電源装置
【課題】 キャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを解消することができる信頼性にすぐれた電源装置を提供する。
【解決手段】 単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する際に、その指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスV3を付加する。
【解決手段】 単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する際に、その指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスV3を付加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流電圧をスイッチングによりレベル変換するコンバータ、およびこのコンバータの出力をスイッチングにより交流に変換するインバータからなる電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(PV)の発電電力を取り出し、それをコンバータで昇圧(レベル変換)し、昇圧した直流電圧をインバータで交流に変換して負荷に供給する電源装置として、インバータを商用交流電源系統と連系して動作させる系統連系運転の機能、およびインバータを商用交流電源系統と関わりなく動作させる自立運転の機能を有するものがある(例えば特許文献1)。
【0003】
この電源装置では、自立運転時、インバータに対するスイッチング用のPWM信号がキャリア信号(三角波信号電圧)と正弦波の指令信号Vrms_ST_REF(実効値)との電圧比較により生成される。この生成されたPWM信号によってインバータのスイッチング素子がオン,オフされ、そのオン,オフデューティに応じたレベルの交流電圧Vinv_ad_rms(実効値)がインバータから出力される。さらに、実際に出力される交流電圧Vinv_ad_rmsと指令信号Vrms_ST_REFの電圧との差ΔVrmsが求められ、その電圧差ΔVrmsのPI制御により得られる補正電圧Vrms_refpiが指令信号Vrms_ST_REFに付加される。この付加によって図10に示す新たな指令信号Vac_Refが得られ、その指令信号Vac_Refに基づくPWM信号の生成により、歪みの小さい正弦波電圧をインバータから出力するようにしている。
【0004】
ここで、
【数2】
【0005】
である。
【0006】
Ksoftはインバータ起動時にソフト起動を行うための“0”〜“1”のソフトスタート係数。ωt=ωt+Δωt。Δωt=2πHz/fc。Hzは商用交流電源系統の周波数(50/60Hz)。fcはインバータ用のPWM信号を生成するためのキャリア信号周波数である。
【特許文献1】特開2001−37246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の電源装置の場合、インバータ出力電圧の零クロス付近で指令信号Vac_Refの有効レベルが低下するため、図11に示すように、インバータから出力される交流電圧Vinv_ad_rmsの零クロス付近に歪みが生じるという問題がある。一般に、自立運転では抵抗負荷における出力電圧歪み率が総合5%以下となるように設計されるが、上記の電源装置では零クロス付近にマージンがない。
【0008】
また、上記のように、実際に出力される交流電圧Vinv_ad_rmsと指令信号Vrms_ST_REFの電圧との差ΔVrmsを指令信号にフィードバックして加えるものでは、比較的高いキャリア信号周波数でないと歪み低減効果が小さく、制御負荷も重くなるという問題がある。
【0009】
この発明は、上記の事情を考慮したもので、その目的は、キャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを解消することができる信頼性にすぐれた電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明の電源装置は、直流電圧をスイッチングによりレベル変換するコンバータ、このコンバータの出力をスイッチングにより交流に変換するインバータ、このコンバータおよびインバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する制御手段を備えたものであって、前記制御手段は、前記インバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する際に、その指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスを付加する。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電源装置によれば、キャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを解消することができ、信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1において、1は太陽電池(PV)で、光を受けることにより、直流電圧を出力する。この出力電圧が開閉器2を介してコンデンサ3,4に印加され、そのコンデンサ3,4の電圧がコンバータたとえば昇圧チョッパ5に供給される。昇圧チョッパ5は、直流リアクトル6、スイッチング素子たとえばIGBT7、逆流防止用ダイオード8、およびコンデンサ9を有し、制御部である制御部60から供給されるPWM信号に応じてIGBT7がオン,オフ(スイッチング)することにより、入力電圧(直流電圧)を所定レベルに昇圧(レベル変換)する。
【0013】
この昇圧チョッパ5の出力電圧が単相インバータ20に供給される。単相インバータ20は、4つのスイッチング素子たとえばIGBT21,22,23,24からなるフルブリッジ回路、これらIGBTにそれぞれ逆並列接続された還流ダイオードD、および各IGBTのゲートに接続されたゲート駆動回路31,32,33,34を有し、制御部60から供給されるPWM信号に応じて各IGBTがオン,オフ(スイッチング)することにより、入力電圧(直流電圧)を所定周波数の交流電圧に変換する。
【0014】
この単相インバータ20の出力端に、交流リアクトル41およびコンデンサ42からなるノイズ低減用のLCフィルタを介して、さらにリレー接点43,44を介して、コンデンサ45,46の直列回路が接続される。そして、コンデンサ45,46の直列回路に商用交流電源系統(単相AC200V)47が接続される。また、単相インバータ20の出力端に、上記交流リアクトル41およびコンデンサ42からなるノイズ低減用のLCフィルタを介して、さらにリレー接点48を介して、コンデンサ49が接続される。このコンデンサ49に生じる電圧が、自立運転用の交流電源(単相AC100V)50の電圧として外部出力される。リレー接点43,44,48は、制御部60により制御される。
【0015】
制御部60は、制御の中枢となるMCU61、データ記憶用の不揮発性メモリ(EEPROM)62、電圧・電流検出用のA/Dコンバータ63、昇圧チョッパ5および単相インバータ20に対するPWM信号生成用のPWM生成器64、および電圧・電流検出用のA/Dコンバータ65などを有する。そして、太陽電池1の電圧(PV電圧という)、太陽電池1の電流(PV電流という)、このPV電流の地絡、昇圧チョッパ5の出力電圧(昇圧電圧という)のそれぞれ検出ラインがA/Dコンバータ63に接続され、単相インバータ20の出力電圧(インバータ出力電圧という)、単相インバータ20の出力電流(インバータ出力電流という)、インバータ出力電流の直流成分、商用交流電源系統(単相AC200V)の電圧(および周波数)のそれぞれ検出ラインがA/Dコンバータ65に接続される。
【0016】
MCU61は、各検出ラインを通して各部の状態を監視し、その監視結果に応じてPWM生成器64によるPWM信号の生成を制御するもので、主要な機能として次の(1)〜(3)を有する。
(1)リレー接点43,44をオンしてリレー接点48をオフし、単相インバータ20を商用交流電源系統47と連系して動作させる系統連系運転の制御手段。
【0017】
(2)リレー接点43,44をオフしてリレー接点48をオンし、単相インバータ20を商用交流電源系統47と関わりなく動作させる自立運転の制御手段。
【0018】
(3)昇圧チョッパ5および単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号(例えば三角波信号電圧)と指令信号との電圧比較により生成するとともに、とくに自立運転時の単相インバータ20に対するPWM信号の生成に際し、指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスを付加する制御手段。
【0019】
作用について説明する。
先ずリレー接点44がオンされて商用交流電源系統47の電圧と周波数が監視されるとともに、PV電圧が監視される。この系統電圧・周波数およびPV電圧が規定値以下の状態で一定の待機時間(例えば300sec程度)が経過すると、リレー接点43がオンされ、単相インバータ20が商用交流電源系統47と連系して動作する系統連系運転が開始される。この開始までの待機時間中、系統電圧の周波数(系統周波数という)が認識されて不揮発性メモリ62に記憶される。
【0020】
そして、単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号がキャリア信号(三角波信号電圧)と正弦波の指令信号Vac_Ref(実効値)との電圧比較により生成される。正弦波の指令信号Vac_Refは、不揮発性メモリ62に記憶された系統周波数と同じ周波数に設定される。そして、生成されたPWM信号によって単相インバータ20のスイッチング素子がオン,オフされ、そのオン,オフデューティに応じたレベルの交流電圧Vinv_ad_rms(実効値)が単相インバータ20から出力される。
【0021】
この系統連系運転において、商用交流電源系統47側の負荷で電力が消費されて昇圧チョッパ5の出力電圧が下降した場合、昇圧チョッパ5に対するPWM信号のオン,オフデューティが増加方向に制御され、昇圧チョッパ5の出力電圧が予め定められたレベルまで上昇する。この過程で、太陽電池1から最大電力を得るためのMPPT(山登り法)制御が実行される。
【0022】
系統電圧が所定値以上に上昇すると、無効電力を注入して系統電圧の上昇を抑える無効電力注入制御が行われる。また、商用交流電源系統47が遮断された場合には、単独運転であることを検出する必要がある。これは、系統連系運転に於ける重要な制御機能の一つとなる。すなわち、単独運転検出機能として、受動方式と能動方式があり、両者が併用される事が多い。受動方式は、周波数の変動率や位相跳躍(位相の急変)などを監視して検出するものである。能動方式には、インバータ出力電圧の位相角を系統電圧に対して少し進めて運転する周波数シフトがあり、零クロス検出を系統電圧で行ない、前の零クロス検出の周期でインバータ出力電圧を生成していく。従って、商用交流電源系統47が遮断されるまでは系統電圧の周波数に同期してインバータ出力電圧が生成されるが、商用交流電源系統47が遮断されると、1サイクル毎にインバータ出力電圧の周期が上記進み位相角だけ減少して周波数異常として検出される。更に、商用交流電源系統47が遮断される過渡期に周波数および電圧が所定範囲を逸脱した場合にはその時点で能動検出(UVR:低電圧、OVR:高電圧、UFR:低周波数,OFR:高周波数)が行われる。
【0023】
また、インバータ出力過電圧、インバータ出力過電流、インバータ出力電流の直流分超過、PV電圧超過、PV電流超過、PV地絡(零相CTを介したPV電流の不平衡検出)、昇圧電圧などが監視され、これら監視結果のいずれかに異常が生じた場合は操作表示部(図示しない)でエラーが報知されるとともに運転が停止される。
【0024】
一方、自立運転では、単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号がキャリア信号(三角波信号電圧)と正弦波の指令信号Vac_Ref(実効値)との電圧比較により生成される。正弦波の指令信号Vac_Refは、系統連系運転の待機時間中に認識されて不揮発性メモリ62に記憶された系統周波数と同じ周波数に設定される。そして、生成されたPWM信号によって単相インバータ20のスイッチング素子がオン,オフされ、交流電圧Vinv_ad_rms(実効値100V)が単相インバータ20から出力される。
【0025】
系統連系運転が実施されずに初めから自立運転が実施される場合には、指令信号Vac_Refの周波数が不揮発性メモリ62に予め記憶されているデフォルトの周波数に設定される。
【0026】
とくに、この自立運転では、図2に示すように、指令信号Vac_Refの正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスV3が付加される。
【0027】
すなわち、指令信号Vac_ref≧0のとき、その指令信号Vac_refが次のように設定される。
【数3】
【0028】
指令信号Vac_ref<0のとき、その指令信号Vac_refが次のように設定される。
【数4】
【0029】
Ksoftはインバータ起動時にソフト起動を行うための“0”〜“1”のソフトスタート係数。ωt=ωt+Δωt。Δωt=2πHz/fc。Hzは商用交流電源系統の周波数(50/60Hz)。fcはインバータ用のPWM信号を生成するためのキャリア信号周波数である。
【0030】
このように、指令信号Vac_Refの正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスV3が付加されることにより、零クロス付近で指令信号Vac_Refの有効レベルが低下するのを抑制できて、図3に示すように、零クロス付近はもちろん全ての波形にわたって歪みが解消された交流電圧Vinv_ad_rmsが単相インバータ20から出力される。
【0031】
出力電圧歪み率THDについては、単相インバータ20の目標出力電圧の振幅をV1とすると、その振幅V1に対する2次〜40次の高調波成分の比率として次式で求めることができ、大幅な改善効果が得られる。
【数5】
【0032】
本発明の出力電圧歪み率と従来の出力電圧歪み率とを図4に対比して示す。とくに、従来のように、実際のインバータ出力電圧と指令信号の電圧との差を指令信号にフィードバックして加えるものでは、比較的高いキャリア信号周波数でないと歪み低減効果が小さく、制御負荷も重くなるという問題があるのに対し、本発明の場合はキャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを大幅に低減できるという効果が得られる。
【0033】
ところで、図5および図6に示すように、元々の指令信号Vac_Refの振幅がV1、その指令信号Vac_Refに付加される補正バイアスがV3、その補正バイアスV3の付加による指令信号Vac_Refの桁上げ振幅がV2のとき、補正バイアスV3は次のように設定される。
【数6】
【0034】
この補正バイアスV3の設定により、補正バイアスV3が付加される場合と付加されない場合とで、単相インバータ20の出力電圧Vinv_ad_rmsの実効値に変化が生じないようになる。この補正バイアスV3の設定の一例を図7に示す。
【0035】
すなわち、補正バイアスV3が付加される場合と付加されない場合の単相インバータ20の出力電圧Vinv_ad_rmsの実効値が等しいとする。
【数7】
【0036】
次に、上式の両辺を二乗して等しいとおく。
【数8】
【0037】
右辺1項は、
【数9】
【0038】
右辺2項は、
【数10】
【0039】
右辺=右辺1項+右辺2項であり、
【数11】
【0040】
これらの式から、補正バイアスV3が付加された場合に得られる単相インバータ20の出力電圧の振幅V2を決めたとき、下式のような補正バイアスV3の2次方程式が得られる。
【数12】
【0041】
補正バイアスV3の2次方程式の解は、2次方程式の解の公式より以下となる。
【数13】
【0042】
V3>0、V2>0の条件から次式でV3が決まる。
【数14】
【0043】
ここで、
【数15】
【0044】
の場合の解の例を図8に示す。
【数16】
【0045】
の場合の解の例を図9に参考として示す。
【0046】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】一実施形態における指令信号に補正バイアスが付加された状態の波形を示す図。
【図3】一実施形態におけるインバータ出力電圧の波形を示す図。
【図4】本発明の出力電圧歪み率と従来の出力電圧歪み率とを対比して示す図。
【図5】一実施形態における指令信号の波形を示す図。
【図6】一実施形態における指令信号に補正バイアスが付加された場合の指令信号の桁上げ振幅を示す図。
【図7】一実施形態における補正バイアスの設定の一例を示す図。
【図8】一実施形態における補正バイアスの一つの解の波形を示す図。
【図9】一実施形態における補正バイアスの他の解の波形を参考として示す図。
【図10】従来装置のフィードバックによる新たな指令信号の波形を示す図。
【図11】従来装置のインバータ出力電圧の波形を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1…太陽電池、5…昇圧チョッパ(コンバータ)、7…IGBT、20…単相インバータ、21,22,23,24…IGBT、31,32,33,34…ゲート駆動回路、47…商用交流電源系統、50…自立運転用の交流電源、60…制御部、61…MCU
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流電圧をスイッチングによりレベル変換するコンバータ、およびこのコンバータの出力をスイッチングにより交流に変換するインバータからなる電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(PV)の発電電力を取り出し、それをコンバータで昇圧(レベル変換)し、昇圧した直流電圧をインバータで交流に変換して負荷に供給する電源装置として、インバータを商用交流電源系統と連系して動作させる系統連系運転の機能、およびインバータを商用交流電源系統と関わりなく動作させる自立運転の機能を有するものがある(例えば特許文献1)。
【0003】
この電源装置では、自立運転時、インバータに対するスイッチング用のPWM信号がキャリア信号(三角波信号電圧)と正弦波の指令信号Vrms_ST_REF(実効値)との電圧比較により生成される。この生成されたPWM信号によってインバータのスイッチング素子がオン,オフされ、そのオン,オフデューティに応じたレベルの交流電圧Vinv_ad_rms(実効値)がインバータから出力される。さらに、実際に出力される交流電圧Vinv_ad_rmsと指令信号Vrms_ST_REFの電圧との差ΔVrmsが求められ、その電圧差ΔVrmsのPI制御により得られる補正電圧Vrms_refpiが指令信号Vrms_ST_REFに付加される。この付加によって図10に示す新たな指令信号Vac_Refが得られ、その指令信号Vac_Refに基づくPWM信号の生成により、歪みの小さい正弦波電圧をインバータから出力するようにしている。
【0004】
ここで、
【数2】
【0005】
である。
【0006】
Ksoftはインバータ起動時にソフト起動を行うための“0”〜“1”のソフトスタート係数。ωt=ωt+Δωt。Δωt=2πHz/fc。Hzは商用交流電源系統の周波数(50/60Hz)。fcはインバータ用のPWM信号を生成するためのキャリア信号周波数である。
【特許文献1】特開2001−37246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の電源装置の場合、インバータ出力電圧の零クロス付近で指令信号Vac_Refの有効レベルが低下するため、図11に示すように、インバータから出力される交流電圧Vinv_ad_rmsの零クロス付近に歪みが生じるという問題がある。一般に、自立運転では抵抗負荷における出力電圧歪み率が総合5%以下となるように設計されるが、上記の電源装置では零クロス付近にマージンがない。
【0008】
また、上記のように、実際に出力される交流電圧Vinv_ad_rmsと指令信号Vrms_ST_REFの電圧との差ΔVrmsを指令信号にフィードバックして加えるものでは、比較的高いキャリア信号周波数でないと歪み低減効果が小さく、制御負荷も重くなるという問題がある。
【0009】
この発明は、上記の事情を考慮したもので、その目的は、キャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを解消することができる信頼性にすぐれた電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明の電源装置は、直流電圧をスイッチングによりレベル変換するコンバータ、このコンバータの出力をスイッチングにより交流に変換するインバータ、このコンバータおよびインバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する制御手段を備えたものであって、前記制御手段は、前記インバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する際に、その指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスを付加する。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電源装置によれば、キャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを解消することができ、信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1において、1は太陽電池(PV)で、光を受けることにより、直流電圧を出力する。この出力電圧が開閉器2を介してコンデンサ3,4に印加され、そのコンデンサ3,4の電圧がコンバータたとえば昇圧チョッパ5に供給される。昇圧チョッパ5は、直流リアクトル6、スイッチング素子たとえばIGBT7、逆流防止用ダイオード8、およびコンデンサ9を有し、制御部である制御部60から供給されるPWM信号に応じてIGBT7がオン,オフ(スイッチング)することにより、入力電圧(直流電圧)を所定レベルに昇圧(レベル変換)する。
【0013】
この昇圧チョッパ5の出力電圧が単相インバータ20に供給される。単相インバータ20は、4つのスイッチング素子たとえばIGBT21,22,23,24からなるフルブリッジ回路、これらIGBTにそれぞれ逆並列接続された還流ダイオードD、および各IGBTのゲートに接続されたゲート駆動回路31,32,33,34を有し、制御部60から供給されるPWM信号に応じて各IGBTがオン,オフ(スイッチング)することにより、入力電圧(直流電圧)を所定周波数の交流電圧に変換する。
【0014】
この単相インバータ20の出力端に、交流リアクトル41およびコンデンサ42からなるノイズ低減用のLCフィルタを介して、さらにリレー接点43,44を介して、コンデンサ45,46の直列回路が接続される。そして、コンデンサ45,46の直列回路に商用交流電源系統(単相AC200V)47が接続される。また、単相インバータ20の出力端に、上記交流リアクトル41およびコンデンサ42からなるノイズ低減用のLCフィルタを介して、さらにリレー接点48を介して、コンデンサ49が接続される。このコンデンサ49に生じる電圧が、自立運転用の交流電源(単相AC100V)50の電圧として外部出力される。リレー接点43,44,48は、制御部60により制御される。
【0015】
制御部60は、制御の中枢となるMCU61、データ記憶用の不揮発性メモリ(EEPROM)62、電圧・電流検出用のA/Dコンバータ63、昇圧チョッパ5および単相インバータ20に対するPWM信号生成用のPWM生成器64、および電圧・電流検出用のA/Dコンバータ65などを有する。そして、太陽電池1の電圧(PV電圧という)、太陽電池1の電流(PV電流という)、このPV電流の地絡、昇圧チョッパ5の出力電圧(昇圧電圧という)のそれぞれ検出ラインがA/Dコンバータ63に接続され、単相インバータ20の出力電圧(インバータ出力電圧という)、単相インバータ20の出力電流(インバータ出力電流という)、インバータ出力電流の直流成分、商用交流電源系統(単相AC200V)の電圧(および周波数)のそれぞれ検出ラインがA/Dコンバータ65に接続される。
【0016】
MCU61は、各検出ラインを通して各部の状態を監視し、その監視結果に応じてPWM生成器64によるPWM信号の生成を制御するもので、主要な機能として次の(1)〜(3)を有する。
(1)リレー接点43,44をオンしてリレー接点48をオフし、単相インバータ20を商用交流電源系統47と連系して動作させる系統連系運転の制御手段。
【0017】
(2)リレー接点43,44をオフしてリレー接点48をオンし、単相インバータ20を商用交流電源系統47と関わりなく動作させる自立運転の制御手段。
【0018】
(3)昇圧チョッパ5および単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号(例えば三角波信号電圧)と指令信号との電圧比較により生成するとともに、とくに自立運転時の単相インバータ20に対するPWM信号の生成に際し、指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスを付加する制御手段。
【0019】
作用について説明する。
先ずリレー接点44がオンされて商用交流電源系統47の電圧と周波数が監視されるとともに、PV電圧が監視される。この系統電圧・周波数およびPV電圧が規定値以下の状態で一定の待機時間(例えば300sec程度)が経過すると、リレー接点43がオンされ、単相インバータ20が商用交流電源系統47と連系して動作する系統連系運転が開始される。この開始までの待機時間中、系統電圧の周波数(系統周波数という)が認識されて不揮発性メモリ62に記憶される。
【0020】
そして、単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号がキャリア信号(三角波信号電圧)と正弦波の指令信号Vac_Ref(実効値)との電圧比較により生成される。正弦波の指令信号Vac_Refは、不揮発性メモリ62に記憶された系統周波数と同じ周波数に設定される。そして、生成されたPWM信号によって単相インバータ20のスイッチング素子がオン,オフされ、そのオン,オフデューティに応じたレベルの交流電圧Vinv_ad_rms(実効値)が単相インバータ20から出力される。
【0021】
この系統連系運転において、商用交流電源系統47側の負荷で電力が消費されて昇圧チョッパ5の出力電圧が下降した場合、昇圧チョッパ5に対するPWM信号のオン,オフデューティが増加方向に制御され、昇圧チョッパ5の出力電圧が予め定められたレベルまで上昇する。この過程で、太陽電池1から最大電力を得るためのMPPT(山登り法)制御が実行される。
【0022】
系統電圧が所定値以上に上昇すると、無効電力を注入して系統電圧の上昇を抑える無効電力注入制御が行われる。また、商用交流電源系統47が遮断された場合には、単独運転であることを検出する必要がある。これは、系統連系運転に於ける重要な制御機能の一つとなる。すなわち、単独運転検出機能として、受動方式と能動方式があり、両者が併用される事が多い。受動方式は、周波数の変動率や位相跳躍(位相の急変)などを監視して検出するものである。能動方式には、インバータ出力電圧の位相角を系統電圧に対して少し進めて運転する周波数シフトがあり、零クロス検出を系統電圧で行ない、前の零クロス検出の周期でインバータ出力電圧を生成していく。従って、商用交流電源系統47が遮断されるまでは系統電圧の周波数に同期してインバータ出力電圧が生成されるが、商用交流電源系統47が遮断されると、1サイクル毎にインバータ出力電圧の周期が上記進み位相角だけ減少して周波数異常として検出される。更に、商用交流電源系統47が遮断される過渡期に周波数および電圧が所定範囲を逸脱した場合にはその時点で能動検出(UVR:低電圧、OVR:高電圧、UFR:低周波数,OFR:高周波数)が行われる。
【0023】
また、インバータ出力過電圧、インバータ出力過電流、インバータ出力電流の直流分超過、PV電圧超過、PV電流超過、PV地絡(零相CTを介したPV電流の不平衡検出)、昇圧電圧などが監視され、これら監視結果のいずれかに異常が生じた場合は操作表示部(図示しない)でエラーが報知されるとともに運転が停止される。
【0024】
一方、自立運転では、単相インバータ20に対するスイッチング用のPWM信号がキャリア信号(三角波信号電圧)と正弦波の指令信号Vac_Ref(実効値)との電圧比較により生成される。正弦波の指令信号Vac_Refは、系統連系運転の待機時間中に認識されて不揮発性メモリ62に記憶された系統周波数と同じ周波数に設定される。そして、生成されたPWM信号によって単相インバータ20のスイッチング素子がオン,オフされ、交流電圧Vinv_ad_rms(実効値100V)が単相インバータ20から出力される。
【0025】
系統連系運転が実施されずに初めから自立運転が実施される場合には、指令信号Vac_Refの周波数が不揮発性メモリ62に予め記憶されているデフォルトの周波数に設定される。
【0026】
とくに、この自立運転では、図2に示すように、指令信号Vac_Refの正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスV3が付加される。
【0027】
すなわち、指令信号Vac_ref≧0のとき、その指令信号Vac_refが次のように設定される。
【数3】
【0028】
指令信号Vac_ref<0のとき、その指令信号Vac_refが次のように設定される。
【数4】
【0029】
Ksoftはインバータ起動時にソフト起動を行うための“0”〜“1”のソフトスタート係数。ωt=ωt+Δωt。Δωt=2πHz/fc。Hzは商用交流電源系統の周波数(50/60Hz)。fcはインバータ用のPWM信号を生成するためのキャリア信号周波数である。
【0030】
このように、指令信号Vac_Refの正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスV3が付加されることにより、零クロス付近で指令信号Vac_Refの有効レベルが低下するのを抑制できて、図3に示すように、零クロス付近はもちろん全ての波形にわたって歪みが解消された交流電圧Vinv_ad_rmsが単相インバータ20から出力される。
【0031】
出力電圧歪み率THDについては、単相インバータ20の目標出力電圧の振幅をV1とすると、その振幅V1に対する2次〜40次の高調波成分の比率として次式で求めることができ、大幅な改善効果が得られる。
【数5】
【0032】
本発明の出力電圧歪み率と従来の出力電圧歪み率とを図4に対比して示す。とくに、従来のように、実際のインバータ出力電圧と指令信号の電圧との差を指令信号にフィードバックして加えるものでは、比較的高いキャリア信号周波数でないと歪み低減効果が小さく、制御負荷も重くなるという問題があるのに対し、本発明の場合はキャリア信号周波数にかかわらず、しかも制御負荷が重くなることなく、インバータ出力電圧の歪みを大幅に低減できるという効果が得られる。
【0033】
ところで、図5および図6に示すように、元々の指令信号Vac_Refの振幅がV1、その指令信号Vac_Refに付加される補正バイアスがV3、その補正バイアスV3の付加による指令信号Vac_Refの桁上げ振幅がV2のとき、補正バイアスV3は次のように設定される。
【数6】
【0034】
この補正バイアスV3の設定により、補正バイアスV3が付加される場合と付加されない場合とで、単相インバータ20の出力電圧Vinv_ad_rmsの実効値に変化が生じないようになる。この補正バイアスV3の設定の一例を図7に示す。
【0035】
すなわち、補正バイアスV3が付加される場合と付加されない場合の単相インバータ20の出力電圧Vinv_ad_rmsの実効値が等しいとする。
【数7】
【0036】
次に、上式の両辺を二乗して等しいとおく。
【数8】
【0037】
右辺1項は、
【数9】
【0038】
右辺2項は、
【数10】
【0039】
右辺=右辺1項+右辺2項であり、
【数11】
【0040】
これらの式から、補正バイアスV3が付加された場合に得られる単相インバータ20の出力電圧の振幅V2を決めたとき、下式のような補正バイアスV3の2次方程式が得られる。
【数12】
【0041】
補正バイアスV3の2次方程式の解は、2次方程式の解の公式より以下となる。
【数13】
【0042】
V3>0、V2>0の条件から次式でV3が決まる。
【数14】
【0043】
ここで、
【数15】
【0044】
の場合の解の例を図8に示す。
【数16】
【0045】
の場合の解の例を図9に参考として示す。
【0046】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】一実施形態における指令信号に補正バイアスが付加された状態の波形を示す図。
【図3】一実施形態におけるインバータ出力電圧の波形を示す図。
【図4】本発明の出力電圧歪み率と従来の出力電圧歪み率とを対比して示す図。
【図5】一実施形態における指令信号の波形を示す図。
【図6】一実施形態における指令信号に補正バイアスが付加された場合の指令信号の桁上げ振幅を示す図。
【図7】一実施形態における補正バイアスの設定の一例を示す図。
【図8】一実施形態における補正バイアスの一つの解の波形を示す図。
【図9】一実施形態における補正バイアスの他の解の波形を参考として示す図。
【図10】従来装置のフィードバックによる新たな指令信号の波形を示す図。
【図11】従来装置のインバータ出力電圧の波形を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1…太陽電池、5…昇圧チョッパ(コンバータ)、7…IGBT、20…単相インバータ、21,22,23,24…IGBT、31,32,33,34…ゲート駆動回路、47…商用交流電源系統、50…自立運転用の交流電源、60…制御部、61…MCU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧をスイッチングによりレベル変換するコンバータ、このコンバータの出力をスイッチングにより交流に変換するインバータ、このコンバータおよびインバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する制御手段を備えた電源装置において、
前記制御手段は、前記インバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する際に、その指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスを付加することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記インバータを商用交流電源系統と連系して動作させる系統連系運転の手段と、前記インバータを商用交流電源系統と関わりなく動作させる自立運転の手段とをさらに備え、
前記制御手段は、前記自立運転時に前記バイアスの付加を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記指令信号の振幅がV1、その指令信号に付加される補正バイアスがV3、その補正バイアスV3の付加による指令信号の桁上げ振幅がV2のとき、補正バイアスV3は次のように設定され、
【数1】
補正バイアスV3が付加される場合と付加されない場合とで、前記インバータの出力電圧の実効値に変化がないことを特徴とする系統連系インバータ。
であることを特徴とする請求項2に記載の電源装置。
【請求項1】
直流電圧をスイッチングによりレベル変換するコンバータ、このコンバータの出力をスイッチングにより交流に変換するインバータ、このコンバータおよびインバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する制御手段を備えた電源装置において、
前記制御手段は、前記インバータに対するスイッチング用のPWM信号をキャリア信号と指令信号との電圧比較により生成する際に、その指令信号の正レベル電圧および負レベル電圧にそれぞれ補正バイアスを付加することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記インバータを商用交流電源系統と連系して動作させる系統連系運転の手段と、前記インバータを商用交流電源系統と関わりなく動作させる自立運転の手段とをさらに備え、
前記制御手段は、前記自立運転時に前記バイアスの付加を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記指令信号の振幅がV1、その指令信号に付加される補正バイアスがV3、その補正バイアスV3の付加による指令信号の桁上げ振幅がV2のとき、補正バイアスV3は次のように設定され、
【数1】
補正バイアスV3が付加される場合と付加されない場合とで、前記インバータの出力電圧の実効値に変化がないことを特徴とする系統連系インバータ。
であることを特徴とする請求項2に記載の電源装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−28977(P2010−28977A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187442(P2008−187442)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(505461072)東芝キヤリア株式会社 (477)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(505461072)東芝キヤリア株式会社 (477)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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