説明

電極パターン形成方法

【課題】 マスク材を容易に剥がすことができ、試料を真空装置内に入れた時にマスク材からのアウトガスが少ない電極パターンの形成方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る電極パターン形成方法は、試料1の表面に対して、基材2の表面に粘着剤3が設けられたマスク材12,15を貼り付けることにより、試料1の表面の一部をマスクする工程と、マスク材12,15の上から試料1の表面に、気相成長法によって金属膜20を成膜する工程とを備え、基材2は、フッ素樹脂製であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極パターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の電気特性を測定する場合、試料に電圧を印加するための電極パターンを形成する必要がある。この電極パターンは、金属マスクを用いて形成する方法が考えられる。しかし、単に試料の電気特性の測定のためにそのような方法を用いるのは、コストの面から現実的ではない。そこで、簡易的な電極パターン形成方法として、紙製の基材の表面に粘着剤が設けられたマスク材によって試料をマスクし、電極材料を蒸着する方法が用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の紙製の基材で構成されるマスク材によるマスクでは、電極材料を蒸着した際に紙製の基材が変質して破れ易くなり、マスク材を剥がせなくなる場合があった。また、電極材料の蒸着のために試料を蒸着装置の真空チャンバー内に入れると、紙製の基材はアウトガスが多いため、蒸着可能な真空度に達するまでに長い時間がかかるという問題点があった。
【0004】
本発明はこのような従来の問題点を解決するためになされたもので、マスク材を容易に剥がすことができ、試料を真空装置内に入れた時にマスク材からのアウトガスが少ない電極パターンの形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電極パターン形成方法は、試料の表面に対して、基材の表面に粘着剤が設けられたマスク材を貼り付けることにより、試料の表面の一部をマスクする工程と、マスク材の上から試料の表面に、気相成長法によって金属膜を成膜する工程とを備え、基材は、フッ素樹脂製であることを特徴とする。
【0006】
この電極パターン形成方法では、フッ素樹脂は耐熱性が高く化学的に安定なため電極材料を成膜後も劣化することはほとんどない。従って、成膜後にマスク材を試料から剥がす際に基材が破れてしまい、マスク材を剥がせなくなることは非常に少ない。またフッ素樹脂は電極材料の成膜装置の真空チャンバー内に置かれてもアウトガスが少ないため、成膜可能な真空度まで短時間で到達する。
【0007】
また、フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンはフッ素樹脂の中でも耐熱性が高く化学的に安定なため、マスク材を試料から剥がせなくなることはさらに少なくなる。
【0008】
また、気相成長法は、真空蒸着法であることが好ましい。真空蒸着法は気相成長法の中でも簡易的な成膜方法であるため、簡易的に電極パターンを形成することができる。
【0009】
また、金属は、金、銀、銅及びアルミニウムからなる群から選ばれる1の金属又はこの群から選ばれる2以上の金属の合金であることが好ましい。この場合、抵抗率の低い金属で電極パターンを形成することができるため、試料の電気特性を正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マスク材を容易に剥がすことができ、試料を真空装置内に入れた時にマスク材からのアウトガスが少ない電極パターンの形成方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明に係る電極パターンの形成方法の実施の形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0012】
電極パターン形成が必要な電気的特性の測定方法の種類には様々なものがあるが、ここでは誘電体試料の比誘電率の測定に本発明を適用する形態について図1〜図3を用いて説明する。
【0013】
まず、図1(a)に示すような誘電体試料1を用意する。誘電体試料1は、例えば、一辺の長さがDの正方形の薄い平板状である。また、図1(b)及び(c)に示すようなマスク材12及び15を用意する。マスク材12は、一辺の長さがDの正方形の中心から直径d3(<D)の円を切り取った形状をしている。また、マスク材15は、内径d1外径d2(d1<d2)の環状をしている。図1(d)は図1(b)及び(c)のI-I端面図である。図1(d)に示すように、マスク材12及び15は、フッ素樹脂製のシート状の基材2と、基材2の表面に設けられた粘着材3を備えている。
【0014】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、またはポリビニリデンフルオライド等が挙げられる。中でも、ポリテトラフルオロエチレンは特に耐熱性が高く、かつ化学的に安定なため、好ましい。
【0015】
基材の厚さは特に限定されないが、例えば20〜100μmとすることができる。
【0016】
また、粘着材3の材質は特に限定されないが、例えばアクリル系粘着材等を粘着材3として用いることができる。粘着材3の厚さも特に限定されないが、例えば10〜100μmとすることができる。
【0017】
次に、図2(b)及び図2(b)のIIa-IIa線端面図である図2(a)に示すように、誘電体試料1の一方の表面にマスク材12及びマスク材15を、それぞれの中心点が略一致するように粘着剤3により貼り付ける。このようにして、誘電体試料1の一方の表面の一部がマスクされたマスク試料10aが作成される。
【0018】
次に、図2(d)及び図2(d)のIIc-IIc線端面図である図2(c)に示すように、マスク試料10aの他方の表面にマスク材12のみを、それぞれの中心点が略一致するように粘着材3により貼り付ける。このようにして、誘電体試料1の両面の一部がマスクされたマスク試料10bが作成される。
【0019】
次にマスク試料10bの両面に電極として機能する金属膜を成膜する。具体的には、マスク試料10bを真空蒸着機のチャンバー内に入れ、まずマスク試料10bの一方の表面に電極材料である金属膜20を真空蒸着法によって成膜する。すると、図3(a)に示すようにマスク試料10bの一方の表面のうち、マスク材12又はマスク材15によってマスクされていない部分には金属膜20が直接成膜され、マスクされた部分はマスク材12及びマスク材15上に金属膜20が成膜される。
【0020】
次に、マスク試料10bからマスク材12及びマスク材15を剥がす。すると、図3(b)及び(c)に示すように、金属膜20のうち、マスク試料10bの表面に直接成膜された部分のみが残る。成膜された金属膜20のうち、マスク試料10bの表面の中心部に円板上に成膜された部分が主電極5となり、マスク試料10bの表面に環状に成膜された部分がガード電極7となる。このようにして電極付き試料30aが作成される。
【0021】
続いて、電極付き試料30aの電極が形成されていない側の表面に金属膜20を成膜し(図3(d))、マスク材12を剥がすことにより、対電極9を形成する(図3(e)及び(f))。このようにして、一方の表面に主電極5及びガード電極7が形成され、他方の表面に対電極9が形成された電極付き試料30bが作成される。ここで、金属膜20の厚さは特に制限されないが、例えば0.5〜5μmとすることができる。なお、図3(a)の状態からマスク材12、15を剥がさずに、裏面に対電極9用の金属膜20を形成し、その後マスク材12、15を剥がしてもよい。
【0022】
金属膜20の材料は、金属であれば特に限定はされないが、例えば金、銀、銅またはアルミニウム、あるいは金、銀、銅及びアルミニウムからなる群から選ばれる2以上の金属の合金が挙げられる。これらは抵抗率の低い金属であり、電気特性測定の電極として使用することにより、誤差の少ない測定が可能となる。電極材料の成膜方法としては、真空蒸着法が最も簡便な方法であるため好適であるが、他の気相成長法でもよく、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法や、MOCVD法等の化学気相成長法であってもよい。
【0023】
また、主電極5の直径d1の大きさは特に限定されないが、例えば4〜51mmとすることができる。ガード電極の内径d2の大きさも特に限定されず、例えば8〜52mmとすることができ、ガード電極の外径d3の大きさも特に限定されず、例えば10〜62mmとすることができる。さらに、対電極9の直径d3の大きさも特に限定されず、例えば10〜62mmとすることができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、試料の両面にマスクをした後に両面に電極膜を形成しているが、一方の表面にマスク及び電極膜の形成をし、その後に他方の表面にマスク及び電極膜を形成してもよい。
【0025】
上述のような電極パターン形成方法によれば、上記電極材料の成膜の際に用いるマスク材12及びマスク材15を構成する基材2は、フッ素樹脂製であるため、真空中に置かれた場合にアウトガスの発生量が少ない。そのため、従来のように紙製の基材で構成されるマスク材を用いた場合と比較して、蒸着可能な真空度に短時間で到達するため、電極パターン形成に必要な時間を短縮することができる。また、大量の試料に電極を形成しても、試料からのアウトガスが少なく真空装置のチャンバー内はそれほど汚染されないため、高純度の成膜が可能となる。
【0026】
さらに、上記の電極パターン形成の際に使用するマスク材12及びマスク材15を構成する基材2として用いるフッ素樹脂は、耐熱性が高く化学的に安定である。そのため、金属膜20を成膜中に基材2が変質する可能性は低い。従って、紙製の基材で構成されるマスク材を使用した場合と異なり、マスク材12及び15を剥がす際に基材が変質して破れてしまい、マスク材の一部が誘電体試料に残ってしまうことは極めて起こりにくい。また、加工が容易な材質であるため、マスク材の形状を自在に作成することができ、短時間かつ容易に電極パターンを形成することができる。
【0027】
次に、上述の工程により作成した電極付き試料30bを用いた、比誘電率測定の方法について説明する。図2(e)に示すように、主電極5は、直径がd1の円板状の電極である。ガード電極7は、内径d2外径d3の環状の電極であり、d1<d2<d3の関係がある。主電極5とガード電極7は、それぞれの中心点が略一致するように形成されているため、主電極5とガード電極7の間には、一定幅の輪状のすきまが形成される。また、図3(a)に示すように、対電極9は、直径がガード電極7の外径と等しいd3の円板状の電極であり、誘電体試料1を介して主電極5及びガード電極7と対向する位置に形成されている。
【0028】
比誘電率を測定するには、電極付き試料30bをブリッジ回路に接続し、交流電圧を印加した時のブリッジ回路の平衡条件から誘電体試料1の静電容量を測定する。その値と既知の値である誘電体試料1の厚さ、主電極5の面積及び真空の誘電率から、誘電体試料1の比誘電率を求めることができる。また、主電極5を取り囲むようにガード電極7が形成されているが、これはブリッジ回路での静電容量の測定時に、主電極5と対電極9間の浮遊容量の影響をなくすためである。従って、ガード電極7を形成することにより、静電容量の測定精度を向上させることができる。
【0029】
なお、誘電体試料1の形状は正方形状に限られず、多角形状、円形状、楕円形状等であってもよい。主電極及び対電極の形状も円形に限られず、楕円形状、多角形状等であってもよく、ガード電極の形状も主電極を取り囲む形状であればよい。また、特にガード電極を設けないこともできる。
【0030】
また、上記実施形態は、誘電体試料の比誘電率(静電容量)の測定を行う場合の実施形態だが、それ以外の電気的特性、例えば導体試料の抵抗率の測定等を行う場合の電極パターン形成に本発明を適用してもよい。本発明のマスク材は加工が容易なため、測定方法の種類に合わせて様々な形状の電極を簡易的な方法で作成することができる。また、上述の効果により、短時間で様々な形状の電極を作成することができる。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の効果をより一層明らかなものとするため、実施例および比較例を用いて説明する。
(実施例)
【0032】
石英ガラスの比誘電率及び誘電正接の測定を行った。石英ガラスとして、25mm角で厚さ0.64mmの寸法の試料を用いた。石英ガラスの一方の表面に、マスク材を用いて主電極及びガード電極を作成し、他方の表面にはマスク材を用いて対電極を作成した。電極形成の際のマスク材として、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体製の基材とアクリル系の粘着材を備えるマスク材を用いた。金製の電極(金属膜)を、真空蒸着法により1〜2μmの厚さに成膜することにより形成した。具体的には、主電極を直径10mmの円形に形成し、ガード電極を内径13mm外径20mmの環状に形成した。対電極を直径20mmの円形に形成した。
【0033】
上記のように電極を形成した石英ガラスを、アジレント製 16451B 誘電率測定器具を用いてブリッジ回路に接続した。測定周波数1kHz及び測定電圧1Vの条件でブリッジ回路を平衡状態にし、アジレント製4284A精密LCRメーターを用いて、静電容量を測定した。静電容量の値から、比誘電率及び誘電正接を計算した。
(比較例)
【0034】
マスク材の基材を紙製とする以外は、実施例と同様に電極を形成し、静電容量の測定を行った。
【0035】
図4に、実施例及び比較例の電極形成結果及び測定結果を示す。実施例では、電極パターン形成後のマスク材除去は問題なく行うことができた。比較例では、紙製の基材が破れてしまい、マスク材を完全に除去することができなかった。また、実施例では、各電極作成の為に真空蒸着装置内に入れた時、蒸着可能な真空度に達するまでの時間は、約8分であり、比較例では約30分であった。比誘電率及び誘電正接の測定結果は、実施例ではそれぞれ3.8及び0.002であり、比較例では測定ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】誘電体試料(a)、2種類のマスク材(b)(c)及びマスク材の端面図(d)である。
【図2】試料の両面の一部をマスクする工程図である。
【図3】試料の両面に電極パターンを形成する工程図である。
【図4】実施例及び比較例の電極形成結果及び測定結果を示す表である。
【符号の説明】
【0037】
1…誘電体試料、2…マスク材の基材、3…粘着材、5…主電極、7…ガード電極、9…対電極、10a,10b…マスク試料、12,15…マスク材、20…金属膜、30a,30b…電極付き試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面に対して、基材の表面に粘着剤が設けられたマスク材を貼り付けることにより、前記試料の表面の一部をマスクする工程と、
前記マスク材の上から前記試料の表面に、気相成長法によって金属膜を成膜する工程と、
を備え、
前記基材は、フッ素樹脂製である電極パターン形成方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の電極パターン形成方法。
【請求項3】
前記気相成長法は、真空蒸着法である請求項1又は2に記載の電極パターン形成方法。
【請求項4】
前記金属は、金、銀、銅及びアルミニウムからなる群から選ばれる1の金属又はこの群から選ばれる2以上の金属の合金である請求項1〜3に記載の電極パターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−1959(P2008−1959A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174291(P2006−174291)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【Fターム(参考)】