説明

電気化学素子用ペースト状塊、並びに該ペースト状塊から得られる層体および電気化学素子

【課題】高い可撓性並びに非常に優れた電子伝導性およびイオン伝導性を有する二次電池、エレクトロクロミック素子を提供する。
【解決手段】(A)少なくとも一種の有機ポリマー、その前駆体、もしくはそのプレポリマーを含有する、ないしはこれらから成るマトリックス、および(B)電気化学的に活性化することができ、マトリックス中に溶解せず、かつ固体物質状である無機材料との不均一な混合物(異種の混合物)を含むペースト状塊を電極、あるいは分離膜として電子素子に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的性質を有する新規な材料、特にペースト状の塊、これらのペースト状塊から製造され、自己支持可能な、または基板上に載置される層体、およびそれから製造され、蓄電池、エレクトロクロミック素子などとして使用することのできる複合積層体に関する。本発明は、特に、固定基材上で使用される再充電可能な電解電池に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年代の初頭から、薄層状の蓄電池などの電気化学素子を製造する試みがなされてきている。目標は、例えば丸めたり、他の所望の形状に合わせたりできるのに充分な程度に可撓性があると共に、使用される活性電気化学材料の容量に関して、電極や電解液など個々の電気化学部品間の接触面積が非常に大きく、特に優れた充放電特性を有する複合フィルムを得ることであった。
【0003】
過去において、そのような電極材料を製造する試みは、固体または粘度の高い液体のテフロン(登録商標)から始まっており、このテフロン(登録商標)を、ある割合の炭素および実際の電極材料と混合し、適切な参照電極上にプレスまたはスプレーする。しかしながら、結果として得られた層体は可撓性が不十分であった。さらに、溶媒に溶解したPVCおよびテトラヒドロフランまたは他の重合体で製造して、次いで、溶媒を抽出するという方法で電極層を製造することが提案されてきた。
しかしながら、このようにして製造された製品は、導電性が好ましくない。
【0004】
適切な電気化学複合体中で電解液として機能することのできる層は、特定の問題を有している。特許文献1(米国特許第5,456,000号)は、電極部と電解液部とを積層して製造した再充電可能な電池を記載している。正極に使用されるのは、共重合体で作られるマトリックス溶液に溶解したLiMnO粉末から別に製造され、次いで乾燥して得られるフィルムまたは膜である。負極は共重合体のマトリックス溶液に分散させた粉砕炭素の乾燥被覆を有する。電解液/分離膜は電極層間に配置される。この目的のために、ポリ(フッ化ビニリデン)−ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、プロピレンカーボネートまたはエチレンカーボネート等の有機可塑剤で転化される。これらの成分からフィルムが製造され、次いで、可塑剤を層体から抜き出す。得られた蓄電池は、使用に供されるまで、この「不活性」な状態で保持される。これを活性化するためには、適切な電解溶液に浸漬する。これによって、前記可塑剤を抜き出すことによって形成された空洞が液体の電解液で満たされる。これで、電池は使用することができる。
【0005】
限定された表面で腐食が発生するので(1997年9月にアイルランドのコンネマーラ(Connemara)で開催された、固体状態イオン学(Solid State Ionics)についての第4回欧州会議での、A. Blyr et al.による公開演説を参照されたい)、このような蓄電池は、充電した状態で長期間に亘って保持することができないという欠点を有している。他の欠点は、このような電池は漏洩防止措置が施された筐体に載置されなければならないということである。
【0006】
固体の電解液を使用する試みもなされている。イオン伝導性のある有機ポリマー材料(いわゆる真ポリマー電解液)を使用することが提案されてきた。(なお、「有機ポリマー」はorganic polymerの日本語訳であり、このorganic polymerが有機重合体と訳出されることがある。有機ポリマーも有機重合体もともに同じ意味を有する技術用語である。よって、この明細書においては、「有機ポリマー」を「有機重合体」または「重合体」と称することもある。)特許文献2(米国特許第5,009,970号)は、固体ポリ(エチレンオキシド)ポリマーをリチウム過塩素酸塩で転換し、それに照射を行うことによって得られたゲル製品を用いることを記載している。米国特許第5,041,346号は、例えば、γ-ブチロラクトンなどの二極非プロトン性溶媒のようなイオン溶媒和性を好ましくは有する柔軟剤をさらに含有する、これらのポリマー電解液をオキシメチレンで架橋した変性物を記載している。しかしながら、純粋な固体リチウムに比べてイオン伝導性は劇的に増加したが、この変性物では、電気化学素子における電解液層として使用するのに未だ充分ではない。
【0007】
他の試みも類似のポリマー電解液に関している。この場合においては、ポリフッ化ビニルポリマーと関連するフッ化炭素共重合体とがトリフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレンと共に使用されている。これらのポリマーに添加されるのは、前記ポリマーおよび塩成分の両方と相溶性を有するリチウム塩および追加の有機溶媒である(Tsuchida et al., Elektrochimica Acta, 28巻(1983、591頁以後および833頁以後))。しかしながら、この場合は、約10−5S/cmよりも大きい、使用可能なイオン伝導性が温度を上昇させた状態でしか得られない。その理由は、この論文の著者自身が報告していることであるが、この混合物は均一な状態を保つことができず、塩とポリマー結晶とを形成してしまうからである。したがって、この方向での研究は後になってみると将来性がないように思われる(米国特許第5,456,000、カラム2、31〜33行)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,456,000号
【特許文献2】米国特許第5,009,970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記の好ましくない性質を有さない、薄い複合積層体状の電気化学素子を製造する塊を提供することである。特に、本発明の塊は、電気化学的性質を有する層体または複合積層体に加工されると、再充電可能な電池(蓄電池)、エレクトロクロミック素子などの製品を提供する。これらの製品は高い可撓性並びに非常に優れた電子伝導性およびイオン伝導性を有し、さらに、漏洩することのない、それ故に筐体、特にシール筐体中に保持される必要がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、この目的は、(A)少なくとも一種の有機ポリマー、その前駆体、もしくはそのプレポリマーを含有する、ないしはこれらから成るマトリックス、および(B)電気化学的に活性化することができ、前記マトリックス中に溶解せず、かつ固体物質状である無機材料との不均一な混合物(異種の混合物)を含むように調製された、電子素子に使用することのできるペースト状塊によって達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、電気化学的性質を有する本発明の複合積層体の配列を示している。
【図2】図2は、図1による複合積層体が丸められたところを示している。
【図3】図3は、図1に示された配列の複合積層体についてリチウム技術を用いた発明の態様の、充放電曲線を示している。
【図4a】図4aは、本発明の蓄電池(負極:黒鉛、正極:酸化リチウムコバルト)充放電曲線(電圧/時間)を示している。
【図4b】図4bは、本発明の蓄電池(負極:黒鉛、正極:酸化リチウムコバルト)充放電曲線(電圧/時間)の、サイクルの一部を抜粋・拡大したものを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「電気化学素子において使用することのできる」という用語は、固体物質状の電気化学的に活性化可能な無機材料は、電極材料または固体電解質に好適なイオン伝導性または電子伝導性材料でなくてはならないことを意味する。
【0013】
本発明によると、マトリックス(A)に埋め込まれている、電気化学的に活性化可能な固体物質(B)の個々の粒子間に充分な電気的接触があるようにするためには、少なくとも一の更なる条件が満足されなければならない。即ち、前記塊が充分な量の電気化学的に活性化可能な固体物質を有していれば、従来技術に見られる伝導性の悪さを克服することができることがわかった。電気化学的に活性化可能な固体物質の体積部分が、理論的な最密充填(最密球充填:theoretischen dichtesten Kugelpackung)の状態の、充填された空間におよそ等しい程度に高ければ、十分な又は非常に良好な伝導性を達成することができる。当然のことながら、電気化学的に活性化可能な固体物質(B)の大きさや外形が明らかに影響を与えるので、最小量は使用される材料に応じて微妙に変わってくる。しかしながら、少なくとも60容量%の固体物質(B)、好ましくは最低量として約65容量%、特に好ましくは最低量として約70容量%の固体物質(B)を使用することが推奨される。上限は特に重要ではなく、主として、マトリックス(A)の性質に応じて決定される。マトリックスが非常によい接着性を有している場合は、ペースト状塊に、90容量%まで、例外的な場合においては95容量%もの固体物質(B)を導入することができる。
【0014】
しかしながら、替りに、または追加的に、第二のイオンおよび/または電子伝導体(または、必要とされる伝導性の型に応じて、均一な、混合した伝導体)(C)を、少なくとも(A)と(B)との間の粒子の境界に薄層として存在するようにして使用することによって、固体物質(B)の粒子間に十分な電気的接触を持たせることが可能である。
【0015】
固体物質(B)が電極材である場合は、請求項1に従った他の条件である変形例(a)又は(b)が満たされなければならない。
【0016】
図面を参照しながら、以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
驚くべきことに、本発明が基礎を置いている請求項1に従った方法によると、充放電中に必ず発生する不可逆のロスを実質的に低減させることが可能である。図4aおよび4bから理解されるように、充放電は対照的であって再現性がよい。
【0018】
適切なマトリックス(A)を使用することによって、塊は、ペースト状の粘度を得る。「ペースト状」という用語は、通常のペースト塗布方法を使用して、その製造の後に塊を処理することができることを意味する。例えば、ブラシ、スパチュラ、レーキを用いたり、あるいは、様々な圧力をかける方法によって、塊を基材に塗布することができる。必要に応じて、塊は、比較的希薄なものから非常に粘度の高いものまで製造することができる。
【0019】
マトリックス(A)には複数の材料を使用することができる。溶媒を含有する系も、溶媒を含有しない系も使用することができる。好適な溶媒を使用しない系としては、例えば、架橋可能な液体またはペースト状の樹脂系を挙げることができる。その例としては、架橋可能な付加重合体または縮重合樹脂がある。例えば、フェノプラスト(ノボラック)またはアミノプラストの予備縮合物を使用することができ、ペースト状の塊が形成された後には、最終的に、電気化学的複合積層体へと重合(架橋)される。追加的な例としては、グラフト共重合によってスチレンに架橋することのできるポリエステル等の不飽和ポリエステル、硬化可能な二官能価反応の反応相手(例えば、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリアミドによって常温硬化される)である二官能価エポキシ樹脂によって架橋されるポリカーボネート、ポリオールによって架橋されるポリイソシアネート、およびやはりスチレンと重合することのできる二元のポリメチルメタクリレートを挙げることができる。ペースト状の塊は、多かれ少なかれ粘度のある、マトリックス(A)用の予備縮合物または架橋されていない重合体から、またはその欠くことのできない成分を用いて、成分(B)と共に形成される。
【0020】
固体物質(B)が電極材でない場合は、重合体または重合体の前駆体を溶媒または有機ポリマー用の膨潤剤と共に用いるという方法もある。原則として、使用することのできる合成重合体または天然重合体に関して制限はない。炭素主鎖を有する重合体を使用することができるのみならず、ポリアミド、ポリエステルまたは多糖類などのように主鎖中に異種のイオンを有する重合体も使用することができる。重合体は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体、またはポリブレンドのいずれであってもよく、制限はない。純粋な炭素主鎖を有する重合体に関しては、例えば、天然ゴムまたは合成ゴムを使用することができる。特に好ましいのは、テフロン(登録商標)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、またはポリビニルクロリド等のフッ化炭化水素重合体である。その理由は、これらを使用すると、ペースト状塊から形成されるフィルムまたは層体が特に優れた撥水性を有するようになることである。これによって、製造された電気化学素子が特に優れた長期安定性を有するようになる。ポリスチレンまたはポリウレタンも使用することができる。共重合体の例としては、テフロン(登録商標)、不定形フッ素重合体、およびポリ(フッ化ビニリデン)/ヘキサフルオロプロピレン(Kynarflexとして市販されている)の共重合体である。主鎖中に異種の原子を有する重合体の例としては、ジアミンジカルボン酸型のポリアミドまたはアミノ酸型のポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルおよびアクリル樹脂を挙げることができる。その他の材料としては、天然および合成多糖類(ホモグリカンおよびヘテログリカン)、プロテオグリカン、例えば、デンプン、セルロース、メチルセルロースなどのプロテオグリカンを挙げることができる。さらに、硫酸コンドロイチン、ヒアルロン酸、キチン、天然および合成ワックス、および他の多くの物質を使用することができる。さらにまた、前記樹脂(予備縮合体)を溶媒や希釈剤に溶解して使用することができる。
【0021】
前記重合体用の溶媒および膨潤剤は、当業者にはよく知られている。
【0022】
マトリックス(A)が溶媒または膨潤剤を含有するかどうかに関わらず、使用される重合体について、可塑剤(および柔軟剤)を存在させることができる。「可塑剤」または「柔軟剤」は、その分子が配位結合によって(ファンデルワールス力)によってプラスチック分子に結合している物質を含むものと理解されるべきである。このようにして、可塑剤等は高分子間の相互作用力を低減し、それ故に、軟化温度とプラスチックの脆性および硬度とを低下させる。可塑剤等は、膨潤剤および溶媒とは異なるものである。可塑剤などは揮発性がより低いので、プラスチックから蒸発させて除去するのは一般に可能ではない。より正確には、適切な溶媒を使用して抽出しなくてはならない。可塑剤を使用することによって、ペースト状塊から製造される層体は、高い機械的可撓性を得ることができる。
【0023】
プラスチック群の各々に適切な柔軟剤は、当業者にはよく知られている。この柔軟剤はそれが使用されるプラスチックと高い相溶性を有していなくてはならない。一般に使用される柔軟剤としては、ジブチルフタレートまたはジオクチルフタレートなどのフタル酸または燐酸の高沸騰エステル(hochsiedende Ester)を挙げることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ブチロールアセトン、エチルメチルスルフォン、ポリエチレングリコール、テトラグリム、1,3-ジオキソラン、またはS,S-ジアルキルジチオカーボネート等も好適である。
【0024】
プラスチックと可塑剤との組合せがマトリックスとして使用された場合は、適切な溶媒を用いてペースト状塊から可塑剤を抽出することができる(請求項の変形例1bが採用される場合は、抽出した方がよい。)。これによって発生した空洞は、引き続いて行われる、多くの層体を結合させる押圧または積層工程によって、電気化学的に活性な、または電気化学的に活性化可能な層体へと塊を転換する間に閉じられる。これによって、充電された充電池の電気化学的安定性が改良される。固体電解質が前記プラスチックマトリックスで使用される場合には、少なくとも10−4S cm−1のイオン伝導性を有しているのが好ましい。
【0025】
後で空洞を圧縮する代わりに、可塑剤を抽出した後に、第二の固体電解質または電極で空洞を満たすこともできる。
【0026】
前記のように、本発明のペースト状塊およびそれから得られる層体は、種々の電気化学素子に適している。当業者は、古典的な電気化学素子に使用するのと同じ固体物質(B)、即ち、プラスチックが添加されていない物質を選択することもできる。
【0027】
以下にリチウム技術蓄電池に使用される固体物質(B)の例を示す。
−下方接触電極 Al、Cu、Pt、Au、C−正極 LiF、LiNiVO、Li[Mn]O、LiCoO LiNiO、LiNi0.5Co0.5O LiNi0.8Co0.2O、VO、LiVO13−電解液(この場合、固体) Li1.3Al0.3Ti1.7(PO) LiTaOSrTiO、LiTi(PO)LiO LiH(PO)LiO、LiSiOLiPO LiX + ROH(ここで、X=Cl, Br, I、LiX1に対してROH4)
−負極 Li、Li4+XTiO12、LiMoO、LiWO、 LiC12、LiC、リチウム合金−上方接触電極 Al、Cu、Mo、W、Ti、V、Cr、Ni。
【0028】
しかしながら、勿論、本発明はリチウム技術蓄電池に限定されず、前記のように、「従来の」技術、即ち、有機ポリマーマトリックスを使用することなく製造される全ての系を含む。
【0029】
以下に、特定の素子または素子部品に好適なペースト状塊について、いくつかの特定の態様を記載する。従来技術ではない、電気化学的に活性な部品用には、これらの物質は「バルク形態」でも、即ち、適切な電気化学素子においてポリマーマトリックスなしでも使用することができることを明らかにしておくべきである。
【0030】
電気化学的に活性な物質を適切に選択することによって、蓄電池の充放電曲線を制御することが可能な充放電特性を有する、蓄電池などの電気化学素子を製造することができる。このように、前記電極材の2種の混合物、または他の適切な電極材の混合物を、正極または負極用の電気化学的に活性な固体物質(B)に使用することができる。この際、正極または負極用で、混合物は異なる酸化還元状態を有する。あるいは、2つの物質の内の1つは炭素で置き換えることができる。これから、充放電曲線の特徴的なセグメント(推移)が形成され、このセグメントによって本発明の塊を使用して製造された蓄電池の充放電状態を有利に検出することができる。充放電曲線は2種の異なる平坦部を有する。放電状態の近くに平坦部があると、それは、使用者がすぐに再充電しなくてはならないことを示している。その逆も同様である。
【0031】
炭素およびリチウムと合金を作ることのできる元素が負極用のペースト状塊に組み入れられると、それ(合金電極またはインターカレーション電極の性質を有するもの)から製造される電極に、電気化学的安定性が向上した特に高い容量を付与する。さらに、容積の拡大が純粋なインターカレーション電極におけるそれよりも小さくて済む。
【0032】
さらに、黒鉛もしくは不定形炭素(カーボンブラック)またはそれらの混合物を、正極または負極用電極材量と共にペースト状の塊に組み入れることができる。電気化学的に活性な成分に対して不定形炭素の重量比が20〜80重量%であると、この点に関して特に有利である。塊が正極用であれば、ペースト状塊から製造される層体の機械的可撓性が向上するので、炭素の潤滑効果は有利な性質である。塊が負極用であれば、前記のように、電気化学的安定性および電子伝導性が改良される。
【0033】
本発明のペースト状塊はインターカレーション電極として他の電極にも使用することができる。この一例としては、アルカリ塩またはアルカリ土類塩と併せて金属粉末を電気化学的に活性可能な固体物質(B)として使用することがあげられる。この組合せによって製造されるペースト状塊は分解電極を製造するのに使用することができる。インターカレーション電極では普通では発生する容積の拡張がこの場合には起こらない。したがって、使用寿命を長期化することができる。この一例としては、銅と硫酸リチウムとの組合せを挙げることができる。
【0034】
電極材(B)が、リチウムと反応しない金属であり、かつリチウム塩を含有している場合には、非常に特定の電極態様を得ることができる。この態様におけるマトリックス(A)は、前記のように、プラスチックと可塑剤との組合せから製造することができ、可塑剤は後でペースト状塊から抽出する。しかしながら、この態様においては、引き続いて行われる電気化学的に活性可能な層体の積層中に、生じた空洞が圧力によって閉じることがない。逆に、空洞があいたままであることが注目される。近接する電解質層におけるリチウム塩と結びつくと、このように形成されている電極は可逆的に空洞中にリチウムを取り込んで拡散させることのできる性質を有している。これは、インターカレーション電極の利点であり、このような電極の不利益(例えば、容積の拡張)を避けることができ、内表面が大きいことによって優れた電気的性質を有している。リチウムと反応しない金属の例としては、ニッケルを挙げることができる。
【0035】
驚くべきことに、電気化学的にどのように応用するかに関わらず、LiSiO・LiPOより構成される相混合物を本発明のペースト状塊に組み入れることによって、それから得られる電極または固体電解液の可塑性を改良することが実証された。このためには、相混合物を非常に細かく粉砕する必要がある。この非常に細かい粒径が内部のスライド効果を改良する理由であるのは間違いなかろう。
【0036】
固体物質(B)が電極材であるか電解質材であるかに関わらず、これは、一種のリチウムイオン伝導体又は一種以上の更なるイオン伝導体(Li、Cu、Ag、Mg、F、Cl、H)から成ることができる。これらの物質でできている電極と電解液層とは、容量、エネルギー密度、並びに機械的および電気化学的安定性等の、特に好ましい電気化学的性質を有している。
【0037】
請求項1(c)によると、本発明のペースト状塊がさらに第二固体イオン、電子および/または混合伝導体(C)を含有する場合は、これらは他の方法でマトリックス中に取り入れることができる。溶媒(マトリックス材(A)も溶解する溶媒等)に溶解するイオン伝導体である場合は、マトリックス材用溶媒にこの第二イオン伝導体を含有させてペースト状塊を製造することができる。続く段階(例えば、塊が溶媒の不存在下でペースト状態をも有する場合は塊の成分を完全に攪拌した後に、あるいは層体またはフィルムを製造した後に)で抽出または蒸発させることができるように、溶媒の蒸気圧は十分に低くなくてはならない。本発明のそのような態様において、可塑剤も存在している場合は、やはり溶媒に可溶で、後に該溶媒を用いて除去することのできる可塑剤を選択することが可能である。本発明のこの態様によると、比較的伝導性に劣る(この性質を持たせることを意図するのであれば、特にイオン伝導性に劣る)伝導体(C)を製造することもできる。
【0038】
請求項1(c)による発明の更なる態様においては、イオン、電子、または混合伝導体(C)は、系のために選択される可塑剤に可溶であるように選定される。この場合、可塑剤は比較的低い蒸気圧を有しているのがよい。可塑剤に溶解している成分(C)がペースト状塊の他の成分と完全に混合している場合は、伝導性成分間に変性粒子境界(modifizierte Korngrenze)が生じることになり、この境界は一定の可塑性を有している。本発明のこの態様においては、電気化学的に活性化可能な固体物質(B)の伝導性は、混合物の唯一の電気化学的に関連する成分を構成する電気化学的に活性化可能な固体物質(B)の伝導性と比べて、明らかに高くない。この態様においては、LiSiO・LiPO、LiSiO・LiSOまたはLiSiO・LiAlO等の第四リチウムイオン伝導体を、高い安定性を以て10-6 S/cmのオーダーの大きさでイオン伝導性を有する成分(B)として使用することができる。高い蒸気圧を有する物質(例えば、可塑剤としてエーテルまたはジメトキシエタン、およびジブチルフタレート)がさらにペースト状塊中に取り入れられれば、粒子境界(Korngrenzen)の可塑性を高めることができる。この場合、溶媒は可塑剤の変性剤として作用する。例えば、マトリックスがPVCもしくはPVDFまたはハロゲン化炭化水素ポリマーを含有していれば、このような態様が可能である。
【0039】
伝導体(C)がイオン伝導体である場合は、吸湿性の塩を使用することが可能である。本発明のこの態様においては、イオン伝導体(C)を無水または低水形でペースト状塊に取り入れる。処理中(または湿気のある環境に引き続いて貯蔵することによって)水分が吸収される。これによって、一定の可塑性を有するこのイオン伝導体の粒子境界(Korngrenze)に帰着する。吸湿性イオン伝導体が結晶性水和物を形成することができる場合は、固定粒子径中の結晶水として拡散水を堆積することによって容積を拡大させることができ、これによって粒子境界の接触性を改善することができる。また、伝導性イオンと周囲の水和物との結合が弱いので、電解液のイオン伝導性も改良することができる(電解液中の陽イオンが極性エンベロープ内をある程度動くことができる。)。このようにして使用することのできる塩の例としてはLiNOを挙げることができる。
【0040】
電気分解(加水分解)されない塩が伝導体(C)に使用されれば、特に固体電解質を製造するのに、例えば、過塩化物、ハロゲン化物(X=Cl、Br、I)、硝酸塩、硫酸塩、硼酸塩、炭酸塩、水酸塩、または四フッ化硼素塩から選択されるリチウム塩が使用されると、それから製造される本発明のペースト状塊および電気化学的に活性化可能な層体は、大気中で都合よく製造することができる。
【0041】
本発明のペースト状塊を前記のように製造するのに使用される成分は、従来の方法で混合することができ、使用成分を激しく攪拌するか混練して製造すると好ましい。成分(B)を添加する前に、必要であれば、有機ポリマーまたはその前駆体を溶媒または膨潤剤中で予備溶解または予備膨潤させる。発明の特に好ましい態様においては、攪拌処理またはその後に塊を超音波処理に付す。この処理によって粒子が破壊されて大きさが小さくなるので、固体物質(B)と、もしあれば、伝導体(C)とがより密度濃く充填される。その結果、ペースト状塊の電気的性質および電気化学的性質が改善される。電極用または電解液用材料も、塊中に取り入れるのに先立って、処理の最初に粒子の大きさを小さくするために、そのような超音波処理に付すことができる。
【0042】
マトリックス(A)中に固体物質(B)を取り入れることで、「従来の」電気化学素子で通常行われていたような、電気化学的に活性可能な物質の粉末が高温で焼結されることが抜け落ちる。このような焼結は、出発材料の、ペースト状の粘度を形成しない。
【0043】
本発明のペースト状塊は、薄層状の電池およびエレクトロクロミック素子などの類似の電気化学素子を製造するのに特に適している。好ましくは、これらはいわゆる「厚膜」技術における素子である。これらの素子の各層体は「テープ」と呼ばれることもある。電気化学的に活性なまたは活性化することのできる各層体は約10μm〜約1から2mmの厚さに製造され、次々と積み重ねられて密に接触させられる。当業者は、用途に応じた適切な厚さを選択するであろう。好ましい範囲は、約50μm〜500μmであり、特に好ましい範囲は約100μmである。しかしながら、本発明によると、前記厚膜に対応する薄膜フィルム素子(この用語は、好ましくは、100 nm〜数μmの厚さを含む)を製造することも可能である。しかしながら、このような素子は容量に関する現状の要件を満たさない場合が多いので、応用が制限される。しかしながら、薄膜フィルム素子を、例えば、バックアップチップとして使用することができると考えられる。
【0044】
したがって、本発明は、さらに、前記ペースト状塊から製造され、自己支持可能な、または基材上に載置することのできる、好ましくは前記厚さの層体を含む。この層体は可撓性を有していると好ましい。
【0045】
自己支持可能な層体(フィルム、テープ)および基材上に載置される層体の両方を製造するのに、従来から公知である、マトリックス用の適切なポリマー材料に使用することのできる方法を採用することができる。次いで、材料に応じて、硬化(樹脂または他の予備縮合物について)によって、プレポリマーまたは直鎖状重合体を架橋することによって、溶媒を蒸発させることによって、あるいは同様の方法で、ペースト状塊を硬化させる。自己支持型のフィルムを得る場合は、適切なペースト状塊を、例えばカレンダー上で適切な厚さに形成することができる。これには標準的な技術を使用することができる。ペースト状の塊を基材に塗布し、硬化後に製造された層体を除去することによって、自己支持型の層体を形成することができる。この方法のための要件は、製造物が十分な可撓性を有していることである。コーティング過程は、従来のペースト塗布方法を用いて行うことができる。例えば、ブラシ、レーキ、スプレー、スピンコーティングなどによって塗布を行うことができる。圧力技術も使用することができる。
【0046】
本発明の好ましい態様においては、架橋可能な樹脂塊(予備縮合体)が、上記のように、ペースト状塊に使用され、層体が形成されたらUVまたは電子放射によって硬化させる。硬化を熱的または化学的に行うこともできることは言うまでもない(例えば、製造された層体を適切な浴に漬けることによって)。必要であれば、架橋用の反応開始剤、促進剤等を塊に添加することができる。
【0047】
本発明は、さらに、電気化学的性質、特に、蓄電池および他の電池、または前記層体の対応する配列によって形成された、もしくはそのような配列を含む電気化学的素子を有する複合積層体に関する。
【0048】
図1は、そのような配列の並び方を示している。符号は以下の通りである。接触電極1、中間テープ2、電極3、電解質4、電極5、中間テープ6、および接触電極7。以下に、より詳しい説明を行う。
【0049】
複合積層体を製造するためには、個々のペースト状塊をペースト塗布法によって、層毎に塗り重ねて行くことができる。各層はそれ自体で架橋することもできるし、溶媒によって緩めるか、他の方法で層状にすることができる。しかしながら、必要な層の全てが塗布されたら、個々のマトリックスを架橋によって、または溶媒もしくは膨潤剤を蒸発させることによって、または類似の方法で硬化させることも可能である。例えば、ポリクロミー(多色印刷法)に類似して行われる圧力法を用いて電気化学的に活性化可能な個々の層を塗布する場合は、後者の方法が好都合である。この例としては、フレクソドゥルック(Flexodruck)技術を挙げることができ、これによって必要な電気化学的に活性化可能な層を有する基材のメーター/セカンドを数多く、連続的に印刷することができる。
【0050】
あるいは、各層またはフィルムを個々に最終硬化状態にすることもできる。これらが自己支持型フィルムである場合は、形成される素子の適切な成分は積層によって組み合わせることができる。ここでは従来の積層技術を使用することができる。従来の積層技術には、例えば、第2の層が圧力ローラーによって担体層に結合される押出コーティング、基材ウェブがペースト状塊に加えて流し込まれる2または3のニップロールを有するカレンダーコーティング、またはダブリング(好ましくは加熱されたローラーによる圧力と反対側からによる圧力とによって結合させる方法)等がある。ペースト状塊用のマトリックスの選択に応じて適切な方法を見出すのに、当業者であれば問題がないはずである。
【0051】
層間の結合を向上する(そして、伝導性を向上させる)のみならず、例えば、前記のように可塑剤を除去した後に製造された個々の層内に存在する空洞を排除するためにも、個々の層を結合させる(積層する)間の圧力処理を行うのが好ましいことが多い。圧力処理は現存の技術を用いて行うことができる。材料をそれで処理することができれば、常温プレス(60℃未満の温度で行う)が有利である。
【0052】
本発明のペースト状塊で製造することのできる電気化学部品には、制限がない。したがって、以下に記載の具体例は例に過ぎず、好ましい態様である。
【0053】
再充電可能な電解電池は、厚層技術を用いて、即ち、厚さ約10μm〜約1,2mm、好ましくは約100μmの電気化学的に活性化可能な個々の層によって、このようにして製造される。この電解電池がリチウム技術によるのであれば、電極層または電解液層用の固体物質は、この目的のために先に記載した物質であればよい。少なくとも3層、即ち、正極として機能する層、固体電解質として機能する層、および陰極として機能する層(図1における層3、4および5)、を有してなるべきである。
【0054】
本発明によると、ある限界条件(限界)が維持される場合に蓄電池において特に有利な電流密度が得られることが実証されている。よく知られていることであるが、電流密度は電解液の抵抗によって調整することができる。電解液の抵抗が高すぎると、長時間のうちには分極によって電極が破壊される。低すぎると、製造された蓄電池の出力では、限られた用途にのみしか使えなくなる。前記限界条件は、好ましくは1 mA/cmである。例えば、電解液の伝導性が10-4 S/cmである場合は、電解液層が約100μmの厚さであると特に都合がよい。1 mA/cmの電流密度は、抵抗によって電圧降下をもたらすが、それは0.1 Vと無視し得る程度である。対照的に、電解液の伝導性が10-5 S/cmである場合は、例えば、電解液層の厚さを約10μmに低減することができる。層厚dを、伝導性σion、イオン抵抗(Ω)および表面Aに関して以下の式を満たすように選択することを推奨する。
【0055】
200Ω<d/(σion・A)
前記3層電池(または、正極/電解液/負極を有する他のあらゆる所望の電解素子)には、さらに参照電極(接触電極:図1における層1および7)を与えることができる。これらが、適当な材料(リチウム技術で使用することのできる参照電極の材料は先に記載した)のフィルムを有していると有用である。
【0056】
本発明の特別の態様においては、本発明のペースト状塊を用いてやはり製造することのできる、更なる薄いプラスチック層(「中間テープ」、図1における層2および6)を、下方参照電極と隣接する電極との間、および上方参照電極と隣接する電極との間に入れることができる。この薄いプラスチック層は、電子を電極材から参照電極に運搬するのに適切な、伝導性のある金属元素またはそのような元素の合金を含有しているとよい。プラスチック層が正極と隣接する参照電極との間にある場合、金属元素または合金の例としては、金、白金、ロジウムおよび炭素またはこれら元素の合金を挙げることができる。負極と隣接する参照電極との間に配置される場合は、適切な元素して、ニッケル、鉄、クロム、チタン、モリブデン、タングステン、バナジウム、マンガン、ニオブ、タンタル、コバルトおよび炭素を挙げることができる。電極および電解液に関する前記の情報は、勿論、これらの積層体を製造するペースト状塊の濃度および構成にも適用される。参照電極および中間テープ(図1も参照されたい)を有する態様は、例えば、前記リチウム技術を用いて製造されると、図3に示されるような充放電曲線を有する。
【0057】
本発明の電気化学的素子は、例えば、プラスチックを基材とする筐体に封入することができる。この場合における重量は、金属筐体の重量よりも軽い方が都合がよい。エネルギー密度の点からも有利である。
【0058】
電気化学複合積層体(電気化学素子)は、ワックスまたはパラフィンで被覆したプラスチックで作られる2つ以上のフィルムの間に埋め込むことができる、これらの材料はシールとして作用し、その固有の性質故に複合積層体に機械的圧力を及ぼして、複合積層体における圧力に由来する接触性を向上させることができる。
【0059】
前記のように、または他の方法で電気化学素子がシールされている間、その内部を、高い電気化学的安定性をもたらす、予め定められた水/酸素部分圧に付すことができる。この処理は、例えば、適切に選択され、調節されたパラメータを有する環境において電気化学素子をシールすることによって行うことができる。
【0060】
多くの態様で起こり得るように、製造の過程で湿気が複合フィルム中に進入すると、長期に亘って望ましくない影響を与える。そこで、シールに先立って真空下で筐体などに挿入し、必要であれば、湿気を除去するために高温に曝すことができる。
【0061】
本発明の特別な態様においては、前記3層系が再充電可能な蓄電池用に選ばれる。これによって、積層体は充電の最中に分解する添加剤を受け入れることができる。この分解製造物は、境界面で、系中に存在している電気化学的に活性化可能な成分(B)または(C)と新しい結合を形成する。前記添加剤を入れることによって、これら分解生成物がイオン伝導体であれば、実際には5層系が得られることになる。一例としてはエーテルの添加を挙げることができ、リチウム技術を用いて製造する場合は、蓄電池の境界面にリチウム有機化合物を形成する。さらに、マトリックス、可塑剤、粘度調製剤、および/または加工中に入り込んで残っている水は、適切な態様では、分解、または部分的に分解される。
【0062】
本発明の別の態様においては、異なる組成を有する2つのフィルムを有する電解質層(それらフィルムは互いに積層されており、各フィルムはさらに各々が接触する電極につながっている)用に一層が選択される。これは、正極と電解液1との間、および負極と電解液2との間にある相境界の安定性にプラスの効果を与える。第一層における電解液材にヨウ化リチウムを使用し、第二層における電解液材にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO)を使用するものを、この態様の具体例として挙げることができる。
【0063】
エレクトロクロミック性を有するガルバノ電池の一例は、以下の配列を有する層の連続である。
【0064】
伝導体1/Y/MeX-アルコレート/WO/伝導体2
この配列において、金属Meは、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムから選択することができ、陰イオンのXは塩化物、臭化物およびヨウ化物などのハロゲン化物から選択することができる。伝導体1は、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛アルミニウム(ZnAlO)および銀から選択することができる。伝導体2は、例えば、酸化インジウム錫(ITO)および酸化亜鉛アルミニウム(ZnAlO)から選択することができる。
【0065】
本発明の一連の電気化学素子用積層体は、いかなる形状にも配置することができる。例えば、可撓性のある複合積層体は巻き上げることができ、圧縮型の蓄電池には特に都合のよい形状である。蓄電池の容積が小さい場合でも、この方法によると非常に大きな活性電池面を与えることができる。図2はそのような態様を示している。ここで、参照符号1〜7は図1における符号と同じものを示し、参照符号8は絶縁層を示している。
【0066】
非自立型の複合積層体も、集積エネルギー貯蔵用に壁等の固体基材に塗布することができる。(自己支持型の複合体フィルムも、勿論、それに塗布ないし固定することができる。)この場合、表面積が広いことを利用することができる。蓄電池それ自体は、空間的要件とは関係がない。この型の一態様の特別な例としては、蓄電池用の複合積層体を太陽電池用基材に一体化することである。独立エネルギー供給ユニットをこのようにして作ることができる。蓄電池用の層配列を固体または可撓性のある基材上に設けて、集積エネルギー貯蔵の電子的構造を作ってもよい。
【実施例】
【0067】
具体的な例を以下に示して、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1)
正極を製造するのに、0.8gのPVCを1.2gのジブチルフタレートおよび8gのアセトンと合わせる。3〜6gのLiMnOと0.5〜0.75gのCとを細かい粉末として添加し、激しく攪拌して成分を緊密に混合する。得られたペースト状の塊を基材に塗布して乾燥する。
【0068】
(実施例2)
0.8〜1gのPVDF-HFP、1.2〜1.5gのジブチルフタレート、および14gのアセトンを緊密に混合して電解質層を製造する。2.5〜4gのLiAlSiOおよび0.35〜0.5gのLiIを細かい粉末として添加し、激しく攪拌して成分を緊密(完全)に混合する。この後の処理は実施例1と同様にして行う。
【0069】
(実施例3)
負極を製造するのに、1gのポリスチレンを1.5〜1.8gのジオクチルフタレートおよび15gのアセトンと合わせる。少し経ってから、5gの黒鉛を添加し、緊密(完全)に混合するためにしばらくの間激しく攪拌する。この後の処理は実施例1と同様にして行う。
【0070】
(実施例4)
実施例1に関し、1.2gのジブチルフタレートの代わりに0.3gのエチレンカーボネートを使用する。また、この実施例で、エチレンカーボネートの量を0.6gまで増やしたものも製造することができる。
【0071】
(実施例5)
実施例2に関し、ジブチルフタレートの代わりに、0.25〜0.4gのエチレンカーボネートと0.05〜0.2gのLiIとを使用する。
【0072】
(実施例6)
実施例3に関し、ジオクチルフタレートの代わりに、0.5gのエチレンカーボネートを使用する。
【0073】
(実施例7)
アノードを製造するのに、1.5gのPVDF-HFPを0.6gのエチレンカーボネートおよび40gのアセトンと合わせる。6gの黒鉛を細かい粉末として添加し、激しく攪拌して成分を緊密(完全)に混合する。得られたペースト状の塊を基材に塗布して乾燥する。現在行われている方法、例えば、好ましくは60〜90℃の真空乾燥室(約10-2 mbar)で、アセトンとエチレンカーボネートとを引き続いて除去する。
【0074】
(実施例8)
実施例7に関して、2.8gまでのアセチレンブラックをさらに混合物に添加する。
【0075】
(実施例9)
12gのPVDF-HFP、3.6gのエチレンカーボネートおよび90gのアセトンを緊密(完全)に混合して電解質層を製造する。36gのLiAlSiO(spodumene)を細かい粉末として添加し、激しく攪拌して成分を緊密(完全)に混合した。得られたペースト状の塊を基材に塗布して乾燥する。この後の処理は実施例1と同様にして行う。
【0076】
(実施例10)
カソードを製造するのに、2gのPVDF-HFP、0.8gのエチレンカーボネートおよび40gのアセトンを混合する。少し経ってから、8gのLiCoOおよび1.2gのアセチレンブラックを添加し、混合物をしばらくの間激しく攪拌する。この後の処理は実施例1と同様にして行う。
【0077】
(実施例11−13)
実施例1〜3の薄片材料は、適当な温度で成分を混合することによって、溶媒および柔軟剤を排除しても製造することができる。加熱することによってペースト状となった塊を、現在行われている熱延伸および加圧法を用いて処理する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 有機重合体、その前駆体またはその予備重合体の少なくとも一種を含有する、またはこれらから構成されるマトリックスと
(B) 前記マトリックス中で可溶ではなく、固体物質の形状である、電気化学的に活性化可能な無機材料と
を有する不均一な混合物を含む電気化学素子に使用することのできるペースト状塊であって、
(a) 前記塊は、少なくとも60容量%の(B)を有し、(B)が電極材である場合は、前記有機重合体、その前駆体またはその予備重合体のための溶媒または膨潤剤による補助なく(B)が前記マトリックス(A)中に組み入まれ、並びに/または
(b) 前記塊は、少なくとも約60容量%の(B)を有し、(B)が電極材である場合は、前記塊は、前記有機重合体用の可塑剤をさらに含有するマトリックス(A)中に(B)を組み入れ、適切な溶媒を用いて前記可塑剤を続いて除去することによって製造され、並びに/または
(c) 前記混合物が、さらに
(C) (B)とは異なる、固体イオン伝導体および/または混合物伝導体を有し、これが薄層として(A)と(B)との間の粒子境界に少なくとも存在し、及び
ペースト状塊がリチウム含有ゼオライトおよび電子伝導性またはイオン伝導性の有機ポリマーを含有しないことを特徴とする、電気化学素子に使用することのできるペースト状塊。
【請求項2】
前記マトリックス(A)がさらに可塑剤を含有することを特徴とする請求項1(a)または1(c)に記載のペースト状塊。
【請求項3】
前記イオン伝導体(C)が前記マトリックス(A)用可塑剤に可溶であることを特徴とする請求項2に記載のペースト状塊。
【請求項4】
前記マトリックス(A)が、前記有機重合体、その前駆体またはその予備重合体用の溶媒または膨潤剤をさらに含有することを特徴とする請求項1(b)または1(c)に記載のペースト状塊。
【請求項5】
前記伝導体(C)が前記溶媒または膨潤剤に可溶であることを特徴とする請求項4に記載のペースト状塊。
【請求項6】
前記伝導体(C)が、吸湿性があって結晶水として取り入れられた水分と結合することができる化合物から選択されるか、または電気分解に反応しない一種以上のリチウム塩から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項7】
前記マトリックス(A)が架橋可能な液体または柔軟な樹脂であるか、前記マトリックス(A)が架橋可能な液体または柔軟な樹脂を含有することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項8】
前記樹脂が、架橋可能な付加重合体および縮合樹脂から選択され、特に、アミノプラスト、フェノプラスト、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリカルバメート、およびメチルメタクリレート反応樹脂から選択されることを特徴とする請求項7に記載のペースト状塊。
【請求項9】
前記マトリックス(A)の前記有機ポリマーが、天然ポリマー、合成ポリマー、およびそれらの混合物から選択され、特に、天然および合成多糖、天然および合成蛋白、天然および合成ワックス、並びにハロゲン化および非ハロゲン化ゴム、ハロゲン化および非ハロゲン化サーモプラスト、並びにハロゲン化および非ハロゲン化サーモエラストマーから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項10】
前記マトリックス(A)が、溶媒または膨潤剤中に少なくとも部分的に溶解または膨潤する有機ポリマーを少なくとも一種含有し、該有機ポリマーが合成ポリマー、天然ポリマーおよびそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項11】
前記電気化学的に活性化可能な材料(B)が、正極材に適した物質、負極材に適した物質、固体電解液に適した物質、電気化学的に活性な電極材に適した物質、または電気化学素子中で近接させて配置される2種の物質ないし材料の間に配されるイオン中間伝導体もしくは電子中間伝導体に適した物質から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項12】
(B)が電極材であり、前記塊が(D)カーボンブラックおよび/または黒鉛を、好ましくは前記固体物質(B)に対して20〜80重量%の割合で含有することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項13】
(B)が電極材であり、前記塊がさらに(D)、アルカリ塩、またはアルカリ土類塩を含有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項14】
(B)がアルカリ塩またはアルカリ土類塩と結合した金属粉末であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項15】
(B)がリチウムと反応しない金属であり、(D)がさらにリチウム塩を含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のペースト状塊。
【請求項16】
(A) 請求項1〜15のいずれかに記載の有機ポリマーの少なくとも一種を含有する、または有するマトリックスと
(B) 請求項1〜15のいずれかに記載の、前記マトリックス中で可溶ではなく、固体物質の形状である、電気化学的に活性化可能な無機材料と
を有する不均一な混合物を含む自己支持層体または基材上に載置された層体であって、
(a) 製造される混合物が少なくとも60容量%の(B)を有し、(B)が電極材である場合は、前記有機重合体、その前駆体またはその予備重合体のための溶媒または膨潤剤による補助なく(B)が前記マトリックス(A)中に組み入まれ、並びに/または
(b) 製造される混合物が少なくとも約60容量%の(B)を有し、(B)が電極材である場合は、前記有機重合体用の可塑剤をさらに含有するマトリックス(A)中に(B)を組み入れ、適切な溶媒を用いて前記可塑剤を続いて除去することによって前記塊が製され、並びに/または
(c) 製造される混合物が、さらに
(C) 請求項1〜15のいずれかに記載の、(B)とは異なる、固体イオン伝導体および/もしくは混合物伝導体を有し、これが薄層として(A)と(B)との間の粒子境界に少なくとも存在し、及び
自己支持層体または基材上に載置された層体がリチウム含有ゼオライトおよび電子伝導性またはイオン伝導性の有機ポリマーを全く含有しないことを特徴とする、自己支持層体または基材上に載置された層体。
【請求項17】
前記層体が可撓性を有する層体であることを特徴とする、請求項16に記載の自己支持層体または基材上に載置された層体。
【請求項18】
前記電気化学的に活性化可能な材料が固体電解液であって、前記層体が200Ω<d/(σion・A)を満たす厚さ(d)を有することを特徴とする、請求項16または17に記載の自己支持層体または基材上に載置された層体。
【請求項19】
(1) 請求項16〜18のいずれかに記載され、前記電気化学的に活性化可能な無機材料(B)が正極用の材料に適した物質から選択される層、および/または
(2) 請求項16〜18のいずれかに記載され、前記電気化学的に活性化可能な無機材料(B)が固体電解液性を有する物質から選択される層、および/または
(3) 請求項16〜18のいずれかに記載され、前記電気化学的に活性化可能な無機材料(B)が負極用の材料に適した物質から選択される層
を有する電気化学的性質を有する複合積層体。
【請求項20】
正極材を有する層に下方接触電極として動作する層がさらに積層され、負極材を有する層に上方接触電極として動作する層がさらに積層されることを特徴とする、請求項19に記載の電気化学的性質を有する複合積層体。
【請求項21】
下方接触電極として動作する前記層と正極材を有する前記層との間、および/または、上方接触電極として動作する前記層と負極材を有する前記層との間に、前記電極材から前記接触電極へと電子を運搬するのに適した伝導性のある金属元素またはそれらの合金を含有する薄いプラスチック層をさらに存在させてなる、請求項20に記載の電気化学的性質を有する複合積層体。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれかに記載の電気化学的性質を有する複合積層体を有する、厚層技術における再充電可能な電解電池。
【請求項23】
前記複合積層体がきつく巻回された複数の層を有してなることを特徴とする、請求項22に記載の再充電可能な電解電池。
【請求項24】
前記有機ポリマー、その前駆体またはそのプレポリマーが、前記ポリマー、その前駆体またはそのプレポリマー用の溶媒または膨潤剤と、電極材ではない電気化学的に活性化可能な材料(B)と併用されて完全に混合されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載のペースト状塊の製造方法。
【請求項25】
架橋可能なプレポリマーを電気化学的に活性化可能な材料(B)と合わせて完全に混合することを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載のペースト状塊の製造方法。
【請求項26】
前記有機ポリマー、その前駆体またはそのプレポリマーを可塑剤および電気化学的に活性化可能な材料(B)と合わせて完全に混合し、引き続いて溶媒を添加して前記可塑剤を多量に溶解させ、該溶媒に溶解した可塑剤を前記塊から洗浄して、溶媒を塊から完全に除去することを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載のペースト状塊の製造方法。
【請求項27】
得られた前記ペースト状塊を超音波処理に付すことを特徴とする、請求項24〜26に記載の方法。
【請求項28】
前記ペースト状塊に使用されるのは、そのマトリックス(A)が架橋可能な重合体またはプレポリマーである塊であって、該ペースト状塊から製造される層体が、光化学的、電子線照射もしくは加熱、または該層体を化学的架橋剤に浸漬することによって、ポリマー成分の架橋がなされることを特徴とする、請求項16〜18のいずれかに記載の自己支持層体または基材上に載置された層体の製造方法。
【請求項29】
前記マトリックス(A)が樹脂を含有し、形成された層体がUVまたは電子照射によって硬化されることを特徴とする、請求項28に記載の自己支持層体または基材上に載置された層体の製造方法。
【請求項30】
各層用のペースト状塊が、ペースト塗布方法、好ましくは圧力法を用いて基材上に塗布され、得られた層が最終的に硬化一体化した状態になることを特徴とする請求項19〜21のいずれかに記載の複合積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公開番号】特開2013−65560(P2013−65560A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227674(P2012−227674)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【分割の表示】特願2000−568135(P2000−568135)の分割
【原出願日】平成11年8月27日(1999.8.27)
【出願人】(501162683)フラオンホッファー−ゲゼルシャフト ツーァ フェルデルング デーァ アンゲヴァンテン フォルシュング エー.ファオ. (1)
【Fターム(参考)】