説明

電気車駆動回路

【課題】 電動機とインバータだけでなく、チョッパ回路を含めた装置の総合効率を向上させ、ランニングコストを低減させる。
【解決手段】 複数台設けられるインバータの、例えばインバータ62の出力に接続される交流電動機72の巻線の中点と蓄電装置9との間にスイッチ11を設け、電気車を駆動または制動させるのに必要な推進力またはブレーキ力が小さい区間においては、スイッチ11をオンとし、インバータ62をチョッパとして動作させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流電源と蓄電装置の双方から受電可能で、これらから供給される電力を入力とする複数台のインバータで交流電動機を駆動することにより、電気車を推進する電気車駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回路として、例えば特許文献1に開示のような回路が知られている。
この例では、その図1に示されているように、架線から集電装置(50:文献図中の符号を示し、以下同様)を介して受電した直流電力をインバータ(53)で交流電力に変換し、交流電動機(54)を駆動する。また、チョッパ回路(106)をインバータの直流入力側に接続し、その出力側に蓄電装置(65)を設けている。
そして、ブレーキ時に架線へ回生できない電力などを、チョッパ回路(106)を介して蓄電装置(65)に蓄積し、力行時にその電力を使うことで省エネルギー化を図るとともに、架線の無い区間において蓄電装置(65)の電力を用いた自力走行を可能にしている。
【0003】
別の特許文献2には、同様な回路でインバータが故障した時などを考慮して、インバータを複数台(この文献中の図1ではインバータ4,5の2台)設け、交流電動機(7a,7bと8a,8b)をそれぞれのインバータで駆動する例が示されている。この例では、インバータの故障などに備えて、故障したインバータを切り離す接触器(ユニットカット用スイッチ50,51)を設け、1台のインバータが故障しても、それを切り離して走行を継続することができる電気車駆動回路としている。
【0004】
上記特許文献1,2から、例えば図5のような電気車駆動回路が考えられる。この回路は、架線1から集線装置2やフィルタリアクトル3、フィルタコンデンサ5を介してインバータ6へ給電し、交流電動機7を駆動している。そして、フィルタコンデンサ5と並列にチョッパ回路8を接続し、それに蓄電装置9を接続している。なお、スイッチ4は故障したインバータを切り離すために設けられる。これは、上記特許文献1に示すものに対しては、インバータの故障を考慮してインバータを複数台(2台)設けた場合に相当する。また、特許文献2に対しては、架線の定格電圧が固定の場合で、この電圧に応じて切り換える回路が不要であるが、架線電圧と蓄電装置の電圧が、例えばDC750VとDC300Vというように大きく離れていて、蓄電装置の電力により架線が加圧されることがない場合に相当する。
【0005】
図5の回路例の場合、電気車を駆動あるいは制動させるのに必要な推進力またはブレーキ力が小さい区間を走行時(例えば、乗客が少ないときで、ほぼ平坦な区間を定速で走行する際など)には、2台のインバータ6のうちの1台を停止し、残り1台のインバータで2台の電動機を駆動することによって、必要な推進力あるいはブレーキ力を得る方が、電動機7とインバータ6の両方を合わせた総合効率が高くなる場合があることが知られている(例えば、特開2007-325338号公報参照)。この時、1台のインバータ6を停止することにより、電動機7とインバータ6の総合効率を上げることは可能であるが、蓄電池9との電力をやりとりするチョッパ回路8の効率を上げることができない、という問題がある。
【0006】
上記の外に、特許文献3のように、現行車両の回路構成に変更を殆ど加えること無く、直流または交流の電力を蓄電部に充電できるようにするものもある。
これは、インバータをチョッパとして用いるようにした(1台でインバータ,コンバータまたはチョッパとして動作させる)例であるが、この場合のチョッパは蓄電部を充電するために用いられるものであり、回路効率の向上については何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−340561号公報
【特許文献2】特開2008−253084号公報
【特許文献3】特開2010−172192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、この発明の課題は、電動機とインバータだけでなく、チョッパ回路を含めた装置の総合効率を向上させ、ランニングコストの低減化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、直流電源と蓄電装置の双方から受電可能で、これらから供給される電力を受電する複数台のインバータにより交流電動機を駆動し電気車を推進するとともに、前記蓄電装置の出力とインバータの直流入力との間にチョッパ回路を設け、蓄電装置が供給または吸収する電力を制御する電気車駆動回路において、
少なくとも1台の交流電動機巻線の中性点と蓄電装置との間にスイッチを設け、電気車を駆動または制動させるのに必要な推進力またはブレーキ力が小さい区間では、前記接続回路のスイッチをオンとし、前記交流電動機に接続されたインバータをチョッパとして動作させることを特徴とする。
【0010】
上記請求項1の発明においては、前記スイッチの代わりに、スイッチとリアクトルとの直列接続回路を設けることができる(請求項2の発明)。この請求項1または2の発明においては、スイッチまたはスイッチとリアクトルとの直列接続回路を、交流電動機の巻線の中性点と蓄電装置との間に設ける代わりに、交流電動機巻線の中性点とチョッパ内のリアクトルとの間に設けることができる(請求項3の発明)。これら請求項1〜3のいずれかの発明においては、前記直流電源の代わりに充電装置を設け、これにより電気車が停止中に蓄電装置を充電し、蓄電装置の電力で走行することができる(請求項4の発明)。
【0011】
請求項1の発明によれば、チョッパ回路だけでなく、停止したインバータもチョッパ回路として動作させることにより、同じ電力を蓄電装置に供給あるいは吸収させる場合に、チョッパ回路内のスイッチング素子を流れる電流を低減することができる。これにより、スイッチング素子のオン電圧を下げることができるので、チョッパ回路だけを動作させた時より、停止したインバータもチョッパ回路として動作させた時の方が、これらの回路で発生する損失を低減でき、チョッパ回路を含めた総合効率の向上が可能になる。なお、交流電動機の巻線をリアクトルとして活用することにより、リアクトルを特に追加することなく、チョッパ回路が構成できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、交流電動機の巻線のインダクタンスが小さい場合、インバータをチョッパ動作させる場合のスイッチング周波数を上げて、その出力電流リプルを低減する必要がある。これに対して、リアクトルをスイッチと直列に挿入することにより、スイッチング周波数を上げなくても、出力電流リプルを低減することができ、この回路をチョッパ動作させる時のスイッチング素子のスイッチング損失低減が実現でき、効率向上が可能である。この場合にも,上記と同様に、チョッパ回路だけを動作させた時より、停止したインバータもチョッパ回路として動作させた時の方が、この回路で発生する損失を低減でき、チョッパ回路を含めた総合効率の向上が可能になる。
【0013】
請求項3の発明によれば、インバータ出力をリアクトルを介して蓄電装置へ接続する回路のリアクトルの一部として、チョッパ回路内にあるリアクトルを用いることにより、請求項2の発明の場合に比べて、リアクトルの数を減らすとともに、小形化が可能となる。
また、請求項4の発明によれば、走行中に電気車外部から給電されない電車(たとえば、駅で停止中に充電して、蓄電装置の電力のみで走行する架線レス電車)や、電気自動車への適用が可能になる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、電動機とインバータだけでなく、チョッパ回路を含めた装置の総合効率を向上させることができるため、より少ない電力での電気車の運行が可能になり、ランニングコストの低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態を示す構成図
【図2】図1のスイッチ4,11の動作説明図
【図3】この発明の別の実施の形態を示す構成図
【図4】この発明のさらに別の実施の形態を示す構成図
【図5】図4の変形例を示す構成図
【図6】従来例を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1はこの発明の実施の形態を示す構成図である。この例では、架線1から集電装置2、フィルタリアクトル3およびフィルタコンデンサ5を介して2台のインバータ61,62の入力に接続している。スイッチ4は、インバータ61,62が故障した際に、そのインバータを切り離すためのスイッチである。また、インバータ61,62の直流入力側にはチョッパ回路8が設けられており、チョッパ回路8の出力には蓄電装置9が接続されている。この蓄電装置9としては、バッテリはもちろんのことキャパシタを用いても良い。また、交流電動機72の中性点と蓄電装置9の間には、スイッチ11が設けられている。
この回路において、通常時と比べて必要な推進力あるいはブレーキ力が小さい場合は、各スイッチ4,11を図2のように動作させる。すなわち、通常時には、チョッパ回路8によって蓄電装置9の電力がインバータ61および62に供給または吸収され、所望の動作をさせることができる。
【0017】
一方、必要推進力あるいはブレーキ力が小さく、インバータ61で駆動する交流電動機71だけで推進力あるいはブレーキ力を発生することができ、インバータ62を停止した方が電動機とインバータを考えた総合効率が高くなる場合には、スイッチ11をオンしてインバータ62の3つの上アームと3つの下アームをそれぞれ並列接続し、これと交流電動機72の巻線とによってチョッパ回路を構成する。このチョッパ回路をチョッパ回路8と並列に動作させると、チョッパ回路8のスイッチング素子8aやダイオード8bを流れる電流の一部は、インバータ62のスイッチング素子6aやダイオード6bに分流させることができるため、その分だけ、スイッチング素子あるいはダイオードのオン電圧を低減することができ、チョッパ回路の損失を低減することができる。
なお、この例では、交流電動機72の中性点だけにスイッチ11を設けたが、インバータ61にも同様に設けるようにしても良い。
【0018】
図3にこの発明の別の実施の形態を示す。
この例は、図1に示すものに対し、スイッチ11と直列にリアクトル12を設けた点が特徴である。なお、動作については図1と同様なので、説明は省略する。
図4にこの発明のさらに別の実施の形態を示す。これは、リアクトル12の蓄電装置側の接続点を、チョッパ回路8内のリアクトル8cの一端にした点が相違する他は図3と同様で、動作自体も図3と同様である。なお、図1の構成で、スイッチ11を、交流電動機巻線の中性点とチョッパ8内のリアクトル8cとの間に設けるようにしても良いのは勿論である。
【0019】
図5は、図4の変形例を示す構成図である。すなわち、図4の架線1、集電装置2およびフィルタリアクトル3の代わりに、充電装置13を設けた例である。充電装置13は、電気車の外部に設置され、蓄電装置9を充電する際に接続する。そして、通常の走行時にはチョッパ回路8を介してインバータ61,62との間で電力のやりとりを行なう。そして、推進力あるいはブレーキ力が小さい区間ではインバータ62をチョッパとして動作させ、チョッパ回路8と並列動作をさせて、インバータ61との間で電力のやりとりを行なうものである。
【符号の説明】
【0020】
1…架線、2…集電装置、3…フィルタリアクトル、4,11…スイッチ、5…コンデンサ、6,61,62…インバータ、6a,8a…スイッチング素子、6b,8b…ダイオード、7,71,72…交流電動機、8…チョッパ回路、8c,12…リアクトル、9…蓄電装置、13…充電装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と蓄電装置の双方から受電可能で、これらから供給される電力を受電する複数台のインバータにより交流電動機を駆動し電気車を推進するとともに、前記蓄電装置の出力とインバータの直流入力との間にチョッパ回路を設け、蓄電装置が供給または吸収する電力を制御する電気車駆動回路において、
少なくとも1台の交流電動機巻線の中性点と蓄電装置との間にスイッチを設け、電気車を駆動または制動させるのに必要な推進力またはブレーキ力が小さい区間では、前記スイッチをオンとし前記交流電動機に接続されたインバータをチョッパとして動作させることを特徴とする電気車駆動回路。
【請求項2】
前記スイッチの代わりに、スイッチとリアクトルとの直列接続回路を設けることを特徴とする請求項1に記載の電気車駆動回路。
【請求項3】
前記スイッチまたはスイッチとリアクトルとの直列接続回路を、交流電動機巻線の中性点と蓄電装置との間に設ける代わりに、交流電動機巻線の中性点とチョッパ内のリアクトルとの間に設けることを特徴とする請求項1または2に記載の電気車駆動回路。
【請求項4】
前記直流電源に代えて充電装置を設け、この充電装置を用いて電気車が停止中に前記蓄電装置を充電し、その充電電力で走行することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気車駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−222921(P2012−222921A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85118(P2011−85118)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】