説明

電気自動車部品用成形品

【課題】優れた耐加水分解性、電気絶縁性、難燃性、耐トラッキング性を備えた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いた電気自動車部品用成形品を提供する。
【解決手段】末端カルボキシル基量が30meq/kg以下である熱可塑性ポリエステル樹脂および難燃剤を含み、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後にIEC112第3版に準拠して測定した耐トラッキング性が500V以上であり、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後に測定した体積抵抗値が1×1015Ω・m以上であることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる電気自動車部品用成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐加水分解性、電気絶縁性、難燃性、耐トラッキング性を備えた電気自動車部品用成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性および耐溶剤性を有し、自動車部品や電気・電子部品等に広く使用されている。また、このような熱可塑性ポリエステル樹脂の利用分野が拡大するにつれて、安全上の理由から、優れた難燃性や耐久性が要求されている。
【0003】
熱可塑性ポリエステル樹脂に難燃性や耐久性を付与するため、様々な方法が提案されてきた。例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂に難燃性を付与する方法として、ハロゲン系難燃剤(ハロゲン化合物、アンチモン化合物等)や、非ハロゲン系難燃剤(リン系化合物、窒素含有化合物等)を添加することが知られている。また、耐トラッキング性等の電気的特性を向上させる方法として、タルクやガラス繊維を添加することも知られている。
【0004】
また、複数の特性を両立させる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物についても、数多くの提案がなされている。例えば、特許文献1では、熱可塑性ポリエステル樹脂に、タルク、ハロゲン化フェニル−アルキル(メタ)アクリレート難燃剤およびオレフィン系エラストマーを配合した組成物を、難燃性、耐トラッキング性、流動性を改善するものとして開示している。また、特許文献2は、熱可塑性ポリエステル樹脂に、ホスフィン酸塩および/または、ジホスフィン酸塩および/またはその重合体、トリアジン系化合物とシアヌール酸もしくはイソシアヌール酸との塩、ホウ酸金属塩を配合した組成物を、難燃性、機械特性、成形加工性、耐トラッキング性等に優れるものとして開示している。
【0005】
ところで、自動車分野の部品は、安全性確保のため高い信頼性が要求され、とりわけ、電気自動車では高電圧で作動する部品が多くあり、異常時に発火しにくいこと、発火しても延焼しにくいことが重要である。従って、上記のような、難燃性、耐トラッキング性等を備える組成物を成形してなる成形品は、電気自動車用部品を収納するケースに適している。
【0006】
ところが、熱可塑性ポリエステル樹脂は、エステル結合を多く持つことから、加水分解しやすいという特性を有する。そのため、熱可塑性ポリエステル樹脂を用いた成形品は、加水分解の結果、体積抵抗値等の電気絶縁性が低下するという難点がある。電気自動車用部品を収納するケースにおいては、高湿度環境下においても優れた耐加水分解性を有し、電気絶縁性を維持することが求められる。
【0007】
従来の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐加水分解性については、従来から検討されている。例えば、特許文献3においては、湿熱処理後も柔軟性等を維持するポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を開示している。また、特許文献4においては、湿熱処理後に特定の物性を維持する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を開示している。
【0008】
上記のように湿熱処理後に物性を維持することが可能な熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。しかし、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、電気自動車用部品を収納するケースにさらに好ましく用いるためには、体積抵抗値等の電気絶縁性がさらに高いこと、および、湿熱処理後に体積抵抗値等の電気絶縁性を十分に維持することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−158487号公報
【特許文献2】特開2006−117722号公報
【特許文献3】特開2008−156392号公報
【特許文献4】特開2003−342482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、優れた耐加水分解性、電気絶縁性、難燃性、耐トラッキング性を備えた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いた電気自動車部品用成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性ポリエステル樹脂と難燃剤を含む組成物を用いた電気自動車部品用成形品が、優れた難燃性および耐トラッキング性を有するとともに、優れた電気絶縁性を併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 末端カルボキシル基量が30meq/kg以下である熱可塑性ポリエステル樹脂および難燃剤を含み、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後にIEC112第3版に準拠して測定した耐トラッキング性が500V以上であり、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後に測定した体積抵抗値が1×1015Ω・m以上であることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる電気自動車部品用成形品。
【0013】
(2) 前記難燃剤がホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩であり、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、10〜100質量部含む(1)記載の電気自動車部品用成形品。
【0014】
(3) 前記ホスフィン酸塩が下記一般式<1>で表され、前記ジホスフィン酸塩が下記一般式<2>で表される(2)記載の電気自動車部品用成形品。
【化1】

(式中、R、Rは、フェニル基、水素、1個のヒドロキシル基を含有してよい直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキル基であり、Rは、直鎖または分枝鎖のC〜C10−アルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基であり、Mは、アルカリ土類金属、アルカリ金属、Zn、Al、Fe、ホウ素であり、mは、1〜3の整数であり、nは、1または3の整数であり、かつ、xは、1または2である。)
【0015】
(4) さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、窒素系難燃剤として、トリアジン系化合物とシアヌール酸もしくはイソシアヌール酸との塩および/またはアミノ基を含有する窒素化合物とポリリン酸との複塩を1〜50質量部含む(2)または(3)記載の電気自動車部品用成形品。
【0016】
(5) さらに、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、タルクを30〜100質量部含む(1)記載の電気自動車部品用成形品。
【0017】
(6) 前記難燃剤が、臭素化難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、窒素系難燃剤からなる群より選択される1種以上である(5)記載の電気自動車部品用成形品。
【0018】
(7) 前記タルクは、平均粒径が0.04〜10μm、かさ比重が0.4〜1.5である(5)または(6)記載の電気自動車部品用成形品。
【0019】
(8) さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、オレフィン系エラストマーを5〜50質量部含む(5)から(7)いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【0020】
(9) 前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂またはこれらの混合物である(1)から(8)いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【0021】
(10) さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、充填剤を200質量部以下含む(1)から(9)いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【0022】
(11) さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、テトラフルオロエチレン重合体を0.1〜50質量部含む(1)から(10)いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【0023】
(12) さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、エポキシ化合物、および/またはカルボジイミド化合物を0.1〜10質量部含む(1)から(11)いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【0024】
(13) 電気自動車用部品を収納するケースである(1)から(12)記載の電気自動車部品用成形品。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電気自動車部品用成形品は、優れた難燃性および耐トラッキング性を有しつつ、優れた電気絶縁性を有するため、電気自動車用部品を収納するケースに特に適する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる電気自動車用部品に関する。本発明の電気自動車部品用成形品は、熱可塑性ポリエステル樹脂および難燃剤を含み、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後にIEC112第3版に準拠して測定した耐トラッキング性が500V以上であり、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後に測定した体積抵抗値が1×1015Ω・m以上であることを特徴とする。本発明の電気自動車部品用成形品は上記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる電気自動車用部品を収納するケースである。以下、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、ケースの順で説明する。
【0028】
<熱可塑性ポリエステル樹脂組成物>
本発明に使用する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、上記のような物性を備える熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であれば、使用する熱可塑性ポリエステル樹脂、難燃剤等の成分の種類は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、各成分の含有量についても特に限定されず、上記の物性を満たすように適宜調整する。上記のような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物として、以下のような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を例示することができる。
【0029】
本発明に使用する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の一例として、難燃剤がホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩であり、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、上記難燃剤を10〜100質量部含む熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(以下、「リン系難燃剤を含む樹脂組成物」という場合がある)が挙げられる。
【0030】
また、本発明に使用する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の他の例として、難燃剤を含み、さらに熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、タルクを30〜100質量部含む熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(以下、「タルクを含む樹脂組成物」という場合がある)が挙げられる。
【0031】
以下、これらの熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について、さらに詳細に説明する。先ず、前者の難燃剤がホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩であり、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、上記難燃剤を10〜100質量部含む熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について説明する。
【0032】
〔リン系難燃剤を含む樹脂組成物〕
リン系難燃剤を含む樹脂組成物には、熱可塑性ポリエステル樹脂、ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩を含む。
【0033】
[熱可塑性ポリエステル樹脂]
本発明に使用するリン系難燃剤を含む樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物との重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれら三成分化合物の重縮合等によって得られるポリエステル樹脂である。本発明には、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれも使用可能である。
【0034】
ここで用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の公知のジカルボン酸化合物およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体等である。また、これらのジカルボン酸化合物は、エステル形成可能な誘導体、例えばジメチルエステル等の低級アルコールエステルの形で重合に使用する事も可能である。
【0035】
ジヒドロキシ化合物は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシフェニル、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、シクロヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物、ポリオキシアルキレングリコールおよびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体等であり、一種または二種以上を混合使用することができる。
【0036】
オキシカルボン酸は、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸等のオキシカルボン酸およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体が挙げられる。また、これら化合物のエステル形成可能な誘導体も使用できる。本発明においてはこれら化合物の一種または二種以上が用いられる。
【0037】
また、これらの他に三官能性モノマー、即ちトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等を少量併用した分岐または架橋構造を有するポリエステルであってもよい。
【0038】
上記の化合物等をモノマー成分として、重縮合により生成する熱可塑性ポリエステル樹脂は、いずれも本発明に使用する樹脂組成物の成分として使用することができる。これらの化合物は、単独、または二種以上混合して使用されるが、好ましくはポリアルキレンテレフタレート樹脂、さらに好ましくはポリブチレンテレフタレート樹脂および/またはポリエチレンテレフタレート樹脂を主体とする共重合体(変性ポリエチレンテレフタレート樹脂)が使用される。また本発明においては、熱可塑性ポリエステル樹脂を公知の架橋、グラフト重合等の方法により変性したものであってもよい。
【0039】
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂またはこれらの混合物が好ましい。特にこれらの中でもポリブチレンテレフタレート樹脂、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0040】
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステル樹脂は、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下、好ましくは25meq/kg以下の熱可塑性ポリエステル樹脂が用いられる。末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であれば、湿熱環境下で加水分解による電気特性の低下が著しく抑制できる。
【0041】
末端カルボキシル基量は例えば、ポリブチレンテレフタレートの粉砕試料をベンジル
アルコール中215℃で10分間溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定することで測定することができる。
【0042】
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステル樹脂は、固有粘度が0.5〜1.3dl/gのものが使用出来る。成形性および機械的特性の点から0.65〜1.15dl/gの範囲のものが好ましい。異なる固有粘度を有する熱可塑性ポリエステル樹脂をブレンドすることによって、例えば固有粘度1.2dl/gの熱可塑性ポリエステル樹脂と0.8dl/gの熱可塑性ポリエステル樹脂とをブレンドすることによって、1.0dl/gの固有粘度を実現してもよい。なお、固有粘度(IV)は、例えば、O−クロロフォノール中、温度35℃の条件で測定できる。このような範囲の固有粘度を有する熱可塑性ポリエステル樹脂を使用すると、十分な靱性の付与と溶融粘度の低減とを効率よく実現しやすい。固有粘度が大きすぎると、成形時の溶融粘度が高くなり、場合により成形金型内で樹脂の流動不良、充填不良を起こす可能性がある。
【0043】
[難燃剤]
(ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩)
ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩は、特に限定されず従来公知のものを用いることができる。上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物においてはこれら化合物の1種または2種以上が用いられる。なお、上記ホスフィン酸塩等は、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物において難燃剤に当たる。
【0044】
従来公知のホスフィン酸塩の中でも下記の一般式(1)で表すホスフィン酸塩が好ましい。また、従来公知のジホスフィン酸塩の中でも式(2)で表すジホスフィン酸塩が好ましい。
【0045】
【化2】

【0046】
上記一般式(1)、(2)中、R、Rは、フェニル基、水素、1個のヒドロキシル基を含有してよい直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキル基である。R、Rはともにエチル基であることが好ましい。
また、Rは、直鎖または分枝鎖のC〜C10−アルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基である。
また、Mは、アルカリ土類金属、アルカリ金属、Zn、Al、Fe、ホウ素である。これらの中でもAlが好ましい。
mは、1〜3の整数であり、nは、1または3の整数であり、かつ、xは、1または2である。
【0047】
上記のホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩の中でも特にジエチルホスフィン酸アルミニウム塩の使用が好ましい。
【0048】
本発明においてこれらホスフィン酸塩等を、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、10〜100質量部含有することが好ましい。含有量が10質量部以上であれば安定した難燃性が得られるという理由で好ましく、含有量が100質量部以下であれば機械的特性に優れるという理由で好ましい。より好ましくは15〜60質量部である。
【0049】
(窒素系難燃剤)
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物には、従来公知の窒素系難燃剤を含有することが好ましい。従来公知の窒素系難燃剤の中でも特に、トリアジン系化合物とシアヌール酸もしくはイソシアヌール酸との塩および/またはアミノ基を含有する窒素化合物とポリリン酸との複塩が好ましい。
【0050】
上記トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩としては、下記一般式(3)で表されるトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩が好ましいものとして例示される。
【0051】
【化3】

式中、R、Rは水素原子、アミノ基、アリール基、または炭素数1〜3のオキシアルキル基であり、R、Rは同一でもまた異なっていてもよい。
【0052】
本発明においては、上記一般式(3)で表されるトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の中でも特にメラミンシアヌレートの使用が特に好ましい。
【0053】
また、アミノ基を含有する窒素化合物とポリリン酸との複塩に含まれるアミノ基を含有する窒素化合物には、少なくとも1つのアミノ基と、少なくとも1つの窒素原子を環のヘテロ原子として有するヘテロ環状化合物が含まれ、ヘテロ環は、窒素以外にイオウ、酸素等の他のヘテロ原子を有していてもよい。このような窒素含有ヘテロ環には、イミダゾール、チアジアゾール、チアジアゾリン、フラザン、トリアゾール、チアジアジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、プリン等の複数の窒素原子を環の構成原子として有する5または6員不飽和窒素含有ヘテロ環等が含まれる。このような窒素含有環のうち、複数の窒素原子を環の構成原子として有する5または6員不飽和窒素含有環が好ましく、特に、トリアゾールおよびトリアジンが好ましい。そして、アミノ基を含有する窒素化合物とポリリン酸との複塩の中では、ポリリン酸メラムが好ましい。
【0054】
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物においては、上記窒素系難燃剤の含有量が、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましい。窒素系難燃剤の含有量が1質量部以上であれば安定した難燃性が得られるという理由で好ましく、50質量部以下であれば機械的特性が優れるという理由で好ましい。より好ましい含有量は熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、3〜30質量部である。
【0055】
[充填剤]
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物においては、さらに充填剤を含有するものが好ましい。充填剤の種類は特に限定されず、有機系、無機系のいずれでもよいが無機系の充填剤が好ましい。従来公知の無機充填剤として、繊維状充填剤、粉粒状充填剤、板状充填剤等が挙げられる。また、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物においては、充填剤を二種以上含有してもよい。
【0056】
繊維状充填剤として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。
【0057】
粉粒状充填剤としては、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0058】
また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。本発明に使用する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に含まれる充填剤としては、上記の従来公知の充填剤の中でも特にガラス繊維が好ましい。
【0059】
ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明では、ガラスの種類にも限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0060】
また、充填剤と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、シラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された充填剤が好ましく用いられる。かかる充填剤に用いられるシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができ、本発明で充填剤の表面処理に用いられるシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0061】
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物に充填剤を含む場合の充填剤の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して200質量部以下であることが好ましい。充填剤の含有量が200質量部以下であれば成形時の流動性が優れるという理由で好ましい。より好ましい充填剤の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して150質量部以下である。
【0062】
[エポキシ化合物および/またはカルボジイミド化合物]
ポリエステル樹脂組成物は熱水や水蒸気により加水分解を引き起こし樹脂劣化する場合がある。そこで、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物には、反応性安定剤を添加してもよい。反応性安定剤により耐湿熱性、耐久性等を向上し加水分解による樹脂の劣化が抑えられる。
【0063】
反応性安定剤としては、例えば、環状エーテル基、酸無水物基、イソシアネート基、オキサゾリン基(環)、オキサジン基(環)、エポキシ基、カルボジイミド基を有する化合物等から選択された少なくとも一種の官能基を有する化合物が挙げられる。なかでもポリエステル樹脂との反応性、取扱の容易さ、入手の容易さからエポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)、カルボジイミド基を有する化合物(カルボジイミド化合物)が好ましく用いられる。
【0064】
エポキシ化合物としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド等の脂環式化合物、パーサティック酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物(ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル等)、グリシジルアミン化合物、エポキシ基含有ビニル共重合体(例えば、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ジエン系モノマースチレン共重合体等)、トリグリシジルイソシアヌレート、エポキシ変性(ポリ)オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0065】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ポリ(フェニルカルボジイミド)、ポリ(ナフチルカルボジイミド)等のポリアリールカルボジイミド、ポリ(2−メチルジフェニルカルボジイミド)、ポリ(2,6−ジエチルジフェニルカルボジイミド)、ポリ(2,6−ジイソプロピルジフェニルカルボジイミド)、ポリ(2,4,6−トリイソプロピルジフェニルカルボジイミド)、ポリ(2,4,6−トリt−ブチルジフェニルカルボジイミド)等のポリアルキルアリールカルボジイミド、ポリ[4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド]、ポリ[4,4′−メチレンビス(2−エチル−6−メチルフェニル)カルボジイミド]、ポリ[4,4′−メチレンビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド]、ポリ[4,4′−メチレンビス(2−エチル−6−メチルシクロヘキシルフェニル)カルボジイミド]等のポリ[アルキレンビス(アルキルまたはシクロアルキルアリール)カルボジイミド]等が挙げられる。
【0066】
エポキシ化合物やカルボジイミド化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
また、カルボジイミド化合物は、樹脂をマトリックスとするマスターバッチとして配合することも可能であり、マスターバッチを使用することが実際の取り扱いの面から容易なことも多い。ポリエステル樹脂によるマスターバッチが好適に用いられるが、他の樹脂によりマスターバッチとして調製されたものを使用してもかまわない。ポリエステル樹脂によるマスターバッチの場合、所定の配合量の範囲内になるように調整すればよい。マスターバッチは溶融混練時に予め投入し、均一ペレットとしてもよい。また、カルボジイミド化合物以外の成分を予め溶融混練等により均一ペレットとしておき、カルボジイミド化合物のマスターバッチペレットを成形時にドライブレンドしたペレットブレンド品を成形に用いてもよい。
【0068】
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物にエポキシ化合物および/またはカルボジイミド化合物を含む場合の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。エポキシ化合物および/またはカルボジイミド化合物の含有量が0.1質量部以上であれば耐加水分解性に優れ電気特性が安定するという理由で好ましく、10質量部以下であれば成形時の流動性に優れるという理由で好ましい。より好ましいエポキシ化合物および/またはカルボジイミド化合物の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である。
【0069】
[難燃助剤]
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物には、必要に応じて難燃助剤を含んでいてもよい。含有可能な難燃助剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用できる。
【0070】
[その他の成分]
上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、他の樹脂、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、ドリッピング防止剤、離型剤および難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も含まれる。例えば、燃焼時のドリッピング防止剤として、また、耐トラッキング性向上剤として、フッ素含有樹脂を併用することが好ましい。フッ素含有樹脂には、フッ素含有単量体の単独または共重合体、例えば、フッ素含有単量体(テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等)の単独または共重合体や、前記フッ素含有単量体と他の共重合性単量体(エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体、(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体等)との共重合体等が含まれる。上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物においては、入手しやすさ、効果の高さ、取り扱いの容易さから、特にテトラフルオロエチレン重合体が好ましい。テトラフルオロエチレン重合体の含有量は、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜20質量部程度の範囲から選択できる。
【0071】
本発明で用いる樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)各成分を混合した後、1軸または2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1または2以上を直接仕込む方法等、いずれも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0072】
〔タルクを含む樹脂組成物〕
タルクを含む樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂、難燃剤、およびタルクを含む。後述する通り、タルクの含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、30〜100質量部であることが好ましい。
【0073】
[熱可塑性ポリエステル樹脂]
上記タルクを含む樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステル樹脂としては、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物で説明したものと同様のものを挙げることができる。また、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物の場合と同様に熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂またはこれらの混合物が好ましい。特にこれらの中でもポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0074】
[難燃剤]
上記タルクを含む樹脂組成物においては、使用する難燃剤の種類は特に限定されず、従来公知の難燃剤を使用することができる。従来公知の難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、無機酸の金属塩、シリコーン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、窒素系難燃剤等が挙げられる。これらの難燃剤は単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
上記タルクを含む樹脂組成物においては、ハロゲン系難燃剤の中でも特に臭素化難燃剤の使用が好ましい。臭素化難燃剤としては、臭素含有アクリル系樹脂(例えば、臭素化ポリベンジル(メタ)アクリレート系樹脂)、臭素含有スチレン系樹脂(例えば、スチレン系樹脂の臭素化物、臭素化スチレン系単量体の単独または共重合体等の臭素化スチレン系樹脂等)、臭素含有ポリカーボネート系樹脂(臭素化ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂等)、臭素含有エポキシ化合物(臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール型フェノキシ樹脂等)、臭素化ポリアリールエーテル化合物、臭素化芳香族イミド化合物[例えば、アルキレンビス臭素化フタルイミド(例えば、エチレンビス臭素化フタルイミド等)等]、臭素化ビスアリール化合物および臭素化トリ(アリールオキシ)トリアジン化合物等を挙げることができる。これらの臭素化難燃剤の中でも特に、臭素含有アクリル系樹脂(例えば、臭素化ベンジルアクリレート等)、臭素含有スチレン系樹脂、臭素含有ポリカーボネート系樹脂、臭素含有エポキシ樹脂が好ましい。
【0076】
無機酸の金属塩において、塩を構成する無機酸としては、リン酸、硫酸、ホウ酸、クロム酸、アンチモン酸、ハロゲン酸、炭酸等が挙げられる。また、無機酸と塩を構成する金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属が挙げられる。
【0077】
上記タルクを含む樹脂組成物においては、難燃剤の含有量が、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、3〜50質量部であることが好ましい。難燃剤の含有量が3質量部以上であれば安定した難燃性が得られるという理由で好ましく、50質量部以下であれば機械的特性が優れるという理由で好ましい。より好ましい難燃剤の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して5〜40質量部である。
【0078】
[タルク]
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中にタルクを含有させると、特に耐トラッキング性を改善できる。特にタルクとして圧縮微粉タルクを用いると、均一分散性が高く、混練作業性、機械的特性を改善できる。
【0079】
上記タルクを含む樹脂組成物に使用するタルクとしては、通常のタルクを用いてもよいが、圧縮微粉タルクを用いるのが好ましい。圧縮微粉タルクの中でも、かさ比重が0.4〜1.5のものが好ましい。より好ましいかさ比重は0.5〜1.2である。圧縮微粉タルクの平均粒度は、例えば、150μm以上であることが好ましく、より好ましくは150〜300μmである。
【0080】
圧縮微粉タルクは、粒子内または粒子間に存在する気体(例えば、空気等)を、真空装置を用いて初期脱気し、さらにローラーの圧縮力により残存気体を除去する方法等の従来公知の方法により得られる。
【0081】
圧縮微粉タルクの圧縮前のタルクの平均粒子径は、例えば、0.04〜10μmでるものが好ましい。より好ましい平均粒子径は0.5〜5μmである。また、圧縮前のタルクのかさ比重は、例えば、0.1〜0.4であるものが好ましい。圧縮微粉タルク中に含まれる気体成分の量は、圧縮前のタルク中に含まれる気体成分の量に比べて30容量%以上(例えば、30〜95容量%、好ましくは30〜80容量%程度)少ないものが好ましい。なお、平均粒径はJIS Z8820およびZ8822に準拠した粒度分布測定において、D50の値として得られる。また、かさ比重は一定の容積を持つ容積に入れたときの1cmあたりの重量(g数)として求められる。
【0082】
上記タルクを含む樹脂組成物に使用するタルクの含有量は特に限定されないが、その含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して30〜100質量部であることが好ましい。タルクの含有量が30質量部以上であれば耐トラッキング性が優れるという理由で好ましく、タルクの含有量が100質量部以下であれば機械的特性に優れるという理由で好ましい。より好ましいタルクの含有量は熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して35〜80質量部である。
【0083】
[オレフィン系エラストマー]
上記のタルクを含む樹脂組成物としては、オレフィン系エラストマーを含むものが好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂、難燃剤、およびタルクと、オレフィン系エラストマーとを組み合わせることで、オレフィン系エラストマーの特性を有効に発現でき、特に強靭性、耐衝撃性等の機械的特性を大幅に改善できる。
【0084】
上記タルクを含む樹脂組成物においては、従来公知のオレフィン系エラストマーを用いることができる。従来公知のオレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPD共重合体)、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体等が含まれる。好ましいオレフィン系エラストマーには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれる。オレフィン系エラストマーは単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0085】
上記タルクを含む樹脂組成物に使用するオレフィン系エラストマーとしては、エチレンエチルアクリレートが特に好ましい。
【0086】
オレフィン系エラストマーの含有量は特に限定されないが、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、5〜50質量部であることが好ましい。オレフィン系エラストマーの含有量が5質量部以上であれば靭性に優れ成形品が破壊しにくいという理由で好ましく、50質量部以下であれば安定した難燃性が得られるという理由で好ましい。より好ましいオレフィン系エラストマーの含有量は8〜30質量部である。
【0087】
[充填剤]
上記タルクを含む樹脂組成物は、充填剤を含有するものが好ましい。上記タルクを含む樹脂組成物に含まれる充填剤としては、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物で説明したものと同様のものを挙げることができる。また、使用する充填剤としては、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物の場合と同様にガラス繊維が好ましい。充填剤の好ましい含有量も上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物の場合と同様である。
【0088】
[難燃助剤]
上記タルクを含む樹脂組成物においては、必要に応じて従来公知の難燃助剤を含んでいてもよい。
【0089】
難燃剤として臭素化難燃剤を使用する場合には、難燃助剤として、アンチモン含有化合物を使用することが好ましい。
【0090】
アンチモン含有化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸塩等が挙げられる。これらのアンチモン含有化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記アンチモン含有化合物のうち、三酸化アンチモンが好ましい。三酸化アンチモンの含有量は、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部の範囲から選択できる。
【0091】
[フッ素含有樹脂]
上記タルクを含む樹脂組成物は、燃焼時のドリッピング防止剤として、また、耐トラッキング性向上剤として、フッ素含有樹脂を併用することが好ましい。フッ素含有樹脂としては、テトラフルオロエチレン重合体等、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物と同様のものを用いることができる。
【0092】
[エポキシ化合物および/またはカルボジイミド化合物]
上記タルクを含む樹脂組成物には、エポキシ化合物やカルボジイミド化合物等、上記リン系難燃剤を含む樹脂組成物と同様のものを用いることができる。
【0093】
<電気自動車用部品を収納するケース>
本発明の電気自動車部品用成形品は、優れた難燃性および優れた耐トラッキング性を有しつつ、優れた電気絶縁性を有する。
優れた難燃性とは、UL規格94の難燃性レベル「V−0」である。
優れた耐トラッキング性とは、後述する実施例に記載の方法で行った耐トラッキング試験において、試験片にトラッキングが生じる印加電圧が500V以上である。
優れた電気絶縁性とは、実施例に記載のプレッシャークッカー(PCT)試験後の体積抵抗値が1×1015Ω・m以上である。
また本発明の技術を用いることで、優れた耐熱性も示し、例えば180℃、200時間後の加熱処理後でも耐トラッキング試験において500V以上を達成することが可能である。
【0094】
本発明に用いる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、上述の好ましい成分を好ましい量含有させることで、非常に優れた難燃性、非常に優れた耐トラッキング性および非常に優れた電気絶縁性を成形品に付与することができる。
【0095】
本発明のケースに収納される電気自動車用部品としては、特に限定されないが、パワーモジュール、昇圧型DC/DCコンバータ、降圧型DC/DCコンバータ、コンデンサー、インシュレーター、モーター端子台、バッテリー、電動コンプレッサー、バッテリー電流センサーおよびジャンクションブロック等を収納するケースの材料として、上記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は好ましい。
【0096】
本発明における電気自動車用部品用収納ケースは、従来公知の方法により成形される。従来公知の成形方法としては、例えば、射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト法射出成形、押出成形、多層押出成形、回転成形、熱プレス成形、ブロー成形、発泡成形等を挙げることができる。
【実施例】
【0097】
以下に、実施例および比較例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0098】
<材料>
ポリエステル樹脂1:ポリブチレンテレフタレート樹脂、IV=0.69、末端カルボキシル基量25meq/kg(ウィンテックポリマー社製)
ポリエステル樹脂2:ポリエチレンテレフタレート樹脂、IV=0.76、末端カルボキシル基量21meq/kg(SKケミカル社製)
ポリエステル樹脂3:ポリブチレンテレフタレート樹脂、IV=0.69、末端カルボキシル基量53meq/kg(ウィンテックポリマー社製)
ホスフィン酸塩:ジエチルホスフィン酸アルミニウム、「Exolit OP 1230」、(Clariant社製)
窒素系難燃剤1:メラミンシアヌレート、「Melapure50」、(DSM社製)
窒素系難燃剤2:ポリリン酸メラム、「Melapure200」、(DSM社製)
タルク:圧縮微粉タルク、平均粒径2.7μm(島津製作所製 粒度分布測定器 SA−CP3LにてD50の数値として測定)、かさ比重0.9、「UPN HS−T」、(林化成社製)
充填剤:ガラス繊維、「CS3J948S」、(日東紡績社製)
テトラフルオロエチレン重合体:「PTFE850A」、(三井・デュポンフロロケミカル社製)
臭素化難燃剤1:臭素化ベンジルアクリレート、「FR−1025」、(アイシーエル・アイピー社製)
臭素化難燃剤2:臭素化エポキシ樹脂、「SRT5000」、(坂本薬品社製)
臭素化難燃剤3:臭素化ポリカーボネート、「FG−750」、(帝人化成社製)
臭素化難燃剤4:臭素化ポリスチレン、「パイロチェック68PB」、(アルベマール日本社製)
リン系難燃剤1:リン酸エステル、「PX−200」、(大八化学社製)
リン系難燃剤2:赤リン、「NVE140」、(燐化学工業社製)
アンチモン系難燃剤:三酸化アンチモン、「PATOX−M」、(日本精鉱社製)
オレフィン系エラストマー:エチレンエチルアクリレート、「NUC−6570」、(日本ユニカー社製)
エポキシ化合物:「エピコート1004」、油化シェルエポキシ社製
カルボジイミド化合物:「スタバックゾールP」、ラインケミージャパン社製
【0099】
<実施例および比較例>
表1、2に示す成分を秤量後ドライブレンドし、30mmφ2軸押出機(「TEX−30」、日本製鋼所製)を用いて溶融混練しペレットを作成した(シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュー回転数150rpm)。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
得られたペレットを射出成形機(「J180AP」、日本製鋼所社製)に投入し、コンデンサーを収納するケースを下記成形条件にて作製した。得られたケースの寸法は、縦110mm×横110mm×高さ40mm、厚み1.6mmであった。
[成形条件]
シリンダー温度:260℃
金型温度:60℃
射出速度:30mm/s
保圧:70MPa×30s
冷却時間:25s
スクリュー回転数:100rpm
背圧:5MPa
【0103】
上記ケースから下記の試験により物性を評価するために必要な試験片を切り出し、難燃性、耐トラッキング性、体積抵抗値の評価を行った。評価結果を表3、4に示した。
【0104】
(1)難燃性試験
UL94に準拠して、試験片の縦125mm×横13mm×厚み1.6mmで難燃性を評価した。
【0105】
(2)耐トラッキング試験
IEC(International electrotechnical commission)112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液、白金電極を用いて、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。耐トラッキング性に関しては、180℃、200時間の熱処理後の試験片、120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理(下記PCT試験)後の試験片についても測定した。
【0106】
(3)プレッシャークッカー(PCT)試験
実施例および比較例で得られた樹脂組成物を用いて、縦50mm×横50mm×厚さ1.6mmの試験片を、120℃、0.2MPa、飽和水蒸気下のプレッシャークッカー試験機に200時間暴露した。
【0107】
(4)体積電気抵抗
プレッシャークッカー試験後の試験片を、レジスティビティ・チャンバー(主電極:φ50、ガード電極:内径φ70/外径φ80、対向電極:φ103)にセットし、これをテスターまたは超高抵抗計にて抵抗値を測定し、体積抵抗率を算出した。なお、体積抵抗値の測定については、上記PCT処理後の試験片についてのみ行った。
【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
表3、4の結果から明らかなように、本発明における、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなるケースは、優れた難燃性、耐トラッキング性、電気絶縁性を併せ持つ。特に耐トラッキング性に関しては、熱処理、飽和水蒸気下での加圧加熱処理後に関しても高い値を維持できることが確認された。そして、電気絶縁性に関しても、飽和水蒸気下での加圧加熱処理後でも優れた電気絶縁性を示すことが体積抵抗の値から確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端カルボキシル基量が30meq/kg以下である熱可塑性ポリエステル樹脂および難燃剤を含み、
120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後にIEC112第3版に準拠して測定した耐トラッキング性が500V以上であり、
120℃の飽和水蒸気で200時間の加圧加熱処理後に測定した体積抵抗値が1×1015Ω・m以上であることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる電気自動車部品用成形品。
【請求項2】
前記難燃剤がホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩であり、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、10〜100質量部含む請求項1記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項3】
前記ホスフィン酸塩が下記一般式(1)で表され、前記ジホスフィン酸塩が下記一般式(2)で表される請求項2記載の電気自動車部品用成形品。
【化1】

(式中、R、Rは、フェニル基、水素、1個のヒドロキシル基を含有してよい直鎖または分枝鎖のC〜C−アルキル基であり、Rは、直鎖または分枝鎖のC〜C10−アルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基であり、Mは、アルカリ土類金属、アルカリ金属、Zn、Al、Fe、ホウ素であり、mは、1〜3の整数であり、nは、1または3の整数であり、かつ、xは、1または2である。)
【請求項4】
さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、窒素系難燃剤として、トリアジン系化合物とシアヌール酸もしくはイソシアヌール酸との塩および/またはアミノ基を含有する窒素化合物とポリリン酸との複塩を1〜50質量部含む請求項2または3記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項5】
さらに、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、タルクを30〜100質量部含む請求項1記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項6】
前記難燃剤が、臭素化難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、窒素系難燃剤からなる群より選択される1種以上である請求項5記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項7】
前記タルクは、平均粒径が0.04〜10μm、かさ比重が0.4〜1.5である請求項5または6記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項8】
さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、オレフィン系エラストマーを5〜50質量部含む請求項5から7いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂またはこれらの混合物である請求項1から8いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項10】
さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、充填剤を200質量部以下含む請求項1から9いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項11】
さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、テトラフルオロエチレン重合体を0.1〜50質量部含む請求項1から10いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項12】
さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、エポキシ化合物、および/またはカルボジイミド化合物を0.1〜10質量部含む請求項1から請求項11いずれか記載の電気自動車部品用成形品。
【請求項13】
電気自動車用部品を収納するケースである請求項1から12いずれか記載の電気自動車部品用成形品。

【公開番号】特開2010−280793(P2010−280793A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134505(P2009−134505)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】