説明

電気自動車の電源制御装置

【課題】バッテリの劣化を防ぎつつ、効率よく電動機を使用することのできる電気自動車の電源制御装置を提供すること。
【解決手段】車両1を駆動する電動機6の電源としてバッテリ18及びキャパシタ20を備えた電気自動車において、バッテリ18の状態が過負荷状態となったときには(S2)、当該バッテリ18における充放電を制限し(S4)、この制限により生じる不足電力または余剰電力を(S5)、キャパシタ20に分配する(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の電源制御装置に係り、詳しくは電動機(モータ)を駆動源とし、当該電動機の電源としてバッテリ及びキャパシタを備えた電気自動車の電源分配制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の駆動源としてエンジンとともに電動機を備えたハイブリッド電気自動車(HEV)や、電動機のみを駆動源とする電気自動車(EV)等がある。そして、当該電動機の電源としては主にバッテリを用いているが、キャパシタを用いることも可能である。
一般に当該電動機の電源には、大充電容量と軽量・小体積の両立、すなわちエネルギー密度の高さと、様々な加速・減速パターンに対応可能な充放電特性が同時に求められる。バッテリはエネルギー密度の点に於いて良好な特性を持つが、充放電時に発熱を伴う。そのため条件によっては、自己の発熱に対する保護回路による電力的な出力制限を加える必要が生じたり、あるいはバッテリ自体の劣化を生じるという特性も併せて持つ。そのような影響は、例えば大電流の充放電や、あるいは継続的な繰り返しの充放電により引き起こされる。一方で、キャパシタは大電流の充放電や繰り返しの充放電に適しており、良好な充放電特性を持つ。反面、エネルギー密度の面に於いてバッテリには及ばず、結果として当該電気自動車に搭載可能な充電容量はバッテリに比較して小さくなる。
【0003】
このような両者の特性に着目して、大電流の発生する制動時にはキャパシタへの充電を行い、急速充電を回避すべくバッテリへの充電は非制動時に行う技術がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−202189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、運転者のアクセル操作及びブレーキ操作に応じてバッテリとキャパシタとの切り換えを行っており、アクセル操作がなくブレーキ操作が行われた制動時にキャパシタへの充電を行っている。
しかしながら、例えば高速道路走行等でブレーキ操作がなく、アクセルのON、OFF操作のみで運転が継続的に行われる場合、上記特許文献1では、バッテリにのみ負荷がかかる。さらに上記特許文献1を、アクセルOFF操作にて強力な減速駆動力を発生する設定の車両(例えば大型商用車)に適用し、さらに上記の例に示す運転条件を想定した場合、その車両特性と制御特性の結果、バッテリに大きな負荷が加わることになる。このように、バッテリに長期間あるいは強力な負荷がかかるとバッテリの温度が上昇し、バッテリ保護回路による電力的な出力制限を余儀なくされ、結果、期待される電動機駆動力の発生が不能となる、あるいはバッテリそのものの劣化が促進されるという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、バッテリの劣化を防ぎつつ、効率よく電動機を使用することのできる電気自動車の電源制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1の電気自動車の電源制御装置では、車両を駆動する電動機の電源としてバッテリ及びキャパシタを備えた電気自動車の電源制御装置であって、前記バッテリ及びキャパシタとの間で、前記電動機への供給電力及び前記電動機からの充電電力を分配する電源分配手段と、前記バッテリの状態を検出する前記バッテリ状態検出手段と、前記バッテリ状態検出手段により検出されたバッテリ状態が過負荷状態を示す所定の状態にある場合に、前記バッテリにおける充放電を制限するバッテリ充放電制限手段と、前記バッテリ充放電制限手段により前記バッテリに対する充放電が制限されている場合に、前記電源分配手段により、前記バッテリへの充放電の制限により生じる前記電動機への供給不足電力または前記電動機からの余剰充電電力を前記キャパシタに分配する電源分配制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項2の電気自動車の電源制御装置では、請求項1において、前記バッテリ状態検出手段は、前記バッテリの温度に基づきバッテリ状態を検出するものであり、前記バッテリ充放電制限手段は、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの温度が所定温度以上である場合に過負荷状態と判断して、前記バッテリにおける充放電を制限することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記手段を用いる本発明の請求項1の電気自動車の電源制御装置によれば、車両を駆動する電動機の電源としてバッテリ及びキャパシタを備えた電気自動車において、バッテリの状態が過負荷状態となったときには、当該バッテリにおける充放電を制限し、この制限により生じる供給不足電力または余剰充電電力をキャパシタに分配する。
【0010】
このように、バッテリの充放電制限中に、当該制限分をキャパシタが補助的に負担することで、バッテリの劣化を防ぎつつも、電動機への電力供給を維持することができ、且つ充電時においては充電電力を無駄なく回収することができ、効率よく電動機を使用することができる。
請求項2の電気自動車の電源制御装置によれば、バッテリの劣化に影響するバッテリ温度に基づきバッテリ状態を検出することで、容易且つ正確にバッテリ状態を検出できる。そして、このようなバッテリ温度に基づきバッテリの制限を行うことで、適切にバッテリの制限を行うことができ、より確実にバッテリの劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る電気自動車の電源制御装置の一実施形態における全体構成を示した概略構成図である。
【図2】本発明に係る電気自動車の電源制御装置の一実施形態における車両ECUが実行する制御ルーチンを表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係る電気自動車の電源制御装置の概略構成図が示されている。
図1に示す車両1はパラレル式ハイブリッド型電気自動車であり、ディーゼルエンジン(以下、エンジンという)2の出力軸にクラッチ4の入力軸が連結されており、クラッチ4の出力軸には例えば永久磁石式同期電動機のように発電も可能な電動機6の回転軸を介して変速機8の入力軸が連結されている。また、変速機8の出力軸はプロペラシャフト10、差動装置12及び駆動軸14を介して左右の駆動輪16に接続されている。
【0013】
なお、エンジン2は、一般的に自動車に用いられる原動機であり、ディーゼルエンジン以外のガソリンエンジンなどでも良く、ここでは特にその種類を問わない。
当該構成の車両1は、クラッチ4が接続されているときには、エンジン2の出力軸と電動機6の回転軸の両方が変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続され、クラッチ4が切断されているときには電動機6の回転軸のみが変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続される。
【0014】
また、車両1には、電動機6の電源としてバッテリ18及びキャパシタ20が搭載されている。当該バッテリ18は例えばリチウムイオン、ニッケル水素等の二次電池であり、キャパシタ20は電気二重層キャパシタである。
これらバッテリ18及びキャパシタ20は電源分配部22(電源分配手段、バッテリ充放電制限手段)と電気的に接続されており、当該電源分配部22はインバータ24を介して電動機6と電気的に接続されている。
【0015】
当該電源分配部22は、バッテリ18とキャパシタ20との間で、電動機6への供給電力、及び電動機6からの充電電力を分配するものである。
車両加速時等で電動機6による駆動を行うべく当該電動機6へ電力を供給する際、バッテリ18及びキャパシタ20は電源分配部22により分配された割合でそれぞれ直流電力を放電し、インバータ24により交流電力に変換されて電動機6に供給される。電動機6は、電力が供給されることによりモータとして作動し、その駆動力が変速機8によって適切な速度に変速された後に駆動輪16に伝達されるよう構成されている。
【0016】
また、車両減速時には電動機6が発電機(ジェネレータ)として機能し、駆動輪16から逆に伝達される駆動力により電動機6が交流電力を発電するとともに、このとき電動機6が発生する回生トルクにより駆動輪16に減速抵抗が付与される。そして、この交流電力はインバータ24によって直流電力に変換された後、電源分配部22において分配された分配割合でバッテリ18及びキャパシタ20に充電され、駆動輪16の回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。
【0017】
一方、エンジン2の駆動力は、クラッチ4が接続されているときに電動機6の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適切な速度に変速された後に駆動輪16に伝達される。従って、エンジン2の駆動力が駆動輪16に伝達されているときに電動機6がモータとして作動する場合には、エンジン2の駆動力と電動機6の駆動力とがそれぞれ変速機8を介して駆動輪16に伝達されることになる。即ち、車両1の駆動のために駆動輪16に伝達されるべき駆動力の一部がエンジン2から供給されるとともに、不足分が電動機6から供給されアシストされる。
【0018】
また、バッテリ18またはキャパシタ20の充電率(SOC:State of Charge)が低下してバッテリ18またはキャパシタ20を充電する必要があるときには、車両1の走行中であっても、電動機6を発電機として機能させるとともに、エンジン2の駆動力の一部を用いて電動機6を作動することにより発電が行われ、発電された交流電力をインバータ20によって直流電力に変換した後に電源分配部22において分配してバッテリ18及びキャパシタ20に充電することが可能である。
【0019】
また、バッテリ18及びキャパシタ20には、それぞれ対応したバッテリECU26(バッテリ状態検出手段)及びキャパシタECU28が設けられている。
バッテリECU26は、バッテリ18の温度、バッテリ18の電圧、インバータ24との間に流れる電流等のバッテリ状態を検出し、バッテリ18の充電率を算出する。
【0020】
キャパシタECU28は、キャパシタ20の電圧、インバータ24との間に流れる電流等のキャパシタ状態を検出し、キャパシタ20の充電率を算出する。
また、車両1には車両ECU30が設けられており、当該車両ECU30は、上記バッテリECU26及びキャパシタECU28からの情報や、その他図示しない各種センサや各種装置からの情報が入力される。そして、当該車両ECU30は入力された情報に基づき各種装置の制御を行う。
【0021】
例えば、車両ECU30は、車両の駆動に必要な駆動力を条件に応じてエンジン2と電動機6に分配し、各々の駆動力を制御する機能を有している。また、車両ECU30は、バッテリECU26において検出されるバッテリ状態に基づき、上記電源分配部22によりバッテリ18及びキャパシタ20に対する電源分配制御等を行う。
以下、当該車両ECU30において実行される電源分配制御について詳しく説明する。
【0022】
図2、3には、車両ECUにおいて実行される電源分配制御ルーチンを示すフローチャートが示されており、以下同フローチャートに沿って説明する。
図2のステップS1に示すように、車両ECU30はまずバッテリECU26からバッテリ情報を取得する。
続くステップS2において、取得したバッテリ情報から、バッテリ18が過負荷状態にあるか否かを判別する。具体的には、バッテリ温度がバッテリ劣化の促進される所定温度より大であるか否かにより判別する。バッテリ温度が所定温度以下であり、バッテリ18が過負荷状態にないと判断できる場合には当該判別結果は偽(No)となり、ステップS3に進む。
【0023】
ステップS3では、車両ECU30は、電源分配部22を通常制御する。当該通常制御とは、電動機6の電源としてバッテリ18を主として用いるよう電源分配部22を制御するものであり、従来より行われている制御であり、詳しい説明は省略する。
一方、上記ステップS2において、バッテリ温度が所定温度より大であり、バッテリ18が過負荷状態にあると判断できる場合には判別結果は真(Yes)となり、ステップS4に進む。
【0024】
ステップS4では、車両ECU30は、電源分配部22により、バッテリ18の過負荷状態に応じて、バッテリ18の充放電の割合を制限する。当該制限としては、例えばバッテリ18の温度が高くなるほどバッテリ18への充放電割合を少なくする。
次のステップS5では、上記ステップS4においてバッテリ18の充放電割合を制限したことで生じる電動機6への供給電力の不足における不足電力、または電動機6により回生された充電電力の余剰における余剰電力を算出する。
【0025】
そして、ステップS6においては、キャパシタECU28からの情報に基づきキャパシタ20の充電率が所定範囲内(例えば10〜90%)にあるか否かを判別する。当該キャパシタ充電率が所定範囲内にある場合は、当該判別結果は真(Yes)となり、次のステップS7に進む。
ステップS7では、上記ステップS5において算出した不足電力または余剰電力をキャパシタ20により補助するように、電源分配部22においてキャパシタ20への分配割合を増加させる(キャパシタアシスト)。
【0026】
一方、上記ステップS6において、キャパシタ充電率が所定範囲外にある場合には、当該判別結果は偽(No)となり、ステップS8に進む。
ステップS8では、電動機6へ供給する電力が不足している場合には、車両ECU30は電動機6への駆動力分配を停止し、当該電力不足により生じる電動機6による駆動トルク不足をエンジン2により補う(エンジンアシスト)。充電電力が余剰である場合には、車両ECU30は電動機6に対する回生駆動力の要求を停止あるいは低減、もしくは余剰分の充電を外部に放電する等して余剰充電を停止する。
【0027】
車両ECU30は、以上のような制御ルーチンを繰り返すことで、バッテリ18の過負荷時には、当該バッテリ18の充放電を制限しつつ、当該制限により生じる供給不足電力または余剰充電電力をキャパシタ20に分配する。キャパシタ20はバッテリ18に比べて短時間での充放電を効率よく行うことができるため、このような不足電力または余剰電力を即座に許容することができる。
【0028】
このように、バッテリ18の充放電制限中に、当該制限分をキャパシタ20が補助的に負担することで、バッテリ18の劣化を防ぎつつも、電動機6への電力供給を維持することができ、且つ充電時においては充電電力を無駄なく回収することができ、効率よく電動機6を使用することができる。
また、バッテリ18の過負荷状態を、バッテリ18の劣化に影響するバッテリ温度に基づきバッテリ状態を検出することで、容易且つ正確にバッテリ状態を検出できる。そして、このようなバッテリ温度に基づきバッテリ18の制限を行うことで、適切にバッテリ18の制限を行うことができ、より確実にバッテリ18の劣化を防ぐことができる。
【0029】
以上で本発明に係る電気自動車の電源制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上記実施形態では、車両1は駆動源としてエンジン2と電動機6を備えたハイブリッド車両であるが、電動機のみを駆動源とする電気自動車にも本発明を適用可能である。
【0030】
また、上記実施形態では、バッテリECU26にてバッテリ18の過負荷状態をバッテリ18の温度に基づき検出しているが、当該バッテリ状態検出手段はバッテリ温度に限られるものではない。例えば、所定期間におけるバッテリの電流積算値を演算し、当該電流積算値が所定の閾値を超えたときにバッテリが過負荷状態であると判断するものとしても構わない。
また、上記実施形態では、バッテリ18が過負荷状態と判定された場合、バッテリ18の温度が高くなるほどバッテリ18への充放電割合を少なくするようにして、バッテリ18の充放電の割合を制限しているが、バッテリ18による充放電自体を停止し、電動機の電源としてキャパシタ20に切り換えるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0031】
1 車両
2 エンジン
6 電動機
18 バッテリ
20 キャパシタ
22 電源分配部(電源分配手段、バッテリ充放電制限手段)
26 バッテリECU(バッテリ状態検出手段)
28 キャパシタECU
30 車両ECU(電源分配制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する電動機の電源としてバッテリ及びキャパシタを備えた電気自動車の電源制御装置であって、
前記バッテリ及びキャパシタとの間で、前記電動機への供給電力及び前記電動機からの充電電力を分配する電源分配手段と、
前記バッテリの状態を検出する前記バッテリ状態検出手段と、
前記バッテリ状態検出手段により検出されたバッテリ状態が過負荷状態を示す所定の状態にある場合に、前記バッテリにおける充放電を制限するバッテリ充放電制限手段と、
前記バッテリ充放電制限手段により前記バッテリに対する充放電が制限されている場合に、前記電源分配手段により、前記バッテリへの充放電の制限により生じる前記電動機への供給不足電力または前記電動機からの余剰充電電力を前記キャパシタに分配する電源分配制御手段と、
を備えることを特徴とする電気自動車の電源制御装置。
【請求項2】
前記バッテリ状態検出手段は、前記バッテリの温度に基づきバッテリ状態を検出するものであり、
前記バッテリ充放電制限手段は、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの温度が所定温度以上である場合に過負荷状態と判断して、前記バッテリにおける充放電を制限することを特徴とする請求項1記載の電気自動車の電源制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−125051(P2012−125051A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273444(P2010−273444)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】