説明

電極及び表示装置

【課題】簡素な工法で形成可能な、低反射且つ低抵抗の電極を提供する。
【解決手段】電極17は、基板11上に所定のパターンで形成された透明電極12上に、その少なくとも一部が透明電極と電気的に接続して形成されたアルミニウムを含むAl薄膜15と、Al薄膜上に形成されたクロムを含むCr薄膜16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EL(エレクトロルミネセンス)表示素子やPDP(プラズマディスプレイパネル)などの表示装置において表示画面側に形成される電極に関する。また、本発明は表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、一般的な薄膜EL素子は、絶縁性基板51上に、第1方向に平行なストライプ状の複数の背面電極52、高い誘電率を有する絶縁層53、電界を印加することによって発光する蛍光体層54、高い誘電率を有する絶縁層55、第1方向と直交する第2方向に平行なストライプ状の複数の透明電極56をこの順に有している。背面電極52と透明電極56との間に電圧を印加することにより、この背面電極52と透明電極56との交点位置で蛍光体層54が発光し、この光が透明電極56を透過して画像が表示される。透明電極56としては低抵抗で透明性の高いITOなどの材料が用いられるが、その抵抗値は十分には小さくなく消費電力の増大等の問題を生じる。そこで、抵抗補助電極として、透明電極56に電気的に接触して補助電極(バス電極)57が形成される。
【0003】
EL表示素子やPDP等の表示装置の電極や配線用材料としては電気良導体であるAl、Cu、Au、Agなどが幅広く用いられている。しかし、これらの材料は光反射率が高いため、これらの材料を、補助電極57のように表示画面側に形成される電極材料として用いた場合、外光が反射して画像のコントラストが低下するという問題が生じる。
【0004】
この問題を解消するために、特許文献1には、良導体のAl薄膜とAl及びMoを含む金属酸化物薄膜とが積層された黒色電極が提案されている。また、特許文献2には、ルテニウム系多酸化物を含む黒色電極が提案されている。光反射抑制層として使用されるこれらの黒色電極は、金属酸化物からなり高い耐熱性を有しているので電極形成以降の製造工程における熱処理に耐えることができる。
【特許文献1】特開平2−306505号公報
【特許文献2】特開2004−158456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電極形成以降に熱処理を必要としない場合には、黒色電極が高い耐熱性を有している必要がないため、より低コストで簡素な工法で形成可能な低反射且つ低抵抗な電極が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電極は、基板上に所定のパターンで形成された透明電極上に、その少なくとも一部が前記透明電極と電気的に接続して形成されたアルミニウムを含むAl薄膜と、前記Al薄膜上に形成されたクロムを含むCr薄膜とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の表示装置は上記の本発明の電極を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な方法で形成することができ、低反射性と高導電性とを兼ね備えた電極を提供することができる。
【0009】
この電極を表示装置の表示画面側に形成される電極として用いると、外光反射が抑えられ、画質のコントラストを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の電極は、基板上に形成された透明電極に電気的に接続したアルミニウム又はアルミニウムを含む金属化合物からなるAl薄膜と、クロム又はクロムを含む金属化合物からなるCr薄膜とを備えている。これにより、前面基板側(Cr薄膜側)から見たときに電極を黒色化することができ、電極表面での光の反射を抑制することができる。また、電極の抵抗値を、Alと同程度に低く抑えることができる。
【0011】
本発明の電極の効果を確認するために行った実験結果を示す。
【0012】
真空雰囲気下において、基板上に、Al小片を用いて通常の真空蒸着により膜厚約300nmのAl薄膜と、このAl薄膜上にCr粒を用いて通常の真空蒸着により膜厚約40nmのCr薄膜とを連続して形成した。得られた2層積層膜からなる電極の分光反射率を測定した。比較のために、Cr薄膜の膜厚を約10nm,約30nm,約100nmと変える以外は上記と同様にして形成した3種類の2層積層膜からなる電極、基板上に膜厚約300nmのAl薄膜のみを上記と同様に形成した単層の電極、及び基板上に膜厚約40nmのCr薄膜のみを上記と同様にして形成した単層の電極をそれぞれ形成して、それぞれの分光反射率を同様に測定した。結果を図1に示す。
【0013】
図1より、Al薄膜及びCr薄膜からなる2層積層膜は、Al薄膜のみからなる単層膜に比べて、波長400〜800nmの可視光全域で反射率が大幅に低減している。更に、Cr薄膜の膜厚が約30nm,約40nm,約100nmである2層積層膜は、Cr薄膜のみからなる単層膜に比べて、反射率がほぼ同等かそれより小さい。
【0014】
Al薄膜及びCr薄膜からなる2層積層膜においてCr薄膜の膜厚が100nmを超えると、その電極表面の反射率はCr薄膜のみからなる単層膜の反射率に近づき、光反射抑制効果は小さくなる。また、Al薄膜及びCr薄膜からなる2層積層膜においてCr薄膜の膜厚が10nmを下回ると、Al薄膜での反射の影響が大きくなり、同様に光反射抑制効果は小さくなる。本発明者らが実験を重ねた結果、Al薄膜及びCr薄膜からなる2層積層膜において良好な光反射抑制効果を得るためにはCr薄膜の膜厚は10〜100nmの範囲内であることが好ましく、約40nmが最適であることが分かった。
【0015】
上記の、膜厚約300nmのAl薄膜と膜厚約40nmのCr薄膜とからなる2層積層膜、膜厚約300nmのAl薄膜のみからなる単層膜、及び膜厚約300nmのCr薄膜のみからなる単層膜の抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1より、Al薄膜及びCr薄膜からなる2層積層膜は、Al薄膜のみからなる単層膜と同等の低抵抗値を有していることが分かる。
【0018】
上記の実験では、基板上にAl薄膜及びCr薄膜からなる2層積層膜を直接形成したが、基板とAl薄膜との密着性が十分でなく、フォトレジストを用いたリフトオフ法により電極を形成する場合には、細線パターンに電極を形成することが困難となる場合がある。このような場合には、基板上に、第1層としてチタン又はチタンを含む金属化合物からなるTi薄膜を形成し、この上にAl薄膜及びCr薄膜を順に積層することが好ましい。このような3層電極であれば、電極の密着性が向上し、パターニング性が向上するので、高精細パターンの電極を容易に形成することができる。
【0019】
本発明の電極を備えたEL表示素子の製造方法の一例を図2を用いて説明する。但し、以下は一例に過ぎず、本発明がこれに限定されないことはいうまでもない。
【0020】
まず、図2(A)に示すように、絶縁性基板上に複数のストライプ状の背面電極、絶縁層、蛍光体層をこの順に形成した基板11を作成する。次に、基板11上に所定の線幅及び間隔でITOなどからなる複数のストライプ状の透明電極12を形成する。ここで、複数の透明電極12の延設方向は複数のストライプ状の背面電極の延設方向と直交させる。次に、所定の線幅及び間隔でフォトレジスト13のパターンを形成する。次に、全面に、真空蒸着により膜厚約200nmのTi薄膜14を形成し、Ti薄膜14上に真空蒸着により膜厚約300nmのAl薄膜15を形成し、更に、Al薄膜15上に真空蒸着により膜厚約40nmのCr薄膜16を形成する。Ti薄膜14、Al薄膜15、及びCr薄膜16からなる3層積層膜は真空雰囲気を維持したまま連続して形成する。Al薄膜15は、その少なくとも一部が透明電極12と電気的に接続して形成される。次に、フォトレジスト13を除去する。その結果、図2(B)に示すように、透明電極12上に、Ti薄膜14、Al薄膜15、及びCr薄膜16からなる補助電極17が形成されたEL表示素子を得る。
【0021】
上記において、背面電極、絶縁体層、蛍光体層、及び透明電極の材料や形成方法は特に制限はなく、EL表示素子として公知の材料及び方法を適宜選択して使用することができる。例えば、無機EL表示素子の場合であれば、絶縁体層として無機誘電体層、蛍光体層として無機蛍光体層を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の電極利用分野は特に制限はないが、例えばEL表示素子やPDPなどの表示装置の表示面側に形成される電極として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、電極の分光反射率の測定結果を示した図である。
【図2】図2(A)及び図2(B)は、本発明の電極の製造方法の概略を順に示した断面図である。
【図3】図3は、一般的なEL表示素子の概略構成を示した断面図である。
【符号の説明】
【0024】
11 基板
12 透明電極
13 フォトレジスト
14 Ti薄膜
15 Al薄膜
16 Cr薄膜
17 補助電極
51 絶縁性基板
52 背面電極
53 絶縁層
54 蛍光体層
55 絶縁層
56 透明電極
57 補助電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に所定のパターンで形成された透明電極上に、その少なくとも一部が前記透明電極と電気的に接続して形成されたアルミニウムを含むAl薄膜と、前記Al薄膜上に形成されたクロムを含むCr薄膜とを備えることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記透明電極と前記Al薄膜との間にチタンを含むTi薄膜を更に備える請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記Cr薄膜の膜厚が10nm〜100nmの範囲内である請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電極を用いた表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−226494(P2008−226494A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58939(P2007−58939)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(503217783)MT映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】