電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材、その製造方法、およびそれを用いた電子顕微鏡装置の校正方法
【課題】
コンタミネーションの付着を低減する、微細な基準寸法を有する、電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材を提供する。
【解決手段】
少なくともシリコンを含み、予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、寸法校正用標準部材の溝パターンの表面に1nmから5nmのシリコン酸化膜を形成することによって、電子ビーム照射によって付着するコンタミネーション量を低減する。
コンタミネーションの付着を低減する、微細な基準寸法を有する、電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材を提供する。
【解決手段】
少なくともシリコンを含み、予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、寸法校正用標準部材の溝パターンの表面に1nmから5nmのシリコン酸化膜を形成することによって、電子ビーム照射によって付着するコンタミネーション量を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法校正用標準部材およびそれを用いた校正方法に関わり、特に電子顕微鏡装置用の寸法校正用標準部材およびそれを用いた電子顕微鏡装置の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化を進める上で、デバイス特性に大きな影響を及ぼすことから高精度に寸法測定することは必要不可欠である。この微細な寸法の測定には電子顕微鏡装置が用いられている。従来、電子顕微鏡装置の調整を行う際に、校正用標準試料が用いられている。校正用標準試料とは、大きさや長さの予め分かっているパターンやマークが形成された部材である。電子顕微鏡装置の調整時には、上記パターンやマークの画像を特定倍率で取得し、当該パターンやマークが取得画像上で所定の大きさで表示されるように顕微鏡装置の調整を行う。
図5に、標準部材のパターン形成面全面及びその拡大図を示す。ここで縦方向回折格子領域501は縦方向の回折格子単位503と位置決め用の十字マーク505,506からなり、横方向回折格子領域502は縦方向の回折格子単位503に垂直な方向の回折格子単位504、そして位置決め用の十字マーク505,506からなる。またそれぞれのパターンはシリコン基板をエッチングした溝パターンとなっている。
校正の精度は一次元回折格子の溝パターンのピッチ寸法に依存して決まるため、溝パターンを精度良く形成する必要がある。この一次元回折格子の溝パターンを形成する方法としてレーザー干渉露光法が用いられ、240nmピッチの回折格子が得られている。さらに、半導体デバイスの微細化が加速されているために最小加工寸法が100nmより小さくなってきたことから、レーザー干渉露光法では作製が困難な、ピッチ寸法がさらに微細な回折格子が求められるようになってきた。このより微細な回折格子を形成するために微細加工性に優れた電子ビーム描画装置により行われるようになってきた。
【0003】
以下に従来法による寸法校正用標準部材の作製方法について述べる。まず、図6(a)に示すように、シリコン基板100上にレジスト101を塗布する。次に図9に示した作製フローにより、図4に示した開口107、108を有したステンシルマスクを搭載した電子ビーム一括露光装置でパターン形成を行った。
ビーム偏向により校正用パターンのひとつのパターンであるピッチ100nmで縦方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口107を選択して(ステップ801)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ802)。次にビーム偏向により校正用パターンのもうひとつのパターンであるピッチ100nmで横方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口108を選択して(ステップ803)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ804)。
次に、可変成形用矩形開口109を選択して(ステップ805)、回折格子パターンが露光されている周囲の左右に試料回転補正用のマーク505、506を電子ビーム可変成形法で露光する(ステップ806)。
現像後、図6(b)に示すように、レジストパターン102をマスクとして酸化膜をエッチングし、次にドライエッチングにより、シリコン基板をエッチングする(ステップ807)。
描画では、上記のように電子ビーム露光において回折格子パターンの方向を縦・横両方向を同一基板上に作製しておく。回折格子パターンとして電子ビーム一括露光方を用いることにより、試料のどの位置でも同じステンシルマスクを用いて露光するために寸法バラツキ5nm以下の均一なパターン形成が可能であった。
さらに図6(c)に示すように、得られたパターンはレジストやエッチング副生成物等が基板表面に付着していることから洗浄処理を行い、シリコンの溝パターン103を得る(ステップ813)。洗浄処理では硫酸と過酸化水素水の混合液に浸すことによって、有機系の付着物を除去するとともに、基板表面が1-2nm程度酸化される。さらにフッ酸処理を行い、基板表面に付着している異物等を表面酸化膜とともに除去し、その後純水洗浄を行うことにより基板表面を清浄に保つことが行われる。
その後、ウェハ105を図2に示すようにダイシングすることにより所定寸法形状、例えば10mm□のチップ106に分割し(ステップ814)、洗浄処理を行う(ステップ815)。この洗浄処理では、硫酸と過酸化水素の混合液により有機物系の異物を酸化除去し、さらにフッ酸液に浸漬することにより表面に形成された酸化膜の除去を行い、純水で置換を行う。
フッ酸洗浄+純水洗浄により基板表面はSi−H結合となるが、大気中に放置しておくことにより、0.7nm程度の自然酸化膜(SiO2)が形成される。さらに図3に示すように台座に貼付を行い(ステップ816)、寸法校正用標準部材が完成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-289411号公報
【特許文献2】特開平6-333805号公報
【特許文献3】特開平7-218201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように半導体集積回路の微細化に伴い、測定される試料の寸法も小さくなり、標準試料の回折格子のピッチも小さくする必要がでてきた。これは電子顕微鏡装置にて所定の倍率で校正を行ったとしても倍率を変更するとわずかな差が発生する可能性があるため、測定する試料と標準試料で校正する倍率を極力同じにしておく必要があるためである。
このように標準試料の微細化が行われてきているが、これによりビーム照射に伴うコンタミネーション付着による試料の寸法変動の影響が相対的に大きくなってきた。100nmピッチの標準試料に電子線照射開始直後の形状を図15(a)に、5分間電子ビーム照射後の形状を図15(b)に示すが、照射前後によりパターン寸法が20.6nm変化をした。
コンタミネーションの付着のモデルは図11のようなことが考えられる。まず電子顕微鏡にて電子ビーム1101は標準試料1102上を走査するが、その際真空中に残存する炭素1103にも電子ビームが照射されカーボンラジカル1104となり、反応性が高くなる。このカーボンラジカルが試料1102表面にて反応し、カーボン1105が基板表面に付着する。
このコンタミネーションの付着によって見た目の印象が悪くなるだけでなく、コンタミネーションの付着は電子ビーム走査により一様に付着するのではないため、標準試料として最も重要なピッチを変化させ、信頼性を大きく損なうことになってしまう。
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、よりコンタミネーション付着を低減する微細な基準寸法を有する寸法校正用標準部材を提供し、かつ、それを含む高精度電子ビーム測長技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明は、少なくともシリコンを含む標準試料の溝パターンの表面に1〜5nmのシリコン酸化膜を形成することからなる。このシリコン酸化を行う方法として、酸素を含む気体によるプラズ処理、熱酸化、あるいは硫酸・過酸化水素の混合液による酸化を行う。また、この酸化処理は台座に貼り付ける前に行ってもよいし、あるいは台座に貼り付けた後に台座ごとプラズマ処理によって酸化してもよい。ここでシリコン基板表面にシリコン酸化膜を形成することでコンタミネーションがつきにくくなる理由については、Si-O結合はSi−H結合等と比較し安定な結合なため、カーボンラジカルと反応しにくいことが考えられる。そのため1nm未満の薄い酸化膜では緻密な酸化膜が形成されておらず、コンタミネーション低減効果が低くなる。また5nmを超えると酸化膜による基板のチャージアップが生じ、像がぼやける、あるいはそれにより正確な測定が困難となる。したがって、酸化膜厚を1〜5nm程度にすることで効果がより大きくなる。ただし、コンタミネーションの付着のメカニズムについては他にも考えられるものの、酸化膜をつけることによって効果があることは変わりがない。
また、この酸化膜はパターントップの表面だけはなく、溝内部の表面も酸化される必要がある。これはコンタミネーションの付着は溝内部からも供給されることから電子ビームによりスキャンされる領域全体が酸化膜により保護されている必要がある。特許文献1(特開平04-289411号公報)には、標準スケールの作製方法に関して、SiO2、Si3N4をマスクとしてエッチングを行うことが記載されているが、これはSiO2を標準スケールの作製の際のハードマスクとして使用しているもので目的が異なっており、またパターントップにしか酸化膜がないことからコンタミネーション低減の十分な効果が得られない。特許文献2(特開平06-333805号公報)は、各半導体プロセスに基づいてそれぞれ標準試料を作製するものであり、本願発明とは構成も目的も異なっている。また、Siのパターンに熱酸化膜を被覆するという記載はあるものの、これは各半導体プロセスに基づいて作製されるもので、酸化膜厚はそのプロセスによって決定されるものであり、本発明のようにコンタミネーション防止の効果が得られる1〜5nmの範囲とするものではない。特許文献3(特開平07-218201号公報)には、積層膜を作製し、その積層膜の端面を標準試料として使用する方法が記載されているが、この際の酸化は積層膜を作製するための酸化であり、目的も用途も異なるものである。また、シリコンとシリコン酸化膜の積層膜であり、電子ビームにてスキャンされる標準試料部分が1〜5nmの酸化膜で覆われている構造ではないため、コンタミネーションの低減の効果は期待できない。
【0007】
また、本発明は、ピッチ60nm以下のパターンにおいて、スキャンされる試料面の表面積を電子ビームが走査する走査面積の3.1倍以上とすることからなる。表面積を大きくすることによってコンタミネーションが一様についたとしてもそれが平均化され、寸法変化量としては少なくすることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成により、校正に用いる標準試料のコンタミネーション付着量を大幅に低減することにより、高精度な寸法校正用標準部材を提供し、かつ、それを含む高精度電子ビーム測長技術を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例による寸法校正用標準部材の作製方法を示す図。
【図2】寸法校正用標準部材の作製方法の一部を示す図。
【図3】寸法校正用標準部材の作製方法の一部を示す図。
【図4】電子ビーム一括露光装置用ステンシルマスクを説明する図。
【図5】寸法校正用標準部材の上面全図及び部分拡大図。
【図6】従来法による寸法校正用標準部材の作製方法を示す図。
【図7】寸法校正用標準部材を搭載した電子顕微鏡装置を説明する図。
【図8】本発明による寸法校正用標準部材における校正用パターンの作製フローの一例を説明する図。
【図9】従来法による寸法校正用標準部材における校正用パターンの作製フローの一例を説明する図。
【図10】本発明による電子顕微鏡装置の構成例を説明する図。
【図11】電子ビーム照射によるコンタミネーション付着を説明する図。
【図12】本発明の他の実施例による寸法校正用標準部材の作製プロセス工程を示す図。
【図13】他の実施例による電子ビーム照射前の寸法校正用標準部材を示す図。
【図14】他の実施例による電子ビーム照射後の寸法校正用標準部材を示す図。
【図15】従来法により作製された寸法校正用標準部材のコンタミネーション付着を示す図。
【図16】標準試料の表面積と走査範囲の面積比に対する、コンタミネーションによるパターン寸法の依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を適用した実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明による寸法校正用標準部材の作製方法について、図1および図8に示した作製フローを用いて説明する。まず、図1(a)に示すように、シリコン基板100上にレジスト101を塗布する。次に、図4に示した開口107、108を有したステンシルマスクを搭載した電子ビーム一括露光装置でパターン形成を行った。
ビーム偏向により校正用パターンのひとつのパターンであるピッチ100nmで縦方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口107を選択して(ステップ801)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ802)。次にビーム偏向により校正用パターンのもうひとつのパターンであるピッチ100nmで横方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口108を選択して(ステップ803)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ804)。
次に、可変成形用矩形開口109を選択して(ステップ805)、回折格子パターンが露光されている周囲の左右に試料回転補正用のマーク505、506を電子ビーム可変成形法で露光する(ステップ806)。
現像後、図1(b)に示すように、レジストパターン102をマスクとして酸化膜をエッチングし、次にドライエッチングにより、シリコン基板をエッチングする(ステップ807)。
描画では、上記のように電子ビーム露光において回折格子パターンの方向を縦・横両方向を同一基板上に作製しておく。回折格子パターンとして電子ビーム一括露光方を用いることにより、試料のどの位置でも同じステンシルマスクを用いて露光するために寸法バラツキ5nm以下の均一なパターン形成が可能であった。
さらに、図1(c)に示すように、得られたパターンはレジストやエッチング副生成物等が表面に付着していることから洗浄処理を行い、シリコンのパターン103を得る(ステップ808)。洗浄処理では硫酸と過酸化水素水の混合液に浸すことによって、有機系の付着物を除去するとともに、基板表面が1-2nm程度酸化される。さらにフッ酸処理を行い、基板表面に付着している異物等を酸化膜ごと除去する。しかしこの基板をそのまま使用したのでは電子ビーム照射によるコンタミネーションの付着が多いことが発明者らの検証によって確認をされている。そこで、図1(d)に示すように、基板表面を酸素プラズマにさらし溝の内面を含めてシリコンの溝パターンの表面に4nmの酸化膜104を形成させた(ステップ809)。
その後、ウェハ105を図2に示すようにダイシングすることにより所定寸法形状、例えば10mm□のチップ106に分割し(ステップ810)、洗浄処理を行う(ステップ811)。ここでは洗浄処理の際にフッ酸処理を行うと、ステップ809で形成させた酸化膜が除去されることから、フッ酸処理を行わない必要があり、硫酸と過酸化水素の混合液による洗浄を行い、純水で置換を行う。さらに、図3に示すように、台座に貼付を行い(ステップ812)、寸法校正用標準部材が完成となる。図15にて示された工程により作製された寸法校正用標準部材では5分間の電子ビーム照射によるコンタミネーションの付着による寸法変動が20.6nmであったが、表面にシリコン酸化膜が4nmある寸法校正用標準部材のそれは3.0nmと大幅に低減された。
なお、ここでは基板洗浄後に酸素プラズマを行い、ダイシング後には硫酸、過酸化水素水の混合液による酸化による洗浄方法を行った。しかし、ここで重要なことは台座につけられた寸法校正用標準部材の溝パターンの表面に1〜5nmの酸化膜が形成されていることである。この表面酸化膜を作製する方法としてここでは、基板をフッ酸洗浄により一旦表面酸化膜をとったのち、酸素プラズマと硫酸・過酸化水素水の混合液により表面に酸化膜が形成させた。しかしこれ以外にも熱酸化による方法もあり、またこの組み合わせの方法も各種変えることが可能である。ただし、フッ酸処理を行った後でも大気中に放置しておくことによって1nm未満の自然酸化膜が形成されるが、1nm未満では十分な効果を得ることができず1nm以上の酸化膜が必要であった。また自然酸化膜が形成される雰囲気によって基板表面に酸素以外のものがとりこまれ、表面が汚染されてしまうこともあることから制御して酸化膜を形成することが必要である。このシリコン酸化膜の膜厚測定方法は、分光エリプソメータ、XPSによる測定することができ、また標準部材を破断し透過電子顕微鏡観察することによっても酸化膜の厚さを測定をすることが可能である。
【0012】
また他の実施例においては台座に貼り付けた(図8のステップ812)後に酸素プラズマクリーニングを行ってもよい。このようにすることによってステップ810の洗浄にてより洗浄能力の高いフッ酸洗浄を行ったとしても、後の工程でコンタミネーションの付着を低減するシリコン酸化膜をつけることが可能となる。
【実施例2】
【0013】
次に、この寸法校正用標準部材を用いた電子顕微鏡装置の校正について図7を用いて説明する。50nm設計寸法のデバイスパターンが含まれた試料ウェーハ32とホルダー34に取り付けられた標準部材35が、図7のように電子顕微鏡装置のステージ33に搭載されている。50nm設計寸法のデバイスパターンを測長する場合には、電子顕微鏡装置の倍率を20万倍以上で行う。この倍率で従来の寸法標準であるピッチ240nmの回折格子では電子光学系36により絞られた電子ビーム30の走査の中に1ピッチが入らなくなってしまうので装置の校正ができない。
この倍率の校正については、電子顕微鏡装置にて図5に示す縦方向の回折格子単位パターン503のピッチ寸法を測定する。まず、ピッチ100nmで直線溝が25本並んだ回折格子単位パターン503を探すために位置決め用の十字マーク505、506を用いて試料と電子顕微鏡装置の移動方向の平行性を補正する。次に、配列内の回折格子単位パターン503のピッチ寸法を二次電子信号検出器31からの二次電子信号波形で測定する。同様にして、20点以上の異なる回折格子単位パターン503のピッチ寸法を求め、その平均値を100.21nmとすることで校正ができた。さらに横方向の回折格子パターン504を用いて同様に横方向の電子顕微鏡装置の倍率の調整を高精度に実現できた。
【0014】
この寸法校正用標準部材を用いた電子顕微鏡装置の校正について説明する。この電子顕微鏡装置は、図10に示すような装置構成となっている。測定では、電子銃41から照射される電子ビーム42をレンズ43、45により細く絞り、偏向器44によりステージ47上に搭載された予めピッチ寸法が根付けされた回折格子パターンを含む試料46上で走査するとき発生する二次電子48を二次電子検出器49により検出し、ビーム偏向制御部50と二次電子信号処理部51から波形を求める。この波形から寸法を演算し寸法校正演算により正しい寸法として寸法表示および記憶する。すなわち、波形表示部52の波形から、寸法演算部53で寸法を演算し、寸法校正演算部54で正しい寸法を求め、寸法表示部55で表示し、寸法記憶部56に記憶する。本発明の電子顕微鏡装置では、図10に示すように、さらに校正比較のために基準値との差分演算部57と校正状態表示部58が設けられており、予めピッチ寸法が根付けされた回折格子パターンとピッチ寸法と基準寸との比較により校正の正しさが得られ、それを表示できるようになっている。
【0015】
以上のように標準試料表面に酸化膜を1〜5nmつけることによって電子ビーム照射によるコンタミネーションの付着量を低減することが可能となった。
【実施例3】
【0016】
次に本発明の他の実施例を示す。ピッチが60nm以下の標準試料において、標準試料の溝パターンの表面積が、電子ビームが走査する走査面積の3.1倍以上とすることによってコンタミネーション対策が可能となる。表面積を大きくすることは、溝深さを深くすることにより達成できる。そして、この溝深さは標準試料を作る工程、例えば図9のステップ807において、ドライエッチングの時間を長くすることによって可能となる。またこのときドライエッチング時間が長くなるに従いレジストを必要に応じて厚くすることはいうまでもない。あるいは標準試料の作製方法として例えばシリコンとシリコン酸化膜を交互にスパッタし、いわゆる超格子を利用する方法がある。
【0017】
この方法を図12に示す。まずはスパッタ装置を用いてシリコン基板1201上にシリコン酸化膜1202とシリコン1203を交互に20nmずつ積層する(図12(a))。この積層膜厚はそれぞれスパッタ時間を調整することにより所定の厚さにすることが可能である。次に積層基板をたてて土台サンプル1204ではさみ接着を行い(図12(b))、表面を研磨し土台基板と高さが同じになるようにする(図12(c))。その後表面をフッ酸処理洗浄することによって積層膜のシリコン酸化膜をエッチングし、標準試料を作製する。このとき溝深さは、フッ酸の濃度あるいは浸漬時間を変えることにより調整できる。このときのエッチング深さ調整により、図13に示すようにエッチング深さを10nmのサンプル1205と、40nmのサンプル1206を作製した。サンプル1205は表面積が電子ビーム顕微鏡装置の走査範囲の1.5倍に対し、サンプル1206は3.5倍となる。このサンプルを電子ビーム検査装置にて電子ビーム照射を3分間行ったところ、サンプル1205のパターン寸法が8nm増加したのに対し(図14(a))、サンプル1206は0.4nmの増加しかなかった(図14(b))。
【0018】
図16にコンタミネーションによるパターン寸法の、標準試料の表面積と電子顕微鏡の走査範囲の比(標準試料の表面積÷電子顕微鏡の走査範囲)依存性を示す。図に示すように面積比が3以下となることによってCD変動幅が3%を超えていたが、面積比が増加し3.1以上となることによってコンタミネーションによる寸法変化が3%以下となり、さらに4以上となることによってコンタミネーションによる寸法変化量が1.5%以下と大幅な効果が得られた。そのためコンタミネーションによる寸法変動量を抑えるためには面積比を3.1以上とすることが必要となる。これは電子ビーム検査装置にて電子ビーム照射中に供給されるカーボンラジカルは照射視野内ではサンプルに依存せず一定であるもののサンプル表面に一様に付着することからサンプルの表面積が小さいとコンタミネーションの付着による寸法変動が大きくなるとともに、一旦コンタミネーションが一定量付着すると付着量が増す。このコンタミネーションネーションの付着量が増幅される量は60nm以下のパターンピッチにおいて、標準試料の表面積が電子顕微鏡の走査範囲の3倍以下となったときに顕著となることから、少なくとも3.1倍以上にする必要がある。
【0019】
また、標準試料の表面積が電子顕微鏡の走査範囲の少なくとも3.1倍以上にするとともに、標準試料の表面に酸化膜を1〜5nm形成することによって効果はより大きくなる。
【符号の説明】
【0020】
30・・・電子ビーム、31・・・二次電子検出器、32・・・ウェーハ、33・・・ステージ、34・・・ホルダー、35・・・校正用チップ、36・・・電子光学系、
41・・・電子銃、42・・・電子ビーム、43,45・・・レンズ、44・・・偏向器、46・・・ウェーハ、47・・・ステージ、48・・・二次電子、49・・・二次電子検出器、50・・・ビーム偏向制御部、51・・・二次電子信号処理部、52・・・波形演算部、53・・・寸法演算部、54・・・寸法校正演算部、55・・・寸法表示部、56・・・寸法記憶部、57・・・基準値との差分演算部、58・・・校正状態表示部、
100・・・シリコン基板、101・・・レジスト、102・・・レジストパターン、103・・・シリコン回折格子パターン、104・・・シリコン酸化膜、105・・・ウェーハ、106・・・校正用チップ、107,108・・・回折格子用パターン開口、109・・・可変成形用矩形開口、
501,502・・・回折格子領域、503,504・・・回折格子パターン、505,506・・・位置検出用十字パターン、
1101・・・電子ビーム、1102・・・シリコン回折格子パターン、1103,1105・・・カーボン、1104・・・カーボンラジカル、
1201・・・シリコン基板、1202・・・シリコン酸化膜、1203・・・シリコン、1204・・・土台サンプル、1205・・・エッチング深さ10nmのサンプル、1206・・・エッチング深さ40nmのサンプル、1301・・・コンタミネーション。
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法校正用標準部材およびそれを用いた校正方法に関わり、特に電子顕微鏡装置用の寸法校正用標準部材およびそれを用いた電子顕微鏡装置の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化を進める上で、デバイス特性に大きな影響を及ぼすことから高精度に寸法測定することは必要不可欠である。この微細な寸法の測定には電子顕微鏡装置が用いられている。従来、電子顕微鏡装置の調整を行う際に、校正用標準試料が用いられている。校正用標準試料とは、大きさや長さの予め分かっているパターンやマークが形成された部材である。電子顕微鏡装置の調整時には、上記パターンやマークの画像を特定倍率で取得し、当該パターンやマークが取得画像上で所定の大きさで表示されるように顕微鏡装置の調整を行う。
図5に、標準部材のパターン形成面全面及びその拡大図を示す。ここで縦方向回折格子領域501は縦方向の回折格子単位503と位置決め用の十字マーク505,506からなり、横方向回折格子領域502は縦方向の回折格子単位503に垂直な方向の回折格子単位504、そして位置決め用の十字マーク505,506からなる。またそれぞれのパターンはシリコン基板をエッチングした溝パターンとなっている。
校正の精度は一次元回折格子の溝パターンのピッチ寸法に依存して決まるため、溝パターンを精度良く形成する必要がある。この一次元回折格子の溝パターンを形成する方法としてレーザー干渉露光法が用いられ、240nmピッチの回折格子が得られている。さらに、半導体デバイスの微細化が加速されているために最小加工寸法が100nmより小さくなってきたことから、レーザー干渉露光法では作製が困難な、ピッチ寸法がさらに微細な回折格子が求められるようになってきた。このより微細な回折格子を形成するために微細加工性に優れた電子ビーム描画装置により行われるようになってきた。
【0003】
以下に従来法による寸法校正用標準部材の作製方法について述べる。まず、図6(a)に示すように、シリコン基板100上にレジスト101を塗布する。次に図9に示した作製フローにより、図4に示した開口107、108を有したステンシルマスクを搭載した電子ビーム一括露光装置でパターン形成を行った。
ビーム偏向により校正用パターンのひとつのパターンであるピッチ100nmで縦方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口107を選択して(ステップ801)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ802)。次にビーム偏向により校正用パターンのもうひとつのパターンであるピッチ100nmで横方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口108を選択して(ステップ803)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ804)。
次に、可変成形用矩形開口109を選択して(ステップ805)、回折格子パターンが露光されている周囲の左右に試料回転補正用のマーク505、506を電子ビーム可変成形法で露光する(ステップ806)。
現像後、図6(b)に示すように、レジストパターン102をマスクとして酸化膜をエッチングし、次にドライエッチングにより、シリコン基板をエッチングする(ステップ807)。
描画では、上記のように電子ビーム露光において回折格子パターンの方向を縦・横両方向を同一基板上に作製しておく。回折格子パターンとして電子ビーム一括露光方を用いることにより、試料のどの位置でも同じステンシルマスクを用いて露光するために寸法バラツキ5nm以下の均一なパターン形成が可能であった。
さらに図6(c)に示すように、得られたパターンはレジストやエッチング副生成物等が基板表面に付着していることから洗浄処理を行い、シリコンの溝パターン103を得る(ステップ813)。洗浄処理では硫酸と過酸化水素水の混合液に浸すことによって、有機系の付着物を除去するとともに、基板表面が1-2nm程度酸化される。さらにフッ酸処理を行い、基板表面に付着している異物等を表面酸化膜とともに除去し、その後純水洗浄を行うことにより基板表面を清浄に保つことが行われる。
その後、ウェハ105を図2に示すようにダイシングすることにより所定寸法形状、例えば10mm□のチップ106に分割し(ステップ814)、洗浄処理を行う(ステップ815)。この洗浄処理では、硫酸と過酸化水素の混合液により有機物系の異物を酸化除去し、さらにフッ酸液に浸漬することにより表面に形成された酸化膜の除去を行い、純水で置換を行う。
フッ酸洗浄+純水洗浄により基板表面はSi−H結合となるが、大気中に放置しておくことにより、0.7nm程度の自然酸化膜(SiO2)が形成される。さらに図3に示すように台座に貼付を行い(ステップ816)、寸法校正用標準部材が完成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-289411号公報
【特許文献2】特開平6-333805号公報
【特許文献3】特開平7-218201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように半導体集積回路の微細化に伴い、測定される試料の寸法も小さくなり、標準試料の回折格子のピッチも小さくする必要がでてきた。これは電子顕微鏡装置にて所定の倍率で校正を行ったとしても倍率を変更するとわずかな差が発生する可能性があるため、測定する試料と標準試料で校正する倍率を極力同じにしておく必要があるためである。
このように標準試料の微細化が行われてきているが、これによりビーム照射に伴うコンタミネーション付着による試料の寸法変動の影響が相対的に大きくなってきた。100nmピッチの標準試料に電子線照射開始直後の形状を図15(a)に、5分間電子ビーム照射後の形状を図15(b)に示すが、照射前後によりパターン寸法が20.6nm変化をした。
コンタミネーションの付着のモデルは図11のようなことが考えられる。まず電子顕微鏡にて電子ビーム1101は標準試料1102上を走査するが、その際真空中に残存する炭素1103にも電子ビームが照射されカーボンラジカル1104となり、反応性が高くなる。このカーボンラジカルが試料1102表面にて反応し、カーボン1105が基板表面に付着する。
このコンタミネーションの付着によって見た目の印象が悪くなるだけでなく、コンタミネーションの付着は電子ビーム走査により一様に付着するのではないため、標準試料として最も重要なピッチを変化させ、信頼性を大きく損なうことになってしまう。
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、よりコンタミネーション付着を低減する微細な基準寸法を有する寸法校正用標準部材を提供し、かつ、それを含む高精度電子ビーム測長技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明は、少なくともシリコンを含む標準試料の溝パターンの表面に1〜5nmのシリコン酸化膜を形成することからなる。このシリコン酸化を行う方法として、酸素を含む気体によるプラズ処理、熱酸化、あるいは硫酸・過酸化水素の混合液による酸化を行う。また、この酸化処理は台座に貼り付ける前に行ってもよいし、あるいは台座に貼り付けた後に台座ごとプラズマ処理によって酸化してもよい。ここでシリコン基板表面にシリコン酸化膜を形成することでコンタミネーションがつきにくくなる理由については、Si-O結合はSi−H結合等と比較し安定な結合なため、カーボンラジカルと反応しにくいことが考えられる。そのため1nm未満の薄い酸化膜では緻密な酸化膜が形成されておらず、コンタミネーション低減効果が低くなる。また5nmを超えると酸化膜による基板のチャージアップが生じ、像がぼやける、あるいはそれにより正確な測定が困難となる。したがって、酸化膜厚を1〜5nm程度にすることで効果がより大きくなる。ただし、コンタミネーションの付着のメカニズムについては他にも考えられるものの、酸化膜をつけることによって効果があることは変わりがない。
また、この酸化膜はパターントップの表面だけはなく、溝内部の表面も酸化される必要がある。これはコンタミネーションの付着は溝内部からも供給されることから電子ビームによりスキャンされる領域全体が酸化膜により保護されている必要がある。特許文献1(特開平04-289411号公報)には、標準スケールの作製方法に関して、SiO2、Si3N4をマスクとしてエッチングを行うことが記載されているが、これはSiO2を標準スケールの作製の際のハードマスクとして使用しているもので目的が異なっており、またパターントップにしか酸化膜がないことからコンタミネーション低減の十分な効果が得られない。特許文献2(特開平06-333805号公報)は、各半導体プロセスに基づいてそれぞれ標準試料を作製するものであり、本願発明とは構成も目的も異なっている。また、Siのパターンに熱酸化膜を被覆するという記載はあるものの、これは各半導体プロセスに基づいて作製されるもので、酸化膜厚はそのプロセスによって決定されるものであり、本発明のようにコンタミネーション防止の効果が得られる1〜5nmの範囲とするものではない。特許文献3(特開平07-218201号公報)には、積層膜を作製し、その積層膜の端面を標準試料として使用する方法が記載されているが、この際の酸化は積層膜を作製するための酸化であり、目的も用途も異なるものである。また、シリコンとシリコン酸化膜の積層膜であり、電子ビームにてスキャンされる標準試料部分が1〜5nmの酸化膜で覆われている構造ではないため、コンタミネーションの低減の効果は期待できない。
【0007】
また、本発明は、ピッチ60nm以下のパターンにおいて、スキャンされる試料面の表面積を電子ビームが走査する走査面積の3.1倍以上とすることからなる。表面積を大きくすることによってコンタミネーションが一様についたとしてもそれが平均化され、寸法変化量としては少なくすることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成により、校正に用いる標準試料のコンタミネーション付着量を大幅に低減することにより、高精度な寸法校正用標準部材を提供し、かつ、それを含む高精度電子ビーム測長技術を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例による寸法校正用標準部材の作製方法を示す図。
【図2】寸法校正用標準部材の作製方法の一部を示す図。
【図3】寸法校正用標準部材の作製方法の一部を示す図。
【図4】電子ビーム一括露光装置用ステンシルマスクを説明する図。
【図5】寸法校正用標準部材の上面全図及び部分拡大図。
【図6】従来法による寸法校正用標準部材の作製方法を示す図。
【図7】寸法校正用標準部材を搭載した電子顕微鏡装置を説明する図。
【図8】本発明による寸法校正用標準部材における校正用パターンの作製フローの一例を説明する図。
【図9】従来法による寸法校正用標準部材における校正用パターンの作製フローの一例を説明する図。
【図10】本発明による電子顕微鏡装置の構成例を説明する図。
【図11】電子ビーム照射によるコンタミネーション付着を説明する図。
【図12】本発明の他の実施例による寸法校正用標準部材の作製プロセス工程を示す図。
【図13】他の実施例による電子ビーム照射前の寸法校正用標準部材を示す図。
【図14】他の実施例による電子ビーム照射後の寸法校正用標準部材を示す図。
【図15】従来法により作製された寸法校正用標準部材のコンタミネーション付着を示す図。
【図16】標準試料の表面積と走査範囲の面積比に対する、コンタミネーションによるパターン寸法の依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を適用した実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明による寸法校正用標準部材の作製方法について、図1および図8に示した作製フローを用いて説明する。まず、図1(a)に示すように、シリコン基板100上にレジスト101を塗布する。次に、図4に示した開口107、108を有したステンシルマスクを搭載した電子ビーム一括露光装置でパターン形成を行った。
ビーム偏向により校正用パターンのひとつのパターンであるピッチ100nmで縦方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口107を選択して(ステップ801)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ802)。次にビーム偏向により校正用パターンのもうひとつのパターンであるピッチ100nmで横方向に直線溝が25本並んだ回折格子単位パターンに相当する開口108を選択して(ステップ803)、上記試料上の所望の位置にビーム偏向により露光する(ステップ804)。
次に、可変成形用矩形開口109を選択して(ステップ805)、回折格子パターンが露光されている周囲の左右に試料回転補正用のマーク505、506を電子ビーム可変成形法で露光する(ステップ806)。
現像後、図1(b)に示すように、レジストパターン102をマスクとして酸化膜をエッチングし、次にドライエッチングにより、シリコン基板をエッチングする(ステップ807)。
描画では、上記のように電子ビーム露光において回折格子パターンの方向を縦・横両方向を同一基板上に作製しておく。回折格子パターンとして電子ビーム一括露光方を用いることにより、試料のどの位置でも同じステンシルマスクを用いて露光するために寸法バラツキ5nm以下の均一なパターン形成が可能であった。
さらに、図1(c)に示すように、得られたパターンはレジストやエッチング副生成物等が表面に付着していることから洗浄処理を行い、シリコンのパターン103を得る(ステップ808)。洗浄処理では硫酸と過酸化水素水の混合液に浸すことによって、有機系の付着物を除去するとともに、基板表面が1-2nm程度酸化される。さらにフッ酸処理を行い、基板表面に付着している異物等を酸化膜ごと除去する。しかしこの基板をそのまま使用したのでは電子ビーム照射によるコンタミネーションの付着が多いことが発明者らの検証によって確認をされている。そこで、図1(d)に示すように、基板表面を酸素プラズマにさらし溝の内面を含めてシリコンの溝パターンの表面に4nmの酸化膜104を形成させた(ステップ809)。
その後、ウェハ105を図2に示すようにダイシングすることにより所定寸法形状、例えば10mm□のチップ106に分割し(ステップ810)、洗浄処理を行う(ステップ811)。ここでは洗浄処理の際にフッ酸処理を行うと、ステップ809で形成させた酸化膜が除去されることから、フッ酸処理を行わない必要があり、硫酸と過酸化水素の混合液による洗浄を行い、純水で置換を行う。さらに、図3に示すように、台座に貼付を行い(ステップ812)、寸法校正用標準部材が完成となる。図15にて示された工程により作製された寸法校正用標準部材では5分間の電子ビーム照射によるコンタミネーションの付着による寸法変動が20.6nmであったが、表面にシリコン酸化膜が4nmある寸法校正用標準部材のそれは3.0nmと大幅に低減された。
なお、ここでは基板洗浄後に酸素プラズマを行い、ダイシング後には硫酸、過酸化水素水の混合液による酸化による洗浄方法を行った。しかし、ここで重要なことは台座につけられた寸法校正用標準部材の溝パターンの表面に1〜5nmの酸化膜が形成されていることである。この表面酸化膜を作製する方法としてここでは、基板をフッ酸洗浄により一旦表面酸化膜をとったのち、酸素プラズマと硫酸・過酸化水素水の混合液により表面に酸化膜が形成させた。しかしこれ以外にも熱酸化による方法もあり、またこの組み合わせの方法も各種変えることが可能である。ただし、フッ酸処理を行った後でも大気中に放置しておくことによって1nm未満の自然酸化膜が形成されるが、1nm未満では十分な効果を得ることができず1nm以上の酸化膜が必要であった。また自然酸化膜が形成される雰囲気によって基板表面に酸素以外のものがとりこまれ、表面が汚染されてしまうこともあることから制御して酸化膜を形成することが必要である。このシリコン酸化膜の膜厚測定方法は、分光エリプソメータ、XPSによる測定することができ、また標準部材を破断し透過電子顕微鏡観察することによっても酸化膜の厚さを測定をすることが可能である。
【0012】
また他の実施例においては台座に貼り付けた(図8のステップ812)後に酸素プラズマクリーニングを行ってもよい。このようにすることによってステップ810の洗浄にてより洗浄能力の高いフッ酸洗浄を行ったとしても、後の工程でコンタミネーションの付着を低減するシリコン酸化膜をつけることが可能となる。
【実施例2】
【0013】
次に、この寸法校正用標準部材を用いた電子顕微鏡装置の校正について図7を用いて説明する。50nm設計寸法のデバイスパターンが含まれた試料ウェーハ32とホルダー34に取り付けられた標準部材35が、図7のように電子顕微鏡装置のステージ33に搭載されている。50nm設計寸法のデバイスパターンを測長する場合には、電子顕微鏡装置の倍率を20万倍以上で行う。この倍率で従来の寸法標準であるピッチ240nmの回折格子では電子光学系36により絞られた電子ビーム30の走査の中に1ピッチが入らなくなってしまうので装置の校正ができない。
この倍率の校正については、電子顕微鏡装置にて図5に示す縦方向の回折格子単位パターン503のピッチ寸法を測定する。まず、ピッチ100nmで直線溝が25本並んだ回折格子単位パターン503を探すために位置決め用の十字マーク505、506を用いて試料と電子顕微鏡装置の移動方向の平行性を補正する。次に、配列内の回折格子単位パターン503のピッチ寸法を二次電子信号検出器31からの二次電子信号波形で測定する。同様にして、20点以上の異なる回折格子単位パターン503のピッチ寸法を求め、その平均値を100.21nmとすることで校正ができた。さらに横方向の回折格子パターン504を用いて同様に横方向の電子顕微鏡装置の倍率の調整を高精度に実現できた。
【0014】
この寸法校正用標準部材を用いた電子顕微鏡装置の校正について説明する。この電子顕微鏡装置は、図10に示すような装置構成となっている。測定では、電子銃41から照射される電子ビーム42をレンズ43、45により細く絞り、偏向器44によりステージ47上に搭載された予めピッチ寸法が根付けされた回折格子パターンを含む試料46上で走査するとき発生する二次電子48を二次電子検出器49により検出し、ビーム偏向制御部50と二次電子信号処理部51から波形を求める。この波形から寸法を演算し寸法校正演算により正しい寸法として寸法表示および記憶する。すなわち、波形表示部52の波形から、寸法演算部53で寸法を演算し、寸法校正演算部54で正しい寸法を求め、寸法表示部55で表示し、寸法記憶部56に記憶する。本発明の電子顕微鏡装置では、図10に示すように、さらに校正比較のために基準値との差分演算部57と校正状態表示部58が設けられており、予めピッチ寸法が根付けされた回折格子パターンとピッチ寸法と基準寸との比較により校正の正しさが得られ、それを表示できるようになっている。
【0015】
以上のように標準試料表面に酸化膜を1〜5nmつけることによって電子ビーム照射によるコンタミネーションの付着量を低減することが可能となった。
【実施例3】
【0016】
次に本発明の他の実施例を示す。ピッチが60nm以下の標準試料において、標準試料の溝パターンの表面積が、電子ビームが走査する走査面積の3.1倍以上とすることによってコンタミネーション対策が可能となる。表面積を大きくすることは、溝深さを深くすることにより達成できる。そして、この溝深さは標準試料を作る工程、例えば図9のステップ807において、ドライエッチングの時間を長くすることによって可能となる。またこのときドライエッチング時間が長くなるに従いレジストを必要に応じて厚くすることはいうまでもない。あるいは標準試料の作製方法として例えばシリコンとシリコン酸化膜を交互にスパッタし、いわゆる超格子を利用する方法がある。
【0017】
この方法を図12に示す。まずはスパッタ装置を用いてシリコン基板1201上にシリコン酸化膜1202とシリコン1203を交互に20nmずつ積層する(図12(a))。この積層膜厚はそれぞれスパッタ時間を調整することにより所定の厚さにすることが可能である。次に積層基板をたてて土台サンプル1204ではさみ接着を行い(図12(b))、表面を研磨し土台基板と高さが同じになるようにする(図12(c))。その後表面をフッ酸処理洗浄することによって積層膜のシリコン酸化膜をエッチングし、標準試料を作製する。このとき溝深さは、フッ酸の濃度あるいは浸漬時間を変えることにより調整できる。このときのエッチング深さ調整により、図13に示すようにエッチング深さを10nmのサンプル1205と、40nmのサンプル1206を作製した。サンプル1205は表面積が電子ビーム顕微鏡装置の走査範囲の1.5倍に対し、サンプル1206は3.5倍となる。このサンプルを電子ビーム検査装置にて電子ビーム照射を3分間行ったところ、サンプル1205のパターン寸法が8nm増加したのに対し(図14(a))、サンプル1206は0.4nmの増加しかなかった(図14(b))。
【0018】
図16にコンタミネーションによるパターン寸法の、標準試料の表面積と電子顕微鏡の走査範囲の比(標準試料の表面積÷電子顕微鏡の走査範囲)依存性を示す。図に示すように面積比が3以下となることによってCD変動幅が3%を超えていたが、面積比が増加し3.1以上となることによってコンタミネーションによる寸法変化が3%以下となり、さらに4以上となることによってコンタミネーションによる寸法変化量が1.5%以下と大幅な効果が得られた。そのためコンタミネーションによる寸法変動量を抑えるためには面積比を3.1以上とすることが必要となる。これは電子ビーム検査装置にて電子ビーム照射中に供給されるカーボンラジカルは照射視野内ではサンプルに依存せず一定であるもののサンプル表面に一様に付着することからサンプルの表面積が小さいとコンタミネーションの付着による寸法変動が大きくなるとともに、一旦コンタミネーションが一定量付着すると付着量が増す。このコンタミネーションネーションの付着量が増幅される量は60nm以下のパターンピッチにおいて、標準試料の表面積が電子顕微鏡の走査範囲の3倍以下となったときに顕著となることから、少なくとも3.1倍以上にする必要がある。
【0019】
また、標準試料の表面積が電子顕微鏡の走査範囲の少なくとも3.1倍以上にするとともに、標準試料の表面に酸化膜を1〜5nm形成することによって効果はより大きくなる。
【符号の説明】
【0020】
30・・・電子ビーム、31・・・二次電子検出器、32・・・ウェーハ、33・・・ステージ、34・・・ホルダー、35・・・校正用チップ、36・・・電子光学系、
41・・・電子銃、42・・・電子ビーム、43,45・・・レンズ、44・・・偏向器、46・・・ウェーハ、47・・・ステージ、48・・・二次電子、49・・・二次電子検出器、50・・・ビーム偏向制御部、51・・・二次電子信号処理部、52・・・波形演算部、53・・・寸法演算部、54・・・寸法校正演算部、55・・・寸法表示部、56・・・寸法記憶部、57・・・基準値との差分演算部、58・・・校正状態表示部、
100・・・シリコン基板、101・・・レジスト、102・・・レジストパターン、103・・・シリコン回折格子パターン、104・・・シリコン酸化膜、105・・・ウェーハ、106・・・校正用チップ、107,108・・・回折格子用パターン開口、109・・・可変成形用矩形開口、
501,502・・・回折格子領域、503,504・・・回折格子パターン、505,506・・・位置検出用十字パターン、
1101・・・電子ビーム、1102・・・シリコン回折格子パターン、1103,1105・・・カーボン、1104・・・カーボンラジカル、
1201・・・シリコン基板、1202・・・シリコン酸化膜、1203・・・シリコン、1204・・・土台サンプル、1205・・・エッチング深さ10nmのサンプル、1206・・・エッチング深さ40nmのサンプル、1301・・・コンタミネーション。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリコンを含み、予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
前記寸法校正用標準部材の溝パターンの表面に1nm以上から5nm以内の厚さのシリコン酸化膜が形成されていることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
前記シリコン酸化膜が酸化処理により形成されたものであることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項3】
請求項1記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
前記回折格子の配列として縦方向回折格子の配列及び横方向回折格子の配列を備えていることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項4】
少なくともシリコンを含み、予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法において、
シリコン基板をエッチングすることにより回折格子の溝パターンを作成し、
前記溝パターンの表面に酸化処理により1nm以上から5nm以内のシリコン酸化膜を形成することを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法において、
表面の酸化処理方法としてガスとして酸素を用いたプラズマにさらすことを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法において、
フッ酸処理により表面酸化膜を除去した後に、酸化処理を行うことを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法。
【請求項7】
ピッチが60nm以下の回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
寸法校正用標準部材の溝パターンの表面積が、電子ビームによって走査される走査面積の3.1倍以上であることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項8】
寸法校正用標準部材を用いた電子顕微鏡装置の校正方法であって、
少なくとも回折格子単位の溝パターンの表面に1nm以上から5nm以内のシリコン酸化膜が形成されており、かつシリコン基板上に予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる回折格子単位パターンを備える寸法校正用標準部材を配置し、前記回折格子単位パターンを測長し、その測長結果と前記ピッチ寸法の差を計算して基準値と比較し校正するようにしたことを特徴とする電子顕微鏡装置の校正方法。
【請求項1】
少なくともシリコンを含み、予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
前記寸法校正用標準部材の溝パターンの表面に1nm以上から5nm以内の厚さのシリコン酸化膜が形成されていることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
前記シリコン酸化膜が酸化処理により形成されたものであることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項3】
請求項1記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
前記回折格子の配列として縦方向回折格子の配列及び横方向回折格子の配列を備えていることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項4】
少なくともシリコンを含み、予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法において、
シリコン基板をエッチングすることにより回折格子の溝パターンを作成し、
前記溝パターンの表面に酸化処理により1nm以上から5nm以内のシリコン酸化膜を形成することを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法において、
表面の酸化処理方法としてガスとして酸素を用いたプラズマにさらすことを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法において、
フッ酸処理により表面酸化膜を除去した後に、酸化処理を行うことを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材の製造方法。
【請求項7】
ピッチが60nm以下の回折格子の配列よりなる電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材において、
寸法校正用標準部材の溝パターンの表面積が、電子ビームによって走査される走査面積の3.1倍以上であることを特徴とする電子顕微鏡装置の寸法校正用標準部材。
【請求項8】
寸法校正用標準部材を用いた電子顕微鏡装置の校正方法であって、
少なくとも回折格子単位の溝パターンの表面に1nm以上から5nm以内のシリコン酸化膜が形成されており、かつシリコン基板上に予めピッチ寸法が求められている回折格子の配列よりなる回折格子単位パターンを備える寸法校正用標準部材を配置し、前記回折格子単位パターンを測長し、その測長結果と前記ピッチ寸法の差を計算して基準値と比較し校正するようにしたことを特徴とする電子顕微鏡装置の校正方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−271228(P2010−271228A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124119(P2009−124119)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]