説明

電気電子部品用金属材料、その製造方法、および前記電気電子部品用金属材料を用いた電気電子部品

【課題】電気電子機器に搭載される電気電子部品の小型薄型低背化に適した電気電子部品用金属材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属基材1上の少なくとも絶縁を要する箇所に2層以上の多層絶縁コーティング層2が設けられ、絶縁耐圧性を有する電気電子部品用金属材料。また、金属基材1上の少なくとも絶縁を要する箇所に、流動状塗布物を塗布し乾燥させる塗装工程を複数回施す前記電気電子部品用金属材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子機器、特に小型薄型の携帯式電気電子機器に搭載される低背化電気電子部品、或いは、シールドコネクタ、カードコネクタ、薄型スイッチなどを電磁シールドするための電気電子部品(ケース、カバー、筐体、キャップなど)用の金属材料、その製造方法、および前記金属材料を用いた電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器のプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器(VCO)、SAWフィルタ、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの高周波部品、液晶ドライバ(LCD)、キーボード、マザーボードなどのプリント基板側の端子接続コネクタ、FPCケーブル側の接続コネクタ、基板対基板コネクタ、これらを複合した各種モジュールは、電磁波、通信ノイズ、静電気などを遮断するために金属製のケース、カバー、筐体、キャップなどの電気電子部品で覆って用いられている。そして、前記電気電子機器は、携帯化が進む中で、例えば、メモリカードは、その体積が従来の10分の1以下になり、それに伴って前記電気電子部品は小型薄型低背化され、その高さはモジュール部品で5mm以下、個別部品では2mmを割り1mm前後に突入しつつある。
【0003】
このような小型薄型低背化の中で、電気電子部品は内蔵部品との間で十分な絶縁性を確保するために、電気電子部品内の所要箇所にシート状絶縁フィルムを挿入する方法が提案され、さらに、この方法の作業性を改善し製造コストを下げた、予め金属基材上に絶縁皮膜を有する金属材料を用いた電気電子部品が提案された(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特願2003−404859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の従来の電気電子部品では、絶縁性、特に絶縁耐圧性が十分に得られず、スイッチやコネクタ用途では、金属ケースと絶縁皮膜間に高電圧が掛かるため絶縁破壊を起こすこともあった。絶縁耐圧性を高めるために絶縁皮膜を厚くするのは、電気電子部品の小型薄型低背化に反する。つまり両者はトレードオフの関係にある。
【0006】
このようなことから、本発明者等は、絶縁皮膜を厚くすることなく絶縁性を高める方法を検討した。その結果、絶縁皮膜に混入して絶縁性を害する塵、ほこりなどの異物の影響は、金属基材上に絶縁皮膜を多層に形成することで低減すること、また絶縁性に有害な気泡も減少することを知見し、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。
本発明は、電気電子機器に搭載される電気電子部品の小型薄型低背化に適した金属材料、その製造方法、および前記金属材料を用いた電気電子部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載発明は、金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に2層以上の多層絶縁コーティング層が設けられ、絶縁耐圧性を有することを特徴とする電気電子部品用金属材料である。
【0008】
請求項2記載発明は、前記多層絶縁コーティング層の少なくとも1層が着色され、前記着色によって該多層絶縁コーティング層の絶縁欠陥の自動検知率を向上させたことを特徴とする請求項1記載の電気電子部品用金属材料である。
【0009】
請求項3記載発明は、金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に、流動状塗布物を塗布し乾燥させる塗装工程を複数回施すことを特徴とする請求項1記載の電気電子部品用金属材料の製造方法である。
【0010】
請求項4記載発明は、金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に、流動状塗布物を塗布し乾燥させる塗装工程を複数回施す電気電子部品用金属材料の製造方法であって、前記塗装工程の少なくとも1回の工程で塗布する流動状塗布物に着色剤が添加されていることを特徴とする請求項2記載の電気電子部品用金属材料の製造方法である。
【0011】
請求項5記載発明は、請求項1または2記載の電気電子部品用金属材料が用いられていることを特徴とする電気電子部品である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載発明の電気電子部品用金属材料は、金属基材1上の少なくとも絶縁を要する箇所に2層以上の多層絶縁コーティング層2が設けられているので、例えば、多層絶縁コーティング層を2層にして設ける場合、1層目の絶縁コーティング層に異物が混入しても、その上には2層目の健全な絶縁コーティング層が形成されるので異物の影響が低減される。また1層あたりの厚さを薄くできるため気泡も抜け易い。従って絶縁コーティング層を厚くすることなく絶縁性を向上させることができる。また絶縁コーティング層を、絶縁を要する箇所にのみ設けることにより、電気電子部品の小型薄型低背化、流動状塗布物の節減、放熱性の高度維持が図れる。
【0013】
請求項2記載発明の電気電子部品用金属材料は、前記多層絶縁コーティング層の少なくとも1層を着色し、前記着色によって該多層絶縁コーティング層の絶縁欠陥の自動検知率を向上させたものなので、絶縁コーティング層の外観検査が的確に行え、前記金属材料の信頼性が高まる。
【0014】
請求項3記載発明は金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に、流動状塗布物を塗布し乾燥させる塗装工程を多数回(2回以上)施す電気電子部品用金属材料の製造方法であり、請求項4記載発明は請求項3記載発明における塗装工程の少なくとも1回の工程で塗布する流動状塗布物に着色剤を添加する製造方法であり、いずれも従来用いられている装置を使用して製造することが可能であり、製造コストが安い。
【0015】
請求項5記載の電気電子部品は、請求項1または2記載の電気電子部品用金属材料が用いられているので、絶縁コーティング層を厚くせずに内蔵部品との間の絶縁性を十分確保でき、小型薄型低背化に有利である。また絶縁コーティング層の少なくとも1層を着色したものは絶縁コーティング層の外観検査が的確に行えるため信頼性に優れる。さらに絶縁コーティング層を、絶縁を要する箇所にのみ設けると、流動状塗布物の節減、電気電子部品の小型薄型低背化、放熱性の高度維持が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の電気電子部品用金属材料の実施形態を図1〜5を参照して具体的に説明する。
図1(イ)、(ロ)に示す金属材料は、板状の金属基材1の片側表面上に2層のコーティング層2(2a、2b)を長手方向にストライプ状に設けたものである。図1中、(イ)は平面図、(ロ)は(イ)のA−A断面図である。
【0017】
図2の横断面図に示す金属材料は、板状の金属基材1の両側表面上にそれぞれ2層の絶縁コーティング層2(2a、2b)を長手方向にストライプ状に設けたものである。
【0018】
図3の平面図に示す金属材料は、板状の金属基材1の片側表面上に2層の絶縁コーティング層2(2a、2b)を長手方向にスポット状に設けたものである。
【0019】
図4の平面図に示す金属材料は、板状の金属基材1の片側表面上に2層の絶縁コーティング層2(2a、2b)をドーナツ状に設けたものである。本発明において、絶縁コーティング層の形状は特に限定されるものではなく、例えば、ストライプ状、スポット状、円形、ドーナツ状、周辺がギザギザになったもの、これらが混在したものなど任意である。
【0020】
図5の横断面図に示す金属材料は、板状の金属基材1の両側表面上にそれぞれ1層目の絶縁コーティング層2aを設け、次いで特に高い絶縁性を要する箇所に2層目の絶縁コーティング層2bを設けたものである。
【0021】
本発明の電気電子部品用金属材料は、例えば、次のようにして製造することができる。
即ち、走行する金属基材の表面に塗装装置の吐出口から流動状塗布物を供給して塗布し、次いで加熱して溶剤を揮発させると同時に、硬化および化学反応させて1層目の絶縁コーティング層を形成する。次にその上に2層目のコーティング層を1層目と同様にして形成する。必要に応じて3層目、4層目を形成する。
【0022】
本発明において、金属基材には、打抜加工性および絞り成形性に優れ、良好な延性およびばね性を備えた洋白(Cu−Ni系合金)、リン青銅(Cu−Sn−P系合金)、42アロイ(Fe−Ni系合金)、ステンレスなどが好適に用いられる。中でもリン青銅は各性能のバランスが良く望ましい。金属基材の導電率は電磁シールド性の観点から5%IACS以上が好ましく、特に10%IACS以上が好ましく、比透磁率は1以上が好ましい。
【0023】
本発明において、金属基材は所定の金属原料を溶解鋳造して得られる鋳塊に熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、脱脂処理をこの順に施す常法により製造できる。金属基材の形状は板、条などであり、その厚みは0.01〜0.5mmが好ましく、特に0.05〜0.2mmが好ましい。
【0024】
本発明の電気電子部品用金属材料は、前記金属基材上の絶縁を要する箇所に絶縁コーティング層を多層に設けて、絶縁性を害する異物や気泡の影響を低減したものである。なお、前記金属基材上の絶縁を要する箇所とは、金属材料を用いて電気電子部品(筐体やケースなど)を形成したとき、絶縁を要する内蔵部品が近接または接触する箇所である。
【0025】
異物や気泡が混入した箇所は絶縁コーティング層が薄くなっているため高電圧が掛かると金属基材と内蔵部品間にスパークが発生し絶縁破壊を起こす。異物などが存在しなければ絶縁コーティング層の厚みが3μm程度でも直流1kVの絶縁耐圧性が得ることができる。異物などの多くは絶縁コーティング層を形成する際のクリーンブースやクリーンボックスなどで混入する。
【0026】
電気電子部品には直流または交流で通常500V以上の絶縁耐圧性が求められ、一方、小型薄型低背化のためには絶縁コーティング層の厚みは60μm以下が好ましく、特に30μm以下が好ましい。
【0027】
本発明の金属材料は、金属基材の絶縁を要する箇所に絶縁コーティング層を多層に設けて絶縁性を高めたもので、好ましくは多層絶縁コーティング層の全厚みが25μmで500V以上の絶縁耐圧性が得られるものである。従ってこの金属基材を用いることにより電気電子部品の小型薄型低背化が可能である。
【0028】
本発明において、多層絶縁コーティング層の1層目の厚みと2層目以降の厚みの関係、多層絶縁コーティング層全体の厚みと各層の厚みの関係、各層相互の厚みの相対的な関係などは製造条件などを配慮して適宜決めれば良い。但し、1層あたりの厚みは薄すぎるとピンホールが発生し易くなるので2μm以上が好ましく、特に3μm以上が好ましい。
【0029】
本発明において、流動状塗布物にはポリエステル系樹脂など任意の樹脂のワニスが使用でき、樹脂はとしては、後に、半田接合、リフロー半田実装などの加熱工程を経る場合はポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリアミド系、エポキシ系などの耐熱性樹脂が好ましい。特にポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂が好ましい。また、多層絶縁コーティング層の各層を形成する流動状塗布物の樹脂は同じであっても異なっても良い。また、樹脂以外ではアルミナ等のセラミックや層状ケイ酸塩をグリーンシート状に塗布形成し、加熱焼き付けしたものも使用できる。多層絶縁コーティング層の体積固有抵抗は1010Ω・cm以上が好ましく、特に1014Ω・cm以上が好ましい。
【0030】
絶縁コーティング層となる塗布物を紫外線(UV)や電子線(EP)を照射して硬化させる場合は、溶剤などの揮発成分を含まない塗料或いは塗布物を用いるので塗布厚みがそのままコーティング厚みになる。
【0031】
本発明において、多層絶縁コーティング層は、従来用いられる装置等を利用して安価に、生産性良く設けることができる。但し、絶縁コーティング層を多層に設けるためには、流動性塗布物は高精度に塗布する必要がある。特に、塗布の際、金属基材幅方向の位置は高精度に設定する必要がある。そのために金属基材の両側端をガイド(溝を入れたロール状や板状タイプ)で案内するのが望ましい。
【0032】
本発明において、流動状塗布物を高精度に塗布するには、流動状塗布物を塗装装置の吐出口から供給する方法が推奨される。この方法では吐出口を金属基材表面の幅方向に対する所定位置に対面させて固定し、前記吐出口から吐出する流動状塗布物を走行する金属基材上に連続的に供給し、続いて加熱炉に通して溶媒を揮発させ、同時に、樹脂を反応させ硬化させて絶縁コーティング層を焼付ける。塗布条件は絶縁コーティング層の形状や使用する流動状塗布物の種類により選定する。通常、吐出圧力3〜50kg/cm、吐出口と金属基材との間隔10〜200μmである。
【0033】
本発明において、絶縁コーティング層の横断面形状は、矩形、台形、逆台形など任意であり、その多くは幅が金属基材幅より狭い。前記断面形状は両端部に斜めに垂れていたり、両端上部が角状に部分突出している場合もある。吐出口の形状は、絶縁コーティング層の横断面形状に近似させるのが望ましい。
【0034】
コーティング層に存在して絶縁性を害するピンホールなどの表面の絶縁欠陥は、多層絶縁コーティング層を着色することで検出され易くなる。この傾向はイメージセンサーを利用した画像認識装置による自動検査の場合も、目視検査の場合も同じ傾向である。この着色は、前記流動状塗布物に、着色剤を添加することで容易に行える。本発明においては、多層絶縁コーティング層の少なくとも1層を着色することによりピンホールなどの欠陥を的確に自動検知でき、多層絶縁コーティング層の絶縁欠陥の自動検知率を向上させることができる。
【0035】
本発明において、着色の色は特に限定されるものではなく、全ての色において欠陥部分と無欠陥部分との間の色調差が明瞭に顕れる。
着色の色が無彩色(白、灰、黒など)の場合、黒色はN値3以下が好ましく、白色はN値8以上が好ましい。有彩色(赤、黄、緑など)の場合、赤色は色相10R〜10RP、明度3〜5、彩度10〜14が好ましい。黄色は色相10Y〜10YR、明度6〜8、彩度10〜14が好ましい。緑色は色相10G〜10GY、明度5〜7、彩度5〜10が好ましい。青色は色相5PB〜10BG、明度3〜5、彩度10〜14が好ましい。紫色は色相10P〜10PB、明度4〜6、彩度10〜14が好ましい。
【0036】
本発明において、着色剤には、好ましくは、無機顔料、有機顔料、前記顔料の前駆体物質、染料、或いはこれらの混合物が用いられる。黒色着色の無機顔料としてはカーボンブラックが用いることができる。その他にはCu−Cr−Mn系、Mn−Fe−Cu系、Co−Fe−Cr系、Ni−Cu系、Cr−Fe系、Fe−Cu系、Ti−Mn−Cu系、Cu−Cr−Fe系などの複合金属酸化物が使用できる。その他の色の無機顔料としては酸化チタンなどを用いることができる。有機顔料としては、例えば、銅フタロシアニンなどがある。また水または溶媒に可溶なアニリンブラックなどの染料を使用してもよい。また、これら顔料および染料を樹脂などでコーティングした加工物でもよい。
着色の色の中では、外観の高級感や、条材との色調の差、光を反射しないなどの理由から、黒色または艶消し着色が好ましく、特に艶消し黒色が好ましい。
黒色コーティング層を形成する場合、塗装ワニスへの黒色顔料の添加量は、好ましくは0.5〜60質量%、より好ましくは3〜30質量%である。
【0037】
本発明においては、前記流動状塗布物に、上記の着色剤に加え、さらに艶消剤を添加することも好ましい。本発明に用いることができる艶消剤としては、シリカ(SiO)が好ましい。シリカの製造法には湿式法と乾式法があり、湿式法にはさらに沈降法とゲル法があり、どの方法で製造したシリカも使用できる。この他、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、樹脂などをコーティングして分散性を改善したシリカなども使用可能である。どのシリカを用いるかは樹脂コーティング層の強度などに合わせて選択する。
艶消剤、例えばシリカは、平均粒径が好ましくは1〜5μm、より好ましくは2〜4μmであり、添加量は好ましくは0.2〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%とする。
【0038】
シリカ以外の樹脂系の艶消剤も使用可能である。艶消剤は要求される樹脂皮膜の光沢度に合わせてその量を調整して塗装ワニスに添加する。艶消剤も着色剤と同様に塗装ワニスに分散させ、好適な光沢度(グロス)を得ることができる。
【0039】
多層絶縁コーティング層の少なくとも1層を着色することにより、絶縁樹脂コーティング層の欠陥を極めて高感度に検出して、不良品を除去できる。そのエラー率は、最大でも25%以下、着色剤及び艶消剤の添加量を好適に調整した場合においては0.5%以下を実現できる。
【0040】
本発明において、金属基材上にNiやSnなどの金属層を設けて、金属基材の耐食性、はんだ付け性、絶縁コーティング層との密着性を向上させることができる。前記金属層は前記金属基材上全面に設けても、金属基材の露出部分にのみ設けても良い。
【0041】
本発明において、金属基材または金属層にシランカップリング処理やチタネート系カップリング処理などの有機、無機結合の下地処理を施して絶縁コーティング層の密着性を向上させることができる。
【0042】
本発明の金属材料を用いて電気電子部品の筐体を構成する場合、前記金属材料の絶縁コーティング層を絶縁を要する箇所に設け、内蔵電気品と筐体とを絶縁する。前記絶縁コーティング層は絶縁を要する部品との位置関係に応じて筐体の内側に設けても外側に設けても良い。素子内蔵用低背化筐体やコネクタシールド筐体においてその効果が大きく発現される。
【0043】
本発明の電気電子部品が電磁シールドする対象は、携帯機器(携帯電話、携帯情報端末、パソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオ、ゲーム機など)のプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器、SAWフィルター、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの個別部品、前記個別部品を複数内蔵させたアンテナスイッチモジュール、フロントエンドモジュール、RF一体型モジュール、ブルートゥース(Bluetooth)モジュール、イメージセンサーモジュール、チューナーモジュール、無線LANモジュールなどの各種モジュール、或いは液晶ドライバ(LCD)やキーボード、マザーボードなどのプリント基板側の端子接続コネクタとFPCケーブル側などの接続コネクタ、基板対基板コネクタ、さらには検出スイッチや小型メモリ・カード用コネクタ、リムーバブルタイプまたは半組み込みタイプのコネクタなどである。
【実施例1】
【0044】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
厚み0.1mm、幅10mmの金属条(金属基材)に電解脱脂、水洗、酸洗、水洗、乾燥(加熱)の各工程をこの順に施し、次いで各条の絶縁を要する箇所に多層絶縁コーティング層を設けて電気電子部品用金属材料を製造した。金属条にはJIS合金C5210R(リン青銅、古河電工社製)、C7701R(洋白、三菱電機メテックス社製)またはSUS304−CPS(ステンレス、日新製鋼社製)を用いた。
【0045】
前記多層絶縁コーティング層は、ワニス(流動状塗布物)を、塗装装置の矩形状吐出口から、走行する金属基材表面の幅方向中央部分に垂直に吐出し、次いで300℃で30秒間加熱して一層目の絶縁コーティング層をストライプ状に形成し、この上に二層目、三層目を同様にして設けた。前記金属基材は幅方向を固定して走行させた。
【0046】
前記ワニスにはn−メチル2−ピロリドンを溶媒とするポリイミド(PI)溶液(荒川化学社製)とポリアミドイミド(PAI)溶液(東特塗料社製)の2種類を用いた。前記ワニスの吐出圧力は10〜15kg/cm、吐出口と金属基材との間隔は20〜50μmとした。絶縁コーティング層の横断面形状は略矩形(厚み5μm以上、幅7mm)であった。
【0047】
得られた電気電子部品用金属材料について、絶縁耐圧性を下記方法により調べた。
即ち、前記金属材料を、その絶縁コーティング層がステンレスロール表面に接触するように通過させ、このステンレスロールと金属材料間に0.5kVの直流電圧をスパークテスタ(クリントン社製)を用いて印加し、絶縁耐圧性の劣る箇所で発生するスパークの発生回数を計測した。前記金属材料の試験長さは各100mとした。
【0048】
前記金属材料について、絶縁コーティング層のピンホール個数を自動外観検査と目視検査により調べ、自動外観検査で検知したピンホール個数iと目視検査で検知した個数jとから、自動外観検査の認識エラー率[(j−i)/j]×100%を求めた。自動外観検査には一般的な2値化による白黒画像処理手段を備えた画像認識装置を使用し、目視検査にはCCDを用いたマイクロスコープ(キーエンス社製VH−8000)を使用した。倍率は200倍とした。前記金属材料の試験長さは各5mとし、試験個数(n)は各10とした。認識エラー率の平均値が5%未満を、自動外観検査性が極めて良好(◎)、5〜15%を良好(○)と評価した。
【実施例2】
【0049】
少なくとも1層を、着色顔料と艶消剤を添加したワニスを用いてコーティングした他は実施例1と同じ方法により電気電子部品用金属材料を製造し、実施例1と同じ方法により絶縁耐圧性を調べた。また着色した層をコーティングする毎に実施例1と同じ方法により自動外観検査性を評価した。
【0050】
[比較例1]
絶縁コーティング層を1層設けた他は、実施例1と同じ方法により電気電子部品用金属材料を製造し、実施例1と同じ方法により絶縁耐圧性を調べた。
【0051】
実施例1、2と比較例1の結果を表1に示す。表1には絶縁コーティング層の厚みを併記した。コーティング層の厚みは、1層をコーティングする毎にマイクロメータを用いて測定した。また着色顔料と艶消剤の種類と添加量を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
なお用いた着色剤、艶消剤の平均粒径は次のとおりである。
カーボンブラック:0.04μm
Cu−Cr系複合酸化物:0.26μm
酸化チタン(TiO):0.23μm
銅フタロシアニン:0.02μm
シリカ(SiO):2.0μm
【0055】
表1から明らかなように、本発明例(実施例1、2:No.1〜16)の金属材料はいずれもスパーク発生回数が0で絶縁耐圧性が優れた。これは絶縁コーティング層が多層に形成されているため異物や気泡の影響が軽減されたためである。また少なくとも1層を着色したもの(No.11〜16)は表面欠陥(ピンホール)の自動検査が的確に行えた。
これに対し、比較例1(No.17〜23)の金属材料は絶縁コーティング層が単層のためいずれもスパークが多数回発生し絶縁耐圧性が劣った。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態を示す電気電子部品用金属材料の(イ)は平面図、(ロ)は(イ)のA−A断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す電気電子部品用金属材料の横断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示す電気電子部品用金属材料の平面図である。
【図4】本発明の第4実施形態を示す電気電子部品用金属材料の平面図である。
【図5】本発明の第5実施形態を示す電気電子部品用金属材料の横断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 金属基材
2 多層絶縁コーティング層
2a一層目の絶縁コーティング層
2b二層目の絶縁コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に2層以上の多層絶縁コーティング層が設けられ、絶縁耐圧性を有することを特徴とする電気電子部品用金属材料。
【請求項2】
前記多層絶縁コーティング層の少なくとも1層が着色され、前記着色によって該多層絶縁コーティング層の絶縁欠陥の自動検知率を向上させたことを特徴とする請求項1記載の電気電子部品用金属材料。
【請求項3】
金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に、流動状塗布物を塗布し乾燥させる塗装工程を複数回施すことを特徴とする請求項1記載の電気電子部品用金属材料の製造方法。
【請求項4】
金属基材上の少なくとも絶縁を要する箇所に、流動状塗布物を塗布し乾燥させる塗装工程を複数回施す電気電子部品用金属材料の製造方法であって、前記塗装工程の少なくとも1回の工程で塗布する流動状塗布物に着色剤が添加されていることを特徴とする請求項2記載の電気電子部品用金属材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の電気電子部品用金属材料が用いられていることを特徴とする電気電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−173208(P2007−173208A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241909(P2006−241909)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】