説明

電子部品用冷却装置

【課題】従来に比して熱抵抗が小さく、効率良い冷却により、トランジスタのジャンクション温度を確実に所定温度以下に保持可能とする。
【解決手段】冷却装置は、発熱性電子部品であるIGBT1を収納する収納ケース2を有し、収納ケース2の頂面は、外部から供給される冷却液4が流通せしめられる冷却液通路3cが形成されたフィン3aを複数有してなるヒートシンク3が設けられて閉鎖される一方、収納ケース2内には、絶縁性冷却液としてハイドロフルオロエーテル6が、冷却液非充填空間7が確保されるように充填されてなり、ハイドロフルオロエーテル6の気化によるIGBT1の冷却が可能に構成されたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の冷却装置に係り、特に、トランジスタ等に代表される発熱性電子部品の冷却における冷却能力の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子部品、特に、トランジスタ等に代表される発熱性電子部品については、その冷却のための構造、装置等が種々提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
図3には、インバータ装置におけるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の冷却装置の従来例が示されており、以下、同図を参照しつつ、この従来装置について説明する。
この冷却装置は、車両に搭載されたインバータ装置を構成するIGBT21の冷却に適用されるもので、冷却液25が流通せしめられる複数の冷却液通路22aが形成されたヒートシンク22を有し、このヒートシンク22の上に銅板23及び絶縁シート24を介してIGBT21が載置され、ヒートシンク22によるIGBT21の冷却が可能に構成されたものとなっている。なお、冷却液25は、車両用空調装置の冷却液が流用されるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−135971号公報(第2−3頁、図1−図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の冷却装置においては、IGBT21とヒートシンク22との間には、多くの熱抵抗が存在する構成となっているため、IGBT21のジャンクション温度を、正常動作が確保される所定温度、例えば、150℃程度までに下げるには、ヒートシンク22の温度を65℃以下にする必要がある。
このため、上述の冷却装置においては、ヒートシンク22に車両用空調装置の冷却液25を流通せしめる構成を採っているが、外気温が高い場合などには、冷却液25と外気温との温度差が小さくなり、十分な冷却効果を得ることができなくなるという問題を生ずる。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、従来に比して、熱抵抗が小さく、効率良い冷却を可能とし、特に、トランジスタのジャンクション温度を確実に所定温度以下に保持可能な冷却装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る冷却装置は、
電子回路を構成する発熱性電子部品の冷却装置であって、
前記冷却装置は、前記発熱性電子部品を収納する収納ケースを有し、当該収納ケースの頂面には、外部冷却装置の冷却液が流通せしめられる冷却液通路が複数配設される一方、
前記収納ケースには、絶縁性冷却液としてハイドロフルオロエーテルが充填されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発熱性電子部品が絶縁性冷却液中に浸され、発熱性電子部品の熱が絶縁性冷却液によって直接奪われるため、従来と異なり冷却の際の熱抵抗が極めて低く、効率の良い冷却ができる。
また、発熱性電子部品全体がほぼ均一に冷却されるため、発熱分布を均一にし、熱応力の発生を防止でき、ひいては、電子回路装置の信頼性の向上に寄与することができる。
さらに、電気自動車などのインバータ装置を構成するパワートランジスタの冷却に用いる場合にあっては、従来と異なり、外気温度が高く、車両用空調装置の冷却液温度が高い場合であっても、それとは無関係に、パワートランジスタを確実に冷却でき、ジャンクション温度を上限値以下に保つことができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態における冷却装置の第1の構成例における縦断面図を模式的に示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態における冷却装置の第2の構成例における縦断面図を模式的に示す模式図である。
【図3】従来の冷却装置の一例を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、第1の構成例における冷却装置について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における冷却装置は、全体外観形状が直方体状に形成された収納ケース2を有しており、かかる収納ケース2に発熱性電子部品としてのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)1が後述するように絶縁性冷却液としてのハイドロフルオロエーテル(以下「HFE」と称する)6に浸漬されて収納されたものとなっている。
【0010】
本発明の実施の形態における収納ケース2は、その一面が開口面とされ、この開口面側が頂面として配設されるものとなっていると共に、この開口面を閉鎖するようにヒートシンク3が配設されたものとなっている。
ヒートシンク3は、例えば、全体外観形状が短冊状に形成されたフィン3aが適宜な間隔を隔てて、平板状の基部3bに複数立設されてなるものである。
さらに、本発明の実施の形態のヒートシンク3においては、フィン3aがやや厚めに形成されており、その内部には、冷却液4を流通せしめることができるよう冷却液通路3cが長手軸方向(図1において紙面表裏方向)に沿って形成されたものとなっている。かかるヒートシンク3は、フィン3a側が収納ケース2の内部に位置するようにして収納ケース2の頂面側の一面を閉鎖するように設けられている。
【0011】
本発明の実施の形態において冷却対象とされるIGBT1は、電気自動車やハイブリット車に搭載されたインバータ装置(図示せず)に用いられるもので、上述の冷却液通路3cには、外部から供給される冷却液4が流通せしめられるものとなっている。
この外部から供給される冷却液4は、例えば、電気自動車の駆動モータ(図示せず)の冷却用水、又は、ハイブリット車の駆動エンジン(図示せず)の冷却用水を用いるのが好適である。
さらに、車両用空調装置(図示せず)を備えるものにあっては、冷凍サイクルの冷媒液を冷却液4として用いるようにしても好適である。
一方、収納ケース2の底部、すなわち、ヒートシンク3が設けられた面と反対側の面には、IGBT1が搭載される少なくとも2つの絶縁体5a,5bが固着されており、IGBT1は、その対向する2つの縁の近傍において、収納ケース2の底部側に臨む部位が絶縁体5a,5bに固着されたものとなっている。
【0012】
IGBT1は、本発明の実施の形態においては、先に述べたように、インバータ装置(図示せず)に用いられるものであり、図1においては、便宜上、IGBT1のみが絶縁体5a,5bに載置される如くに示されているが、実際には、例えば、いわゆるチップオンボードで用いられることが多く、したがって、その場合には、IGBT1が設けられたプリント基板(図示せず)が絶縁体5a,5b上に載置されるものとなる。
【0013】
収納ケース2内には、その内部の空間の体積の大凡7〜8割程度を占めるように絶縁性冷却液としてのHFE6が充填されており、残余の空間は、冷却液非充填空間7となっており、ヒートシンク3のフィン3aは、この冷却液非充填空間7に位置するようになっている。
この冷却液非充填空間7は、大気圧よりも低い気圧、例えば、大凡0.7気圧前後に設定するのが好適である。これは、後述するようにHFE6が気化した場合に冷却液非充填空間7の圧が上昇するため、その上昇分程度を予め低い気圧にしておき、上昇した際にほぼ大気圧程度とするためである。
【0014】
HFE6は、例えば、この種の同様な冷媒として用いられるフロリナート(登録商標)と比較すると、単位重量当たりの蒸発潜熱は凡そ1.5倍あり、しかも、オゾン破壊係数はゼロで、地球温暖化係数もフロリナート(登録商標)に比して低く、地球環境に対して十分配慮された物質であるので、絶縁性冷却液としては極めて好適である。
また、絶縁性冷却液の絶縁耐力としては、体積抵抗率で10Ω・cm以上あることが望ましいが、HFE6の体積抵抗率は、大凡2×1011Ω・cm程あり、十分な絶縁耐力が確保できる点で有効である。
【0015】
そして、HFE6は、IGBT1のジャンクション温度の上限値よりも低い温度に沸点を有するものが好適である。例えば、ジャンクション温度の上限値が150℃である場合、HFE6は、130℃前後に沸点を有するものを選択するのが好適である。
【0016】
次に、かかる構成における冷却作用について説明する。
IGBT1の動作に伴う発熱によってHFE6の温度が徐々に上昇し、その温度がHFE6の温沸点付近になるとHFE6は徐々に気化し始め、沸点ではHFE6が沸騰し、大量に気化することとなる。それにより、IGBT1の熱が奪われるため、ジャンクション温度の上昇が抑圧されることとなる。
【0017】
また、上述の気化によって冷却液非充填空間7は、HFE6が気化した気体に満たされることとなるが、フィン3a近傍の気体はフィン3a内部を冷却液4が流通せしめられているため冷却され、液化し、再びHFE6となってIGBT1の冷却に供されることとなる。
なお、図1において符号8はHFE6が沸騰し気化する際に生ずる気泡を示し、符号9は、気体から再び液化した際の滴を示している。
上述の第1の構成例における冷却状態は、HFE6を沸騰させ、その際に生ずるHFE6の気化によってIGBT1の冷却が行われることから、”気相冷却”と称することができるものである。
【0018】
次に、第2の構成例について、図2を参照しつつ説明する。
なお、第1の構成例と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第2の構成例は、先の第1の構成例における気相冷却に対して、いわば液相冷却が行われるよう構成されたものである。
すなわち、この第2の構成例において、HFE6は、収納ケース2の空間をほぼ埋め尽くされるように充填され、冷却液非充填空間7は、大凡収納ケース2内の全空間の1割に満たない程度となっている。換言すれば、この第2の構成例にあっては、フィン3aの大部分がHFE6に浸るように、HFE6が充填されたものとなっている。
【0019】
そのため、HFE6は、IGBT1を冷却しつつも、内部を冷却液4が流通するフィン3aによってHFE6自体が冷却されるため、沸騰点以下に保たれた状態に維持でき、IGBT1に対する液相冷却が行われるものとなっている。
なお、本発明の実施の形態における冷却装置においては、冷却対象を、ハイブリット車や電気自動車におけるインバータ装置に用いられるIGBTとしたが、勿論、これに限定される必要はなく、他の発熱性電子部品、例えば、サイリスタや電力用トランジスタ等にも同様に適用できるものである。さらに、冷却液4についても、必ずしも、エンジンの冷却用水等を流用する場合に限定される必要はなく、専用の冷却液を流通せしめる構成としても勿論良いものである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
電気自動車などの電子回路における発熱性電子部品の効率の良い冷却に適用できる。
【符号の説明】
【0021】
1…IGBT
2…収納ケース
3…ヒートシンク
3a…フィン
3c…冷却液通路
6…ハイドロフルオロエーテル
7…冷却液非充填空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路を構成する発熱性電子部品の冷却装置であって、
前記冷却装置は、前記発熱性電子部品を収納する収納ケースを有し、当該収納ケースの頂面には、外部から供給される冷却液が流通せしめられる冷却液通路が複数配設される一方、
前記収納ケースには、絶縁性冷却液としてハイドロフルオロエーテルが充填されてなることを特徴とする電子部品用冷却装置。
【請求項2】
発熱性電子部品は、トランジスタであって、ハイドロフルオロエーテルは、前記トランジスタのジャンクション温度の上限値より低い沸点を有し、当該ハイドロフルオロエーテルは、その気化により生じた気体を貯留可能な冷却液非充填空間が確保されるよう収納ケースに充填されてなることを特徴とする請求項1記載の電子部品用冷却装置。
【請求項3】
冷却液通路に外部から供給される冷却液は、電気自動車の駆動モータの冷却用水、又は、ハイブリット車のエンジンの冷却用水であることを特徴とする請求項2記載の電子部品用冷却装置。
【請求項4】
冷却液通路に外部から供給される冷却液は、車両に搭載された車両用空調装置の冷凍サイクルに用いられる冷媒液であることを特徴とする請求項2記載の電子部品用冷却装置。
【請求項5】
発熱性電子部品は、トランジスタであって、ハイドロフルオロエーテルは、前記トランジスタのジャンクション温度の上限値より低い沸点を有し、収納ケース内をほぼ満たすように充填されてなることを特徴とする請求項1記載の電子部品用冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−33773(P2013−33773A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266455(P2009−266455)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】