電子線装置
【課題】高分解能、高スループットのマルチビーム検査装置を実現するために、ラングミュア限界を越える高輝度、かつ高エミッタンスのビームを得る。
【解決手段】電子銃は平面のカソード、引出し電極又はアノード、及び円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有し、電子銃電流Ie(mA)をカソード・アノード間距離Dac(mm)との関係により次の範囲とする。0.388/Dac-0.046≦Ie≦92.8/Dac+9.28、Dac≧3mm、あるいは、0.388/Dac-0.046≦Ie≦22/Dac+32.7、Dac<3mm。又は、電子銃電流Ie(mA)をカソード半径との関係により数値限定(数式省略)する。輝度Bとカソード電流密度Jcの関係は、シミュレーション値571(破線)と実測値572が比較的良く一致し、かつ輝度はラングミュア限界573を超えている。
【解決手段】電子銃は平面のカソード、引出し電極又はアノード、及び円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有し、電子銃電流Ie(mA)をカソード・アノード間距離Dac(mm)との関係により次の範囲とする。0.388/Dac-0.046≦Ie≦92.8/Dac+9.28、Dac≧3mm、あるいは、0.388/Dac-0.046≦Ie≦22/Dac+32.7、Dac<3mm。又は、電子銃電流Ie(mA)をカソード半径との関係により数値限定(数式省略)する。輝度Bとカソード電流密度Jcの関係は、シミュレーション値571(破線)と実測値572が比較的良く一致し、かつ輝度はラングミュア限界573を超えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高輝度が得られる電子銃に関し、またその様な電子銃を用い、表面にパターンが形成された試料の評価をするための電子線装置に関し、より詳細には、半導体製造各工程後等におけるウエハ等の試料に電子ビームを照射し、その表面の性状に応じて変化する二次電子等を捕捉して画像データを形成し、該画像データに基づいて試料表面に形成されたパターンの欠陥等を高スループットで評価するための電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎えようとしており、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、製造工程数が増加し、工程毎の歩留まり向上は必須となり、プロセス起因の欠陥検査が重要になる。
そして、半導体デバイスの高集積化及びパターンの微細化に伴い、高分解能、高スループットの検査装置が要求されている。45nmデザインルールのウエハの欠陥を調べるためには、40nm以下の分解能が必要であり、デバイスの高集積化による製造工程の増加により、検査量が増大するため、高スループットが要求されている。また、デバイスの多層化が進むにつれて、層間の配線をつなぐビアのコンタクト不良(電気的欠陥)を検出する機能も、検査装置に要求されている。
このような状況において、1本の光軸の近傍に複数のビームを形成し高スループット化する装置が検討されている。(Mamoru Nakasuji etal, Jpn. J,Appl.,Phys.,Vol 44,No.7B 2005,P5570)この様なマルチビーム装置では高輝度は勿論、高エミッタンスの電子銃が要求される。
ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大ビーム電流の電子銃が要求される。(西谷他、第53回応用物理学関連講演会講演予講習No2, 2006 春p798)
電子銃の輝度に関しては、Langmuir限界と呼ばれる最高値があると、従来から信じられていた。それは、次式で示される値であった。
カソード電流密度をJc,とすると、得られる最大電流密度Jmax は、
Jmax = Jc(1+eφ/kT)sin2α (1)
最大輝度Bmaxは、
Bmax = Jmax/πsin2α = Jc(1+eφ/kT)/π (2)
例えば、Jc =10A/cm2, φ=4500Vでは、e=1.6x10-19, k =1.38x10-23
を(2)式に代入すると、Bmax =9.23x104 A/cm2sr となる。
しかし、これらの式は、電子銃が光学モデルに合うと仮定して得られる式で、光学モデルから外れている場合は、このような限界の有無は不明である。言い方を変えれば、このような値より遙かに大きい輝度をうるには、光学モデルから著しくはずれた電子ビームを作れば、得られる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来装置における電子銃は、カソード表面に高電界がかかる様曲率半径の小さい凸型の球面形状を有するカソードと平面アノード、平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃が主流であった。しかしながら、この様な電子銃の輝度は限界があり、所望の輝度より遥かに小さいという問題があった。
更に、これに関し曲率半径25〜40μRの球面カソードと平面アノード及び平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃で、Langmuir限界を超えるシムレーション結果が提案されている。(特開2003−2977272、特開2004−22235、特開2003−323860)しかしこのような電子銃では、カソード寸法が小さいので、少しの組み立て精度の悪さ等で、シムレーション結果の性能が、実際には得られていない問題があった。
【0004】
また、従来のタイプの電子銃ではカソードの近辺で電流密度が高いため、カソード付近でビームエネルギーの小さい時に電子同士が相互作用を起こしエネルギー幅が拡がる問題点があった。本発明は上記問題点を解決するためのもので、Langmuir限界を超える輝度を確実に得られる電子銃を提供し、更にマルチビーム発生に適し、エネルギー幅の小さい電子銃を提供する事を目的とし、さらに本発明で得られる電子銃の性能を充分生かせるマルチビームの電子光学系を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電子線装置においては、円形平面のカソード、凸面の形状を有する引出し電極又はアノード、円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有する電子銃とし、電子銃電流を
0.388/Dac -0.046 ≦ Ie ≦ 92.8/Dac + 9.28、 Dac≧3mm, あるいは
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac <3mm. の範囲内の値にする様にした。さらに、上記の手段において、上記カソード半径は、20μm〜500μmの範囲とした。
【0006】
また、負の電子親和力を有する光陰極のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、カソード電流をmA, カソード半径Rcをμmとした時、カソード電流を,
0.5+0.0098Rc<カソード電流<2.3+0.026Rc の範囲内の値にした。
更に上記手段において、カソード曲率半径を1.5mm以上の凹面、凸面あるいは平面とした。
【0007】
更に、円形のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、上記アノードとカソード間に形成される電界強度を1.6〜5.53kV/mmの範囲内とした。
【0008】
さらに、円形のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、上記カソード直径を、20μm〜500μmの範囲とし、カソードとアノード間距離を0.8〜3mmの範囲とした。
【0009】
円形のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、上記円錐台形状のウエーネルト電極とビーム外周との角度は、69.4〜93.2度にした。ただし、ビーム外周はカソード外周とアノード位置での光軸とを結んだ円錐で近似した。
【0010】
光陰極のカソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、上記カソードから放出させた電子線が、カソードから引き出し電極間はそのビーム径を単調に減少させ、引き出し電極の後方で最小ビーム径を形成するよう制御するようにした。
さらに、上記手段において、上記カソード直径は、40μm〜1000μmの範囲とした。
また、上記第1の手段の電子銃の後方にレンズを設け、該レンズの励磁あるいは励起電圧を調整して、電子銃輝度を調整するようにした。
【0011】
更に、光陰極のカソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、カソード電流Ie を
0.5+0.0098Rc > Ie > 2.4+0.026Rc
とした。なお、この手段において上記カソード半径は20〜500μmの範囲とした。
【0012】
更に、光陰極のカソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、カソード電流Ie を
Ie > 1.4+0.019Rc
とした。なお、上記第1の手段において上記カソードとアノード間にかかる電界強度は、1.6kV/mm 以上とした。
【0013】
更に、円形平面の光電子放出カソード、ウエーネルト電極、平面の形状を有する引出し電極又はアノード、円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有する電子銃とし、電子銃電流をカソード半径から決まる所定値流す様にした。また、上記手段の電子銃の後方にレンズを設け、該レンズの励磁あるいは励起電圧を調整して、電子銃輝度を調整するようにした。
【0014】
また、上記第1の手段の電子銃から放出された電子線で開口を照射しその開口で整形された電子線で試料面を走査し、走査点から放出された2次電子を検出し、試料面の情報を得るようにした。
更に、上記最後の手段において上記電子銃と開口間に2段のコンデンサーレンズを設け、第1コンデンサーレンズと開口間にクロスオーバを形成しないで上記開口を照射する電流密度を調整するようにした。
【0015】
また、プランクの常数をh、照射レーザー波長をν、カソードの仕事関数をeφとしたとき、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の±20%以内の波長を用いた。
更に、カソードを冷却し、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の0〜−10%以内の波長を用いるようにした。
さらに、光陰極のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、カソード電流をmA, カソード半径Rcをμmとした時、カソード電流を 0.0107Rc<カソード電流<0.06Rc の範囲内の値にした。
【0016】
また、カソード電流:Ieを
0.0062Rc -0.0487 ≦ Ie ≦ 0.101Rc + 4.73 Rc≧ 0.3mm, あるいは
0.0062Rc - 0.0487 ≦ Ie ≦0.0266Rc -0.225 Rc < 0.3mm. の範囲内の値にした。さらに、
電子銃電流:Ieを
0.204/Dac - 0.0086 ≦ Ie ≦40/Dac - 2.24 の範囲内の値にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
表1は、Langmuir 限界を超える輝度を得るのに用いた電子銃モデル例である。このようなモデルでMEBS社シュミレーションソフト“Source”を用いて、計算を行った。また、”sourcea”を行うための条件も表1の最後に記載した。表1、2で太字はパラメータとして変化させた箇所である。シミュレーション手順は、
・ ウエーネルト電圧をある値に設定し、”SourceV を実行するとカソード電流Ie が算出される。
・ “SourceA“を実行するとカソード電流密度Jc とクロスオーバ径Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
・ “SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと。輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスが算出される。
【表1】
【0018】
図1は、本発明に係る電子銃の概念的断面モデル図である。形状は光軸4の回わりに回転対称形で、平面引き出し電極電子銃である。カソード1は電子線放出面が平面円板状で、LaB6,CeB6,W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極2は、円錐台の内面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通であるが、その位置と寸法は次の特徴がある。カソードの外周からアノード位置で光軸と交わる仮想的な円錐を仮定し、この円錐とθw度の角度差を有し、カソード外周と同じZ座標、R座標はカソード外周+100μm位置から始まる円錐2で示したウエーネルトを設けた。円錐7は近似的にビームの外周である。ビーム外周面はビーム電流を変えると変化するため仮想円錐は上記の様に定義した。ここでは上記ウエーネルト角:θwは90.5度とした。アノード電極のカソード側端5には放電を避けるため曲面にした。ビームが通る穴は光軸と平行な0.2mmRの穴とした。カソード1はウエーネルト2に対して組み込み前に大気中で軸あわせ可能の構造とし、これら2電極とアノードとは図示の無い電子銃外側に設けた微調整機構によってビームを見ながら軸調整を行えるようにした。
【0019】
図1のモデルでの電子銃で、カソード半径Rcを80、100、120、140, 160, 180, 200 μmRと変化させたシミュレーション結果を図2に示した。アノード電圧:4.5kV,カソード:0V, ウエーネルト電圧を変えて電子銃電流を変化させた。電子銃631、電流を変えて輝度を変化させた。図2で横軸は電子銃電流Ie(mA), 縦軸は輝度(x105A/cm2sr)、エミッタンス(μmmrad)、及びカソード電流密度Jc(A/cm2)である。図1で、カソードとアノード電極間距離:Dacは1.2mmである。
20はカソード半径80μm、21はカソード半径100μm、22は、カソード半径120μm、23はカソード半径140μm、24はカソード半径160μm、25はカソード半径180μm、26はカソード半径200μmの電子銃である。点線はエミッタンスであり、直線に近い実線はカソード電流密度であり、実線の曲線は輝度である。カソード半径に依存して変わるが、80μmRc以外の各電子銃は特定のIeで輝度が大きくなり、Langmuir限界値を遙かに超えた値が得られている。用いたシミュレーションはカソードでの電子の初期速度分布は無視した計算のため、輝度の絶対値はやや信頼性に欠けるが、初期エネルギー幅は計算に用いられているので相対値は真値に近いと考えられる。
100μmRcで6.4mA, 120μmRc で7.26mA, 140μmRc で8.4mA, 160μmRc で10.1mA, 180μmRc で12mA、200μmRc で12.8mAで高輝度が得られている。これらの電子銃電流は、従来の高輝度電子銃では、数100μA以下であったのに対して、本結果は、10倍以上の電子銃電流にしているのが特徴である。即ち電子銃電流を大きくすることによって、光学モデルからはずした条件にすることによって、Langmuir限界値を遙かに超えた値が得られたといえる。
100、120、及び140μmRcの電子銃ではIe を増加すると輝度は増加し、超高輝度になった直後、急減している。これに対して180μmRc と200μmRc では、電子銃電流Ieを上げていくと一度輝度が大幅に小さくなり、更にIeを上げると超高輝度が得られているのが見られる。従って180μmRc と200μmRc電子銃では、超高輝度条件を探すには、輝度が低下する条件を探し、その電子銃電流より少し大きい電子銃条件を調べればよい。
また、最大輝度が得られるカソード電流Iemaxとそのカソード半径Rcの比(Iemax/Rc)を算出すると、100、120、140,160、180、200μmRcで順に、0.064、0.0605、0.06、0.0631、0.066、0.064(mA/μm)が得られた。従って、カソード半径(μm)に0.0638を掛けた
値のカソード電流で、Langmuir限界値を遙かに超えた輝度が得られる。
【0020】
図3は図2から、輝度―エミッタンス曲線および輝度―カソード電流密度特性に変えたグラフである。右下がりの曲線は輝度―エミッタンス曲線で、ここでは図の右、あるいは上の曲線が高性能である。水平に近い実線のデータは、輝度―カソード電流密度特性であり、図の下の線が高性能である。31, 32, 33、34の各曲線はわずかに右上がりになっているのは、図2の輝度最大値より低電子銃電流側をグラフ化したからである。35,36の各曲線はわずかに右下がりになっているのは、図2の輝度最大値より高電子銃電流側をグラフ化したからである。30, 31、32、33、34、35, 36は順に80μmRc, 100μmRc, 120μmRc, 140μmRc, 160μmRc, 180μmRc, 及び200μmRcである。37はLangmuir限界値のJc依存性で、従来の理論では、37の右にはB-Jcの曲線は存在しない筈である。38は(輝度)x(エミッタンス)2 に比例する値で、この点線に平行な線が、輝度―エミッタンス特性で、より右上の動作点では、開口でビームを遮らない場合に得られる最大電流が見積もれる。34, 35, 36の曲線の傾斜は、38の傾斜より垂直に近いので同じ電子銃では、低輝度、高エミッタンス条件が大きいビーム電流が得られる。31, 32, 33曲線の傾斜は、38の傾斜より水平に近いので同じ電子銃では、高輝度、低エミッタンス条件が大きいビーム電流が得られる
この図で次のような事が言える。
1)平面カソード平面アノード電極電子銃は、100μmRcから200μmRcでLangmuir限界値を遙かに超える特性が得られる。
2)カソード半径が大きいほうが、小さいカソード電流密度でLangmuir限界値を超える高輝度が得られる。
3)80μRc では上記条件ではLangmuir限界値を超える高輝度は得られなかった。
4)超高輝度条件を探すには、カソード半径Rc(μm)とし、Rc x 0.0638 (mA)の電子銃電流を調べればよい。
3
図4は高輝度が得られなかった場合、図5は高輝度が得られる場合の電子軌道をカソード半径80μm電子銃で比較した例である。カソード1、ウエーネルト2、アノード3、光軸4は図1と同じである。42、43、44は、それぞれ0、100,4400Vの等電位線である。図4ではクロスオーバ41がカソードとアノード間に形成されている。図5では光軸に近い軌道40では、アノード電極を過ぎるまで、クロスオーバを作らず、層流モデルに近い軌道になっている。図4と図5の比較から、クロスオーバを作る光学モデルに近い電子軌道ではなく、層流モデルに近い電子軌道になる様電子銃条件を制御することが、超高輝度を得る1条件であると言える。
以上述べた様に、カソード半径に依存する所定の電子銃電流を流せば、超高輝度が得られることを示した。しかし、これらの電流は大きいので、より小さい電流でLangmuir限界値を超える高輝度が得られるかを調べた。図6は図1のモデルの後方に静電レンズを設けた場合である。3枚の電極61,62,63をもうけ、61,63にアノードと同電位、中央電極62に種々の電圧を与えて、シミュレーションを行った。図6のモデル例を表2に示した。”Sourcea”を実行するための.com データは表1のものと同じである。
【表2】
【0021】
結果を図7及び図8に示す。図7は輝度(実線)、エミッタンス(点線)及びカソード電流密度(実線)の電子銃電流Ie依存性である。中央電極62に与えた電位は、それぞれ、71,は12.5kV, 72は14kV; 73は15kV; 74は12kV; 75は4.5kV である。アノード電位が0Vの場合は、これらの値から4.5kVを差し引く必要がある。カソード半径Rcは140μmの場合についての結果である。レンズの励起が無い75が9.4mAで高輝度になっているのに対して、12.5kVでは4.75mA; 14kV では5.7mA, 15kVでは7.25mA; 12kVでは 9.23mA でそれぞれ最高輝度が得られている。つまり、レンズを通すことによって、より小さい電流で最高輝度が得られている。
全てのレンズ条件に共通して、電子銃電流Ieを上げていくと輝度が単純増加し、更にIeを上げると超高輝度が得られ、その後輝度が急減し、最低輝度になる。エミッタンスは輝度が最大になった条件で最小になり、その後輝度の急減に一致して最大になっているのが見られる。従って超高輝度条件を探すには、輝度を測定可能な開口を設け輝度測定を行うか、あるいはエミッタンスが大きくなる条件を探し、その電子銃電流より少し小さい電子銃条件を調べればよい。
【0022】
図8は図7を輝度B -エミッタンスE特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)で示したものである。81,82,83,84,85,86はそれぞれ、12.5kV, 13kV, 14kV, 12kV, 4.5kV の電圧をレンズの中央電極に印加した場合である。これらの電圧は、カソードを0Vとした場合の値で、カソードがー4.5kVの場合は、4.5kVを引いた値となる。37はLangmuir 限界で、従来の理論ではこの線の右側にはB-Jc特性のデータは存在しない筈である。38は図3で説明した直線で、ここでもB-E特性の傾斜が38の傾斜より大きいので、得られる最大ビーム電流は、低輝度、高エミッタンス条件の方が大きくなる。レンズ作用が無い場合のB-E曲線86がレンズ作用のある場合81,82,83,84,85より上にあるので、残念ながらレンズ作用を利用すると、同じ輝度で得られる最大ビーム電流は小さくなる。
【0023】
図9は、なぜレンズを通すと輝度が向上するかを調べるため、カソードの面から垂直に放出された電子の軌道を示した図である。91に示した様に、カソードから等間隔で放出された軌道は、空間電荷効果のため中央で密度が小さくなっているのがみられる。しかし、レンズを通過した後、92に示した様に評価面6では密度分布が大幅に改善され、空間電荷効果による輝度の低下を補っているといえる。93は正電圧駆動レンズの等ポテンシャル分布である。
【0024】
図10は負電圧駆動レンズを用いた場合の軌道を示したものである。図9の場合と同様に、レンズに入射する前101に比較してレンズを通過後密度分布が大幅に改善され、高輝度を裏づけている。103は負電圧駆動レンズの等ポテンシャル分布である。
【0025】
図11は円錐ウエーネルトの角度を変化させてシュミレーションした結果である。カソード半径Rcは80μmの結果である。ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度を、93.2度、90.5度、83.6度、69.4度及び57.6度の場合を順に、110、111、112,113,114,に示した。点線はエミッタンス、右上がりの実線はカソード電流密度、右肩で急に上昇しているのが輝度である。ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度が93.2度から69.4度のものは、1x106A/cm2srを超える超高輝度が得られているが、57.6度の条件では、最高輝度は4.6x105A/cm2sr であった。このことから、ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度は69.4度より大きい必要がある。
ここで、ウエーネルト角度:90.5度:111と69.4度:113を比較すると、Langmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流の比は2.8mA/3.6mA=0.777倍である。
【0026】
図12は、図11の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。120、121、122、123、及び124はそれぞれウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度が、93.2度、90.5度、83.6度、69.4度及び57.6度の場合である。37は、カソード温度1800KでのLangmuir 限界で、従来の理論では、この右側にはB-Jc特性は存在しない。121:92度はB-E特性が右側にあり、おなじエミッタンスで大きい輝度が得られ、良い性能である。120:90.5度はカソード電流密度が高すぎる。123:69.5度はカソード電流密度が低い特徴がある。以上から、ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度は、69.4〜90.5度が最適で、67.5度より大きければLangmuir限界を超える輝度が得られる。124: 57.6 度は、値は小さいがLangmuir限界を超える輝度が得られている。
【0027】
図13はカソード半径Rcを40、80、120、160、及び200μmの電子銃について電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした結果である。レンズ電圧は12.5kVであり、図7の説明で述べたように、Langmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流が最も小さくなった条件である。また、ウエーネルト角は90.5度、カソードとアノード間隔Dacは1.2mmである。これらの結果は、順に130,131,132,133、及び134に示した。直線に近い実線はカソード電流密度(単位はA/cm2)実線の曲線は輝度(単位は105A/cm2sr)点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)であり、横軸はカソード電流Ie,単位はmAである。輝度が最大になるカソード電流値は、40〜200μmRcに対して、順に1.82, 2.93, 4.24, 5.4, 6.58 mA である。これらの電流値は、
Ie = 0.5 + 0.0304Rc
の直線上にほぼ乗っている。従って Langmuir限界を超える輝度が得られる条件は、カソード電流(mA) =0.5 + 0.0304 Xカソード半径(μm)にすれば良い。レンズを使わない場合の結果、カソード電流=0.0658 X Rcを考慮すれば、レンズ条件が最適でない場合は、これら2つの式の間であるから、
0.5+0.0304Rc<カソード電流<0.0658Rc (3)
である。
【0028】
図14は図13の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。140, 141, 142, 143,及び144 はカソード半径Rcが40、80、120、160、及び200μmの電子銃に対応する。輝度―カソード電流密度特性がほぼ水平に近い所ではLangmuir限界に対応する直線37の右側にあり、輝度が急速に大きくなる条件にも対応しているので、上で述べた“Langmuir限界を超える輝度が得られる条件は、カソード電流>0.5 + 0.0304 Xカソード半径(μm)にすれば良い。”の主張を支持している。
輝度―カソード電流密度特性で、カソード半径が大きいほうが、小さいカソード電流密度でLangmuir限界を超える輝度が得られる。また、顕著ではないがB-E特性で、カソード半径が小さい方が同じ輝度で大きいエミッタンスが得られる傾向がある。
【0029】
図15はカソードとアノード間間隔:Dcaをパラメータとし、電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした結果である。カソード半径Rcは120μm、レンズ電圧は14kV, ウエーネルト角度は90.5度の条件とした。Dac は3, 2.8, 1.8, 1.6、1.2, 及び1mmの寸法で行った。これらの結果は、順に150, 151, 152, 153、154及び155 に示した。点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)、実曲線は輝度(x105A/cm2sr), 直線に近い曲線はカソード電流密度(A/cm2)で前のグラフも今後のグラフもこれは、光軸近くの値である。カソードとアノード間間隔:Dcaが3mmの電子銃では、輝度は最大でも5.6x105A/cm2sr にしかならなかた。カソードとアノード間間隔:Dca が2.8mm以下の条件では、輝度は1x107A/cm2srを遙かに超える値が得られた。カソードとアノード間には4.5kVの電圧が印加されているので、このことから、カソードとアノード間の電界強度は、ほぼ1.6〜4.5kV/mm であれば、Langmuir限界を超える輝度が得られると言える。
更に、151と154をLangmuir限界を超える輝度が得られるIeを比較すると、Dac:1.2mmでは2.5 mA に対してDac:2.8 mmでは4.5mAである。従って、Dac:1.2mmの図13の結果をDac2.8mmの場合に換算すると、(3)式は(4)式になる。
0.278 + 0.0169Rc<カソード電流<0.0658Rc (4)
さらに、最適ウエーネルト角度を用いると、[0026]で述べた比0.777倍を考慮すると、(4)は、
0.168 + 0.0131Rc<カソード電流<0.0658Rc (5)
になる。
【0030】
図16は図15の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。Dcaが3, 2.8, 2.2, 1.8, 1.4, 及び1mmの寸法の特性が、順に160, 161, 162, 163及び164 に対応している。輝度B−エミッタンスE特性から160のDac が3mmの場合が良くない。また、この条件では、輝度も最大でも5.6x105A/cm2sr であるがB-Jc 特性が直線37の右側にあるのでLangmuir限界を超える輝度は得られている。
カソードとアノード間の電界強度が大きいものは、同じ輝度では大きいエミッタンスが得られる傾向がある代わりに高輝度でのカソード電流密度か大きい問題がある。従ってこの図からも、カソードとアノード間の電界強度は、ほぼ1.6〜4.5kV/mm の条件が最適である。
【0031】
次にカソード温度を変化させた場合について図17及び図18で述べる。レンズの無い図1のモデルで、カソード半径140μmRc,アノードーカソード間距離Dac: 1.2mm、ウエーネルト角度:90.5度の構造で、カソード温度を、1800K, 1100K, 450K, 292K について計算し、結果を順に170, 171、172、及び173に示した。1800K では、CeB6カソードで、仕事関数は2.35eV とし、1100KはBa等の酸化物陰極で仕事関数は1.15eV ,450K では光陰極カソードを想定したが、仕事関数と照射レーザエネルギーとの差が0.1eV以下のレーザーとカソード材料とを仮定した。292Kは。負の電子親和力を有する光陰極を仮定し、仕事関数はー0.01eVとした。
実線の曲線は輝度(x105A/cm2sr), 点線はエミッタンス(μmmrad)、直線に近い実線はカソード電流密度であり、各温度条件で同じカソード電流:Ieではほとんど同じ値であった。1800Kの170では、Ieが増加すると輝度が減少し始め、9.2mA で最小値になり、その直後最大値になり、その後急速に減少する。エミッタンスはこれと対照的に、一定値から急減し、最初より小さい値に落ち着く。171の1100K ではIeが増加すると輝度が減少し始め、7.25mA で最小値になり、その直後7.55mAで最大値になり、その後急速に減少する。エミッタンスはこれと対照的に、一定値から急減し、最初より小さい値に落ち着く。450K の172 では、前記2者と異なり、Ieが増加すると輝度は単調増加し、4.2mA で最大値になり、その後急速に減少する。エミッタンスはこれと対照的に、一定値から急減し、すぐ急速増加し、最大値を取る。173の292K では450Kとほぼ同じIe 依存性をしめし、輝度最大になる電子銃電流Ieは4.02mAで、1800K の場合9.45mAに比べると大幅に減少する。従って、酸化物陰極、光電子カソードあるいは、負の電子親和力をもつカソードでは、LaB6やCeB6の熱カソードに比べて、容易にLangmuir限界を超える輝度が得られると言える。
292K と1800K とをLangmuir限界を超える輝度が得られるIeを比較すれと、
4.02/9.45 = 0.425倍である。従って、負の電子親和力を有する光陰極の場合は、Langmuir限界を超える輝度が得られる条件は、
0.0714 + 0.00557Rc<カソード電流<0.0658Rc (6)
になる。これについては図26で更に詳しく述べる。
【0032】
図18は図17の結果を、輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。B-Jc 特性では、輝度が最大値を取る値からIeの大きい側のデータのみを使用した。図18では、カソード温度の1800K, 1100K, 450K, 292K の結果を順に180, 181、182、及び183に示した。カソード温度が1100K, 450K, 292K の場合のLangmuir限界は、(2)式から算出し、39,185,186に示した。
B―E特性から、輝度が1x106A/cm2sr 程度の条件では、光電子陰極ではCeB6や酸化物陰極に比較して大きいエミッタンスが得られる。
B-Jc 特性で、180は直線37より右、181は直線39より右、182は185より右、184は186より右にそれぞれデータが存在し、低い温度でのLangmuir限界を超える輝度が得られると言える。
【0033】
図7で静電レンズを設けた場合より小さい電流でLangmuir限界値を超える高輝度が得られることを示した。静電レンズを電磁レンズに変えた場合にLangmuir限界値を超える高輝度が得られるかを調べた。ボーア径1mmR,ギャップ1mmの電磁レンズに種々の励磁ATを与えて、シミュレーションを行った。 結果を図19及び図20に示す。図19は輝度(実線)、エミッタンス(点線)及びカソード電流密度の電子銃電流Ie依存性である。励磁ATは、それぞれ、191,は500AT, 192は550AT; 193は600AT; 194は400AT; 195は0AT である。
レンズの励起が無い195が9.4mAで高輝度になっているのに対して、500ATでは4.6 mA; 550AT では5.85 mA, 600ATでは7.4 mA; 400ATでは 8.6 mA でそれぞれ最高輝度が得られている。つまり、磁気レンズを通すことによって、より小さい電流で最高輝度が得られている。
全てのレンズ条件に共通して、電子銃電流Ieを上げていくと輝度が単調増加し、更にIeを上げると超高輝度が得られ、その後輝度が急減し、最低輝度になる。エミッタンスは輝度と逆にIeを増加すると、単調増加し、最小エミッタンスになった後、急増しているのが見られる。従って超高輝度条件を探すには、輝度を測定可能な開口を設け輝度測定を行うか、あるいはエミッタンスが大きくなる条件を探し、その電子銃電流より少し小さい電子銃条件を調べればよい。
【0034】
図20は図19を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)で示したものである。201、202、203、204、205、206はそれぞれ順に、500、550、600、400、0 AT, の励磁をレンズに与えた場合である。37はLangmuir 限界で、従来の理論ではこの線の右側にはB-Jc特性のデータは存在しない筈である。38は図3で説明した直線で、ここでもB-E特性の傾斜が38の傾斜より大きいので、得られる最大ビーム電流は、低輝度、高エミッタンス条件の方が大きくなる。レンズ作用が無い場合のB-E曲線206がレンズ作用のある場合201, 202, 203, 204, 205より上にあるので、残念ながらレンズ作用を利用すると、同じ輝度で得られるビーム電流は小さくなる。
【0035】
図21は、電磁レンズを用いるとなぜ高輝度条件が得られる場合があるかを調べるため、電子軌道を示したものである。この場合静電レンズの中央電極211に印加される電圧は、この前後の電極電圧と同じで4.5kV である。210の縦線は、等磁気ポテンシャル線で、レンズ位置を示している。静電レンズの図4,図5の場合と同じくレンズに入射前と評価面6とでは、後者の軌道の密度のバラツキが大幅に改善されている。更に、光軸近くの軌道のクロスオーバ212が光軸から遠い軌道のクロスオーバ213よりカソードに近い側に形成されているのが見える。これは負の球面収差が発生していることになる。負の球面収差が発生するのは、アノード穴のレンズ作用と空間電荷効果であり、アノード穴のレンズ作用は、ビーム電流に依存しないので、従来の電子銃と大きくことなるのは、電子銃電流が大きいことによる空間電荷効果で発生した大きい負の球面収差を電子銃と磁気レンズが作る正の球面収差で打ち消した条件で高輝度が発生していると解釈できる。この解釈が正しいかは分からないが、レンズで輝度を変えられないとの常識は、少なくともシミュレーション上は否定されたことになる。
【0036】
図22は、光陰極電子銃を用いた電子銃の実施の形態である。カソード1、ウエーネルト2、アノード3は光軸4のまわりに軸対象である。ウエーネルトとビーム外周との角度が69.4度以上と比較的大きいので、アノードとウエーネルトの間からレンズ222を通し、レーザー光源223からのレーザー光をカソード1の電子線放出面に照射する。電極電圧はハーメチックシール221から供給する。224は電子銃に接続される光学系の一部である。
【0037】
図23は、高輝度電子銃が使用される電子光学系である。高輝度を有効利用して1本の光軸のまはりに大電流のマルチビームを形成できる。当然光軸から離れた位置にもビームが形成されるので、1本のビームの場合より細かい注意が必要である。電子銃はカソード1、ウエーネルト2、アノード3を有する3電極電子銃である。電子銃から放出されたビームは軸あわせ偏向器234でコンデンサーレンズ235に軸あわせされる。コンデンサーレンズ235で収束されたビームは2段の軸あわせ偏向器236,237で第2コンデンサーレンズ238とマルチ開口239に軸あわせされる。マルチ開口で成型されたマルチビームは回転調整レンズ243で縮小され、2段の軸あわせ偏向器245,247でNA 開口242と縮小レンズ243への軸あわせが行われ、244にマルチビームの縮小像を作り、静電偏向器245と電磁偏向器246とで光軸のオフセットが修正され、対物レンズ248に垂直入射し、試料面250にマルチビームを照射し走査する。試料面を走査するのは、静電偏向器245に重畳された走査信号と静電偏向器247とで行われる。249はマルチビームの軸上色収差を低減するための軸対称電極で、正の高電圧が印加される。試料面から放出された2次電子は電磁偏向器246及び251で一次光学系から離され静電偏向器255で垂直に直される。対物レンズ248、静電レンズ253、及び2段レンズ256,258で拡大され検出器259で各マルチビームからの2次電子が独立に検出される。
対物レンズ248は、レンズギャップ467が試料250の側に形成された電磁レンズであり、軸上色収差が小さく、さらに、軸対称電極249に高電圧を印加することにより、軸上色収差がより低減される構成を有している。該対物レンズの断面図を図46に示す。レンズ励磁コイル461の周りをパーマロイコア460の外側磁極とパメンジュールコアより成る内側磁極462で囲まれた構造で、断面がL字型の非磁性金属部材463と2本のO−リング465とで真空封じされる。Оーリングの当たる面464はコア460とコア462間の磁気抵抗を小さくするため、図示したテーパー状、あるいはOーリング側に凹の曲面形状が良い。固定ねじ468で光軸方向に2個のコア460と462を固定できるので、高精度に製作できる。以上をまとめると、内側磁極と外側磁極で形成される磁気ギャップが試料方向にある磁気レンズで、内側磁極を飽和磁束密度の大きい強磁性体で、外側磁極を高透磁率材料で製作し、内側磁極の外側で外側磁極コアとの接続部に断面が3角形あるいは該3角形の最大辺が凹面形状の強磁性体リングを有する様にすればよい。この結果、2つの磁極の接続部での磁気抵抗が小さくなり、このレンズの軸上磁場分布が単1ピークになり、このレンズの収差を小さくできる。
図24は図23の電子光学系の1次系のみを偏向を無視単純化した図を詳細にした図である。
図24で244はマルチ開口239の結像を示す線である。241はクロスオーバの結像を示した線である。電子銃から放出されるビームのクロスオーバを2段のレンズ235及び238でマルチ開口239の先で拡大像にし、かつ拡大率を調整可能にした。この結果、マルチ開口での電流密度を大きくし、照射強度一様性の良い領域をマルチ開口全体に丁度広げる調整を可能にした。この場合、2段のコンデンサーレンズの間でクロスオーバを作らないので、空間電荷効果によるエネルギー幅の増加が少なく、負の電子親和力を有する光陰極を用いた効果が大きい。
【0038】
図25はカソード曲率半径を平面:252 のみでなく、5mmRの凸面:253、凹面:251;
1.5mmの凸面:250、凹面:254と変化させシミュレーションした結果を示したものである。カソード半径は200μmに固定した。レンズ電圧は12.5kV, ウエーネルト角度θwは90.5度、Dac は1.2mmである。平面カソード252ではカソード電流7.6mA で最大輝度になるのに対して、1.5mm凸面では6.4mA で最大輝度になっている。Langmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流条件は、6.4/7.6 = 0.842倍に減少している。従って、Dac:2.5mm,最適ウエーネルト角度:69.5度の(5)式は、左辺が0.842倍され、
0.141 + 0.0142Rc<カソード電流<0.0658Rc (7)
になる。
1.5mmRの凹面ではLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流条件Ieは9.38mAと大きいが、その場合のカソード電流密度Jc は26A/cm2 から23A/cm2 に減少する特徴がある。Ie は9.38/7.6 = 1.234 倍になるので、(5)式は、左辺が1.234 倍され、
0.207 + 0.0162Rc<カソード電流<0.06Rc (8)
になる。
【0039】
図26は図25を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。260、261, 262, 263, 264, 265 & 266はそれぞれカソード曲率半径:1.5mmの凸、3mmの凸、5mmの凸、フラット、5mmの凹、3mmの凹、1.5mmの凹に対応する。260の1.5mmの凸カソードでは、B-E曲線が最も左側に位置し、同じ輝度で得られる最大電流は小さく、最悪であり、B-Jc特性も上側に位置し、最悪、これに対して266の1.5mm凹面カソードは、B-E特性は右側に位置し、しかもB-Jc特性も最も下側に位置し、最良である。
【0040】
図27は負の電子親和力を有する光陰極のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有する電子銃のシミュレーション結果である。Dac:1.2mm、θw:90.2度、レンズ;6.5kV , カソード温度293K 、カソード仕事関数:−0.01 eV の条件で、カソード半径Rcを30, 40、80, 120, 160, 200 μmと変化させた。結果を順に、270、271、272、273、274、275、276、277に示す。点線はエミッタンス(μmmrad)、実線は輝度(1x106A/cm2sr)、少し右上がりの線はカソード電流密度(A/cm2)である。各カソード半径での最大輝度が得られるカソード電流Ie を図から読み取ると、順に1.85、2.2、2.95、3.55、4.4、6.1、7.05、8.9 mA、が得られた。これらの数字は、後(図45)で使う。
図28は図27を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを30, 40、80, 120, 160, 200 μmと変化させた結果を順に、280、281、282、283、284、285、2876、287に示す。
【0041】
図29はカソード仕事関数:−0.01eV, 動作温度293K, Dac:2.5mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Rc を、20, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に290, 291, 292, 293, 294,及び295に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、0.361, 1.8, 2.45, 3.39, 4.34及び5.36mAであった。これらの数字は後(図45)で使う。
図30は図29を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた結果を順に、300、301、302、303、304、及び305、に示す。Langmuir 限界の線:186の右側に非常に小さいカソード電流密度Jc でB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcが20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、30、13、7.7、6、5.1、4.6 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。このように、小さい電流密度でLangmuir 限界を超える輝度がえられるのは非常に実用性がある。
【0042】
図31はカソード仕事関数:−0.01eV, 動作温度293K, Dac: 0.8 mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Rc を、20, 30、40、120, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に310, 311, 312, 313, 314,及び315に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、1.78、2.98、3.42、5.38、7.69、10.2, 12.76、及び15.4mAであった。これらの数字は後(図45)で使う。
図32は図31を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 30、40、120, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に320, 321, 322, 323, 324,及び325に示した。Langmuir 限界の線:186の右側にB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcを20, 30、40、120、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、160、100、49、38、30、27、26 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。このカソードとアノード間距離Dac:0.8mmでの特徴は、Langmuir 限界を超える輝度でのエミッタンスEが非常に大きいことである。例えば輝度1x107A/cm2srで図30と図32を比較すると、前者のDac:2.5mmでは1.4 〜9μmmrad であるのに対して、後者のDac:0.8mmでは、12〜65μmmradの値である。高輝度で高エミッタンスが得られるのは非常に実用性がある。
ここで光陰極について検討する。カソードの仕事関数をeφ、照射レーザー波長をλ、そのホトンエネルギーをhν(eV), カソード温度をT(K)、とすると、ベルシェ効果を無視したビームエネルギー幅δEは
δE2 =( kT)2 + (hν-eφ)2 (7)
になる。従ってエネルギー幅δEを小さくするにはレーザー波長のエネルギーをカソード材料の仕事関数より僅かに大きい値とし、かつカソード温度を低くすればよい。
カソード温度が低い場合の結果を次に示す。図33はカソード仕事関数:―0.01eV, 動作温度77K, Dac: 2.5 mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Rc を、2, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に330, 331, 332, 333, 334,及び335に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、0.321、0.923、1.485、2.13、2.83及び3.69 mAであった。これらの数字は後(図45)で使う。
図34は図33を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に340, 341, 342, 343, 344,及び345に示した。Langmuir 限界の線:186の右側にB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcを20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、28、91、59、46、30、27 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。このカソードとアノード間距離Dac:2.5mmでの特徴は、Langmuir 限界を超える輝度での電流密度Jcとカソード電流Ieが非常に小さいことである。このように高輝度が小さい電流密度Jcとカソード電流Ieで高エミッタンスが得られるのは非常に実用性がある。
図35はカソード材料の仕事関数をeφと光電限界波長との関係を示したものである。350, 351, 352, 353, 354, 355,及び356は順にPt上のCs,Pt上のK,Ba,Al,Ag,Pt及びWである(電気通信学会編、通信工学ハンドブック、丸善、1957年、p470)。太い線はhν= eφで決まる限界波長である。金属材料ではW以外はこの直線より限界波長は長波長側へ20%程度シフトしている。逆にタングステン:Wでは短波長側にシフトしている。これらは表面の汚染によって仕事関数が変化した結果、及びカソード温度に依存する熱運動のためより小さいエネルギーの光子で電子放出を可能にする効果だと推測できる。この様に仕事関数の変化を考慮し、367、358で示した範囲内のレーザー波長でカソードを励起するのが好ましい。例えばCeB6カソード359では、490〜550nmの範囲で、527nm,532nm;LaB6では410〜550nmの範囲で、532nm, 527nmの波長で、いずれも半導体励起固体レーザ(緑色)が良い。プランクの常数をh、波長をν、カソードの仕事関数をeφとしたとき、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の±20%以内の波長を用いればよい。カソードを冷却した場合は、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の0〜-10%以内の波長を用いればよい。
【0043】
次に高輝度がなぜ得られるかを調べるため、カソード仕事関数−0.01eV, 動作温度293K, Dac: 0.8 mm, θw:90.5、カソード半径Rc: 0.5mm での条件で、普通輝度、中程度の輝度、及び高輝度での電子軌道を比較する。これらの軌道を作成する場合、カソード中心付近の軌道のみを出力するため、表2の斜体字で22と記した数字を55に変更した結果である。レンズは励起していない。
これに関連して、空間電荷効果を低減するため、アノード後面に小開口を設け、不要な周辺ビームをなるべく早く取り除くのが良い。
図36は普通輝度で、360の軌道で乱れがあるのが見られる。
図37は中程度の輝度で、370、371で軌道は密集し過ぎ、372で軌道は疎になっているのが見られる。
図38は高輝度での軌道で、非常に乱れの無い層流に近い軌道が得られた。層流に近い軌道では、軌道が互いに交差することが無いので、電子同士の衝突が少なくベルシェ効果でエネルギー幅が拡がる効果が少なく、しかもビームが最小径になるのがカソードから1.5mmで、アノード位置:0.8mm より後方でビームは充分に加速されているので電子同志の相互作用はさらに小さい。当然この様な層流に近い電子軌道では、光学モデルから大きくはずれているので、Langmuir 限界を超える輝度が得られても何も矛盾はない。結局カソードでは電流密度が小さく、ビーム径がアノードを過ぎるまでは単調減少する軌道になるようウエーネルト電圧を制御すれば、高輝度でエネルギー幅の小さいビームが得られ、軸上色収差が小さく、大電流を小さく絞れる。
【0044】
図39は熱電子カソードでLangmuir 限界を超える輝度のカソード電流Ieの各カソード半径での最小値を調べた結果である。カソード半径Rcを80、100、200、300、400及び500μmにし、レンズ条件は12.5kV,Dac:2.5mm、2.35 eV, ウエーネルト角度:90.5度の電子銃について電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした。結果は、順に390, 391, 392,393,394,395 及び396に示した。直線に近い実線はカソード電流密度(単位はA/cm2)実線の曲線は輝度(単位は105A/cm2sr)点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)であり、横軸はカソード電流Ie,単位はmAである。輝度が大きくなるカソード電流値は、順に1.81, 2.31, 3.26, 4.69,6.25 mA である。500μm半径カソードはこの条件では上記限界を超えられなかった。これらの数字は後(図45)で使用する。
図40は図39の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。400、401、402、403、404、及び405 はカソード半径Rcが80、100、200、300、400、及び500μmの電子銃に対応する。輝度―カソード電流密度特性がほぼ水平に近い所ではLangmuir限界に対応する直線37の右側にあり、“Langmuir限界を超える輝度が得られている。カソード半径500μmの405の曲線は、37の右には出ていなく上記限界を超えられなかった。
【0045】
図41は熱電子カソードでLangmuir 限界を超える輝度の各カソード半径での最大値を調べた結果である。カソード半径Rcを80、100、200、300、400及び500μmにし、レンズ励起なし,Dac:0.8mm、仕事関数:2.35 eV, ウエーネルト角度:90.5度の電子銃について電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした。結果は、順に410, 411, 412, 413, 414, 415 及び416に示した。直線に近い実線はカソード電流密度(単位はA/cm2)実線の曲線は輝度(単位は105A/cm2sr)点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)であり、横軸はカソード電流Ie,単位はmAである。輝度が大きくなるカソード電流値は、順に
1.81, 2.31, 3.26, 4.69,6.25 mA である。500μm半径カソードはこの条件では上記限界を超えられなかった。これらの数字は後(図45)で使用する。
図42は図41の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。420、421、422、423、424、及び425 はカソード半径Rcが80、100、200、300、400、及び500μmの電子銃に対応する。輝度―カソード電流密度特性がほぼ水平に近い所ではLangmuir限界に対応する直線37の右側にあり、“Langmuir限界を超える輝度が得られている。カソード半径500μmの405の曲線は、37の右には出ていなく上記限界を超えられなかった。
【0046】
図43は図33と同様にカソード仕事関数:―0.01eV, 動作温度77K, Dac: 2.5 mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。但し、ここでは、空間電荷効果を減少させるため、アノード後面に小開口(43.1μmR)を設け、ビーム電流を1/10 以下に減少させた。Rc を、2, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に430, 431, 432, 433, 434,及び435に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、0.323、0.868、1.47、2.038、2.791及び3.561 mAであった。これらの数字は図33の結果とほとんど差はない。また、この図では、クロスオーバZ位置:Zco の値(ほぼ山形の実線)も表示した。20μmRcでは、Zco が負の値になったが、Rcが100〜400μmでは、10mm前後の値であった。500μmRc では表示しなかった。開口位置は、アノード後面Z=3.6mmであるから、クロスオーバを形成する前でビーム電流を1/10 以下に減少させた場合も“Langmuir限界を超える輝度が得られている。
図44は図43を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に440, 441, 442, 443, 444,及び445に示した。Langmuir 限界の線:186の右側にB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcを20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、28、91、59、46、30、27 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。この場合と図4をエミッタンスで比較すると、ビーム電流が1/10 以下に減少しているにもかかわらず、エミッタンスは減少せず、むしと微増している。ビーム電流が1/10 以下に減少すれば、確実に、空間電荷効果は1/10 以下に減少するので、この様に電子銃が作るクロスオーバより手前にビームの大部分を取り除く開口を設けることは実用性がある。
今まで説明してきたLangmuir 限界をこえる輝度が得られるカソード電流のカソード半径依存性を図45にまとめた。
450:図41の結果をまとめた。 ; Ie = 10.5 + 0.0296Rc 120 < Rc ≦ 500
451:図41の結果をまとめた。 ; Ie = 0.116Rc Rc ≦ 120 μm
452:図2図の結果をまとめた。 ; Ie = 0.0645Rc
453:図31の結果をまとめた。 ; Ie = 2.6 + 0.0254Rc
454: 図13の結果をまとめた。 ; Ie = 0.9 + 0.027Rc
455: 図 27の結果をまとめた。 ; Ie = 1.5 + 0.0183Rc
456: 図 29の結果をまとめた。 ; Ie = 1 + 0.0086Rc
457: 図 33 & 34図の結果をまとめた。 ; Ie = 0.4 + 0.0064Rc
この図から、カソード半径Rcが、120μmよりちいさいかあるいは等しいとき、
0.4 +0.0064Rc ≦ Ie ≦ 0.116 Rc の範囲で、Langmuir 限界をこえる輝度が得られる条件を作れる。
また、カソード半径Rcが、120μmより大きいとき、
0.4 + 0.0064Rc ≦ Ie ≦ 10.5+0.0296 Rc の範囲で、Langmuir 限界をこえる輝度が得られる条件を作れる。
さらに、高輝度、高エミッタンスを得たい場合は、451又は450と453の間の範囲のカソード電流にすればよい、即ちカソード半径Rcが、120μmより小さいかあるいは等しいとき、
2.6 + 0.0254Rc ≦ Ie ≦ 0.116 Rc の範囲 にすればよく、カソード半径Rcが、120μmより大きいとき、
2.6 + 0.0254Rc ≦ Ie ≦ 10.5+0.0296 Rc の範囲にすればよい。
また、比較的小さいカソード電流あるいは、比較的小さいカソード電流密度で、Langmuir 限界をこえる輝度を得たい場合は、457と453の間の範囲のカソード電流にすればよい。即ち、0.4 + 0.0064Rc ≦ Ie ≦ 2.6 + 0.0254Rc の範囲にすればよい。
さらに、カソード半径は、比較的小さいカソード電流でLangmuir 限界をこえる輝度が得られるのは、20≦Rc(μm)≦200であり、比較的小さいカソード電流密度でLangmuir 限界をこえる輝度が得られるのは、200≦Rc(μm)≦500である。
【0047】
以上の実施の形態では電子銃電流の比較的大きい範囲で超高輝度が得られた。より使い易い電子銃を得るには、より小さい電子銃電流でLangmuir limitを超える超高輝度を得る条件を調べた。電子銃モデルは図47に示した。カソード:471, ウエーネルト: 472, 凸型球面アノード: 473, の後方に静電レンズ: 474を設け、静電レンズ電極474に与える電圧やウエーネルトと光軸との角度を最適化した。475は光軸であり、476は評価面である。
【0048】
図48はカソード半径Rcを10μmに固定し、カソードとアノード間距離Dacを10mm、6mm、4mm及び3mmと変化した結果をそれぞれ481, 482, 483 及び484に示す。これらのDac の条件ではそれぞれ電子銃電流が13.3, 24, 40.8 及び61 μAで超高輝度が得
ではではの逆数(1/Dac)を横軸にプロットした図を図53、54に示した。
【0049】
図49はカソード半径Rcを300μmに固定し、カソードとアノード間距離Dacを10mm、6mm及び4mmと変化した結果をそれぞれ491, 492, 及び493に示す。これらのDac の条件ではそれぞれ電子銃電流が1.82, 4.55 及び7.76 mAで超高輝度が得られている。超高輝度が得られた電子銃電流Ie(max B)を縦軸、カソードとアノード間距離の逆数(1/Dac)を横軸にプロットした図を図53と54に示した。
【0050】
図50はカソードとアノード間距離Dacを10mmに固定し、カソード半径Rcを10μm、300μm及び500μmと変化した結果をそれぞれ501, 502, 及び503に示す。これらのRc の条件ではそれぞれ電子銃電流が0.00133, 1.82 及び3.05 mAで超高輝度が得られている。超高輝度が得られた電子銃電流Ie(max B)を縦軸、カソード半径Rcを横軸にプロットした図を図52に示した。
【0051】
図51はカソードとアノード間距離Dacを4 mmに固定し、カソード半径Rcを10μm、100μm、200μm、300μm、500μm及び700μmと変化した結果をそれぞれ511, 512, 513, 514, 515及び516に示す。これらのRc の条件ではそれぞれ電子銃電流が0.0408, 2.4, 5.23, 9.75 及び11.8 mAで超高輝度が得られている。超高輝度が得られた電子銃電流Ie(max B)を縦軸、カソード半径Rcを横軸にプロットした図を図52の直線522及び523に示した。
【0052】
図52において、カソードとアノード間隔Dacが10mmの場合はカソード半径Rcと最大輝度を与える電子銃電流Ieの関係はほぼ直線521に乗っている。またカソードとアノード間隔Dacが4mmの場合はカソード半径Rcと最大輝度を与える電子銃電流Ieの関係はRcが300μm以下ではほぼ直線522に乗り、Rcが300μm以上ではほぼ直線523に乗っている。直線521、522及び523はそれぞれ次式で与えられる。
521: Ie = 0.0062Rc - 0.0487、
522: Ie = 0.0266Rc -0.225,
523: Ie = 0.0101Rc + 4.73, ここでIe : mA, Rc: μm
従ってカソードとアノード間隔Dacが4mmから10mmの範囲
では超高輝度が得られるIeの条件は、
0.0062Rc -0.0487 ≦ Ie ≦ 0.101Rc + 4.73 Rc≧ 0.3mm, あるいは
0.0062Rc - 0.0487 ≦ Ie ≦0.0266Rc -0.225 Rc < 0.3mm. の範囲内の値にすればよい。
【0053】
図53,54において最大輝度が得られる電子銃電流Ieを縦軸、カソードとアノード間間隔Dacの逆数(1/Dac)を横軸で表示すると、カソード半径300μmの場合は直線531に、カソード半径10μmの場合は直線532にほぼ乗っている。直線531及び532はそれぞれ次式で与えられる。
531: Ie = 0.0204/Dac - 0.0086、
532: Ie = 40/Dac - 2.24, ここでIe : mA, Dac: mm
従ってカソード半径Rcが10μmから300μmの範囲
では超高輝度が得られるIeの条件は、
電子銃電流:Ieを
0.204/Dac - 0.0086 ≦ Ie ≦40/Dac - 2.24 の範囲内の値にすればよい。
図54の縦軸は100μm以下であり、非常に小さい電子銃電流で超高輝度が得られている。このような条件では空間電荷効果によるエネルギー幅の増加も小さくなる。
【0054】
以上はシミュレーションについてのみ述べた。過去の実験結果とシミュレーション結果とを比較した結果を次に示す。
図55はM. Nakasuji and H. Wada, J. Vac. Sci. & Technol., 17(6) Nov. /Dec. 1980 p1367に掲載された図である。実測データ551と552についてシミュレーションを行った。結果を図56と57に示す。ここでカソード電流密度は実測がないのでシミュレーションの値を用いた。図56で561はビームエネルギー20keV, カソード温度1800KでのLangmuir limit, 562は シミュレーションの値、563は実測である。輝度の実測値はシミュレーションの値よりやや小さい値であるが、Langmuir limitは十分超えている。輝度がシミュレーションの値より小さいのは電子銃電極の組立て精度の不十分さ等で予想できる。
図57で、573はビームエネルギー20keV, カソード温度1800KでのLangmuir limit, 571は シミュレーションの値、572は実測である。輝度が小さい領域ではシミュレーション値571と実測値572は比較的良く一致しているので、これらの実験値は信頼でき、1点のみだがLangmuir limitを十分超えた実測値もある。これらの比較から前に述べたシムレーションは実現可能であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、Langmuir限界を超える輝度が得られる電子銃を利用可能にし、エネルギー幅が小さいと予想される電子銃が得られる。従って、1本の光軸の周りに複数の細く絞った大電流のマルチビームを形成し、また光軸から遠い位置にあるビームからの2次電子検出も問題なく可能にし、電子銃から試料面までの距離を短くでき空間電荷効果でのボケも小さくできる。さらに、アノード背面に小開口を設け光軸から遠いビームを電子銃に近い場所で取り除けば、空間電荷効果によるエネルギー幅の増加も小さくなる。さらに、100μm以下の小さい電子銃電流で超高輝度が得られるので空間電荷効果によるエネルギー幅の増加も小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る電子銃のモデル図である。
【図2】図1に示した電子銃で、カソード半径をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図3】図2の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。
【図4】Langmuir限界を超えていない場合の電子軌道図である。
【図5】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図である。
【図6】図1に示した電子銃に静電レンズを追加したモデル図である。
【図7】図6に示した電子銃で、レンズ電圧をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図8】図7の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図9】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図で、レンズは正の高電圧を与えた場合。
【図10】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図で、レンズは負の高電圧を与えた場合。
【図11】図6に示した電子銃で、ウエーネルト角度をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図12】図11の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。
【図13】図6に示した電子銃で、カソード半径をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図14】図13の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図15】図6に示した電子銃で、カソードとアノード間距離をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図16】図15の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図17】図1に示した電子銃で、カソード温度をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図18】図17の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図19】図6に示した電子銃に電磁レンズを追加し、レンズ励磁ATをパラメータとしたシミュレーション例であり、静電レンズは動作していない。
【図20】図19の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図21】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図で、電磁レンズが動作した場合。
【図22】光陰極電子銃を用いた電子銃の実施の形態である。
【図23】高輝度電子銃が使用される電子光学系である。
【図24】高輝度電子銃が使用される電子光学系の1次光学系である。
【図25】図6に示した電子銃で、カソード曲率半径をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図26】図25の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図27】光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。
【図28】図25の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x106A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図29】光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Dac: 2.5mm。
【図30】図29の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図31】光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Dac: 0.8mm。
【図32】図31の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図33】77Kに冷却した光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:RcとLangmuir限界を超えた輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図34】図33の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図35】仕事関数と光電限界波長との関係
【図36】普通輝度電子銃での電子軌道
【図37】中程度の輝度の電子銃での電子軌道高輝度
【図38】高輝度電子銃での電子軌道
【図39】熱電子カソードでの輝度、エミッタンス、カソード電流密度のカソード電流依存性
【図40】図39の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図41】1800K,Dac:.8mm、θw:90.5度での光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果。
【図42】図41の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図43】光陰極を用いたカソードを77Kに冷却し、アノード後面に小開口を設けた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果であり、Dac: 2.5 mm。
【図44】図43の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図45】カソード半径:RcとLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図46】磁気ギャップが試料側にある対物レンズ。
【図47】電子銃モデル。
【図48】図47に示した電子銃で、カソードとアノード間隔Dacをパラメータとしたシミュレーション例である。
【図49】図47に示した電子銃で、カソード半径Rcを0.3 mmとし、カソードとアノード間隔Dacをパラメータとしたシミュレーション例である。
【図50】図47に示した電子銃で、カソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション例である。
【図51】図47に示した電子銃で、カソードとアノード間隔Dacを4 mmに固定し、カソード半径Rc をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図52】カソード半径:RcとLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図53】カソードとアノード間間隔DacとLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図54】図53の縦軸を拡大した図。
【図55】過去の実測データ。
【図56】過去の実測データとシミュレーションとの比較。
【図57】カソード曲率半径480μmでの過去の実測データとシミュレーションとの比較。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高輝度が得られる電子銃に関し、またその様な電子銃を用い、表面にパターンが形成された試料の評価をするための電子線装置に関し、より詳細には、半導体製造各工程後等におけるウエハ等の試料に電子ビームを照射し、その表面の性状に応じて変化する二次電子等を捕捉して画像データを形成し、該画像データに基づいて試料表面に形成されたパターンの欠陥等を高スループットで評価するための電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎えようとしており、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、製造工程数が増加し、工程毎の歩留まり向上は必須となり、プロセス起因の欠陥検査が重要になる。
そして、半導体デバイスの高集積化及びパターンの微細化に伴い、高分解能、高スループットの検査装置が要求されている。45nmデザインルールのウエハの欠陥を調べるためには、40nm以下の分解能が必要であり、デバイスの高集積化による製造工程の増加により、検査量が増大するため、高スループットが要求されている。また、デバイスの多層化が進むにつれて、層間の配線をつなぐビアのコンタクト不良(電気的欠陥)を検出する機能も、検査装置に要求されている。
このような状況において、1本の光軸の近傍に複数のビームを形成し高スループット化する装置が検討されている。(Mamoru Nakasuji etal, Jpn. J,Appl.,Phys.,Vol 44,No.7B 2005,P5570)この様なマルチビーム装置では高輝度は勿論、高エミッタンスの電子銃が要求される。
ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大ビーム電流の電子銃が要求される。(西谷他、第53回応用物理学関連講演会講演予講習No2, 2006 春p798)
電子銃の輝度に関しては、Langmuir限界と呼ばれる最高値があると、従来から信じられていた。それは、次式で示される値であった。
カソード電流密度をJc,とすると、得られる最大電流密度Jmax は、
Jmax = Jc(1+eφ/kT)sin2α (1)
最大輝度Bmaxは、
Bmax = Jmax/πsin2α = Jc(1+eφ/kT)/π (2)
例えば、Jc =10A/cm2, φ=4500Vでは、e=1.6x10-19, k =1.38x10-23
を(2)式に代入すると、Bmax =9.23x104 A/cm2sr となる。
しかし、これらの式は、電子銃が光学モデルに合うと仮定して得られる式で、光学モデルから外れている場合は、このような限界の有無は不明である。言い方を変えれば、このような値より遙かに大きい輝度をうるには、光学モデルから著しくはずれた電子ビームを作れば、得られる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来装置における電子銃は、カソード表面に高電界がかかる様曲率半径の小さい凸型の球面形状を有するカソードと平面アノード、平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃が主流であった。しかしながら、この様な電子銃の輝度は限界があり、所望の輝度より遥かに小さいという問題があった。
更に、これに関し曲率半径25〜40μRの球面カソードと平面アノード及び平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃で、Langmuir限界を超えるシムレーション結果が提案されている。(特開2003−2977272、特開2004−22235、特開2003−323860)しかしこのような電子銃では、カソード寸法が小さいので、少しの組み立て精度の悪さ等で、シムレーション結果の性能が、実際には得られていない問題があった。
【0004】
また、従来のタイプの電子銃ではカソードの近辺で電流密度が高いため、カソード付近でビームエネルギーの小さい時に電子同士が相互作用を起こしエネルギー幅が拡がる問題点があった。本発明は上記問題点を解決するためのもので、Langmuir限界を超える輝度を確実に得られる電子銃を提供し、更にマルチビーム発生に適し、エネルギー幅の小さい電子銃を提供する事を目的とし、さらに本発明で得られる電子銃の性能を充分生かせるマルチビームの電子光学系を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電子線装置においては、円形平面のカソード、凸面の形状を有する引出し電極又はアノード、円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有する電子銃とし、電子銃電流を
0.388/Dac -0.046 ≦ Ie ≦ 92.8/Dac + 9.28、 Dac≧3mm, あるいは
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac <3mm. の範囲内の値にする様にした。さらに、上記の手段において、上記カソード半径は、20μm〜500μmの範囲とした。
【0006】
また、負の電子親和力を有する光陰極のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、カソード電流をmA, カソード半径Rcをμmとした時、カソード電流を,
0.5+0.0098Rc<カソード電流<2.3+0.026Rc の範囲内の値にした。
更に上記手段において、カソード曲率半径を1.5mm以上の凹面、凸面あるいは平面とした。
【0007】
更に、円形のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、上記アノードとカソード間に形成される電界強度を1.6〜5.53kV/mmの範囲内とした。
【0008】
さらに、円形のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、上記カソード直径を、20μm〜500μmの範囲とし、カソードとアノード間距離を0.8〜3mmの範囲とした。
【0009】
円形のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、上記円錐台形状のウエーネルト電極とビーム外周との角度は、69.4〜93.2度にした。ただし、ビーム外周はカソード外周とアノード位置での光軸とを結んだ円錐で近似した。
【0010】
光陰極のカソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、上記カソードから放出させた電子線が、カソードから引き出し電極間はそのビーム径を単調に減少させ、引き出し電極の後方で最小ビーム径を形成するよう制御するようにした。
さらに、上記手段において、上記カソード直径は、40μm〜1000μmの範囲とした。
また、上記第1の手段の電子銃の後方にレンズを設け、該レンズの励磁あるいは励起電圧を調整して、電子銃輝度を調整するようにした。
【0011】
更に、光陰極のカソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、カソード電流Ie を
0.5+0.0098Rc > Ie > 2.4+0.026Rc
とした。なお、この手段において上記カソード半径は20〜500μmの範囲とした。
【0012】
更に、光陰極のカソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、カソード電流Ie を
Ie > 1.4+0.019Rc
とした。なお、上記第1の手段において上記カソードとアノード間にかかる電界強度は、1.6kV/mm 以上とした。
【0013】
更に、円形平面の光電子放出カソード、ウエーネルト電極、平面の形状を有する引出し電極又はアノード、円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有する電子銃とし、電子銃電流をカソード半径から決まる所定値流す様にした。また、上記手段の電子銃の後方にレンズを設け、該レンズの励磁あるいは励起電圧を調整して、電子銃輝度を調整するようにした。
【0014】
また、上記第1の手段の電子銃から放出された電子線で開口を照射しその開口で整形された電子線で試料面を走査し、走査点から放出された2次電子を検出し、試料面の情報を得るようにした。
更に、上記最後の手段において上記電子銃と開口間に2段のコンデンサーレンズを設け、第1コンデンサーレンズと開口間にクロスオーバを形成しないで上記開口を照射する電流密度を調整するようにした。
【0015】
また、プランクの常数をh、照射レーザー波長をν、カソードの仕事関数をeφとしたとき、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の±20%以内の波長を用いた。
更に、カソードを冷却し、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の0〜−10%以内の波長を用いるようにした。
さらに、光陰極のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有し、カソード電流をmA, カソード半径Rcをμmとした時、カソード電流を 0.0107Rc<カソード電流<0.06Rc の範囲内の値にした。
【0016】
また、カソード電流:Ieを
0.0062Rc -0.0487 ≦ Ie ≦ 0.101Rc + 4.73 Rc≧ 0.3mm, あるいは
0.0062Rc - 0.0487 ≦ Ie ≦0.0266Rc -0.225 Rc < 0.3mm. の範囲内の値にした。さらに、
電子銃電流:Ieを
0.204/Dac - 0.0086 ≦ Ie ≦40/Dac - 2.24 の範囲内の値にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
表1は、Langmuir 限界を超える輝度を得るのに用いた電子銃モデル例である。このようなモデルでMEBS社シュミレーションソフト“Source”を用いて、計算を行った。また、”sourcea”を行うための条件も表1の最後に記載した。表1、2で太字はパラメータとして変化させた箇所である。シミュレーション手順は、
・ ウエーネルト電圧をある値に設定し、”SourceV を実行するとカソード電流Ie が算出される。
・ “SourceA“を実行するとカソード電流密度Jc とクロスオーバ径Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
・ “SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと。輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスが算出される。
【表1】
【0018】
図1は、本発明に係る電子銃の概念的断面モデル図である。形状は光軸4の回わりに回転対称形で、平面引き出し電極電子銃である。カソード1は電子線放出面が平面円板状で、LaB6,CeB6,W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極2は、円錐台の内面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通であるが、その位置と寸法は次の特徴がある。カソードの外周からアノード位置で光軸と交わる仮想的な円錐を仮定し、この円錐とθw度の角度差を有し、カソード外周と同じZ座標、R座標はカソード外周+100μm位置から始まる円錐2で示したウエーネルトを設けた。円錐7は近似的にビームの外周である。ビーム外周面はビーム電流を変えると変化するため仮想円錐は上記の様に定義した。ここでは上記ウエーネルト角:θwは90.5度とした。アノード電極のカソード側端5には放電を避けるため曲面にした。ビームが通る穴は光軸と平行な0.2mmRの穴とした。カソード1はウエーネルト2に対して組み込み前に大気中で軸あわせ可能の構造とし、これら2電極とアノードとは図示の無い電子銃外側に設けた微調整機構によってビームを見ながら軸調整を行えるようにした。
【0019】
図1のモデルでの電子銃で、カソード半径Rcを80、100、120、140, 160, 180, 200 μmRと変化させたシミュレーション結果を図2に示した。アノード電圧:4.5kV,カソード:0V, ウエーネルト電圧を変えて電子銃電流を変化させた。電子銃631、電流を変えて輝度を変化させた。図2で横軸は電子銃電流Ie(mA), 縦軸は輝度(x105A/cm2sr)、エミッタンス(μmmrad)、及びカソード電流密度Jc(A/cm2)である。図1で、カソードとアノード電極間距離:Dacは1.2mmである。
20はカソード半径80μm、21はカソード半径100μm、22は、カソード半径120μm、23はカソード半径140μm、24はカソード半径160μm、25はカソード半径180μm、26はカソード半径200μmの電子銃である。点線はエミッタンスであり、直線に近い実線はカソード電流密度であり、実線の曲線は輝度である。カソード半径に依存して変わるが、80μmRc以外の各電子銃は特定のIeで輝度が大きくなり、Langmuir限界値を遙かに超えた値が得られている。用いたシミュレーションはカソードでの電子の初期速度分布は無視した計算のため、輝度の絶対値はやや信頼性に欠けるが、初期エネルギー幅は計算に用いられているので相対値は真値に近いと考えられる。
100μmRcで6.4mA, 120μmRc で7.26mA, 140μmRc で8.4mA, 160μmRc で10.1mA, 180μmRc で12mA、200μmRc で12.8mAで高輝度が得られている。これらの電子銃電流は、従来の高輝度電子銃では、数100μA以下であったのに対して、本結果は、10倍以上の電子銃電流にしているのが特徴である。即ち電子銃電流を大きくすることによって、光学モデルからはずした条件にすることによって、Langmuir限界値を遙かに超えた値が得られたといえる。
100、120、及び140μmRcの電子銃ではIe を増加すると輝度は増加し、超高輝度になった直後、急減している。これに対して180μmRc と200μmRc では、電子銃電流Ieを上げていくと一度輝度が大幅に小さくなり、更にIeを上げると超高輝度が得られているのが見られる。従って180μmRc と200μmRc電子銃では、超高輝度条件を探すには、輝度が低下する条件を探し、その電子銃電流より少し大きい電子銃条件を調べればよい。
また、最大輝度が得られるカソード電流Iemaxとそのカソード半径Rcの比(Iemax/Rc)を算出すると、100、120、140,160、180、200μmRcで順に、0.064、0.0605、0.06、0.0631、0.066、0.064(mA/μm)が得られた。従って、カソード半径(μm)に0.0638を掛けた
値のカソード電流で、Langmuir限界値を遙かに超えた輝度が得られる。
【0020】
図3は図2から、輝度―エミッタンス曲線および輝度―カソード電流密度特性に変えたグラフである。右下がりの曲線は輝度―エミッタンス曲線で、ここでは図の右、あるいは上の曲線が高性能である。水平に近い実線のデータは、輝度―カソード電流密度特性であり、図の下の線が高性能である。31, 32, 33、34の各曲線はわずかに右上がりになっているのは、図2の輝度最大値より低電子銃電流側をグラフ化したからである。35,36の各曲線はわずかに右下がりになっているのは、図2の輝度最大値より高電子銃電流側をグラフ化したからである。30, 31、32、33、34、35, 36は順に80μmRc, 100μmRc, 120μmRc, 140μmRc, 160μmRc, 180μmRc, 及び200μmRcである。37はLangmuir限界値のJc依存性で、従来の理論では、37の右にはB-Jcの曲線は存在しない筈である。38は(輝度)x(エミッタンス)2 に比例する値で、この点線に平行な線が、輝度―エミッタンス特性で、より右上の動作点では、開口でビームを遮らない場合に得られる最大電流が見積もれる。34, 35, 36の曲線の傾斜は、38の傾斜より垂直に近いので同じ電子銃では、低輝度、高エミッタンス条件が大きいビーム電流が得られる。31, 32, 33曲線の傾斜は、38の傾斜より水平に近いので同じ電子銃では、高輝度、低エミッタンス条件が大きいビーム電流が得られる
この図で次のような事が言える。
1)平面カソード平面アノード電極電子銃は、100μmRcから200μmRcでLangmuir限界値を遙かに超える特性が得られる。
2)カソード半径が大きいほうが、小さいカソード電流密度でLangmuir限界値を超える高輝度が得られる。
3)80μRc では上記条件ではLangmuir限界値を超える高輝度は得られなかった。
4)超高輝度条件を探すには、カソード半径Rc(μm)とし、Rc x 0.0638 (mA)の電子銃電流を調べればよい。
3
図4は高輝度が得られなかった場合、図5は高輝度が得られる場合の電子軌道をカソード半径80μm電子銃で比較した例である。カソード1、ウエーネルト2、アノード3、光軸4は図1と同じである。42、43、44は、それぞれ0、100,4400Vの等電位線である。図4ではクロスオーバ41がカソードとアノード間に形成されている。図5では光軸に近い軌道40では、アノード電極を過ぎるまで、クロスオーバを作らず、層流モデルに近い軌道になっている。図4と図5の比較から、クロスオーバを作る光学モデルに近い電子軌道ではなく、層流モデルに近い電子軌道になる様電子銃条件を制御することが、超高輝度を得る1条件であると言える。
以上述べた様に、カソード半径に依存する所定の電子銃電流を流せば、超高輝度が得られることを示した。しかし、これらの電流は大きいので、より小さい電流でLangmuir限界値を超える高輝度が得られるかを調べた。図6は図1のモデルの後方に静電レンズを設けた場合である。3枚の電極61,62,63をもうけ、61,63にアノードと同電位、中央電極62に種々の電圧を与えて、シミュレーションを行った。図6のモデル例を表2に示した。”Sourcea”を実行するための.com データは表1のものと同じである。
【表2】
【0021】
結果を図7及び図8に示す。図7は輝度(実線)、エミッタンス(点線)及びカソード電流密度(実線)の電子銃電流Ie依存性である。中央電極62に与えた電位は、それぞれ、71,は12.5kV, 72は14kV; 73は15kV; 74は12kV; 75は4.5kV である。アノード電位が0Vの場合は、これらの値から4.5kVを差し引く必要がある。カソード半径Rcは140μmの場合についての結果である。レンズの励起が無い75が9.4mAで高輝度になっているのに対して、12.5kVでは4.75mA; 14kV では5.7mA, 15kVでは7.25mA; 12kVでは 9.23mA でそれぞれ最高輝度が得られている。つまり、レンズを通すことによって、より小さい電流で最高輝度が得られている。
全てのレンズ条件に共通して、電子銃電流Ieを上げていくと輝度が単純増加し、更にIeを上げると超高輝度が得られ、その後輝度が急減し、最低輝度になる。エミッタンスは輝度が最大になった条件で最小になり、その後輝度の急減に一致して最大になっているのが見られる。従って超高輝度条件を探すには、輝度を測定可能な開口を設け輝度測定を行うか、あるいはエミッタンスが大きくなる条件を探し、その電子銃電流より少し小さい電子銃条件を調べればよい。
【0022】
図8は図7を輝度B -エミッタンスE特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)で示したものである。81,82,83,84,85,86はそれぞれ、12.5kV, 13kV, 14kV, 12kV, 4.5kV の電圧をレンズの中央電極に印加した場合である。これらの電圧は、カソードを0Vとした場合の値で、カソードがー4.5kVの場合は、4.5kVを引いた値となる。37はLangmuir 限界で、従来の理論ではこの線の右側にはB-Jc特性のデータは存在しない筈である。38は図3で説明した直線で、ここでもB-E特性の傾斜が38の傾斜より大きいので、得られる最大ビーム電流は、低輝度、高エミッタンス条件の方が大きくなる。レンズ作用が無い場合のB-E曲線86がレンズ作用のある場合81,82,83,84,85より上にあるので、残念ながらレンズ作用を利用すると、同じ輝度で得られる最大ビーム電流は小さくなる。
【0023】
図9は、なぜレンズを通すと輝度が向上するかを調べるため、カソードの面から垂直に放出された電子の軌道を示した図である。91に示した様に、カソードから等間隔で放出された軌道は、空間電荷効果のため中央で密度が小さくなっているのがみられる。しかし、レンズを通過した後、92に示した様に評価面6では密度分布が大幅に改善され、空間電荷効果による輝度の低下を補っているといえる。93は正電圧駆動レンズの等ポテンシャル分布である。
【0024】
図10は負電圧駆動レンズを用いた場合の軌道を示したものである。図9の場合と同様に、レンズに入射する前101に比較してレンズを通過後密度分布が大幅に改善され、高輝度を裏づけている。103は負電圧駆動レンズの等ポテンシャル分布である。
【0025】
図11は円錐ウエーネルトの角度を変化させてシュミレーションした結果である。カソード半径Rcは80μmの結果である。ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度を、93.2度、90.5度、83.6度、69.4度及び57.6度の場合を順に、110、111、112,113,114,に示した。点線はエミッタンス、右上がりの実線はカソード電流密度、右肩で急に上昇しているのが輝度である。ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度が93.2度から69.4度のものは、1x106A/cm2srを超える超高輝度が得られているが、57.6度の条件では、最高輝度は4.6x105A/cm2sr であった。このことから、ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度は69.4度より大きい必要がある。
ここで、ウエーネルト角度:90.5度:111と69.4度:113を比較すると、Langmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流の比は2.8mA/3.6mA=0.777倍である。
【0026】
図12は、図11の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。120、121、122、123、及び124はそれぞれウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度が、93.2度、90.5度、83.6度、69.4度及び57.6度の場合である。37は、カソード温度1800KでのLangmuir 限界で、従来の理論では、この右側にはB-Jc特性は存在しない。121:92度はB-E特性が右側にあり、おなじエミッタンスで大きい輝度が得られ、良い性能である。120:90.5度はカソード電流密度が高すぎる。123:69.5度はカソード電流密度が低い特徴がある。以上から、ウエーネルト電極とビーム外周の近似的な面との角度は、69.4〜90.5度が最適で、67.5度より大きければLangmuir限界を超える輝度が得られる。124: 57.6 度は、値は小さいがLangmuir限界を超える輝度が得られている。
【0027】
図13はカソード半径Rcを40、80、120、160、及び200μmの電子銃について電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした結果である。レンズ電圧は12.5kVであり、図7の説明で述べたように、Langmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流が最も小さくなった条件である。また、ウエーネルト角は90.5度、カソードとアノード間隔Dacは1.2mmである。これらの結果は、順に130,131,132,133、及び134に示した。直線に近い実線はカソード電流密度(単位はA/cm2)実線の曲線は輝度(単位は105A/cm2sr)点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)であり、横軸はカソード電流Ie,単位はmAである。輝度が最大になるカソード電流値は、40〜200μmRcに対して、順に1.82, 2.93, 4.24, 5.4, 6.58 mA である。これらの電流値は、
Ie = 0.5 + 0.0304Rc
の直線上にほぼ乗っている。従って Langmuir限界を超える輝度が得られる条件は、カソード電流(mA) =0.5 + 0.0304 Xカソード半径(μm)にすれば良い。レンズを使わない場合の結果、カソード電流=0.0658 X Rcを考慮すれば、レンズ条件が最適でない場合は、これら2つの式の間であるから、
0.5+0.0304Rc<カソード電流<0.0658Rc (3)
である。
【0028】
図14は図13の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。140, 141, 142, 143,及び144 はカソード半径Rcが40、80、120、160、及び200μmの電子銃に対応する。輝度―カソード電流密度特性がほぼ水平に近い所ではLangmuir限界に対応する直線37の右側にあり、輝度が急速に大きくなる条件にも対応しているので、上で述べた“Langmuir限界を超える輝度が得られる条件は、カソード電流>0.5 + 0.0304 Xカソード半径(μm)にすれば良い。”の主張を支持している。
輝度―カソード電流密度特性で、カソード半径が大きいほうが、小さいカソード電流密度でLangmuir限界を超える輝度が得られる。また、顕著ではないがB-E特性で、カソード半径が小さい方が同じ輝度で大きいエミッタンスが得られる傾向がある。
【0029】
図15はカソードとアノード間間隔:Dcaをパラメータとし、電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした結果である。カソード半径Rcは120μm、レンズ電圧は14kV, ウエーネルト角度は90.5度の条件とした。Dac は3, 2.8, 1.8, 1.6、1.2, 及び1mmの寸法で行った。これらの結果は、順に150, 151, 152, 153、154及び155 に示した。点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)、実曲線は輝度(x105A/cm2sr), 直線に近い曲線はカソード電流密度(A/cm2)で前のグラフも今後のグラフもこれは、光軸近くの値である。カソードとアノード間間隔:Dcaが3mmの電子銃では、輝度は最大でも5.6x105A/cm2sr にしかならなかた。カソードとアノード間間隔:Dca が2.8mm以下の条件では、輝度は1x107A/cm2srを遙かに超える値が得られた。カソードとアノード間には4.5kVの電圧が印加されているので、このことから、カソードとアノード間の電界強度は、ほぼ1.6〜4.5kV/mm であれば、Langmuir限界を超える輝度が得られると言える。
更に、151と154をLangmuir限界を超える輝度が得られるIeを比較すると、Dac:1.2mmでは2.5 mA に対してDac:2.8 mmでは4.5mAである。従って、Dac:1.2mmの図13の結果をDac2.8mmの場合に換算すると、(3)式は(4)式になる。
0.278 + 0.0169Rc<カソード電流<0.0658Rc (4)
さらに、最適ウエーネルト角度を用いると、[0026]で述べた比0.777倍を考慮すると、(4)は、
0.168 + 0.0131Rc<カソード電流<0.0658Rc (5)
になる。
【0030】
図16は図15の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。Dcaが3, 2.8, 2.2, 1.8, 1.4, 及び1mmの寸法の特性が、順に160, 161, 162, 163及び164 に対応している。輝度B−エミッタンスE特性から160のDac が3mmの場合が良くない。また、この条件では、輝度も最大でも5.6x105A/cm2sr であるがB-Jc 特性が直線37の右側にあるのでLangmuir限界を超える輝度は得られている。
カソードとアノード間の電界強度が大きいものは、同じ輝度では大きいエミッタンスが得られる傾向がある代わりに高輝度でのカソード電流密度か大きい問題がある。従ってこの図からも、カソードとアノード間の電界強度は、ほぼ1.6〜4.5kV/mm の条件が最適である。
【0031】
次にカソード温度を変化させた場合について図17及び図18で述べる。レンズの無い図1のモデルで、カソード半径140μmRc,アノードーカソード間距離Dac: 1.2mm、ウエーネルト角度:90.5度の構造で、カソード温度を、1800K, 1100K, 450K, 292K について計算し、結果を順に170, 171、172、及び173に示した。1800K では、CeB6カソードで、仕事関数は2.35eV とし、1100KはBa等の酸化物陰極で仕事関数は1.15eV ,450K では光陰極カソードを想定したが、仕事関数と照射レーザエネルギーとの差が0.1eV以下のレーザーとカソード材料とを仮定した。292Kは。負の電子親和力を有する光陰極を仮定し、仕事関数はー0.01eVとした。
実線の曲線は輝度(x105A/cm2sr), 点線はエミッタンス(μmmrad)、直線に近い実線はカソード電流密度であり、各温度条件で同じカソード電流:Ieではほとんど同じ値であった。1800Kの170では、Ieが増加すると輝度が減少し始め、9.2mA で最小値になり、その直後最大値になり、その後急速に減少する。エミッタンスはこれと対照的に、一定値から急減し、最初より小さい値に落ち着く。171の1100K ではIeが増加すると輝度が減少し始め、7.25mA で最小値になり、その直後7.55mAで最大値になり、その後急速に減少する。エミッタンスはこれと対照的に、一定値から急減し、最初より小さい値に落ち着く。450K の172 では、前記2者と異なり、Ieが増加すると輝度は単調増加し、4.2mA で最大値になり、その後急速に減少する。エミッタンスはこれと対照的に、一定値から急減し、すぐ急速増加し、最大値を取る。173の292K では450Kとほぼ同じIe 依存性をしめし、輝度最大になる電子銃電流Ieは4.02mAで、1800K の場合9.45mAに比べると大幅に減少する。従って、酸化物陰極、光電子カソードあるいは、負の電子親和力をもつカソードでは、LaB6やCeB6の熱カソードに比べて、容易にLangmuir限界を超える輝度が得られると言える。
292K と1800K とをLangmuir限界を超える輝度が得られるIeを比較すれと、
4.02/9.45 = 0.425倍である。従って、負の電子親和力を有する光陰極の場合は、Langmuir限界を超える輝度が得られる条件は、
0.0714 + 0.00557Rc<カソード電流<0.0658Rc (6)
になる。これについては図26で更に詳しく述べる。
【0032】
図18は図17の結果を、輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。B-Jc 特性では、輝度が最大値を取る値からIeの大きい側のデータのみを使用した。図18では、カソード温度の1800K, 1100K, 450K, 292K の結果を順に180, 181、182、及び183に示した。カソード温度が1100K, 450K, 292K の場合のLangmuir限界は、(2)式から算出し、39,185,186に示した。
B―E特性から、輝度が1x106A/cm2sr 程度の条件では、光電子陰極ではCeB6や酸化物陰極に比較して大きいエミッタンスが得られる。
B-Jc 特性で、180は直線37より右、181は直線39より右、182は185より右、184は186より右にそれぞれデータが存在し、低い温度でのLangmuir限界を超える輝度が得られると言える。
【0033】
図7で静電レンズを設けた場合より小さい電流でLangmuir限界値を超える高輝度が得られることを示した。静電レンズを電磁レンズに変えた場合にLangmuir限界値を超える高輝度が得られるかを調べた。ボーア径1mmR,ギャップ1mmの電磁レンズに種々の励磁ATを与えて、シミュレーションを行った。 結果を図19及び図20に示す。図19は輝度(実線)、エミッタンス(点線)及びカソード電流密度の電子銃電流Ie依存性である。励磁ATは、それぞれ、191,は500AT, 192は550AT; 193は600AT; 194は400AT; 195は0AT である。
レンズの励起が無い195が9.4mAで高輝度になっているのに対して、500ATでは4.6 mA; 550AT では5.85 mA, 600ATでは7.4 mA; 400ATでは 8.6 mA でそれぞれ最高輝度が得られている。つまり、磁気レンズを通すことによって、より小さい電流で最高輝度が得られている。
全てのレンズ条件に共通して、電子銃電流Ieを上げていくと輝度が単調増加し、更にIeを上げると超高輝度が得られ、その後輝度が急減し、最低輝度になる。エミッタンスは輝度と逆にIeを増加すると、単調増加し、最小エミッタンスになった後、急増しているのが見られる。従って超高輝度条件を探すには、輝度を測定可能な開口を設け輝度測定を行うか、あるいはエミッタンスが大きくなる条件を探し、その電子銃電流より少し小さい電子銃条件を調べればよい。
【0034】
図20は図19を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)で示したものである。201、202、203、204、205、206はそれぞれ順に、500、550、600、400、0 AT, の励磁をレンズに与えた場合である。37はLangmuir 限界で、従来の理論ではこの線の右側にはB-Jc特性のデータは存在しない筈である。38は図3で説明した直線で、ここでもB-E特性の傾斜が38の傾斜より大きいので、得られる最大ビーム電流は、低輝度、高エミッタンス条件の方が大きくなる。レンズ作用が無い場合のB-E曲線206がレンズ作用のある場合201, 202, 203, 204, 205より上にあるので、残念ながらレンズ作用を利用すると、同じ輝度で得られるビーム電流は小さくなる。
【0035】
図21は、電磁レンズを用いるとなぜ高輝度条件が得られる場合があるかを調べるため、電子軌道を示したものである。この場合静電レンズの中央電極211に印加される電圧は、この前後の電極電圧と同じで4.5kV である。210の縦線は、等磁気ポテンシャル線で、レンズ位置を示している。静電レンズの図4,図5の場合と同じくレンズに入射前と評価面6とでは、後者の軌道の密度のバラツキが大幅に改善されている。更に、光軸近くの軌道のクロスオーバ212が光軸から遠い軌道のクロスオーバ213よりカソードに近い側に形成されているのが見える。これは負の球面収差が発生していることになる。負の球面収差が発生するのは、アノード穴のレンズ作用と空間電荷効果であり、アノード穴のレンズ作用は、ビーム電流に依存しないので、従来の電子銃と大きくことなるのは、電子銃電流が大きいことによる空間電荷効果で発生した大きい負の球面収差を電子銃と磁気レンズが作る正の球面収差で打ち消した条件で高輝度が発生していると解釈できる。この解釈が正しいかは分からないが、レンズで輝度を変えられないとの常識は、少なくともシミュレーション上は否定されたことになる。
【0036】
図22は、光陰極電子銃を用いた電子銃の実施の形態である。カソード1、ウエーネルト2、アノード3は光軸4のまわりに軸対象である。ウエーネルトとビーム外周との角度が69.4度以上と比較的大きいので、アノードとウエーネルトの間からレンズ222を通し、レーザー光源223からのレーザー光をカソード1の電子線放出面に照射する。電極電圧はハーメチックシール221から供給する。224は電子銃に接続される光学系の一部である。
【0037】
図23は、高輝度電子銃が使用される電子光学系である。高輝度を有効利用して1本の光軸のまはりに大電流のマルチビームを形成できる。当然光軸から離れた位置にもビームが形成されるので、1本のビームの場合より細かい注意が必要である。電子銃はカソード1、ウエーネルト2、アノード3を有する3電極電子銃である。電子銃から放出されたビームは軸あわせ偏向器234でコンデンサーレンズ235に軸あわせされる。コンデンサーレンズ235で収束されたビームは2段の軸あわせ偏向器236,237で第2コンデンサーレンズ238とマルチ開口239に軸あわせされる。マルチ開口で成型されたマルチビームは回転調整レンズ243で縮小され、2段の軸あわせ偏向器245,247でNA 開口242と縮小レンズ243への軸あわせが行われ、244にマルチビームの縮小像を作り、静電偏向器245と電磁偏向器246とで光軸のオフセットが修正され、対物レンズ248に垂直入射し、試料面250にマルチビームを照射し走査する。試料面を走査するのは、静電偏向器245に重畳された走査信号と静電偏向器247とで行われる。249はマルチビームの軸上色収差を低減するための軸対称電極で、正の高電圧が印加される。試料面から放出された2次電子は電磁偏向器246及び251で一次光学系から離され静電偏向器255で垂直に直される。対物レンズ248、静電レンズ253、及び2段レンズ256,258で拡大され検出器259で各マルチビームからの2次電子が独立に検出される。
対物レンズ248は、レンズギャップ467が試料250の側に形成された電磁レンズであり、軸上色収差が小さく、さらに、軸対称電極249に高電圧を印加することにより、軸上色収差がより低減される構成を有している。該対物レンズの断面図を図46に示す。レンズ励磁コイル461の周りをパーマロイコア460の外側磁極とパメンジュールコアより成る内側磁極462で囲まれた構造で、断面がL字型の非磁性金属部材463と2本のO−リング465とで真空封じされる。Оーリングの当たる面464はコア460とコア462間の磁気抵抗を小さくするため、図示したテーパー状、あるいはOーリング側に凹の曲面形状が良い。固定ねじ468で光軸方向に2個のコア460と462を固定できるので、高精度に製作できる。以上をまとめると、内側磁極と外側磁極で形成される磁気ギャップが試料方向にある磁気レンズで、内側磁極を飽和磁束密度の大きい強磁性体で、外側磁極を高透磁率材料で製作し、内側磁極の外側で外側磁極コアとの接続部に断面が3角形あるいは該3角形の最大辺が凹面形状の強磁性体リングを有する様にすればよい。この結果、2つの磁極の接続部での磁気抵抗が小さくなり、このレンズの軸上磁場分布が単1ピークになり、このレンズの収差を小さくできる。
図24は図23の電子光学系の1次系のみを偏向を無視単純化した図を詳細にした図である。
図24で244はマルチ開口239の結像を示す線である。241はクロスオーバの結像を示した線である。電子銃から放出されるビームのクロスオーバを2段のレンズ235及び238でマルチ開口239の先で拡大像にし、かつ拡大率を調整可能にした。この結果、マルチ開口での電流密度を大きくし、照射強度一様性の良い領域をマルチ開口全体に丁度広げる調整を可能にした。この場合、2段のコンデンサーレンズの間でクロスオーバを作らないので、空間電荷効果によるエネルギー幅の増加が少なく、負の電子親和力を有する光陰極を用いた効果が大きい。
【0038】
図25はカソード曲率半径を平面:252 のみでなく、5mmRの凸面:253、凹面:251;
1.5mmの凸面:250、凹面:254と変化させシミュレーションした結果を示したものである。カソード半径は200μmに固定した。レンズ電圧は12.5kV, ウエーネルト角度θwは90.5度、Dac は1.2mmである。平面カソード252ではカソード電流7.6mA で最大輝度になるのに対して、1.5mm凸面では6.4mA で最大輝度になっている。Langmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流条件は、6.4/7.6 = 0.842倍に減少している。従って、Dac:2.5mm,最適ウエーネルト角度:69.5度の(5)式は、左辺が0.842倍され、
0.141 + 0.0142Rc<カソード電流<0.0658Rc (7)
になる。
1.5mmRの凹面ではLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流条件Ieは9.38mAと大きいが、その場合のカソード電流密度Jc は26A/cm2 から23A/cm2 に減少する特徴がある。Ie は9.38/7.6 = 1.234 倍になるので、(5)式は、左辺が1.234 倍され、
0.207 + 0.0162Rc<カソード電流<0.06Rc (8)
になる。
【0039】
図26は図25を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。260、261, 262, 263, 264, 265 & 266はそれぞれカソード曲率半径:1.5mmの凸、3mmの凸、5mmの凸、フラット、5mmの凹、3mmの凹、1.5mmの凹に対応する。260の1.5mmの凸カソードでは、B-E曲線が最も左側に位置し、同じ輝度で得られる最大電流は小さく、最悪であり、B-Jc特性も上側に位置し、最悪、これに対して266の1.5mm凹面カソードは、B-E特性は右側に位置し、しかもB-Jc特性も最も下側に位置し、最良である。
【0040】
図27は負の電子親和力を有する光陰極のカソード、平面の一部の形状を有する引出し電極又はアノード、及び円錐台形状のウエーネルト電極を有する電子銃のシミュレーション結果である。Dac:1.2mm、θw:90.2度、レンズ;6.5kV , カソード温度293K 、カソード仕事関数:−0.01 eV の条件で、カソード半径Rcを30, 40、80, 120, 160, 200 μmと変化させた。結果を順に、270、271、272、273、274、275、276、277に示す。点線はエミッタンス(μmmrad)、実線は輝度(1x106A/cm2sr)、少し右上がりの線はカソード電流密度(A/cm2)である。各カソード半径での最大輝度が得られるカソード電流Ie を図から読み取ると、順に1.85、2.2、2.95、3.55、4.4、6.1、7.05、8.9 mA、が得られた。これらの数字は、後(図45)で使う。
図28は図27を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを30, 40、80, 120, 160, 200 μmと変化させた結果を順に、280、281、282、283、284、285、2876、287に示す。
【0041】
図29はカソード仕事関数:−0.01eV, 動作温度293K, Dac:2.5mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Rc を、20, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に290, 291, 292, 293, 294,及び295に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、0.361, 1.8, 2.45, 3.39, 4.34及び5.36mAであった。これらの数字は後(図45)で使う。
図30は図29を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた結果を順に、300、301、302、303、304、及び305、に示す。Langmuir 限界の線:186の右側に非常に小さいカソード電流密度Jc でB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcが20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、30、13、7.7、6、5.1、4.6 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。このように、小さい電流密度でLangmuir 限界を超える輝度がえられるのは非常に実用性がある。
【0042】
図31はカソード仕事関数:−0.01eV, 動作温度293K, Dac: 0.8 mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Rc を、20, 30、40、120, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に310, 311, 312, 313, 314,及び315に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、1.78、2.98、3.42、5.38、7.69、10.2, 12.76、及び15.4mAであった。これらの数字は後(図45)で使う。
図32は図31を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 30、40、120, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に320, 321, 322, 323, 324,及び325に示した。Langmuir 限界の線:186の右側にB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcを20, 30、40、120、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、160、100、49、38、30、27、26 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。このカソードとアノード間距離Dac:0.8mmでの特徴は、Langmuir 限界を超える輝度でのエミッタンスEが非常に大きいことである。例えば輝度1x107A/cm2srで図30と図32を比較すると、前者のDac:2.5mmでは1.4 〜9μmmrad であるのに対して、後者のDac:0.8mmでは、12〜65μmmradの値である。高輝度で高エミッタンスが得られるのは非常に実用性がある。
ここで光陰極について検討する。カソードの仕事関数をeφ、照射レーザー波長をλ、そのホトンエネルギーをhν(eV), カソード温度をT(K)、とすると、ベルシェ効果を無視したビームエネルギー幅δEは
δE2 =( kT)2 + (hν-eφ)2 (7)
になる。従ってエネルギー幅δEを小さくするにはレーザー波長のエネルギーをカソード材料の仕事関数より僅かに大きい値とし、かつカソード温度を低くすればよい。
カソード温度が低い場合の結果を次に示す。図33はカソード仕事関数:―0.01eV, 動作温度77K, Dac: 2.5 mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Rc を、2, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に330, 331, 332, 333, 334,及び335に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、0.321、0.923、1.485、2.13、2.83及び3.69 mAであった。これらの数字は後(図45)で使う。
図34は図33を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に340, 341, 342, 343, 344,及び345に示した。Langmuir 限界の線:186の右側にB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcを20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、28、91、59、46、30、27 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。このカソードとアノード間距離Dac:2.5mmでの特徴は、Langmuir 限界を超える輝度での電流密度Jcとカソード電流Ieが非常に小さいことである。このように高輝度が小さい電流密度Jcとカソード電流Ieで高エミッタンスが得られるのは非常に実用性がある。
図35はカソード材料の仕事関数をeφと光電限界波長との関係を示したものである。350, 351, 352, 353, 354, 355,及び356は順にPt上のCs,Pt上のK,Ba,Al,Ag,Pt及びWである(電気通信学会編、通信工学ハンドブック、丸善、1957年、p470)。太い線はhν= eφで決まる限界波長である。金属材料ではW以外はこの直線より限界波長は長波長側へ20%程度シフトしている。逆にタングステン:Wでは短波長側にシフトしている。これらは表面の汚染によって仕事関数が変化した結果、及びカソード温度に依存する熱運動のためより小さいエネルギーの光子で電子放出を可能にする効果だと推測できる。この様に仕事関数の変化を考慮し、367、358で示した範囲内のレーザー波長でカソードを励起するのが好ましい。例えばCeB6カソード359では、490〜550nmの範囲で、527nm,532nm;LaB6では410〜550nmの範囲で、532nm, 527nmの波長で、いずれも半導体励起固体レーザ(緑色)が良い。プランクの常数をh、波長をν、カソードの仕事関数をeφとしたとき、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の±20%以内の波長を用いればよい。カソードを冷却した場合は、カソード励起レーザー波長はhν= eφで決まる限界波長の0〜-10%以内の波長を用いればよい。
【0043】
次に高輝度がなぜ得られるかを調べるため、カソード仕事関数−0.01eV, 動作温度293K, Dac: 0.8 mm, θw:90.5、カソード半径Rc: 0.5mm での条件で、普通輝度、中程度の輝度、及び高輝度での電子軌道を比較する。これらの軌道を作成する場合、カソード中心付近の軌道のみを出力するため、表2の斜体字で22と記した数字を55に変更した結果である。レンズは励起していない。
これに関連して、空間電荷効果を低減するため、アノード後面に小開口を設け、不要な周辺ビームをなるべく早く取り除くのが良い。
図36は普通輝度で、360の軌道で乱れがあるのが見られる。
図37は中程度の輝度で、370、371で軌道は密集し過ぎ、372で軌道は疎になっているのが見られる。
図38は高輝度での軌道で、非常に乱れの無い層流に近い軌道が得られた。層流に近い軌道では、軌道が互いに交差することが無いので、電子同士の衝突が少なくベルシェ効果でエネルギー幅が拡がる効果が少なく、しかもビームが最小径になるのがカソードから1.5mmで、アノード位置:0.8mm より後方でビームは充分に加速されているので電子同志の相互作用はさらに小さい。当然この様な層流に近い電子軌道では、光学モデルから大きくはずれているので、Langmuir 限界を超える輝度が得られても何も矛盾はない。結局カソードでは電流密度が小さく、ビーム径がアノードを過ぎるまでは単調減少する軌道になるようウエーネルト電圧を制御すれば、高輝度でエネルギー幅の小さいビームが得られ、軸上色収差が小さく、大電流を小さく絞れる。
【0044】
図39は熱電子カソードでLangmuir 限界を超える輝度のカソード電流Ieの各カソード半径での最小値を調べた結果である。カソード半径Rcを80、100、200、300、400及び500μmにし、レンズ条件は12.5kV,Dac:2.5mm、2.35 eV, ウエーネルト角度:90.5度の電子銃について電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした。結果は、順に390, 391, 392,393,394,395 及び396に示した。直線に近い実線はカソード電流密度(単位はA/cm2)実線の曲線は輝度(単位は105A/cm2sr)点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)であり、横軸はカソード電流Ie,単位はmAである。輝度が大きくなるカソード電流値は、順に1.81, 2.31, 3.26, 4.69,6.25 mA である。500μm半径カソードはこの条件では上記限界を超えられなかった。これらの数字は後(図45)で使用する。
図40は図39の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。400、401、402、403、404、及び405 はカソード半径Rcが80、100、200、300、400、及び500μmの電子銃に対応する。輝度―カソード電流密度特性がほぼ水平に近い所ではLangmuir限界に対応する直線37の右側にあり、“Langmuir限界を超える輝度が得られている。カソード半径500μmの405の曲線は、37の右には出ていなく上記限界を超えられなかった。
【0045】
図41は熱電子カソードでLangmuir 限界を超える輝度の各カソード半径での最大値を調べた結果である。カソード半径Rcを80、100、200、300、400及び500μmにし、レンズ励起なし,Dac:0.8mm、仕事関数:2.35 eV, ウエーネルト角度:90.5度の電子銃について電子銃電流Ieを変化させてシュミレーションした。結果は、順に410, 411, 412, 413, 414, 415 及び416に示した。直線に近い実線はカソード電流密度(単位はA/cm2)実線の曲線は輝度(単位は105A/cm2sr)点線の曲線はエミッタンス(μmmrad)であり、横軸はカソード電流Ie,単位はmAである。輝度が大きくなるカソード電流値は、順に
1.81, 2.31, 3.26, 4.69,6.25 mA である。500μm半径カソードはこの条件では上記限界を超えられなかった。これらの数字は後(図45)で使用する。
図42は図41の結果を輝度B−エミッタンスE特性(右下がりの曲線)とB-Jc特性で表したグラフである。420、421、422、423、424、及び425 はカソード半径Rcが80、100、200、300、400、及び500μmの電子銃に対応する。輝度―カソード電流密度特性がほぼ水平に近い所ではLangmuir限界に対応する直線37の右側にあり、“Langmuir限界を超える輝度が得られている。カソード半径500μmの405の曲線は、37の右には出ていなく上記限界を超えられなかった。
【0046】
図43は図33と同様にカソード仕事関数:―0.01eV, 動作温度77K, Dac: 2.5 mm, θw:90.5度、でカソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。但し、ここでは、空間電荷効果を減少させるため、アノード後面に小開口(43.1μmR)を設け、ビーム電流を1/10 以下に減少させた。Rc を、2, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に430, 431, 432, 433, 434,及び435に示した。各カソード半径で、最大輝度が得られるカソード電流Ie は順に、0.323、0.868、1.47、2.038、2.791及び3.561 mAであった。これらの数字は図33の結果とほとんど差はない。また、この図では、クロスオーバZ位置:Zco の値(ほぼ山形の実線)も表示した。20μmRcでは、Zco が負の値になったが、Rcが100〜400μmでは、10mm前後の値であった。500μmRc では表示しなかった。開口位置は、アノード後面Z=3.6mmであるから、クロスオーバを形成する前でビーム電流を1/10 以下に減少させた場合も“Langmuir限界を超える輝度が得られている。
図44は図43を輝度:B -エミッタンス:E特性(ほぼ右下がりの曲線群)とB-Jc(カソード電流密度)特性:ほぼ水平の線とで示したものである。カソード半径Rcを20, 100, 200, 300, 400,及び500μmとした結果を、順に440, 441, 442, 443, 444,及び445に示した。Langmuir 限界の線:186の右側にB-Jc 曲線が存在している。即ち、Rcを20, 100、200, 300, 400,及び 500 μmと変化させた時、カソード電流密度Jc は順に、28、91、59、46、30、27 A/cm2 でLangmuir 限界をこえている。この場合と図4をエミッタンスで比較すると、ビーム電流が1/10 以下に減少しているにもかかわらず、エミッタンスは減少せず、むしと微増している。ビーム電流が1/10 以下に減少すれば、確実に、空間電荷効果は1/10 以下に減少するので、この様に電子銃が作るクロスオーバより手前にビームの大部分を取り除く開口を設けることは実用性がある。
今まで説明してきたLangmuir 限界をこえる輝度が得られるカソード電流のカソード半径依存性を図45にまとめた。
450:図41の結果をまとめた。 ; Ie = 10.5 + 0.0296Rc 120 < Rc ≦ 500
451:図41の結果をまとめた。 ; Ie = 0.116Rc Rc ≦ 120 μm
452:図2図の結果をまとめた。 ; Ie = 0.0645Rc
453:図31の結果をまとめた。 ; Ie = 2.6 + 0.0254Rc
454: 図13の結果をまとめた。 ; Ie = 0.9 + 0.027Rc
455: 図 27の結果をまとめた。 ; Ie = 1.5 + 0.0183Rc
456: 図 29の結果をまとめた。 ; Ie = 1 + 0.0086Rc
457: 図 33 & 34図の結果をまとめた。 ; Ie = 0.4 + 0.0064Rc
この図から、カソード半径Rcが、120μmよりちいさいかあるいは等しいとき、
0.4 +0.0064Rc ≦ Ie ≦ 0.116 Rc の範囲で、Langmuir 限界をこえる輝度が得られる条件を作れる。
また、カソード半径Rcが、120μmより大きいとき、
0.4 + 0.0064Rc ≦ Ie ≦ 10.5+0.0296 Rc の範囲で、Langmuir 限界をこえる輝度が得られる条件を作れる。
さらに、高輝度、高エミッタンスを得たい場合は、451又は450と453の間の範囲のカソード電流にすればよい、即ちカソード半径Rcが、120μmより小さいかあるいは等しいとき、
2.6 + 0.0254Rc ≦ Ie ≦ 0.116 Rc の範囲 にすればよく、カソード半径Rcが、120μmより大きいとき、
2.6 + 0.0254Rc ≦ Ie ≦ 10.5+0.0296 Rc の範囲にすればよい。
また、比較的小さいカソード電流あるいは、比較的小さいカソード電流密度で、Langmuir 限界をこえる輝度を得たい場合は、457と453の間の範囲のカソード電流にすればよい。即ち、0.4 + 0.0064Rc ≦ Ie ≦ 2.6 + 0.0254Rc の範囲にすればよい。
さらに、カソード半径は、比較的小さいカソード電流でLangmuir 限界をこえる輝度が得られるのは、20≦Rc(μm)≦200であり、比較的小さいカソード電流密度でLangmuir 限界をこえる輝度が得られるのは、200≦Rc(μm)≦500である。
【0047】
以上の実施の形態では電子銃電流の比較的大きい範囲で超高輝度が得られた。より使い易い電子銃を得るには、より小さい電子銃電流でLangmuir limitを超える超高輝度を得る条件を調べた。電子銃モデルは図47に示した。カソード:471, ウエーネルト: 472, 凸型球面アノード: 473, の後方に静電レンズ: 474を設け、静電レンズ電極474に与える電圧やウエーネルトと光軸との角度を最適化した。475は光軸であり、476は評価面である。
【0048】
図48はカソード半径Rcを10μmに固定し、カソードとアノード間距離Dacを10mm、6mm、4mm及び3mmと変化した結果をそれぞれ481, 482, 483 及び484に示す。これらのDac の条件ではそれぞれ電子銃電流が13.3, 24, 40.8 及び61 μAで超高輝度が得
ではではの逆数(1/Dac)を横軸にプロットした図を図53、54に示した。
【0049】
図49はカソード半径Rcを300μmに固定し、カソードとアノード間距離Dacを10mm、6mm及び4mmと変化した結果をそれぞれ491, 492, 及び493に示す。これらのDac の条件ではそれぞれ電子銃電流が1.82, 4.55 及び7.76 mAで超高輝度が得られている。超高輝度が得られた電子銃電流Ie(max B)を縦軸、カソードとアノード間距離の逆数(1/Dac)を横軸にプロットした図を図53と54に示した。
【0050】
図50はカソードとアノード間距離Dacを10mmに固定し、カソード半径Rcを10μm、300μm及び500μmと変化した結果をそれぞれ501, 502, 及び503に示す。これらのRc の条件ではそれぞれ電子銃電流が0.00133, 1.82 及び3.05 mAで超高輝度が得られている。超高輝度が得られた電子銃電流Ie(max B)を縦軸、カソード半径Rcを横軸にプロットした図を図52に示した。
【0051】
図51はカソードとアノード間距離Dacを4 mmに固定し、カソード半径Rcを10μm、100μm、200μm、300μm、500μm及び700μmと変化した結果をそれぞれ511, 512, 513, 514, 515及び516に示す。これらのRc の条件ではそれぞれ電子銃電流が0.0408, 2.4, 5.23, 9.75 及び11.8 mAで超高輝度が得られている。超高輝度が得られた電子銃電流Ie(max B)を縦軸、カソード半径Rcを横軸にプロットした図を図52の直線522及び523に示した。
【0052】
図52において、カソードとアノード間隔Dacが10mmの場合はカソード半径Rcと最大輝度を与える電子銃電流Ieの関係はほぼ直線521に乗っている。またカソードとアノード間隔Dacが4mmの場合はカソード半径Rcと最大輝度を与える電子銃電流Ieの関係はRcが300μm以下ではほぼ直線522に乗り、Rcが300μm以上ではほぼ直線523に乗っている。直線521、522及び523はそれぞれ次式で与えられる。
521: Ie = 0.0062Rc - 0.0487、
522: Ie = 0.0266Rc -0.225,
523: Ie = 0.0101Rc + 4.73, ここでIe : mA, Rc: μm
従ってカソードとアノード間隔Dacが4mmから10mmの範囲
では超高輝度が得られるIeの条件は、
0.0062Rc -0.0487 ≦ Ie ≦ 0.101Rc + 4.73 Rc≧ 0.3mm, あるいは
0.0062Rc - 0.0487 ≦ Ie ≦0.0266Rc -0.225 Rc < 0.3mm. の範囲内の値にすればよい。
【0053】
図53,54において最大輝度が得られる電子銃電流Ieを縦軸、カソードとアノード間間隔Dacの逆数(1/Dac)を横軸で表示すると、カソード半径300μmの場合は直線531に、カソード半径10μmの場合は直線532にほぼ乗っている。直線531及び532はそれぞれ次式で与えられる。
531: Ie = 0.0204/Dac - 0.0086、
532: Ie = 40/Dac - 2.24, ここでIe : mA, Dac: mm
従ってカソード半径Rcが10μmから300μmの範囲
では超高輝度が得られるIeの条件は、
電子銃電流:Ieを
0.204/Dac - 0.0086 ≦ Ie ≦40/Dac - 2.24 の範囲内の値にすればよい。
図54の縦軸は100μm以下であり、非常に小さい電子銃電流で超高輝度が得られている。このような条件では空間電荷効果によるエネルギー幅の増加も小さくなる。
【0054】
以上はシミュレーションについてのみ述べた。過去の実験結果とシミュレーション結果とを比較した結果を次に示す。
図55はM. Nakasuji and H. Wada, J. Vac. Sci. & Technol., 17(6) Nov. /Dec. 1980 p1367に掲載された図である。実測データ551と552についてシミュレーションを行った。結果を図56と57に示す。ここでカソード電流密度は実測がないのでシミュレーションの値を用いた。図56で561はビームエネルギー20keV, カソード温度1800KでのLangmuir limit, 562は シミュレーションの値、563は実測である。輝度の実測値はシミュレーションの値よりやや小さい値であるが、Langmuir limitは十分超えている。輝度がシミュレーションの値より小さいのは電子銃電極の組立て精度の不十分さ等で予想できる。
図57で、573はビームエネルギー20keV, カソード温度1800KでのLangmuir limit, 571は シミュレーションの値、572は実測である。輝度が小さい領域ではシミュレーション値571と実測値572は比較的良く一致しているので、これらの実験値は信頼でき、1点のみだがLangmuir limitを十分超えた実測値もある。これらの比較から前に述べたシムレーションは実現可能であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、Langmuir限界を超える輝度が得られる電子銃を利用可能にし、エネルギー幅が小さいと予想される電子銃が得られる。従って、1本の光軸の周りに複数の細く絞った大電流のマルチビームを形成し、また光軸から遠い位置にあるビームからの2次電子検出も問題なく可能にし、電子銃から試料面までの距離を短くでき空間電荷効果でのボケも小さくできる。さらに、アノード背面に小開口を設け光軸から遠いビームを電子銃に近い場所で取り除けば、空間電荷効果によるエネルギー幅の増加も小さくなる。さらに、100μm以下の小さい電子銃電流で超高輝度が得られるので空間電荷効果によるエネルギー幅の増加も小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る電子銃のモデル図である。
【図2】図1に示した電子銃で、カソード半径をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図3】図2の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。
【図4】Langmuir限界を超えていない場合の電子軌道図である。
【図5】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図である。
【図6】図1に示した電子銃に静電レンズを追加したモデル図である。
【図7】図6に示した電子銃で、レンズ電圧をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図8】図7の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図9】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図で、レンズは正の高電圧を与えた場合。
【図10】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図で、レンズは負の高電圧を与えた場合。
【図11】図6に示した電子銃で、ウエーネルト角度をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図12】図11の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。
【図13】図6に示した電子銃で、カソード半径をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図14】図13の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図15】図6に示した電子銃で、カソードとアノード間距離をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図16】図15の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図17】図1に示した電子銃で、カソード温度をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図18】図17の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図19】図6に示した電子銃に電磁レンズを追加し、レンズ励磁ATをパラメータとしたシミュレーション例であり、静電レンズは動作していない。
【図20】図19の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図21】Langmuir限界を超えた輝度が得られた場合の電子軌道図で、電磁レンズが動作した場合。
【図22】光陰極電子銃を用いた電子銃の実施の形態である。
【図23】高輝度電子銃が使用される電子光学系である。
【図24】高輝度電子銃が使用される電子光学系の1次光学系である。
【図25】図6に示した電子銃で、カソード曲率半径をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図26】図25の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図27】光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。
【図28】図25の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x106A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図29】光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Dac: 2.5mm。
【図30】図29の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図31】光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果である。Dac: 0.8mm。
【図32】図31の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図33】77Kに冷却した光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:RcとLangmuir限界を超えた輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図34】図33の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図35】仕事関数と光電限界波長との関係
【図36】普通輝度電子銃での電子軌道
【図37】中程度の輝度の電子銃での電子軌道高輝度
【図38】高輝度電子銃での電子軌道
【図39】熱電子カソードでの輝度、エミッタンス、カソード電流密度のカソード電流依存性
【図40】図39の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図41】1800K,Dac:.8mm、θw:90.5度での光陰極を用いた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果。
【図42】図41の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図43】光陰極を用いたカソードを77Kに冷却し、アノード後面に小開口を設けた電子銃で、カソード半径:Rcをパラメータとしたシミュレーション結果であり、Dac: 2.5 mm。
【図44】図43の結果をB-E表示とB-Jc表示とした図。横軸は、輝度(x105A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)。
【図45】カソード半径:RcとLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図46】磁気ギャップが試料側にある対物レンズ。
【図47】電子銃モデル。
【図48】図47に示した電子銃で、カソードとアノード間隔Dacをパラメータとしたシミュレーション例である。
【図49】図47に示した電子銃で、カソード半径Rcを0.3 mmとし、カソードとアノード間隔Dacをパラメータとしたシミュレーション例である。
【図50】図47に示した電子銃で、カソード半径Rcをパラメータとしたシミュレーション例である。
【図51】図47に示した電子銃で、カソードとアノード間隔Dacを4 mmに固定し、カソード半径Rc をパラメータとしたシミュレーション例である。
【図52】カソード半径:RcとLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図53】カソードとアノード間間隔DacとLangmuir限界を超える輝度が得られるカソード電流Ieとの関係。
【図54】図53の縦軸を拡大した図。
【図55】過去の実測データ。
【図56】過去の実測データとシミュレーションとの比較。
【図57】カソード曲率半径480μmでの過去の実測データとシミュレーションとの比較。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃の後方にレンズを設けた装置であって、平面のカソード、引出し電極又はアノード、円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有する電子銃を有し、電子銃電流: Ieの単位をmA, カソードとアノード間距離:Dac、単位mmとした時、
0.388/Dac -0.046 ≦ Ie ≦ 92.8/Dac + 9.28、 Dac≧3mm, あるいは
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac <3mm.
の範囲内の値にする、又は, カソード半径Rcの単位をμmとした時、電子銃電流Ieを 0.0062Rc -0.0487 ≦ Ie ≦ 0.101Rc + 4.73 Rc≧ 0.3mm, あるいは
0.0062Rc - 0.0487 ≦ Ie ≦0.0266Rc -0.225 Rc < 0.3mm.
の範囲内の値にした事を特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1において、上記レンズの励磁あるいは励起電圧を調整して、電子銃輝度を調整する事を特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項1において、上記カソードとアノード間にかかる電界強度を、1.6 kV/mm 以上とした事を特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項1において、電子銃電流:Ieを
0.0107Rc< Ie <0.06Rc の範囲内の値にした事を特徴とする電子線装置。
【請求項5】
請求項1において、上記レンズは内側磁極と外側磁極で形成される磁気ギャップが試料方向にある磁気レンズで、内側磁極を飽和磁束密度の大きい強磁性体で、外側磁極を高透磁率材料で製作し、内側磁極の外側で外側磁極コアとの接続部に断面が3角形あるいは該3角形の最大辺が凹面形状の強磁性体リングを有する事を特徴とする電子線装置。
【請求項6】
請求項1において、上記内側磁極をパーメンジュールとし、外側磁極をパーマロイとする事を特徴とする電子線装置。
【請求項1】
電子銃の後方にレンズを設けた装置であって、平面のカソード、引出し電極又はアノード、円錐の一部の形状のウエーネルト電極を有する電子銃を有し、電子銃電流: Ieの単位をmA, カソードとアノード間距離:Dac、単位mmとした時、
0.388/Dac -0.046 ≦ Ie ≦ 92.8/Dac + 9.28、 Dac≧3mm, あるいは
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac <3mm.
の範囲内の値にする、又は, カソード半径Rcの単位をμmとした時、電子銃電流Ieを 0.0062Rc -0.0487 ≦ Ie ≦ 0.101Rc + 4.73 Rc≧ 0.3mm, あるいは
0.0062Rc - 0.0487 ≦ Ie ≦0.0266Rc -0.225 Rc < 0.3mm.
の範囲内の値にした事を特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1において、上記レンズの励磁あるいは励起電圧を調整して、電子銃輝度を調整する事を特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項1において、上記カソードとアノード間にかかる電界強度を、1.6 kV/mm 以上とした事を特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項1において、電子銃電流:Ieを
0.0107Rc< Ie <0.06Rc の範囲内の値にした事を特徴とする電子線装置。
【請求項5】
請求項1において、上記レンズは内側磁極と外側磁極で形成される磁気ギャップが試料方向にある磁気レンズで、内側磁極を飽和磁束密度の大きい強磁性体で、外側磁極を高透磁率材料で製作し、内側磁極の外側で外側磁極コアとの接続部に断面が3角形あるいは該3角形の最大辺が凹面形状の強磁性体リングを有する事を特徴とする電子線装置。
【請求項6】
請求項1において、上記内側磁極をパーメンジュールとし、外側磁極をパーマロイとする事を特徴とする電子線装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図56】
【図57】
【図6】
【図9】
【図10】
【図21】
【図47】
【図55】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
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【図12】
【図13】
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【図16】
【図17】
【図18】
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【図22】
【図23】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図56】
【図57】
【図6】
【図9】
【図10】
【図21】
【図47】
【図55】
【公開番号】特開2009−170427(P2009−170427A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24473(P2009−24473)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【分割の表示】特願2008−168639(P2008−168639)の分割
【原出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【分割の表示】特願2008−168639(P2008−168639)の分割
【原出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】
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