説明

電池および電池の製造方法

【課題】 部品点数の少ない電池および電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ボルト170を金型1000に配置して,射出成形によりボルト170の頭部171に被膜F1を形成する。次に,被膜F1を形成したボルト170と,蓋体130と,正極端子50とを金型2000に配置して,射出成形により一体化する。次に,一体成形したものを,被膜除去剤に浸漬することにより,被膜F1を除去して構造体200とする。構造体200に捲回電極体10を接合する。その接合したものを,捲回電極体10が電池容器本体120の内部に配置されるようにして,電池容器本体120と接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電池および電池の製造方法に関する。さらに詳細には,部品点数の少ない電池および電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池は,携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器,ハイブリッド車両や電気自動車等の車両など,多岐にわたる分野で利用されている。これらのうち,車両や大型電子機器類には,単電池を直列または並列につないだ組電池が搭載されることが一般的である。
【0003】
そして,組電池には,単電池同士を電気的に接続するために,バスバーを介して単電池の電極端子同士を接続したものがある。このバスバーと電極端子との接続に,ボルトとナットとを用いて締結する方式が用いられることがある。この場合,ボルトとナットによる締結が好適になされていないと,その締結が経時的に緩むおそれがある。締結箇所の締結が緩んだ電池では,電気抵抗は大きい。したがって,確実に締結を行うことが好ましい。
【0004】
特許文献1の図1には,バスバーにより電極端子間を互いに接続されているバッテリパックが示されている。この場合,特許文献の図4に示すように,外部電極端子と内部電極端子とがカシメ構造により電気的に接続されている。そして,ボルトは,絶縁部材と外部電極端子との間に挟まれて配置されている。そのため,ボルトは,蓋体と外部電極端子とからはずれないようになっている。ただし,ボルトは,蓋体と外部電極端子とに固定されているわけではない。わずかにあそびがある(特許文献1の図4参照)。
【0005】
このあそびがないと,バスバーにより電極端子間を締結する際に,ボルトとナットとの締結が好適になされないおそれがある。締結が好適になされないと,バスバーと電極端子との間の接触抵抗が大きい場合がある。この場合のバッテリパックの性能は低い。また,締結そのものが好適になされた場合であっても,外部電極端子に応力が加わることがある。その応力が,内部電極端子を介して電極体に加わることがある。この応力により,電極体が歪むおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−192595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,特許文献1に記載のバッテリパックでは,外部電極端子(特許文献1の図3,4の41)と内部電極端子(特許文献1の図3の71や51)を設ける必要がある。これでは,部品点数が多い。そのため,コストが高い。そして,組み付け工程の数も多い。つまり,サイクルタイムが長い。したがって,部品点数の少ない電池を製造することが好ましい。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,部品点数の少ない電池および電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における電池は,発電要素である電極体と,電極体と電気的に接続されているとともに貫通孔の設けられている電極端子と,電極体と電解液とを内部に収容するための電池容器本体と,電池容器本体に接合された蓋体と,電極端子と蓋体とを絶縁するとともに凹部の設けられている絶縁部材と,凹部に配置されている頭部と貫通孔を貫通しているねじ軸とを備えるボルトと,を有するものである。また,蓋体と電極端子とが絶縁部材を介して一体に形成されている。そして,ボルトの頭部の表面と絶縁部材の凹部の表面との少なくとも一方の一部には,被膜が形成されている。かかる電池の部品点数は少ない。また,バスバーを用いて電極端子同士を締結して組電池とする際に,好適に締結することができる。
【0010】
上記に記載の電池において,被膜の材質は,所定の溶媒に対して溶解する樹脂であるとともに,絶縁部材の材質は,所定の溶媒に対して溶解しない材質であるとよい。ボルトと絶縁部材との間に隙間ができるからである。
【0011】
上記に記載の電池において,所定の溶媒に対して溶解する樹脂の材質は,ポリカーボネートと,ポリ塩化ビニルと,ポリプロピレンとのうちのいずれかの材質のものであるとよい。樹脂が十分に溶解するからである。そのため,被膜はそれほど厚くない。
【0012】
また,本発明の別の態様における電池の製造方法は,発電要素である電極体を作成する電極体作成工程と,蓋体と電極端子とボルトとを絶縁部材を介して一体化して構造体を作成する構造体作成工程と,電池容器の内部に電極体を配置するとともに電解液を注入して構造体で封止することで単電池とする単電池作成工程とを有する方法である。そして,構造体作成工程は,ボルトの頭部に第1の樹脂により被膜を形成する被膜形成工程と,ボルトの被膜と蓋体と電極端子とを一体化して絶縁部材を形成する絶縁部材形成工程と,被膜を除去する被膜除去工程とを有する。かかる電池の製造方法では,製造工程は少ない。部品点数が少ないからである。例えば,カシメ構造を設ける必要がない。
【0013】
上記に記載の電池の製造方法において,被膜除去工程では,被膜を溶解させるとともに絶縁部材を溶解させない溶媒を用いるとよい。これにより,ボルトを覆っている被膜のみを除去することができるからである。
【0014】
上記に記載の電池の製造方法において,被膜除去工程で用いる溶媒が,構造体を洗浄する洗浄液でもあるとなおよい。構造体自体を洗浄する工程を別途設ける必要がないからである。すなわち,サイクルタイムは短い。
【0015】
上記に記載の電池の製造方法において,第1の樹脂と溶媒との組み合わせは,それぞれ,ポリカーボネートおよびアセトンと,ポリ塩化ビニルおよびアセトンと,ポリプロピレンおよびアセトンと,ポリ塩化ビニルおよびエタノールとの組み合わせのうちのいずれかであるとよい。構造体の形成をより好適に行うことができるからである。
【0016】
上記に記載の電池の製造方法において,単電池の電極端子とバスバーとを締結することで組電池とする組電池作成工程を有するとよい。電極端子とバスバーとを好適に締結して組電池を作成することができるからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,部品点数の少ない電池および電池の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係るバッテリパックを説明するための斜視図である。
【図2】実施形態に係るバッテリの概略構成を説明するための斜視図である。
【図3】実施形態に係るバッテリの捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図4】実施形態に係るバッテリの捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図5】実施形態に係るバッテリの捲回電極体の電極板の断面構造を説明するための断面図である。
【図6】実施形態に係るバッテリの蓋体と電極端子との構造体を説明するための斜視図である。
【図7】実施形態に係るバッテリの蓋体と電極端子との構造体の断面構造を説明するための断面図である。
【図8】実施形態に係るバッテリを構成するボルトを示す図である。
【図9】実施形態に係るバッテリの製造方法を説明するための断面図(その1)である。
【図10】実施形態に係るバッテリの製造方法を説明するための断面図(その2)である。
【図11】実施形態に係るバッテリの製造方法を説明するための断面図(その3)である。
【図12】実施形態に係るバッテリの製造方法を説明するための断面図(その4)である。
【図13】実施形態に係るバッテリの製造方法を説明するための断面図(その5)である。
【図14】実施形態に係るバッテリの製造方法を説明するための断面図(その6)である。
【図15】実施形態に係るバッテリのボルト付近を拡大した断面図である。
【図16】実施形態に係る別のバッテリの蓋体と電極端子との構造体を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池とその製造方法について,本発明を具体化したものである。
【0020】
1.バッテリパックの基本構造
本形態のバッテリパックBPは,図1に示すように,バッテリ100を直列に接続した組電池である。バッテリ100は,角型の単電池である。バッテリパックBPでは,図1に示すように,バッテリ100の正極端子50と,そのバッテリ100に隣り合うバッテリ100の負極端子60とが,バスバー190を介して締結されている。この締結は,ボルトとナットによりなされている。
【0021】
バッテリ100の概略構成を図2の斜視投影図に示す。図2は,図1に示したバッテリパックBPからバッテリ100を取り出して描いたものである。バッテリ100は,電池容器110の内部に図3に示す扁平形状の捲回電極体10を有するものである。電池容器110は,図2に示すように,電池容器本体120と,蓋体130とを備えるものである。電池容器110の内部には,捲回電極体10が配置されている。この捲回電極体10は,実際に発電に寄与する発電要素である。蓋体130は,電池容器本体120に接合されている。
【0022】
電池容器110の内部には,電解液が注入されている。電池容器110の内部に注入された電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC)等のエステル系溶媒や,エステル系溶
媒にγ−ブチロラクトン(γ−BL),ジエトキシエタン(DEE)等のエーテル系溶媒
等を配合した有機溶媒が挙げられる。また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO)やホウフッ化リチウム(LiBF),六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩を用いることができる。
【0023】
図2に示すように,バッテリ100は,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150と,絶縁部材160と,ボルト170,180とを有している。これらの詳細については後述する。
【0024】
図3は,捲回電極体10を示す斜視図である。図3に示すように,捲回電極体10は扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には,正極端部30が突出している。正極端部30は,後述するように,正極板の正極芯材が突出している箇所である。捲回電極体10の他方の端部には,負極端部40が突出している。負極端部40は,後述するように,負極板の負極芯材が突出している箇所である。
【0025】
図4は,捲回電極体10の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体10は,図4に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。すなわち,捲回電極体10は,正極板Pと負極板Nとをこれらの間にセパレータS,Tを介在させて交互に配置したものである。
【0026】
正極板Pは,正極芯材であるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布したものである。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMnO),コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。負極板Nは,負極芯材である銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布したものである。負極活物質として,非晶質炭素,難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,黒鉛等の炭素系物質が用いられる。
【0027】
図4に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を含む正極合材層を形成した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極合材層を形成していない箇所である。負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を含む負極合材層を形成した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極合材層を形成していない箇所である。
【0028】
図4中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図3でいえば横方向)を示している。図4中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図3の捲回電極体10の周方向)を示している。
【0029】
セパレータS,Tは,ポリエチレンやポリプロピレン等の多孔性フィルムである。セパレータS,Tの厚みは,10〜50μm程度である。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質のものである。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0030】
図5は,正極板P(もしくは負極板N)の斜視断面図である。図5中の括弧外の各符号は,正極の場合の各部を,括弧内の各符号は,負極の場合の各部を示している。図5中の矢印Aが示す方向は,図4中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図4中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の長手方向である。
【0031】
図5に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図5中左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極活物質が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0032】
図5の括弧内の符号で示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NAが形成されたものである。図5中左側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極活物質が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様の厚みで負極合材層NAが形成されている。ただし,図4に示したように,捲回時には,正極非塗工部P2と負極非塗工部N2とは,反対側に突出した状態で捲回されることとなる。
【0033】
2.蓋体と電極端子との一体構造
本形態に係るバッテリ100では,蓋体130と電極端子50,60とは一体構造をなしている。この一体構造を図6に示す。構造体200は,図6に示すように,蓋体130と,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150,160と,ボルト170,180とを有している。そして,後述するように,蓋体130と,正極端子50と,負極端子60とが絶縁部材150,160を介して一体に形成されている。
【0034】
正極端子50は,捲回電極体10の正極端部30と電気的に接続されている正極側の端子である。正極端子50は,捲回電極体10の正極端部30と溶接されている。これにより,正極端子50は,捲回電極体10から集電することができるようになっている。もちろん,正極端子50と正極端部30との電気的接続方法は溶接以外の方法を用いてもよい。
【0035】
負極端子60は,捲回電極体10の負極端部40と電気的に接続されている負極側の端子である。負極端子60は,捲回電極体10の負極端部40と溶接されている。これにより,負極端子60は,捲回電極体10から集電することができるようになっている。もちろん,負極端子60と負極端部40との電気的接続方法は溶接以外の方法を用いてもよい。
【0036】
絶縁部材150は,蓋体130と正極端子50とを絶縁するための部材である。そのため,蓋体130と,正極端子50とが接触しないように,絶縁部材150は形成されている。そして絶縁部材150の材質は,後述するように樹脂である。また,絶縁部材150は,バッテリ100を密閉するためのものでもある。
【0037】
絶縁部材160は,蓋体130と負極端子60とを絶縁するための部材である。そのため,蓋体130と,負極端子60とが接触しないように,絶縁部材160は形成されている。そして絶縁部材160の材質は,後述するように樹脂である。この樹脂として,絶縁部材150と同じものを用いればよい。また,絶縁部材160は,バッテリ100を密閉するためのものでもある。
【0038】
ボルト170は,ナットとともに正極端子50とバスバー190とを締結するためのものである。ボルト180は,ナットとともに負極端子60とバスバー190とを締結するためのものである。
【0039】
図7は,構造体200の正極側を模式的に示す断面図である。図7に示すように,蓋体130と正極端子50とは,絶縁部材150を介して一体に形成されている。前述のとおり,蓋体130と正極端子50との間には,絶縁部材150が配置されるようになっている。そのため,これらの各部材は,互いに絶縁されている。
【0040】
図7に示すように,ボルト170の頭部171は,絶縁部材150の凹部151の内部に配置されている。しかし,凹部151の形状は,頭部171よりわずかに大きい。したがって,ボルト170の頭部171は,絶縁部材150の凹部151に固定されているわけではない。図7に示すように,ボルト170のねじ軸172は,正極端子50の被締結部51の貫通孔54の内部に入っている。つまり,ねじ軸172は,貫通孔54を貫通している。しかし,貫通孔54の径は,ねじ軸172の径より大きい。したがって,ボルト170のねじ軸172は,正極端子50の貫通孔54に固定されているわけではない。
【0041】
ボルト170の頭部171は,絶縁部材150の凹部151と正極端子50との間に位置している。つまり,ボルト170の頭部171は,絶縁部材150の凹部151と正極端子50の被締結部51との間に挟まれている。ボルト170の軸172は,正極端子50の貫通孔54を貫通している。貫通孔54の径は,ボルト170の頭部171の径よりも小さい。したがって,ボルト170が,貫通孔54から抜け落ちることはない。
【0042】
このように,ボルト170は,構造体200から外れないようになっている。ただし,絶縁部材150および正極端子50に固定されているわけではない。なお,負極側のボルト180についても上記と同様である。
【0043】
以上述べたように,本形態の構造体200では,ボルト170,180と絶縁部材150,160との間にわずかに隙間SPがある。したがって,バッテリ100を組電池とする場合に,正極端子50もしくは負極端子60とバスバー190とを好適に締結することができる。したがって,締結した後に,正極端子50もしくは負極端子60とバスバーとの間の接触抵抗は低い。
【0044】
また,構造体200では,蓋体130と絶縁部材150,160とが一体に形成されている。そのため,バッテリ100の気密性は,カシメ構造を有するバッテリ(特許文献1の図4等参照)の気密性よりも高い。よって,電解液が漏れるおそれはほとんどない。また,バッテリ100の部品点数は,カシメ構造を有するバッテリの部品点数に比べて少ない。したがって,コストが低い。
【0045】
3.蓋体と電極端子との一体形成方法(構造体作成工程)
3−1.被膜形成工程
ここで,構造体200の形成方法について説明する。まず,図8に示すボルト170を,図9に示すように,金型1000の内部に配置する。ここで,図2等に示すボルト170とボルト180とは,バッテリ100における配置箇所が正極側か負極側かについて異なるだけである。つまり,それ以外については,同じである。したがって,この工程についても,ボルト170とボルト180とを区別する必要はない。したがって,正極側について説明する。
【0046】
ボルト170を配置した後の金型1000には,図9に示すように,キャビティC1がある。キャビティC1は,ボルト170の頭部171を覆う位置にある。ただし,キャビティC1は,ボルト170の座面173に対面する位置にはない。したがって,ボルト170の座面173には,当該工程において被膜が形成されることはない。
【0047】
続いて,射出成形により,キャビティC1の箇所に被膜を形成する。そのため,図10に示すように,金型1000のキャビティC1に湯口(図示せず)から第1の樹脂を流し込む。この第1の樹脂は,例えばポリカーボネート(PC)である。この第1の樹脂は,後述するように,所定の溶媒に対して溶解するものである。キャビティC1に樹脂が行き渡った後に,樹脂を冷却する。冷却後には,ボルト170の頭部171には,被膜が形成されている。
【0048】
図11に,金型1000から取り出した後のボルト170を示す。ボルト170の頭部171には,被膜F1が形成されている。すなわち,被膜F1は,ボルト170の頭部171を覆っている。しかし,被膜F1は,座面173を覆っていない。なお,被膜F1の材質は,第1の樹脂である。この被膜F1の厚さは0.01mm以上1mm以下である。
【0049】
3−2.絶縁部材形成工程
続いて,蓋体130に絶縁部材150,160を形成する。この工程も,正極側と負極側とで同様であるため,正極側について説明する。図12に,示すように,金型2000に,蓋体130と,正極端子50と,被膜F1の形成されたボルト170とを配置する。次に,図13に示すように,金型2000のキャビティC2(図12参照)に,第2の樹脂を流し込んで,絶縁部材150を成形する。
【0050】
このとき,ボルト170に形成された被膜F1は,第2の樹脂と接触する。しかし,ボルト170は,第2の樹脂と接触しない。つまり,第2の樹脂は,ボルト170の被膜F1と結合しているが,ボルト170の本体とは結合していない。
【0051】
この絶縁部材形成工程において,蓋体130と正極端子50とは,この第2の樹脂と結合する。その際に,接着機能表面処理を用いるとよい。蓋体130と正極端子50とが第2の樹脂とより強く結合するようにするためである。この第2の樹脂は,冷却後に絶縁部材150となる。これにより,図14に示すように,ボルト170の被膜F1と,蓋体130と,正極端子50とが,絶縁部材150を介して一体に形成されている。このとき,図14に示す構造体は,図7に示した構造体200とは,被膜F1が形成されている点において異なっている。
【0052】
負極側についても同様に絶縁部材160を形成することができる。これにより,図6に示したように,絶縁部材160と,負極端子60と,蓋体130と,ボルト180とが一体に形成された構造体200が得られる。正極側における絶縁部材150の成形と負極側における絶縁部材160の成形とは,別々の工程で行ってもよいし,一緒の工程で行うこととしてもよい。もちろん,一緒の工程で行うほうがサイクルタイムは短い。
【0053】
3−3.被膜除去工程
次に,ボルト170,180の頭部171,181に形成されている被膜F1を除去する。そのために,被膜除去剤を用いる。この被膜除去剤は,被膜F1を溶解させる溶媒である。例えば,アセトンである。この被膜除去剤は,被膜F1を溶解させる必要があるため,後述するように,第1の樹脂と組み合わせて選択する。なお,絶縁部材150,160の材料である第2の樹脂は,被膜除去剤に溶解しないものを選択する。
【0054】
具体的には,構造体200を被膜除去剤に浸す。これにより,被膜F1の一部は,被膜除去剤に曝される。被膜F1における被膜除去剤に接触している箇所から,被膜F1が被膜除去剤に溶解していく。このように,構造体200を被膜除去剤に浸すことにより,被膜F1は除去される。ただし,後述するように,被膜F1のうちの一部は,絶縁樹脂150の凹部151とボルト170の頭部171との間に残留することがある。被膜F1を完全に除去することは困難であるからである。
【0055】
これにより,図7に示した構造体200が得られる。そして,前述したように,構造体200のボルト170,180は,それぞれ絶縁部材150,160に固定されていない。
【0056】
3−4.被膜形成樹脂と被膜除去剤との組み合わせ
ここで,被膜F1となる被膜形成樹脂(第1の樹脂)と被膜除去剤との組み合わせについて説明する。前述のとおり,被膜形成樹脂とそれを溶解させる被膜除去剤とは,好適な組み合わせを選ぶ必要がある。この選択により,被膜F1が十分に除去できるか否かが変わるからである。また,被膜F1の除去に要する時間が異なるからである。つまり,サイクルタイムに影響する。
【0057】
表1に,被膜形成樹脂とそれを溶解させる被膜除去剤との組み合わせについて示す。
【0058】
[表1]
樹脂 被膜除去剤
ポリカーボネート(PC) アセトン
ポリ塩化ビニル(PVC) アセトン
ポリプロピレン(PP) アセトン
ポリ塩化ビニル(PVC) エタノール
【0059】
4.電池の製造方法
続いて,バッテリパックBPの製造方法について説明する。本形態の電池の製造方法では,前述した蓋体130と電極端子50,60との一体形成方法で製造された構造体200を用いて電池を製造することに特徴がある。
【0060】
4−1.電極板作成工程
まず,正極芯材PBであるアルミニウム箔に正極用塗工液を塗工して正極用ペースト層を形成する。この正極用塗工液は,溶媒に上記の正極活物質等を混練したものである。次に,正極用ペースト層の形成された正極芯材PBを乾燥炉の内部に搬送しつつその正極用ペースト層を乾燥させる。これにより,正極芯材PBに正極合材層PAが形成される。正極合材層PAは,正極活物質を含む層である。そして,正極合材層PAは,正極芯材PBに結着している。なお,正極芯材PBの両面に正極合材層PAを形成することが好ましい。これにより,正極板Pが作成される。負極板Nについても同様である。
【0061】
4−2.電極体作成工程
続いて,正極板Pおよび負極板Nに,これらの間にセパレータS,Tを介在させて捲回する。これらの捲回順序は,図4に示したように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順序である。これにより,円筒形状の捲回電極体が作成される。そして,この円筒形状の捲回電極体に円筒側面方向からプレスを施すことにより,図3に示した扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0062】
4−3.構造体作成工程
続いて,前述のとおり,構造体作成工程により構造体200を作成する。構造体作成工程には,被膜形成工程と,絶縁部材形成工程と,被膜除去工程とがある。正極端子50および負極端子60を,それぞれ絶縁部材150および絶縁部材160を介して,蓋体130に接合する。これにより,図6等に示した構造体200が作成される。なお,当該工程と,電極板作成工程や電極体作成工程との順序は,入れ替えても構わない。
【0063】
4−4.単電池作成工程
続いて,捲回電極体10の正極端部30を正極端子50に溶接する。また,捲回電極体10の負極端部40を負極端子60に溶接する。そして,その溶接体を電池容器本体120に配置する。このとき,捲回電極体10が電池容器本体120の内部に配置されるようにする。そして,溶接体の蓋体130により電池容器本体120を封止する。そして電池容器110の内部に注液口から電解液を注入する。
【0064】
これにより,バッテリ100が組み立てられる。この後,コンディショニングやエージングなどの処理や,各種の検査工程を行うとよい。以上の工程を経ることにより,バッテリ100が作成される。
【0065】
4−5.組電池作成工程
続いて,複数のバッテリ100を電気的に接続してバッテリパックBPを作成する。まず,図1に示すように,荷重部材191,192でこれらの複数のバッテリ100を挟んで加重した状態で行う。そして,図1に示すように,1つのバッテリ100の正極端子50と,それと隣り合うバッテリ100の負極端子60とをバスバー190を介して連結するのである。この締結を行うことにより,図1に示すように,バッテリパックBPが製造される。
【0066】
4−6.製造されたバッテリ
以上により製造されたバッテリ100のボルト170周辺の拡大図を図15に示す。図15に示すように,ボルト170の頭部171には,薄い被膜210が形成されている。被膜210により覆われている領域は,ボルト170の頭部171の表面の少なくとも一部である。この被膜210は,洗浄剤による洗浄によっても,完全には除去しきれなかった被膜F1の残留被膜である。なお,これらの残留被膜がバッテリ100の電池性能に悪い影響を及ぼすことはない。
【0067】
また,図15に示すように,絶縁部材150における凹部151の表面には,薄い被膜220が形成されている。被膜220により覆われている領域は,絶縁部材150における凹部151の表面の少なくとも一部である。この被膜220も,洗浄剤による洗浄によっても,完全には除去しきれなかった被膜F1の残留被膜である。
【0068】
このように,バッテリ100の完成後においても,ボルト170の頭部171を覆っていた被膜F1のうち,少なくとも一部は,残留している。これらの被膜210,220は,絶縁部材150の凹部151とボルト170の頭部171との間の隙間を全部覆っているわけではない。そして,被膜210,220の材質は,第1の樹脂と同じものである。このように,被膜210,220がバッテリ100に残っているので,その成分を調べることは可能である。
【0069】
図15では,ボルト170の頭部171の表面と絶縁部材150の凹部151の表面との双方に被膜210,220が形成されているとした。しかし,これらのうち少なくとも一方にのみ残留していることもありうる。ここでは,正極側で説明したが,負極側についても同様である。
【0070】
5.変形例
5−1.洗浄工程
本形態では,被膜を溶解して除去する被膜除去工程を有することとした。しかし,被膜除去剤が構造体200の洗浄液も兼ねていることとしてもよい。これにより,構造体200の表面を洗浄することができるからである。すなわち,被膜除去工程と洗浄工程とを一体の工程とすることができるのである。これにより,サイクルタイムをより短いものとすることができる。
【0071】
5−2.電極端子および絶縁部材の形状
電極端子や絶縁部材の形状については,図6に示した形状のものに限らない。例えば,図16に示す形状のものであってもよい。図16の絶縁部材350,360の厚みは,図6の絶縁部材150,160の厚みより薄い。なお,それとともに,正極端子370および負極端子380の形状も,正極端子50および負極端子60の形状とやや異なっている。
【0072】
5−3.絶縁部材の材質
本形態では,絶縁部材150,160を射出成形により形成することとした。しかし,その他の方法により絶縁部材150,160を形成することとしてもよい。ただし,絶縁部材150,160の材質は絶縁性のものである。そうであれば,樹脂に限らない。
【0073】
5−4.電極体の形状
本形態では,扁平形状の捲回電極体10を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法について説明した。しかし,扁平形状の電極体を有する電池に限らない。円筒形状の電極体を有する円筒型電池にも適用することができる。また,捲回しないで正極板と負極板とを平積みした電極体を用いる電池にも適用することができる。平積みした電極体を用いる場合には,電極板等を捲回する工程や,捲回した円筒形状の電極体を扁平形状にするプレス工程等も必須ではない。
【0074】
5−4.電池の種類
また,リチウムイオン二次電池に限らない。ニッケル水素電池やその他の二次電池にも適用することができる。その場合には,電極体の構成はもちろん,リチウムイオン二次電池の電極体の構成と異なっている。そのため,電極板作成工程は必ずしも必要ではない場合がある。しかし,これらの電池であっても,発電要素である電極体は必要である。
【0075】
6.まとめ
以上,詳細に説明したように,本形態の電池の製造方法は,電極端子50,60を,蓋体130に絶縁部材150,160を介して一体形成するものである。その際に,ボルト170の頭部171に被膜F1を形成する。そして,その被膜F1の上から絶縁部材150を形成する。その後に,被膜F1を除去する。これにより,製造工程の少ない電池の製造方法が実現されている。
【0076】
また,本形態のバッテリ100では,ボルト170の頭部171と,絶縁部材150の凹部151との少なくとも一方の一部に,被膜210,220が形成されている。これは,除去しきれなかった被膜F1の残留被膜である。本形態のバッテリ100では,部品点数が少ない。電極端子50,60が特許文献1に記載のように,外部端子と内部端子とに分かれていないためである。したがって,カシメ構造を設ける必要もない。また,電極端子50,60とバスバー190とを好適に締結することができる。
【0077】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,電池であれば,二次電池に限らず,一次電池にも適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10…捲回電極体
30…正極端部
40…負極端部
50…正極端子
60…負極端子
100…バッテリ
110…電池容器
120…電池容器本体
130…蓋体
150,160…絶縁部材
151…凹部
170,180…ボルト
210,220…被膜
1000,2000…金型
BP…バッテリパック
F1…被膜
P…正極板
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素である電極体と,
前記電極体と電気的に接続されているとともに貫通孔の設けられている電極端子と,
前記電極体と電解液とを内部に収容するための電池容器本体と,
前記電池容器本体に接合された蓋体と,
前記電極端子と前記蓋体とを絶縁するとともに凹部の設けられている絶縁部材と,
前記凹部に配置されている頭部と前記貫通孔を貫通しているねじ軸とを備えるボルトと,を有する電池であって,
前記蓋体と前記電極端子とが前記絶縁部材を介して一体に形成されており,
前記ボルトの頭部の表面と前記絶縁部材の凹部の表面との少なくとも一方の一部には,
被膜が形成されていることを特徴とする電池。
【請求項2】
請求項1に記載の電池であって,
前記被膜の材質は,
所定の溶媒に対して溶解する樹脂であるとともに,
前記絶縁部材の材質は,
前記所定の溶媒に対して溶解しない材質であることを特徴とする電池。
【請求項3】
請求項2に記載の電池であって,
前記所定の溶媒に対して溶解する樹脂の材質は,
ポリカーボネートと,ポリ塩化ビニルと,ポリプロピレンとのうちのいずれかの材質のものであることを特徴とする電池。
【請求項4】
発電要素である電極体を作成する電極体作成工程と,
蓋体と電極端子とボルトとを絶縁部材を介して一体化して構造体を作成する構造体作成工程と,
電池容器の内部に前記電極体を配置するとともに電解液を注入して前記構造体で封止することで単電池とする単電池作成工程とを有する電池の製造方法であって,
前記構造体作成工程は,
前記ボルトの頭部に第1の樹脂により被膜を形成する被膜形成工程と,
前記ボルトの前記被膜と前記蓋体と前記電極端子とを一体化して絶縁部材を形成する絶縁部材形成工程と,
前記被膜を除去する被膜除去工程とを有することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電池の製造方法であって,
前記被膜除去工程では,
前記被膜を溶解させるとともに前記絶縁部材を溶解させない溶媒を用いることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電池の製造方法であって,
前記被膜除去工程で用いる溶媒が,
前記構造体を洗浄する洗浄液でもあることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の電池の製造方法であって,
前記第1の樹脂と前記溶媒との組み合わせは,それぞれ,
ポリカーボネートおよびアセトンと,ポリ塩化ビニルおよびアセトンと,ポリプロピレンおよびアセトンと,ポリ塩化ビニルおよびエタノールとの組み合わせのうちのいずれかであることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項8】
請求項4から請求項7までのいずれかに記載の電池の製造方法であって,
前記単電池の電極端子とバスバーとを締結することで組電池とする組電池作成工程を有することを特徴とする電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−169085(P2012−169085A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27665(P2011−27665)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】