説明

電池構造体

【課題】剛性と放電電流量とを低下させることなく、冷却媒体を用いずに電池の放熱性および防振性を向上させるこのできる電池構造体を提供する。
【解決手段】電極の短辺長さをb、電極の面積をS、電池構造体の厚みをcとした際に、下記式1を満たすことを特徴とする電池構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池の構造に関し、より詳細には電池構造と放熱性および防振性との関係に関する。
【背景技術】
【0002】
電池を高出力化・高容量化するためには電極の面積を大きくすることが有効である。特に車両用などの移動用電源として用いられる場合、従来の性能の電極を用いたLiイオン電池ならば少なくとも0.1〜2mの電極面積を必要とする。
【0003】
電極の面積を大きくする場合、電池剛性の確保やハンドリングのために電池の厚みも大きくする必要があった。
【0004】
一方、電池の厚みを大きくすると、電池の発熱に放熱が追いつかずに電池内部の温度が上昇しすぎるという問題があった。電池内部の温度が上昇しすぎた場合、電池の構成要素が熱で分解して電池の劣化を促進する。特にバイポーラ電池の場合、電池内部の熱膨張によって外装が破裂し電解液が飛散するおそれがあり、飛散した電解液が搭載機器に付着することで機器が損傷する場合がある。また、厚みを大きくした電池を移動用電源などの振動を受けやすい場所で用いる場合には、電池が共振して電池を構成する層が剥離するおそれがある。
【0005】
電池の劣化および層の剥離は電池の性能を著しく損なうおそれがある。したがって、電池の放熱性および防振性について対策を行う必要がある。従来の方法としては、放電電流量を制限して電池内部の温度の上昇を抑制する方法や、特許文献1に開示されている冷却媒体を用いて放熱する方法がある。また、電池への振動の軽減による電池の構成要素の保護に着目した発明は行われてこなかった。
【特許文献1】特開2004−273254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、冷却媒体を用いる場合には、冷却媒体を配置するための構造を組み込む必要があり、更に冷却媒体が液体の場合には液絡防止装置を必要とする。その結果、電池の製造工程が増加したり、電池が不必要に大きくなったりという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、電池の剛性と放電電流量とを低下させることなく、冷却媒体を用いずに電池の放熱性および防振性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、電池構造について詳細に検討した結果、電極の短辺長さ、電極の面積および電池構造体の厚みを調節することにより、上記の問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも正極活物質層、集電体、負極活物質層、電解質層、および外装材とからなり、電極の短辺長さをb(mm)、電極の面積をS(m)、電池構造体の厚みをc(mm)とした際に、下記式1を満たすことを特徴とする電池構造体である。
【0010】
【数1】

【発明の効果】
【0011】
本発明により、放熱性および耐震性に優れる電池構造体を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一は、少なくとも正極活物質層、集電体、負極活物質層、電解質層、および外装材とからなり、電極の短辺長さをb(mm)、電極の面積をS(m)、電池構造体の厚みをc(mm)とした際に、下記式1を満たすことを特徴とする電池構造体である。
【0013】
【数2】

【0014】
本発明は、あらゆる電池構造体に適用可能であるが、特にLiイオン電池などの積層構造の電池構造体に有効ある。
【0015】
図1に積層電池構造体10の断面概略図(A)および平面概略図(B)を示すが、本発明は図1に限定されない。図1において、正極活物質層120を両面に配置した集電体100と、負極活物質層121を両面に配置した集電体100とに電解質層160が挟持され、単電池を形成している。電解質層160はセパレータに電解質を保持させたものである。正極活物質層120を両面に配置した集電体100は正極タブ131に接続され、負極活物質層121を両面に配置した集電体100は負極タブ132に接続される。正極タブ131と負極タブ132との一部、および単電池を積層した積層体は外装材140により封入される。電極の長辺長さaと電極の短辺長さbとは、正極活物質層120または負極活物質層121と、集電体100との接触部位の長辺の長さと短辺の長さとを指す。
【0016】
電極の面積Sは、S=a×bにより求められる。電池構造体の厚みcは外装材も含めた電池構造体の厚みを指す。
【0017】
例えば、電極の長辺長さaが200mm、電極の短辺長さbが150mm、および電池構造体の厚みcが3mmである電池構造体の場合、
【0018】
【数3】

【0019】
となり、10>5となるので、上記式1を満たす。
【0020】
上記式1を満たすように電池構造体を構成することで電池構造体の放熱性と剛性とを両立することができ、更に振動を受けても共振し難い電池構造体にすることができる。
【0021】
本発明は、特にLiイオン電池などの積層構造の電池構造体に有効であることを上述したが、Liイオン電池の中でもバイポーラ電池構造体に適用するとより好ましい。
【0022】
バイポーラ電池構造体は、バイポーラ電極を直列積層させるために厚みが大きくなり、その結果、積層の中心部に熱がこもり易くなったり、振動の影響を受けやすくなったりする。このことから、本発明の電池構造体はバイポーラ電極を2以上積層してなるバイポーラ電池構造体に適用するとより好ましい。
【0023】
図2にバイポーラ電池構造体の断面概略図(A)および平面概略図(B)を示すが、本発明は図2に限定されない。図2において、正極活物質層120、集電体100、および負極活物質層121がこの順序で積層し、バイポーラ電極を形成している。バイポーラ電極は電解質層160に挟持され、単電池を形成している。シール150は集電体100に挟持されている。但しシール150は電解質層160に含まれる電解質によって用いない場合もある。詳細については後述のシールの項に記載する。電解質層160はセパレータに電解質を保持させたものである。バイポーラ電極および電解質層からなる積層体の両端には端部集電体101が配置され、正極タブ131または負極タブ131と連結されている。正極タブ131および負極タブ132の一部および積層体を挟持した端部集電体101は外装140により封入される。バイポーラ電池構造体の場合、電極の長辺長さaと電極の短辺長さbとは、正極活物質層120または負極活物質層121と、電解質層160との接触部位の長辺の長さと短辺の長さとを指す。
【0024】
電極の外周をLとすると電極の外周Lは、L=2a+2bにより求められる。電極の外周Lは、電池構造体の厚みcの130倍以上であることが好ましく、より好ましくは130〜300倍であり、特に好ましくは150〜300倍である。電極の外周Lが電池構造体の厚みcの130倍以上であると、十分な放熱性を得ることができるため好ましく、300倍以下であると、防振性と剛性とを維持できるため好ましい。
【0025】
また、電極の外周Lが750〜1450mmであり、尚且つ電池構造体の厚みcが0.1〜10mmであることが好ましい。電極の外周Lが1450mm以内であり電池構造体の厚みcが0.1mm以上であると、剛性およびハンドリングの点で好ましい。また、電極の外周Lが750mm以上であり電池構造体の厚みcが10mm以下であると放熱性の点で好ましい。厚さ方向の密着性を向上させたり、薄くても剛性の高いセパレータを用いたりすることで0.1mm以上でも剛性の十分な電池を構成できるようになった。
【0026】
上述の、「Lはcの130倍以上」と、「Lが750〜1450mmであり、尚且つcが0.1〜10mm」との両方を満たすように電池構造体を構成すると非常に好ましいが、どちらか一方の範囲を満たすだけでも十分な効果を得ることができる。
【0027】
本発明の電池構造体の厚みcは0.1〜8mmであることが好ましい。電池構造体の厚みcが前記範囲内にあると、ハンドリングおよび放熱性においてより好ましい。
【0028】
電極の対角線が260〜550mmであり、尚且つ前記電極の対角線のなす角のうち小さい方の角度が60〜90°であることが好ましい。
【0029】
電極の対角線が260〜550mmであり、尚且つ対角線のなす角のうち小さい方の角度が、90°以下の場合ハンドリングが良くなるため好ましく、60°以上の場合放熱性に優れるため好ましい。
【0030】
[外装材]
本発明の電池構造体に用いられる外装材としては特に限定されないが、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの高分子材料、アルミ、ステンレス、チタンなどの金属材料、または高分子−金属複合材料などを好ましく用いることができ、より好ましくは高分子−金属複合材料である。高分子−金属複合材料を用いた場合、外装材としての強度を維持したまま膜厚を薄くすることが可能であることから、電池構造体の保護および放熱性の点でより好ましい。
【0031】
高分子−金属複合体としては、熱融着性樹脂フィルム、金属箔、剛性を有する樹脂フィルムがこの順序で積層された高分子金属複合フィルムを用いることが好ましい。熱融着性樹脂として、例えば、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、アイオノマー樹脂などを用いることができる。金属箔として、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、銅またはこれらの合金を箔にしたものなどを用いることができる。剛性を有する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどを用いることができる。
【0032】
[セパレータ]
本発明の電池構造体に用いられるセパレータのショアA硬度は20〜110であることが好ましい。ショアA硬度が20以上であると共振周波数が低周波側に移行しにくくなり、振動を受けた際に共振周波数に達する可能性が低くなるため好ましく、ショアA硬度が110以下であると適度に振動を吸収して防振効果が高まるため好ましい。ショアA硬度の測定方法は、JIS−K−6253で規定されている測定方法に基づく。
【0033】
本発明の電池構造体は硬度の異なる前記セパレータを含み、電池構造体の中心に向かって、同等の硬度またはより硬度の小さな前記セパレータが配置されていることが好ましい。硬度は少なくとも2種類あればよい。例として、図3にマスバネモデルを示す。図3において、セパレータA111の硬度の方がセパレータB112の硬度よりも小さい場合、バネ定数はK1>K2となり、ダンパ係数はC2>C1となる。その結果、電池構造体が振動を受けた際に共振周波数を高周波側にずらし、ピーク高さを小さくすることができるため、防振性能をさらに向上させることができる。
【0034】
更に、電池構造体のセパレータとして用いられる物質の多くに、ショアA硬度が低いものの方が熱伝達係数が高いという傾向がみられる。熱伝達係数が高いものほど放熱性が高くなるため、電池の中心に向かってより硬度の小さな前記セパレータが配置されていると、熱のこもり易い電池の中心に放熱性を付与できるため、最高到達温度が低くなり放熱性も向上させられる。
【0035】
セパレータを構成する樹脂としては、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、アラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、無機材を含むポリエステル系樹脂、無機材を含むポリプロピレン系樹脂、および無機材を含むアラミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0036】
これらの樹脂を用いた場合、セパレータを多孔質構造に形成でき、更に防振効果を示すことができるため好ましい。更に上述の樹脂は、防水性、防湿性、冷熱サイクル性、耐熱安定性および絶縁性等にも優れる。また、上述の樹脂の中でもアラミド系樹脂を用いた場合にはセパレータを薄くできるためより好ましい
上述の無機材を含むポリエステル系樹脂、無機材を含むアラミド系樹脂、無機材を含むポリプロピレン系樹脂に含まれる無機材とは、アルミナ、SiOなどの微細な紛体、フィラー体であり、この無機材を前記の樹脂の混入することでセパレータの剛性を上げることができる。また、これら無機材をきっかけとして細孔が形成され易くなり、単位面積あたりの空隙率が大きくなり、透気度、曲路率の高いセパレータを構成することができる。セパレータにおける無機材の含有量は、30〜95質量%が好ましく、より好ましくは50〜90質量%である。
【0037】
また、セパレータ材の曲路率(γ)は、0.5〜2.0であることが望ましい。出力を上げるためには曲路率を小さくすることが望ましいが、あまり値が小さいとセパレータのバネ定数・ダンパ係数が低下し、防振性が低下してしまうおそれがある。曲路率が0.5以上であると防振性に優れる。また、この値が大きすぎると、出力をあげにくくなる場合がある。曲路率が2.0以下であると出力特性に優れる。本願では曲路率は、セパレータを一般の吸着法で求めた吸着表面積S1をその投影面積S0で割ったものと定義する(γ=S1/S0)。
【0038】
セパレータの厚みは電池構造体の強度を失わない程度に薄い方が好ましく、20μm以下であるとより好ましい。セパレータの厚みが薄いと、上記式1に示す範囲内で単電池の積層数を増やすことができるため好ましい。
【0039】
セパレータに保持される電解質については、後述の電解質層の項に記載する。
【0040】
[正極活物質層]
正極活物質の平均粒径は小さい方が好ましく、2μm以下であるとより好ましい。正極活物質の平均粒径が大きいと、セパレータを突き破りマイクロショートを起こすおそれがある。セパレータの厚みが20μm以下の場合、正極活物質の粒径がセパレータの厚みの1/10以下、つまり2μm以下であると正極活物質層の表面が均一となり好ましい。
【0041】
上述のマイクロショートの問題点などから正極活物質の粒径分布もできるだけ小さいほうが好ましい。また、正極活物質以外に補助材を用いる場合にも、平均粒径は小さい方が好ましく、粒径分布もできるだけ小さいほうが好ましい。
【0042】
正極活物質層は正極活物質を含み、正極活物質としては特に限定されないが、Li−Mn系複合酸化物、および/またはLi−Ni系複合酸化物を含むことが好ましい。Li−Mn系複合酸化物の例としてはLiMnOおよびスピネルLiMnが挙げられ、Li−Ni系複合酸化物の例としてはLiNiOが挙げられる。正極活物質として上述のものを用いることにより、電圧−充放電時間のグラフから得られる充放電曲線中の充放電時間軸と水平な部分を傾けることができるため、電圧を計測することで電池構造体の充電状態(SOC)を正確に推定することができる。その結果、過充電や過放電を検知して対処することができる。また、正極活物質として上述のものを用いた場合には、過充電または過放電により電池構造体が故障する際にも反応が穏やかであることから、異常時の信頼性が高いといえる。
【0043】
正極活物質として、LiCoOなどのリチウム−コバルト系複合酸化物、LiFeOなどのリチウム−鉄系複合酸化物、LiFePOなどの遷移金属とリチウムとのリン酸化合物、および遷移金属とリチウムとの硫酸化合物などの遷移金属とリチウムとの化合物;V、MnO、MoOなどの遷移金属酸化物;TiS、MoSなどの遷移金属硫化物;PbO;AgOまたはNiOOHなどを用いることもできる。これらは単独で用いてもかまわないし、併用してもかまわない。
【0044】
正極活物質層には、正極活物質以外にも電解質、電解質塩、および導電助剤などの補助材を含むことができる。電解質および電解質塩の詳細については、後述の電解質層の項に記載する。導電助剤の例としてアセチレンブラック、カーボンブラック、またはグラファイトなどが挙げられる。
【0045】
[負極活物質層]
正極活物質と同様の理由により、負極活物質の平均粒径は小さい方が好ましく、6μm以下であるとより好ましく、2μm以下であると更に好ましい。また、粒径分布もできるだけ小さい方が好ましい。負極活物質以外に補助材を用いる場合にも、平均粒径は小さい方が好ましく、粒径分布もできるだけ小さい方が好ましい。
【0046】
負極活物質層は負極活物質を含み、負極活物質としては特に限定されないが、結晶性炭素材、および/または非結晶性炭素材を含むことが好ましい。結晶性炭素材の例としてはグラファイトが挙げられ、非結晶性炭素材の例としてはハードカーボンが挙げられる。負極活物質として上述のものを用いることにより、電圧−充放電時間のグラフから得られる充放電曲線の充放電時間軸と水平な部分を傾けることができるため、電圧を計測することで電池構造体の充電状態(SOC)を正確に推定することができる。その結果、過充電や過放電を検知して対処することができる。また、負極活物質として上述のものを用いた場合には、過充電または過放電により電池構造体が故障する際にも反応が穏やかであることから、異常時の信頼性が高いといえる。これらの効果は非結晶性炭素材を用いた場合に特に顕著である。
【0047】
また、負極活物質として、TiO、TiおよびTiOなどの金属酸化物;またはLi4/3Ti5/3などの遷移金属とリチウムとの複合酸化物などを用いることもできる。これらは単独でもちいてもかまわないし、併用してもかまわない。
【0048】
負極活物質層には、負極活物質以外にも電解質、電解質塩、導電助剤、などの補助材を含むことができる。電解質および電解質塩の詳細については、後述の電解質層の項に記載する。導電助剤の例としてアセチレンブラック、カーボンブラック、またはグラファイトなどが挙げられる。
【0049】
[電解質層]
電解質層を形成する電解質としては固体高分子電解質またはゲル電解質が挙げられる。
【0050】
固体高分子電解質としては、例えばポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、またはこれらの共重合体などが挙げられる。
【0051】
ゲル電解質は、高分子電解質からなる骨格中に電解液を含んだものである。骨格としてはイオン導伝性を有する固体高分子電解質、またはイオン導伝性を持たない高分子を用いることができる。
【0052】
電解液は電解質塩と可塑剤とからなる。電解質塩として例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、またはLi10Cl10などの無機陰イオン塩、もしくは;Li(CFSON、またはLi(CSONなどの有機陰イオン塩が挙げられる。これらは1種単独で可塑剤と混合してよいし、2種以上を可塑剤と混合してもよい。可塑剤として例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどのエーテル類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;アセトニトリルなどのニトリル類;プロピオン酸メチルなどのエステル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;および酢酸メチル、ギ酸メチルなどのエステル類などが挙げられる。これらは1種単独で電解質塩と混合してよいし、2種以上を電解質塩と混合してもよい。
【0053】
ゲル電解質に用いられる、イオン導伝性を有する固体高分子電解質として、例えばポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、またはこれらの共重合体などが挙げられる。ゲル電解質に用いられる、イオン導伝性を持たない高分子として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルクロライド、ポリアクリロニトリル、またはポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0054】
ゲル電解質において、固体高分子電解質と電解液との質量比は20:80〜98:2が好ましい。
【0055】
電解質層はセパレータに上述の電解質を保持させたものである。
【0056】
[集電体]
集電体は、圧延等の方法により作製された金属箔からなるものや、スプレーコート等の方法により作製された金属箔以外の薄膜からなるものがある。
【0057】
金属箔からなるものとしては、特に限定されないが、例えば、ニッケル材とアルミニウム材とを貼り合せたクラッド材の箔、ニッケル箔、ニッケル系合金の箔、アルミニウム箔、またはステンレス箔などがあげられる。コスト面では、アルミニウム箔を用いることが好ましく、強度面ではステンレス箔を用いることが好ましい。
【0058】
金属箔以外の薄膜からなるものとしては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、鋼、チタン、ニッケル、ステンレス、またはこれらの合金の粉末とバインダーとの混合物などがあげられる。これらの金属粉末は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。バインダーとしては、エポキシ樹脂などがあげられる。
【0059】
集電体の厚みは、5〜20μmが好ましく、特に好ましくは8〜15μm、さらに好ましくは10〜15μmである。集電体の厚みが5μm以上である場合、剛性の点から好ましく、10μm以上である場合、剛性の点から特に好ましい。また、集電体の厚みが20μm以下である場合、電池の放熱性の点から好ましい。
【0060】
[シール]
本発明のバイポーラ電池は、集電体同士の間にシールを備えることができる。シールは、正極活物質層、電解質層および負極活物質層を取り囲むように配置されるため、電解質層としてゲル電解質を用いた場合に、電解液の漏出を防ぐことができる。
【0061】
シールは、特開2004−158343号公報に記載のように、熱融着性のある第一の樹脂同士の間に、第一の樹脂よりも融点が高く非導電性の第二の樹脂が集電体と並行になるように介在している構造が好ましい。第一の樹脂と第二の樹脂の組み合わせとしては、第一の樹脂が180℃未満の融点を有し、第二の樹脂が180℃以上の融点を有し第一の樹脂と熱融着させることのできるものが製法上好ましい。これらの樹脂としては、特に限定されないが、例えば、第一の樹脂としてポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタンまたは熱可塑オレフィンゴムなどが挙げられ、第二の樹脂として、ナイロン6、ナイロン66、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチレンなどのポリアミド系樹脂またはシリコーンゴムなどが挙げられる。
【0062】
電池構造体における電極の短辺長さ、電極面積および電池構造体の厚みの関係について研究がなされてこなかったため、従来の電池構造体における電極の大きさの限界はA6サイズ程度であった。その結果、電池をより高出力化・高容量化させることができずにいた。しかし、本発明により、約A5〜A2サイズといったこれまでにない大きさを持った電極を備えた電池構造体を作製することが可能となり、それに伴い電池をより高出力化・高容量化させることが可能となった。
【0063】
本発明の第二は、上述の電池構造体が2以上、直列および/または並列に接合されてなる組電池である。図4A、4Bおよび4Cに示した電池構造体(10または20)をケース170に入れた組電池モジュール31の外観模式図を図5A、5Bおよび5Cに示し、これを6並列に接続した組電池30の外観模式図を図6A、6Bおよび6Cに示す。図6A、6Bおよび6Cにおいて、各組電池モジュール31は連結板180と固定ネジ190により一体化し、各組電池モジュール31の間に弾性体200を設置して防振構造を形成している。また、各組電池モジュール31のタブ133はバスバー210により連結されている。図4A、4Bおよび4C、図5A、5Bおよび5Cおよび図6A、6Bおよび6Cは、電池構造体、組電池モジュールおよび組電池の一例であり、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
本発明の第三は、上述の電池構造体または上述の組電池を搭載した車両である。本発明の電池構造体または本発明の電池構造体からなる組電池は信頼性および発電特性に優れることから、車両等の移動用電源として好ましく用いることができる。図7に示すように、本発明の電池構造体(10または20)および組電池30は、省スペースであることから、車両40の床下に設置してもよいし、シートバック裏またはシート下などに設置することができる。
【実施例】
【0065】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0066】
(実施例2、4〜31および比較例4〜10)
まず、実施例4のバイポーラ電池構造体の製造方法を示す。
【0067】
15μmのSUS箔を集電体として用い、SUS箔の一面に正極活物質としてLi−Mn系のLiMnO(平均粒径2μm)を10μmの厚みに塗布し、正極活物質層とした。その後、SUS箔の一方の面に、負極活物質として非結晶性炭素材料のハードカーボン(平均粒径6μm品)を15μmの厚みに塗布し、負極活物質層とした。
【0068】
加架橋型ゲル電解質の前駆体であるPVdFをポリエステル不織布セパレータ(厚さ20μm:硬度ショアA 61)に染込ませ電解質層とした。端部集電体として上述のSUS箔を用い、一面に上述の正極活物質層を形成したもの、および一面に負極活物質層を形成したものを作製した。電極のサイズはA4サイズとなるように作製した。
【0069】
単電池層を積層し、正極端側にはアルミニウムのタブ(厚さ100μm:幅100mm)を振動溶着し、負極端側にはCuのタブ(厚さ100μm:幅100mm)を振動溶着し、熱融着性樹脂フィルムとしてマレイン酸変性のポリプロピレンフィルム、金属箔としてSUS、剛性を有する樹脂フィルムとしてナイロン−アルミ−変性ポリプロピレンの3層構造からなるラミネート材で封止した。次に、約80℃で約2時間加熱架橋し、実施例4のバイポーラ電池構造体を製造した。電極の長辺長さa、電極の短辺長さb、電池構造体の厚みc、電極の外周L、電極の面積S、および電極の対角線Tを表1に示す。
【0070】
実施例2、実施例5〜31および比較例4〜10のバイポーラ電池構造体は実施例4と同様に作製した。各実施例および各比較例のスペックを表1〜3に示す。但し、正極活物質の材質としてLi−Ni系と記載してあるものはLiNiOを用い、負極活物質の材質として結晶性と記載してあるものはグラファイトを用い、セパレータの材質としてアラミドと記載してあるものはアラミド不織布を用い、ポリプロピレンと記載してあるものはポリプロピレン不織布を用い、PETと記載してあるものはポリエチレンテレフタレート不織布を用い、無機材含有と記載してあるものは無機材料としてSiO超微粉末が添加されており、無機材料を用いた場合SiO超微粉末はセパレータに80質量%含まれており、外装材の材質として樹脂と記載してあるものはPP(ポリプロピレン)を用いた。
【0071】
(実施例1、3および比較例1〜3)
まず、実施例3の積層電池構造体の製造方法を示す。
【0072】
正極は、15μmのアルミ箔を集電体として用い、アルミ箔の両面に正極活物質としてLi−Mn系のLiMnO(平均粒径2μm)を10μmの厚みに塗布し、正極活物質層とした。負極は、銅箔15μmを集電体として用い、銅箔の両面に負極活物質として結晶性炭素材料のハードカーボン(平均粒径6μm品)を15μmの厚みに塗布し、負極活物質層とした。
【0073】
加架橋型ゲル電解質の前駆体をポリエステル不織布セパレータ(厚さ20μm:硬度ショアA 61)に染込ませ電解質層とした。電極のサイズはA4サイズとなるように作製した。
【0074】
単電池層を積層し、正極側にはAlのタブ(厚さ100μm:幅100mm)を振動溶着し、負極側にはCuのタブ(厚さ100μm:幅100mm)を振動溶着し、熱融着性樹脂フィルムとしてマレイン酸変性のポリプロピレンフィルム、金属箔としてSUS、剛性を有する樹脂フィルムとしてナイロン−アルミ−変性ポリプロピレンの3層構造からなるラミネート材で封止した。次に、約80℃で約2時間加熱架橋し、実施例3の積層電池構造体を製造した。電極の長辺長さa、電極の短辺長さb、電池構造体の厚みc、電極の外周L、電極の面積S、および電極の対角線Tを表1に示す。
【0075】
実施例1、および比較例1〜3の積層電池構造体は実施例3と同様に作製した。各実施例および比較例のスペックを表1〜3に示す。但し、負極活物質の材質として非結晶性と記載してあるものはハードカーボンを用い、外装材の材質として金属缶と記載してあるものはアルミニウムを用いた。
【0076】
(実施例32)
実施例1〜31および比較例1〜10の方法により得られる単電池要素の中央部に加速度ピックアップを設定し、インパルスハンマーによってハンマリングしたときの加速度ピックアップの振動スペクトルを測定した。設定方法はJIS−B−0908(振動及び衝撃ピックアップの校正方法・基本概念)に準拠した。測定スペクトルはFFT分析器により解析し周波数と加速度の次元に変換した。得られた周波数の平均化とスムージングを行い、振動伝達率スペクトルを得た。この加速度スペクトルの10〜300Hzまでの平均を振動平均値とした。
【0077】
各実施例の振動平均の各基準の値に対する比を振動減衰率とした。つまり、振動減衰率を、実施例の振動平均値×100/比較例の振動平均値、から求めた。振動減衰率=0%の場合は比較例と実施例の振動平均値が同等であり減衰が起きていないことを示し、振動減衰率=30%の場合は、比較例に対する実施例の振動平均値が30%低減されたことを示す。各基準は同じ電極の面積を有する比較例を用いた。具体的には実施例1、2の比較基準は比較例4とし、実施例3〜6および13の比較基準は比較例5とし、実施例7〜9の比較基準は比較例6とし、実施例10〜12の比較基準は比較例7とし、実施例14、比較例8〜9の比較基準は比較例1とし、実施例15〜16、比較例10の比較基準は比較例2とし、実施例17〜19の比較基準は比較例3とし、実施例20〜22の比較基準は比較例4とし、実施例23〜25の比較基準は比較例5とし、実施例26〜28の比較基準は比較例6とし、実施例29〜31の比較基準は比較例7とした。
【0078】
表1に各実施例の振動減衰率と、各実施例および各比較例の一次共振ピーク(最も低周波側に現れる最大ピーク周波数)とを示す。表1の振動減衰率の欄からは、各実施例において振動平均値が低減されていることがわかる。
【0079】
図8に実施例1、4、7および比較例5の振動伝達率と周波数を示す。図8中のJ1、J4、J7およびH5はそれぞれ実施例1、実施例4、実施例7および比較例5を示す。図8において、比較例5の単電池層は100Hz以下に一次共振ピークが現れていることがわかる。一般の車両上に発生する振動は約100Hz以下であり、この範囲に電池の一次共振があると車両上で電池が共振する。一方、実施例1、4および7の一次共振ピークは100Hzよりも高周波側にあることから、車両上では共振に達しないことがわかる。更に、表1の一次共振ピークの欄において、図8には示していない実施例においても、一次共振ピークが100Hzよりも高周波側に現れていることがわかる。このことから、本発明の電池は防振性能に優れるが分かる。
【0080】
(実施例33)
実施例1〜31および比較例1〜10の方法により得られた電池構造体を用いて、10Cサイクル試験を60分行った。試験中の電池構造体の中央部平均温度の最高到達温度を測定し、試験開始前の温度との差を熱上昇とした。また、60分後に電流を止め室温で放置した際の温度変化を調べ、室温まで戻る時間を放熱時間とした。積層構造の電池の温度の測定は中央に位置する箔の縁に熱電対を取り付けて行った。10Cサイクル試験を60分行うとは、10Cの電流値で、6分の充電と6分の放電とを5回行うことである。
【0081】
表1に各実施例および各比較例の熱上昇および放熱時間を示す。放熱時間の測定は60分まで行い、60分で室温まで戻らない場合には60≧と記載した。表1の熱上昇の欄からは、比較例と比べると実施例の電池構造体は、使用中に電池内部の温度が上昇しにくいことがわかる。更に表1の放熱時間の欄をみると、各比較例の電池構造体の中央部平均温度が60分を経過しても室温にまで低下していないのに対して、実施例の電池構造体の中央部平均温度は、長くても20分経過した時点で室温にまで低下していることがわかる。また、図9に実施例1、4、7および比較例5の放熱性能を示す。図9からも、実施例の方が10Cサイクル試験を行っている最中の0〜60分の間は電池温度−時間曲線の傾きが小さく、60分以降は傾きが大きくなることから、比較例と比べると実施例の電池構造体は、使用中に電池内部の温度が上昇しにくいことがわかる。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】積層電池構造体の断面概略図(A)および平面概略図(B)である。
【図2】バイポーラ電池構造体の断面概略図(A)および平面概略図(B)である。
【図3】バイポーラ電池構造体のマスバネモデルを示した図である。
【図4】電池の外観概略図である。
【図5】組電池モジュールの外観概略図である。
【図6】組電池の外観概略図である。
【図7】電池または組電池を搭載した車両の断面概略図である。
【図8】実施例および比較例の一次共振ピークを示した図である。
【図9】実施例および比較例の放熱性能を示した図である。
【符号の説明】
【0086】
10 積層電池構造体、
20 バイポーラ電池構造体、
30 組電池、
31 組電池モジュール、
40 車両、
100 集電体、
101 端部集電体、
111 セパレータA、
112 セパレータB、
120 正極活物質層、
121 負極活物質層、
131 正極タブ、
132 負極タブ、
133 単電池モジュールのタブ
140 外装、
150 シール、
160 電解質層、
170 電池ケース、
180 連結版、
190 固定ネジ、
200 弾性体、
210 バスバー、
a 電極の長辺長さ、
b 電極の短辺長さ、
c 電池構造体の厚み、
L 電極の外周、
S 電極の面積、
T 電極の対角線、
J1 実施例1のサンプル、
J4 実施例4のサンプル、
J7 実施例7のサンプル、
H5 比較例5のサンプル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも正極活物質層、集電体、負極活物質層、電解質層および外装材からなり、
電極の短辺長さをb(mm)、電極の面積をS(m)、電池構造体の厚みをc(mm)とした際に、下記式1を満たすことを特徴とする電池構造体。
【数1】

【請求項2】
バイポーラ電極を2以上積層してなるバイポーラ構造であることを特徴とする請求項1に記載の電池構造体。
【請求項3】
前記電極の外周が、前記電池構造体の厚みcの130倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電池構造体。
【請求項4】
前記電極の外周が、前記電池構造体の厚みcの150〜2000倍であることを特徴とする請求項3に記載の電池構造体。
【請求項5】
前記電極の外周が750〜1450mm、且つ前記電池構造体の厚みcが0.1〜10mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項6】
前記電池構造体の厚みcが0.1〜8mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項7】
前記電極の対角線が260〜550mmであり、対角線の為す角の小さい角度が60〜90°であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項8】
外装材が、高分子−金属複合材からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項9】
セパレータのショアA硬度が20〜110の範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項10】
硬度の異なる前記セパレータを含み、
電池構造体の中心に向かって、同等の硬度またはより硬度の小さな前記セパレータが配置されていることを特徴とする請求項9に記載の電池構造体。
【請求項11】
前記セパレータが、ポリエステル系樹脂、アラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、無機材を含むポリエステル系樹脂、無機材を含むポリプロピレン系樹脂、および無機材を含むアラミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の電池構造体。
【請求項12】
正極活物質の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項13】
正極活物質がLi−Mn系複合酸化物、および/またはLi−Ni系複合酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項14】
負極活物質の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項15】
負極活物質が結晶性炭素材、および/または非結晶性炭素材を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の電池構造体。
【請求項16】
前記セパレータ材の曲路率は、0.5〜2.0であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の電池構造体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の電池構造体が2以上、直列および/または並列に接合されてなる組電池。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の電池構造体、または請求項17に記載の組電池を搭載することを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−173095(P2006−173095A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326870(P2005−326870)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】