説明

電気油圧式のブレーキ装置を監視するための方法

高圧アキュムレータを備えたブレーキ装置において、同時にペダル操作のない静止状態でのアクティブな圧力形成により整備作業を行なう人員が負傷する危険(挟込みの危険)を排除するために、
−高圧アキュムレータの充填工程に付設された、電子制御及びコントロールユニット(16)によって実施すべき電子コントロールの作動解除をする方法ステップと、
−車軸に付設された分離弁(11)を閉鎖する方法ステップと、
−ホイールブレーキ(7,8)に導入される油圧並びに圧力媒体の移動を示す値(p,ΔV)を同時に決定する際に車軸のホイールブレーキ(7,8)に圧力媒体容積を移動させるために車軸に付設された吸入弁(17,18)を開放する方法ステップと、
−ホイールブレーキ(7,8)の状態を判断するための値を評価する方法ステップと
を有する方法が提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1の上位概念に記載の電気油圧式のブレーキ装置を監視するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなブレーキ装置は、例えば特許文献1から公知である。この様式の電気油圧式のブレーキシステムの場合、特に車両の静止状態での自己診断及びシステム較正の枠内で、運転者がブレーキペダルを操作することなく、アクティブにホイールブレーキ圧を調整するという必要がある。このための例は、走行開始前にブレーキシステムを作動させる場合(例えば、集中ロックシステム又はドアコンタクトの遠隔操作毎のウェークアップ)に行なわれるいわゆる走行前点検、又はイグニションをオフにした後に実行されるクレンジング及び較正ルーチンである。
【0003】
ペダル操作のない静止状態でのアクティブな圧力形成は、ブレーキ装置の整備作業が同時に行なわれる場合(挟込みの危険)には、危険の可能性を意味する。これは、確かに、法律上の観点(製造物責任)から、例えば車両マニュアル及びサービス説明書における警告事項によってカバーすることができるが、サービス工場のメカニックの重大な負傷を少なくとも排除するためには、システムが自己知能を有することが望ましい。
【特許文献1】国際公開第99/41125号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、負傷の危険を排除する、適切な前記ブレーキシステムを監視するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明によれば、この方法が、
−高圧アキュムレータの充填工程に付設された、電子制御及びコントロールユニットによって実施すべき電子コントロールの作動解除をする方法ステップと、
−車軸に付設された分離弁を閉鎖する方法ステップと、
−ホイールブレーキに導入される油圧並びに圧力媒体容積の移動を示す値を同時に決定する際に車軸のホイールブレーキに圧力媒体容積を移動させるために車軸に付設された吸入弁を開放する方法ステップと、
−ホイールブレーキの状態を判断するための値を評価する方法ステップと
を有することによって解決される。
【0006】
本発明による方法の有利な特徴によれば、ホイールブレーキの前に接続された吸入弁が部分的に開放され、高圧アキュムレータ内に含まれた圧力媒体容積の減少が、ホイールブレーキへと圧力媒体容積を移動するための尺度として考慮されることによって、ホイールブレーキへの圧力媒体容積の移動が、高圧アキュムレータが充填された際に行なわれる。
【0007】
本発明による方法の選択的な実施例では、高圧アキュムレータが放出された場合のホイールブレーキへの圧力媒体容積の移動が、ポンプを制御することによって行なわれ、その際、ホイールブレーキの前に接続された吸入弁が完全に開放され、ホイールブレーキへの圧力媒体容積の移動のための尺度が、ポンプ容積流を数値積分することによって構成される。
【0008】
本発明による方法の別の有利な特徴は、油圧並びに圧力媒体容積の移動を示す値が、予め確定された閾値と比較され、比較の結果が、時間的な圧力/容積の相関に支配される点にある。
【0009】
本発明による方法の他の有利な発展構成では、圧力媒体容積の移動のための尺度が容積に対応する閾値に達しないで、ホイールブレーキに導入される油圧が予め確定された閾値を越えた場合、ホイールブレーキの摩擦要素がこの摩擦要素に対応する摩擦面に当接した状態が推断される。
【0010】
別の有利な発展構成では、圧力媒体容積の移動の尺度が(容積の)閾値を超え、ホイールブレーキに導入された油圧が(圧力の)閾値に達しない場合、ホイールブレーキの整備作業時に整備員への危険を示す、ホイールブレーキ内に存在するピストンの許容されない移動行程が推断される。
【0011】
最後に、本発明による方法の他の有利な特徴によれば、ピストンの許容されない移動行程を検知した場合、光学的又は聴覚的な警告が行なわれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
添付図に関連した実施例の後続の説明で本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1概略的にしか図示されてないブレーキ装置は、本質的に、ブレーキペダル1によって操作可能な2系統のタンデム構成の油圧発生装置もしくはマスタブレーキシリンダ2と、タンデムマスタシリンダ2と協働するストロークシミュレータ3と、タンデムマスタシリンダ2に付設された圧力媒体リザーブタンク4と、油圧源と、特に圧力コントロール工程に必要な全ての構成要素を含み、かつ例えば自動車のリヤアクスルに付設されたホイールブレーキ7,8に接続されている、概略的にしか図示されてない制御ユニットHCU6と、電子制御及びコントロールユニットECU16とから成る。車輪の回転数を決定するために、単に図示したホイールセンサ24,25が使用される。それ自身公知のタンデムマスタシリンダ2は、2つのピストン9,10によって制限された、互いに分離された圧力室14,15を備え、これらの圧力室は、圧力媒体リザーブタンク4とも、HCU16を介して車両ブレーキ7,8,−,−とも接続可能である。フロントアクスルに付設されたホイールブレーキに接続されている他のブレーキ回路は、図示されてない。前に述べた圧力源は、モータポンプユニット20のポンプ23によって充填される高圧アキュムレータ21によって構成される。ポンプ23は、電動モータ22によって駆動され、その際、ポンプ23の吐出圧は、ポンプ23に平行に接続された圧力制限弁26によって制限される。高圧アキュムレータ21によって準備された油圧は、圧力センサ35によって監視される。
【0014】
更に図1から分かるように、ホイールブレーキ7,8は、配管5によって第1の圧力室14に接続されており、この第1の圧力室内に分離弁11が挿入されており、この分離弁は、無通電開放式の(SO−)2方2位置弁として構成されており、第1の圧力室14の遮断を可能にする。第2の油圧ライン34は、ポンプ23の圧力側もしくは高圧アキュムレータ21を、ホイールブレーキ7,8の前に接続されている2つの電磁操作可能なアナログでコントロール可能な、好ましくは無通電閉鎖式の(SG−)2方2位置弁もしくは吸入弁17,18の入口接続部と接続する。別の対の同様に電磁操作可能なアナログでコントロール可能な、好ましくは無通電閉鎖式の(SG−)2方2位置弁もしくは排出弁27,28は、ホイールブレーキ7,8の圧力媒体リザーブタンク4との接続を可能にするのに対し、電磁操作可能な、好ましくは無通電開放式の(SO−)圧力補償弁13は、ホイールブレーキ7,8に導入された圧力のホイール別のコントロールを可能にする。
【0015】
加えて、ホイールブレーキ7,8には圧力センサ30,31が付設されており、これらの圧力センサによって、ホイールブレーキ7,8内を支配する油圧が決定される。前に述べた電子コントロール及び制御ユニットECU16−これに、圧力センサ19,30,31,35、ホイール回転数センサ24,25、並びにマスタブレーキシリンダ2に付設されている好ましくは重複させて構成したブレーキ要求検出装置33の出力信号が供給される−は、モータポンプユニット20並びに前に述べた弁11,13,17,18,27,28を制御するために使用される。
【0016】
既に前に述べたように、本発明の基本思想は、アクティブな圧力形成の前に、ホイールブレーキピストンの許容されない移動行程を検出することにある。極端に大きくずれたホイールブレーキピストンが、ブレーキ装置の整備作業のためのインジケータとなる。この場合、このように極端なブレーキピストンの位置が生じた場合にのみ、ホイールブレーキの作業をする人の指がブレーキライニングとブレーキディスクの間に存在することが可能である。図2に示されたフローチャートから、本発明による方法を実施する際に、高圧アキュムレータ21の充填工程(方法ステップ100)が作動解除され、その後、第2の方法ステップ101で、高圧アキュムレータ21の圧力媒体容積VS,startが決定される。その後、第3の方法ステップ(102)で、高圧アキュムレータ21が充填されているか、放出されているかが確定される。高圧アキュムレータ21が充填された場合、方法ステップ103でホイールブレーキ7,8の前に接続された吸入弁17,18を部分的に開放することによるホイールブレーキ7,8への圧力媒体の移動が行なわれる。この場合、高圧アキュムレータ21内に含まれている圧力媒体容積の減少は、ホイールブレーキ7,8への圧力媒体の移動のための尺度として使用される。
【0017】
これに対し、高圧アキュムレータが放出された場合、圧力媒体容積移動は、ポンプ23を制御し、ホイールブレーキ7,8の前に接続された吸入弁17,18を完全に開放することによって行なわれる(方法ステップ104)。この場合、圧力媒体容積のための尺度は、ポンプ容積流の数値積分によって得られる。
【0018】
このプロシージャの場合、ホイールブレーキ7,8内の圧力pが上昇するのに対し、圧力媒体容積の移動の尺度が増加する。方法ステップ105で、これらの信号は、予め確定された閾値pRmin,ΔVS,maxと比較され、時間的な相関に支配される。フローチャートから認められるように、高圧アキュムレータ21からの圧力媒体容積の移動が行なわれる場合のための図3及び4に図示されている、この比較の2つの結果が考えられる:
1.高圧アキュムレータ21内に含まれた圧力媒体容積の減少が、(容積減少の)閾値ΔVS,maxに達することなく、ホイールブレーキ7,8に導入された油圧が、時点t1(図3)で予め確定された閾値(pRmin)を越えた場合、ホイールブレーキ7,8の摩擦要素がこの摩擦要素に対応する摩擦面に当接した状態が推断される。この場合、危険のないホイールブレーキ7,8に導入された油圧のアクティブな形成を実施することができる(図2の方法ステップ106参照)。
2.これに対して、ホイールブレーキ7,8に導入された油圧が(圧力の)閾値pRminに達することなく、高圧アキュムレータ21内に含まれた圧力媒体容積の減少が、時点t2(図4)で(容積降下の)閾値ΔVS,maxの下に下がった場合、ホイールブレーキ7,8内に存在するピストンの許容されない移動行程が推断される。この場合、ピストンが極端な位置にあるので、ホイールブレーキの整備作業を実施するサービス工場のメカニックに負傷の危険がある。この場合、ホイールブレーキ7,8に導入された油圧のアクティブな形成は実施されず(図2の方法ステップ107参照)、後の時点で(次のシステムスタート時)回復される。
【0019】
容積の閾値VS,maxの確定は、容積減少を決定するための既存のセンサの精度が与えられている場合に確実な検知が保証されるように行なわれる。他方で、この閾値によって、極端な位置を検知するまでのホイールブレーキピストンの最大の移動行程が定義される。
【0020】
システム特性を最適化するための較正ルーチン又はシステムの強靭さのために使用されるクレンジングプロセスが、極端なブレーキピストン位置を検知した場合に、重大な機能の損失を生じることなく後の時点にずらすことができるのに対し、いわゆるプレドライブチェックのために以下の問題が提起される:
プレドライブチェックによって検知されるべきリーク又は大量のブレーキ装置内の空気もしくはガス量の存在のような故障状態は、前記信号に関して、極端なブレーキピストンのように正確に現れる。従って、プレドライブチェックの前に極端なブレーキピストンの位置が検知された場合には、先ずシステムの故障から出発して、運転者への警告(例えば警告ランプ等により)を発することが有効であり得る。次いで運転者がブレーキングを始めた場合にブレーキ装置が万全であることが示された場合には、警告を解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるを実施することができる電気油圧式のブレーキ装置の概略図を示す。
【図2】本発明による方法の経過を図示するフローチャートを示す。
【図3】本発明による方法の間に実施すべき第1の圧力/容積の相関を示す。
【図4】本発明による方法の間に実施すべき第2の圧力/容積の相関を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(1)によって操作可能なマスタブレーキシリンダ(2)と、ブレーキペダル(1)と協働するシミュレータ(3)と、電子制御及びコントロールユニット(16)によって制御可能な圧力源とを有し、圧力源が、ポンプ(23)によって充填可能な高圧アキュムレータ(21)によって構成され、かつその圧力を車両のホイールブレーキ(7,8)に作用可能であり、ホイールブレーキが、分離弁(11)によって遮断可能な少なくとも1つの油圧接続部(5)を介して他方でマスタブレーキシリンダ(2)と接続可能であり、更に運転者の減速要求を検知するための装置(33)と、ホイールブレーキ(7,8)の前に接続されたそれぞれ1つの吸入弁(17,18)と排出弁(27,28)とを有する、自動車の電気油圧式のブレーキ装置を監視するための方法において、
この方法が、
−高圧アキュムレータの充填工程に付設された、電子制御及びコントロールユニット(16)によって実施すべき電子コントロールの作動解除をする方法ステップと、
−車軸に付設された分離弁(11)を閉鎖する方法ステップと、
−ホイールブレーキ(7,8)に導入される油圧並びに圧力媒体の移動を示す値(p,ΔV)を同時に決定する際に車軸のホイールブレーキ(7,8)に圧力媒体容積を移動させるために車軸に付設された吸入弁(17,18)を開放する方法ステップと、
−ホイールブレーキ(7,8)の状態を判断するための値を評価する方法ステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
高圧アキュムレータ(21)が充填された場合の圧力媒体の移動が、吸入弁(17,18)を部分的に開放することによって行なわれること、圧力媒体の移動のための尺度として、高圧アキュムレータ(21)内に含まれた圧力媒体容積の減少が考慮されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高圧アキュムレータが放出された場合のホイールブレーキへの圧力媒体の移動が、ポンプを制御すること及び吸入弁(17,18)を完全に開放することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
圧力媒体の移動が、電子制御ユニット内でポンプ容積流を数値積分することによって近似されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
油圧並びに圧力媒体容積の移動を示す値(p,ΔV)が、予め確定された閾値(pRmin,ΔVS,max)と比較され、比較の結果が、時間的な圧力/容積の相関に支配されることを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
圧力媒体の移動のための尺度が閾値(ΔVS,max)に達しないで、ホイールブレーキ(7,8)に導入される油圧が予め確定された閾値(pRmin)を越えた場合、ホイールブレーキ(7,8)の摩擦要素がこの摩擦要素に対応する摩擦面に当接している状態が推断されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
圧力媒体の移動のための尺度が(容積の)閾値(ΔVS,max)を超え、ホイールブレーキ(7,8)に導入された油圧が(圧力の)閾値(pRmin)に達しない場合、ホイールブレーキの整備作業時に整備員への危険を示す、ホイールブレーキ(7,8)内に存在するピストンの許容されない移動行程が推断されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ピストンの許容されない移動行程を検知した場合、光学的又は聴覚的な警告が行なわれることを特徴とする請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−513409(P2009−513409A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518225(P2006−518225)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051410
【国際公開番号】WO2005/005213
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】