説明

電子放出素子及びその製造方法並びに面発光素子

【課題】電界集中が容易で、電子放出能及びその均一性、安定性に優れ、かつ簡便で制御性が高いプロセスで作製できるナノ炭素材料を用いた電子放出素子及びその製造方法並びに面発光素子を提供することである。
【解決手段】強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子において、基体と、前記基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であり、かつ、高さが100nm以上100μm以下であるファイバー状のナノ炭素材料と、を具備することを特徴とする電子放出素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子(フィールドエミッタ)とそれを面電子源として利用した面発光素子に関する。より詳しくは、表示装置、非発光ディスプレイ用バックライト光源、あるいは照明ランプ等に利用される電子放出素子とそれを面電子源として用いた面発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主に動画を表示するテレビ受像器や、静止画を表示するコンピュータ端末用のモニタに使用されていた陰極線管を用いたディスプレイ(CRT)が、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)などのフラットパネルディスプレイに急速に置き換わっている。また、従来のCRTと同じカソードルミネッセンスを原理とする、次世代の高輝度フラットパネルディスプレイとして、フィールドエミッションディスプレイ(FED)の研究開発が進められている。
【0003】
一方、一般照明としての発光素子は、20世紀初頭から白熱灯や蛍光灯が長年にわたり用いられてきている。このうち蛍光灯は白熱灯と比べると同じ明るさでも消費電力を低く抑えられるという特徴を有しており、今日でも照明として広く利用されている。
【0004】
また、前述した非発光素子で光のシャッター機能しかもたないLCDでは、高輝度ディスプレイとして用いるためにバックライトが不可欠である。バックライトには、立体型の蛍光灯と拡散用の反射板を組み合わせ薄型化した、蛍光管が用いられている。
【0005】
蛍光灯は、フィラメントから放出された電子が、蛍光管内に封入されている気体の水銀と衝突し紫外線を発し、この紫外線が蛍光管の内側に塗布された蛍光体を励起し可視光を発光する。
【0006】
しかしながら、照明やLCDのバックライトとして用いられる蛍光灯には、水銀が含まれており、今後、環境汚染という点で大きな課題を抱えており、代替えの照明装置が強く求められている。
【0007】
一方、近年、白色灯や蛍光灯などの既存の照明に代わり、発光ダイオード(LED)を光源とした表示装置や照明が開発され、普及し始めている。最近では、信号機や街頭あるいは店頭用ディスプレイなどの表示装置、LCD用のバックライト、車載照明、電子機器用表示ランプ、懐中電灯などで利用されている。
【0008】
LEDは、半導体を用いたpn接合と呼ばれる構造で作られている。電極から半導体に注入された電子と正孔は異なったエネルギー帯(伝導帯と価電子帯)を流れ、pn接合部付近にて禁制帯を越えて再結合する。再結合の際にほぼ禁制帯幅(バンドギャップ)に相当するエネルギーが光子、すなわち光として放出される。
【0009】
しかしながら、LEDは上述したように、半導体のキャリアの再結合により発光する原理であるため、材料のバンド構造で決められた固有の波長の単色光であり、かつ点光源であるため、特にバックライトや照明などの大面積に均一に、そして白色などのブロードな波長で利用するアプリケーションには不適である。特に、白色表示にする場合には、紫外線発光素子としてLEDを用い、その紫外線で蛍光体を発光させる構成が必要となっている。
【0010】
これに対し、FEDと同様の方式で、面電子源から放出される電子で蛍光体を発光させることで、薄型かつ高輝度の面発光素子が容易に得られると考えられる。
【0011】
電界電子放出素子すなわちフィールドエミッタは、物質に印加する電界の強度を上げると、その強度に応じて物質表面のエネルギー障壁の幅が次第に狭まり、電界強度が10V/cm以上の強電界となると、物質中の電子がトンネル効果によりそのエネルギー障壁を突破できるようになる。そのため物質から電子が放出されるという現象を利用している。この場合、電場がポアッソンの方程式に従うために、電子を放出する部材(エミッタ)に電界が集中する部分を形成すると、比較的低い引き出し電圧で効率的に冷電子の放出を行うことができる。
【0012】
このようなフィールドエミッタを利用する面発光素子の構造としては、高真空の平板セル中に、微小な電子放出素子をアレイ状に配し、対向して蛍光体を塗布したアノード基板を設けたもの、即ち、FEDと同じパネル構造が考えられる。
【0013】
従来のFEDの技術を用いた面発光素子は、図5のように構成することができる。図5に示す面発光素子30は、カソード側基体31上に導電層32を介して複数の先端の尖った円錐形のエミッタ33が形成され、これらエミッタ33を取り巻くように、絶縁層34及びゲート電極35が配置されてフィールドエミッタアレイ(カソード)が構成されている。このフィールドエミッタアレイ(カソード)に対向して、アノード側基体36上にアノード電極37及び蛍光体38から形成されたアノードが、スペーサ39を介して配置され、3極管いわゆるトライオード構造を有する面発光素子が構成される(非特許文献1乃至非特許文献3参照)。
【0014】
しかしながら、上述した円錐形のエミッタ33では、いずれもエミッタ材料である金属、シリコンあるいはそれらの化合物は、表面に酸化物を形成するため、電子放出能が低く、エミッタ部への電界集中が不可欠であった。そのため、それらのエミッタ材料表面から電子を放出させるためには、電子放出部の曲率半径をできるだけ小さくする必要があり、エミッタに極微細加工を施し、放出部の先端形状を円錐形として、その先端の曲率半径を数ナノメータ以下とすることが不可欠であった。
【0015】
さらに、ディスプレイ用等の面電子源として利用するためには、上記のような極微細加工を施して得られる円錐形のエミッタ33を多数作製しアレイ上に配置する必要がある。しかしながら、超精密加工が必要であるため、構造的欠陥が生じやすく、大面積に均一に作製することは容易ではなく、歩留まりが低下する上、欠陥検査等も不可欠となり製造コストが高くなるという問題があった。
【0016】
これらに対し、近年、エミッタ材料としてナノ炭素材料が注目されている。ナノ炭素材料の中で最も代表的なカーボンナノチューブは、炭素原子が規則的に配列したグラフェンシートを丸めた中空の円筒であり、その外径はナノメータオーダで、長さは通常0.5μm〜数10μmの非常にアスペクト比の高い微小な物質である。そのため、先端部分には電界が集中しやすく高い電子放出能が期待される。また、カーボンナノチューブは、化学的、物理的安定性が高いという特徴を有するため、動作真空中の残留ガスの吸着やイオン衝撃等に対して影響を受け難いことが予想される。
【0017】
このような、カーボンナノチューブなどのナノ炭素材料の合成方法としては、アーク放電法、レーザアブレーション法、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法などが知られている。これらのうち、アーク放電法、レーザアブレーション法、プラズマ化学気相成長法は非平衡反応であるため、非晶質成分を生成しやすく、一般に生成するカーボンナノチューブの収率が低く、また、生成したカーボンナノチューブの直径や種類が一様でないことが知られている。
【0018】
一方、特許文献1には、カーボンナノチューブを精製不要で高純度で合成する方法、即ち収率が非常に高い合成方法が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法は、固体基板と有機液体とが急激な温度差を有して接触することから特異な界面分解反応が生じるため、有機液体中の固液界面接触分解法と呼ばれている。
【0019】
しかしながら、従来のカーボンナノチューブでは、各繊維は非常に細く、高いアスペクトを有するが、通常多数が絡まって存在したり、基板に対して配向させたりした場合でも、多数のナノチューブが低密度あるいは高密度で並ぶため、ナノチューブ一本の先端に電界を集中させる構造をとることは困難であった。
【非特許文献1】C. A. Spindt : J. Appl. Phys., 39, 3504 (1968)
【非特許文献2】K. Betsui: Tech. Dig. IVMC., (1991) P.26
【非特許文献3】「光エレクトロニクスの基礎」、(株)日本理工出版会、2002年7月20日再版発行
【特許文献1】特開2003−12312号公報
【特許文献2】特開2008−53171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、電界集中が容易で、電子放出能及びその均一性、安定性に優れ、かつ簡便で制御性が高いプロセスで作製できるナノ炭素材料を用いた電子放出素子及びその製造方法並びに面発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の請求項1に係る発明は、強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子において、基体と、基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であるファイバー状のナノ炭素材料と、を具備することを特徴とする電子放出素子としたものである。
【0022】
本発明の請求項2に係る発明は、ファイバー状のナノ炭素材料の高さが100nm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子としたものである。
【0023】
本発明の請求項3に係る発明は、ファイバー状のナノ炭素材料は、基体に対して複数本屹立しており、複数本のファイバー状のナノ炭素材料同士の間隔は100nm以上あることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子としたものである。
【0024】
本発明の請求項4に係る発明は、基体とファイバー状のナノ炭素材料との間に、更に、炭素材料を主成分とする下地層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子としたものである。
【0025】
本発明の請求項5に係る発明は、コバルト又はコバルト化合物からなる触媒を基体表面に担持し、基体を酸化雰囲気中で850℃以上1100℃以下の範囲で熱処理した後、基体をオクタンチオール中で加熱して基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であるファイバー状のナノ炭素材料を合成することを特徴とする電子放出素子の製造方法としたものである。
【0026】
本発明の請求項6に係る発明は、ファイバー状のナノ炭素材料の合成は、基体をオクタンチオール中で700℃以上900℃以下の範囲で加熱することを特徴とする請求項5に記載の電子放出素子の製造方法としたものである。
【0027】
本発明の請求項7に係る発明は、基体がシリコン基板であることを特徴とする請求項5または6に記載の電子放出素子の製造方法としたものである。
【0028】
本発明の請求項8に係る発明は、第1の基体と、第1の基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であるファイバー状のナノ炭素材料が形成されている電子放出素子と、電子放出素子に対向して、第2の基体上に電極を介して蛍光体が塗布されたアノードと、電子放出素子とアノード間が真空に保持されていることを特徴とする面発光素子としたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、炭素材料のもつ高い電子放出能とナノオーダの微細構造をもち、かつ、適度な間隙で形成できるため、低電圧での駆動と高均一の面電子放を大面積にわたり得ることができる電子放出素子及びその製造方法並びに面発光素子を提供することができる。また、本発明によれば、低コストで高輝度、高安定、高均一の面発光素子を得ることができ、良好な特性で安価な、表示装置、バックライト、照明等を得ることができる電子放出素子及びその製造方法並びに面発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ、説明する。実施の形態において、同一構成要素には同一符号を付け、実施の形態の間において重複する説明は省略する。
【0031】
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10を示す概略断面図である。図1(a)に示すように、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10は、基体11と、基体11上に成長した突起形状を有するファイバー状のナノ炭素材料13とからなるものである。また、図1(b)に示すように、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10は、基体11と、突起形状を有するファイバー状のナノ炭素材料13との間に、炭素材料から成る導電性の下地層12が、介在する構造でも良い。特に、炭素材料からなる下地層12が存在する場合、ファイバー状のナノ炭素材料13を電子放出素子10として用いるときに下地層12がエミッタの抵抗層として機能する。このため、エミッタとなるファイバー状のナノ炭素材料13に過電流が流れるのを抑止できる。また、抵抗層として機能するとき、炭素材料からなる下地層12は、シリコンより熱伝導が良いので膜破壊等も起こりにくい。
【0032】
本発明の実施の形態に係る電子放出素子10は、基体11上に突出した突起形状を有したファイバー状のナノ炭素材料13を適度な間隙を持ってまばらに形成することが好ましい。突出した突起形状を有したファイバー状のナノ炭素材料13を適度な間隙を持ってまばらに形成することにより、電界集中を容易にでき、高い電子放出能をもった電子放出素子10を得ることができる。
【0033】
本発明の実施の形態に係るファイバー状のナノ炭素材料13の直径は10nm以上であることが好ましい。ファイバー状のナノ炭素材料13の直径が10nm以上であれば、倒れることなく単独で基体11に対し配向し、存在することができる。
【0034】
本発明の実施の形態に係るファイバー状のナノ炭素材料13の高さが100nm以上100μm以下であることが好ましい。この範囲内ファイバー状のナノ炭素材料13があれば、十分な電界集中を得ることができる。
【0035】
本発明の実施の形態に係る電子放出素子10の基体11としては、単結晶シリコンの他に、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム砒素リン、窒化ガリウム、炭化珪素等の半導体基板やガラス、セラミックスまたは石英等を用いることができる。基体11が絶縁体の場合には、基体11上に金属やシリコン薄膜などを積層して用いることができる。基体11として上述した材料の中でも特に、単結晶シリコンを用いることが好ましい。基体11として、単結晶シリコンを用いることで、触媒との化学的相互作用により、より再現性高く所望のナノ炭素材料13を得ることができる。
【0036】
基体11の厚さは特に限定されるものではないが、100μm以上1500μm以下が好ましい。
【0037】
次に、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10の製造装置の一例を示す概略断面図である。図2に示すように、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10における突起形状を有するファーバー状のナノ炭素材料の製造装置は、有機液体としてオクタンチオール21の中に、基体11を保持し、かつ、基体11に電流を流すための一対の電極22とから構成されている。
【0038】
本発明の実施の形態に係る電子放出素子10の製造方法を図2を参照して詳細に説明する。図2に示すように、まず、基体11を洗浄の後、基体11上に触媒23を堆積する。触媒23としてはコバルトまたはその化合物を用いることが好ましい。触媒23としてコバルト又はコバルト化合物を、有機液体としてオクタンチオール(C17SH)21を用いた固液界面接触分解法を用いて、ナノ炭素材料13を合成することにより、電子放出材料として適した、すなわち高いアスペクトを有した、突起形状を有するファイバー状のナノ炭素材料13を基体11上に、適度な間隙をもって形成することができる。適度な間隙を持つことから、電子放出素子10として用いたとき、先端部に電界が集中しやすく電子放出素子10として好適に用いることができる。ここで、上述した「形成されたファイバー状のナノ炭素材料13同士の適度な間隙」を、補足的事項として、具体的に明確化すると、「100nm以上」、より詳細には、「100nm以上10μm以下」程度の範囲となる。
【0039】
触媒23の基体11上への堆積手段は、スパッタリング法や所定量の金属塩を添加し、その後で過剰の水を蒸発させ、乾燥後400℃〜500℃の空気気流中で焼成し、金属塩の分解と酸化を起こさせ、金属塩を酸化物に転換してもよい。堆積する触媒23の厚さは、特に限定されるものではないが、2nm〜10nmの範囲で適宜選択すればよい。
【0040】
次に、基体11の触媒23を、酸化雰囲気中で850℃以上1100℃以下の範囲で熱処理を行う。
【0041】
次に、触媒23を形成した基体11を、製造装置の一対の電極22に配置して、装置内にオクタンチオール21を満たす。そして、一対の電極22に電流を流して通電加熱により基体11を加熱する。加熱する基体11の温度は、700℃以上900℃以下である事が好ましく、より好ましくは700℃以上850℃以下である。実験的事実として、合成温度により形成される炭素材料の径、間隙、および高さが異なることが確認されており、また、基体11の温度700℃以上とすることで再現性よくオクタンチオール21からファイバー状のナノ炭素材料13が得られることが確認された。つまり、「ファイバー状のナノ炭素材料13の合成が好適に行われる温度領域」を、補足的事項として、具体的に明確化すると、700℃以上900℃以下の温度領域」となる。また、生成温度範囲が700℃より低い場合、オクタンチオール21の沸点の関係上、界面分解反応の安定が難しく、反応系の温度制御が困難である。また、900℃より高い場合、高温のため基体11が損壊し易く適合する基体11の種類が限られ、また反応系の温度制御が困難である。
【0042】
以上のような製造装置を用いた反応プロセスにより、基体11上に突起形状を有するファーバー状のナノ炭素材料13を生成することができる。
【0043】
本発明の実施の形態に係る電子放出素子10を用いて面発光素子30を形成することができる。図示しないが、面発光素子30は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子10に対向して、第2の基体上に電極を介して蛍光体が塗布されたアノード、電子放出素子10とアノード間とが真空に保持した構成である。
【0044】
本発明の実施の形態に係る電子放出素子10を用いて面発光素子30を形成することにより、高い電子放出能をもったファイバー状のナノ炭素材料13を電子源として用いることにより、平面状で高性能な電子放出を得ることができるため、低コストでかつ均一発光が可能な面発光素子10を得ることができるようになる。
【実施例1】
【0045】
以下、本発明に係る実施例1乃至実施例8に基づいてさらに詳細に説明する。
【0046】
まず、単結晶シリコン(100)基板(基体)11(n型、低抵抗)の表面に、触媒23としてマグネトロンスパッタリング法を用いてコバルトを形成した。基板11上に形成されたコバルトは、基体11の重量を膜厚に換算した値で、6nmであった。
【0047】
得られたコバルト担持基体を、図2に示す製造装置の一対の電極22に設置し、製造装置を有機液体のオクタンチオール21で満たした。ついで、コバルト担持基体を、800℃で10分間加熱し、基体11上にナノ炭素材料13を形成させた。得られたナノ炭素材料13の構造を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0048】
図3は、得られたナノ炭素材料13の複合基体の表面構造を示す走査電子顕微鏡像である。基体11上に数100nm以上の間隔で、直径数10nm程度の突起形状が観察され、ファイバー状のナノ炭素材料13が形成されていることがわかる。ナノ炭素材料13の高さは数100nm以上数100μm以下であった。透過型電子顕微鏡で観察した結果、このナノ炭素材料13はいずれもカーボンファイバであることが判明した。
【0049】
作製した突起形状を有するファーバー状のナノ炭素材料13をエミッタ基板として、エミッタ基板に対向して蛍光体付きアノードを1mmの間隙を設け、真空中で電界電子放出特性を測定した結果、1.0V/μm以下の低い電界強度で電子放出が得られ、かつ、均一に発光することを確認した。
【実施例2】
【0050】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料13の合成を行った。ただし、合成温度を700℃とした。
【実施例3】
【0051】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料13の合成を行った。ただし、合成温度を850℃とした。
【実施例4】
【0052】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料13の合成を行った。ただし、合成温度を900℃とした。
【実施例5】
【0053】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料13の合成を行った。ただし、コバルトの熱酸化処理を行わず、合成温度を700℃とした。
【実施例6】
【0054】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料13の合成を行った。ただし、コバルトの熱酸化処理を行わず、合成温度を800℃とした。
【実施例7】
【0055】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料13の合成を行った。ただし、コバルトの熱酸化処理を行わず、合成温度を850℃とした。
【実施例8】
【0056】
実施例1と同様に、ナノ炭素材料の合成を行った。ただし、コバルトの熱酸化処理を行わず、合成温度を900℃とした。
【0057】
[評価]
実施例1乃至実施例8で得られたナノ炭素材料13の電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)を図4にまとめて示す。図4より、熱酸化処理の有無により、ファイバー状のナノ炭素材料13の生成の有無が決まることが示された。
【0058】
また、熱酸化処理を行った場合、合成温度が高いほどファイバー状のナノ炭素材料13の径及び高さが大きくなる傾向が観察された。このため、合成温度を制御することにより、所望する径、間隙、及び高さを備えたファイバー状のナノ炭素材料13の生成の制御ができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の電子放出素子は、光プリンタ、電子顕微鏡、電子ビーム露光装置などの電子発生源や電子銃として、或いは照明ランプの超小型照明源として、さらには、平面ディスプレイを構成するアレイ状のフィールドエミッタアレイの面電子源などとして利用することができるが、これらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る電子放出素子を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る電子放出素子の基体表面を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図4】本発明の実施例1乃至実施例8に係る電子放出素子の基体表面を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図5】従来の面発光素子を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10…電子放出素子、11…基体、13…ナノ炭素材料、12…下地層、21…オクタンチオール、22…一対の電極、24…触媒、30…面発光素子、31…カソード側基体、32…導電層、33…円錐形のエミッタ、34…絶縁層、35…ゲート電極、36…アノード側基体、37…アノード電極、38…蛍光体、39…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子において、
基体と、
前記基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であるファイバー状のナノ炭素材料と、
を具備することを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記ファイバー状のナノ炭素材料の高さが100nm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記ファイバー状のナノ炭素材料は、前記基体に対して複数本屹立しており、複数本の前記ファイバー状のナノ炭素材料同士の間隔は100nm以上あることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記基体と前記ファイバー状のナノ炭素材料との間に、更に、炭素材料を主成分とする下地層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項5】
コバルト又はコバルト化合物からなる触媒を基体表面に担持し、
前記基体を酸化雰囲気中で850℃以上1100℃以下の範囲で熱処理した後、前記基体をオクタンチオール中で加熱して前記基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であるファイバー状のナノ炭素材料を合成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記ファイバー状のナノ炭素材料の合成は、前記基体をオクタンチオール中で700℃以上900℃以下の範囲で加熱することを特徴とする請求項5に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記基体がシリコン基板であることを特徴とする請求項5または6に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
第1の基体と、
前記第1の基体上に突起形状を有する直径が10nm以上であるファイバー状のナノ炭素材料が形成されている電子放出素子と、
前記電子放出素子に対向して、第2の基体上に電極を介して蛍光体が塗布されたアノードと、
前記電子放出素子と前記アノード間が真空に保持されていることを特徴とする面発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−129330(P2010−129330A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301916(P2008−301916)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】