説明

電子顕微法の観察標体、電子顕微法、電子顕微鏡および観察標体作製装置

【課題】
一次電子による帯電を抑制し、観察標体から明瞭なエッジコントラストを得て、試料の表面形状を高精度に計測する。
【解決手段】
試料上のイオン液体を含む液状媒体が薄膜状または網膜状である観察標体を用いる。また、この観察標体を用いる電子顕微法において、試料上のイオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程と、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚に基づき一次電子の照射条件を制御する工程と、前記一次電子の照射条件で一次電子を照射し前記試料の形態を画像化する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を用いて試料の表面形状を観察する顕微鏡技術に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の表面形状の拡大観察装置に電子顕微鏡がある。走査電子顕微鏡(以下、SEMと表す。)の動作を示す。電子源に印加された電圧によって加速された一次電子を電子レンズで集束し、集束した一次電子を偏向器により試料上で走査する。一次電子を照射することにより試料から放出された二次電子は、検出器で検出される。二次電子信号は走査信号に同期して検出され、画像を構成する。試料の二次電子の放出量は、試料の表面形状により異なる。
【0003】
試料が絶縁体である場合、電子照射による試料表面の帯電が不可避である。電子照射による帯電は、観察中の像ドリフトなどを引き起こし、像障害となる。
【0004】
上記帯電による像障害を解決する方法として、試料表面に導電体をコーティングする方法が知られている。導電体として、金やプラチナなどの金属を用いる。また、特許文献1には、試料に、真空中でほとんど揮発しないイオン液体を塗布し、電子照射面に導電性を付与する方法が開示されている。また、特許文献2には、低加速電子を用いて、帯電があっても安定な観察を行うことができる低加速SEMが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/083756号
【特許文献2】特開2000−195459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、SEMの高分解能化にともない、試料の表面形状の検査や計測に、低加速SEMが利用されている。しかしながら、低加速電子を用いても、試料の表面は帯電している。そのため、試料の表面形状が微細な構造である場合、エッジ部でのコントラストの消失などの、帯電による像障害が問題となる。低加速SEMにおける像障害を抑制するため、金属膜を絶縁体試料にコーティングした場合、金属膜の粒界に起因したコントラストが、試料の形状コントラストに重畳されてしまう。また、電子照射面にイオン液体を塗布した場合、イオン液体にパターン全面が埋もれてしまい、低加速SEMでは、試料の表面形状を観察できない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、帯電による像障害を抑制する電子顕微法の観察標体、電子顕微法、電子顕微鏡および観察標体作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願発明による電子顕微法の観察標体は、試料上のイオン液体を含む液状媒体が薄膜状または網膜状であることを特徴とする。前記観察標体におけるイオン液体を含む液状媒体の薄膜または網膜は、試料の表面形状に沿ったものであるか、低加速の一次電子が透過できる膜厚であるか、試料形状に応じて塗り分けられているため、明瞭なエッジコントラストを得ることができる。
【0009】
ここで、本願発明による観察標体において、イオン液体を含む液状媒体が塗布されている部分の膜厚は、1モノレイヤー以上、100モノレイヤー以下である。1モノレイヤーとは、イオン液体の1分子層の厚さのことを示す。
【0010】
また、本願発明による電子顕微法は、試料上のイオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程と、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚に基づき一次電子の照射条件を制御する工程を含むものである。この方法によれば、イオン液体を含む液状媒体の膜厚に応じて、一次電子の照射条件を制御できるため、エッジコントラストが向上する。
【0011】
また、本願発明による電子顕微法は、更に、イオン液体を含む液状媒体を試料に塗布する工程と、前記イオン液体を含む液状媒体を薄膜化する工程とを含むものである。通常、塗布されたイオン液体を含む液状媒体の膜の状態は、イオン液体の種類や試料の材料または形状に依存する。この方法によれば、イオン液体の種類や試料に応じて、イオン液体を含む液状媒体の膜厚を制御することができる。
【0012】
ここで、本願発明による電子顕微法において、試料上のイオン液体を含む液状媒体が薄膜状または網膜状である観察標体を用いることを特徴とする。
【0013】
ここで、本願発明による電子顕微法において、イオン液体を含む液状媒体を試料に塗布する工程と、前記イオン液体を含む液状媒体を薄膜化する工程と、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程は、複数回処理されるものでよい。この方法によれば、イオン液体を含む液状媒体が所定の膜厚になるまで、段階的に処理できるので、イオン液体を含む液状媒体の膜厚制御性が向上する。
【0014】
ここで、本願発明による電子顕微法において、イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程は、パルス化した一次電子で解析できる二次電子放出率の一次電子加速電圧依存性から、イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測するものでよい。この方法によれば、加速電圧に対する二次電子放出率の変化により、一次電子がイオン液体を含む液状媒体の膜を透過する加速電圧が解析でき、前記加速電圧における一次電子の飛程からイオン液体を含む液状媒体の膜厚が解析できる。
【0015】
ここで、本願発明による電子顕微法において、イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程は、一次電子照射下での基板電流の一次電子加速電圧依存性から、イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測するものでよい。ここで、一次電子が試料まで透過したときに蓄積される電荷により生じる変位電流を、基板電流として測定する。この方法によれば、加速電圧に対する基板電流の変化により、一次電子がイオン液体を含む液状媒体の膜を透過する加速電圧が解析でき、前記加速電圧における一次電子の飛程からイオン液体を含む液状媒体の膜厚が解析できる。
【0016】
また、本願発明の電子顕微鏡は、一次電子を放出する電子源と、試料を保持する試料ホルダと、前記試料ホルダを設置して排気を行う排気室と、前記一次電子を前記試料に集束するレンズ系と、前記一次電子を走査する偏向器と、前記一次電子により前記試料から放出された二次電子を検出する検出器と、前記二次電子により画像を形成する画像生成部と、前記試料ホルダを設置する試料室と、前記試料上の液状媒体の膜厚を計測する計測機構と、前記試料上の液状媒体の膜厚に基づく前記一次電子の照射条件制御部を有するものである。
【0017】
ここで、本願発明の電子顕微鏡において、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、前記一次電子をパルス化したパルス電子を形成するパルス形成部と、前記パルス電子により前記試料から放出された二次電子を前記検出器で検出した二次電信号から二次電子放出率を解析する二次電子信号解析部と、前記二次電子放出率の加速電圧依存性から前記一次電子が前記イオン液体を含む液状媒体の膜を透過する加速電圧を解析して、前記加速電圧における一次電子の飛程から膜厚を解析する二次電子放出率解析部を有するものでよい。
【0018】
また、本願発明の電子顕微鏡において、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、前記一次電子が試料まで透過したとき誘起される基板電流を計測する基板電流計測部と、前記基板電流の加速電圧依存性から前記一次電子が前記イオン液体を含む液状媒体の膜を透過する加速電圧を解析して、そのときの一次電子の飛程から膜厚を計測する基板電流解析部を有するものでよい。
【0019】
ここで、本願発明の電子顕微鏡において、前記試料を保持する試料ホルダもしくは試料室に、前記イオン液体を含む液状媒体を試料の観察面に塗布する塗布部を有するものでよい。
【0020】
また、本願発明の電子顕微鏡において、前記試料を保持する試料ホルダもしくは試料室に、前記試料上の前記イオン液体を含む液状媒体を薄膜化する機構を有するものでよい。
【0021】
また、本願発明の、前記観察標体を作製する観察標体作製装置は、排気室と、排気機構と、前記イオン液体を含む液状媒体を試料の観察面に塗布する塗布部と、前記試料上の前記イオン液体を含む液状媒体を薄膜化する機構と、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚計測機構を有するものである。
【0022】
ここで、前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、一次電子を放出する電子源と、前記一次電子を試料に照射したとき誘起される基板電流を計測する基板電流計測部と、前記基板電流の一次電子加速電圧依存性を解析する基板電流解析部を有するものでよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の観察標体、電子顕微法、電子顕微鏡および観察標体作製装置により、一次電子による帯電を抑制し、観察標体から明瞭なエッジコントラストを得ることができ、試料の表面形状を高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明の実施例1の観察標体の一例を示す上面図。
【図1B】本発明の実施例1の観察標体の一例を示す断面図。
【図2A】本発明の実施例5の観察標体の一例を示す上面図。
【図2B】本発明の実施例5の観察標体の一例を示す断面図。
【図3A】試料上のイオン液体を含む液状媒体の有無を示す説明図。
【図3B】試料上のイオン液体を含む液状媒体の有無に対応した二次電子信号の時間変化を示す図。
【図4】本発明の実施例1の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
【図5A】観察標体の断面構造を示す説明図。
【図5B】観察標体のSEM像を示す図。
【図5C】観察標体の画像明度のプロファイルを示す図。
【図6】本発明の実施例2の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
【図7】本発明の実施例2の電子顕微法のフローチャートの一例を示す図。
【図8A】実施例2の一次電子の加速電圧と飛程の関係を示す説明図。
【図8B】実施例2の一次電子の加速電圧と基板電流の関係を示す説明図。
【図9A】実施例2の電子顕微法で得られたSEM像を示す図。
【図9B】実施例2の電子顕微法で得られた画像明度のプロファイルを示す説明図。
【図10】本発明の実施例3の電子顕微法の観察標体作製装置の一例を示す構成図。
【図11】本発明の実施例3の電子顕微法のフローチャートの一例を示す図。
【図12】本発明の実施例4の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
【図13】本発明の実施例4の電子顕微法のフローチャートの一例を示す図。
【図14】一次電子の加速電圧と二次電子放出率の関係を示す説明図。
【図15A】実施例5で用いる観察標体の構造を示す説明図。
【図15B】実施例5で用いる観察標体の画像明度のプロファイルを示す図。
【図16】本発明の実施例6の電子顕微法の観察標体作製装置の一例を示す構成図。
【図17】本発明の実施例7の電子顕微法の観察標体作製装置の一例を示す構成図。
【図18】本発明の実施例8の電子顕微法の観察標体作製装置の一例を示す構成図。
【図19】本発明の一次電子の照射条件を設定するGUIの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0026】
図1Aに試料上のイオン液体を含む液状媒体が薄膜状である観察標体の上面図を、図1Bにイオン液体を含む液状媒体が薄膜状である観察標体の断面図を示す。試料2は溝加工されたパターンを持つ試料であり、イオン液体を含む液状媒体3は溝加工されたパターン上で薄膜状となったイオン液体である。本実施例では、図1に示すような、試料上のイオン液体を含む液状媒体が薄膜状である観察標体を用いた、電子顕微法について述べる。なお、本発明で用いるイオン液体は、例えば、1−Butyl−3−methylimidazolium Tetrafluoroborate (1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート), 1−Ethyl−3−methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド), 1−Butyl−3−methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)である。本実施例では、イオン液体を純水で10 %に希釈したイオン液体を含む液状媒体を用いた。本実施例では、イオン液体に純水を混合したが、エタノール、メタノール、アセトン、ヘキサンなどを混合してもよい。また、像のコントラストが明瞭に得られるように、イオン液体に、イオン液体と二次電子放出率の異なる微粒子を混合してもよい。二次電子放出率とは、放出された二次電子数を、照射した一次電子数で割ったものである。イオン液体を含む液状媒体とは、イオン液体と該イオン液体以外の物質を含む液状媒体である。以降、イオン液体とは、イオン液体またはイオン液体を含む液状媒体を指すものとする。
【0027】
本実施例で用いた観察標体の断面構造を図5Aに示す。本実施例では、試料2は線状に溝加工されたパターンをもつSiO2試料である。イオン液体を塗布していない試料2(図5AのA)と、マイクロピペットで試料2上にイオン液体を滴下した観察標体(図5AのB)と、ディップコート装置を用いて試料2にイオン液体を塗布した、試料2上のイオン液体が薄膜状である観察標体(図5AのC)である。
【0028】
本実施例における電子顕微鏡の構成図を図4に示す。電子顕微鏡は、電子光学系、ステージ系、制御系、画像処理系、操作インターフェース27、試料室32、排気室82により構成されている。電子光学系は、電子源10、コンデンサレンズ11、絞り12、偏向器13、対物レンズ14、検出器18により構成されている。ステージ系は、試料ステージ15、試料ホルダ16、試料17により構成されている。制御系は、電子源制御部20、コンデンサレンズ制御部21、偏向信号制御部22、検出器制御部31、SEM制御部26により構成されている。画像処理系は、検出信号処理部23、画像形成部24、画像表示部25により構成されている。
【0029】
本実施例で制御する照射条件は、一次電子の加速電圧、照射電流、一次電子の走査速度である。加速電圧は電子源制御部20により電子源10に印加する電圧で制御し、照射電流はコンデンサレンズ制御部21によりコンデンサレンズ11に印加する励磁電流で制御する。また、走査速度は、偏向信号制御部22により偏向器13への偏向信号で制御する。
【0030】
加速電圧1.0 kV、照射電流8 pA、一次電子の走査速度300 nm/μsで取得したSEM画像を図5Bに示す。図5BのAは、イオン液体を塗布していない試料2のSEM画像であり、帯電によってパターン部分は暗くなり、シェーディングが生じている。一方、図5BのBは、マイクロピペットで試料2上にイオン液体を滴下した観察標体のSEM画像である。マイクロピペットで塗布した場合、イオン液体は薄膜状とならず、また、一次電子がイオン液体を透過できないため、パターンが識別できない。図5BのCは、試料2上のイオン液体が薄膜状である観察標体のSEM像である。パターン部分のシェーディングが抑制され、パターンも識別できる。
【0031】
図5Cは、溝パターンを横切る方向に解析した画像明度のプロファイルである。画像明度が極大を示す部分が溝のエッジ部に対応する。図5CのAは、エッジ部に対応する極大部の信号が弱く、エッジコントラストが小さい。また、図5CのBでは、エッジ部のプロファイルが識別できない。一方、図5CのCは、極大部の信号が強く、明瞭なエッジコントラストが得られている。本実施例の電子顕微法によれば、試料上のイオン液体が薄膜状である観察標体を用いて、試料形状を表すエッジコントラストを向上させることができる。
【実施例2】
【0032】
本実施例では、イオン液体の膜厚を計測し、計測した膜厚に基づいて一次電子の照射条件を制御する電子顕微法について述べる。本実施例では、実施例1に示した図5AのCの、試料上のイオン液体が薄膜状である観察標体を用いた。
【0033】
イオン液体の膜厚と低加速の一次電子の飛程を考慮して、一次電子の照射条件を制御する。ここで、電子の飛程とは、物質中を通過する長さを示す。参考文献(K. Kanaya, S. Okayama, J. Phys. D. Appl. Phys. 5, 43 (1972).)にあるように、一次電子の飛程R(μm)は、数1で表される。
【0034】
【数1】

【0035】
ρ(g/cm3)は通過する物質の密度、Zは原子番号、A(g/mol)は原子量、V(kV)は一次電子の加速電圧、eは電気素量である。数1は、一次電子の飛程が、一次電子の加速電圧に加え、物質の密度や原子量に依存することを表す。ここで、イオン液体の1分子層の厚さは、イオン液体の密度や分子量に依存するため、1分子層の厚さ(以下、1分子層の厚さを1モノレイヤーと表す。)を単位として、一次電子の飛程をモノレイヤーで規定できる。モノレイヤーで規定される一次電子の飛程とイオン液体の膜厚から、一次電子の加速電圧を調整することが重要である。また、照射条件が定まり、イオン液体の膜厚が調整できる場合も、一次電子の飛程を考慮して、イオン液体の膜厚を調整することが重要である。
【0036】
一次電子の加速電圧は、例えば、0.1 kVから1.5 kVの範囲である。本実施例で用いるイオン液体は、100モノレイヤーの膜厚を通過する一次電子の加速電圧が1.5 kVであり、1モノレイヤーの膜厚を通過する一次電子の加速電圧が0.1 kVである。密度、分子量、組成から見積もったところ、代表的なイオン液体の1モノレイヤーは1 nmであった。
【0037】
観察標体の、イオン液体を含む液状媒体が塗布されている部分の膜厚は、例えば、1モノレイヤー以上、100モノレイヤー以下とする。
【0038】
図3Aに、試料2と、試料2上のイオン液体が薄膜状である観察標体を示す。本実施例では、試料2は絶縁体である。また、試料2と、試料2上のイオン液体が薄膜状である観察標体に、低加速の一次電子を照射したときに放出される二次電子信号の時間変化を図3Bに示す。図3BのBに示すように、試料2に低加速の一次電子を照射すると、照射した一次電子数より二次電子が多く放出され、試料表面は正に帯電する。このとき、表面の正の帯電によって、二次電子の放出量が少なくなるため、一次電子を照射直後から二次電子信号は減衰する。一方、図3のAに示すように、試料2上のイオン液体が薄膜状である観察標体では、一次電子の照射領域の帯電が抑制されるため、一次電子照射下で二次電子信号は減衰せず、一定値となる。よって、イオン液体が薄膜状である場合であっても、帯電抑制効果があることが判る。
【0039】
パターンを持つ試料2と、試料2上にイオン液体がある観察標体と、試料2上のイオン液体が薄膜状である観察標体を、低加速の一次電子で観察した像と画像明度のプロファイルを図5のAとBとCに示す。図5BのAが示すように、イオン液体がないとき、表面帯電により、パターン部分は低いコントラストとなる。図5BのBが示すように、イオン液体が薄膜ではないとき、パターン部分がイオン液体に埋もれてしまい、エッジコントラストが消失する。図5BのCが示すように、イオン液体が薄膜状であるとき、パターン部分から高いコントラストが得られる。また、図5CのAが示すように、イオン液体がないとき、試料帯電により、エッジ部分の信号は減少し、画像明度のプロファイルが非対称となっている。一方、図5CのCが示すように、イオン液体が薄膜状であるとき、画像明度のプロファイルが対称であり、試料2のエッジ部分がより強調されたコントラストが得られる。試料上にイオン液体が薄膜状である観察標体であれば、低加速電子においても、帯電抑制効果を有したまま、試料2のエッジコントラストが得られる。
【0040】
本実施例における電子顕微鏡の構成図を図6に示す。電子顕微鏡は、電子光学系、ステージ系、制御系、画像処理系、操作インターフェース27、試料室32、排気室82、基板電流計測系により構成されている。基板電流は、一次電子の照射により、観察標体からステージ系(試料ホルダ16)に流れる電流である。電子光学系は電子源10、コンデンサレンズ11、絞り12、偏向器13、対物レンズ14、検出器18により構成されている。ステージ系は試料ステージ15、試料ホルダ16、試料17により構成されている。制御系は電子源制御部20、コンデンサレンズ制御部21、偏向信号制御部22、検出器制御部31、SEM制御部26により構成されている。画像処理系は、検出信号処理部23、画像形成部24、画像表示部25により構成されている。基板電流計測系は、電流計28、基板電流解析部29により構成されている。
【0041】
図7に電子顕微法のフローチャートを示す。本実施例での電子顕微法について、図7のフローチャートにしたがって説明する。まず、観察標体のイオン液体の膜厚を計測する(ステップ42)。本実施例では、図6に示した電子顕微鏡を用いて、一次電子照射下での基板電流を計測し、イオン液体の膜厚を解析した。ここで、一次電子照射下で試料に蓄積する電荷により誘起される変位電流が、基板電流として測定できる。まず、電子源制御部20により電子源10に印加する電圧で制御し一次電子の加速電圧を変化させ、各加速電圧での基板電流を電流計28で計測する。図8Aは、一次電子の加速電圧と飛程の関係を示した模式図である。A, B, Cと一次電子の加速電圧を増加させていくと、一次電子5の飛程が長くなる。一次電子の飛程がイオン液体3の膜厚以上のとき(図8AのC)、一次電子は試料2に到達し、試料に電荷が蓄積する。このとき電荷蓄積による変位電流が生じ、基板電流として計測できる。図8Bに、一次電子の加速電圧を0.1から1.5 kVまで変化させたときの、基板電流の変化を示した。図8Bから、加速電圧1.0 kVで、基板電流が急激に増加していることが判る。この基板電流が急激に増加したときの加速電圧が、一次電子が膜厚を透過したときの加速電圧である。数1から、飛程を解析した結果、加速電圧1.0 kVでの飛程は60モノレイヤーであるため、イオン液体の膜厚は60モノレイヤーである。本実施例で説明した基板電流の加速電圧依存性を解析する工程は、基板電流解析部29で処理され、自動的に膜厚を得ることができる。
【0042】
次に、図7のフローチャートに基づき、上記膜厚に基づいた一次電子の照射条件の制御を行う(ステップ43)。本実施例では、試料からの二次電子を検出するため、60モノレイヤーより一次電子の飛程が長くなるように、加速電圧を1.2 kVに制御した。このとき、一次電子はイオン液体薄膜を透過し、試料に到達する。よって、試料ダメージを考慮し、試料に照射される電子数を制限するため、照射電流を5 pA、走査速度を300 nm/μsに制御した。
【0043】
最後に、図7のフローチャートに基づき、設定した一次電子の照射条件で画像を取得し、画像表示部25に画像が表示される(ステップ44)。
【0044】
本実施例における一次電子の照射条件を設定するグラフィカルユーザーインターフェース(以下、GUIとする。)を図19に示す。操作インターフェース27のモニタに、図19のGUIが表示される。ウィンドウ130は、SEM制御部26に入力した試料やイオン液体の情報が表示される。ウィンドウ131は、観察標体の基板電流の加速電圧依存性やイオン液体の膜厚が表示される。ウィンドウ132は、イオン液体の膜厚に応じた一次電子の照射条件が表示される。
【0045】
本実施例により、観察標体を観察して得られた像を図9Aに、溝パターンを横切る方向に解析した画像明度のプロファイルを図9Bに示す。パターンのエッジ部分を表す画像明度の極大値が大きく、明瞭なエッジコントラストを得られる。本実施例の電子顕微法によれば、イオン液体の薄膜の膜厚を計測し、最適な照射条件が設定できるので、試料形状を表すエッジコントラストを向上させることができる。
【実施例3】
【0046】
本実施例では、試料にイオン液体を塗布した後、薄膜化した観察標体を用いた電子顕微法について述べる。本実施例では、線状に溝加工されたパターンをもつレジスト試料を用いた。
【0047】
本実施例における、電子顕微法の観察標体作製装置の構成図を図10に示す。ここで、観察標体作製装置とは、試料にイオン液体を塗布し、観察標体を作製する装置である。イオン液体と該イオン液体とは異なる物質を混合するイオン液体調整部72、イオン液体吐出部73、試料74、試料ホルダ75、試料保持部76、試料保持部回転機構77、バルブ80、排気機構81、排気室82および制御系により構成されている。制御系は、イオン液体調整制御部84、吐出制御部85、回転制御部86、排気制御部87により構成されている。本電子顕微法の観察標体作製装置は、電子顕微鏡の一部であるが、電子顕微鏡とは独立したものであってもよい。本実施例における電子顕微鏡は、図4と同様の構成である。
【0048】
図11に電子顕微法のフローチャートを示す。本実施例での電子顕微法について、図11のフローチャートにしたがって説明する。まず、試料74にイオン液体を塗布する(ステップ52)。本実施例では、図10の観察標体作製装置を用いて、イオン液体を塗布した。まず、イオン液体調整部72で調整したイオン液体を、吐出制御部85により制御して吐出部73から吐出し、試料74にイオン液体を塗布する。本実施例では、イオン液体に溶媒として純水を混合し、粘度が20 mPa・sとなったイオン液体を試料上に吐出した。
【0049】
次に、図11のフローチャートに基づき、塗布したイオン液体を薄膜化する(ステップ53)。本実施例では、図10の観察標体作製装置を用いて、イオン液体を薄膜化した。試料保持部76を試料保持部回転機構77により回転させて行った。回転制御部86により回転速度と回転時間を、500 rpmで10秒間回転後、3000 rpmで60秒間回転するように制御した。次に、試料74を排気室82に入れて真空排気した。イオン液体に真空下で蒸発する物質が含まれていれば、真空排気によって真空下で蒸発する物質を蒸発するため、イオン液体を薄膜化することができる。本実施例では、排気室82の圧力が電子顕微鏡観察時と同程度の真空度である1×10−4 Paとなるまで真空排気を行った。ここで、本実施例ではイオン液体を塗布した後に真空排気を行っているが、真空下でイオン液体を塗布して、薄膜化の処理を行ってもよい。
【0050】
最後に、図11のフローチャートに基づき、観察標体の像を取得する(ステップ54)。本実施例での、一次電子の加速電圧は0.1 kV, 電流は5 pA, 走査速度は200 nm/μs である。
【0051】
本実施例により、作製した観察標体を観察して得られた像は図5BのCと同様であり、溝パターンを横切る方向に解析した画像明度のプロファイルは図5CのCと同様である。パターンのエッジ部分を表す画像明度の極大値が大きく、明瞭なエッジコントラストを得ることができる。本実施例の電子顕微法によれば、イオン液体薄膜の膜厚を制御し、画像を取得できるため、試料形状を表すエッジコントラストを向上させることができる。
【実施例4】
【0052】
本実施例では、一次電子の照射条件を設定し、設定した一次電子の照射条件に対して適切な膜厚であるかを判定した後に、画像を取得する電子顕微法について述べる。本実施例では、実施例3記載の観察標体を用いた。
【0053】
本実施例における電子顕微鏡の構成図を図12に示す。電子顕微鏡は、電子光学系、ステージ系、制御系、画像処理系、操作インターフェース27、試料室32、排気室82により構成されている。電子光学系は電子源10、コンデンサレンズ11、絞り12、偏向器13、対物レンズ14、検出器18、パルス形成部19により構成されている。ステージ系は試料ステージ15、試料ホルダ16、試料17により構成されている。制御系は電子源制御部20、コンデンサレンズ制御部21、偏向信号制御部22、検出器制御部31、SEM制御部26、パルス制御部30により構成されている。画像処理系は、検出信号処理部23、画像形成部24、画像表示部25により構成されている。
【0054】
図13に電子顕微法のフローチャートを示す。本実施例での電子顕微法について、図13のフローチャートにしたがって説明する。まず、一次電子の照射条件の設定を行う(ステップ62)。本実施例では、図12の電子顕微鏡を用いて、電子顕微法を行う。ここで、一次電子の照射条件は、二次電子放出率が高い加速電圧0.3 kVとした。本実施例では、レジストに直接一次電子が照射されて、試料が損傷するのを防ぐため、0.3keVの一次電子の飛程よりイオン液体の膜厚が厚く、かつイオン液体の膜が試料の表面形状を反映するように薄膜化する。ここで、一次電子はイオン液体の膜を透過しないので、画像のSNが高い一次電子の照射条件である、照射電流20 pA、走査速度100 nm/μsに制御した。
【0055】
次に、図13のフローチャートに基づき、観察標体のイオン液体の膜厚を計測した(ステップ65)。本実施例で用いた観察標体は、実施例3記載の観察標体である。本実施例では、図12の電子顕微鏡を用いて、パルス電子を用いた二次電子放出率の測定により、イオン液体の膜厚を解析した。ここで、二次電子放出率を測定する方法について述べる。低加速の一次電子を照射したとき、絶縁体は正に帯電し、放出される二次電子数は減少する。照射した一次電子数と放出された二次電子数が一致するとき、二次電子放出率が1となり、定常状態となる。つまり、パルス形成部19で形成したパルス電子を照射し、検出器18で検出される二次電子が、一次電子照射下で減少し、定常となるときの二次電子信号の強度が二次電子放出率1に相当する。一次電子を照射したときの二次電子信号の強度を、定常状態での二次電子信号の強度でわれば、二次電子放出率が得られる。
【0056】
図14に本実施例で用いた観察標体の二次電子放出率の加速電圧依存性を示す。本実施例では、イオン液体の二次電子放出率と、レジストの二次電子放出率との比較が必要であるため、イオン液体とレジストの、二次電子放出率の加速電圧依存性をデータベース化した。図14には観察標体の二次電子放出率に加え、データベースから呼び出したレジストの二次電子放出率の加速電圧依存性91と、イオン液体の二次電子放出率の加速電圧依存性92を示した。観察標体の二次電子放出率は、0.8 kV以下の加速電圧で、イオン液体の二次電子放出率92と一致し、1.5 kV以上の加速電圧では、レジストの二次電子放出率91とほぼ一致した。一方、0.8 kVから1.5 kVの範囲の加速電圧では、イオン液体の二次電子放出率92とレジストの二次電子放出率91との中間値となる。よって、図14から0.8 kVの加速電圧のとき、イオン液体を透過したと判別できる。数1から、飛程を解析した結果、加速電圧0.8 kVでの飛程は50モノレイヤーであるため、イオン液体の膜厚は50モノレイヤーである。ここで、本実施例で用いたイオン液体は、1モノレイヤーが0.5 nmである。
【0057】
次に、図13のフローチャートに基づき、イオン液体の膜厚が適切であるかを判定した(ステップ66)。本実施例の加速電圧である0.3 kVでの飛程は20モノレイヤーであり、本実施例で計測した膜厚(50モノレイヤー)以下であるため、適切な膜厚であると判定した。ここで、膜厚が20モノレイヤーより薄い場合は、再度、イオン液体の塗布、薄膜化処理および膜厚計測を行い(ステップ63, 64, 65)、所定の膜厚になるまで処理を繰り返す。
【0058】
最後に、図13のフローチャートに基づき、設定した一次電子の照射条件で画像を取得し、画像表示部25に画像が表示される。(ステップ67)。
【0059】
本実施例により、作製した観察標体を観察して得られた像は図9Aと同様であり、溝パターンを横切る方向に解析した画像明度のプロファイルは図9Bと同様である。パターンのエッジ部を表す画像明度の極大値が大きく、明瞭なエッジコントラストを得ることができる。本実施例の電子顕微法によれば、イオン液体薄膜の膜厚を高精度に制御できるので、試料形状を反映したエッジコントラストが向上できる。
【実施例5】
【0060】
図2Aにイオン液体が網膜状である観察標体の上面図を、図2Bにとイオン液体が網膜状である観察標体の断面図を示す。本実施例では、図2に示すような、イオン液体が網膜状である観察標体を用いた、電子顕微法について述べる。本実施例では、図12に示す電子顕微鏡の構成を用いた。また、本実施例では、ピッチとサイズが異なる溝パターンをもつSiO2試料を用いた。疎水性のイオン液体を用い、ディップコート装置で試料のパターン面上に塗布した。試料のパターンピッチ、パターンサイズに応じて、イオン液体と試料の濡れ性が異なるため、パターンごとにイオン液体の膜の状態が異なる。
【0061】
本実施例で用いる観察標体の構造を図15Aに示す。図15Aに示すように、本観察標体では、試料のパターンピッチとパターンサイズに応じて、イオン液体の膜の状態が異なっている。この観察標体を、加速電圧1.0 kV、照射電流8 pA、走査速度300 nm/μsで取得したSEM画像の、溝パターンを横切る方向に解析した画像明度のプロファイルを図15Bに示す。図15Bに示すように、試料のパターンピッチとパターンサイズに応じた、コントラストとなる。本実施例の電子顕微法によれば、イオン液体がある観察標体から、試料形状を高精度に計測できる。
【実施例6】
【0062】
本実施例では、電子顕微法の観察標体作製装置について、実施例3記載の方法とは別の構成について述べる。
【0063】
図16に、本実施例における電子顕微法の観察標体作製装置の構成図を示す。電子顕微法の観察標体作製装置は、試料101、試料を支持する試料支持部102、試料支持部102を自由に昇降させる駆動部103、試料支持部102の位置と移動速度を制御する駆動制御部104、イオン液体または該イオン液体以外の物質を混合したイオン液体105を液槽108に満たすイオン液体調整部106、イオン液体または該イオン液体以外の物質を混合したイオン液体105の調整を制御するイオン液体調整制御部107により構成されている。なお、電子顕微法の観察標体作製装置の構成は、電子顕微鏡の試料室もしくは排気室に設置された構成であってもよい。
【0064】
本実施例でのイオン液体の塗布方法を説明する。本実施例では、試料101は線状に溝加工されたパターンをもつSiO2試料であり、イオン液体105は純水を95%含む1−Butyl−3−methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)である。まず、試料101を試料支持部102に支持し、試料支持部102を降下させ、あらかじめイオン液体調整部106により調整したイオン液体で満たされた液槽108に試料101を入れる。次に、駆動部103の移動速度を駆動制御部104により制御しながら試料支持部102を引き上げることで、試料101にイオン液体105を塗布する。駆動部103の移動速度の制御により、イオン液体105の膜厚が制御できる。本実施例では、試料支持部102を液槽108から引き上げる速度を5 cm/minに制御し、薄膜上に塗布した。その後、試料101を排気室に入れて、真空引きを行った。真空引きにより、イオン液体に含まれる純水を蒸発させて、イオン液体を薄膜化することができる。本実施例では、排気室の圧力が2×10−2 Paとなるまで真空排気を行った。形成した、試料101上のイオン液体105の膜厚は、実施例2の膜厚測定法により100モノレイヤーであることが判った。本実施例の電子顕微法の観察標体作製装置を用いれば、試料上のイオン液体の膜厚を高精度に制御することができる。
【実施例7】
【0065】
本実施例では、電子顕微法の観察標体作製装置について、実施例3記載の方法とは別の構成について述べる。
【0066】
図17に、本実施例における電子顕微法の観察標体作製装置の構成図を示す。電子顕微法の観察標体作製装置は試料111、試料111を支持する試料支持部112、ヒーター113、温度制御部114、イオン液体フィルム115、イオン液体フィルム115を支持するフィルム支持部116、フィルム支持部116を移動させる駆動部117、および駆動制御部118により構成されている。ここで、イオン液体フィルムとは、板状または膜状のイオン液体である。なお、電子顕微法の観察標体作製装置の構成は、電子顕微鏡の試料ホルダ、試料室もしくは排気室に設置された構成であってもよい。
【0067】
本実施例でのイオン液体の塗布方法を説明する。本実施例では、試料111は線状に溝加工されたパターンをもつSiO2試料である。まず、試料111を試料支持部112に支持し、駆動部117の移動速度を駆動制御部118により制御しながらフィルム支持部116を降下させ、イオン液体フィルム115を試料111に密着させる。試料111の種類とイオン液体フィルム115の種類に応じて、温度制御部114でヒーター113の温度を制御して、イオン液体を試料111に塗布する。イオン液体は、高温で粘度が低下するため、試料に塗布することができる。本実施例では、イオン液体フィルム115を試料111に密着させながら、ヒーターの温度を60℃に制御して、イオン液体を試料111に塗布した。形成した、試料111上のイオン液体の膜厚は、実施例2の膜厚測定法により1モノレイヤーであることが判った。本実施例の電子顕微法の観察標体作製装置を用いれば、ヒーターの温度制御により、観察標体のイオン液体の膜厚を高精度に制御することができる。
【実施例8】
【0068】
本実施例では、電子顕微法の観察標体作製装置について、実施例3記載の方法とは別の構成について述べる。本実施例では、
図18に、本実施例における電子顕微法の観察標体作製装置の構成図を示す。電子顕微法の観察標体作製装置は試料121、試料を支持する試料支持部122、オゾン照射源123、オゾン照射源制御部124、イオン液体吐出部125、吐出制御部126、イオン液体吐出部125を移動させる駆動機構127、イオン液体吐出部125の位置と移動速度を制御する駆動制御部128、イオン液体と該イオン液体以外の物質を混合するイオン液体調整部129、イオン液体の調整を制御するイオン液体調整制御部140、バルブ141、排気機構142、排気室143、排気制御部144、ヒーター145、温度制御部146により構成されている。なお、電子顕微法の観察標体作製装置の構成は、電子顕微鏡の試料室もしくは排気室に設置された構成であってもよい。
【0069】
本実施例でのイオン液体の塗布方法を説明する。まず、試料121に応じて、あらかじめイオン液体またはイオン液体調整部140によって該イオン液体以外の物質を混合したイオン液体を用意する。本実施例では、試料121は線状に溝加工されたパターンをもつSiO2試料であるため、1−Butyl−3−methylimidazolium Tetrafluoroborate (1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート)に純水を混合し、1%の濃度にした。次に、試料121とイオン液体の種類に応じて、オゾン照射源制御部124によってオゾン照射源123の照射条件を制御して、試料支持部122に支持された試料121にオゾンを照射する。照射したオゾンは、試料121上の表面状態を改質するため、液体との濡れ性が変化する。本実施例では、試料121にオゾンを1 s照射した。その後、吐出制御部126によりイオン液体の吐出量を制御して、イオン液体を塗布する。本実施例では、イオン液体の吐出は、インクジェット方式で行った。また、1%の濃度のイオン液体の、熱による吐出前の溶媒蒸発を防ぐため、サーマル方式ではなく、ピエゾ方式で吐出した。イオン液体の吐出一回あたりの吐出量は、ノズル径や印加電圧に依存し、flからμlの範囲で制御できる。本実施例では、吐出一回あたり2plとなるようにした。吐出回数1000回以上では、溶媒蒸発にともないイオン液体が凝集したため、一箇所あたりの吐出回数は500回にした。その後、同様にして、駆動制御部128で駆動機構127を制御し、イオン液体吐出部125を移動させ、イオン液体を塗布する。イオン液体を塗布するとき、または、イオン液体を塗布した後、試料の種類やイオン液体の種類と吐出量に応じて、温度制御部146でヒーター145の温度を制御して、試料121の温度を調整する。試料121の温度調整によって、試料とイオン液体の濡れ性が変化するため、塗布されるイオン液体の形態が薄膜化に有利な状態をつくることができる。本実施例では、イオン液体を塗布するときの、試料121の温度を40℃にした。その後、排気制御部144で排気機構142を制御して、排気室143を真空排気する。イオン液体に真空下で蒸発する物質が含まれていれば、真空排気によって真空下で蒸発する物質を蒸発するため、イオン液体を薄膜化することができる。本実施例では、排気室143の圧力が電子顕微鏡観察時と同程度の真空度である1×10−4 Paとなるまで真空排気を行い、純水を蒸発させた。本実施例の電子顕微法の観察標体作製装置を用いれば、オゾンの照射条件の制御、イオン液体の調整、イオン液体の吐出量の制御、試料の温度制御、真空引きの制御により、観察標体のイオン液体の膜厚を高精度に制御することができる。なお、本実施例ではオゾンを照射しているが、紫外線やプラズマを照射してもよい。
【符号の説明】
【0070】
2 試料
3 イオン液体を含む液状媒体
5 一次電子
6 一次電子の到達領域
10 電子源
11 コンデンサレンズ
12 絞り
13 偏向器
14 対物レンズ
15 試料ステージ
16 試料ホルダ
17 試料
18 検出器
19 パルス形成部
20 電子源制御部
21 コンデンサレンズ制御部
22 偏向信号制御部
23 検出信号処理部
24 画像形成部
25 画像表示部
26 SEM制御部
27 操作インターフェース
28 電流計
29 基板電流解析部
30 パルス制御部
31 検出器制御部
32 試料室
72 イオン液体調整部
73 イオン液体吐出部
74 試料
75 試料ホルダ
76 試料保持部
77 試料保持部回転機構
80 バルブ
81 排気機構
82 排気室
84 イオン液体調整制御部
85 吐出制御部
86 回転制御部
87 排気制御部
91 レジストの二次電子放出率の加速電圧依存性
92 イオン液体の二次電子放出率の加速電圧依存性
101 試料
102 試料支持部
103 駆動部
104 駆動制御部
105 イオン液体または該イオン液体以外の物質を混合したイオン液体
106 イオン液体調整部
107 イオン液体調整制御部
108 液槽
111 試料
112 試料支持部
113 ヒーター
114 温度制御部
115 イオン液体フィルム
116 フィルム支持部
117 駆動部
118 駆動制御部
121 試料
122 試料支持部
123 オゾン照射源
124 オゾン照射源制御部
125 イオン液体吐出部
126 吐出制御部
127 駆動機構
128 駆動制御部
129 イオン液体調整部
130,131,132 ウィンドウ
140 イオン液体調整制御部
141 バルブ
142 排気機構
143 排気室
144 排気制御部
145 ヒーター
146 温度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と、
前記試料上にある薄膜状または網膜状のイオン液体を含む液状媒体と、
を含む電子顕微法の観察標体。
【請求項2】
請求項1記載の観察標体において、
前記イオン液体の1分子層の厚さを1モノレイヤーとし、
前記イオン液体を含む液状媒体が塗布されている部分の膜厚は1モノレイヤー以上、100モノレイヤー以下であることを特徴とする電子顕微法の観察標体。
【請求項3】
試料上の薄膜状または網膜状のイオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程と、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚に基づき一次電子の照射条件を制御する工程と、
前記一次電子の照射条件で一次電子を照射し前記試料の形態を画像化する工程と、
を備えることを特徴とする電子顕微法。
【請求項4】
請求項3記載の電子顕微法において、更に、
イオン液体を含む液状媒体を試料の観察面に塗布する工程と、
前記イオン液体を含む液状媒体を前記試料上に薄膜化する工程と、
を備えることを特徴とする電子顕微法。
【請求項5】
請求項4記載の電子顕微法において、
前記イオン液体を含む液状媒体を前記試料の観察面に塗布する工程と
前記イオン液体を含む液状媒体を前記試料上に薄膜化する工程と
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程と
が複数回処理されることを特徴とする電子顕微法。
【請求項6】
請求項3記載の電子顕微法において、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程は、
前記試料の観察面へパルス電子を照射する工程と、
前記パルス電子により放出される二次電子信号を検出する工程と、
前記二次電子信号から二次電子放出率の一次電子加速電圧依存性を解析する工程と、
からなることを特徴とする電子顕微法。
【請求項7】
請求項3記載の電子顕微法において、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する工程は、
前記試料の観察面へ一次電子を照射したときに誘起される基板電流を計測する工程と、
計測された基板電流の一次電子加速電圧依存性を解析する工程と、
からなることを特徴とする電子顕微法。
【請求項8】
一次電子を放出する電子源と、
試料を保持する試料ホルダと、
前記試料ホルダを設置して排気を行う排気室と、
前記一次電子を前記試料に集束するレンズ系と、
前記一次電子を走査する偏向器と、
前記一次電子により前記試料から放出された二次電子を検出する検出器と、
前記二次電子により画像を形成する画像生成部と、
前記試料ホルダを設置する試料室と、
前記試料上の薄膜状または網膜状のイオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構と、
前記試料上のイオン液体を含む液状媒体の膜厚に基づく前記一次電子の照射条件制御部と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項8記載の電子顕微鏡において、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、
前記一次電子をパルス化したパルス電子を形成するパルス形成部と、
前記パルス電子により前記試料から放出された二次電子信号から二次電子放出率を解析する二次電子信号解析部と、
前記二次電子放出率の一次電子加速電圧依存性を解析する二次電子放出率解析部と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項8記載の電子顕微鏡において、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、
前記一次電子を前記試料に照射したとき誘起される基板電流を計測する基板電流計測部と、
前記基板電流の一次電子加速電圧依存性を解析する基板電流解析部と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項8記載の電子顕微鏡において、
前記試料を保持する前記試料ホルダもしくは前記試料室に、
前記イオン液体を含む液状媒体を前記試料の観察面に塗布する塗布部を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項11記載の電子顕微鏡において、
前記試料を保持する前記試料ホルダもしくは前記試料室に、
前記試料上に塗布した前記イオン液体を含む液状媒体を薄膜化する機構を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項1記載の観察標体を作製する観察標体作製装置であって、
排気室と、
排気機構と、
前記イオン液体を含む液状媒体を前記試料の観察面に塗布する塗布部と、
前記試料上の前記イオン液体を含む液状媒体を薄膜化する機構と、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚計測機構と、
を備えることを特徴とする観察標体作製装置。
【請求項14】
請求項13記載の観察標体作製装置において、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、
一次電子を放出する電子源と、
前記一次電子を前記試料に照射したとき誘起される基板電流を計測する基板電流計測部と、
前記基板電流の一次電子加速電圧依存性を解析する基板電流解析部と、
を備えることを特徴とする観察標体作製装置。
【請求項15】
請求項13記載の観察標体作製装置において、
前記イオン液体を含む液状媒体の膜厚を計測する計測機構は、
前記試料の観察面へパルス電子を照射するパルス電子照射部と、
前記パルス電子により放出される二次電子信号を検出する検出器と、
前記検出された二次電子信号から二次電子放出率の一次電子加速電圧依存性を解析する二次電子放出率解析部と、
を備えることを特徴とする観察標体作製装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−96890(P2013−96890A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241040(P2011−241040)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】