,6b2とを分けて説明したが、前述したように延在部6a2,6b2を構成する材料は炭素であり、カーボン膜6a1,6b1と延在部6a2,6b2との明確な境界はない。従って、延在部6a2,6b2はカーボン膜6a1,6b1の一部分とみなすことができる。同様に、第3の間隙7bと第2の間隙7aとを、説明の都合上分けて説明したが、間隙7bと間隙7aも連続しており、間隙7bは間隙7aの一部分と見なすことができる。
【0026】
よって、以下の説明においては、第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bとが対向する部位のカーボン膜6a1,6b1をカーボン膜の対向部と呼び、該対向部6a1と該対向部6a1を挟む二つの延在部6a2,6a2とを併せてカーボン膜6aと呼ぶ。同様に、対向部6b1と該対向部6b1を挟む二つの延在部6b2,6b2とを併せてカーボン膜6bと呼ぶ。
【0027】
そして、本発明の電子放出素子の最も特徴とするところは、基板1の表面が、第2の間隙7aの直下(間隙7a内)に加えて、第3の間隙7bの直下(間隙7b内)にも、第2の凹部9bを備えていることである〔図1(b)、(c)〕。即ち、基板1の表面が、延在部を含めた一対のカーボン膜6a,6bを離間する間隙7a,7bの直下(間隙7a、7b内)に、1つの連続した(連通した)凹部9a,9bを備える。
【0028】
このように、凹部9bを設けることで、間隙7aからの電子放出に加え、間隙7bからも電子を安定に放出することができる。また、延在部6a2と6b2との間におけるリーク電流の発生を低減することができる。その結果、電子放出効率が高く、電子放出量が多く、また、安定な、電子放出特性を備える電子放出素子を得ることができる。
【0029】
基板1としては、ガラス(石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラスなど)、アルミナ等のセラミックス、及び、シリコン等を用いることができる。好ましくはこれらを基材10として、表面にパッシベーション層8を設けて基板1とする。パッシベーション層8は、絶縁体として機能する程度に十分に高抵抗な層であり、絶縁層と言うこともできる。
【0030】
パッシベーション層8の材料としては(好ましくは1000K超の)高い耐熱性を持ち、Naイオンの導電性膜4a,4b側への拡散を抑制する絶縁性材料(十分に高抵抗な材料)であれば良い。具体的には後述する活性化処理によって良好な電子放出特性を得るためにも、酸化シリコン層(典型的にはSiO2層)を用いることが好ましい。しかしながら、パッシベーション層8の材料としては、上記した要求を満たせば良いので、酸化シリコンに限定されるものではない。
【0031】
また、パッシベーション層8は、簡易には、基材10上の表面を全面覆うことが好ましいが、電子放出素子の領域(導電性膜4a,4b、カーボン膜6a,6b、間隙7a,7b)と基材10との間にのみ配置することもできる。また、パッシベーション層8は、少なくとも第3の間隙7b及び延在部6a2,6b2と、基材10との間に設けることが望ましい。
【0032】
また、パッシベーション層8は、好ましくは、間隙7a直下(間隙7a内)に形成される凹部9の深さ以上の十分な厚み(実用的には100nm以上1μm以下)を持つ。また、パッシベーション層8は、導電性膜4a,4bのY方向の両端部から十分な距離まで(実用的には10μm以上100μm以下)設ける必要がある。
【0033】
電極2,3の材料としては、一般的な導体材料を用いることができる。例えば、Ni、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或いは合金等から適宜選択されるが、これに限定されるものではない。第1の電極2と第2の電極3との間隔(電極間隔)L、電極長さW、導電性膜4a,4bの形状等は、応用される形態等を考慮して、適宜設計される。電極間隔Lは、実用的には、1μm以上100μmの範囲とすることができ、より好ましくは、5μm以上10μm以下の範囲とする。電極長さWは、電極の抵抗値、電子放出特性を考慮して、1μmから500μmの範囲とすることができる。電極2,3の膜厚dは、10nm以上5μm以下の範囲とする。
【0034】
導電性膜4a,4bを構成する材料としては、例えばPd、Pt、Ru、Ag、Au、Ti、In、Cu、Cr、Ni、Fe、Zn、Sn、Ta、W、Pb等の金属及びそれら金属を含む合金等が挙げられるが、これに限定されるものではない。導電性膜4には、良好な電子放出特性を得るために、その抵抗値は、実用上、後述する「通電フォーミング」処理を行うことを考慮して、Rsが102Ω/□以上107Ω/□以下の値であるのが好ましい。尚、Rsは、幅がwで長さがlの薄膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=Rs(l/w)と置いたときに表される値である。
【0035】
上述した本発明の電子放出素子の製造方法としては、様々な方法があるが、その一例を図2を用いて以下に説明する。
【0036】
〈工程1〉
基材10を洗剤、純水、有機溶剤等を用いて洗浄する。次いで、基材10上にスパッタ法やゾルゲル塗布法やCVD法等の各種の公知の成膜法により酸化シリコンを主成分とするパッシベーション層8を積層し、基板1を用意する〔図2(a)〕。
【0037】
尚、パッシベーション層8は、所定の形状になるように、基板10上でパターニングを行ってもよい。また、例えば石英、無アルカリガラス等の実質的にアルカリ成分を含まない部材を基材10として使用した場合には、パッシベーション層8を用いなくとも良い。
【0038】
〈工程2〉
基板1上に、真空蒸着法やスパッタ法等の公知の成膜方法により電極2、3の材料を堆積する。その後、例えばフォトリソグラフィー技術を用いて基板1上に第1の電極2と第2の電極3を形成する〔図2(b)〕。
【0039】
(工程3)
電極2,3を設けた基板1上に、第1の電極2と第2の電極3とを接続する導電性膜4を設ける〔図2(c)〕。導電性膜4の形成方法は、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法、スピンナー法等を用いることができるが、これらに限定するものではない。また、例えばインクジェット方式による塗布方法を用いることができる。
【0040】
〔工程4〕
次に、導電性膜4に間隙5を形成する。ここでは、「通電フォーミング」と呼ばれる処理を施す例を説明する。
【0041】
具体的には、電極2,3間に電圧の印加を行うことで、導電性膜4の一部に間隙5を設けることができる。換言すれば、結果的に間隙5で隔てられた一対の導電性膜4a,4bを形成することができる〔図2(d)〕。
【0042】
通電フォーミング処理に用いる電圧波形の一例を図3に示す。電圧波形は、特にパルス電圧であることが好ましい。図3(a)に示した手法は、パルス波高値を一定としたパルス電圧を繰り返し印加する手法である。また、図3(b)に示した手法は、パルス波高値を増加させながらパルス電圧を繰り返し印加する手法である。図3(a)及び図3(b)において、T1はパルス幅であり、T2はパルス間隔である。パルス波形は、三角波に限定されるものではなく、矩形波等の所望の波形を採用することができる。
【0043】
尚、ここでは、通電フォーミング処理により、間隙5で隔てられた一対の導電性膜4a、4bを形成したが、EBリソグラフィー等の、通電を用いない公知の方法によって、間隙5で隔てられた一対の導電性膜4a,4bを基板1上に設けることもできる。従って、工程3と工程4とをまとめて、一対の導電性膜4a,4bを基板1上に設ける工程と呼ぶこともできる。
【0044】
通電フォーミング処理以降の電気的処理は、例えば図4に示すような真空処理装置内で行うことができる。この真空処理装置は測定評価装置としての機能も兼ね備えた例である。
【0045】
図4において、45は真空容器であり、46は排気ポンプである。真空容器45内には上述した工程1乃至工程4を経た基板1が配されている。また、41は電子放出素子に電圧Vfを印加するための電源、40は第1電極2と第2電極3との間を流れる素子電流Ifを測定するための電流計である。44は電子放出素子から放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極であり電子放出素子の上方に配置されている。43はアノード電極44に電圧を印加するための高圧電源、42は放出電流Ieを測定するための電流計である。例えば、アノード電極44の電圧は1kV以上15kV以下の範囲とし、アノード電極44と基板1との距離Hは0.5mm以上8mm以下の範囲として測定を行うことができる。真空容器45には、真空計49が設けられている。また、真空容器45には、後述する活性化処理に用いる炭素化合物源47がバルブ48を介して接続されている。また、基板1を内包した真空処理装置の全体は、不図示のヒーターにより加熱できる構成となっている。
【0046】
〈工程5〉
次に、間隙7aで離間した一対のカーボン膜の対向部6a1,6b1を、導電性膜4a,4b上及び間隙5内に位置する基板1の表面上に、設ける〔図2(e)〕。
【0047】
カーボン膜の対向部6a1,6b1は、例えば、公知の活性化処理によって形成することができる。具体的には、炭素含有ガスを含む雰囲気下で第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bとの間にパルス状電圧を印加することで導電性膜4a,4b上及び間隙5内にカーボン膜を堆積することができる。
【0048】
上記炭素含有ガスとしては例えば有機物質ガスを用いることができる。有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることが出来る。具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCn2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCn2n等の組成式で表される不飽和炭化水素が使用できる。また、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等も使用できる。特にはトルニトリルが好ましく用いられる。
【0049】
図5に活性化工程で用いられる電圧波形の一例を示す。図5(a)中、T1は電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。また、図5(b)中、T1及びT1’はそれぞれ、電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、T1>T1’、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。
【0050】
間隙7a内の基板1表面が酸化シリコンを含む場合、この活性化処理によって、基板1の表面に凹部9aを形成することができる〔図2(e)〕。凹部9aの形成は、活性化処理に用いられるガスに含まれる炭素或いは基板上に堆積した炭素と、基板1に含まれる酸化シリコンとの反応に起因すると推測される。その主因となる反応はSiO2+C→SiO↑+CO↑と推測される。そして、活性化処理時には、第1の導電性膜4aと第2の導電性膜4bとの間に電流が流れる(熱エネルギーが加わる)ので、上記反応が推進されるものと推察される。また、この凹部9aの形成が電子放出特性に大きく関わる。
【0051】
尚、カーボン膜の対向部6a1,6b1の形成方法としては、炭素含有ガス中で電子線を基板1上の所定の領域に選択的に照射することで形成することも可能である。このように、間隙7aで離間した、一対のカーボン膜の対向部6a1,6b1の形成方法は活性化処理に限定されるものではない。
【0052】
〈工程6〉
次に、カーボン膜の延在部6a2,6b2を設ける。延在部6a2,6b2を設けるためには、例えば、上述した活性化処理を終えた後に、炭素含有ガスの分圧が、活性化処理における炭素含有ガスの分圧よりも高い雰囲気下で、パルス状の電圧の印加を繰り返すことで行うことができる。また、炭素含有ガスを含む雰囲気下で、延在部6a2,6b2を設けたい所定の領域に電子ビームを選択的に照射することで、延在部6a2,6b2を設けることもできる。
【0053】
ここでは、工程5と工程6とを別の工程としたが、工程5と工程6を連続して行うこともできる。このような場合は、工程5と工程6とを1つの工程とみなすことができる。
【0054】
〈工程7〉
次に、間隙7a内(間隙7a直下)の基板1の表面、及び、間隙7b内(間隙7b直下)の基板1の表面に、十分な幅と深さを備える凹部9a,9bを形成する。
【0055】
尚、工程5で活性化処理により第1の凹部9aを既に設けている場合には、この工程では、少なくとも第2の凹部9bを形成すればよい。また、工程5で既に設けた第1の凹部9aが十分な大きさではない場合には、本工程でその大きさを拡大することができる。
【0056】
また、工程6で間隙7bが十分に形成されておらず、延在部(特に延在部の最外周部)で第1の延在部6a2と第2の延在部6b2がつながっている場合には、本工程によって、延在部での電気的なつながりを低減することができる。典型的には、間隙7bを延在部の最外周部まで伸ばす、或いは、延在部の間隙7bの幅を拡張する。
【0057】
本工程は、例えば、間隙7a内の基板1の表面、及び、間隙7b内の基板1の表面を、選択的にフッ化水素を含む水溶液に曝すことで、エッチング処理して凹部9a,9bの形成を行うことができる。
【0058】
凹部9a,9bの形態としては、実用的には、その深さが30nm以上100nm以下、幅が5nm以上20nm以下であることが好ましい。ここで使用されるフッ化水素を含む水溶液の濃度は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下であると実用上好ましい。しかしながら、凹部9a,9bが形成されるのであれば、濃度は上記範囲に限定されるものではない。また、フッ化水素を含む水溶液には、フッ化水素を含む緩衝溶液も含まれる。また、このウェットエッチングにより凹部9a,9bが形成されやすいように、少なくとも間隙7bが形成されるであろう部分の直下に位置するパッシベーション層8上に、予め多孔質シリカ膜(不図示)を形成しておくことが好ましい。尚、エッチング方法として、ここではフッ化水素によるウェットエッチングを例示したが、ドライエッチングなど様々なエッチング方法を適宜用いることができる。
【0059】
本工程により、所定の深さと幅を持つ凹部9a,9bを制御して形成することができる。その結果、延在部6a2,6b2からの安定な電子放出を行うことができる。また、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とを介した電流リーク成分を低減することができるので、電子放出量の増大、安定な電子放出、並びに、電子放出効率の向上を行うことができる。さらには、凹部9a,9bの形状を制御することができるので、複数の電子放出素子を形成する場合は、電子放出特性の均一性を向上することができる。
【0060】
〈工程8〉
上記した工程1乃至工程7を経て得られた電子放出素子に対して、好ましくは、安定化工程を行う。
【0061】
この工程は、高い真空度(活性化処理を施した場合は該活性化処理における真空度より高い真空度)の雰囲気下で、電子放出素子や、その周辺の基板1の表面などから不要な有機物質を除去する工程である。上記真空度としては、有機物質の分圧が、10-6Pa以下であることが好ましく、さらには10-8Pa以下であることが特に好ましい。また、全圧としては、極力低くすることが好ましく、実用的には、10-5Pa以下であることが好ましく、さらには10-6Pa以下であることが特に好ましい。
【0062】
以上の工程で、本発明の電子放出素子を形成することができる。
【0063】
本発明の電子放出素子の駆動時の雰囲気は、上記安定化工程終了時の雰囲気を維持するのが好ましい。しかしながら、有機物質が十分除去されていれば、圧力自体は多少上昇しても十分安定な特性を維持することが出来る。このような真空雰囲気を採用することにより、新たなカーボン或いはカーボン化合物の、電子放出素子上や電子放出素子周辺の基板1表面上への堆積を抑制でき、結果として素子電流If,放出電流Ieが、安定する。
【0064】
次に、本発明の電子放出素子を複数個基板上に配列し、電子源や画像表示装置を構成する例について説明する。
【0065】
電子放出素子の配列については、種々のものが採用できる。一例として、図6に模式的に示すマトリクス配列を採用できる。この例では、電子放出素子54をX方向及びY方向に行列状に複数個(m×n個)配列している。そして、同じ行に配された複数の電子放出素子54の電極2,3の一方を、1つのX方向の配線(Dx1〜Dxm)に共通に接続する。そして、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極2,3の他方を、1つのY方向の配線(Dy1〜Dym)に共通に接続する。このようなマトリクス配列の電子源について以下に図6を用いて説明する。
【0066】
図6において、51は電子源基板、52はX方向配線、53はY方向配線である。54は電子放出素子である。
【0067】
m本のX方向配線52は、Dx1、Dx2、……Dxmからなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は適宜設計される。Y方向配線53は、Dy1、Dy2、……Dynのn本の配線よりなり、X方向配線52と同様に形成される。これらm本のX方向配線52とn本のY方向配線53との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m、nは、共に正の整数)。
【0068】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO2や絶縁性の金属酸化物及びそれらの混合物等で構成される。例えば、X方向配線52を形成した基板51の全面或いは一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線52とY方向配線53の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が適宜設定される。X方向配線52とY方向配線53は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0069】
電子放出素子54を構成する前述した一対の電極2,3は、それぞれm本のX方向配線52とn本のY方向配線53に電気的に接続されている。
【0070】
配線52と配線53を構成する材料及び一対の電極2,3を構成する材料は、その構成元素の一部或いは全部が同一であっても、またそれぞれが異なってもよい。これらの材料は、例えば前述の電極の材料より適宜選択される。電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、電極に接続した配線は電極ということもできる。
【0071】
X方向配線52には、X方向に配列した電子放出素子54の行を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線53には、Y方向に配列した電子放出素子54の各列を入力信号に応じて変調するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0072】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。
【0073】
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像形成装置について、図7と図8を用いて説明する。図7は、画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図であり、図8は、図7の画像表示装置に使用される発光体としての蛍光膜の模式図である。
【0074】
図7において、51は図6に示した電子放出素子を複数配した電子源基板、61は電子源基板51を固定したリアプレート、66はガラス基板63の内面に発光体としての蛍光膜64とメタルバック65等が形成されたフェースプレートである。62は支持枠であり、該支持枠62には、リアプレート61、フェースプレート66が接着材等を用いて接続されている。68は外囲器である。
【0075】
54は、図1に示したような電子放出素子である。52、53は、図6に示した、表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極2,3と接続されたX方向配線及びY方向配線である。
【0076】
外囲器68は、上述の如く、フェースプレート66、支持枠62、リアプレート61で構成される。リアプレート61は主に基板51の強度を補強する目的で設けられるため、基板51自体で十分な強度を持つ場合は別体のリアプレート61は不要とすることができる。即ち、基板51に直接支持枠62を封着し、フェースプレート66、支持枠62及び基板51で外囲器68を構成してもよい。
【0077】
図8は、蛍光膜を示す模式図である。カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体の配列により、ブラックストライプ〔図8(a)〕或いはブラックマトリクス〔図9(b)〕等と呼ばれる黒色部材71と蛍光体72とから構成することができる。蛍光膜64の内面側には、通常メタルバック65が設けられる。
【0078】
以上説明した本発明の画像形成装置は、テレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システムやコンピューター等の表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される範囲内での各要素の置換や設計変更がなされたものをも包含する。
【0080】
[実施例1]
図1に例示した電子放出素子を、図2に示した工程に沿って製造した。
【0081】
(工程−a)
ガラス基材10(旭硝子製 PD200)を洗剤、純水及び有機溶剤等を用いて十分に洗浄し、Rfスパッタ装置にてSiO2からなるパッシベーション層8を厚さ約250nm積層し基板1とした〔図2(a)〕。
【0082】
(工程−b)
基板1上に、スパッタ法により、厚さ5nmのTi、厚さ40nmのPtを順次堆積し、電極2,3のパターンが覆われるようにエッチングマスク(フォトレジスト)を形成した。次に、Arプラズマによるドライエッチングを行い、続いて、残っているエッチングマスクを溶解除去し、電極2,3を形成した〔図2(b)〕。電極2,3の間隔Lは30μm、幅Wは300μmとした。
【0083】
(工程−c)
電極2,3間を接続する導電性膜4のパターンに対応する開口部を有するマスクを形成した。次に、スパッタ法により、厚さ10nmのPd膜を堆積し、有機溶剤でマスクを溶解し、不要な部分のPd膜をリフトオフして、Pdからなる導電性膜4を形成した〔図2(c)〕。導電性膜4の幅は、Y方向において100μmである。
【0084】
(工程−d)
図4に示す真空容器45内に導電性膜4を設けた基板1を設置した。真空容器45内を排気ポンプ46にて排気し、2.7×10-6Paの真空度に達した後、素子電圧Vfを印加するための電源41より、電極2,3間に電圧を印加し、通電フォーミング処理を施した。フォーミング処理の電圧波形は、矩形波であり、図3(b)に示したものと同様に徐々に波高値を上昇させた。
【0085】
本例では、パルス幅T1は1msec、パルス間隔T2は10msecとし、矩形波の波高値は0Vから0.1Vステップで徐々に上昇させた。また、通電フォーミング処理中に、パルスとパルスの間に波高値0.1Vの抵抗測定用のパルスを挿入して電流を測ることにより抵抗を検知し、抵抗値が1MΩを超えたところで通電フォーミング処理を終了した。
【0086】
(工程−e)
続いて、排気装置により真空容器45内を更に排気し、圧力が5×10-6Pa以下となってから、トルニトリルの入った炭素化合物材料源47につながるバルブ48を開いて、真空容器45にトルニトリルガスを導入し、圧力を1.0×10-4Paとした。
【0087】
次に、電極2,3間に、図5(a)に示すような、波高値、パルス幅一定で極性を反転させる矩形波パルスを繰り返し印加した。波高値は±16V、パルス幅T1は1msec、パルス間隔T2は10msecとした。
【0088】
トルニトリルの存在下で矩形波パルスを印加したことで、If値が増加し、約50分でIf値の上昇が緩やかになってほぼ飽和したので、更に10分続けた後に、電圧の印加を停止し、真空容器45内部を排気し、活性化処理を終了する。この工程によって、カーボン膜6a1,6b1の堆積と、間隙7aの形成と、凹部9aの形成を行った。
【0089】
(工程−f)
続いて、再度トルニトリルを、工程−eでの圧力よりも高い圧力(2.7×10-3Pa)で、真空容器45内に導入し、電極2,3間にパルス電圧を20分間印加した。パルス電圧の印加波形及び波高値は、工程−eと同じである。
【0090】
以上の手順の後、光学顕微鏡により電子放出素子の観察を行ったところ、図1(a)に模式的に示す形態の電子放出素子が得られたことが確認された。延在部6a2,6b2のXcは9.2μmであり、Ycは3.4μmであった。
【0091】
更に、この延在部6a2,6b2と対向部6a1,6b1のオージェ分析を行うと、両方ともカーボンから構成されていることがわかる。
【0092】
また、FIB−SEMによって、電子放出素子の中心から最も離れた部分(最外周部)の、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2との間に位置する間隙7bを含む断面形状の観察を行うと、この時点では、明瞭な凹部9bの存在は確認できなかった。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで離間されているかどうか定かでない状態(間隙7bの確認が困難な状態)であった。
【0093】
一方、対向部6a1と6b1間の間隙7aを含む断面形状の観察を行うと、凹部9aの存在が確認され、その深さは20乃至50nmであることが確認できた。
【0094】
(工程−g)
続いて、基板1を大気中に取出し、0.4%フッ化水素酸水溶液に1分間浸して処理した後、純水にてフッ化水素酸水溶液を5分間洗い流した。
【0095】
以上の手順の後、FIB−SEMによって延在部6a2,6b2の間隙7bの断面形状の観察を行うと、図1(c)の様な凹部9bが形成されているのが観察された。凹部9bの深さは50乃至80nmであった。同様に、対向部6a1,6b1の間隙7aの断面形状の観察を行ったところ、凹部9aの深さは50乃至80nmに拡大していることが確認できた。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで明確に離間されていることが確認された。
【0096】
(工程−h)
次に、安定化処理を行った。図4の真空処理装置内で250℃のベーキング温度で10時間行い、安定化工程終了とした。この後、真空処理装置内を室温に戻しつつ排気し、真空度を2.8×10-8Paとした。
【0097】
その後、電極2,3間にパルス状の電圧16V/1msecを60Hzの周波数で印加した。更に、リーク電流を測定するため、上記パルスの終わりに5V/100μsecを設けて、階段状パルスとした。また、電子放出素子の上方2mmの位置にアノードを設け、アノードに1kVの電圧を印加した。そして、測定の結果、リーク電流は約1.1μAで、初期の素子電流Ifは約1.2mA、初期の放出電流Ieは約3.5μAであった。電子放出効率ηは約0.29%と大きく、また、放出電流値は揺らぎが少なく安定していた。
【0098】
尚、工程−gのフッ化水素を含む水溶液による処理を行わずに作製した電子放出素子については、リーク電流が約6.3μA、初期の素子電流Ifが約2.3mA、初期の放出電流Ieが約5.1μAで、電子放出効率ηは約0.22%であった。
【0099】
従って、フッ化水素を含む水溶液による処理を行うことによりリーク電流の減少と約3割強の電子放出効率ηの向上及び、放出電流Ieの増加がみられた。
【0100】
[実施例2]
本実施例で作製した電子放出素子は、実施例1と、パッシベーション層8を用いない点で異なる。以下、図2を用いて、本例における電子放出素子の製造方法を順を追って説明する。
【0101】
(工程−a)
石英ガラス基板を純水及び有機溶剤等を用いて十分に洗浄し、基板1とした。
【0102】
工程−bから工程−dについては実施例1と同様に行った。
【0103】
工程−e、工程−fは、波高値を±15Vに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0104】
この工程の後、光学顕微鏡により観察を行ったところ、図1(a)に模式的に示す形態の電子放出素子が得られたことが確認された。延在部6a2,6b2のXcは9.2μm、Ycは3.2μmであった。
【0105】
更に、この延在部6a2,6b2と対向部6a1,6b1のオージェ分析を行ったところ、両方ともカーボンから構成されていることがわかった。
【0106】
また、FIB−SEMによって電子放出素子の中心から最も離れた部分(最外周部)の、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2との間に位置する間隙7bを含む断面形状の観察を行ったところ、この時点では、明瞭な凹部9bの存在は確認できなかった。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで離間されているかどうか定かでない状態(間隙7bの確認が困難な状態)であった。
【0107】
一方、対向部6a1と6b1間の間隙7aを含む断面形状の観察を行うと、凹部9aの存在が確認され、その深さは30乃至40nmであることが確認できた。
【0108】
工程−gについても実施例1と同様に行った。その後、FIB−SEMによって延在部6a2,6b2の間隙7bの断面形状の観察を行ったところ、図1(c)の様な凹部9bが形成されているのが観察され、凹部9bの深さは45乃至90nmであることが確認できた。同様に、対向部6a1と6b1の間隙7aの断面形状の観察を行ったところ、凹部9aの深さは45乃至90nmに拡大していることが確認できた。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで明確に離間されていることが確認された。
【0109】
工程−hについても実施例1と同様に安定化処理を行った。
【0110】
その後、電極2,3間にパルス状の電圧15V/1msecを60Hzの周波数で印加した。更に、リーク電流を測定するため、上記パルスの終わりに5V/100μsecを設けて、階段状パルスとした。また、電子放出素子の上方2mmの位置にアノードを設け、アノードに1kVの電圧を印加した。そして、測定の結果、リーク電流は約1.0μAで、初期の素子電流Ifは約1.1mA、初期の放出電流Ieは約3.2μAであった。電子放出効率ηは約0.29%と大きく、また、放出電流値は揺らぎが少なく安定していた。
【0111】
尚、工程−gのフッ化水素を含む水溶液による処理を行わずに作製した電子放出素子については、リーク電流が約6.1μA、初期の素子電流Ifが約2.4mA、初期の放出電流Ieが約5.0μAで、電子放出効率ηは約0.21%であった。
【0112】
従って、フッ化水素を含む水溶液による処理を行うことによりリーク電流の減少と約4割弱の電子放出効率ηの向上及び、放出電流Ieの増加がみられた。
【0113】
[実施例3]
図9は、本例の電子放出素子を示す説明図である。
【0114】
本例の電子放出素子は、実施例1の電子放出素子の導電性膜4をインクジェット法により形成した点、及び、パッシベーション層8をポリシラザン溶液を用いて形成した点、において異なる。その他については基本的には実施例1と同様である。
【0115】
以下、図9及び図2を用いて、本実施例における電子放出素子の製造方法を順を追って説明する。
【0116】
(工程−a)
ソーダライムガラスからなるガラス基板を洗剤、純水及び有機溶剤等を用いて十分に洗浄し、ポリシラザン溶液であるアクアミカ(AZエレクトロニックマテリアルズ製 NN110−20)をガラス基板上に30秒間、2000回転/分にてスピン塗布した。続いて、100℃で10分間乾燥後、水分を含む大気圧雰囲気中にて500℃で1時間焼成することで、パッシベーション層(酸化シリコン層)8を厚さ約380nmに形成した基板1を作製した〔図2(a)〕。
【0117】
(工程−b)
基板1上に、実施例1と同様の製造方法で、電極2,3を形成した〔図2(b)〕。電極2,3の間隔Lは30μm、電極の幅Wは300μmとした。
【0118】
工程−c
電極2,3間を接続するように、バブルジェット(登録商標)方式のインクジェット装置を用いて、Pd含有水溶液を電極2,3間に付与した。水溶液は、酢酸パラジウムモノエタノールアミン錯体0.15%(Pd質量%)、イソプロピルアルコール15質量%、エチレングリコール1質量%、ポリビニルアルコール0.05質量%を含有する水溶液である。
【0119】
その後、基板1を350℃で30分間焼成し、導電性膜4を形成した〔図2(c)〕。こうして形成されたPd膜4は膜厚が約10nm、径が約80μmの円形状に形成された。
【0120】
(工程−d)
実施例1と同様の方法で、通電フォーミング処理をした〔図2(d)〕。
【0121】
(工程−e)
続いて、実施例1と同様に、活性化処理を行った。但し、本例では、トルニトリルガスの圧力を1.0×10-4Paとし、波高値は±18Vとした。
【0122】
(工程−f)
続いて、実施例1と同様に、再度トルニトリルを、工程−eでの圧力よりも高い圧力(2.7×10-3Pa)で、真空容器45内に導入し、電極2,3間にパルス電圧を20分間印加した〔図2(e)〕。パルス電圧の印加波形及び波高値は、工程−eと同じである。
【0123】
以上の手順の後、光学顕微鏡により電子放出素子の観察を行ったところ、図9に模式的に示す形態の電子放出素子が得られたことが確認された。延在部6a2,6b2のXcは約10.2μmであり、Ycは約3.5μmであった。
【0124】
更に、延在部6a2,6b2と対向部6a1,6b1のオージェ分析を行うと、両方とも、カーボンから構成されていることがわかった。
【0125】
また、FIB−SEMによって、電子放出素子の中心から最も離れた部分(最外周部)の、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2との間に位置する間隙7bを含む断面形状の観察を行ったところ、この時点では、明瞭な凹部9bの存在は確認できなかった。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで離間されているかどうか定かでない状態(間隙7bの確認が困難な状態)であった。
【0126】
一方、対向部6a1,6b1間の間隙7aを含む断面形状の観察を行ったところ、凹部9aの存在が確認され、その深さは20乃至50nmであることが確認できた。
【0127】
(工程−g)
続いて、電子放出素子を大気中に取出し、0.4%フッ化水素酸水溶液に1分間浸して処理した後、純水にてフッ化水素酸水溶液を5分間洗い流した。
【0128】
以上の手順の後、FIB−SEMによって延在部6a2,6b2の間隙7bの断面形状の観察を行ったところ、図1(c)の様な凹部9bが形成されているのが観察され、凹部9bの深さは50乃至100nmであった。同様に、対向部6a1,6b1の間隙7aの断面形状の観察を行ったところ、凹部9aの深さは60乃至110nmに拡大していることが確認できた。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで明確に離間されていることが確認された。
【0129】
(工程−h)
次に、実施例1と同様にして安定化処理を行った。
【0130】
その後、電極2,3間にパルス状の電圧18V/1msecを60Hzの周波数で印加した。更に、リーク電流を測定するため、上記パルスの終わりに5V/100μsecを設けて、階段状パルスとした。また、電子放出素子の上方2mmの位置にアノードを設け、アノードに1kVの電圧を印加した。そして、測定の結果、リーク電流は約0.8μAで、初期の素子電流Ifは約1.0mA、初期の放出電流Ieは約3.1μAであった。電子放出効率ηが約0.31%と大きく、また、放出電流値及び素子電流値は揺らぎが少なく安定していた。
【0131】
尚、工程−gにおいてフッ化水素を含む水溶液による処理を行わずに作製した電子放出素子については、リーク電流が約6.6μA、初期の素子電流Ifが約2.1mA、初期の放出電流Ieが約4.9μAで、電子放出効率ηは約0.23%であった。
【0132】
従って、フッ化水素を含む水溶液による処理を行うことによりリーク電流の減少と約3割強の電子放出効率ηの向上及び、放出電流Ieの増加がみられた。
【0133】
[実施例4]
本実施例は、図6に模式的に示す、多数の電子放出素子をマトリクス配線した電子源を用いて、図7に模式的に示す画像表示装置を作製した例である。図10は、本例の電子放出素子の部分を拡大した模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’断面図、(c)は(a)のB−B’断面図である。
【0134】
本例においては、実施例3の工程−a、bと同様の工程を用いて、一対の電極2,3を複数形成した後、従来公知のマトリクス配線を形成した。その後に実施例3の工程−c乃至工程−gの順に行い、真空雰囲気下にてフェースプレート及び支持枠により封着を行って表示パネルを作製した。
【0135】
先ず、本例の電子源基板の製造方法を、より詳しく工程順に説明する。尚、以下に説明する工程−a乃至工程−gは、実施例3とほぼ同様の工程である。
【0136】
(工程−a)
プラズマディスプレイ用ガラス(旭硝子製 PD200)からなるガラス基板を洗剤、純水及び有機溶剤等を用いて十分に洗浄した。その後、ポリシラザン溶液であるアクアミカ(AZエレクトロニックマテリアルズ製 NN110−20)をガラス基板上にインクジェット法にて付与した。付与する位置は、各電子放出素子を形成するエリア毎に、互いに離間するようにした。そして、100℃10分間乾燥後、水分を含む大気圧雰囲気中にて550℃で1時間焼成することで直径120μm、中心から半径50μmまでの平均膜厚が350nmの酸化シリコンからなるパッシベーション層(Naブロック層)8を形成した。
【0137】
(工程−b)
基板1上に、実施例1と同様の方法で、一対の電極2,3をX方向にn個、Y方向にm個形成した(mとnは共に正の整数)。電極2と電極3との間隔Lは20μm、電極の幅Wは300μmとした。
【0138】
続いて、マトリクス配線を形成した。該配線は、m本のX方向配線52が、Dx1、Dx2、……Dxmからなり、スクリーン印刷法を用いてAgを主成分とした金属ペースト材料を印刷し、480℃にて10分間焼成して形成した。
【0139】
また、これらm本のX方向配線52とn本のY方向配線53を重ねて形成する予定の箇所には、不図示の層間絶縁層を設け、両配線を電気的に分離した。
【0140】
不図示の層間絶縁層は、スクリーン印刷法を用いて形成された酸化鉛を含むガラス材料で構成され、約480℃にて20分間焼成を行うことにより形成され、印刷及び焼成を2回繰り返すことにより重ねて2層形成した。Dy1、Dy2、……Dynのn本の配線よりなるY方向配線53も、X方向配線52と同様に形成した。
【0141】
(工程−c)
実施例3と同様の方法にて、Pd水溶液を各々の電極2,3間に付与し、膜厚が約10nm、直径が約80μmの円形状のPd膜4を形成した。尚、Pd膜の各々は、工程−aで設けたパッシベーション層8の各々の領域内に納まるように配置した。
【0142】
(工程−d)
実施例3と同様の条件にて、図6におけるDx1とDy1を通じて、各々の電極2,3間に通電フォーミング処理した。尚、フォーミング処理はDx1からDxnまで順次パルス波形が印加されるようにした。また、この時、Dy1からDynまでは、接地した。
【0143】
(工程−e)
実施例3と同様の条件にて、活性化処理を行った。
【0144】
(工程−f)
続いて、実施例3と同様に、再度トルニトリルを、工程−eでの圧力よりも高い圧力(2.7×10-3Pa)で、各々の電極2,3間にパルス電圧を20分間印加した。パルス電圧の印加波形及び波高値は、工程−eと同じとした。
【0145】
以上の手順の後、光学顕微鏡により各電子放出素子の観察を行ったところ、延在部6a2,6b2のXcは平均9.5μm、Ycは平均3.4μmであった。
【0146】
更に、延在部6a2,6b2と対向部6a1,6b1のオージェ分析を行ったところ、両方とも、カーボンから構成されていることがわかる。
【0147】
また、FIB−SEMによって、電子放出素子の中心から最も離れた部分(最外周部)の、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2との間に位置する間隙7bを含む断面形状の観察を行ったところ、この時点では、明瞭な凹部9bの存在は確認できなかった。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで離間されているかどうか定かでない状態(間隙7bの確認が困難な状態)であった。
【0148】
一方、対向部6a1,6b1間の間隙7aを含む断面形状の観察を行うと、凹部9aの存在が確認され、その深さは20乃至50nmであることが確認できた。
【0149】
(工程−g)
続いて、この電子源基板を大気中に取出し、0.4%フッ化水素酸水溶液に1分間浸して処理した後、純水にてフッ化水素酸水溶液を5分間洗い流した。
【0150】
以上の手順の後、FIB−SEMによって延在部6a2,6b2の間隙7bの断面形状の観察を行ったところ、図1(c)の様な凹部9bが形成されているのが観察され、凹部9bの深さは50乃至100nmであることを確認した。同様に、対向部6a1,6b1の間隙7aの断面形状の観察を行ったところ、凹部9aの深さは60乃至110nmに拡大していることが確認できた。また、延在部6a2,6b2の最外周部では、第1の延在部6a2と第2の延在部6b2とが、間隙7bで明確に離間されていることが確認された。
【0151】
(工程−h)
次に、実施例3と同様にして安定化処理を行った。
【0152】
(工程−i)
次に、以上のようにして作製した複数の導電性膜4がマトリクス配線された基板51と、ガラス基板63上に蛍光膜64とメタルバック65を備えるフェースプレート66とを用いて画像表示パネルを作製した(図7)。尚、図7では、電子源基板51とリアプレート61を別部材として示しているが、ここでは、基板1が電子源基板51とリアプレート61とを兼ねている。
【0153】
次に、上記画像表示パネルの容器外端子Dx1からDxmとDy1からDyn及び高圧端子67を駆動回路に接続し、画像表示装置を完成した。
【0154】
各電子放出素子に、容器外端子Dx1からDxmとDy1からDynを通じて、走査信号及び変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子放出させた。そして、高圧端子67を通じてメタルバック65に数kV以上の高圧を印加して、放出された電子を蛍光膜64に衝突させ、発光させることで画像を表示した。
【0155】
その結果、本例の画像表示装置では、高輝度で均一性の高い画像を長期に渡って、低消費電力で表示することができた。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明に係る電子放出素子の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の電子放出素子の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の電子放出素子の製造において用いられるフォーミング電圧波形の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の電子放出素子の製造において用いられる真空処理装置の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の電子放出素子の製造において用いられる活性化処理における電圧波形の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の電子源の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の画像形成装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【図8】表示パネルにおける蛍光膜の一例を示す模式図である。
【図9】実施例3における電子放出素子を示す模式図である。
【図10】実施例5の電子放出素子を示した模式図である。
【符号の説明】
【0157】
1 基板
2,3 電極
4,4a,4b 導電性膜
5,7a,7b 間隙
6a1,6b1 カーボン膜の対向部
6a2,6b2 カーボン膜の延在部
8 パッシベーション膜
9a,9b 凹部
10 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に間隙をおいて配置された第1の導電性膜及び第2の導電性膜と、
一端が第1の導電性膜に接続され、他端が第1の導電性膜と第2の導電性膜の間隙に位置する第1のカーボン膜と、
一端が第2の導電性膜に接続され、他端が第1のカーボン膜の他端と第2の間隙を挟んで対向する第2のカーボン膜と、
を有する電子放出素子であって、
前記第1の導電性膜と第2の導電性膜の対向方向をX方向、基板表面に平行で該X方向に直交する方向をY方向とした時、第1のカーボン膜及び第2のカーボン膜がそれぞれ、第1の導電性膜と第2の導電性膜が対向する部位からY方向に延びる延在部を有し、
前記第1のカーボン膜と第2のカーボン膜との間隙内において、基板表面が該カーボン膜の延在部の最外周部にまで連続して至る凹部を備えていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
請求項1に記載の電子放出素子を複数備えたことを特徴とする電子源。
【請求項3】
請求項2に記載の電子源と、該電子源から放出される電子を照射することにより発光する発光体とを有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電子放出素子の製造方法であって、
表面に酸化シリコンを含有する基板上に間隙をおいて第1の導電性膜及び第2の導電性膜を形成した後、
炭素含有ガスを含む雰囲気下に、第1の導電性膜と第2の導電性膜との間にパルス状の電圧を印加して、第1の導電性膜に接続された第1のカーボン膜と、第2の導電性膜に接続された第2のカーボン膜とを形成すると同時に、第1のカーボン膜と第2のカーボン膜との間隙に凹部を形成し、
次いで、上記雰囲気よりも炭素含有ガスの分圧が高い雰囲気下において、第1の導電性膜と第2の導電性膜との間にパルス状の電圧を印加して、第1のカーボン膜と第2のカーボン膜にそれぞれ延在部を設けることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
第1のカーボン膜及び第2のカーボン膜にそれぞれ延在部を設けた後、第1のカーボン膜及び第2のカーボン膜の間隙の基板表面を選択的にフッ化水素を含む水溶液に曝す請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−9965(P2010−9965A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168752(P2008−168752)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】