説明

電池用金属部品及びその製造方法、電池

【課題】高負荷放電性能及び耐漏液性能がいずれも良好であり、生産性及びコスト性に優れた電池用金属部品を提供すること。
【解決手段】本発明の電池用金属部品21は、端子部24を有する形状となるようにめっき鋼板M1を金型101でプレス加工してなる。電池用金属部品21の外側表面25aにおいて少なくとも端子部24の表面を含む第1領域R1には、表面粗さRaが0.6μm以上の粗面が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工により形成される電池用金属部品及びその製造方法、並びにこの部品を用いてなる電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばデジタル・スチル・カメラなどのように、大電流を必要とする電池利用機器が多くなってきており、これに対応して例えばニッケル電池(ZR型)のように、重負荷(大電流放電)用の高容量アルカリ電池の需要が増えつつある。
【0003】
一般的に電池は、負荷である機器に備えられた電池ホルダ(電池ケース)に装填され、この状態で当該ホルダの接触端子を介して機器に動作電流を供給する。例えばLR型などの乾電池の起電圧は1.5V程度と低いが、このような低電圧電池から大電流を効率良く取り出すためには、電池と機器との間における電気的接続性を長期間にわたって良好な状態に維持する必要がある。
【0004】
アルカリ電池などの電池の場合、発電要素を密閉封止状態で収容するために金属製の電池缶が使用されている。このような電池缶は、電池用金属部品の一種であって、正極または負極の端子部を兼ねている。例えばLR型のアルカリ電池では、有底円筒状の金属製電池缶に筒状または環状の正極合剤を圧入状態で装填し、この正極合剤の内側に筒状セパレータ及びゲル状負極合剤を装填することにより、発電要素が形成される。この場合、電池缶は正極端子及び正極集電体を兼ねたものとなる。
【0005】
ところで、一般的なアルカリ電池の金属製電池缶は電池缶用めっき鋼鈑の深絞りプレス加工により製造されるが、錆の発生を防ぐことを目的として、NPS(Nickel Plated Steel)と呼ばれるニッケルを主体としためっき鋼板が最近ではよく用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
その例として、外観性を向上させて商品価値を高めるために、例えば母材である鋼板として表裏両面が平滑なブライト材を用い、これにニッケルめっき層を形成してブライト仕上げ面にした電池缶用めっき鋼鈑が従来提案されている。しかし、この構成であると、端子部表面が平滑な鏡面であるため、機器側の接触端子に対して端子部表面全体が接触する結果、接触圧が分散されて小さくなってしまう。よって、低電圧にて接触圧が十分に確保されていないと、接触不良が生じやすい。これを回避するためには、機器側にて十分な接触圧を付与できるような対策を講じる必要があり、それゆえ機器側の負担が大きくなる。
【0007】
これとは別の例として、機器との接触抵抗を低減して実用性を高めるために、例えば母材である鋼板としてダル材を用い、その表面にニッケルめっき層を形成してダル仕上げ面とした電池缶用めっき鋼鈑が近年提案されている。この種のものでは、電池缶表面に微細な凹凸が形成されるため、その凹凸の凸部分への接触圧集中により、低電圧でも安定した電気的接続状態が確実に得られるものと考えられている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−314563号公報
【特許文献2】特開2006−127999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、通常、ダル仕上げは母材である鋼板の表裏両面に施されており、このような両面ダル材を使用して作製された正極缶には、以下のような利点がある。即ち、正極缶において外側表面となる面がダル仕上げ面であると、機器側接触端子との接触圧が高くなることから、機器側接触端子との電気的接続性が改善され、良好な高負荷放電性能が得られることである。その一方で、正極缶において内側表面となる面がダル仕上げ面であると、電池内部でガスが発生しやすくなり、それに起因する内圧上昇によってアルカリ電解液が漏出しやすくなる。
【0009】
つまり、被加工物であるニッケルめっき鋼板の表面が粗面化していると、プレス加工時における摩擦抵抗が大きく、鋼板表面が金型から受ける物理的ダメージが大きいため、母材である鉄の表面が露出しやすくなる。そして、これが耐漏液性能の低下の原因になると考えられている。
【0010】
これに対して、表裏両面がブライト仕上げ面とされている両面ブライト材の利点は、プレス加工時における摩擦抵抗が比較的小さく、鋼板表面が金型から受ける物理的ダメージが小さいため、母材である鉄の表面が露出しにくく、良好な耐漏液性能が得やすいことである。その一方で、機器側接触端子との接触圧が高くなりにくいので、機器側接触端子との電気的接続性が悪く、高負荷放電性能に劣るという欠点がある。
【0011】
以上のように、ダル材の利点である高負荷放電性能、ブライト材の利点である耐漏液性の両方を兼ね備えた電池は未だ実現されておらず、このような電池に対する要望があった。また、このような電池を効率よく低コストで製造する技術も同時に望まれていた。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高負荷放電性能及び耐漏液性能がいずれも良好であり、生産性及びコスト性に優れた電池及びその製造方法、並びに電池に使用される電池用金属部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、端子部を有する形状となるようにめっき鋼板を金型でプレス加工してなる電池用金属部品であって、外側表面において少なくとも前記端子部の表面を含む領域に粗面が存在することを特徴とする電池用金属部品をその要旨とする。
【0014】
電池用金属部品の外側表面における端子部は、機器側接触端子と接触する部分であり、いわば機器側接触端子との電気的接続性の改善に寄与しうる部分である。本発明では、端子部を含む第1領域に粗面が存在するため、粗面の凸部分への接触圧集中により機器側接触端子との接触圧が高くなる。よって、機器側接触端子との電気的接続性が改善され、良好な負荷放電性能を得ることができる。
【0015】
ここで本発明では、電池用金属部品の外側表面に便宜上「第1領域」を設定しているが、この第1領域は端子部の表面を含んでいればその大きさ、形状は限定されず任意に設定可能である。その好適な具体例としては、電池用金属部品が正極端子部を有する有底筒状のアルカリ電池用正極缶である場合、第1領域を缶底部の外側表面全体に設定したものを挙げることができる。あるいは、第1領域を缶底部の外側表面中央部(即ち正極端子部の表面)に設定したものを挙げることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記粗面はプレス加工時に形成されたものであることをその要旨とする。
【0017】
従って、請求項2に記載の発明によると、プレス加工と同時に粗面形成が行われるため、粗面形成工程を別に行う必要がなく、電池用金属部品を効率よく低コストで製造することが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記めっき鋼板は、両面に無光沢ニッケルめっき層を有する平滑なニッケルめっき鋼板であることをその要旨とする。
【0019】
従って、請求項3に記載の発明によると、光沢ニッケルめっきに比べて軟質であり、プレス加工時の追従性が良好で、微小クラックが発生しにくいため、防錆性が向上する。これに加えて、酸化皮膜成長を促進する硫黄などの光沢成分を含まないため、機器側接触端子との接触抵抗を低減することができる。それゆえ、良好な高負荷放電性能をより確実に得ることができる。ここで、無光沢ニッケルめっき層の厚さは特に限定されないが、例えば1μm以上3μm以下が好適である。同層が薄すぎると防錆性を十分に向上できず、さらにプレス加工時の缶内面の鉄露出リスクが高まり、逆に厚すぎると高抵抗化するため好ましくないからである。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記端子部の粗面は表面粗さRaが0.6μm以上であり、前記平滑なニッケルめっき鋼板の表面粗さRaが0.4μm以下であることをその要旨とする。
【0021】
従って、請求項4に記載の発明によると、端子部の表面粗さRaを0.6μm以上としたことにより、機器側接触端子との接触圧を高くするのに好適な粗面が端子部に形成される。また、ニッケルめっき鋼板の表面粗さRaを0.4μm以下としたことにより、プレス加工時における摩擦抵抗を低減するのに好適な平滑面となっている。そのため、負荷放電性能及び耐漏液性能の両方を確実に向上させることができる。
【0022】
ここで「表面粗さRa」とは、JIS B060 1976に規定された中心線平均粗さのことを指している。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記電池用金属部品は、正極端子部を有する有底筒状となるようにめっき鋼板を金型で深絞りプレス加工してなるアルカリ電池用正極缶であることをその要旨とする。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電池用金属部品を使用した電池をその要旨とする。
【0025】
請求項7に記載の発明は、端子部を有する形状となるようにめっき鋼板を金型でプレス加工してなり、外側表面に粗面が存在する電池用金属部品の製造方法であって、前記外側表面を成形するための成形面の一部に粗面加工を施した金型を準備する金型準備工程と、前記金型を用いてめっき鋼板をプレス加工すると同時に前記粗面を形成するプレス工程とを含むことを特徴とする電池用金属部品の製造方法をその要旨とする。
【0026】
従って、請求項7に記載の発明によると、上記のような構造の金型を用いてプレス加工を行うことにより、金型の成形面の一部に施された粗面加工部に対応する箇所に粗面が同時に形成される。このため、粗面形成工程を別に行う必要がなく、例えば請求項1乃至5に記載のもののように外側表面における所定部位に粗面が存在する電池用金属部品を、効率よく低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によると、高負荷放電性能及び耐漏液性能がいずれも良好であり、生産性及びコスト性に優れた電池用金属部品及びそれを使用した電池を提供することができる。また、請求項7に記載の発明によると、上記の優れた電池用金属部品を得るうえで好適な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した一実施の形態のアルカリ電池を図1〜図4に基づき詳細に説明する。
【0029】
図1には、本実施形態におけるLR6型(単3型)のアルカリ電池11が示されている。アルカリ電池11を構成する正極缶21は、正極集電体を兼ねる有底円筒状の電池用金属部品である。正極缶21の内部空間には、発電要素30(正極合剤31、セパレータ41及び負極合剤51)が収納可能となっている。正極缶21の底部中央には突起状の正極端子部24(端子部)が形成されている。このような正極缶21の胴部外周面には、絶縁性の付与及び意匠性の向上等のために外装ラベル23が巻き付けられている。
【0030】
正極缶21の内部には、中空円筒状に成形された3個の正極合剤31が縦積みかつ同心状に収納されている。発電要素30の一部をなす正極合剤31は、二酸化マンガン及び黒鉛をおよそ9:1の比率で混合し、それにバインダーを添加した材料を成形して得た部材である。これら正極合剤31の内側には、ビニロン繊維やレーヨン繊維を基材とした混抄紙からなる有底円筒状のセパレータ41が挿入されている。セパレータ41及び正極合剤31中には、強いアルカリ性を示す電解液が浸潤されている。セパレータ41の中空部には、亜鉛粉、ゲル化剤、アルカリ電解液などを混合してなるゲル状の負極合剤51が充填されている。ゲル化剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸及びその塩類、アルギン酸ソーダ、エーテル化デンプン等が好適である。アルカリ電解液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液などが好適である。
【0031】
正極缶21の開口部22の内面側には、複数の部品を組み付けてなる負極集電体60が装着されかつカシメ付けられ、その結果として正極缶21が液密に封口されている。この負極集電体60は、負極端子板61と、負極集電子71と、封口ガスケット81とによって構成されている。
【0032】
封口ガスケット81は、例えばポリプロピレン樹脂などといったポリオレフィン系のような合成樹脂材料からなる射出成形部品である。ポリプロピレン樹脂の代わりにポリアミド樹脂等のようなアミド系樹脂を用いてもよい。この封口ガスケット81は中央部にボス部82を備えており、そのボス部82を貫通するボス孔82a内には負極集電子71が挿通可能となっている。
【0033】
負極端子板61は、正極缶21とともにアルカリ電池11の外郭を構成する電池用金属部品であって、略円盤状に形成されている。この負極端子板61は、外側面に平坦な端子面が形成された中央平板部62(端子部)と、この中央平板部62の外周部に一体的に形成された環状凹部63とを備えている。中央平板部62の内側面は、封口ガスケット81の外環部の外側面にほぼ密着している。
【0034】
負極集電子71は導電性金属からなる断面円形状の棒材であって、その先端部73は負極合剤51中に挿入配置されるようになっている。一方、負極集電子71の基端部72は、ボス部82のボス孔82aに挿通されるとともに、負極端子板61の中央平板部62の中央部に対してスポット溶接等により固着されている。その結果、負極端子板61の中央平板部62に対して垂直な方向に負極集電子71が延設されている。
【0035】
以上のように構成された負極集電体60は、正極缶21の開口部22の内面側に装着されるとともに、開口部22側の端部がガスケット外周部分とともに径方向中心に向けて直角に折曲されている。その結果、負極集電体60が正極缶21の開口部22に強固にかつ液密的に取り付けられている。
【0036】
ところで、本実施形態の正極缶21は、鉄を含有する母材25の両面にニッケルめっきを施した、いわゆるニッケルめっき鋼板M1を材料とし、金型101を用いてこれを深絞りプレス加工することで作製されたものである。この正極缶21は、外側表面25aにおける所定の領域(第1領域R1)に粗面が存在する、という特徴的構成を有する。
【0037】
具体的にいうと、本実施形態の場合、正極缶21の缶底部の外側表面25aの全体が第1領域R1となっており、その第1領域R1には表面粗さRaが0.6μm以上の粗面が存在している(図1の円領域A1参照)。
【0038】
一方、正極缶21の缶胴部の外側表面25aは平滑面となっている。同じ部分の表層にあるニッケルめっき層26も、下地である母材25の表面状態を反映して平滑面となっている(図1の円領域A2、図4(a)参照)。
【0039】
本実施形態の場合、前記ニッケルめっき層26は、硫黄及び硫黄化合物の含有量が0.001重量%未満(検出限界以下)である無光沢ニッケルめっき層である。ニッケルめっき層26の厚さは1μm〜2μm程度に設定されている。正極缶21の内側表面25bにおける無光沢ニッケルめっき層上には、導電性の向上のためにカーボン等からなる導電膜(図示略)がさらに形成されていてもよい。
【0040】
さらに、本実施形態の負極端子板61は、正極缶形成用のニッケルめっき鋼板M1とほぼ同様のめっき構成を有する両面粗面の鋼板を材料として作製されている。
【0041】
ここで、上記アルカリ電池用正極缶21の製造手順について説明する。
【0042】
まず、図2に示されるような構造の金型101を準備する(金型準備工程)。この金型101は、上面にて開口する断面円形状の成形凹部105を有する第1型102と、その成形凹部105に挿抜可能な形状及び大きさの第2型104とによって、構成されている。成形凹部105の内面は、正極缶21の外側表面25aを成形するための成形面となっている。特に成形凹部105の内底面は、正極端子部24のある缶底部の外側表面25a(本実施形態における第1領域R1)を成形するための粗面成形領域105aとなっている。そして、粗面成形領域105aには、正極缶21の外側表面25aに表面粗さRa0.6μm以上の粗面を形成可能な程度の粗面が加工されている。
【0043】
また、図2に示されるように、成形前のニッケルめっき鋼板M1は、いわゆる両面ブライト材の状態となっている。つまり、母材25の両面全体、及びその表層にあるニッケルめっき層26の全体が、表面粗さRa0.4μm以下の平滑面となっている。
【0044】
次に、この金型101を用いてニッケルめっき鋼板M1を深絞りプレス加工する。そして、このプレスと同時に、第1領域R1である缶底部の外側表面25aに所定の粗面を形成する(図3参照)。以上の結果、正極缶21が完成する。
【0045】
この製造方法によれば、粗面形成工程を別に行う必要がないため、工数が増えることもなく、また、それに伴うコスト増もない。よって、所望形状のアルカリ電池用正極缶21を効率よく低コストで製造することができる。また、この製造方法におけるプレス加工では、成形凹部105の内底面を粗面成形領域105aとしている。この位置は、深絞りプレス成形の際でも、めっき鋼板M1の塑性変形が比較的小さい箇所であるため、塑性変形が大きい箇所に比べて所望の粗面を成形しやすいという利点がある。
【0046】
[実施例]
本実施例では、LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルを19種類用意し、これらを対象として下記の特性に関する試験を行った。ここでは、正極缶21の外側表面25a及び鋼板M1の缶内面側となる面の表面粗さRaをそれぞれ0.2μm〜2.2μmの範囲で変更した。なお、サンプル18は両面の表面粗さRaが1.5μmであるダル材を用いた例であり、サンプル19は両面の表面粗さRaが0.3μmであるブライト材を用いた例である。
【0047】
試験項目としては、DSC撮影枚数及び漏液発生数の2つとした。
【0048】
DSC撮影枚数:LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルをデジタル・スチル・カメラに実装して撮影可能枚数を計測した。試験用サンプルとしては、60℃で20日保存したものを使用した。デジタル・スチル・カメラとしては、SONY社製「DSC−H1」を使用した。試験条件及び試験方法については、CIPA規格「電池寿命測定法」(CIPA DC−002−2003)に準拠し、21℃にて撮影枚数を計測した。撮影時の明るさは約750ルクスとした。撮影は、起動(手順1)→所要時間を5分間とし、ズーム、フラッシュ撮影、ズーム、無フラッシュ撮影を5回繰り返す(手順2)→10分間の休止期間をおく(手順3)という方法で行った。そして、上記手順2,3を繰り返し行い、撮影できた枚数を計測した。
【0049】
漏液発生数:LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルを各々50個用意し、これらを90℃で10日間保存した後、目視検査を行って漏液の発生の有無を確認した。そして、50個の試験用サンプルのうち、漏液が発生しているものの数をカウントした。
【0050】
以上の2つの項目について得られた試験結果を表1に示す。また、それら試験結果を総合して判定した良否についても、併せて表1に示す。表中、○は良好、×は不良を意味している。
【表1】

【0051】
表1に示されるように、DSC撮影枚数は、正極端子部24の外側表面25aの表面粗さRaが大きくなるほど増加する傾向があり、特に0.6μm以上のときに増加が顕著であった。これは、粗面の凸部分への接触圧集中により、正極端子部24とカメラ側接触端子との接触圧が高くなり、カメラ側接触端子との電気的接続性が改善されたことに起因するものと考えられた。その一方で、内側表面25bの表面粗さRaは、DSC撮影枚数に殆ど影響を与えていなかった。
【0052】
漏液発生数は、正極端子部24の内側表面25bの表面粗さRaが0.4μm以下のときは0であったが、0.5μm以上になると明らかに増加する傾向があった。これは、内側表面25bの粗面化による鉄露出によって、電池内部でガスが発生しやすくなり、それに起因する内圧上昇によってアルカリ電解液が漏出しやすくなったからであると推測された。
【0053】
そして、これらの結果を考慮して評価を行ったところ、サンプル4,5,9が、良好と判定された。これら3つのサンプルにおいては、両面ダル材並みのDCS撮影枚数(高負荷放電性能)と、両面ブライト材並みの耐漏液性能とを実現でき、2つの特性を両立することができた。
【0054】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0055】
(1)正極缶21の外側表面25aにおける正極端子部24は、機器側接触端子と接触する部分であり、いわば機器側接触端子との電気的接続性の改善に寄与しうる部分である。本実施形態の正極缶21では、正極端子部24を含む第1領域R1に粗面が存在するため、粗面の凸部分への接触圧集中により機器側接触端子との接触圧が高くなる。よって、機器側接触端子との電気的接続性が改善され、良好な負荷放電性能を得ることができる。
【0056】
(2)また、本実施形態では、正極缶21の内側表面25bにも平滑面が存在している。正極缶21の内側表面25bは機器側接触端子と接触する部分ではなく、機器側接触端子との電気的接続性の改善に寄与する部分ではない。その一方で、当該内側表面25bは、電池内部に収容されたアルカリ電解液と接触する部分であるため、電池内部でのガス発生の抑制に寄与しうる部分であると言える。従って、表面が平滑な鋼板M1を使用することで、プレス加工時における摩擦抵抗が比較的小さくなり、鋼板M1表面が金型101から受ける物理的ダメージが小さくなる結果、母材25である鉄の表面が露出しにくくなり、良好な耐漏液性能を確実に得ることができる。
【0057】
(3)本実施形態では、両面に無光沢のニッケルめっき層26を有するニッケルめっき鋼板M1を使用しているが、この鋼板M1は光沢ニッケルめっきに比べて軟質であり、プレス加工時の追従性が良好で、微小クラックが発生しにくいため、防錆性を向上させることができる。これに加え、酸化皮膜成長を促進する硫黄などの光沢成分を含まないため、機器側接触端子との接触抵抗の上昇を低減することができる。それゆえ、良好な高負荷放電性能を長期間維持することができる。
【0058】
(4)本実施形態の正極缶21は、プレス加工時に同時に形成された粗面を有している。従って、粗面形成工程を別に行う必要がなく、正極缶21を効率よく低コストで製造することが可能となる。つまり、生産性及びコスト性に優れた正極缶21を実現することができ、これを使用することで生産性及びコスト性に優れたアルカリ電池11を実現することができる。
【0059】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、本発明をLR6型(単3型)の円筒形アルカリ電池に具体化したが、他のタイプの円筒形アルカリ電池、例えば、LR20型(単1型)、LR14型(単2型)、LR1型(単5型)、LR03型(単4型)などに具体化してもよい。あるいは、本発明をニッケル乾電池(ZR型)やリチウムイオン電池に具体化してもよい。また、電池の形状も筒状に限定されず、例えば扁平なボタン状などであってもよい。
【0061】
・上記実施形態の正極缶21では、図4(a)に示されるように、粗面の存在する第1領域R1が、缶底部の外側表面25aの全体に設定されていた。これに代えて、例えば、図4(b)に示す別の実施形態の正極缶21のようにしてもよい。この場合、粗面の存在する第1領域R1が、缶底部の外側表面25aの中央部のみ、換言すると正極端子部24の表面のみに設定されている。
【0062】
・上記実施形態では、母材25の両面において無光沢のニッケルめっき層26を1層ずつ有するニッケルめっき鋼板M1からなる正極缶21を例示したが、図5に示す別の実施形態のようにしてもよい。即ち、内側表面25bにある無光沢のニッケルめっき層26上に光沢あるいは半光沢のニッケルめっき層27を形成したり、外側表面25aにある無光沢のニッケルめっき層26上に光沢あるいは半光沢のニッケルめっき層27を形成したりしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、負極端子板61を構成する鋼板M1の表面の両側を粗面としたが、外側表面のみを粗面としてもよい。さらに、負極端子板61を構成する母材25の外側表面25aの一部のみ、例えば実質的な負極端子部である中央平板部62のみを粗面とし、その外周にある環状凹部63を平滑面としてもよい。
【0064】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0065】
(1)正極端子部を有する有底筒状となるように両面が平滑なニッケルめっき鋼板を金型で深絞りプレス加工してなるアルカリ電池用正極缶であって、外側表面において少なくとも前記正極端子部の表面を含む第1領域に粗面が存在することを特徴とするアルカリ電池用正極缶。
【0066】
(2)正極端子部を有する有底筒状となるように両面が平滑なニッケルめっき鋼板を金型で深絞りプレス加工してなるアルカリ電池用正極缶であって、缶底部の外側表面全体に粗面が存在することを特徴とするアルカリ電池用正極缶。
【0067】
(3)正極端子部を有する有底筒状となるように両面が平滑なニッケルめっき鋼板を金型で深絞りプレス加工してなるアルカリ電池用正極缶であって、缶底部の外側表面中央部に位置する前記正極端子部の表面に粗面が存在することを特徴とするアルカリ電池用正極缶。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明を具体化した実施形態のアルカリ電池を示す概略断面図。
【図2】実施形態のアルカリ電池用正極缶の製造手順を説明するための概略断面図。
【図3】同じく製造手順を説明するための概略断面図。
【図4】(a)は実施形態のアルカリ電池用正極缶、(b)は別の実施形態のアルカリ電池用正極缶を示す斜視図。
【図5】別の実施形態のアルカリ電池用正極缶を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0069】
11…電池としてのアルカリ電池
21…電池用金属部品としてのアルカリ電池用正極缶
24…端子部としての正極端子部
25a…外側表面
25b…内側表面
26,27…ニッケルめっき層
61…電池用金属部品としての負極端子板
62…端子部としての中央平板部
101…金型
M1…めっき鋼板としてのニッケルめっき鋼板
R1…第1領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子部を有する形状となるようにめっき鋼板を金型でプレス加工してなる電池用金属部品であって、外側表面において少なくとも前記端子部の表面を含む第1領域に粗面が存在することを特徴とする電池用金属部品。
【請求項2】
前記粗面はプレス加工時に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の電池用金属部品。
【請求項3】
前記めっき鋼板は、両面に無光沢ニッケルめっき層を有する平滑なニッケルめっき鋼板であることを特徴とする請求項1または2に記載の電池用金属部品。
【請求項4】
前記端子部の粗面は表面粗さRaが0.6μm以上であり、前記平滑なニッケルめっき鋼板の表面粗さRaが0.4μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電池用金属部品。
【請求項5】
前記電池用金属部品は、正極端子部を有する有底筒状となるようにめっき鋼板を金型で深絞りプレス加工してなるアルカリ電池用正極缶であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電池用金属部品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電池用金属部品を使用した電池。
【請求項7】
端子部を有する形状となるようにめっき鋼板を金型でプレス加工してなり、外側表面に粗面が存在する電池用金属部品の製造方法であって、
前記外側表面を成形するための成形面の一部に粗面加工を施した金型を準備する金型準備工程と、
前記金型を用いてめっき鋼板をプレス加工すると同時に前記粗面を形成するプレス工程と
を含むことを特徴とする電池用金属部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−251453(P2008−251453A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93771(P2007−93771)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】